この子どもの場合には、三歳ごろから記憶を語り始め、六歳のころにはイラストも描くようになり、七歳のころに最も詳しく説明してくれましたが、その後はどんどん忘れていった。
『おなかの中は赤紫のスライムのかたちみたいな、つぼのようなとこで、ザーザーとなにかが流れる音と、ドクドクと音がしている。中はぶよぶよで、なまぬるい水が入ってる。ぼくは丸まっていて、ママのおなかとおへそから出ている線でつながっている。
体がいちばん大きくなったときに、とつぜんママのおなかが動き出して、押し出された。おなかの外に出るときは、しゅーっと吸い込まれていく。
出口がこのくらいの大きさになったとき、ふしぎのトンネルに入っていった。ふしぎのトンネルは勝手に動いてぼくを押し出す。トンネルの中はすじがいっぱいで、これが肩にひっかかって時間がかかる。ちょっときつくてくるしい。
最初は押し出してくれたのに、最後は自分の力で出ないといけないのがたいへんだった。どんどんきつくなっていって、前からみると掃除機のホース見たいで、赤紫色。自分でがんばってはい出ようとしたのだけど、肩のへんとか足のへんとかが、ゴムで締めつけられた感じがする。息はぜんぜん苦しくない。
出口近くになると、まくがうすくなって、外が透けて見える感じ。そんなに痛くないし、苦しくもなくて、ただ出にくいだけだった。
頭が出はしめたら、目がだいぶ開くようになって外に出たら完全に目が開いた。泣きたくもないのに、自然に体が泣きはじめて、そしたら目つぶっちゃった』
【出所】「生きがいの創造V」飯田史彦/php‘07年
http://www.asyura2.com/09/bun2/msg/427.html