定義変更で消し去る失敗経済政策
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-989e.html
2014年8月 5日 マスコミに載らない海外記事
定義し直しこそ、アメリカの最も強力な生産要素
Paul Craig Roberts
2014年8月4日
2014年第二四半期、本当のGDP成長は、4%になるだろうという、先週の政府推測による見積もりは、ひたすら馬鹿げている。経済を、第一四半期の低下から、第二四半期での4%成長に上げそうな、実際の世帯平均所得、あるいは実際の消費者信用の増加という証拠は存在していない。中流階級向け店舗の閉鎖(シアーズ、メーシーズ、J.C. ペニー)は、より低所得の人々が使う、1ドル・ショップへと広がった。何百もの店舗を閉鎖する過程にあるチェーン店ファミリー・ダラーは、三つの1ドル・ショップ・チェーンのうち、困難な状況になっていない唯一の会社ダラー・ツリーによって買収されようとしている。ウォルマートの売り上げも、過去5四半期低下している。売り上げの低下と小売店閉店は、消費者の購買力が縮小していることを示している。小売りの現実は、第二四半期、4%のGDP成長率という主張を裏付けてはおらず、7月、小売業での26,700の新規雇用を主張する、先週金曜の就業者数統計を裏付けてもいない。
住宅市場はどうだろう? 先週金曜日の就業者数統計について書かれた“雇用は安定した増加で落ち着く”という類の見出しは、より多くの人々が働いていて、住宅産業復活のおかげで、経済への追い風になっていることを意味しているのではあるまいか? そんなことはない。経済マスコミは、アメリカが構造的な雇用不況にあることを報じない。2013年7月から、2014年7月の12ヶ月間に、230万人の労働年齢のアメリカ人が増えた。この230万人のうち、わずか330,000人が労働力となった。これに対する私の解釈は、求人市場が余りに低迷していて、こうした労働年齢増加分のうちわずか14%しか労働力に入れないのだ。
就労率の低下は住宅市場にとって悪いニュースだ。アメリカ就労率は、2000年に、67.3%でピークとなり、以来、ずっと下落傾向のままだ。下降の率は、2008年10月、銀行の救済措置と量的緩和と共に増加した。2008年10月から今日まで、1320万人のアメリカ人が、労働年齢人口に加わったが、わずか818,000人、6%しか労働力にならなかった。http://investmentresearchdynamics.com/americas-structural-job-depression-is-here-to-stay/ 政府や経済マスコミの主張にもかかわらず、連邦準備金制度理事会の、国債購入の為の長年のドル印刷政策は、住宅市場も、労働市場も回復させることはなかった。
株式市場はどうだろう? 株は、ここ数日下落しているが、それでも歴史的には依然として高値だ。株式市場は、良い経済の証拠ではないだろうか? もし企業が、自らの株を買い戻しているがゆえに、株が高いのであれば、そうではない。現在、企業が株の最大購入者だ。最近、2006年から2013年までに、企業が、4.14兆ドルもの公的に取引されている株式の買い戻しを認めていたことを我々は知った。しかも、どうやら、企業は、自分達の株を買い戻すための金を銀行から借りているように見える。昨年、株の買い戻しが、7億5480万ドルあり、企業の借金が、7億8250万ドルあった。今年の最初の三ヶ月で、企業は1600億ドルもの自らの株を買い戻した。http://wallstreetonparade.com/2014/07/another-wall-street-inside-job-stock-buybacks-carried-out-in-dark-pools/
株の買い戻しの為に借金すれば、企業には借金が残るが、借金の利息を支払う為の収入を生み出す新規投資はないのだ。膨大な株の買い戻しは、アメリカ資本主義が、もはや腐敗していることを実証している。ボーナス、ストック・オプションや、キャピタル・ゲインで流れ込む個人的な短期的金銭的な利益を最大化する為、CEO、重役会や株主は、株式会社から資本を引き揚げ、借金を押し込んでいる。
製造業のアメリカ回帰によって、経済は助けられているのではあるまいか? どうやら、そうではなさそうだ。1999-2012年のデータは、製造業の海外移転が、9%増えたことを示している。
ある経済専門家、小売業界指導者協会エコノミストのスーザン・ヘスターは、製造業雇用の喪失を美点に変えることに決めた。彼女の主張は、小売業の雇用にくらべれば、製造業の雇用などちっぽけなものであり、輸出できるようにすべく製造業を奨励するより、より多くの輸入品を販売することで、より多くのアメリカ雇用が生み出せるというものだ。
ヘスター女史の研究によれば、アメリカは、製造業よりも、小売業から、より多く稼ぐことが可能なのだ。海外労働力によって製品に付加される価値は、“海外生産管理、通関手続き、在庫・流通管理、衣類のマーケティングや、棚に品物を揃え、キャッシュ・レジスターで作業する小売り部門の何百万人もの人々人々によって付加される価値の、ごくわずかにすぎない”と彼女は結論づけている
言い換えれば、海外移転されたアメリカ製造業雇用は、使い捨て商品と同様なのだ。輸入品を販売することで、収益を生み出せるというのだ。
ヘスター女史は、海外移転で生産された商品が、アメリカで販売すべく持ち込まれると、輸入となり、膨大なアメリカの貿易赤字を生み出すことを認識しそこねている。外国人は、アメリカ企業に為に彼らが製造した製品に対して支払われるドルを、アメリカ国債、株や、土地、ビルや、企業等の不動産の購入に使っている。その結果、利子、利益、キャピタル・ゲインや、外国人が購入したアメリカ資産にまつわる賃借料は、アメリカ人にではなく、外国人の手に流れ込む。経常勘定は悪化する。
それはこういう具合に機能する。アメリカの輸出を越える、アメリカの輸入は、外国人に、アメリカでの収入や富を与えるが、それは外国人が、アメリカ資産購入して決着する。これら資産が生み出す所得は、今や海外に流れ出てゆき、外国人が、アメリカへの投資で稼ぐ収入が、アメリカが外国投資で稼ぐ収入を越える結果になっている。
ヘスターの女史の理屈によれば、自分達が必要とするものは何も生産せず、製造の代わりに、アメリカ市場向け海外生産の仕様を決めるアメリカのファッション・デザイナーや、パターン制作者、監視指導の役人や貨物取扱人、製造計画や、促進担当職員や、外国製の製品を、アメリカ消費者市場に送り届ける船舶荷役夫や鉄道従業員の収入に依存した方が、アメリカ人の暮らし向きは良くなるというのだ。
ヘスター女史は、海外移転された製造によって付加される価値は取るに足らないものだと信じている。そうであれば、それで一体どうやって中国は豊かになり、世界第二位の経済になり、製造業に10億人を雇用し(アメリカの1200万人と比較されたい)、どの国よりも最大の外貨準備を獲得できたのだろ?
ヘスター女史はこの問題に答えた後、付加価値への貢献がそれほど低いのであれば、一体なぜアメリカ企業は、わざわざ製造を海外移転する苦労を払うか説明できるだろうか? 付加価値として、明らかに人件費の節約は、アジアからアメリカまでの輸送費、外国への設備設置費用と管理費用、アメリカのコミュニティーを放棄して、アジアに移すことによる悪い評判のコストを支払ってたっぷり余りあり、全ての経費を支払った後も、利益を増大させ、株価や幹部ボーナスを押し上げるのに十分な十分な付加価値が残るのだ。
ヘスター女史は自分を欺いているのだ。彼女が計算する、中国、インドや、ベトナム人の労働の低価格は、シャツ価格に付加する安い外国の人件費をもたらすのであって、アメリカ市場におけるシャツの低価格やら、ヨーロッパ市場におけるiPhoneの低価格をもたらすわけではない。マーケティング、在庫・流通管理は、アメリカで、より給料の高い人々によって行われ、そしてこれこそが、あたかも、付加価値が製造業以外の源から生じるかのように見せる理由だ。ヘスター女史は、外国人労働力のより安いコストは、より安価な商品につながるのではなく、より大きな利益になることを見逃している。
経済専門家連中は、人件費節減は、価格引き下げの形で、消費者にも、恩恵をもたらすと想定しているが、ナイキや、メレルのスポーツ靴やタオルや、ブルックス・ブラザーズやラルフ・ローレンのシャツや、アップル・コンピューターや、あるいはアメリカ製造の海外移転の何らかの結果として、価格が安くなった経験などした試しがない。人件費削減は、収益、幹部ボーナスや、株主のキャピタル・ゲインと化するのであり、アメリカにおける収入と富みの不平等のとんでもない激化の理由の一つなのだ。
短期的利益に焦点をあてることで、製造業者や小売業者は、アメリカ消費者市場を破壊しているのだ。アメリカの服飾製造業労働者の平均年収は、35,000ドルだ。アメリカ小売業従業員の平均給与は、その金額の半分以下であり、小売店での消費者支出を押し上げるような裁量所得をもたらすわけではない。
製造海外移転というアメリカ企業の慣行が、オバマ政権が製造業雇用と輸出を生み出すという約束を守るのを不可能にしてしまっている。本当の雇用や本当の輸出を生み出せないので、アメリカ政府は、“工場を持たない製品製造業者”によって生み出される仮想の雇用と、仮想の輸出を生み出すことを提案しているのだ。アメリカ輸出の倍増という約束を守る為、オバマ政権は、外国の生産高を、アメリカの生産高として、定義しなおしをしたがっているわけだ。
“工場を持たない製品製造業者”というのは、新たに発明された統計上の範疇だ。自社製品の製造を、外国企業に外注するナイキやアップルの様な企業のことを言う。オバマ政権は、ブランド名や製品設計を持っているアップルのような会社を、そうした会社は実際には製造しないにもかかわらず、製造業者として定義しなおしをすることを提案しているのだ。
言い換えれば、アメリカ企業が製造業者であるかないかは、実際の活動にはよらず、外国の製造業者が、その会社の為に製造するブランド名を所有しているか否かによるというわけだ。例えば、ヨーロッパで販売されるアップルの中国製iPhoneは、アメリカ製品輸出として報告され、アメリカで販売されるiPhoneは、もはや輸入品としては分類されず、アメリカ製造業生産高となるのだ。アップルの非製造業従業員達は、製造従業員へと変身させられることになる。
明らかに、この統計上の欺瞞の狙いは、アメリカ製造業雇用、アメリカの製造業生産高や、アメリカ輸出の数値を膨らませ、輸入を国内生産に転換することだ。再定義によって、アメリカの膨大な貿易赤字を消滅させる策略だ。
分類変更により、政府の統計企画ウソ局は、中国、インド、インドネシアなり、どこなりの製品は、ブランド名がアメリカ企業の所有である限り、アメリカGDPに組み込まれるが、製品を製造したアジアの労働者への支払いは、アメリカの富に対する権利として残り、アメリカ国債、企業や不動産の所有権へ転換が可能だという矛盾を負わされることになる。
例えば、中国労働者がアップル製品を製造しており、中国にはアメリカの富に対する権利がある。こうした主張は、オバマ政権による定義しなおしによって、統計的に一体どのように説明されるのだろう? アメリカは、中国のアップル製品製造を、アメリカGDPに加えることができるが、いったいどの様にして、アメリカは、中国で製造されたアップル製品を、中国GDPから差し引くのだろう? また、オバマ政権の定義しなおしは、一体どのようにして、製品を製造する中国の労働力へのアップルによる支払いを逃がれるのだろ? こうした支払いは、アメリカの富に対する権利だ。
言い換えれば、分類変更はアップル製品の生産高を二重計算することになる。もしあらゆる国々がこれを行えば、製品もサービスも製造されていないという事実にもかかわらず、世界のGDPは統計的に増加する。恐らくはこれが、世界の貧困を、定義によって消滅させる方法なのだ。
“工場を持たない製品製造業者”は、雇用の海外移転を正当化する、ハーバード大教授マイケル・ポーターの2006年競争力報告書がその前兆だった。雇用の海外移転を擁護して、ポーターは、アメリカ貿易赤字の増大と、雇用の海外移転によって引き起こされるアメリカGDP成長率の低下を控えめな数値にした。ポーターは、収益や製品の帰属は、収益や製品が生み出される場所ではなく、定義によって決定されるべきだと、実質的に主張した。私が批判で指摘した通り(著書"The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West"を参照)、結果は、アメリカGDPを、海外移転したアメリカ製造業の金額と、アメリカの海外子会社の生産高で積み上げ、実際に製造が行われている国々のGDPを引き下げることだった。これを首尾一貫する為には、例えばアメリカ国内で、アメリカ人労働力によって製造されているドイツと日本の自動車は、アメリカGDPから差し引かれ、ドイツと日本GDPとして報告されるべきことになる。
長年私が強調してきた通り、欧米は既にジョージ・オーウェルが予想した暗黒郷の中で暮らしている。報告されている雇用データへの仮想の追加や、季節調整を不適切に利用して、雇用が生み出されている。インフレ指数で、価格が上がったものを、より低価格の品物に置き換え、価格上昇を品質の向上と定義しなおすことで、インフレは消し去られる。実際のGDP成長は、実際よりも少なく見せるために改ざんされたインフレ率で、名目GDPを引き下げることによって、手品のように作り出される。今や工場を持たない大企業が、アメリカ製造業生産高、アメリカ輸出や、アメリカ製造業雇用を生み出そうとしているのだ!
欧米の存在のあらゆる側面が、プロパガンダによって定義されている。その結果、我々は、虚無主義の完璧な段階に到達したのだ。政府、大企業や売女マスコミが言うことは、何も信じることができない。
我々はウソの中で生きており、ウソは益々拡大しつつある。
Paul Craig Robertsは、元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えていた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでい る。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOSTが購入可能。
記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2014/08/04/defining-away-economic-failure-paul-craig-roberts/