まず、「ほけんの窓口」創業者絡みの消費税法違反事件について説明したい。
今年6月下旬、「ほけんの窓口」グループの創業者(以下創業者と表記)に消費税の節税手法を教えたとされる人物Aが、消費税法違反容疑で逮捕された。
その構図を簡単に説明すると、創業者の資産管理会社が、マンション購入時に転嫁されたと計算できる消費税を実際に控除するため人物Aに物品を販売した行為が架空売上とされ、なぜか指南役の人物Aのほうが逮捕されるに至った事件である。
創業者の資産管理会社が、購入したマンションを住宅として貸し出す事業のみ行っているのなら、住宅賃貸取引は非課税だから、稼いだ付加価値に消費税は課されない。その代わり、物件の購入や修理維持費の支払いで相手から転嫁されと税務署も認定する「仕入に係わる消費税」は控除できない。
非課税取引は、稼いだ付加価値に消費税が課されない代わり、仕入にかかわる消費税を控除することもできないかたちになっている。
マンションの敷地に関しては消費税が課されないが、建物だけでもけっこうな額の消費税を転嫁されているとみることができる。
売った業者の実際の消費税納入額はともかく、建物代金が5億円であれば、買った課税事業者は2380万円の消費税を転嫁されたと主張できる。そして、個人ではなく事業者であれば、その多くがなんらかの対策で購入にかかわる消費税額を実際に控除しているはずである。
創業者の資産管理会社が課税取引を行っていなければ、マンション購入で認定してもらえる「仕入に係わる消費税」2380万円を控除することができない。
創業者や人物Aが、似た取引である輸出であれば2380万円を控除できるのになぜ?と“不公平感”を覚え、犯罪にならない範囲でなんとかしたいと思っても不思議ではない。
人物Aと相談したら、何か課税取引をすればマンションの購入で支払った消費税転嫁分を還付してもらうことができると教えてくれた。
それで、人物Aに資産管理会社が所有する自動車を売り、その自動車の売上げにかかわる消費税からマンション購入にかかわる消費税を控除することで、消費税の還付を受けた。
ただし、還付を受けた消費税(事件では2500万円)は、税引き前利益を増加させる要因だから法人税の課税ベース増加につながる。40%の法人諸税がかかるとしても、2500万円×60%の1500万円は“得”になる。
このような処理が、国税庁の“逆鱗に触れ”、自動車の販売を“架空売り上げ”と認定し、消費税の不正還付を受けた疑いで逮捕に至ったと推測できる。
この事件のその後の経緯を知らないが、自動車の販売で所有権移転や代金支払いが伴っていなければ“架空”だが、取引に実体があれば、その取引がたとえ消費税の還付を受けるためだけのものであっても“架空”ではない。
断定はしないが、「ほけんの窓口」グループの創業者が絡む消費税法違反事件は、消費税増税を控え、合法であっても小細工で消費税の還付を受けようとする人たちへの見せしめではないかと疑っている。
「売上にかかわる消費税額」が1円でも発生すれば、2800万円であっても「仕入に係わる消費税額」を控除でき、その値がマイナスであれば還付も受けることができるという実態が見えることがいやなのである。
“架空売上”を理由にした逮捕だから、売上が架空でなければ、消費税還付は正当かつ合法なのである。
ちょこっと課税売上を計上することで数千万円の利益が得られるのなら、それをやらない方がおかしいと言えるだろう。
財務省官僚に言わせれば、消費税還付制度は一国の経済を支える輸出を支援するためのものであって、利殖活動のためにあるわけではないということだろう。
消費税制度については、輸出免税に伴う消費税還付制度をもっともらしく思わせようとする見苦しい仕組みが消費税制度を歪んだ奇妙なものにしている。輸出免税に伴う消費税還付という国家詐欺的な付加価値の強制移転こそが、消費税の元凶である。
(それにしても、輸出免税を擁護する人が、「ほけんの窓口」創業者絡みの消費税法違反事件についてその“冤罪可能性”を語らないのは不思議だ)
他の話が長くなったが、成田山新勝寺の法人税申告漏れの話も似ていておもしろい。
こっちの構図を簡単に説明すると、非課税である宗教活動で発生した経費を収益事業の経費にすることで、手元に残る利益を最大化しようとしたものと言える。
経費を控除できない非課税の宗教活動で発生した経費をそのまま計上し、課税を免れない収益事業の売上と経費をきちんと申告すれば、納付すべき法人税は大きく膨らむ。
また、経費にかかわる消費税も、非課税の宗教活動のものとして計上すれば控除できないが、収益(課税)事業に関するものとして計上すれば控除することができる。
記事では消費税について触れられていないが、構図から考えれば、消費税も“節税”していたはずである。
非課税部分の経費を課税部分の経費にすることで税金を少なくするやり方という意味で、「成田山新勝寺の法人税申告漏れ」と「「ほけんの窓口」創業者絡みの消費税法違反事件」は似た構図と言える。
私の判断でしかないが、「成田山新勝寺の法人税申告漏れ」と「「ほけんの窓口」創業者絡みの消費税法違反事件」の税法的観点での悪質度比較をすると、「ほけんの窓口」創業者絡みの消費税法違反が冤罪(架空売上ではない)という前提なら、経費処理を歪めた成田山新勝寺のほうがより悪質だと思う。
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成田山新勝寺、1億円申告漏れ 東京国税局指摘
成田山新勝寺(千葉県成田市)が東京国税局の税務調査を受け、2011年3月期までの5年間で約1億円の申告漏れを指摘されたことが分かった。税金のかからない宗教活動で提供した精進料理の材料費などを、収益事業の経費に計上していた。過少申告加算税を含む追徴税額は約2100万円で、すでに修正申告し、納税したという。
関係者などによると、新勝寺は収益事業として、希望する参拝者に精進料理を1人前1千円で提供し、同じ精進料理を宗教活動の特別大護摩の法要(3万円以上)を受けた参拝者には無料で提供している。精進料理を作るための材料費や人件費は、宗教活動分も含めて収益事業の経費として計上したため、課税対象所得が過少になっていた。
宗教法人は法人税法上の優遇措置があり、物品販売や料理店業などの収益事業は課税対象だが、お布施などの宗教活動は非収益事業として収入に税金がかからない。
新勝寺は「見解の相違はあったが、国税局の指摘に従った」とコメントしている。
[日経新聞10月4日朝刊P.43]