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http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/6828099.html
(書評)桜井淳 (著) 『原子力発電は安全ですか? (シリーズ人と仕事) 』(論創社・2012年)
http://www.amazon.co.jp/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E3%81%AF%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B-%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E4%BA%BA%E3%81%A8%E4%BB%95%E4%BA%8B-%E6%A1%9C%E4%BA%95-%E6%B7%B3/dp/4846011224/ref=cm_cr-mr-title
5つ星のうち 5.0 原発に対する意見を決めかねて居る人にお薦めの入門書
2013/9/23
By 西岡昌紀
原子力発電について、どう考えていいのか迷って居る方たちにこの本をお薦めする。対話形式で書かれた非常に分かり易い入門書である。初心者の質問に答える形で、原発の仕組みや問題点ををその初歩の初歩から解説したコンパクトな本であり、しかも、語り手の説明は、原発推進派の立場でもなく、反原発派とも違ふ非常に中立的な物である点が、貴重である。例えば、こんな解説が有る。
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桜井「軽水炉の根源的な危険性はどこにあるかというと、経済性を上げるために非常にコンパクトにしすぎたことが一つ。さらには炉心の出力密度を高くしたために、結局、崩壊熱も多くなったことです。そのため運転中にしろ、停止中にしろ、この発熱と冷却のバランスがちょっとでも狂うと、燃料が一気に破損したり、溶融したり、もっと進めばメルトダウンになってしまう可能性が高いということですね。そういうことで、軽水炉のことを綱渡り技術とかですね、いろいろそういうふうな揶揄するような言い方をするわけです。はっきり言って、軽水炉の場合、すべての安全系が正常に機能して適切な処置をしないと、実は最も早い場合は数十分、遅くとも二、三時間でメルトダウンになるくらいのきわどい技術なんです。」
(本書52ページより)
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非常に分かり易い解説だと思ふが、いかがだろうか。語り手の桜井淳氏は、1946年群馬生まれ。1971年東京理科大学大学院理学研究科を修了した原子力発電の専門家である。氏は、日本原子力研究開発機構研究員(1976年7月〜84年6月。原子炉物理学および核燃料サイクル施設安全解析)、原子力安全解析所副主任解析員(1984年7月〜88年3月。原子力発電所の安全解析)、日本原子力産業会議非常勤嘱託(1988年7月〜89年6月。日本の技術力調査)を歴任した原子炉安全工学のエキスパートである。桜井氏のこの経歴が示す通り、氏は、永年にわたって原子力発電を安全に行なふ為の研究に従事して来たが、1980年代後半から技術評論家として、自由な立場から原子力発電についての執筆活動を続けて居る。
桜井氏は当初、保守系月刊誌『諸君!』や『知識』で、反原発派の広瀬隆氏等を批判する立場で論壇に登場したので、「原発推進派」と見なされる事も有るが、氏の立場はその様な単純な物ではない。氏は、例えば、次の様に警告する。
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桜井「加圧水型にしても、沸騰水型にしても、軽水炉の最大の特徴は使い慣れた水を使っていることです。濃縮ウランを使うことによって、非常にコンパクトで高性能、いわゆる商業炉としての経済性を徹底的に追究するようなかたちに仕上げることができたんですね。しかし、性能がいい半面、運転中であろうが、停止中であろうが、発熱と冷却のバランスが崩れると、いっきに炉心溶融に結びつく。だから、高い信頼性を持つ安全系を備え人間が注意深く運転管理し続けなければならないわけです。しかもなおかつ、事故時にはすべての安全系が正常に働けばうまく収束できるけれども、そうでなかったら大事故に陥るという・・・」
−−高いリスクがあるということでしたね。
桜井「そういうことです。(後略)」
(本書126〜127ページ)
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こうした言葉が示す様に、桜井氏は原発に関して、単純に「推進派」とか「反原発派」とか言った言葉で分類される立場の論者ではない。そして、時には、福島第一原発事故後に経験したこんな逸話を語ったりもする。
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桜井「私は、これまで話してきたような意味で、原研とか、東大の研究者というのは、はっきり言って、もう今後は大きなことは言えないなと思います。彼らは、ある意味では日本の原子力技術の土台を築いてきた人間であって、今日の原子力発電所の管理や安全文化、あるいは安全審査、安全制度など、すべてに渡って非常に大きな影響力と決定権を持ってきたわけです。なのにこういう大きな事故が起こったわけです。
あの地震の後、福島県議会で講演したことがありました。私が軽水炉に対して重大な疑義を投げかけるような発言をしたんです。そのとき会場から自民党のいちばん右側に位置するような方が『それは問題発言ですよ。東大の先生はそういうことを言っていませんでした』と反論されたんですね。『臨界事故が起こったあとは、その東大の先生はそういうことを言っていないでしょう』と言ったら黙りました。(後略)」
(本書144〜145ページ)
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こうした裏話を読むだけでも興味を与えられる本である。原発に対する自分の意見を決めかねて居る人は、この本を読んで、客観的な基礎知識を身につけ、その上で、原発を支持するなり、反対するなりすると良いと思ふ。
(西岡昌紀・内科医)
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