空母「ジョージ・ブッシュ」から飛び立つ戦闘機(AP)
【世界を斬る】オバマ政権、戦略なきイラク空爆 懸念される報復テロの惨劇
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140813/dms1408130830007-n1.htm
2014.08.13 夕刊フジ
オバマ大統領がイラク北部への空爆を開始した8日、ハドソン研究所の首脳が私にこう言った。
「今度の爆撃は、軍事的な計算に基づいたものではない。過激派組織ISIS(イスラム国)のあまりに素早い行動に驚いて、やみくもに始めただけだ。オバマ氏には、基本的な戦略がまったくない。このままいけば、イラク情勢は悪化を続け、米国にとって危険な状況になるに違いない」
オバマ氏の命令を受け、米海軍は空母「ジョージ・ブッシュ」からEF18Eを飛ばし、イラク全土で戦闘を展開しているISISの基地や輸送部隊に対して500ポンドのレーザー誘導型精密爆弾を投下している。だが、ベトナム戦争で証明されたように空からの爆撃は効果が限定されている。
空爆はとりあえず猛烈な勢いでクルドの中心都市アルビルやイラクの首都バグダッドを占領しようとしているISISの進撃速度を落とさせ、時間稼ぎには成功している。だが、オバマ氏には、この後、どのように戦いを続けてイラク全土の安定を図るのかといった戦略がまったくない。
友人の軍事専門家もこう言っている。
「オバマ氏とその周辺、特にライス安全保障担当補佐官とCIAのブレナン長官は、ISISの動きをまったく察知できていなかった。いまでもISISがどのような組織なのか、把握していない」
ISISは、その作戦や戦いぶりから見るかぎり、アルカイダよりはるかに過激であるだけでなく、規律のとれた軍隊のような行動をとっている。オバマ氏が対策をとれないまま事態が推移すれば、アルビルやバグダッドがISISに攻撃され、10万人以上いるという米国人に大きな被害が出る危険がある。
「現在の状況を見ると、米大使が殺害されたベンガジ事件が再び起きるような気がする」
友人のジャーナリストはこう言ったが、ISISの猛烈な攻撃を空からの爆撃だけでくい止めることは軍事的に見て非常に難しい。このままいけば、友人の懸念が現実のものになる恐れが強い。
イラク国内の米領事館や大使館、石油企業やイラク政府機関が攻撃され、破壊されることになれば、反米テロリストの気勢は一気に高まる。
国防総省の専門家はこう指摘している。
「イラクがISISの手に落ちるようなことがあれば、再び米本土に対するテロ攻撃の危険が出てくる」
オバマ氏が軍事や安全保障問題を放り出して中国とのビジネスに熱中してきた結果、イラクが崩壊寸前になっている。オバマ氏は平和主義を標榜して、ブッシュ前大統領の中東戦略やテロリスト攻撃を非難し続けた。
だが、平和主義では世界の安全保障は維持できない。オバマ氏、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官という平和グループが米国を危機に陥れようとしている。
■日高義樹(ひだか・よしき) 1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NHKに入局し、ワシントン支局長、理事待遇アメリカ総局長を歴任。退職後、ハーバード大学客員教授・同大諮問委員を経て、現在はハドソン研究所首席研究員、全米商工会議所会長顧問。