小原凡児東京財団研究員(元駐中国防衛駐在官)は「中国の軍事戦略」と題して日本記者クラブで講演し、中国は軍事的にも経済的にも開戦できない国とみなしている、と分析。
<中国の軍事戦略>日本とは開戦できず=南シナ海に新型ミサイル搭載潜水艦を配備―元駐中国防衛駐在官
http://www.recordchina.co.jp/a92355.html
2014年8月11日 6時10分
2014年8月8日、小原凡児東京財団研究員(元駐中国防衛駐在官)は「中国の軍事戦略」と題して日本記者クラブで講演し、中国は日本を軍事的にも経済的にも開戦できない国とみなしている、と分析。その理由として、(1)自衛隊の能力と日米同盟があり日中戦争になれば米中戦争の可能性が出てくること(2)中国の経済改革に日本からの投資や技術は欠かせないこと―の2点を挙げた。また、中国空軍の操縦技量は低く、海上自衛隊艦船へのレーダー照射や自衛隊機への異常接近はパイロットの独断によるものと指摘した。講演要旨は次の通り。
中国人民解放軍では従来海軍が重視されてきたが、中国指導部が空軍を予算面で重視する姿勢を示し、空軍は勢いづいている。空軍のパイロットの操縦技量は低い。海軍と違って国際的に交流の機会が少ないので常識を知らない。操縦士養成訓練も戦闘機の増加に伴っていない。海上自衛隊艦船へのレーダー照射(2013年2月)や自衛隊機への異常接近(14年5月)などはパイロットが独断でやったと思われる。空軍重視の姿勢を示したのも、空軍を不満の状態に置くのは危険との認識があったためではないか。
その点、海軍はソマリア沖での海賊対処やリンパック(環太平洋共同軍事演習)などにより他国軍との交流を通じて意思疎通が図られ、海軍としての統制も取れている。
◆習主席、人民解放軍を掌握―江沢民氏の影響排除
習近平国家主席は人民解放軍の制服組トップだった徐才厚(江沢民派)を「反腐敗」の象徴として党籍はく奪処分にした一方、江沢民の影響を受けた者すべての粛清は非現実的だ
と判断して、不問に付した。象徴的な人物を叩くことによって他の者に忠誠を誓わせた。この結果、習主席は人民解放軍を掌握した。この点、江沢民の影響排除に失敗した胡錦濤前主席と異なる。
鉄道部門や石油部門など既得権益を有する政治勢力を排除することによって権力基盤を掌握している。経済・社会の情況に対する危機感から経済改革を断行せざるを得ないと判断したようだ。沿岸部の経済波及効果は限定的との判断から、内陸部(西部)に経済拠点を創出し、新シルクロードに繋げる「西進」戦略を意図している。
米中の軍事力比較では、圧倒的に米軍が優位にあるが、技術的な優位は低下傾向にある。
中国はマッハ5以上で飛行する極超音速滑空ミサイルを開発、劣勢な核兵力を補うものと位置付けている。中国はこのミサイルを搭載できる原子力潜水艦の開発し就航している。東シナ海は浅いので探知されやすく潜水艦の活動には向かないが、南シナ海は深いので、港からすぐに深海に潜ることができ、十分活用可能だ。ただ人民解放軍は装備の近代化を進めてもシステムは弱く、十分な訓練をしてこなかった。
米中サイバー戦争は、米国が国家安全上の情報収集をしているのに対し、中国は先端技術の獲得に力点を置いており、非対称だ。ただ、中国はサイバー分野でも米国との対立や衝突は回避する方針だ。中国はアメリカ合衆国のGPSに依存しない、独自システムを構築している。
◆米中は「対立的共存」関係
中国は米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国の武力不使用を確認する必要がある。その点、7月の米国との戦略経済対話は成功したと見ている。米国も中国との「新型大国関係」に呼応、ケリー国務長官が乗ってしまった。いずれにしても米国は単純な反中(日本の味方)ではない。
中国の言う軍事衝突回避は大国間の衝突回避であり、(フィリピン、ベトナムのような)小国が邪魔をするのなら実力行使は仕方がないと考えている。小国との軍事衝突より怖いのは国内の批判だ。
中国は日本について、対日強硬派を抑制するためのレトリックとして「小国日本」と表現するが、実際には軍事的にも経済的にも無視できない規模の国とみなしている。中国が日本と開戦しないのは、(1)自衛隊の能力と日米同盟(日中戦争になれば米中戦争の可能性が得てくる)、(2)中国の経済改革に日本からの投資や技術は欠かせない―などの理由による。(八牧浩行)