当該“事件”の国内記事を読むと芸能ネタか痴話げんかレベルの扱いになっているが、フランス2やスペインTVEのニュースでは、政治ネタとしてけっこう大きく扱われている。
転載するWSJの記事は、冒頭で、「この本に政治的な暴露は少なく、オランド氏を決断力のない指導者として描いている」と書いているが、末尾で書いている「本の中で、オランド氏が真の社会主義者かどうか疑問を呈し、「彼は自らが富裕層が好きでないように見せているが、実際には貧困層を嫌っている。プライベートでは貧困層を『無力だ』と呼んでいる」部分が論議を呼んでいるのである。
朝日新聞の記事にはオランド氏は「冷たい」と書かれているという言及しかないので、「バレリーさんの本が新たな痛手となる可能性」と言われても、その理由が見えてこない。
(『無力』であることをフランスでは「歯がない」と表現するようで、暴露本販売をきっかけに、パリで歯ブラシの柄を唇でくわえたデモが行われようとしたが阻止された)
この暴露が問題になるのは当然で、オランド大統領の支持率が第5共和制で最低の13%まで低下した最大の要因は、左派を標榜しながら推し進めてきた政策により労働者を中心とした低所得者の生活が一段と困窮したことにある。
仏ヴァルス内閣は、つい最近(8月25日)改造を行った。その改造も、オランド大統領の経済政策に異を唱えたモントブール(前)経済相を更迭することが目的だった。
(モントブール氏は、金融危機後に実施されてきた財政赤字削減策は経済を台無しにするもので、急ぎ方針を転換しなければ有権者はポピュリストや過激主義の政党に流れると警告した。オランド大統領は、歳出を削減し財政赤字を抑制しながら減税で経済を立て直すという政策)
これまでは、左派か右派かという問題よりも、国民全体に寄与する経済再生効果はどちらなのかという論理的問題であったが、元愛人の暴露本により、オランド大統領は、左派を装った右派で、“意図的に”右派(新自由主義)的政策を採ってきたのではと疑われるようになった。
そのためか、オランド大統領は、ウェールズで行われたNATO首脳会談後の記者会見で、自分の左派性が疑われたのは心外であり、自分は弱者に寄り添うことを使命として政治活動を行ってきたし今後も行うと必死に弁明していた。
米国や英国そして日本も似たようなものだが、小選挙区制=2大政党制になれば、見せるパンティの違いがフリルか柄かというレベルになってしまう。
さらに言えば、政権交代が現実化している国では、“安全保障措置”として、左派政党に右派の心性を持ったヒトが送り込まれる。(英国のブレア氏もそれに該当するだろう)
出自が価値観や政策を決定するとは思っていないが、現在のフランスのように、大統領がオランダからの移民の子孫で、首相もスペインからの移民(ヴァルス氏の父親は左翼で亡命に近い移住)の子という権力者状況に少々違和感を覚える。
サルコジ前大統領はハンガリーからの移民の子だから、このところ外国からやってきたひとの子孫がフランスの政治権力を握っていることになる。
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仏大統領の元パートナー暴露本、私事に寛容な国民も複雑
2014 年 9 月 5 日 12:23 JST
【パリ】オランド仏大統領の元パートナーである、ジャーナリストのバレリー・トリルベレールさんがエリゼ宮(大統領府)で過ごした日々を綴った320ページの暴露本を出版した。
この本に政治的な暴露は少なく、オランド氏を決断力のない指導者として描いている。劇的な出会いから今年1月の突然の破局に至るまで、オランド氏とともに過ごした日々を時系列風に認めている。トリルベレールさんとオランド氏は、タブロイド誌がオランド氏に愛人がいると報じた何日か後に関係を解消した。
本は、オランド氏がトリルベレールさんとセゴレーヌ・ロワイヤル氏とのぎくしゃくした関係を取り持とうといかに懸命になったかを明かしている。ロワイヤル氏はオランド氏との間に4人の子を持つオランド氏の元パートナーで、社会党の重鎮であり、3月から閣僚を務めている。トリルベレールさんとロワイヤル氏の不和は、2012年の議会選挙の前日に明らかになった。トリルベレール氏が、ロワイヤル氏の対立候補を支持するツイートをしたのだ。ロワイヤル氏は結局、選挙に敗れた。
オランド大統領の報道官によると、大統領はこの本に関してコメントするつもりはないという。同氏はトリルベレールさん(正式には結婚していない)との破局について、プライベートな問題にしておきたい「つらい出来事」だと表現した。同氏はまたフランスの女優、ジュリー・ガイエさんとの関係に関するコメントを繰り返し拒否している。フランスの裁判所はタブロイド誌「クローザー」に対し、ガイエさんのプライベートに踏み込んだとして1万5000ユーロ(約200万円)の損害賠償を支払うよう命じた。
「この時間にありがとう」と題するこの本は、5年の任期の半ばに迫りつつあるオランド氏を当惑させるかもしれない。オランド氏は、与党社会党の規約を経済界寄りに修正するよう党を説得するという先の見えない戦いを挑んでいる最中だ。多くの社会党議員はこれに反対しており、同氏の支持率は現代フランスで最低水準にまで落ち込んでいる。
この本はフランス国内に大きな混乱をもたらしている。フランスの有権者は伝統的に指導者のプライベートには目をつぶってきたにしても、内心は複雑だ。フランス国民がミッテラン元大統領に隠し子がいて、妻とほとんど一緒に過ごしていなかったことを知ったのは、大統領退任後だった。
政治家たちは右派、左派を問わず、トリルベレール氏はひきょうなやり方でオランド氏を引きずり下ろそうとしており、大統領職にダメージを与える恐れがあると非難している。野党のエルベ・マリトン議員は同国のテレビ番組で、「家の中でいざこざがあっても、道の真ん中で皿を割るべきではない」と述べた。パリ市のアンヌ・イダルゴ市長は「トリルベレール氏は親友の1人だ」と述べた上で、「それでも、率直に言ってこれは政治と民主主義に悪影響をもたらす」と話した。
トリルベレールさんは本の中で、オランド氏との日々を振り返ることが、1月の報道で打ちのめされた自分を立て直す方法だったと述べた。また本の中で、オランド氏が真の社会主義者かどうか疑問を呈し、「彼は自らが富裕層が好きでないように見せているが、実際には貧困層を嫌っている。プライベートでは貧困層を『無力だ』と呼んでいる」と書いた。
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052970203736504580134833485309768
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オランド仏大統領は「冷たい人」 前パートナー、暴露本を出版[朝日新聞]
2014年9月5日05時00分
仏オランド大統領(60)の前パートナー、バレリー・トリユルバイレールさん(49)が4日、大統領府での生活などをつづった本を出した。オランド氏の不倫報道を知り、「睡眠薬を飲んで気を失った」などと明かした。発売に先立つパリマッチ誌の取材には、2人の間のエピソードをいくつも語り、オランド氏を「冷たい」などとも評した。
芸能誌が女優との不倫を報じたのは1月。その朝、「耐えられなかった。睡眠薬が入った袋をつかんだ」と記した。「(オランド氏が)追いかけてきて奪おうとした袋が破れ、寝室に薬が散らばった。かき集めて飲み、気を失った」
別離の後も携帯電話にメッセージが届いたという。パリマッチ誌によると、「あなたなしの生活は考えられない」など、1日で29通を数えることもあった。バレリーさんは「選挙のように私が手に入ると考えたのだろう」と冷ややかだ。豊かではなかったバレリーさんの家庭を揶揄(やゆ)したり、晩餐(ばんさん)会の前に「きれいでさえいればいい」と話したりしたとも紹介。「冷たい人だ」とした。
高い失業率などへの不満から、オランド氏の支持率は2割未満。バレリーさんの本が新たな痛手となる可能性がある。バレリーさんはパリマッチ誌の記者でもある。(パリ=青田秀樹)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11334097.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11334097