国債格下げ“道連れ”の銀行が危惧する次の金利急騰リスク
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2014年12月15日 週刊ダイヤモンド編集部
日本国債の格付けが引き下げられた。それを受けてメガバンクなど大手銀行も格下げの憂き目に遭ってしまう。国債の巨大投資家でもある銀行にとっては泣き面に蜂だが、国債市場は表面上、平静を保っている。しかし、リスクのマグマは確実に蓄積されてきており、銀行界は“次”の衝撃に備えて身構えている。
「ムーディーズの格下げは気にしていない。問題はこの先、S&P(スタンダード&プアーズ)が続くかだ」
日本国債の信用度を示す格付けが引き下げ──。そのニュースが市場を駆け巡った直後、ある大手銀行幹部はそんな見立てを語った。
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12月1日、米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが国債の格下げを発表。右表のように、長期国債の格付けを「Aa3(AAマイナス相当)」から「A1(Aプラス相当)」へ1段階引き下げたため、債務不履行のリスクが極めて低いとされるAA(ダブルエー)格を失った。
さらに、12月9日にはそれに続くかのように、米英格付け会社のフィッチ・レーティングスも、現在「Aプラス」としている国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発表したのだ。
今回の2社の判断に大きな影響を与えたのは消費税引き上げの延期だ。日本が国の赤字を減らして借金を返していくことができるのか、これまでよりも疑われているということだ。
普通であれば、格下げされれば国債の価格は下がる(逆に金利は上がる)。国債に巨額の資金をつぎ込んでいる銀行界としては一大事だ。その上、ムーディーズは国債の格下げを発表した翌日、それに合わせて三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行、静岡銀行などの大手銀行も同じく「A1」に格下げした。格下げはビジネスの要である資金調達コストなどに跳ね返るため、銀行にとってはこちらも無視できない事態だ。
ただ、これまでのところは国債の急落、金利の急上昇もなく、市場は平静を保っている。理由は大きく二つある。
第一に、日本銀行が追加の金融緩和を決め、市場にマネーをあふれさせるために国債を大量に買い込んでいることが挙げられる。日銀は年間80兆円もの国債を買い増す方針を表明しているため、売れ残るどころか3カ月物などの短期国債では、通常とは逆に金利を払う「マイナス金利」ですら買われるほどの奪い合いになっている。
第二の理由は、日本の国債の約95%が国内のお金で賄われているからだ。日本国民のお金が預金や保険というかたちで銀行や保険会社に渡り、それらが安定的に国債を買い支えているため、多少の衝撃ははね返してしまうのだ。
■日銀の異次元緩和でゆがんだ国債市場に“ダメ押し”リスク
しかし、冒頭の大手銀行幹部は、三大格付け会社の残る1社、S&Pの動向によっては、今は盤石な国債市場に波乱が訪れ、銀行経営に影響を及ぼすことが考えられるという。
外資系の金融機関から外貨建ての資金を借りようとする場合などでは、「国債を担保にすることがある」(メガバンク幹部)。ところが、今回の格下げで国債の担保価値が下がり、「今まで10で足りていた国債を11、12と余分に求められる可能性がある」のだ。国債だけでなく、自身も格下げになった邦銀の場合、その信用リスクの増大分まで積み増しを要求されれば、さらに国債が必要になってくる。
リーマンショックを契機に金融規制が強化され、現在の金融界では国債ではなく現金を担保にするように変わってきてはいる。ただ、今は「切り替えの端境期なので国債が足りなくなる可能性はある」(大手銀行の市場関係者)という。
そうなれば、ただでさえ日銀の異次元金融緩和で枯渇状態の国債市場では品薄感がさらに強まり、格下げとは裏腹に超低金利が一層進む。市場原理とは逆に動く“ゆがみ”が強まれば、限界を迎えたときに起こる反動としての金利急騰リスクはますます大きくなる。
そこに「比較的、頻繁に格付けを変えるムーディーズ」(市場関係者)よりも重みがあるS&Pの国債格下げが続けばどうなるか。「三大格付け会社で最後のAA格が取り下げられたとき、何らかのトリガー(引き金)になるかもしれない」(冒頭の大手銀行幹部)。
ゆがみを強める国債市場。そのメインプレイヤーであるメガバンクの頭の中では、リスク管理の警鐘が鳴りやまない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)