半沢直樹はどこにいるのか?上場企業アンケートで判明! 銀行マンの著しいレベル低下
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2013年9月17日 週刊ダイヤモンド編集部
■銀行の存在感は低下していく一方 いったい何が起こっているのか?
「半沢直樹はどこにいるのか? いませんよ。銀行さんは最低限の仕事をこなしてくれさえすればいいです」──。
ある大手製造業の財務担当者は淡々と言った。
テレビドラマ『半沢直樹』が日本中を席巻している。その舞台となっているメガバンクもまた、近年ないほどに世間の注目を浴びている。しかし、その注目度の高まりとは裏腹に、この財務担当者は、「銀行の存在感はこの10年で低下していく一方です」と話す。
いったい銀行に何が起こっているのか。『週刊ダイヤモンド』は今回、リスクを取って融資をする半沢直樹のように頼れる銀行はどこなのか、金融業を除く上場企業3359社を対象にアンケート調査を行い、362社から回答を得たところ、冒頭の証言を裏づける回答が多数寄せられている。
具体的には、「近視眼的な提案ばかりではなく、少し先を見据えた提案もしてほしい」(製造業)、「数字だけの評価が多く、製品や技術のよさがわかる銀行員が少ない」(製造業)、「銀行は、『産業を育てる』という責任感を持ってほしい」(卸売業)と厳しい意見が少なくない。
中には、「法人営業担当のミスが多く、上場企業との取引に求められるレベルを理解できていない」(流通)という苦情まで寄せられるありさまだ。
どうしてそうなってしまったのか。三菱東京UFJ銀行の上席調査役は、「内部管理の仕事が悲劇的に増えている」ことを理由に挙げた。行内でのデスクワークに忙殺され、対顧客にかける時間は10年前の3分の1程度に減ったという。
「1日に回れる取引先は2件くらい。昔は多い日なら7件は回っていたけどね」。上席調査役はこう投げやりに語るが、内部管理にきゅうきゅうとして、本業がおろそかになっては主客転倒だ。
銀行員として致命的ともいえる指摘もある。「メインバンクとしての意識が低下している」(サービス)というのだ。 かつて企業の主要取引銀行であるメインバンクといえば、常日頃からその企業に出入りし、財務状況もしっかりと把握していた。その企業がひとたび経営危機に陥れば、即座に金融支援に乗り出して再建に尽力する。そんな存在だったはずだ。
実際、銀行融資による間接金融が主流だった1980年代前半まではこのシステムが機能したとされる。
しかし、社債などを発行して市場から資金調達する直接金融が台頭した80年代後半以降、企業の銀行離れが始まり、メインバンクとしての機能は徐々に低下。さらに90年代後半からの銀行危機と不良債権問題で、銀行のリスク負担能力と情報収集能力が著しく落ち、機能不全に陥ったとされる。
これは銀行員も理解し、自戒しているようで、金融業界経験者を対象にしたアンケートでは、「メインバンクの能力が低下した」と回答する割合が6割に上った。
一方、上場企業アンケートでは、遠慮もあってか、「メインバンクの能力が低下した」と回答したのは2割にとどまった。しかし、その2割の中身は深刻だ。一部の取引先には、「メインバンクといえども、自行に何らかのメリットのある提案しかしないわけで、メインバンクに頼らなくてもよい企業体力を持つことが肝要」(小売業)と、諦めにも似た雰囲気すら漂っている。
こうして企業が“自立”を進めれば進めるほど、銀行との距離は離れていく。国内の大手企業と取引するみずほ銀行の法人担当者は、「そこそこの業績を挙げている企業なら、銀行に対する情報開示は圧倒的に少なくなっているし、銀行は企業に出入りする業者の1つにすぎなくなった」と打ち明ける。
■付き合いたくない銀行 ワースト1位はアクの強い三井住友
次にアンケートの個別評価を見ていこう。「付き合いたい銀行」として、トップに立ったのは、103社から支持を得た三菱東京UFJ銀行だ。 「国内最大規模の銀行で、安定した融資力や、多岐にわたるニーズへの対応力がある」(不動産)、「これから事業をグローバルに展開、強化していく上で、海外全般にネットワークがある」(製造業)と、国内トップバンクとしての安定感、そして、充実した海外網が評価された格好だ。票数でも他行を圧倒した。
みずほ銀行が66社で続いた。 「昔に比べて対応が軟化した。目先の小さな利益は追わず、ある程度のリスクを取り、大胆に行動するようになった」(製造業)など、最近の変化を前向きに評価する声があった。
一方、「付き合いたくない銀行」のワースト1位に選ばれたのは、三井住友銀行だった。
「組織的な営業力は特筆すべきものがあるが、時に顧客のニーズからかけ離れた、銀行都合の営業活動をしてくる」(製造業)、「全般的に住友カラーが前面に出て、よきにつけあしきにつけ、銀行というよりは“商売”の感覚を強く感じる」(建設)などの意見が出た。
アクの強さが不評を買ったかたちだが、見方を変えれば評価できる点もある。
というのも、アンケートでは「ほとんどの銀行が融資に消極的で、教科書的な回答が多い。リスクを取らない銀行が非常に多い」(不動産)と、銀行の消極的な姿勢を問題視する意見が少なくなかったのだ。
銀行都合による押しつけでは困るが、その積極性には見どころもあるといえよう。
今、銀行界に横たわる最大の問題は、貸すのも貸さないのも銀行都合だと企業にみられているということだ。企業としっかりと向き合い、時に銀行のやり方に真っ向勝負を挑む半沢直樹のように、銀行自体が内向きなカルチャーから脱却できなければ、顧客から取引解消という手痛い倍返し≠食らうことになるだろう。
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■半沢直樹はどこにいる? 頼れる銀行、頼れない銀行
テレビドラマ『半沢直樹』の快進撃が止まりません。視聴率の上昇とともに、現実の銀行に対する関心もまた、急速に高まっています。「上司の失敗は部下の責任」「銀行員は人事がすべて」「失敗すれば片道切符の出向」――。銀行とは本当にドラマのような厳しい世界なのか、『週刊ダイヤモンド』9月21日号では、銀行員の知られざる世界に踏み込みました。
バブル崩壊後、経営危機に陥った銀行は、その後再編を繰り返し、現在の3メガバンクグループに集約されました。最近は業績も復活し、昨年度は3メガだけで実に2兆8000億円もの実質業務純益(本業の利益)をたたき出しました。
また、かつてほどではないにしろ、銀行員が高給であることは変わりません。3メガの場合、順調に出世すれば30代前半で1000万円の大台を突破します。当然、学生からの人気は高く、最新の就職人気ランキングで3メガはいずれもトップ10入りしています。このように数字だけを見てみれば、銀行はまさに勝ち組業界のように思えます。
■ドラマ以上にエキサイティングな銀行の裏側を知ることができる!
しかし、そこに身を置く銀行員の人生は決して楽ではありません。メガバンクのある40代行員が、銀行員として生きることの大変さを明かしてくれました。
「銀行という世界は徹底した減点主義で、ミスは許されないし、敗者復活戦もありません。一度でも失敗すれば、生涯はい上がることができない仕組みになっているんです。しかも、大量の同期との間で繰り広げられるトーナメント戦で、役員まで出世できなければ、たとえドラマのように大きなミスがなくても、50歳を過ぎると、容赦なく銀行を追い出されます」
特集では、銀行員の出世レースをめぐるドラマをはじめ、銀行業界でいち早く始まる半沢たちバブル世代の定年退職問題、また3メガの頭取人事の最新事情にも切り込みました。さらに、激変するメガバンクの収益構造や、待ったなしの地方銀行の再編問題についても、銀行担当記者が徹底取材しています。
この特集を読めば、ドラマ以上にエキサイティングな銀行の裏側を知ることができるはずです。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 山口圭介)