60. 2011年6月01日 21:28:09: n6aOcXoK2w
*「しきい値」という境界線
大量の放射線を一度に浴びたとき、どのようなことが起きるのだろうか。具体的な障害が発生する場合について、見ていくことにしたい。
ちなみに、ここで「具体的な障害が発生する」とか「大量の放射線を一度に浴びたとき」といったように、一見くどい書き方をしているのには理由がある。
普通の地球環境での自然放射線のような、ごく少ない線量では具体的な障害が現れない。つまり、放射線を浴びると必ず目に見える障害が現れる、というわけではない。一定量を超える放射線が当たらないと、ここでいう障害としては現れない。
具体的には、線量がごく少ない時には何の変化も見られない。変化が現れるのは「しきい値」(閾値)とされる量、すなわち、ある変化を生じうる最低限の量や強さを超えてからのことで、量の増加にしたがって障害が現れる頻度が高くなる。そしてある線量以上になると「障害が100%発生する」ようになる。
また、線量が「しきい値」を超えると、量の増加に比例して障害が重大になる、つまり障害の程度が重くなるという現象が見られるようになる。このような形で現れる障害を、ある程度以上の放射線量を浴びると必ず起きるという意味から「確定的影響」と呼んでいる。
実は、ひとくちに放射線による障害といっても、この確定的影響のように一定量を超えると必ず現れるものだけではない。放射線を浴びることで影響が現れる確率が高くなる、たとえばガンを発病する確率が上がるなどの「確率的影響」がある。
こうしたことから、目に見える(具体的に観察される)影響が出る場合に限るという意味で、ここでは「具体的な障害が発生する」と書いている。
また、「大量の放射線を一度に」と断った理由も、放射線の人体影響を考えるうえでポイントとなる特徴に関係してくる。
放射線は瞬間的なエネルギーの流れであるから、その性質からいって「体内に溜まる」ということ自体がありえない。そのため人体への影響度を決める第一の条件は、放射線の種類とその線がもつエネルギーの強さとなる。
第二の条件としては、放射線が当たった人体の組織や臓器が、どのくらい放射線に対して強い(弱い)かという「放射線感度」の問題となる。
そして第三の条件は、ダメージを修復する余裕があれば、継続的な放射線の曝露にも耐えられるということ。
曝露された臓器によって影響の内容は異なるものの、決定的なダメージを受けなければ細胞や組織はすぐに修復に向かう。このメカニズムによって、弱い放射線を継続的に浴びる状況では、ダメージそのものが残らないケースさえありうる。
仮に、ダメージを受ける場合でも、一度に大線量の放射線を浴びる時に比べれば、損傷の程度が小さくなる。こうした傾向を「線量率効果」と呼んでいるのだが、障害に対する回復力が人体に備わっているからこその現象といえる。