http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130617-00009740-president-bus_all
プレジデント 6月17日(月)8時45分配信
世界経済の枠組みが大きく変容しつつあるいま、先進国の債券や株式だけで資産をもつのは、じつは高リスク。わかってはいても、うっかり新興国の金融商品に手を出すのは怖い。たしかに、ここ数年で資産を減らした人は少なくない。だが、そんな中でもキラリと光る高利回り商品は存在する。まずは投資哲学を身につけるところから始めよう。
個人の資産形成においてまず注意したいことは、短期で高いリターンを狙う「投機」ではなく、長期で安定的にお金を増やしていく「投資」を意識することです。リーマン・ショックによる大幅な相場の変動を経験した後は、「ある程度タイミングを捉えて売買したほうが儲かる」と考えるのも一理あります。しかし、個人投資家が相場のタイミングを捉えるのは難しいうえ、値動きに賭けていてはいつか足元をすくわれます。短期で大きく儲けるのではなく、少なくとも10年以上の長期で捉えたほうが、リスクも軽減でき、結果的には資産を増やすことにつながります。
もう1つ、資産を守るために大切な考え方が「分散投資」です。分散投資には、投資先を分散させる「資産の分散」と、投資のタイミングを分散させる「時間の分散」があります。
「資産の分散」とは、投資先の国や地域、債券や株式などの資産クラスを分散してポートフォリオを組むことによって、全体としての価格変動リスクを抑え、安定運用を目指すことです。一般的には「国内外の資産に分散するのがよい」とされていますが、私たちの個人資産は、8割以上が現金や預貯金、保険、将来受け取る年金で占められており、その大半は国債で運用されています。つまり、私たちの資産は、知らないうちに“国債まみれ”になっているのです。
今後、国債が暴落したり、為替相場が円安方向へ進んだりしないとも限りません。資産を日本円だけで保有しておくのは、外貨に換算した場合に資産が目減りするリスクを抱えることになります。国内で働いている限りは給料も日本円で支払われることを考えると、せめて資産の一部は海外資産に振り分けておくべきではないでしょうか。
海外資産といえば、これまでは比較的リスクの少ないとされる先進国の債券や株式を中心にポートフォリオを組むのが王道でした。ところが、リーマン・ショックを境に世界経済の枠組みは一変し、先進国を中心に考えられてきたこれまでの常識も通用しなくなっています。
金融危機に陥った先進国の経済が減速し、財政再建のための借金に苦しむ一方で、消費の担い手となり、世界経済を牽引するようになったのは中国などの新興国です。さらにこの先20年後には、中国のGDPシェアはアメリカを抜いてトップに、インドは日本を抜いて3位に浮上すると考えられており、世界経済の中心が新興国に移っていくことは間違いありません。先進国から新興国へのパラダイムシフトが起こっていることを考えると、これから新たに投資する分は海外資産、とくに新興国へ振り分けていくのがよいでしょう。
■「資産の分散」に加え「時間の分散」も
一方の「時間の分散」は、投資資金を毎月一定額ずつ投資することで価格変動リスクを抑えるために行います。たとえば100万円を投資する場合に、一気に100万円を投資するのではなく、毎月10万円ずつ10カ月かけて投資します。月によって値動きがあるものの、取引価格が下がればそのぶん購入数が増えるため、結果として投資簿価を低く抑えることができるのです。
時間を分散させる際のポイントは、投資時期を毎月の同じ日に決めておくことです。たとえば、毎月20日なら20日と決めておきます。そうしないと、相場のタイミングを図ろうとして、かえって高値づかみをすることになりかねないからです。
毎月の投資が面倒ならば、毎月一定額を買い付ける「積み立て」を利用する方法もあります。
「安く買って、高く売る」のが投資の鉄則ですが、投資家の心理としては相場の下落時に売り、上昇時に買ってしまうものです。しかし、投資のタイミングを気にせず買うことで、結果的にベストな運用に近づけていくことができます。それが、自分の資産を減らさないための一番の防衛策になるはずです。
外貨建てで投資する場合、株式や債券自体の価格変動リスクに加えて、為替による変動リスクも考慮しなければなりません。これからさらに円高に進むのか、それとも円安に揺り戻すのか不透明な状況において、どのタイミングで投資を始めるべきか迷っている人にも分散投資の考え方は有効です。
分散投資によって価格変動のリスクを抑えられるのだから、いますぐにでも投資を始めることができます。
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■投資コストと分配型の落とし穴
ここで実際に金融商品を選ぶときの基本的な注意点を挙げておきましょう。意外に見落とされがちなのが、手数料などの投資コストです。たとえ運用利回りがよくても、手数料が高ければ運用益にも響いてしまいます。購入する商品や金融機関によっても手数料が違うので、しっかりと比較検討して選びたいものです。
投資信託の場合、購入時に銀行や証券会社などの販売会社に支払う「販売手数料」と、購入後に運用管理の手数料として毎年支払う「信託報酬」の2種類があります。毎月一定額ずつ投資していく人は、積み立てるたびに販売手数料を差し引かれることのないように、「ノーロード」と呼ばれる販売手数料無料の投信を選ぶとよいでしょう。一方の信託報酬に関していえば、インデックスファンドよりもアクティブファンドのほうが高くなる傾向があります。アクティブファンドの運用利回りが優れていても、コストが足かせとなって運用益が減ることもあるので注意が必要です。
一見してお得に感じる「毎月分配型」にも落とし穴があります。毎月分配型ファンドは、毎月お小遣いのように分配金が受け取れることから個人投資家に人気です。しかし、分配型ファンドの仕組みをよく理解せずに、分配金が運用益だと誤解している人が多いのも事実。
分配金は、預貯金の利息のように元本にプラスして支払われるものとは違い、運用利回りが悪ければ元本を取り崩して支払われることもあります。そのぶん基準価格が下落し、トータルリターンがマイナスになってしまいます。最近はこうした過剰分配が問題視され、分配金の原資を期中の運用益に限定するよう法改正を検討する動きも出ています。
また、運用益を分配してしまえば、運用益を再投資して雪だるま式にお金を増やす複利効果が期待できません。長期投資で資産を増やしていきたい人は避けたほうがよいでしょう。
モーニングスター代表取締役COO 朝倉智也 構成=前田はるみ 写真=PIXTA