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2013年8月26日 9時43分 久保田 博幸 | 金融アナリスト
日銀の黒田東彦総裁は20日、毎日新聞の単独インタビューに応じ、その内容が報じられた(毎日新聞8月20日電子版)。黒田氏が3月の総裁就任後、メディアの単独インタビューに応じるのは初めてだそうである。
まず、量的・質的金融緩和(異次元緩和)策について「円高是正や株価回復、消費・投資改善、物価上昇期待という三つの好転が起きていると説明した。
円高是正は2012年11月のアベノミクスの登場をきっかけに加速されたものであり、2013年4月4日の異次元緩和がきっかけではない。円安による株高も同様である。消費の改善については円安効果もあるが、欧米の景気回復、その背景にある欧州の信用リスクの後退によるところが大きい。国内景気も昨年末からと内閣府も指摘している。異次元緩和のスタート前にすでに回復基調となっていた。物価上昇期待の期待については計りようがない。また異次元緩和への期待が景気回復に寄与したとしてもそれを証明する手立てはない。
また、黒田総裁は来年4月に予定される消費増税や海外経済変調で景気失速リスクが高まる場合には「金融政策は調整される。ちゅうちょしない」とし、追加緩和策を検討する考えを示した。
消費増税については、「日本は政府債務残高の対名目GDP(国内総生産)比が諸外国と比べ高水準」と消費増税の必要性を指摘。1月に政府と日銀が公表した共同声明に財政健全化を進める方針が明記されたことも挙げて「(政府は)ぜひしっかりやってほしい」と述べ、予定通りの消費増税実施を求めた。
異次元緩和による中央銀行による大胆な国債買入が財政ファイナンスとみなされないのは、政府による財政規律が担保になっている。その政府が消費増税に対しては先送りを意識するなどしており、それに異を唱えることは日銀総裁としては当然のことであろう。消費増税の景気への影響については「税率が予定通り上がっても経済が失速するとは考えていない」と説明しているが、景気に対するマイナスの影響は避けられない。消費の前倒しの反動、消費増税による物価上昇の影響による消費の後退等が予想される。ただし、その影響は外部で大きなショックが生じるようなことがなければ、一時的なものに収まる可能性はある。
黒田日銀総裁は「経済は生き物で(海外経済の変調も含めて)国内外にいろいろなリスク要因がある」と指摘しており、我々のコミットメントに対し、経済がそれほど改善せず物価も上がらない状況になれば、金融政策は調整されると明言したそうだが、それではそのときに何をするのか、いや何ができるのか。
国債をこれ以上買い入れた上に消費増税が先送りされると、財政ファイナンスとの認識が強まり、円や日本国債の信用低下に繋がりかねない。日本の長期金利は絶対に上がらない(国債は暴落するわけはない)との見方もあるが、そのような考え方が出てきていること自体がそもそも危険な兆候である。
残念ながら日銀には次のバズーカ砲の砲弾はない。リスク商品の買入増額等、機関銃もしくは竹槍程度しか残されていない。むろん国債やリスク商品をさらに大量に買い込むことも可能ではあるが、それこそ自爆テロになりかねない。日銀は戦力の随時投入をしないのではなく、異次元緩和を行ってしまった以上は、市場の期待というか要求に答え、随時投入できるようなバズーカ砲の砲弾は持ち合わせていない。
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久保田 博幸
金融アナリスト
フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。