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Rachel Kaufman
for National Geographic News
January 5, 2012
スパイダーマンのウェブシューターはクモの糸を何メートルでも紡ぎ出せるが、現実には、クモの糸のような強度と伸縮性を兼ね備えた繊維は、容易に作れるものではなかった。しかし、科学は空想の世界に一歩近づいた。クモの糸を紡ぐカイコが作り出されたのだ。
クモの糸を紡ぐ遺伝子組み換えカイコ
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このほど発表された研究によると、遺伝子操作を施されたこのカイコが作る繭の絹糸(シルク)には、クモが巣を張るときに使う、伸縮性と強度に優れた繊維が組み込まれているという。
ワイオミング州ララミーにあるワイオミング大学の分子生物学者で論文の共著者ドン・ジャービス(Don Jarvis)氏は、「カイコの絹糸(の遺伝子)にクモの糸のタンパク質(の遺伝子)を埋め込むことで、両方のタンパク質が組み合わさり、混成繊維になることを期待したのだが、まさにその通りになった」と話す。
ジャービス氏によると、遺伝子操作を施されたこのカイコは、96〜98%はカイコ由来だが2〜4%はクモ由来の繊維タンパク質からなる絹糸を紡ぎ出したという。
クモの遺伝子をこれほどわずかに取り込んだだけで、ハイブリッドシルクは天然の絹糸の2倍以上の強度を獲得した。それでも、クモの糸に比べれば強度は半分程度にすぎない。
「この(効果)を2〜4%から100%に上げられれば、実に驚くべき繊維を作れるはずだ」とジャービス氏は言う。「それは、どの程度のクモの糸が可溶性の形で作られるかにかかっている」。
◆発光するカイコ
クモの糸は動物が作り出す繊維の中でも最も強度と弾力性に優れている。しかしクモの多くはなわばり性が強かったり共食いをしたりするため、産業用に飼育するのは難しい。 そのためこれまで、クモの糸のタンパク質の遺伝子を、たとえばヤギの乳やハムスターの細胞に組み込む方法が試みられてきた。
カイコを使う利点の1つは、タンパク質を自分で繊維にしてくれることだ。実験室でクモの糸のタンパク質を作り出しても、それを機械で紡いで糸にしなければならない。 ジャービス氏らはこの“クモ-カイコ”を作り出すために、伸縮性と強度に優れた種類のクモの糸のDNAをカイコの卵に挿入した。
遺伝子操作がうまくいったかどうかを確認するため、卵には緑の蛍光タンパク質も加えた。操作がうまくいっていれば、カイコは青い光の下で蛍光発光する。
ところが不思議なことに、カイコの絹糸腺は通常の光の下でも蛍光発光した。これには「まったく驚いた」とジャービス氏は話す。
◆クモの糸のパラシュート?
研究チームは、次の段階として、カイコの繊維に組み込まれるクモの糸のタンパク質の量を増やそうと考えている。
論文の共著者で、やはりワイオミング大学に勤めるランディ・ルイス(Landy Lewis)氏は、「強度と弾力性が向上すれば(求められる利用法に)さらに適したものになる」と話す。
繊維開発メーカーのクレイグ・バイオクラフト・ラボラトリーズ社がこの繊維を商品化しようとしている(ルイス氏、ジャービス氏と、もう1人の共著者のマルコム・フレイザー氏は、同社の科学顧問を務める)。
「利用法として考えているのは防弾チョッキではない。義肢や人工腱、パラシュート、空母の着艦ワイヤーなど、弾力性と強度が必要とされる状況での利用を目指している」とルイス氏は話している。
この研究論文は「Proceedings of the National Academy of Sciences.」誌のオンライン版に1月3日付けで掲載された。
Photograph courtesy Malcolm Fraser
http://www.asyura2.com/09/gm15/msg/285.html