Kevin Logan HSBCの北米経済リサーチチームを統括。シティバンク、スイス銀行コーポレーションを経て、1996年〜2009年までドレスナー・クラインオート・ベンソンのシニア・マーケット・エコノミスト。2010年5月からHSBC。金融政策の動向と金利の予測が専門。コーネル大学にて、経済学の博士号を取得。(撮影:尾形 文繁)
それでもバーナンキがQE3を縮小する理由 HSBC米国チーフエコノミスト/ケビン・ローガン氏に聞く
http://toyokeizai.net/articles/-/14442
2013年06月24日 大崎 明子 :東洋経済 記者
FRB(米国連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長がQE3(毎月850億ドルの証券購入策)の年内縮小を表明し、金融市場のボラティリティが高まっている。金融緩和策からの出口戦略の見通しについて、HSBCの米国担当のチーフエコノミストであるケビン・ローガン氏に聞いた。
――6月19日、FOMC(米国連邦公開市場委員会)後の記者会見でFRB(米国連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は「QE3(月850億ドルの証券購入策)の縮小を年内に開始し、来年半ばには停止するであろう」と表明しました。このことで長期金利は上昇し、株価は下がりました。
内容には私は驚かなかった。市場の反応が大きいことにむしろ驚いた。
過去2カ月ぐらいで、ヒントはたくさんあった。バーナンキ議長自身の声明や他の地区連銀総裁の発言に、今年の下期にはQE3のプログラムが縮小されると示唆されていた。FOMCの議事録を見ても明らかだった。また、議長は経済動向によって、決めるものであり、労働市場の改善は明らかであるとも述べている。今後数四半期でさらに景気改善が加速していくことが期待されるから、プログラムを縮小するということだ。
――FOMCメンバーが、政策金利の出口についても積極的になっているのではないかと、市場は見ているのでは?
FFレート(政策金利)の見通しについては、3月時点と比較すると、上昇時期の見通しが早まったわけでもないし、予測する上昇幅が大きくなったわけでもない。3月時点では14年から上昇すると見ていた人が、15年にずらしている。また、15年に上昇すると見ていた人々の予測する金利水準がより、収斂(しゅうれん)てきている。FFレートは2015年の半ば、おそらく第2四半期に引き上げられ始め、2015年末に1%になっているだろうという見方が大半を占めている。
■過大なバランスシートが政策余地を狭める懸念
バーナンキ議長は政策の変更については、むしろ非常に慎重だといえる。量的緩和の効果とは、資産価格を上げることを基本に設計されているが、資産価格を上げることだけが目的なのではなくて、それによって、資金調達をしやすくし、人々に富の効果を味わってもらうことで、信頼感を向上させたいと思っている。したがって、資産効果が下がるとそうした効果を相殺してしまうから、市場に悪い反応が出ることを気にしている。もし、景気が悪くなれば再び金融緩和を拡大させることもあると強調している。政策の変更は徐々に、慎重に行うだろう。緩和をやめても景気が悪化することがないような状態にすることを望んでいる。
――バーナンキ議長は、QE3における証券購入の額を縮小しても、まだバランスシートは膨らみ続けるし、購入を停止してもしばらくはバランスシートの規模を維持するので、緩和効果は続くとしています。しかし、市場は「縮小する」といっただけでネガティブな反応をしています。
政策を変更するとなれば、ボラティリティが高まるのは仕方がないことだ。だから、FRBは慎重に動くだろう。QE3政策は昨年の9月以降、効果をあげてきた。資産価値は上がり、住宅価格、株価ともに上昇して、雇用も上向いている。経済はある程度自立的に回復が進む段階に入った、とバーナンキ議長は見ている。
同時に、バーナンキ議長はFRBのバランスシートがあまりに拡大しすぎて将来の政策余地を狭めることを恐れている。このまま行けば4兆ドルに達するが、あまりにも大きなバランスシートを抱えてしまうと、金利を引き上げたり、債券を売却したりする場合の市場へのインパクトが大きくなり、ボラティリティが拡大してしまう。景気に対して大きな混乱を与える影響がある。
■バランスシートの縮小は償還にしたがって自然体で
――そうした懸念がある中で、今後の政策変更はどのような順番で行われるのでしょうか。
第1ステップとして、QE3の購入規模の縮小を開始する。今年の下半期に少し購入の額を減らし、経済に大きな問題が出なければ、徐々に、減らしていき2014年の半ばにはゼロまで持っていく。9カ月かけてゆっくり減らすということだ。QE3終了時点ではバランスシートは大きいままで、FFレートもゼロのままだ。
第2ステップとしては、現在行っている償還された債券の分の再投資をやめて、償還に応じて徐々にバランスシートが縮小していくということになるだろう。償還期の来ないものを売却することはしないと見ている。ほんの少し売っただけでも、市場はどれだけ売りがくるか分からないと考え、金利が跳ね上がり、市場が混乱する恐れがあるからだ。
第3ステップがFFレートの引き上げで、これは2015年第3四半期だろう。2015年末にはFFレートが1%というのがFOMCのメンバー中心的な見方だ。2016年にはFFレートは3%、2017年以降は4%と見ている。バランスシートは債券の償還に従い自然体で時間をかけて縮小し、2020年にようやく、通貨流通量の伸び(1年当たり5%)と同じパスに戻るだろう。
■インフレ期待加速なら、政策金利の引き上げで対応
――景気回復期待が出る中で、バランスシートが縮小しないままであれば、いわゆる「乾いた薪」となり、バブル再燃の恐れがないでしょうか。
確かにその心配をしている人はいる。銀行システムにおいて流動性が潤沢であるという状態になってしまうからだ。インフレ期待が高まるなら、それに応じてFFレートを速いペースで引き上げるということになるだろう。FFレートは効果的なツール(道具)であるし、バランスシートの大きさに関わらず使えるツールだ。その場合、2015年末のFFレートは1.5%あるいは2%になるかもしれない。本当は、ゆっくりと進めたいが、そういうこともありうる。
――バランスシートの積極的な縮小に着手しないと見るのは、FFレートに比べて、債券売却の効果のほうが読みにくいからなのでしょうか。
そのとおりだ。
――米国経済の見通しについては、FRBや多くの民間エコノミストよりもネガティブなようですね。
過去数年、第4四半期の前年同期比のGDP成長率の見通しを年初にどう予測していたかを見ると、2010年の場合、FRBは3.2%、民間のコンセンサス予想は2.9%だったが、実績は2.4%だった。2011年ではさらにFRBやコンセンサス予想と実績の差は拡大した。昨年も2011年ほどではなかったが、開きがあった。金融危機後、米国はレバレッジ削減を進めているので低成長となっている。
今年の場合、FRBの予想は2.7%、コンセンサス予想は2.2%だが、私は1.8〜1.9%と見ている。2013年の実質GDP成長率を1.8%と予想している。政府の財政支出が抑制されていることが足かせとなり、2%を超えることはないと見ている。しかし、財政の足かせがなくなってくる2014年以降は、徐々に上向いてくるだろう。