福田淳氏(左)と赤田祐一氏(右)
もう出版社は「終わった」のか?出版不況の根本理由から、クールジャパン戦略を探る
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140509-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 5月9日(金)3時0分配信
経済産業省は、「クールジャパン」(アニメやゲーム、ファッションなどの日本文化)の世界市場を拡大し、2020年の海外売上高を最大17兆円と、10年の約4倍に増やす目標を掲げ、300億円を投資してクールジャパン機構を設立するなど、政府主導でプロジェクトを推進している。
今回は、『磯野家の謎』(東京サザエさん学会/彩図社)、『バトル・ロワイアル』(高見広春/太田出版)などを手がけた編集者・赤田祐一氏と、スマートフォン向けコンテンツを提供するソニー・デジタルエンタテインメント社長・福田淳氏の2人に、クールジャパン戦略の一環として、不況にあえぐ日本の出版業界とウェブメディアの低迷打開策について語ってもらった。
福田淳氏(以下、福田) 赤田さんは長く編集者をされていますが、本の企画をするときは、何か世相みたいなものを考えられますか?
赤田祐一氏(以下、赤田) 流行しているから、とかはあまり考えないです。流行しているものは、もちろん目にしますから、チェックぐらいは日常的にしていますが、ヒットを狙うと大体失敗します。
福田 でも、常にオリジナルでヒットを飛ばすのは難しいですよね。最近は特に、ウェブと出版の間に歴然とある差は縮まらないものだと日々実感します。例えば、インタビューを受けた時、編集や構成、まとめ方にウェブと出版では格段に差があると感じます。ウェブを商売にしている私が言うのも気が引けますが、ウェブ媒体では、文章を構成したり編集したりする人はいないのだろうか、と思うことがあります。ウェブで垣根が低くなって素人が参加できるようになった分、粗製乱造になっているように思います。
赤田 良くも悪くも、それはありますね。
福田 ちなみに、赤田さんはウェブにはあまりご関心はないのでしょうか?
赤田 毎日使っているものですから、ないとは言い切れません。
福田 例えば、ウェブで何かを表現したりライフスタイルを提案する特集を企画したり、ウェブマガジンを発行するつもりはないですか?
赤田 頭がやっぱり紙ベースですからね。それに、エンジニアリングとかはできないので、得意なことをやったほうがいいと思っています。
●ウェブメディアには編集者がいない?
福田 絶対的にウェブの世界は編集、構成機能が欠けていると思っているので、ぜひ、赤田さんのようなベテランの方に参入してほしいと思います。今、電子書籍のコミックで弊社が業界ナンバーワンである理由を考えると、答えは編集や構成ができる出版あがりのスタッフがいることだと思います。ウェブしか知らない人は、どうやったら読みやすいかを考えたり、スマートフォンに最適化したページづくりをしようとしていないです。このあたりに電子書籍があまり伸びない要因があるのではないかと私は考えています。
赤田 なるほど。
福田 逆に、出版に携わってきた人がいきなりウェブの世界に参入してきても失敗しがちです。「電子書籍マーケットが伸びているから、iPadで雑誌をつくりました」などと電子書籍を出しても、ほとんど売れていません。多くの予算をかけてデザインしていますが、Kindle向けのオリジナル本にしても、端末の普及台数や読者の読書スタイルなど、利用する人たちの研究をせずに、雑誌の世界をそのまま翻訳して持ってきて失敗しているのです。
赤田 実は、電子書籍は1冊も買ったことがありません。
福田 まったく興味ありませんか?
赤田 いや、ほかに読む本がいっぱいあるんです。ストックしている本があるから、つい後回しになってしまうのが正直なところです。
福田 しかし、仕事のPRやマーケティングで利用したり、研究されたりはしないんですか?
赤田 ウェブに対する考え方と同じですけど、しかるべき人が頑張って頭使ってやればいいと思います。利用しようというのも、今のところはないです。私は、私の仕事である本をしっかりとつくって売って、とりあえずそれなりにお金をもらえればいいやという程度に考えています。
福田 少し前に携帯小説ブームがあった時、携帯文学賞をつくりました。これからは電子の時代で、ここから芥川賞作家が出るかもしれないから、見張っておこうと考えたのです。実際、はやりましたが、みんな高校生が書く半自伝みたいなもので、がんで死ぬか、交通事故で死ぬストーリーばかりでした。
赤田 『恋空』(美嘉/スターツ出版)と同じですね。
福田 しかし結局、本格派は出てきませんでした。それも編集者の不在が原因だったように思います。本格派を出すようなメディアに、ウェブがまだなりきれてないのです。それこそ、赤田さんみたいな本物の編集者がウェブのメディアにいないからだと思います。
赤田 いや、それは言い過ぎじゃないですか?
●出版社は効率化を追い求めすぎ?
福田 日本のコンテンツ力を発揮するために、ウェブの世界の問題もいろいろありますけど、出版の世界の問題点はなんでしょうか?
「ネット時代における出版社のあるべき姿」というと、凡庸な質問ですけど、何が足りないから出版不況になるのでしょうか? ある程度の大きさのマーケットはあるわけで、本が売れる環境はまだあると思います。
赤田 それこそ、世代交代で人が入れ替わったことが大きな要因ではないでしょうか。
福田 編集者とクリエイターの関係も変質しています。例えば、漫画家の赤塚不二夫の編集者は、ネタ出しと称して出版社よりもフジオ・プロに毎日通っていたといわれています。言ってみれば、マーベルコミック型の集団制作体制にあったわけです。今や、そんな関係はないですね。
赤田 はっきり言って、大手出版社はもう終わっています。オートメーションで漫画ができたら世話ないって思いますけど、秀才ばっかり採りすぎて、効率化ばかり追い求めているのではないでしょうか。
福田 無謀な話ですけど、世界で認められている日本を代表するアーティストたちに、今一番描きたいものを描いてもらうという企画も面白いのではないでしょうか。
赤田 危険な賭けのような気もしますね。
福田 危険は百も承知ですが、絶対に話題になるし、クールジャパンと呼ばれている世界も、そういう方たちがつくった、半世紀以上も人を魅了し続ける作品があるからです。たかが漫画、されど漫画。もうほとんど美術品と同じくらいの価値があると思います。
赤田 そういう過去も未来も含めて、クールジャパンですよね。
福田 なんだかキレイにまとまりましたね。面白いコンテンツの話がいっぱいできて楽しかったです。ありがとうございました。
編集部