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JBpress 2013/8/19 12:14 堀田 佳男
金融危機で痛い目にあったはずの米国市民が、またしても同じ道に戻り始めた兆候がでている。
1990年代後半から2007年夏頃まで、米国の商業物件や一戸建て、分譲マンションの価格上昇率は消費者物価指数(CPI)を大きく上回るペースで上昇していた。
ところが住宅バブルは見事に弾け、同時に金融バブルも崩壊して、投資家だけでなく一般市民も資産を大幅に減らした。
■「ニューノーマル」は幻だった?
その教訓から、米国市民は「投資と消費が人生の目的」と言えるようなライフスタイルを変えるようにもなった。借金を減らして預金を増やし、身の丈に合った生活をする人たちが増えた。大手債権運用会社ピムコのモハメド・エラリアン氏は、そのライフスタイルを「ニューノーマル」と名づけた。
それは国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費を減らすことになるとも思われた。カネを使うことで米国経済を動かすという消費の大車輪という考え方への反省でもあった。
それまで、「今日で世界が終わりを迎えても構わない」といったライフスタイルがまかり通ってきた。そこに倹約という戦後の米国では初めてとも言える生き方が導入され、浸透していくかに見えた。
だが今、米国経済が緩やかながらも回復しつつあると、再び消費支出が増え始めてきた。自動車販売と住宅販売の堅調な伸びがそれを物語っている。
米国の一般世帯の月額平均支出も今年初旬4220ドル(約42万円)で、2009年の3870ドル(約38万円)より拡大している(インフレ調整後)。月平均の食料品への支出を見ると、2009年は269ドル(約2万9600円)だったが、今年は316ドル(約3万1600円)で17%も上昇している。
それは同時に、米国人の拠り所とさえ言えるクレジットカードの借金が増え始めたことでもある。現在の借金総額は8471億ドル(約84兆7100億円)という巨費で、金融バブルのピーク時には達していないが、今のペースでいくと最高額を超えるのは時間の問題と言われる。
消費の拡大は経済活動にとって大切なことではある。だが市民生活において、借金を増やしてまで消費し続けるライフスタイルは、米国を再び同じ道に戻すことにもなりかねない。
さらに注目されるのは、住宅価格の上昇である。住宅バブルが弾けた後も、米国文化の特徴として、住宅への投資は大きな衰えは見せていなかった。バンク・オブ・アメリカの試算によると、バブル以後、米一般住宅の総資産は1兆8000億ドル(約180兆円)も増えたという。
つまり、値崩れした住宅の価格が上がっているのだ。米住宅価格の推移を眺めると、過去5年ほどの価格下落の時期を除いて、過去50年ほど、価格は右肩上がりできている。
■日本の住宅耐用年数は英国の約3分の1
こうしたトレンドは日本では考えられない。しかも中古住宅が投資の対象になっている。日本ではほとんどの場合、不動産に新しさを求めるので、中古マンションの価格が上がるのは例外的な物件だけである。
その理由は建築物の耐久年数の違いがある。それは取りも直さず、米国人の住宅に対する思い入れの表れといっていい。日本の住宅寿命は固定資産台帳からの算出数字では26年である。米国は44年で、英国に至っては75年という長さだ。
もちろん、日本の一戸建てが26年で朽ち果てるという意味ではない。日本では住宅を資産としてではなく、消費財として捉えているため、平均26年で建て替えるのだ。経済の活性化にもつながると考える。住宅に使われる建築資材の問題もあり、日本で築50年の一般住宅はほとんど見られない。
逆に土地に対しては経済的メリットが付託される。役所にとっては土地価格が高い方が固定資産税による税収が良くなるばかりか、金融機関にとっても地価が高い方が担保価格が良くなって融資しやすくなる。個人にとっても売り手であれば、地価が高い方が利益も大きくなる。
日本のマンションの場合、2000年までコンクリート建築物の法定耐久年数は65年だった。2000年以降は50年に下げられたが、もちろんそれが建築物の耐久度合いを保証するわけではない。実際には半世紀を待たずして、建て替えられる運命にある。
このように、不動産の日米差は歴然としている。東京23区内の住宅環境は、米国の一般的な住宅街とでは比較にならない。
周囲と全く違う外観の住宅が隣家と50センチほどの隙間で建ち並んでいても、文句を言う人はいない。空を見上げるとクモの巣のように電線が張り巡らされている。その環境でもほとんどの人は不自由さを口にしない。
『亡国マンション(光文社)』の著者で、一級建築士である平松朝彦氏はこう書いている。
「私は東京を世界遺産に指定してもらうべきだと考えている。もちろんこれは貧困住宅の象徴として世界的に貴重だからである。これほどのスケールをもった貧困なゴミ住宅の群れは、間違いなく世界の先進国では例がない」
途上国であれば、東京のように雑然とした都市は少なくないが、先進国ではほとんど例がない。「慣れれば住みやすい」という次元の話ではない。
■ニューヨークやワシントンでは築100年で1億円が当たり前
話を米国の不動産ブーム再燃に戻したい。伝統的に米国市民が不動産を投資の対象にしてきたのは前述した通りである。さらに低金利によって住宅ローンを組みやすい環境ができた。
ただ不動産業界では、数年前から「買い」の動きがすでに出ていた。不動産アナリストのリンダ・ペインさんが説明する。
「全米のマンション建設のピークは2003年でした。同年、8万6000棟も建てられたのです。住宅バブルが弾けて、地域によっては大幅に価格が下落しました。けれども過去数年、一部で不動産価格が上昇してきています。その流れが強くなっています。米国では、不動産を投資の対象とする文化がいまでも連綿と受け継がれているのでこの動きが変わることはないでしょう」
米国で中古住宅や中古マンションの価格が上がるのは、買い手が全く厭わないどころか、50年前の堅固な家屋の方が好まれる傾向があるためだ。もちろん地域差はある。ニューヨーク市マンハッタンのマンションやワシントン市内ジョージタウンの一軒家などは、築100年でも1億円以上するのが当たり前である。
そこには住宅を資産ととらえ、修復と改装を繰り返しながら今後100年、維持し続けるという意識があるためだ。それは孫子の代にまだ不動産を残すということでもある。
だが反面、不動産を投資目的で転売し、それによって莫大な富を得ている一部の投資家たちもいる。結果的に社会格差を拡大させることになっている。
さらに一般市民も不動産ブームの波に乗る傾向はある。近い将来再びバブルが発生し、崩壊という悪のサイクルが繰り返されないとも限らない。
過去からどれだけ学べるのか。利益だけを追求すると、目の前しか見えなくなるのはどこの国でも同じかもしれない。