2011年3月11日の大地震で原発がどのような影響を受けたか、ほとんど解明されていない。例えば地盤工学会の学会誌は次のような感じだ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgs/7/1/7_1_1/_pdf にある地盤工学ジャーナル Vol.7,No.1,1-11「2011 年東北地方太平洋沖地震被害の概要と地盤工学的課題」
風間 基樹 東北大学大学院工学研究科土木工学専攻
の記事中の「地盤工学会の災害一次調査」の表には福島県の浜通り、つまり沿岸部の調査が入っていない。
表 16 地盤工学会の災害一次調査
地域名 担当支部
北海道地区 北海道支部
青森県東部, 岩手県北部 九州支部・東北支部
岩手県沿岸中南部 四国支部・東北支部
宮城県北部 関西支部・東北支部
宮城県中部 関西支部・東北支部
宮城県南部 中部支部・東北支部
宮城県内陸部 関東支部・東北支部
福島県中通り, いわき市 北陸支部・東北支部
宮城県地盤環境調査 関西支部・東北支部
関東地区 関東支部
上の表には「福島県中通り」が含まれているだけだ。
ところが、文章として「広範囲にわたり地殻変動による地盤沈下が発生した。電子基準点女川では,水平方向に約5.3m,上下方向に約 1.2m という極めて大きな地殻変動が観測されている。」と述べているのだ。女川観測点で1.2mという地盤沈下があれば、福島第一原発でも同様な地盤沈下があったはずだと考えるべきだが、調査されていない様子だ。
日本原子力学会誌2012年1月号
http://www.aesj.or.jp/atomos/tachiyomi/2012-01mokuji.pdf
の「全電源喪失について」 岡本孝司の記事中でも女川原発敷地が1mの地盤沈下をしたと述べられている。しかし、福島第一原発ではどうだったか述べられていない。
地盤沈下について、または地盤の隆起も同様だが、地盤が均一にかつ穏やかに変動するため、地中や地上の構造物に大きな影響を与えないという主張がされているようだ。しかし、例えば2007年の中越沖地震では、柏崎刈羽原発敷地はかなりな不同沈下に見舞われた。「震度6強が原発を襲った」(朝日新聞社)の60ページから63ページでは「火災を起こした3号機の変圧器の周辺では地面が約30センチも地盤沈下」、「地盤沈下は構内の至る所で見られた」、「1号機の軽油タンクのそばでは、道路が大きく陥没してた。約1メートル60センチもの段差が生じ、まるで壁のようになっていた」、「東電によると、地震で1号機の原子炉建屋の周辺の地盤が約20から30センチ沈下した。これによって建屋の地下一階にある放射線管理区域内に地中から引き込まれていた電気ケーブルが押し下げられ、地下一階のケーブル引き込み口にすき間が発生。そこから水が流れ込んだ」、「新潟県によると、地表から掘り下げて原子炉建屋を建てた際、周囲を建設後に再び埋め戻した。その埋め戻した軟弱な土の部分に、変圧器とケーブルを支える橋脚は建てられていたという」というようことが述べられている。
なお、柏崎刈羽原発の地盤沈下についてその写真を数枚だが、http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/i_meet/2007/cb0702_a.pdf#page=17 で見ることができる。
そもそも、福島第一原発はもともとあった地形をかなり削りとって地盤を下げて建設されている。それに対して女川原発はあまり削り取らなかったという話だ。その女川原発で1mの地盤沈下が生じたのなら、福島ではより深刻な地盤沈下が起き、少なくとも原発の地下部分へつながっている様々な配管が壊れている可能性が高い。
今回の震災でおかいいのはほとんど現場写真が出てこないことだ。航空写真などはネット上で公開されているが、建物の地表面と接する部分の写真は多分全く出てきていない。これは福島第一原発だけではなく、女川原発も、福島第二原発も同じだ。
少なくとも、福島第一原発は地下水流入がひどいと既に公表しているのだから、その原因としてごく普通に考えられる地盤沈下についてきちんと公表するべきではないだろうか。東京電力のサイトで「地盤沈下 福島」のキーワードで検索しても出てくるのは柏崎刈羽原発などの例だけで、福島第一原発について述べたものは出てこないのだから。