http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130721/dms1307210735005-n1.htm
2013.07.21 夕刊フジ
ただ歩けるだけでなく、速く歩けることが健康寿命と密接な関係があることを、アメリカの最新データで明らかにした、森谷敏夫京都大学大学院教授(人間・環境学研究科応用生理学研究室)。「ロコモの現状」という講演を続けてリポートする。
「なぜ歩くスピードが生存率を決定するか分かりますか」と森谷教授。
歩くためにはエネルギーが必要だ。下半身の筋肉に心臓から血液を送らなければならない。歩くための筋肉を「第2の心臓」と呼ぶのは、歩けばそれだけの血液を心臓に戻すから。従って速く歩く人ほど、心臓を使い鍛えていることになる。
「歩行スピードが落ちると、心臓に戻る血液は少なくなるから、それだけ心臓も弱るわけです。そうした負のスパイラルに陥らないために、足を鍛えることが大事です」
年齢とともに筋肉が衰えるのは、多くの人は「老化現象」という。
「でも、半分くらいは『不活動性萎縮』といって、使わないから退化するんですよ。使い続ければ70−80歳になっても筋肉は維持できるんです」
そこで森谷教授が指摘したのは、日本人のエネルギー摂取量の平均値が減り続けており、今は1846キロカロリーと、終戦直後より低いレベルまで下がっていること。それなのに、日本人男性の肥満度をみると、BMI(体重キロ÷身長メートル×身長メートル)指数25以上の人の割合が40代、50代は約35%、30代、60代でも約30%が肥満レベルなのだ。「飽食の時代なんてとんでもない。それなのになぜ、太っているのか。動かないからです。1日中座ってばかりいるから」
ここで、森谷教授は再び衝撃のデータを明らかにした。カナダ人の18−90歳の約1万7000人の座っている時間と死亡率を平均12年間追跡調査したものだ。ほとんど1日中座っている人は、死亡リスクが1・54倍高いという結果が出た。
「軽中度の運動をすすめるのは当たり前で、長時間座っていることのリスクに警鐘を鳴らすべきです」
森谷教授は高血圧も糖尿病もほとんどすべての病気は運動しないことから起きるという。
「糖尿病は筋肉の病気ですよ。筋肉で運動すると糖代謝できるのに、運動しないから代謝できなくて糖尿病になる。遺伝や糖質の取りすぎのせいじゃありません。糖は脳の唯一のエネルギー源ですから糖質を制限して糖尿病を治すなんて本末転倒です。運動をすれば、血圧も正常化しますし、最新の脳研究の成果では、70歳でも運動すれば脳の海馬の容積が増えるというデータがあります。鬱病や認知症の予防にもつながりますよ」
森谷教授は速く歩くことを維持することが、健康寿命を延ばす重要なロコモ対策になると結論づけた。 (木村進)
■ロコモ ロコモティブシンドローム=運動器症候群の略。筋肉や骨などの衰えで歩行などに支障を生じ要介護リスクが高まる。予備軍含め4700万人が危機にある。