http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140913/dms1409131000002-n1.htm
2014.09.13
一時1ドル=107円台に突入するなど円安が進んでいる。これについて、「景気失速懸念で円が売られている」「恩恵は限定的」「企業や家計に負の側面も」など、円安をネガティブにとらえる報道が出てきた。
2008年のリーマン・ショック直後、他の先進国が猛烈な金融緩和をする中で、日銀だけが無為無策の結果、円高になった。輸出企業は国際競争力を失い、日本はリーマン・ショックに無縁であったのに、経済は停滞してしまった。典型的な政策ミスである。
今の円安といっても、リーマン・ショック直後の水準に戻った程度であり、これまでの政策ミスを取り戻したにすぎないのに、なぜこのような悲観論が出るのだろうか。
こうした円安懸念を唱える人は、昨年の円安進行を大きく見誤った人が多い。国際金融の標準理論である「マネタリーアプローチ」を知っていれば、為替は2国間の金融政策の差が主要因になって決まり、日本だけが金融緩和すれば円安が進むことを読むのはやさしい。
ところがほとんどのエコノミストは昨年の円安を読めなかった。その人たちは、今年に入って円安が一服して安堵(あんど)していたのだろうが、最近になって再び円安傾向になってきたことがまず気にくわないのだろう。
そうした人たちにとって、ここ20年来のデフレと同時進行していた円高は飯の種だったわけで、いわば十八番の円高を奪われた怨嗟(えんさ)もうかがえる。
円安の効果を冷静に見ておこう。一般論として円安は輸出関連企業に有利で、輸入関連企業に不利だ。もちろん影響はそこにとどまらず、輸出関連企業の所得増はその雇用者に、輸入関連企業の所得減は輸入品の価格上昇を経て消費者に波及する。そのメリット・デメリットを合算すれば、為替相場が対ドルで10%円安になると、日本の国内総生産(GDP)は年0・2〜0・5%程度増加する。
ただし、これまでの円高で、輸出企業の中には生産拠点を海外に移転したところもある。この場合、円安になっても輸出増にはならず、投資収益の増加という形になる。
円安にもかかわらず、それほど輸出増とはなっていないのはこうした事情だ。日銀もこの点を読み誤っており、最近では成長率の下方修正を繰り返している。
また、上場企業と非上場企業でみると、海外投資ができるところは上場企業に集中しているので、円安のメリットは上場企業のほうが受けやすい。
それでも、経済政策としては、日本経済全体でプラスになることを実行するのが当然である。もし国内の分配に問題があれば、全体のパイを増やしてからパイの切り方を変えればいい。
円安悲観論を唱える人の多くは、そうした全体的な視点がなく、半径1メートルしか見えない人だ。為替の見通しを外した上で、ごく一部の人の意見を代弁しているにすぎず、政策論としては適当でない。
特に、「国力に見合った円高が望ましい」などの精神論を持ち出すエコノミストは疑ってかかったほうがいい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)