税収減止まらず破綻、米デトロイトの末路 自動車依存から脱却できぬまま、悪循環に陥った。
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2013年08月04日 リチャード・カッツ :本誌特約記者(在ニューヨーク)
米自動車ビッグスリーのおひざ元、ミシガン州デトロイト市が18日、自治体としては過去最大規模となる180億ドルの負債を抱えて連邦破産法第9条の適用を申請した。これに投資家たちは敏感に反応した。デトロイトの破綻が金利の急騰やほかの自治体の信用不安につながる可能性を危惧したのだ。
が、数日もすると、地方債の金利は落ち着いた。デトロイトの問題はほかの大都市と比べてはるかに深刻だったにもかかわらず、同市が長らく問題を放置していたことが理由だとわかったからである。
米格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2005年以降、デトロイト市債を断続的に格下げしており、09年には「ジャンク債」にまで引き下げた。同社のアナリスト、ジェーン・ハドソン・リドリー氏はリポートの中で、「デトロイト市の債務不履行とその後の破産申請は特異なもので、ほかの自治体に問題が波及するとは考えがたい」と言及している。
■犯罪の9割は未解決
デトロイトの破綻を招いた最大の原因は、自動車という一つの産業に依存していたことだ。自動車産業が活況を呈していた1950年代には約200万人が住んでいたが、生産の海外移管などに伴う雇用減により、近年の人口は68万人にまで減っている。中間層の流出が税収減につながり、市の予算が削減されると、教育や公共サービスの水準が低下。さらに多くの人々が街を去る、という悪循環に陥っていた。
特に治安の悪化は深刻だ。米国のほかの大都市では殺人が減っているにもかかわらず、デトロイトでは今が過去40年間で最も高い水準となっている。犯罪の9割は未解決なうえ、警察官の減少によって緊急通報の出動にも平均58分を要する(米国の平均は11分)。街灯の4割は点灯しておらず、街には7万8000軒に上る廃家屋があり、これがさらなる犯罪を誘発している。
ただし、状況がここまで悪化するのを防ぐ方法がなかったわけではない。似たような例で参考になるのが、「鉄の街」として栄えたペンシルベニア州ピッツバーグだ。
同市ではかつて7割近くの人が鉄鋼業やこれに関連する職に就いていたが、鉄鋼産業の低迷によって過去50年間で人口は半分に減少。が、デトロイトと違うのは鉄鋼の代わりに金融やヘルスケア、ハイテク、エネルギーといった新たな産業の発展や、カーネギーメロン大学など地元大学の教育水準底上げに力を注いだことである。
これに伴い、40年前は18%だった失業率も8%に減っている。また、09年にはかつて製鉄所だった48エーカーに及ぶ広大な土地に工業団地「ピッツバーグ技術センター」を設立し、積極的に企業を誘致。現在では毎年100万ドルの税収をもたらすようになった。今やピッツバーグは全米で最も住みやすい街の一つに選ばれるようになっている。
対してデトロイト市はこうした産業振興に力を入れなかっただけでなく、市政府による放漫財政を見直すこともしなかった。実際、180億ドルの負債の半分は退職者の年金や、医療保険費など「レガシーコスト」である。
今後も再生へのハードルは高い。まず同市がミシガン州や連邦政府から多額の援助を受けるのは極めて難しい状況にある。保守派のコメンテーターが破綻の原因を公務員組合にあるとしたことで、同市の再生は政治問題へと発展しつつあるからだ。
デトロイトの破産計画は現在法廷で話し合われており、結論がどうなるかは不透明である。が、結論がどうであれ、自動車に代わる産業の発展や治安、公共サービスの改善など人口増を促すような抜本的な再生プランなくして、この街が息を吹き返すことはないだろう。
(週刊東洋経済2013年8月3日号)