新生児脳性まひ 原因明らかに
早期の胎盤剥離/過剰な陣痛促進剤 監視など違反目立つ
出産で赤ちゃんが低酸素状態となり、重度の障害が残る脳性まひの原因分析が進んでいる。2009年から始まった「産科医療補償制度」で約4年間の事例を分析した結果、早期の胎盤剥離のほか、陣痛促進剤の不適切な使用や胎児の状態の監視が十分でないなど医療機関側の不備も明らかになってきた。こうした分析結果を脳性まひの再発防止に役立てようとする動きも広がっている。
5月7日、同制度の再発防止委員会の池ノ上克委員長(宮崎大病院長)は出産で重度の脳性まひとなった188件の原因分析から再発防止に向けた報告書を公表した。「陣痛促進剤を使う際に十分監視していない事例があった」と厳しい表情を浮かべた。
今回の報告書は11年8月、昨年5月に続いて3回目。1、2回目の報告書でもガイドライン違反は目立ったが、いまだ不十分な分娩機関がある現状に池ノ上委員長は「ガイドラインを守るように分娩機関に呼びかけたい」と強調した。
同制度が09年1月に始まったきっかけは訴訟対策だ。産科医不足の一因として、原因不明の脳性まひでも産科医が高額の賠償金を請求されるリスクが指摘されていた。同制度では一定の条件を満たせば介護の準備金として600万円、さらに年120万円を20年間支払い、計3千万円を補償する。親と産科医の負担を減らす狙いがあった。
再発防止策を公表
もう1つの狙いは脳性まひの実態解明だ。補償対象となった全事例について診療記録の提出を受けて第三者の産科医らが詳細に分析。複数の事例に共通する原因を見いだし、再発防止策を公表している。
今回の報告書では188件のうち、8割弱の145件では主な原因が明らかだったと指摘。最も多いのが出産前に胎盤が子宮からはがれてしまう「常位胎盤早期剥離」で48件だった。次いで胎児に酸素などを送るへその緒が胎児より先に子宮口に出てしまうなど「臍帯(さいたい)関連」が30件などだった。
早期剥離は妊婦が気づいて素早く分娩機関を訪れることが重要。再発防止委員会は「急な腹痛、持続的な痛み、多めの出血などは早期剥離が疑われます」「判断に困る時は我慢せずに分娩機関に相談しましょう」というパンフレットを作成、妊婦に啓発している。
陣痛促進剤は脳性まひとなった188件のうち、約3割の56件で使用されていたが、この4分の3(43件)はガイドラインに基づく用法を守っていなかった。最も多いのは用量が基準より多いケースで複数回投与を含め延べ66回の投与のうち、6割強の42回で用量が多かった。
報告書では、こうした事例のうち6件は「陣痛促進剤による強すぎる陣痛の可能性が考えられる」とするなど脳性まひとの関連を指摘。また陣痛促進剤は効き方に個人差が大きく、陣痛の状態や胎児の心拍数を連続的に監視する分娩監視装置を義務づけているが、12件では不十分だった。
事前同意なく投与
さらに投与について妊婦に説明して同意を得ていたのは28件と半分のみ。報告書が求めている「文書による説明と同意」を実施しているのは、12件にとどまる。再発防止委員の1人で、妻が説明を受けず、陣痛促進剤を過剰投与されて脳性まひで生まれた長女が死亡した勝村久司さん(52)は「使用する際は添付文書に書かれている通りに必要性と副作用を説明して同意を得ることを徹底してほしい」と訴える。
同制度で少しずつ明らかになってきた脳性まひ。原因分析結果や再発防止の報告書を活用しようとする動きも広がっている。
日本助産師会が今年2月に実施した脳性まひを予防するための研修には約50人の助産師が参加。問題点や予防法について議論した。
例えば丸いカップを胎児の頭に当て、カップ内の空気を抜いて密着させてから引っ張り出す吸引分娩では吸引時間が20分を過ぎるような長時間の吸引は脳性まひの原因となる可能性を確認。対策として助産師が「吸引から10分経過しました」などと声を出し、産科医に吸引時間を伝える必要性が指摘された。
同会の村上明美・前安全対策委員長は「助産師は医師の指示通りに動くだけではなく、注意が必要な対応を医師と共に確認しあうことが事故の防止に重要」と訴える。
同制度は国内に約3300ある分娩機関の99.8%が参加。福島県立医大の藤森敬也教授(産科婦人科)は「多くの医療機関から症例を集めて原因分析し、再発防止策を検討するのは世界的にも珍しい」と評価する。藤森教授も福島県内の医師や助産師に対し、報告書に沿った脳性まひ予防を講演しており、「少しでも脳性まひを減らすために報告書を活用したい」と話している。
(大西康平、塩崎健太郎)
[日経新聞6月20日夕刊P.9]
http://www.asyura2.com/09/iryo03/msg/700.html