国費投入でも解決不可? 福島第一原発、汚染水問題のドロ沼
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130912-00000801-playboyz-soci
週プレNEWS 9月12日(木)10時10分配信
福島第一原発の敷地に置かれたタンクから、300tもの汚染水が漏れていると発表されたのは8月20日のこと。以降、東京電力によるずさんな汚染水管理の実態が次々と明らかになっている。
京都大学原子炉実験所の小出裕章(こいで・ひろあき)助教に、問題がどれほど深刻なのかを聞いた。
「まず、300tという数字自体にはまったく意味がありません。私は事故直後から恒常的に汚染水が漏れていると発言してきましたが、これまでに何千t、何万t単位で漏れていると思います」
小出氏によれば、漏れている汚染水はタンクにためられたものだけではないという。
「(2011年3月の)事故後の時点で10万tもの汚染水が福島第一原発の敷地に、例えば原子炉建屋の地下やタービン建屋の地下、トレンチ(配管などが通る地下トンネル)やピット(立て抗)などにたまりました。それらの構造物は地震で激しくダメージを受けているでしょうから、汚染水はそこからも流れ出ていると考えられます。それを2年半も放置してきたので、本当にどれだけの量が漏れたのかはわかりません」(小出氏)
ちなみに、今回の300tはどれほどのシロモノなのか。
「今回の300tについて言えば、1リットル当たり8000万ベクレルという高濃度のもの。それが300tですから、全部で24兆ベクレルになります。しかも、主に含まれている放射性物質はストロンチウム90という毒性の高いものと考えられます。ちなみに、第2次世界大戦時に広島で原子爆弾が爆発したときに大気中にばらまかれたストロンチウム90の量は数十兆ベクレル。今回漏れたストロンチウム90の量は、ほぼ広島原爆に相当するといっていいでしょう」(小出氏)
福島第一原発の敷地内には、今回汚染水が漏れたタンクと同型のタンク(容量1000t)が約350基ある。ストロンチウム90の総量でいえば、広島原爆の1000発以上分だ。ずさんな管理体制からすると、それらも今後漏れ出てしまうかもしれない。
そう考えると、当初の政府の対応はあまりにものんきに思えるが、ようやく五輪招致決定前のタイミングに間に合わせるかのように、安倍首相が国主導で汚染水対策をすると発表した。
その内容は、原発周辺への地下水の流入を食い止めるために、「凍土壁」という土を凍らせた壁を地下に巡らせるというものと、放射性物質除去装置「ALPS(アルプス)」を追加導入するというもので、対策には総額約470億円の国費が投入される。
この発表について、小出氏は怒りを露(あらわ)にする。
「安倍さんは『国が責任を持ってやる』と言っていますが、そもそも福島第一原発はかつての自民党政権が安全だと言ってお墨付きを与えた発電所。安倍さんに偉そうな態度で言ってほしくない。それに、いったい誰の金でやるのかと言えば、私たち国民の金です。ですから、まずはきちっと反省をして謝罪し、『国民のお金を使わせてください』と言うべきです」
その上で小出氏はこう指摘する。
「まず、凍土壁は長くはもちません。ずっと凍らせるわけですから、冷却系が故障したら壁は崩壊します。それからALPSもすでに設置されていますが、故障続きです。なぜかというと、福島第一原発の敷地内のあちこちが猛烈な被曝環境にあり、ALPSを安定的に動かすための作業もまともにできないからです」
一方、国主導の汚染水対策について、事故後に福島第一原発内で作業員として働いたジャーナリストの桐島瞬氏はこう話す。
「ひとつはっきりしているのはお金ですね。東電がやるギリギリの採算ラインよりはもう少し余裕が出てきます。しかし、一番の問題は人。つまり、作業員の数の問題なんです。政府はお金を入れたんだから、どんどん作業を進めろと言い、東電も動こうとする。
しかし、原発は多重下請け構造で、4次、5次、6次、7次請けの会社がどこから人を集めてくるのかという話になる。ピンハネされて、1万円ちょっとの日給でそんな危険な現場には誰も行きたがらない。仮に人が集まったとしても、技術がない人間ではいいモノができるわけがない。そうなると、設備も中途半端なつくりになり施工時の通水試験や気密試験をパスできたとしても、長くはもたないでしょう。『また壊れました』という話がどんどん出てくるのではないでしょうか」
もはやなす術なし……。今、国に求められるのは、さらなる予算を投じるのはもちろん、あらゆる英知を結集し、未曽有の事故に当たる姿勢なのだ。
(取材・文/頓所直人)