ウラジオストックのアジア太平洋安全保障会議に出席して
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36997
2012)年7月初め、ロシア科学アカデミーに所属する友人から突然のメールがあり、10月にウラジオストックにおいて開催を予定している国際会議(21世紀におけるアジア・太平洋の安全保障)に参加してもらえないかという。
**** ウラジオストック
経済発展があり、APECにも備えて市街の近代化が急速に進んだのであろう。会議中にも、ウラジオストックは今後も多くの投資がなされ中心都市になるという発言があった。プーチン大統領がAPECの開催地にウラジオストックを選んだのは2007年だという。
これに合わせてロシア政府は極東開発の一大プロジェクトを組んだ。APECはこの一部を成すに過ぎない。このための経費は2兆円に近い。
ロシアがこのような巨額の経費をかけて極東開発に踏み切ったのはまず、後に会議にも出てくる貿易である。エネルギー資源の対EU向け輸出は債務問題により頭打ちとなり、極東へシフトする必要が出てきた。
もう1つはヨーロッパ方面と極東との格差の是正であろう。
現在は、そこで国際会議を行うまで開放されたのである。日本企業は、橋の事業において、最新技術の適用について参画したということである。エネルギー資源については、日本はサハリンの石油・ガス開発に80億ドルを投資し、ロシアから国内消費量の約10%を輸入するに至っている。
**** 国際会議
参加国はロシア、米国、豪州、日本、中国、韓国であり、参加者(発表者)は、私を除きすべて学者および外交官であった。
会議の主催者であるCMCは、米国に本部を置くカーネギー財団のモスクワ支部であり、1993年に設立された。ロシアおよび旧東欧で顕著な研究・分析等を行っているロシア唯一の本格的シンクタンクである。
今回は、CMCとロシア科学アカデミーが中心的役割を果たした。
その趣旨は、アジア・太平洋は今センターステージに立っており、もはや第二線ではないこと、時代が変わりアジア・太平洋の協調が重要になってきたこと、しかしながら先般のウラジオストックAPECにより何が残ったのか分からないこと、アジア・太平洋において今後ロシアの果たすべき役目は何かなどについてであった。
会議は、4つの連続したパネルから成り、「パネル1」の議題は「アジア・太平洋地域における21世紀の安全保障についての見方」であり、その討議項目は次の通りである。
(1)アジア・太平洋地域の国々の安全保障に対するチャレンジは何か?
(2)これらのチャレンジの方向性についてどのような変化が起きつつあるか?
(3)これらのチャレンジにどのような優先順序をつけるか?
(4)アジア・太平洋地域の安全保障の見方と世界の安全保障の見方をどのように関連づけるか?
(5)アジア・太平洋の安全保障は国際関係の何処に位置づけられるか?
「パネル2」は「アジア・太平洋の安全保障に関して、各国は如何なる安全保障政策を取っているか?」であり、その討議項目は次の通りである。]
(1)アジア・太平洋各国は国家安全保障のチャレンジに如何に対応しているか?
(2)国家間の考えにどのような相違があるか?
(3)アジア・太平洋各国間の緊張と紛争の理由は何か?
(4)このような緊張はどのようにして除去できるか?
(5)緊張を和らげられなかった時、紛争の結果はどうなるか?
このパネルにおいて、私が「日本の海洋戦略」についてパワーポイントを使用して発表した。重点事項は、1998年以来、ロシア海軍と海上自衛隊は友好関係を維持し、共同訓練も実施していること。
リンパック12に初参加したロシア艦隊が、8月から9月にかけて舞鶴を訪問したこと、動的防衛力等防衛大綱の考え方と内容、日本の海洋権益、兵力整備の考え方、海上自衛隊の国際的活動等とした。ここで、海洋権益に関連して領土問題に対する我が国の主張についても発言した。
「パネル3」は「北東アジアにおける安全保障要因としてのロシアのエネルギー資源」であり、その討議項目は、アジア・太平洋における価値ある安全保障部分となるエネルギー分野で次のようなテーマで討議した。
(1)いかにして協調を成し遂げるか?
(2)エネルギーの供給者と消費者の利益をいかにして調和させるか?
(3)これに関して、ロシアの役割と責任はどのようなものか?
「パネル4」の議題は、今回の会議の最終目的とも言うべきもので「アジア・太平洋の地域安全保障フレームワークに向けて」であった。
討議項目は次の通り。
(1)アジア・太平洋地域のために包括的な地域安全保障フレームワークが必要か?
(2)このようなフレームワークを作ることが現実的か?
(3)これはどのようなものでどのような機能を持つものか?
(4)EASI(Euro-Atlantic Security Initiative)の経験がよい事例になるか?
(5)アジア・太平洋地域において如何にしてスタートできるか?
会議における各国の発言は、それぞれの国の立場がうかがえる大変興味深いものであった。ここで個々の発表・発言を挙げることはできないが、今回の会議のまとめは、次のようになる。
●2012年のロシアAPECは、単なる政治的アピールの場であり、中身はなかった。
●中国とロシアの同盟については、レシピがない。
●中国とロシアは戦略的パートナーであるが、それがどのようなものかは依然として模 索中のままである。
●中国の極東ロシアへの経済的進出、人口流入、軍事的増強等に対して、ロシアの警戒心が強い。
●中国は軍事力を増強し、拒否的なアクション・リアクションを繰り返しつつあるが、これは危険なサイクルである。「近接阻止・領域拒否(A2/AD)」は軍事衝突の危険性を増している。
●米国と中国の間の軍事チャンネルは後退しており、冷戦時と同じ接触である。現実には戦争に向かっている。
●米国、中国共に「米中軍事関係の構築」が安全保障上の鍵であり、アジアの安全保障の将来を決めるという認識である。
●中国は、米国に対しては軍事的協調、ロシアに対しては平和的協調を唱えており、ロシアと同様に国境での脅威の存在を感じている。
●北朝鮮の新戦略、外交上のアプローチの変化について、各国が注目している。
●中国は、6カ国協議を開催し、北朝鮮を招くのがよいと考えている。
●ロシアは、債務問題によりEUでのエネルギー資源の輸入が減少したことにより、アジアへエネルギー市場を転換した。
●ロシアは、日本に対するエネルギー資源の輸出拡大に期待している。
●日本の石油・ガスの国内消費量の約10%はロシアから輸入するに至っている。
●今回、ロシアが開催国であるにもかかわらず、ロシアの安全保障についての発表がなかったことは残念であった。
●ただし、ロシアはアジア・太平洋の安全保障について、もっとアクティブになり、何らかの役割を果たし存在感を強めることを望んでいる。
●今回のような安全保障に関するオープンな国際会議をロシア主催で開催したことは、それ自身大きな価値があったものと考える。(以上抜粋)
http://www.asyura2.com/12/kokusai7/msg/301.html