世界貿易伸び悩みは構造変化?
「世界の貿易の伸びは、引き続き、危機以前の平均と比較して低いままである」
目立たないが、2月にトルコで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明にこんな一文がある。
国際金融関係者やエコノミストの間でちょっとした話題になっているのが、世界貿易の減速だ。
オランダの経済政策分析局によると世界貿易の前年比伸び率は2012年が2.1%、13年が2.7%。14年は3.3%まで加速してきたが、かつての勢いはない。
08年のリーマン危機が起きるまでは「世界貿易の伸び率>世界経済の成長率」が一般的だった。足元で世界経済に何が起こっているのか?
危機後の先進国経済の回復ペースが緩やかで、需要が伸び悩んだ面もあろう。しかし最近、注目されているのは構造要因だ。
有力説の一つが、世界的なサプライチェーン(供給網)の変化だ。世界貿易機関(WTO)加盟で「世界の工場」となった中国は、日本や台湾などから部品や半製品を輸入し、最終製品に組み立てて世界に輸出してきた。
しかし、中国が技術水準を向上させ、国内でかなりの部品などを製造できるようになったことで、輸入に依存する度合いが低下した可能性がある。
先進国の投資低迷も影響している。企業が設備投資を増やすと、機械などの資本財の輸入も増えやすくなるはずだが、個人消費に比べると精彩を欠く。国際通貨基金(IMF)や世界銀行はスロー・トレード(ゆっくりとした貿易)はしばらく続くとみる。
デフレ懸念を背景に先進各国が金融緩和に踏み切るねらいの一つが、自国通貨安による輸出促進だとしても、世界貿易の構造が壁になっているとすれば、効果はおのずと限られるだろう。
幸いにして、日本の輸出はようやく持ち直してきた。このまま一本調子で増え続けるのか、それとも世界貿易の新たな構造が壁となって再び頭打ちになるのか。答えはまだわからない。
(編集委員 瀬能繁)
[日経新聞3月9日朝刊P.18]