加藤嘉一「EU解体の危機は明日のアジアの姿。ナショナリズムとどう向き合うか?」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150309-00044703-playboyz-soci
週プレNEWS 3月9日(月)11時0分配信
1月下旬、ギリシャで反緊縮策を掲げる左翼政権が誕生しました。EUという共同体は“解体リスク”とどう向き合うか。アジア諸国も無関心ではいられません。
ギリシャの債務問題でEU(欧州連合)が揺れています。
莫大(ばくだい)な債務を抱えるギリシャは、以前から“トロイカ”(欧州委員会、欧州中央銀行=ECB、国際通貨基金=IMF)との協議で多額の融資を求めていますが、落としどころが見つかる気配はありません。債権を持つEU諸国が、財政緊縮政策の実行を求めているのに対し、今年1月に誕生したギリシャのツィプラス政権は、基本的に緊縮政策はしないという姿勢。EU諸国はこれに反発し警告を発しています。
ぼくは2012年に初めてギリシャを訪れました。当時、すでにデフォルト(債務不履行)危機の真っただ中でしたが、首都のアテネには国家の一大事だという雰囲気はありませんでした。アテネ大学の周辺には学生が勉強もせず、地べたに座り込んでたむろし、大人は昼間から仕事もせずのんきにワインを飲んでいる。そして、皆が口々に政府の悪口を言う。もちろん国民全員がそうとは言いませんが、全体的な気質として、ギリシャ人は危機感というものが希薄なように感じました。
現状を冷静に見れば、ギリシャが緊縮政策を取らざるを得ないのは火を見るより明らか。しかし、それで負担を強いられるのはイヤだという国民感情が、1月の総選挙で反緊縮を掲げるツィプラス新政権を誕生させました。
このままいけば、ギリシャは借金を返せずにデフォルトしてしまうかもしれない。また、自国民に迎合するギリシャの左翼政権がEUに反発し、脱退を宣言する可能性もある。同じように財政難に苦しむイタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧諸国がギリシャの動きに追随し、EUが実質的に解体≠キるという最悪のシナリオも考えざるを得ません。
ギリシャを最も問題視しているのは、EUのリーダーであるドイツです。勤勉で規律を重んじるドイツ人からすれば、自浄作用のないギリシャは怠慢にしか見えない。しかも、ギリシャは2月上旬、ドイツに対し、すでに解決済みとされる戦争賠償金(約22兆円)を請求したのです。
こうなると、ドイツ人の対ギリシャ感情も悪化します。なぜ、あんな怠慢な国を自分たちの負担で救わなければならないのか。これならもうEUなんていらない、ドイツは自分で自分のことだけを守り、発展していく――という空気が生まれかねない危険な状態です。
この問題から見えてくるのは、EU圏における各国のナショナリズムと孤立主義です。多くの国が不況に伴い、対移民感情の悪化などに見舞われている。イギリスでも5月の総選挙の結果次第では、EU離脱を問う国民投票が行なわれる可能性があります。
EUの共通通貨ユーロは、世界経済を牽引(けんいん)すべく各国が一枚岩になろうという理念のもとで誕生した。しかし、ギリシャのような一部のほころびがドミノ式に全体へ影響し、地盤沈下を起こしてしまう。この“共同体リスク”をどう考えるか。
ヨーロッパのみならず、国境の壁が低くなる潮流は世界共通。アジアでも経済の自由化と一体化が深まり、TPPの交渉も進んでいますが、一国で生じた問題が連鎖的に飛び火するリスクは常に存在します。EUの現状は遠い世界の話ではなく、明日のアジアが直面し得る問題なのです。
ちなみに、中国はギリシャ危機を注意深く見守っています。EU諸国を差し置いて、あり余る資本の投入先を探している中国が手を挙げれば、EU内における中国の影響力が高まる。実際、昨年6月から7月にかけて、李克強(りこくきょう)首相と習近平(しゅうきんぺい)国家主席が相次いでギリシャを訪問し、中国企業による投資を政治的に促しました。この動きが気にならないというなら、その理由を逆に教えて!!
●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)
日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!
http://katoyoshikazu.com/china-study-group/