尖閣対立 止まらぬ経済影響 長期化 双方益なし
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9月28日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
尖閣諸島問題で、訪日中国人は激減し、観光地は悲鳴を上げている。リスクを恐れる日系企業の「脱中国」の動きが加速するとの見方も。中国では日本製品の不買運動が続く。対立が長引くことは相互の利益にならない。まずは、政治と経済は分けて考える「政冷経熱」の時代に戻ることはできないのか。 (荒井六貴、上田千秋)
「中国からの団体客は少ないですね」。新宿駅東口に二十七日オープンした「ビックロ」のスタッフは盛況な店内で少々浮かない顔をしていた。
外国人観光客などを呼び込む「東京の新名所」を目指そうと、家電量販店のビックカメラとカジュアル衣料のユニクロがタッグを組んだ。店内には、英語、中国語、韓国語の表示があり、アナウンスも。ユニクロは約百人の外国人スタッフをそろえた。尖閣問題の影響について、ビックカメラの広報担当者は「一時的なものだろう」と話した。
十月一日は中国の建国記念日に当たる国慶節。多くの中国人が連休で、例年なら日本の観光業にとっても書き入れ時となるはずだった。ところが、尖閣問題で宿泊施設などでキャンセルが相次いでいる。
成田空港から入国して、東京、富士山、京都・大阪を経由して関西空港から帰国するツアーは、「ゴールデンルート」と呼ばれる人気コース。
富士山を望む富ノ湖ホテル(山梨県富士河口湖町)は二カ所の施設で十月中旬までの予約四千人分のキャンセルが出た。
周辺には中国人関係者が運営したり、中国資本の入っている観光ホテルも数カ所ある。中国人団体客を相手にしており、どこも苦戦気味だ。女性従業員は「国慶節休みはほぼ満室だったのに、一日平均六十人がキャンセルしている」と打ち明ける。
千葉県木更津市にあるホテルも中国人団体客を受け入れてきた。市商工観光課は「本格的な中国人観光客誘致をするところだった」と話した。
全日本空輸と日本航空は、日中路線の予約キャンセルが九〜十一月で合わせて五万五千件を超えた。テーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)の子会社は、集客が難しくなったとして、長崎と中国・上海を結ぶ定期旅客船を年内いっぱい運休にした。
観光庁によると、今年の中国人旅行者数は八月までで約百十三万人。東日本大震災の影響を受けた昨年一年間の総数を既に突破。過去最高だった二〇一〇年の百四十一万人を上回るペースだった。震災の落ち込みからの回復を目指していただけに、国際交流推進課は「国慶節は、日本のゴールデンウイークみたいなもの。水を差された形だ」と話す。
中国人の観光スポットの一つでもある東京・秋葉原。家電量販店「ラオックス」は〇九年、経営再建のため、中国企業の傘下に入った。ラオックスは「親会社が中国系で、政治に関わることなので、影響や業績の話は、控えている」とピリピリした反応だった。
中国各地でエスカレートしたデモや暴動は、表面的には沈静化している。休業に追い込まれていたパナソニックやキヤノンなどの工場も再開している。
ただ、日本製品の不買運動は拡大。日本の航空貨物の通関検査強化など経済的対抗措置も続いている。北京市当局が日本関連書籍の出版を禁止するなど文化的側面からの締め付けも明らかになった。
トヨタ自動車や日産自動車などの販売台数は大きく落ち込み、各社は減産を余儀なくされた。
四川省で始まった国際見本市では「安全が確保できない」ことを理由に、参加を予定していた日系企業六十社以上が事実上、締め出された。
野田佳彦首相は国連演説後の記者会見で「理性的で冷静な対応を堅持していきたい」としながらも、「妥協はあり得ない」と対立をあおりかねない発言をした。
状況の好転が見通せない中、日本企業は今後、どう動くのか。
大和総研の熊谷亮丸(みつまる)チーフエコノミストは「非製造業と製造業では対応が異なる。中国の十三億人の市場は大きな魅力がある。小売りやサービスなどの非製造業は、ある程度のリスクは覚悟して残るだろう。しかし、製造業は、中国以外の国にも拠点を持つ『チャイナ・プラス・ワン』を考える企業が増える」とみる。
かつては安い賃金で知られ、「世界の工場」だった中国もここ数年は経済成長が著しく、人件費が上昇。暴動などの「チャイナ・リスク」も高まっており、ベトナムやバングラデシュなど、生産コストが安い国に拠点を移す動きが進んでいる。今後は「脱中国」の動きが加速するかもしれない。
米国企業も同様だ。米ボストンコンサルティンググループの製造業百六社を対象にした調査では、「中国から製造拠点の移転を計画、もしくは検討している」と回答した企業が37%を占めた。
熊谷氏は「チャイナ・プラス・ワンは〇五年ごろに出てきた議論だが、今まではそれほど切迫感を持ってとらえられていなかった。今回の反日デモは、過去にない破壊や略奪行為が行われた。日中関係が違うステージに入ったといえる。企業は真剣に考えざるを得ないだろう」と話す。
〇一年、小泉純一郎首相(当時)が靖国神社を参拝したことに、中国は反発し首脳会談を中断するなどした。だが、当時は政治的な緊張は高まっても経済的な結びつきは維持する「政冷経熱」との考え方があり、互いに経済的措置は取らなかった。
経済的関係が比較にならないくらい強まった現在の両国。「政冷経熱」とはいかないのか。
中国情勢に詳しいジャーナリストの青木直人氏は「日本企業は、かつてないほど中国のリスクを意識している。進出をためらったり、撤退するところが出てくるのではないか」と話す。
ただ、現在の状況が両国にとってプラスにならないのは明らか。青木氏は「現地で生活している日本人のためにも解決を急がなければいけない」と訴える。
「駐在員は息を潜めるような生活を強いられ、とてもビジネスができるような状態ではない。EUや米国からの投資が減って日本に頼らざるを得ない中国も、どこかで手を打たなければならないことは分かっている。両国とも大局に立ち、少しでも早く、落としどころを見つける必要がある」
<デスクメモ> 十五年ほど前、中国を旅行した。天安門広場近くの物陰で、ガイドがささやくように政府批判をしていたことを思い出す。今や、デモは政府を脅かすほどの影響力があるらしい。領土問題は簡単には解決しない。現実的で建設的な付き合い方をするしかない。威勢のよさだけでは、悪化するだけだ。 (国)