マーケットは正直である。野田氏が代表に選出されたとのニュースが流れた途端に、東京株式市場の日経平均株価は、前日比128円高の8926円から下がり、29日の終値は53円高の8851円で終わった。通常は、新首相誕生ならご祝儀相場で株価は上がるものだが、増税路線の首相が誕生すれば日本の景気は悪くなると、マーケットは判断した。これからの日本経済は思いやられるということなのだろう。
誰が見ても野田新首相は、財務官僚に洗脳された「財政健全派」で、民主党員の中でも最も自民党に近い人物である。だから「増税」と自民党との「大連立」を掲げて代表選に立候補した。みんなの党の江田けんじ議員が、自身のブログで野田氏のことを「財務官僚のパペット(=操り人形)」と揶揄したが、野田氏の履歴と財務相としての実績から見れば、当にその通りである。それにマーケットが反応しただけだ。
喫緊の課題である「急激な円高対策」と「震災復興財源」についての、野田氏の政策は、「外為特会での1千億ドルの購入」と「現役世代による税負担」である。今の円高は日本円の独歩高ではない。米国の財政・経済不安から、ドルが信認を失ったもので、震災と原発事故の二重苦の日本経済の方がより深刻なのだ。そこで「1千億ドルの購入」に何の意味があるのだ。ただ、7〜8兆円を“どぶ”に捨てるだけだろう。
加えて、「後の世代に負担を残すな」と言って、震災復興財源を現役世代による税負担だと言うのだから、財務省の言いなりである。第3次補正予算から後の復興事業の大半は、道路・港湾・護岸など、「後の世代のための社会インフラ」が中心になる。だから、震災復興財源は建設国債と同じ発想の長期復興債にすべきなのだ。それが理解できないのだから、多くの経済評論家が最悪の人を選らんだと言うのは当然だ。
経済財政が分らないから、「財政再建なくして、経済成長なし。経済成長なくして、財政再建なし」と、全く矛盾したことをスローガンに掲げた。「経済成長なくして、財政再建なし」は正しい。だが、財政再建=緊縮財政で経済成長した国は、世界中探しても、過去に一国も例がない。20年もデフレ経済が続く日本経済をどうするか。それには、彼が失言した「復興需要を千載一遇のチャンス」にすることだろう。
代表選で民主党議員は、リフレの海江田・馬淵ではなく野田氏を選んだ。マスコミは反小沢で一致したと、政策ではなく政局を中心にした解説をしている。多分それが正しいのだろう。つまり民主党議員の多くは、「国民の生活が第一」よりは、「自分の身が第一」を選んだと云うことになる。処で、野田氏は立候補演説の中で、「国民の生活が第一の政治を行う」と言ったのだが、それはいったい何なのだろう。
そもそも「国民の生活が第一」のスローガンは、小泉似非構造改革・新自由主義によって「勝ち組・負け組」の格差社会になった日本を、「共に生き共に幸せになる」という「共生社会」に創り変えるという政治理念を示したものである。この政治理念を実現するのが、自民党が、民主党のマニフェストからの撤廃を迫る4K政策である。
そして、野田氏は自民党との大連立を言うし、4Kを見直す3党合意を守ると言うのだから、「国民の生活が第一」とは矛盾することになる。こう云う矛盾した発言を誰も指摘しない。野田氏に続いた鹿野氏も演説の最後で「国民の生活が第一」を絶叫していた。この二人はテレビの前の国民を意識し、「国民の生活が第一」を絶叫したとしか思えない。
今、本稿を書きながら演説内容を思い出そうとしたのだが、不思議なことに、その言葉以外に何も思い出せないのである。おそらく「国民の生活が第一」の中身が何も無かったからだろう。それでも強いて善意に解釈すれば、小沢氏に近い輿石幹事長、鳩山氏側近の平野国対委員長という党役員人事は、3党合意を破棄するサインになる。
自民党はそのように解釈しているようだ。だが、悪意に解釈すれば、この二人に3党合意の踏み絵を踏ませ、「国民の生活が第一」の約束を破ったのは、小沢・鳩山派だとしたいと云うことになる。それは、遅かれ早かれ分ることだ。いずれにしても、このような矛盾を抱え込んだ経済音痴の首相の下では、早晩この内閣は行き詰るだろう。
「国民の生活が第一の政治を行う」の言葉に誑かされ、政治理念・政策を考えないで、単に政局だけで代表・首相を選んだ民主党。オリーブの声でも述べてあったように、「終わりの始まり」の第一歩を踏み出したようだ。多くの経済評論家が、最悪の人物を首相に選らんだと言うのは正鵠を射ているようだ。
http://www.olive-x.com/news_30/newsdisp.php?n=113504
http://www.asyura2.com/11/senkyo118/msg/789.html