http://markethack.net/archives/51875648.html inShare
先進各国のGDP成長率のエクスペクテーション(期待)が、変動しはじめています。
欧州に関しては2012年に続いて2013年もマイナス成長になることが予想されていますが、今日ユーロスタットが発表した第1四半期のユーロ圏(EU17)のGDP成長率が前年比-1.0%だったことからもわかる通り、EUの見通しは険しいです。
多分、通年でみると-0.7%程度に落ち着くのではないでしょうか?
一方、今年の日本のGDP成長に対するエクスペクテーションはどんどん上がっています。
「今年は、ひょっとすると2%成長も夢ではない」
そういう声も聞こえてきています。
アメリカは住宅市場の回復などもあり、本来であれば3%に迫る成長をしているのですが、歳出一斉削減の影響がGDPにして-1.5%程度足を引っ張っているので、見かけ上の成長率は+1.5%程度に落ち着きそうです。
実際、アメリカの税収はこのところ好調で、財政赤字は予想以上に改善しており、例えば軍艦を作っているドックヤードの工員さんたちの一時帰休も、短縮されるというニュースが入ってきています。
市場参加者は見かけ上の成長率(+1.5%)ではなく、実際の成長率(+3%前後)を頭の中にイメージしながら、FXをトレードしていると思うので、ドルの堅調が続いています。
しかし……
足下の期待値の変化という意味では、日本経済の上向きがいちばん大きいです。
これは勿論、大歓迎なわけですが、今後のFX戦略としては、少なくとも経済のファンダメンタルズの面からはだんだん円安を正当化しにくくなることを意味します。
円安トレンドの維持には、金融政策面での追加的燃料投下が必要になるということです。
ドルが強いので、ドル建てでクウォート(建値)されている原油や金の動きは鈍くなっています。米国連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀(BOJ)の三極が、揃い踏みで緩和しているにもかかわらず溢れる流動性がコモディティに向かっていないのは、ドルが強いことに助けられているからです。
もうひとつコモディティ価格が上昇していない理由があります。それは中国が引き締め気味の金融政策をとっているからです。
言い直せば、中国人民銀行は先進国の三極一斉緩和を、ハラハラしながら見守っているのです。
或る意味、現在の世界の株価形成を理解するのはカンタンです。つまりバブリーな、ユルユルの金融政策をしている国は素直に株価が騰がり(例:フィリピン、タイランド、インド)中央銀行がケチな国の株価は低迷しているわけです。
★アメリカの投資家は次第に先進国の三極トータルでの流動性の増減という視点を持ち始めています。なぜなら緩和するのが日銀であっても、日本の機関投資家がJGB(日本国債)を買う代わりに米国財務省証券を買うというカタチでアメリカにお金を持ち込むのであれば、それは実質的にアメリカで緩和が起きているのと同じだからです。
この「おこぼれ効果」をFRBの金融政策の中にどう組み込んでゆくか(=つまりQEの手仕舞い)は、たいへん判断が難しいと思います。(広瀬隆雄)
(参考記事:)
■日米のタンゴ、リード役はどちらか?・・踊り疲れた時に起きる何かとは?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37773?page=3
タンゴは1人では踊れない。市場では円安が進み、2009年以来4年ぶりに1ドル=100円台を記録した。為替市場は切りのいい数字に沸くのが常で、大台を突破した円はその後さらに安くなった。
日本に注目が集まっている。この国は安倍晋三首相の下で、円安の進行が期待できる積極的かつ拡張的な経済政策――アベノミクス――を導入している。
市場が沸くのももっともだ。もし日本が20年以上に及ぶ眠りから目覚めれば、世界経済が活性化されるかもしれないのだから。
しかし、そうした注目は的外れなのではないかと思われる。注目すべきは日本ではなく、為替レートの等式の反対側、ドルの方だろう。そして、検討する必要があるのは、米国が長期低迷して日本のコピーになるか否かではなく、日本の新しい経済政策が米国の経済政策のコピーになるか否かだろう。
■「通貨戦争」の勝者だった米国
世界金融危機後の数年間は、米国が勝利を収めた時代だと言える。米国経済は(絶対値では多くの人をがっかりさせたが)ほかの国々を上回る成長を遂げている。これは、米国が通貨「戦争」の最大の勝者になったためだ。様々な通貨との交換レートを貿易規模で加重平均して計算する実効為替レートで見ると、ドルは2001年につけた高値から32%も下落している。
ドル安には、米国製品の価格が下がって輸出が伸びるという期待がかかる。実際にそういう展開になっている。
調査会社のネッド・デービス・リサーチによれば、米国の国内総生産(GDP)に占める製造業セクターの割合は3年連続で拡大している。第2次世界大戦後では初めてのことだそうだ。また製造業セクターは2013年第1四半期に年率で5%の成長を遂げており、この記録が4年連続に伸びる可能性が示唆されている。
ドル安は、雇用にも狙い通りの効果をもたらしているようだ。米国では長期の構造的失業が増加しており、将来的に社会問題を引き起こす恐れがある。しかし、足元の新規失業保険申請件数は2008年前半以来の水準に減少している。世界金融危機前の「大いなる安定」の時代に見られた値より若干多い程度なのだ。
これらは通貨戦争に勝利した成果にほかならない。問題は、景気が良くなると通貨が強くなり、ひいては通貨戦争の次の戦いで負けてしまう傾向があるということだ。ドルが上昇していることから、既にこのパターンは始まっているように思われる。
■「円安」ではなく「ドル高」か
ほかの市場は、足元のドル円相場の変動が日本よりも米国の方に大きく関係したものであることを示唆している。例えば、ドルとは正反対の動きを見せることが多い金(ゴールド)は下落しており、ドルは多くの通貨に対して高くなっている。また米国債の利回りは、昔に比べればまだ極端に低いとは言え、急上昇を見せている。
これらはすべて、米国経済は成長できるという楽観論の表れだ。経済指標は引き続きまだら模様だが、この1週間に発表された値を受けて、今年の夏に景気が減速する事態は回避できるとの期待が強まっている。
またドルの上昇は、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和(QE、利回りを引き下げるために国債を買い入れること)というクスリの効き目が弱まってきていることも示唆している。初めのうち、すなわち2009年の前半や2010年の後半にはこのクスリがよく効き、米ドルがあっという間に下落した。
ところが昨年12月に始まった「QEインフィニティ(特定の期限を切らず、労働市場が回復するまで債券を買い続ける量的緩和)」はインパクトがほとんどなく、最近の市場ではFRBがQEをいつ、どのように終わらせるかがよく話題になっている。
一方、デンマーク、ユーロ圏、オーストラリア、インド、韓国、ポーランドという6つの国や地域(その経済規模の合計は世界経済のほぼ4分の1に相当する)では、中央銀行が5月第2週に相次いで利下げに踏み切っている。日銀の積極的な金融緩和策への必要な対応だったのかもしれない。この利下げにより、これらの国・地域の通貨は対ドルで下落している。
■米国を真似る日本
日本は、過去5年間の通貨「戦争」の最大の敗者だった。世界金融危機が始まる時に日本円がかなり過小評価されていたためだった(当時の円安は、日本経済を低迷から脱出させることにはならなかった)。この国は今、自国通貨を安くしながら国内の金融システムにマネーをじゃんじゃん供給するという米国の真似をしているように見える。
足元の円安は、日本の個人投資家が過去2週間*1で外債を5140億円買い越したという先の報道に触発されたものだったとの見方があるが、その可能性はあるのだろうか?
確かにこれらのデータは、日本の投資家が口には出さないものの円安が進む方に賭けていることを示唆している。しかし、これはトレンドだと言えるのか?
日本の投資家はその前の6週間で日本国債を3兆3000億円売り越していたし、日本の株式市場は非常に魅力的に見えるだろう。そういったことを考慮すれば、日本の投資家が米ドル=100円という節目を突破させたとは考えにくい。
■タンゴはまだ続く
長期的には、米国側にはドル高によって競争力が再度削がれてしまうという問題がある。だが、そうなるまでにはそれなりの時間がかかるだろう。短期的には、タンゴを踊る日米はどちらも魅力的な投資先に見える。
モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の指数によれば、日米の株価は今年に入って15.5%上昇している。これに対し、日米以外の世界の株価上昇率(ドルベース)は8.4%にとどまっている。
米国経済が再び減速するまで、あるいはアベノミクスによる日本経済活性化が期待されたほどではないことを示す証拠が出てくるまで、このトレンドの継続を阻止する材料はほとんどない。日米はタンゴを踊り続けることができるのだ。