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日銀による「異次元の金融緩和」について野村のリチャード・クーがレポートを発表してくれたのです。 9ページの内容を全て整理するのは大変なので、Tyler Durden が抽出してくれた要点だけでも確認しておくのです。
◆Japan's Inflation Propaganda And Why The BoJ Better Hope It's Not Successful
(日本のインフレ・プロパガンダ、そして、それが成功しない事を日銀は願った方が良い理由。)
■野村のリチャード•クーから
貨幣乗数...そしてインフレ...
黒田氏が日銀総裁に任命される前、量的緩和の下で FRB により供給されたベース・マネーは法定準備金の16.0倍に積み上がった。 他の中央銀行における同様の比率は、BOE で9.7倍、日銀で4.8倍、そして ECB で3.8倍であった。 もしも貨幣乗数が正常に機能していた場合、マネー・サプライは、米国において現在の値よりよりも16倍大きく、英国において9.7倍大きく、日本において4.8倍大きく、そしてユーロ圏において3.8倍大きくなっていたであろう。
そのようなマネー・サプライが実際に短期間で実行された場合、通常それは同様の価格の上昇を伴い、米国において1,600%、英国において970%、そして日本では480%という前例の無いインフレに繋がっていたであろう。 これが起きなかった理由を、以下で詳細に説明する。
しかし、要約すると、金利がゼロへ低下してさえ、これらの国の経済において企業及び家計が借りる事を止めたのだ。 そしてマネーを借りる者が誰もおらず、多くが実際には債務を返済している中で、貨幣乗数は僅かなマイナスへと転じたのである。
米国及び英国は成功「しなかった」...
量的緩和は日本のようなデフレを防いだのであるから、それは成功であったと米国及び英国の中央銀行の当局者達は主張する。 しかし、バブル崩壊後4年から5年の間の日本の賃金上昇率は、現在米国において見られる水準とほぼ同等であったのだ。
◆何故なら...
これらの全ての国に共通するのは、ゼロ金利にも拘わらず企業及び家計が貯蓄しているという事実である。 バブルが崩壊した時にバランス・シート上に生じた深刻なダメージは、債務をそのまま残した一方で資産価格の下落を促した為、彼等はそうしているのだ。 日本における民間部門の貯蓄は GDP の8.8%であり、対応する数字は米国において7.0%、英国で3.3%、スペインで8.1%、アイルランドで8.6%、ポルトガルで7.0%、そしてイタリアで4.4%である。
これらの国の経済において、企業及び家計がマネーを借りて積極的に消費するどころか、貯蓄する事でゼロ金利に反応しているという事実は、中央銀行がどれ程ベース・マネーを供給しようとも貸し出しが - そして、それ故マネー・サプライが - 拡大しないという事を示唆しているのだ。
民間部門の与信の伸びは甚だしく押し下げられた。 状態が比較的に健全であると言われている米国においてさえ、民間部門の与信は未だにリーマン以前の水準へ回復していないのである。
企業及び家計がマネーを借りる事、そしてそれを使う事を拒んでいるので、量的緩和は - 日本においてであれ、米国であれ、英国であれ - 経済を直接刺激する又は長い間インフレ率を上昇させる事ができないのだ。
■しかし、それでも中央銀行は試みる...
新たに発表された緩和プログラムは積極性という点において「新しい次元」にある為、これまで実施された段階的なアプローチと根本的に異なると、黒田氏や他のリフレ派の人々は恐らく主張するであろう。 これは、ある面では正しく、別の面では間違っている。 現在のプログラムの発表は過去の発表よりも非常に大きなインパクトを持ったと黒田氏は主張するが、この仮説は既に海外で試されており、中長期的な結果は彼の結論を支持していないのだ。
■無視されている現実は...
明らかに、問題は如何に積極的に又は迅速に中央銀行が緩和するかという事で無く、バブルの崩壊によって生じた民間部門のバランス・シートのダメージの程度である。 これらの経験は、企業及び家計が彼等のバランス・シートを修復する為に膨大な時間が必要であるという事実を強調するものでもある。
■そして経験的実証として...
FRB 及び BOE によって実施されている大胆な金融政策の限定的な効果は、日銀の積極性にも拘わらず、中長期的には彼等の計画に我々が大きく期待すべきでないという事を示唆しているのだ。
■意図せぬ結果...
恐らく、更に重要だったのは何故日本の金利がそれ程に低かったのかという事であろう。
本質的に、バランス・シートの問題、その結果としての債務のトラウマ、そして国内での投資機会の不足により、民間部門がマネーの借り入れを停止したのである。
民間部門の借り手がおらず、日本国債を0.6%の利回りで日銀へ売却している日本の銀行は、選択肢が不足する中で収益を日本国債に再投資する事を余儀無くされている事に気付いているかもしれない。 もし置き換える債券に僅か0.4%の利回りしか無さそうであれば、正しい選択は0.6%の利回りの債券を保有し続ける事である。
その意味において、日本における量的緩和は既に限界に達しているのだ。
■そしてQEは自らの道を駆けた...
しかし、ゼロ金利にも拘わらず両国の企業及び家計が現在借り入れを拒否しているという事実は、長期利率を引き下げる効果自体が使い果たされたかもしれないという事を示唆しているのだ。
■何故なら...
バランス・シート不況の根本的な原因は、借り手の深刻な不足による民間需要の減少 - そして究極的には消滅なのである。
それでも主要国の中央銀行によって採用された量的緩和政策は全て貸し手の数を増やす事を企図したのである...
問題が喜んで借りる人々の不足に起因する時、新たな借り手としての中央銀行の出現は殆ど状況を大きく改善する事にならない。
どちらかと言えば、中央銀行による新たな貸し出しは既に過当競争によって傷ついている民間金融機関を更に弱体化させる事になるであろう。
量的緩和を行った他の国々の経験に照らした日銀の緩和プログラムの客観的な分析は、投資家達が賢く自らの期待を抑制するだろうという事を示唆している。 ゼロ金利にも拘わらず資金への民間需要が無い時、どうして貨幣乗数がプラスへ転じるというのであろうか。
上記の議論は、日銀の緩和プログラムが機能するという物理的又はメカニズム的な理由が殆ど無いという事を示唆している。 しかし、そのプログラムは心理的影響を及ぼす可能性もある...
「もし十分な程頻繁に繰り返したならば、人々は嘘を信じるようになる」と、ある悪名高いプロパガンダの手先が語ったと言われている。
今日(こんにち)の日本では、メディア - 特に至る所に存在するTVのバラエティ番組 - がインフレについて語る事を止められないのだ。 これらのコメンテーター達は、金利がゼロに落ち込んでいながらも日本における貨幣乗数が僅かながらマイナスであるという事に全く気付いていないのである。 彼等は単に日銀による積極的な緩和がいつかはインフレを生み出すという単純化された見方を繰り返しているのだ。
これを朝から晩まで聞けば、日銀の政策が直接インフレを作り出せる方法など無いにも拘わらず、インフレについて一部の人々を心配させ始める事になるであろう。 もしも彼等が価格の上昇を予想し、それに応じて彼等の振る舞いを変更した場合、インフレが現実となる可能性がある。
更に、日本のメディアは一斉に同じ方向へ動く傾向があり、その嘘を更に頻繁に繰り返す原因となるのだ。 従って、もしも多くの人々が将来のインフレに対する期待で彼等の振る舞いを変えたとしても驚くには値しないのである。
■問題は - もしも人々が信じ始めたらどうなるかという事である...
ここでのリスクは、借り手達だけで無く、貸し手達も嘘を信じ始める事である。 インフレを予想しながら現在の利率でマネーを貸し出す金融機関など存在しないのだ。 水平線上に突然インフレを見た金融機関は、0.6%の利回りの10年物国債を保有し続けないかもしれない。 結果として生じる売りへの殺到は日本国債市場の崩壊を引き起し、国内の金融機関に大きなダメージを与えるかもしれないのだ。
疑問なのは、如何に黒田の日銀がそのような暴落に対応するのかという事である。 もし彼等が更に日本国債を買い始めた場合、マネタリー・ベースが拡大し、資金に対する民間需要が既に回復して貨幣乗数が僅かながらプラスに転じた時に、インフレの懸念を焚き付ける事になるのだ。
しかし、インフレ懸念を鎮めようと日銀が自ら保有する日本国債を売却したら国債(価格)は更に下落し、金融機関及び政府のバランス・シートに大きな穴をあける事となってしまうのである。
その時点までに、言うなれば法定準備金の15倍という具合に、マネタリー・ベースは簡単に増大している可能性がある。 その場合、中央銀行が現在の水準の1/15程度にマネタリー・ベースを縮小しない限り、マネー・サプライは増大し続け、インフレを制御不能なスパイラルにしてしまうのだ。
これを達成する為、法定預金準備率の大幅な拡大を含む全てのツールを日銀が自らの裁量で採用するという事を私は疑っているのだが、それらの措置の全ては金利を更に押し上げ、日銀及び他の日本国債保有者に大きな損失を与える事となるのだ。
それが急速に引き起こす可能性があるのは...
もし国債市場が崩壊した場合、日銀の日本国債ポートフォリオ上の損失は、彼等が財務省へ移転したマネーから減じられ、財政赤字に加えられるのだ。 そして、暴落の時点でポートフォリオが十分に大きなものであった場合、それは銀行のバランス・シートの存続可能性についての疑念さえ増大させるかもしれないのである。
そして、インフレへの懸念及び中央銀行の大きな損失に関する話題は、日本の通貨に対する信頼を損なわせる可能性がある。 日本の国家債務は今や GDP の240%となり、国内産業は空洞化し、低下しつつある出生率の中で人口は高齢化して縮小しており、そして貿易収支が赤字へと陥ってさえいるのである。
これらの気の滅入るようなファンダメンタルズにも拘わらず、人々が円を使用し続けている第一の理由は、日銀の反インフレ的な行動によって彼等への信頼を得ていたからである。
日銀が無謀にもインフレを焚き付け、日本国債市場の崩壊及び銀行の債券ポートフォリオ上の大きな損失を引き起こした場合、通貨及び中央銀行に対する国民の信頼は一夜にして消滅しかねないのだ。
そして、今回は違うからと、80歳になる「証拠」に頼ってはいけない...
黒田氏の手法は、政府発行の債券を引き受ける事で成功した日銀の方針の主導者であり、1930年代の財務大臣であった高橋是清のそれと比較される事が少なく無い。 しかし、その当時の日本の人々はマネーを自由に海外へ移す事ができなかったのである。 今日(こんにち)の当局者達は、ほぼ全ての人々が電話やコンピュータ画面上の数度のクリックで資金を海外へ移す事ができるという事に注意する必要がある。
■お前達が願っている事に注意しろ...
緩和プログラムの効果が無い限り、実際のダメージは無い。 しかし、一旦心理的に影響し始めた場合、法定準備金の大きさに合わせて日銀は迅速に方針を反転させてマネタリー・ベースを元の水準に戻す必要が生じるのだ。
政策転換が遅れた場合、法定準備金の何倍にもなったベース・マネーが跳ね回る時に日本経済は制御不能なスパイラルに陥る可能性があるのだ。
更に、マネタリー・ベースを縮小するという行動は、日本国債市場のダメージを最小化すべく慎重に準備されなければならないのである。 緩和が円及び債券市場の崩壊を引き起こすという出来事に対し、日銀、財務省、そして金融庁も偶発的な事象への対応計画を持つべきなのである。
記事全文は以下に...
リチャード•クー量的および質的緩和2013 04 16
("定量的および定性的な"緩和の潜在的な利点及びリスク)
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「今日(こんにち)の日本では、メディア - 特に至る所に存在するTVのバラエティ番組 - がインフレについて語る事を止められないのだ。 これらのコメンテーター達は、金利がゼロに落ち込んでいながらも日本における貨幣乗数が僅かながらマイナスであるという事に全く気付いていないのである。」という論評は、常々「大手馬鹿メディアの皆さん」と私が表現するものと同じ事なのでしょうね。 「日本のメディアは一斉に同じ方向へ動く傾向があり、その嘘を更に頻繁に繰り返す原因となる」という分析は、「一つのボールの転がる方向へ全員が駆け出す、小学生のサッカーの如き」と私が常々形容する大手馬鹿メディアの方々の行動癖と同じなのだと思います。
言葉使いの違いは、品性/知性の差では無く、社会的立場の違いに起因しているのですよ、たぶん。
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/613.html