4月17日、韓国・木浦の警察署で、セウォル号の船長(中央)を取り囲んで取材する地元メディアの記者ら (ロイター)
韓国船沈没1カ月 メディア不信頂点に 悲劇を扇動、自己目的に利用する勢力も
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20140516/frn1405161130001-n1.htm
2014.05.16 夕刊フジ
■「生き残った子まで罪人の心情」
【ソウル=名村隆寛】韓国旅客船「セウォル号」沈没事故の発生から16日で1カ月。韓国国内では、地元メディアによる遺族や生存者らへの「配慮を欠く過剰報道」(遺族)が批判を浴びている。こうした中、テレビ局幹部が、犠牲者に関する問題発言の責任をとり辞任。今回の報道姿勢を見直す動きもあるものの、世論の「メディア不信」は高まるばかりだ。
◆生徒号泣させる
「過度な取材競争が子供たちの傷を深めている。生き残った子供までが罪人になった心情です」−。修学旅行中に惨事に遭った京畿道安山市の檀園高校の父母は4月22日、記者会見でこう訴えた。
事故直後、韓国のテレビ局記者が、助かった女子生徒に「友達が大勢死んだのを知っているか?」と取材し、女子生徒が号泣したことが問題化。また、韓国のテレビ局の取材陣5人が、行方不明者の家族とみられる人物から「記者は皆出ていけ!」と暴行を受け、カメラが壊された。
生存者数を何度も誤って報じ、被害者や家族への気配りを欠く取材と報道が続いた。「書かないから」と言って情報を聞き出そうとする記者たちへの反発も強く、取材拒否が相次いだ。
ニュース専門テレビYTNは4月下旬、報道の問題点を番組の中で取り上げ、改善方針を視聴者に伝えた。「韓国メディアは事故報道の原則を守ろう」(朝鮮日報)と自らへの戒めもある。YTNは最近も、追悼場で「メディアは信じられません!」と怒りをあらわにして話す女子生徒の姿を伝えるなど、問題提起している。
◆報道局長が辞任
一方で、最近のメディア幹部の発言が騒動を引き起こした。韓国放送公社KBSの金時坤(キムシゴン)報道局長が「沈没事故での死者300人は、交通事故の年間死者数を考えれば多くない」と話していたことが判明。遺族らの怒りを買ったのだ。
8日に京畿道内の犠牲者合同焼香所を訪れたKBSの幹部らは遺族に暴行された。幹部2人は個室に1時間余り監禁され、「金局長を連れてこい!」と言われたという。怒りを爆発させた遺族ら約120人は同日夜、ソウルのKBS本館を訪れ、強く抗議した。
金局長は翌日、「発言は事実ではない」としつつも辞任を表明。KBSは「社会の『安全不感症』に警鐘を鳴らす報道を促す意味だった」と釈明した。
◆政治利用指摘も
他方、KBSでは入社3年未満の若手記者55人が「沈没するKBSジャーナリズム」と題した反省声明を発表。「朴槿恵(パク・クネ)大統領の珍島訪問の際、行方不明者の家族の怒声を伝えず、拍手を受ける大統領の声だけを報じた」「大統領が焼香所に来たとき、一般弔問者を行方不明者の祖母であるかのように報じた」などと反省しつつ、報道幹部と事故報道に関わった記者全員による討論を呼びかけた。
報道機関の労働組合である全国言論労組のKBS本部も「沈没するKBSをこれ以上、黙視できない」と訴える声明を出し、社長らの退陣を要求した。
ただ、金局長は辞任の際、「労組と左派メディアが事実でない部分を拡大再生産している」と発言。実際、沈没現場近くの「お供え物」の台には朴大統領を非難する左派系労組のチラシがはられるなど、事態は政治問題化しつつあり、「遺族らの悲しみを政治的扇動と特定目的の達成に利用しようとする勢力に警戒する必要がある」(中央日報)との懸念も出ている。