米ドルは今後どうなるのか。日本株の行方も大きく左右しそうだ(写真は安倍政権発足後約半年経った2013年6月4日のドル円相場、ロイター/アフロ)
日本株の崩落が、いよいよ始まった? 米ドル安をめぐる「2つの謎」は解けるか
http://toyokeizai.net/articles/-/67005
2015年04月19日 馬渕 治好 :ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト 東洋経済
■株価はいったん回復後大幅下落ではなく、すでに下落?
日経平均株価は、4月10日(金)に一瞬2万円を超えた後、頭が重いながらも底固い推移を続けていたが、残念ながら地すべりを始めたようだ。
前回のコラム「マーケットの大波乱はいつ起きるのかhttp://toyokeizai.net/articles/-/65371」では、足元の米国株や米ドルの「疲れ」は、厳冬による米景気指標のいったんの「おじぎ」や、「米国しか買うものがない」というシナリオが行き過ぎたもので、「米国市場が少し休めばいずれ明るくなる」と述べた。
加えて国内では、5月上旬までに発表される企業決算の内容を好感し、日経平均は一度2万円を超えるとの予想を披露した。ただしその後、5月中旬から株式市場は大波乱に見舞われる恐れがある、とも解説した。
その一方で同コラムでは、最後の段落で、ギリシャ問題の悪化前倒しなどで、調整が早めに始まる可能性も否定できないとし、「目先の国内株価上昇による利益を欲張らず、防衛的に現金保有をゆっくり増やしていってもよいと考えている」とアドバイスした。
どうも、ここで懸念していた、「調整が早めに始まり、ずるずるとした下落基調からそのまま大幅下落」というシナリオの確度が高まってきたようだ。
そうした悪い変化を感じさせるのは、先週金曜日(4月17日)の米株安もさることながら、それ以上に、米ドル安がじわりと進み始めたことだ。米ドルは、対円のみならず対ユーロでも、対原油でも、安くなり始めている。
この「米ドル下落」に関しては、「2つの謎」がある。すなわち、欧州では、ECB(欧州中央銀行)の緩和姿勢維持やギリシャ問題のごたごたは、本来はユーロ安要因だが、それを跳ね返して先週初(4月13日)からはユーロ高・米ドル安になるという、一つの謎が生じている。
また原油については、米国が将来イランへの経済制裁を緩和し、イラン産の原油が市場に出回るという観測にもかかわらず、原油価格が強含むという、もう一つの謎が生じている。
■「米ドルしか買えない」というシナリオに無理が生じた
この2つの謎を解くカギは、対ユーロでも対原油でも、米ドル安がぐいぐいと生じ始めたという点にあるだろう。
この米ドル反落の背景としては、前回のコラムでも述べた、「世界中で景気が良いのは米国だけだ、米ドルしか買える通貨はない」というシナリオに無理が来ていることが挙げられる。
加えて、米国企業からは、米ドル高が収益を圧迫しているとの怨嗟の声が聞こえ始めた。2015年1〜3月期の企業決算発表が既に始まっているが、全産業の一株当たり利益は、対前年で減益が見込まれている。これが米国株価の重石として働き始めた。
こうした米ドル高の悪影響は、4月15日(水)発表のベージュブック(地区連銀経済報告)でも指摘されていた。また同月9日(木)公表の米財務省の為替報告書でも、日欧が金融緩和に依存し過ぎていると指摘している。これは米国が、緩和による日欧の通貨安政策を批判したものだと解釈されている。
さらに13日(月)には、浜田宏一米エール大学名誉教授が、「購買力平価からみれば、120円はかなり円安である」と述べ、円の買い材料となった。筆者が算出する購買力平価を用いても、現在の円相場は約20%円安に行き過ぎていると計算される。過去に20%超円安が行き過ぎた局面を探すと、1983年と1985年の2回しかない。
その後何が起こったかと言えば、プラザ合意、すなわち行き過ぎた米ドル高を修正しようとの国際的合意がなされた。今回そうした国際的合意などはありえないが、米国にとっては、当時と同様にやりきれない米ドル高なのかもしれない。
米国株の軟調展開も、「米国株しか買える物がない」という米国一人勝ちシナリオに疲れが生じた、と考えられる。そこに週末、中国当局が資産運用会社に対して、空売りのための株式を貸し出すことを容認した(投資家が、資産運用会社から株を借りて売ることができるようになった)との報道を受けて、「中国株暴落懸念」という悪材料が上乗せされたと解釈できる。
実は、国内の株価については、最近は米国株や米ドル円相場との関連性が薄れ、米株安や円高になっても日本株安にはなりにくい様相を示していた。その大きな理由は、市場の目が日本の内需に移っていたからだろう。
消費者心理を示す消費者態度指数は、昨年4月と11月の二点底を経過して、持ち直しに入っている。百貨店やスーパーの2月の売上高(前年比)は、11カ月ぶりにプラスとなった。今年のベースアップが、消費増税を伴わない給与増であることも明るい材料だ。
2月期の企業決算の発表が一巡したが、内容が良いものが多く、小売、食品などの内需関連株が物色された。国内株価が内需の良さに支えられていれば、米国株や米ドルの動向にかかわらず、日本株が上昇してもおかしくはないわけだ。
しかし内需株については、株価上昇が速く、PER等で見た割高感が台頭した。このため投資家の警戒感が生じ、例えば花王は8日(水)に、山崎製パンやツルハホールディングスは9日(木)に、イオンやマツモトキヨシは15日(水)に、それぞれザラ場ベースでの高値を付けて、株価が反落してきている。すなわち、消費関連銘柄の株価が、ここ1〜2週間に、軒並みピークアウトし始めているわけだ。
■ドル安では輸出株買えず、「間の悪さ」が下落助長も
こうした時、通常は、内需株が崩れれば、「では次は輸出関連に」、と物色が移るところだ。しかし、いざ再び輸出株を買おうとしたところで米国株価の暗雲や円高が始まり、輸出株を買いづらい空気が広がっている。この「間の悪さ」が、足元の国内株式市況全般の崩れを深刻化しつつあるとも言えるだろう。
そうした全体観の中で、今週の日経平均のレンジは1万9100〜1万9800円と見込む。依然として、日経平均がいったんは反発し、2万円超えを見せる、というシナリオの可能性も残ってはいるが、そうした展開であっても、その後は1万9000円を割れて下げていくと予想している。
株価が一度戻ってから下落するにせよ、このままずるずると下落するにせよ、現時点では、思い切り株式保有を増やすことは勧めない。先行き株価が大きく下げた時に安値で買うために、今は現金を用意する局面であると考えている。