原油価格下落の敗者は誰か?その地政学的影響
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4611
2015年01月12日(Mon) 岡崎研究所 WEDGE Infinity
米ハーバード大学教授で全米経済研究所名誉会長でもある、マーチン・フェルドシュタインが、Project Syndicateのサイトに11月26日付で掲載された論説で、原油価格の大幅下落は、ロシア、ベネズエラ、イランなどの一部の産油国の体制の存続に関わる影響をもたらし得る一方、輸入国にとっては大きなプラスになる、と述べています。
すなわち、ここ5カ月で油価は25%以上も下落し、1バレル80ドルを下回るに至った。この水準が続けば、世界中の多くの国々にとり、重要な意味を持つことになる。さらに下落すれば、一部の産油国への地政学的影響は劇的なものとなり得る。
今日の価格は、将来、需要が低下し供給が増加するであろうという市場の期待を反映している。将来の油価は、数カ月前に予測されていたよりも低落することを示唆している。
低い油価は、消費者の実質収入増、家計の短期的需要拡大を意味するので、米経済にとっては良いことである。同様に低い油価は、欧州、アジア、その他の石油輸入国の需要を増大させる。
ベネズエラ、イラン、ロシアなどが、油価下落の大きな敗者となる。これらの国々は、政府支出、特に巨大な移転支出計画を石油からの利益に頼っている。1バレル75ドルから80ドルのレベルでも、これらの政府は、国民の支持を維持するのに必要なポピュリスト的政策に資金供与するのが困難になろう。
サウジと湾岸の国々も大輸出国であるが、他の産出国とは次の重要な2点で異なる。第一に、これらの国々の石油採掘コストは極端に安いので、現在よりはるかに低い価格でも利益を上げることができる。第二に、莫大な資金準備があるため、石油収益への経済の依存度を低下させる改革をする余裕がある。
さらなる油価の下落は、大きな地政学的影響をもたらし得る。1バレル60ドルになれば、特にロシアで深刻な問題が生じる可能性がある。プーチン大統領は、大衆の支持の基となっている移転支出計画を維持できなくなろう。イラン、ベネズエラにおいても同様の結果となろう。
これらの国々の現在の体制が、大幅で継続的な油価の下落を生き延びることができるかどうか分からない、と論じています。
出典:Martin Feldstein,‘The Geopolitical Impact of Cheap Oil’(Project Syndicate, November 26, 2014)
http://www.project-syndicate.org/commentary/oil-prices-geopolitical-stability-by-martin-feldstein-2014-11
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論説の言うように、大幅で継続的な油価の下落が、ロシア、イランやベネズエラの現在の政権の継続を危うくするかどうかは分かりませんが、これらの国が困難な状況に陥っていることは間違いありません。
ロシアについては、ルーブルが昨年初めから4割下落しています。ルーブルの減価は輸入価格の上昇をもたらし、ロシアのインフレは中央銀行によれば2015年には10%になるとのことです。油価の下落で、2015年の成長率はマイナスになると予想されています。歳入も落ち込み、すでに欧州南東部へのガスパイプラインや、モスクワ・カザン間の高速鉄道の建設が中止されています。
油価の下落に伴う経済困難に加え、金融危機の恐れも指摘されています。Rosneft、Novatek、VTB銀行やロシア国鉄などの国営企業を中心に、対外債務が7000億ドルほどあるといわれ、欧米の経済制裁で西側の金融機関と取引ができず、対外債務をどうするかという深刻な問題があります。
プーチンは如何に事態に対処するのでしょうか。12月4日に行われた恒例の国政演説で、プーチンは具体策には触れませんでした。
このような経済的な危機が、プーチンの外交にどのような影響を及ぼすかについては、欧米に対し柔軟路線を取るとの観測もありますが、むしろ対外的に強硬な姿勢を取って、国民の支持に訴えようとする可能性が考えられるのではないかと思います。
イランについては、すでに欧米の制裁で経済が困難な状況にあり、それに追い打ちをかける油価の下落は、イラン経済を一層苦境に追いやるでしょう。そのような状況においては、イランが核交渉で従来より柔軟な立場を取る可能性は排除できません。