http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140529/dms1405290730002-n1.htm
2014.05.29 「日本」の解き方
安倍晋三政権は「女性の活用」を成長戦略の一つに掲げ、事務次官などにも女性を起用している。
これを、憲法第14条の法の下の平等に違反するといった理由によって、女性登用を逆差別とする見方もあるが、それはあまりに形式的だ。英語でいうところのアファーマティブ・アクション(差別是正措置)であり、女性の不利な状況を積極的に改善すると考えたほうがいい。特に、首相は雇用主としての政府の最高責任者なのだから、人事方針として積極的に格差是正に取り組んでいい。
ただ、民間に対する働きかけは、やや方向違いである。女性活用の一環としての配偶者控除の見直しはその典型例だ。
3月の本コラムで、(1)「個人課税」から「世帯課税」への移行(2)配偶者控除の廃止の所得税改革が検討されているが、増税志向が強いので、(1)「個人課税」から「世帯課税」への移行がなくなり(2)配偶者控除の廃止だけになるだろうと指摘した。現状はそのとおりになっている。
配偶者控除とは、専業主婦やパートなど収入が一定額以下の配偶者がいる家庭では所得税や住民税が軽減される制度だ。妻の年収が103万円以下であれば、所得税は38万円、住民税は33万円を世帯主の課税所得から引かれる。このため、控除の対象外になることを心配して「103万円の壁」といわれるように、女性が働く時間を自ら制限してしまう。
さらに、「130万円の壁」もある。これは、妻の年収が130万円以下の場合は、夫の扶養になり、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)を負担する必要はないが、年収130万円を超えると夫の扶養から外れ、社会保険料が自己負担になるのだ。
配偶者控除では、妻の年収が103万円を超えたとたんに、配偶者控除が適用されなくなるわけではない。妻の年収が103万円から141万円以下の場合には、配偶者特別控除が適用され、段階的に控除を受けられる(ただし、夫の所得が1000万円以上ある場合には適用にならない)。
こうした制度の下で、家計全体として夫婦で税金を払った後の可処分所得がどうなるだろうか。妻の年収が130万円から150万円くらいの範囲だと、家計全体での年収は増えるのに手取りの可処分所得が少なくなってしまう可能性がある。
これは、税と社会保険料がうまく統合されていないからだ。本コラムでは、税と社会保険料を同じ組織が徴収するための「歳入庁」の必要性を再三強調しているが、ここでも、税と社会保険料がバラバラになっている弊害が出ている。
税と社会保険料をうまく統合し、家計全体での年収は増えるのに可処分所得が減少するような「働き損」をなくすことが必要だ。その上で、働く女性が「103万円の壁」や「130万円の壁」を意識しないですむような、段階的な控除を構築する必要がある。これは、現在の制度より控除の拡充になり、配偶者控除の廃止で増税をもくろむ財務省の方針とは真逆であるが、できるだろうか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)