1952年十勝沖地震の大津波で多くの民家が流された北海道浜中村(現・浜中町)
【警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識】「地震エネルギー」どこに消えた? プレートのゆがみと合わない計算
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130705/dms1307050715003-n1.htm
2013.07.05 夕刊フジ
日本列島を載せているプレートと海洋プレートの間で次第に地震エネルギーがたまっていって、やがて耐えきれなくなると、海溝型の大地震が起きる。物理学者で随筆家の寺田寅彦がいう「忘れたころ」、つまり100年とか200年ごとに、こうしてマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が繰り返してきている。
ここまでは、よく知られていることだ。しかし、実は計算が合わないのである。
プレートは一定の速さで動き続けている。東北日本の東側にある日本海溝には太平洋プレートという海洋プレートが毎年10センチの速さで押してきているし、西南日本の南側ではフィリピン海プレートという別の海洋プレートが南海トラフという海溝に向かって毎年4・5センチの速さで押してきている。これらの動きは少なくとも1000万年以上続いてきている。
ところでこれらM8クラスの巨大地震が起きたとき、震源断層がどのくらいの距離だけ滑ったのかということは、地震計の記録から分かる。それによれば多くの場合、数メートルなのだ。
たとえば太平洋プレートの場合、プレートのゆがみが年に10センチずつたまっていく。2年で20センチ、10年で1メートル…。ところが、実際に巨大地震が起きてきた間隔よりもずっと短い数十年でプレートのゆがみが「限界」に達してしまうはずなのだ。
どうも計算が合わない。プレートが作っているゆがみ、つまり地震エネルギーは大地震として解消されるものがある一方、どこかに消えてしまうゆがみがなければおかしい。
「M8より小さい地震がたくさん起きているのだろう」って? いや、Mが1だけ違えば地震のエネルギーは約30倍も違う。Mが2違えば1000倍も違うのだ。このため、小さい地震を束にしても、M8の地震にはならないのである。
この「消えてしまった地震のエネルギー」の大きさは、世界各地の海溝でそれぞれ違う。日本海溝ではエネルギーの60%が消え、南海トラフでは30%が消えてしまっている。繰り返し発生している十勝沖地震では、1952年十勝沖地震(M8・2)の前に、どうも大地震1回分のエネルギーが抜けているようなのだ。
他方、アリューシャン列島沿いや、南米チリの南部では、この「消えてしまったエネルギー」はほとんどない。プレートが押してきた分だけ巨大地震が起きているのだ。
不思議なところもある。伊豆諸島から南、グアム島の先まで伸びているマリアナ海溝では、この種の巨大地震が起きたことがない。巨大地震のエネルギーは、すべて、どこかに消えてしまっているのである。
巨大地震を起こすはずのエネルギーがどこかに消える。前回のニュージーランドでいま起きている、地震計には感じない大地震の話を思い出すだろうか。
そうなのだ。「普通ではない地震」が巨大地震と巨大地震の間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを左右しているのではないか、と思われ始めているのである。
■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。