経済政策における波及経路
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/52513530.html
2013年09月27日 在野のアナリスト
昨日もとり上げた、安倍首相のNY証取での講演は、米主要紙ではベタ記事1行にもなりませんでした。日本では「Buy my Abenomics」が大々的に報じられましたが、これが米国の現実です。今日のNYの会見でも、日本人記者は内政、海外の記者は外交、と別けた可能性はあるにしても、海外記者の「イランとの関係は?」「中国と戦争するのか?」など、おざなりな質問に終始したのは、安倍政権への関心はその程度、ということです。もし日本への期待が高まっている状況なら、NY証取での講演も、会見でももっとつっこんだ質問をしてくるはずなのでしょう。
確定情報ではありませんが、海外勢は安倍氏が消費税増税を決めた時点で、日本への期待が剥落している、という話もあります。当然、7兆円近くを民間から吸い上げてしまうので、消費に期待できなくなります。金融緩和をした当事国の内需が崩れるのですから、企業業績も来期は期待できません。円安効果も今の水準のままなら来期は剥落しますから、株は買えない。法人税減税の効果も、波及経路が曖昧であり、安倍氏の語ることには今ひとつ信用がおけない、といったところです。
さらに来年度の後半には、日銀の異次元緩和からの出口戦略も問題になってきます。2年の時限措置を延長するのか? その場合、日銀のバランスシートはどれぐらいまで拡大するのか? 消費税増税を断行せずとも、来年後半は金融緩和の効果が切れるので、かなり厳しいと予想できる。増税が決まった方が海外勢は好感する、という見方もありますが、短期スジが多い今の相場でそれはありません。
つまり増税決定は、長期の財政健全化への一歩であり、今の相場は短期の景気、材料に敏感なのです。増税決定で、来期の内需に期待できなければ、売りです。今期の業績改善は織り込んでいる。来期、それが期待できそうもないので「Buy my Abenomics」にも反応薄、ということです。
FRBも賃金上昇が一向に表れず、逆にコアインフレは低下傾向となり、QE3の波及経路に疑問を抱いています。それなのに安倍氏は、最初は「金融緩和で賃金が上がる」、次は「法人税減税で賃金が上がる」と述べます。一つめは米国の実験例でも否定され、二つめも国際競争、という立場から否定される。TPPでさらに国際的な競争にさらされる中、米国でさえ上がっていない賃金を、日本だけ上げる、という判断を企業がするはずがありません。講演では米国型の経済をめざす、と堂々と述べていたので尚更です。米国でおきていないことが日本でおきる、とは誰も信じてくれません。
経済は必ず、一つの事柄がどう波及していくか? その波及経路について考えねばいけません。安倍氏の語る波及経路に疑いがあるのに、記者会見や講演でも答えてくれない。だから無視されます。金融緩和でインフレ、という説明にも今や懐疑的な見方が多い。それは賃金上昇、という根本が崩れているためであり、米国など所定内給与は横ばいにも関わらず、コアインフレが1%を越えているため、持続不可能となっており、だからインフレ率が低下してきているのです。金融緩和で一瞬はインフレにできても、それに慣れると、緩和を終了する時にはデフレ傾向が顕在化してくる。そうした経路でさえ、安倍氏は上手く答えられないでしょう。欧米ではスルーされる安倍氏、それは最近の「By-pass Abenomics」の表れであり、経路の説明に失敗する限り、その傾向は続いてしまうのでしょうね。