建前論やほのかな期待はともかく、量的緩和政策が物価低迷と経済停滞を打破できると本気で考える中央銀行幹部は日銀を含めいない。
量的緩和政策は、国債管理と金利抑制が主たる目的である。
ドイツ経済研究所国際経済担当部長 ドレーガー氏は、「ECBは経済的に問題のないドイツなど欧州北部の国債を大量に買う」と言っているが、これも目くらましで、本来なら財政不如意国家の国債を集中的に買い取るほうが効果的なのだが、マネタイズと受け止められるのがイヤで迂回的な方策を採っているだけだ。
ユーロ圏では市中銀行がECBに預金すると0.2%のマイナス金利を課されるから、市中銀行も南欧諸国の国債を買うほうが得である。(ECBが最終的に債務履行を保証する一方高利回りなので合理的な判断といえる)
「構造改革を量的緩和より優先させるべきだ。低成長が続けば、世界のなかで存在感が薄れるだろう。金融政策だけで解決するのは難しい」という論は、批判しにくい正論はであっても、どの国民経済でも解決できるテーマというわけではない。
それは、日本の大都市圏の繁栄と地方の疲弊という“格差問題”を考えればわかる。ユーロ圏におけるドイツは大都市圏であり、ギリシャやスペイン・ポルトガルなどの南欧諸国は地方なのである。
ユーロ圏の経済的一体性や政治的健全性を維持したいと考えるのなら、一国の財政政策と同じように、稼ぐドイツのおカネを稼ぎが悪い国々に再分配するしかない。
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構造改革へ圧力強まる
ドイツ経済研究所国際経済担当部長 ドレーガー氏
■日本経済の現状
日本では、大胆な金融緩和で資金供給量を拡大したのに、物価上昇につながっていない。安倍政権は量的緩和と通貨安で成長をもたらそうとしているのだろう。だが円相場が下がっているのに輸出は期待したほど伸びていない。グローバル化した日本企業は、国外の生産拠点でモノを作っており、昔のような輸出構造ではなくなっている。
■構造改革
抵抗勢力は改革を阻むことで既得権を守ろうとする。それを打破しないと改革はできない。公的債務の大半は日本の投資家が抱えており、すぐに国債市場が荒れるとは思っていない。だが(金融市場では改革に向けた)圧力が高まっている。
■量的緩和
日銀は2001年に量的緩和を始めたのに、物価低迷と経済停滞から抜け出せていない。それを知りながら欧州中央銀行(ECB)も始めた。規模も小さく、これが本当に域内投資を呼び込むのか疑問だ。
ECBは経済的に問題のないドイツなど欧州北部の国債を大量に買う。通貨安は輸出を促すが、ここでも輸出立国のドイツが有利になる。そもそも政策効果が限定的なうえに、地域間で差も出る。だからこそ構造改革を量的緩和より優先させるべきだ。低成長が続けば、世界のなかで存在感が薄れるだろう。金融政策だけで解決するのは難しい。
クリスティアン・ドレーガー氏 ベルリンのドイツ経済研究所(DIW)で、主要国のマクロ経済分析を担当する。
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独の専門家、日本へ要望 FTA、年内がチャンス
キリスト教民主同盟連邦議会議員 ハウプトマン氏
【ベルリン=赤川省吾】ドイツのメルケル首相が9日、7年ぶりに訪日した。今後の日本とドイツ、欧州の関係について、ドイツの専門家に聞いた。
■自由貿易協定(FTA)
欧州連合(EU)は韓国とFTAを結んだが、できるだけ早く日本とも合意したい。いまは日独とも政権基盤が安定し、交渉を大きく進める環境が整った。双方に議会選の予定がない年内がチャンスだとみている。日本は家電製品やロボットなどで、欧州が輸出先になる。欧州勢に鉄道分野などを開放すれば、双方のメリットになり、競争を通じてコストも下がる。
■アベノミクス
マネーを流し込んで成長を高めるという理屈には懐疑的だ。ドイツの成長をもたらしたのは(財政拡大ではなく)構造改革だった。
ただ、日本の財政状況をギリシャとひとくくりにするのは間違いだ。日本国債の保有者は大半が日本の投資家だ。日独はともに少子高齢化が進み、社会構造が似ている。高い技術力があるところも同じだ。連携できることは多い。
■アジア外交
安倍政権が国連などに協力し、国際平和に貢献したいという姿勢は高く評価したい。東アジアでは中国などの軍拡が目立ち、北朝鮮という不安材料があることも理解している。
日本を知っていれば、歴史認識を巡る争いを解決するのは非常に難しいことだとわかる。時間がかかるだろうが、(外部があれこれ言うのではなく)日本が自ら取り組むべき問題だ。
マーク・ハウプトマン氏 保守系与党・キリスト教民主同盟(CDU)の連邦議会議員で経済・エネルギーの政策通。関西外国語大に留学経験がある。
[日経新聞3月10日朝刊P.7]
http://www.asyura2.com/15/hasan94/msg/345.html