http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130826-00000404-playboyz-bus_all
週プレNEWS 8月26日(月)19時10分配信
アメリカと日本の農業は、“スーパーヘビー級”のボクサーと“モスキート級”のボクサーほどの力の差があるという。
『農業超大国アメリカの戦略』(新潮社)の著者、石井勇人氏が語る。
「アメリカの農業の強さをひと言で表すと、バランスのとれた総合力でしょう。まず、ミシシッピ川を中心とした大穀倉地帯を抱えていて、トウモロコシと大豆の圧倒的な生産力を持っています。
しかも国内消費に比べて生産量ははるかに大きい。つまり、『輸出余力』がものすごくある。これで国際市場を席巻するのです。そこで大きな役割を果たすのが、カーギルに代表される多国籍穀物商社の巨大でグローバルな物流システムの存在です。
加えて、アメリカにはトウモロコシ生産を基盤とする巨大な畜産業もあります。そのほか農業機械や農業関連の研究開発機関、大学など、これらの要素がバランスよく組み合わさって農業に圧倒的な総合力を与えているのです」
巨大な生産量とグローバルな物流システムを持ち、さらなる研究開発も国家主導で進めているとなれば、個人生産が主で“質”をウリにする日本の農業がまったく太刀打ちできないのは明白だ。
そして、この力をさらに強固なものにしたのが、あのテロ事件だという。
「物流システムという点では9・11の同時多発テロ以降、“食料安保”の観点から大きな変化が起こりました。仮に大規模なテロなどがあっても食料の流通がストップして大都市が干上がる状況が起きないよう、アメリカは流通経路を複線化したネットワークの確保が重要だと考えるようになったのです」(石井氏)
東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授いわく、「食料は、軍事、エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱で、最も安い武器」。アメリカはその重要性を、十分に認識している。
現在、日本も交渉参加しているTPP(環太平洋パートナーシップ)は、ある意味、その食料流通ネットワークの拡大版という側面もあると、石井氏は指摘する。
「アメリカはテロ攻撃などに備えて、物流システムの拠点を地球規模で作ろうとしているのです。そうすれば国内を狙われてボコボコにやられても、他国経由で食料調達に影響が出ないようにできる。
こういう戦略的なロジスティクスをアメリカはものすごく考えているのですが、日本にはこれがまったくない。日本とアメリカの対比でいうと、アメリカの強さは、こうした食料戦略にあるでしょうね」
現在の日本には必要なのは、国家的な食糧戦略の構築ではないだろうか。
(取材/川喜田 研)