トップの人材は、英米は「5」だが、日本は「2」しかない
有能なのに「塩漬け」されて平気なのか? 定年まで会社に残りたい人々
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150327-00014890-president-bus_all
プレジデント 3月27日(金)10時15分配信
■経営能力層 日本20% 英米50%
企業のグローバル化に伴い、競争に打ち勝つためのプロフェッショナル人材が強く求められている。
しかし、日本人は基礎能力が高いものの、欧米企業に比べて経営能力を兼ね備えた人材が組織全体で大幅に不足している。前回の記事(http://president.jp/articles/-/14768)でグローバルビジネスコンサルタントの白藤香氏はその証拠の1つとしてOECDや世界銀行のデータなどをもとに英『エコノミスト』誌が分析した日本と英米企業の能力層分布(データを白藤氏が加工)を示した。
経営能力層が、日本企業の場合は20%未満であるのに対し、英米企業は約50%を占める。
白藤氏はその差は日本企業の硬直した組織・人の運用や働かせ方に根本的な原因があることを指摘した。その結果、今の日本企業のミドルの多くが“塩漬け”状態にあるとも言っている。
では塩漬け状態にならないためにビジネスパーソンは自分のキャリアをどのように築いていけばよいのか。就職・転職の際の会社選びの秘訣を白藤氏に聞いた。
▼キャリアプラン描いてる?
――日本企業の組織・人の運用が40代のミドル社員を“塩漬け”状態にしていると指摘していますが、そうならないためには個人としてできることは何ですか。
【白藤】やはり自分は何をしたいのか、自分を軸にしたキャリアプランを持って、会社を選んでいくスタイルに変えていかないといけません。いつまでたっても終身雇用だからその会社を選ぶというスタイルでは絶望的な未来しかないと思います。
――終身雇用を希望する人が何割かいてもいい。でも全員がそうだと会社や個人も不幸になる?
【白藤】もちろん全員がそう(自分を軸にしたキャリアプラン)である必要はありません。でも新入社員の意識調査で多くの人が定年まで会社に残りたいと答えているのを見ると日本は終わるんじゃないか、と危機感を持ってしまいます(笑)。
ヨーロッパの長期雇用の会社でも7〜10年ぐらいかけて一定の成果を上げた人は転職し、次の成長に向けて新しい領域にジョブ・チェンジするのが普通です。でも中には何十年もいる人もいる。たとえばオリンパスの元CEOマイケル・ウッドフォードもその一人です。ロンドンで彼に会い「どうしてヨーロッパ人なのに転職しなかったの? 」と聞いたら「オリンパスでは自分ができること、やりたいことを与えられたので環境を自ら変えることをしなくてもよかった」と言っています。私はそれも一理あるかなと。つまり、その会社にいて自分の能力も開拓できるし、自分のキャリアプランと会社が与える機会がマッチし、成功の実績を積み上げていけるなら会社を変わる必要はないわけです。
■「ジョブロー」では本当のプロになれぬ
――自分なりのキャリアを築き上げていくためのポイントは何ですか。
【白藤】キャリアを獲得するには、理論化された自分の職種計画、能力育成プラン、それから実践の機会の獲得の3つが重要です。会社がこうしなさいというコースをこなしていくのではなく、あくまでも自分の軸が入った自分発のキャリアプラン、能力開発をどう作っていくのかとことん考えるべきです。数年で部署を変わるジョブ・ローテーションにもいい面はありますが、もしグローバルな舞台で活躍したいなら、「プロ職」としての気概と準備が必要です。
――日本人の中には自分で決めないで、上司や会社に決めてほしいという依存心が強い人もいます。それはそれで会社にとっては使い勝手のよい人材なのですが、それだとこれから通用するキャリアは作れない?
【白藤】例えば、外資のグローバル企業に生粋の日本企業の人が入ろうとしても、能力要件が全然ずれていて合わないのです。そのためにはグローバルスタンダードの職務要件、能力要件の軸に合ったキャリアを作っていくことは大変重要です。たとえば私が1990年代後半に米系大手企業に入ったときは、マーケティング職に求められるのはマーケティング知識と技術の2つでした。日本ではMBA(経営学修士)と技術修士の2つを持っている人はなかなかいませんが、海外では2つの要件を満たして一人前。こうした複合型の要件を持った人材がプレーヤーとして活躍しています。
▼2つ以上の「武器」を作れ
――それは会社が身につけさせてくれるというより、自分で習得するわけですね。白藤さん自身は今の仕事に就くためにどういうキャリアプランを立てたのですか。
【白藤】私の場合は30代の普通の会社員時代にグローバルでコンサルタントをやりたいと思いました。それで欧米企業の人たちをモデルに政治、経済、経営の知識について博士課程までいって深く学び、さらにハイテク関係の技術・知識を修得しました。それから経験を積むためにいくつかの企業の門を叩いて専門キャリアを身につけてきました。
欧米ではアメリカでもドイツでも大学に入るときに普通にキャリアプランを描いています。大学の専攻は自分が目指す職務要件と直結しています。たとえば工学部に入った人は、こういう技術を学んで就職し、次にMBAをとったら今度はこれくらいのランクのマーケティングのマネージャーで就職したいというプランを描いています。
■塩漬けを絶対回避するには?
――日本で就職・転職活動をする場合に、自分のキャリアを磨くのにふさわしい企業を探すときの基準、ポイントはなんでしょうか。
【白藤】まず企業の経営者のものの考え方を知ることです。その企業の組織で長年育ってきて最高ポストに就いている人であり、いわば組織を体現している人なのでどんな働き方、働かせ方をしている企業なのかがわかります。たとえば、記事の中で「会社を成長させるために長時間労働も厭わずに働いてきた」と言っていれば、有価証券報告書の平均賃金を調べる。平均年収が400万円だとすれば、長時間働いてもこの金額か、仕事は大変だなということがわかります(笑)。社長談と『会社四季報』など公にされている数字でまず判断できます。
――組織の考え方と実際の数字を分析して自分にふさわしい会社かどうかを判断するのですね。
【白藤】そうです。社長の話から、出る杭が打たれる組織なのか、それを良しとしている組織なのか。その発言から自分の力を十分に発揮できそうにないなと感じることができます。ただ、話だけではわかりません。自由闊達で何でもやらせてもらえそうだと思って入っても、実は縄張り意識が強くてそうでもなかったりします。東大の理工系学生の人気ナンバー1企業という触れこみであっても、実際に東大から入った技術者の3年後の離職率が高い企業もあります。数字や実際の働き方を大学のOBなどから聞いて確認するのも重要だと思います。
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SPC CONSULTING USAラボ所長 白藤 香(しらふじ・かおり)
学習院大学大学院経済学研究科博士課程後期単位取得満期退学。日・欧・米上場企業に勤務し、日本・北米・台湾でマネジメントを経験後、01年独立。グローバル市場で新事業・新市場開拓を企画立案から立ち上げまで一貫して行う戦略コンサルティング、並びに海外法人&プロジェクトで現場実践をスムーズにするための多国籍人事組織コンサルティングを実施。国内では大手上場企業をクライアントとし、これまで11業界の契約を手掛ける。
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ジャーナリスト 溝上憲文=文