http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140429/dms1404291140001-n1.htm
2014.04.29
昨年11月の本コラムで、自民、公明、民主の3党が提出した「タクシー減車法」について、「まれに見る規制緩和の逆行だ」と批判した。今回、その「悪法」がさらに“進化”し、役所による「おバカ規制」の典型例になった。
昨年の「悪法」では、料金レンジを高いまま固定化する価格規制を強化すると同時に、参入規制を強化した。もちろん、経済学の初歩といえる正解は、参入規制を緩和したたままで、高い料金レンジの価格規制を緩和・自由化することだ。
昨年の段階で完全に間違った価格・参入規制強化を行ったわけだが、今回、そのミスをさらに上塗りするかのような価格規制を実施した。国土交通省が一部業者の料金を引き上げるように勧告したのだ。もし勧告に従わなければ、運賃の変更命令や営業停止処分もできるというのが、「悪法」の現状だ。
全国2200社のタクシー業者のうち32社が、国交省が設定した料金レンジの下限を下回っているという。国交省はこのうち27社に料金の引き上げを勧告した。料金レンジの下限を下回っている業者は、消費者にとって望ましいが、国交省にとっては目障りだ。さらにいえば、高い料金をむさぼっている多くのタクシー業者にとって、排除したい存在だろう。
自由経済市場なら、1〜2%の業者が、変わった価格設定をするのは何でもないことだ。たった32社が、消費者に望ましい価格設定をしたからといって、勧告まで行うのは、国家権力の乱用だろう。
勧告の理由もお粗末だ。運転手の待遇改善というのだが、業界全体ではなく少数の特定業者に対して、国がその経営に口を挟むべきでない。国による少数業者への「いじめ」でしかない。
何より、昨年のタクシー減車法が、経済原理無視の「悪法」なのだから、悪法も法なりといえども、自由経済を標榜(ひょうぼう)する日本としては常識を外している。
筆者は、かつて公正取引委員会事務局に勤務していたことがあり、自由経済の基本原理に反するもの(特に価格規制)については、旧運輸、旧通産、旧大蔵の各省にきついことを言った。だが、昨年以降、公取がこの件で国交省に意見をしたという形跡は外部からは見られない。
公取はかつてタクシー業界に対し、料金認可制があるといっても、料金が一律なのは「料金認可カルテル」にあたり、大きな問題がある、と指摘したこともあったのだが。
世界では、過当競争を理由とする価格規制などまずありえず、競争政策が主流になっている。日本のタクシー業界の規制強化をみたら、いくら安倍晋三首相がダボス会議で、「岩盤規制にドリルで切り込む」と言っても笑われてしまうだろう。
世界の主要都市では、タクシーの台数規制はあるが、その料金は低いことが大前提だ。海外旅行をすればわかるが、日本のタクシーの料金の高さは世界でトップクラスだ。このままでは、国交省のいう観光産業支援にも支障が出るだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)