環境省が健康影響否定の中間案 初期被ばくを過小評価
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2014年11月4日 東京新聞:こちら特報部 俺的メモあれこれ
福島原発事故による健康影響について、環境省の専門家会議は議論を続けてきたが、同省は先月、その中間取りまとめの案を公表した。内容は健康影響を否定する姿勢が色濃い。被ばくデータの欠如が問題視されながら、「事故が起きても大したことがない」という結論ありきの方針がうかがえる。再稼働の動きが強まる中、未来の事故の影響すら、すでに過小評価することを約束しているようにすら読める。(榊原崇仁)
◆福島事故「被ばく小さい」 複数委員 データ不足指摘
「被ばく線量の上限値でも、健康影響をもたらす可能性は低い」
中間取りまとめ案にあるこの一文は、とりわけ懸念されている小児甲状腺がんの増加と放射線影響の因果関係を否定したものだ。
この案は10月20日の専門家会議で示された。福島県はすでに「健康影響は考えにくい」と見解を出しており、これにお墨付きを与える内容となっている。
だが、そう結論づける根拠は極めてあいまいだ。
政府は福島事故後の2011年3月末、福島県内の子どもを対象に放射性ヨウ素の内部被ばく線量を測定した。放射性ヨウ素が甲状腺がんを誘発する恐れがあるとされているためだ。
環境省は案で「被ばくの実測値などを考えると、甲状腺の内部被ばくが100ミリシーベルトを超える可能性は小さい」と記し、加えて低線量被ばくの健康影響についても否定的に見ている。
低線量被ばくの軽視も問題だが、「こちら特報部」がこれまでに指摘してきたように「被ばく線量は小さい」と言い切れるのかという根拠は明確ではない。
そもそもヨウ素被ばくを測定したのは、わずか1000人程度。福島県民200万人、このうち18歳以下の子ども40万人で、被ばく線量を網羅的に把握できているわけではないからだ。
環境省によれば、案は過去の委員の発言をもとにまとめたという。ただ、被ばくデータの欠如を重く見る委員は少なくない。
先月20日の会議では、日本医師会の石川広己常任理事が「(被ばくデータの)不確実さは私が指摘してきたところ」と主張。東京医療保健大の伴信彦教授も「一番高い被ばく線量はよく分かってない」と述べ、日本原子力研究開発機構の本馬俊充氏も同調した。
ちなみに伴、本間の両氏は、原発推進派寄りと批判されがちな国際放射線防護委員会(ICRP)の委員だが、そこからさえも「待った」がかかった格好だ。
環境省の担当者は取材に対し、「ご指摘を踏まえて検討する」と答えた。しかし、一度示した見解を引っ込めるとも考えにくい。
原発再稼働に前のめりになる政府の姿勢を見るにつけても、環境省が「事故が起きても大したことがない」という結論を早々に出す懸念は拭い去れない。
2人の子どもを持つ福島県いわき市の男性(53)は、こうした政府の姿勢に不満を募らせる。
「うちの子たちは、どれだけ甲状腺に内部被ばくがあったか測ってもらってない。だから『被ばく線量は小さい』『健康影響の可能性は低い』と言われても、安心のしようがない。政府はこの問題の幕引きを早くしたいのかもしれないが、福島の被災者をないがしろにしてほしくはない」
◆防災指針 教訓生きず 「次の事故」でも被害無視か
「政府が原発事故の被害から目を背けるのは今に始まったことではない。体質としか言いようがない」
放射線医学総合研究所の元主任研究官で、国会事故調の委員を務めた崎山比早子さんはそう言い切る。
崎山さんは放射性ヨウ素による内部被ばくの実測データが約1000人分しかないのも、その体質に起因する部分が大きいとみる。
政府はなぜ、11年3月末に実施した子どものヨウ素被ばくの測定調査を1000人程度で打ち切ったのか。
この疑問については、12年に内閣府の原子力安全委員会(当時)が公表した資料で触れられている。ここで政府は「調査を行うことが、本人家族及び地域社会に多大な不安を与えるおそれがある」といった理由を持ち出していた。
一連の経緯は国会事故調の報告書にも記載されているが、崎山さんは「調べるのをやめた本当の理由は別にあると思う」と語る。
「被ばく実態を正確につかむと、議論の余地がないほど深刻な状況が出ていたはずだ。事故責任の追及をかわしたい政府は、言い逃れのために、ごく一部のデータ、それも被ばくを小さく見せられるものしか残さなかったのではないか」
現在からでも被ばくのデータを測定できればよいのだが、放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、2か月ほどで測定できなくなる。そのため、現存するデータを使わざるを得ない。
深刻なのは同じような状況が、次に原発事故が起きた際にも生まれる可能性が否定できない点だ。
国が示す防災の方針「原子力災害対策指針」には、個々人の被ばく線量を把握する必要性が記されている一方、放射性ヨウ素による内部被ばくの測定をどの機関がどの範囲まで進めるかについて、具体的な記述が何ら示されていない。
原子力規制庁の担当者は「積み残しになっている課題の一つと認識しているが、現時点ではまだ議論できていない」と明かす。
明確なルールがない現在の状況下で、ヨウ素被ばくを調べることになったら、福島の事故時と同様、被ばく状況を直視しない政府の体質が顔をのぞかせることになりかねない。
自治体レベルでも、ヨウ素被ばくの調査方法については白紙の状態だ。
今月2、3の両日、北陸電力志賀原発の原子力総合防災訓練があった。立地県である石川県の担当者は「避難計画の策定など、被ばくを避けるための予防策には手を付けている。だが、実際に被ばくしてしまった線量をどう測るかという点については、国が方針を示しておらず、具体的に検討できていない」と話す。
衣類などに放射性物質が付いているか調べるスクリーニング検査は、過去の訓練でも実施してきた。しかし、汚染を早く見つけて取り除くという点が目的のため、被ばく調査とは似て非なるものだという。
知事が再稼働に前向きな九州電力川内原発の地元、鹿児島県はどうか。
県の地域防災計画では、放射性ヨウ素の半減期を考慮し、「発災後1週間以内をめどに、放射性ヨウ素の吸入による内部被ばくの把握を行うものとする」とあるが、同県の担当者は「計画に書いてある内容以上のことは決まっていない」。
川内原発の再稼働に反対する「反原発・かごしまネット」の向原祥隆代表=鹿児島市=が現状の防災対策に向ける視線は厳しい。
「事故時に避難したとしても、被ばく状況をチェックしないまま、無事避難できたと言えるのか。それではただの移動にすぎない。事故があったときの備えができてない以上、再稼働は到底無理な話だ」
[デスクメモ]
国の評価は経済力や軍事力ではなく、論理性や倫理性で測られる。福島事故後の国の対応を見る限り、双方の劣化は著しい。事態を直視しないことは感情をも傷つけている。その対応として、心に「道徳」のコピペを施すことが真顔で語られている。「美しい国」どころか、この国はいま存亡のふちにないか。(牧)
2014年11月4日 東京新聞:こちら特報部
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014110402000182.html