不動産会社といわれていたTBSが久々にドラマで大ヒット。とはいえ、半沢直樹に出てくる銀行マンのキャラは…
東京五輪開催で、失われた20年に倍返しだ! 後ろ向きだった、日本人のマインドが変わる兆し
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2013年09月16日 草食投資隊:渋澤健、中野晴啓、藤野英人 :東洋経済
「倍返しだ!」というセリフが今年の流行語大賞候補と言われているドラマ「半沢直樹」。これを見て、理不尽な上司に対して溜飲を下げている金融関係者も多いはず。はたして、「草食投資隊」の3人は、このドラマをどう評価するのでしょうか。もちろん、見てますよね? ね?
■半沢直樹に出てくる、バンカーの意識の低さ
中野 ということで、東京五輪の話題にもふれつつ、最終回(22日)が近づいてきたこともあり、金融の専門家である投資隊として「半沢直樹について語って」ということなのですが――。
藤野 見てない……。
渋澤 私も。
中野 ……。
渋澤 昨日ね、ある会食の場で私、「いじられキャラ」にされてしまって、そのとき「渋澤さん、半沢直樹に出演して、連中を締めてきてください」って言われたんだよ。
中野 はぁ〜? どういう意味ですか?
渋澤 番組を見ていないので、意味不明だったのですが、たぶん、あそこに出ている銀行の連中を締めてこいということなのかなァ。
中野 確かに、あの番組に出てくるバンカーは皆、金融の社会的な使命に対する意識が、ごっそり抜け落ちている連中ばかりですからね。日本で最初の銀行を創設した渋澤栄一翁の血を引く渋澤さんなら、喝を入れる資格があるのかもしれませんね(笑)。
渋澤 でもね、銀行って組織は既存のレールから絶対といってもいいほど外れないし、そのようなトップに居座っている限り、新しいことにチャレンジしよう、あるいは組織を抜本的に変革しようという機運は、まず出てこないよね。
藤野 世の中は今、大きく変わろうとしているのにね。
中野 ん?
藤野 オリンピックですよ。
渋澤 確かに、マインドは大きく変わるかもしれない。
中野 ちょ、ちょっと。今日のテーマは半沢……。
■五輪決定で、日本人の意識が変わろうとしている
渋澤 私事で恐縮なんだけど、僕の妻はオリンピック開催に反対だったのね。招致活動だけでも税金をたくさん使って、開催することになったら東京に人がたくさん来て渋滞もするだろうし、何もいいことなんかない、なんて言ってたの。
で、僕、ミャンマーに出張に行っていて、帰りの飛行機の中で東京に決まったというニュースを聞いて、成田空港から自宅へ帰る途中に「ただいま、(東京に)決まったね」というテキストメールを送ったら、妻から「うん、やっぱりワクワクするわね(^-^)若い子たちの内向き志向が変わる、いいきっかけにもなるんじゃないかしら」という返信がきた(笑)。「アンチだと思っていた!」って聞いたら、「そうそう、変わったの!」って言うんだよ。
藤野 ほら〜。オリンピックは日本人のマインドを大きく変えるんですよ。
渋澤 オリンピックの開催は7年後でしょ。ということは、今の小学校高学年、中学生の子供たちは20歳になる。子供たちに前向きな、明るい未来を見せられるかもしれない。いいことだよね。
藤野 昨日、ある経営者の方と話をしていたのですが、7年後というのが絶妙だと言うんですよ。これが3年後だったら、あまりにも期間が短すぎて、準備も突貫工事になる。かといって10年後だと、少し遠い未来に感じて人ごとになってしまうおそれがある。その点、7年後というのは手が届く未来だと。今思えば、確かに7年前って、そんなに遠い過去じゃないですよね。
■五輪決定で閉塞感が消える?
中野 2006年か。経済の世界だと「デカップリング」なんて言葉がはやっていた時期ですね。今はもう死語だけど。
藤野 そう。リーマンショック前で、景気も少しよくなっていて、ライブドア事件と村上ファンド事件があった。
渋澤 つい最近のことのように感じるね。
藤野 でしょ。でも、ライブドア事件を例に挙げれば、あれから裁判が行われ、有罪確定したホリエモンは、もう刑務所から出てきている。ほかにもリーマンショックがあり、欧州債務危機があり、米国経済も日本経済も、そこからようやく立ち直りつつある。実際に時が流れてみれば、過去の出来事はちょっと甘酸っぱい想い出(笑)。
中野 そう考えると、7年という時間軸は長すぎず、短すぎずで、ちょうどいいのかもしれませんね。7年という時間があれば、羽田空港にもう1本、新しい滑走路が造れる。成田から東京まで地下鉄も通せる。リニアモーターカーの部分開通だってあるかもしれない。ちょっとワクワク感が高まってきていますよね、久しぶりに。時間軸という点で言えば、いわゆる「失われた20年」の間に、数字以上に人々のマインドが大きく低下したわけですが、7年後の東京オリンピック開催という大きな目標ができたことで、閉塞感も一気になくなるかもしれません。
藤野 いや、本当に今回こそ、ひょっとして、ひょっとするかもしれませんよ。アベノミクスにしたって、やれ成長戦略だ、規制緩和だと言っても、明確な目標が見えてこなかった。ベンチャーを育成すると言っても、「私はベンチャー起業家じゃないから関係ないよ」ってムードが広まりかけていましたよね。どことなく白けていた。それが、明確に7年後という期間が定められたことで、2020年に僕らは何歳で、何をしているんだろうと、具体性を持って未来を考えられるようになった。誰もが、そのときに社会が下り坂であってほしいとは思わないわけで、それが世の中を大きく変える原動力になると思います。
渋澤 アベノミクスには共感できる具体的な夢がなかった。
藤野 オリンピックの開催で、世界中から大勢の人がやってくる。ボランティアでオリンピックを手伝いたいと思う人も出てくるでしょう。外国人とコミュニケーションを取るために、英語や中国語を習おうという機運も高まってくる。今まで下を向いて歩いていた人たちが、自分たちから何かアクションを起こしてみようという気持ちになったら、本当に世の中、大きく変わりますよ。
■未来が見えてきた
渋澤 2020年って「トゥエンティ・トゥエンティ」じゃないですか。トゥエンティ・トゥエンティって言葉は、米国だと正常視力という意味で、20フィート先まで良く見えるということなんだよ。偶然とはいえども、未来が見えるという意味で、この言葉はなかなかぴったりじゃないかな。
中野 ただ、マイナス面も考えておく必要はありますよね。これで公共工事は正当化されますから、下手をすると歯止めが利かなくなるおそれがあります。
渋澤 そこは大事だよね。財政赤字のGDP比300%も見えてくるかもしれない……。消費税を予定どおりに上げたから、オリンピック特需という理由で、補正予算をガンガン組んでくるのは、十分に考えられる。
藤野 一部の政治家は、公共事業ができるということで、目がキラキラしているという話もあるくらいですからね〜。
中野 でも、考え方によってはプラスの面もありますよ。東京オリンピックだから、公共工事は東京に集中するじゃないですか。これまで公共事業の最大の問題点は、国土均等の発想が根底にあるので、結局、必要のないところに橋を架けたり、トンネルを掘ったりするわけです。それらが後回しになる。東京の有効需要を拡大させると同時に、無用な公共事業を最小限に抑える効果が期待できます。
藤野 中には不公平だなどと、不満を漏らしている人たちもいるみたいですね。東京にばかり公共事業が行って、自分たちのところは何の恩恵もないということなのでしょうけれども、東京以外の自治体の中にも、これをチャンスと考えているところはいくつかあります。
だって、外国人が日本に大勢来るわけですから、地元の観光資源を有効活用して、オリンピックのついでに観光もしてもらうという流れは作り出せると思います。そういう意識を持った自治体は、おしなべて首長の年齢が若いという特徴があります。
渋澤 公共工事に関して言えば、セメントに使う砂利が不足しているからといって、原発事故で汚染された砂利などを使うことのないよう、絶対にチェックする必要がありますね。
藤野 汚染水に関しても、東京でのオリンピック開催が決まったからといって、世界が許してくれたわけではありません。むしろ7年後の開催年までに、原発問題をきちっと収束させるという国際公約が結ばれたのと同じですから、何が何でもこの問題は解決しなければならない。先送りはもう認められません。
■自分にオカネを使えば、自分に「倍返し」でもどってくる
中野 あと気になる経済効果ですが、金額ベースでは3兆円と言われています。でも、私はもっと大きな効果が得られると思います。何しろ、今までは内向きの時代でしたから、おカネは使わずに貯めるというのが主流でした。でも、これからは違う。貯めたおカネの流れが逆転するかもしれません。
そのうえ、株価や地価が上昇するでしょうから、その資産効果にも期待できる。おそらく3兆円どころか、百兆円規模の経済効果に膨れ上がってもおかしくないと思います。これは、やはり債権大国である日本のすごさではないでしょうか。
藤野 起業とは違うベンチャーマインドが高まっていく可能性もありますよ。さっき言った語学を学ぶという話もそうですが、何か新しいことを始めるという意味でのベンチャーマインドが高まってくれば、その経済効果も非常に大きくなるでしょう。趣味でもいいのです。何かにおカネを使う。それが、もっと大きくなって、自分のところに返ってくる。まさに倍返し?
中野 やっと半沢直樹に戻ってきてくださいましたか〜(笑)。