内閣改造と市場の上昇
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2014年09月02日 在野のアナリスト
今日、自民党の次期幹事長に谷垣法相の名前が浮上しました。宏池会の重鎮ですが、違和感があるのは、安倍首相とは多くの点で主張が異なることです。政高党低が危惧される安倍政権で、谷垣氏の意向が通るのか? またただでなくとも福島、沖縄県知事選の苦戦が伝えられ、また統一地方選も危ないとされる。かつて総裁でありながら、首相が経験できなかった悲運の人である谷垣氏に、また泥を被せるつもりか? といった宏池会すら敵に回しかねない、これは博打にみえます。
親中派でもある谷垣氏で、融和路線か? とも囁かれますが、全く関係ないでしょう。外相が交代するならまだしも、岸田氏のままなら外交姿勢に変化がない。それより、財務省シフトが顕著になった、という方が重要です。党内を10%でまとめてくれ、という安倍氏の意向をうけて、谷垣氏が動くのなら、谷垣スケープゴート説が党内をかけ巡ることになるかもしれません。
市場はこちらのニュースに反応しました。塩崎氏の厚労相就任の話です。日銀出身でグローバリズム、GPIF改革にも前向きとされます。しかし政権が小出しにしてきた改革の中身によって、逆にそれ以上の内容は出てこない。ロードマップ通りに株式、海外の投資比率を上げるだけで、特段のサプライズが期待できるわけではありません。それより、今日の上昇は欧州系の事情、という点が大きいと見ています。日経平均とTOPIX先物のロングポジションが、過去最高レベルまで積み上がり、円売りポジションも10万枚を越えてきた。かなり重い状態になっていました。
実は明日、明後日ははねる、と見ていましたが、それはECBの追加緩和期待を狙うイベントドリブン型のCTAスジ、という流れです。昨日まで無視していた内閣改造を、今日になっていきなり材料視した理由は塩崎氏となるのでしょうが、1日前倒しせざるを得ないほど、ポジションが傾いていた。またGPIF改革で、年金が買わないとこのポジションを解消できない、待望論に市場の反応も大きくなった、というのが今日の大幅高の原因であり、日経ミニなどは欧州系による桁違いの買い越し、が目立ちますし、先物の買いこしにも欧州系が目立つなど、欧州祭りだった印象です。
厚労省から発表された7月の毎月勤労統計、現金給与総額が前年同月比2.6%増、という見出しが多く躍りますが、物価の影響を考慮した実質賃金は1.4%減。6月の3.3%減よりは小さくなったとはいえ、未だに生活苦を抱えた状況です。しかも今回、所定外給与が3.3%増、賞与が7.1%増と、その寄与度が大きかったのに、実質賃金が目減りするのは物価上昇と増税が、深刻なことを意味します。
幹事長に谷垣氏をおき、財務省シフトによる消費税10%路線を、厚労相に塩崎氏をおき、日銀シフトによるマネタリズム路線を敷く。寡聞にして、塩崎氏の労働法制の考え方は存じませんが、主義・主張から推測するに、雇用の流動化を推進する、いわば竹中路線に近いのか、と感じます。実質賃金の目減りがつづく中、GPIF改革よりももっと大きな、実は労働法制にどうメスを入れるのか。そこがもっとも大事なところであるべきです。もしこのまま、人事が断行されるのなら、安倍政権は益々市場重視で、労働者への目配りは期待できない、となるのでしょう。そもそも脱デフレとは語られますが、実質賃金の目減りについて、安倍政権からはこれまで何の言及もない。労働者の方をむいていない、国民の方を見ていない、その目は市場の上昇に一喜一憂するだけ、ということが内閣改造でもはっきりしてくるのかもしれませんね。