http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140611/dms1406110830001-n1.htm
2014.06.11 「日本」の解き方
民間の労働時間規制緩和が「残業代ゼロ」と呼ばれて話題になっている。これがこじれる背景に、労働者側としては、やりたくもない残業をさせられているのに、きちんと残業代が払われていないというサービス残業問題がある。
労働時間の規制緩和について筆者は「まず官より始めよ」と主張している。その理由は、雇用主としての国が、国家公務員に対し、いろいろな労働政策を実施すれば、メリットやデメリットがよりよくわかるからだ。
それでは、国家公務員の残業実態や残業手当はどうなっているのだろうか。国家公務員は、労働基準監督法の適用除外になっている。もちろん人事院規則などで労働者の権利は保護されているが、法的には産業競争力会議の民間議員が主張するような「ホワイトカラー・エグゼンプション」(労働時間規制の適用除外)はすでに実現されている。
残業実態については、全職員の数%程度しかいないキャリア組と、残り多くのノンキャリア組で異なっている。仕事の内容が異なっているためであろうが、一般にキャリアの残業時間の方が多い。筆者が現役官僚であった時代は、終電で帰宅できるのはまれで、タクシーで深夜2、3時に帰宅することが日常化していた。
そうなると、1カ月の残業時間は百数十時間から二百時間になることはザラだ。しかし、役所の残業予算はあらかじめ決められているので、法律改正などで忙しい部署とそうでない部署で予算配分に差が付けられていたようだ。
この予算配分の差は、役所によってもあり、相対的に財務省は残業予算の配分が手厚かった。要するに、省庁や部署などの実態に応じて、月二十数時間から百時間程度までを上限として残業手当が配分されていたようだ。
こうした国家公務員における残業実態から、今の政府内における民間の労働時間規制緩和について、いくつかの示唆がある。
まず、厚労省だが、産業競争力会議の民間議員が主張している、一定の職種に対する労働時間規制の適用除外に反対というスタンスは自らの職場の実態と矛盾している。
もちろん、国家公務員の場合、キャリアとノンキャリアはあたかも身分制度のように固定化しており、その点は大いに問題である。しかし、職種によって仕事内容が異なり、残業時間にとらわれないで、残業手当を含む給与が支給されている点は大いに参考になる。
こういうと、厚労官僚から、「裁量労働制で対応できる」と反論がある。しかし、先日の本コラムで明らかにしたように、裁量労働制は厚労官僚の「裁量」が入るため企業には使いにくく、労働時間規制の適用除外とは似て非なるモノだ。
国家公務員では、残業手当のやり方は各省、各部署の実態に応じている。それを参考にすれば、「適用除外」を導入したうえで、必要に応じて労働基準監督者が労使契約の実態について立ち入り検査を行う仕組みが望ましいのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)