上念司氏の“財務省と大新聞が隠す 本当は世界一の日本経済”と、藤巻健史氏の“「日本は例外にならない」−国家は破綻する”を読んだ。
上念氏はこの本第一章の冒頭Q−Aの形で「Q1:日本政府に資産があるといっても、それは道路や空港など固定資産がほとんどで、すぐには換金できませんよね?」に対して「A1:いいえ、七割方は金融資産なので、すぐに換金できます。財務省が発表している『日本国のバランスシート』を見れば明らかです。」と主張している。
P15に“図表1 国の貸借対照表(平成26年度末)”が掲げられているが、どこを見ると「明らか」なのかさっぱりわからない。この表で26年度末に、資産合計が679.8兆円、負債合計が1,171.8兆円、資産負債差額▲492.0兆円となっている。▲492.0兆円とは、債務超過という意味である。これをどう見たら「七割方は金融資産なので、すぐに換金できます。財務省が発表している『日本国のバランスシート』を見れば明らかです。」という根拠になるのだろう。
「国民がすぐに使える579兆円」という所では、国のB/S中の「有形固定資産」の説明に続いて「日銀が持つ国債残高(220兆円)は政府の子会社の資産ですから、ある種の金融資産です」とある。
日銀の資産としての国債残高は国の負債としての国債残高で打ち消されるから一方だけを計上して資産とすることはできない。日銀は一つの経済主体であるが、無理に政府と日銀を一体としてB/Sを考えるなら、日銀の負債であるマネタリーベース(紙幣発行残高と日銀当座預金残高)も国の負債として計上しなければならない。
P60には「図表8 日米英欧の中央銀行バランスシートの推移」があり、「各国の中央銀行は望ましいインフレ率を実現するために金融政策を行」ったが、日銀は『刷り負けた』としている。しかし、このグラフは意図的に2011年の途中で終わっている。このグラフを見る限り他の中央銀行がバランスシート(ほぼ通貨発行量)を急激に膨らませているのに対して日本銀行は平準を保っておりきわめて健全に見える。ところが日銀のバランスシートは2012年から急激に膨れ上がり、2010年の約100兆円から2016年上半期には457兆円になっている。
藤巻健史氏はこの本の中で、「異次元の緩和」により「貨幣量の伸び方が異常」となっており、「最後は必ずインフレになって破綻する」と主張している。また、野口悠紀雄氏の「日本は財政支出を中央銀行の紙幣増刷で賄う『ヘリコプターマネー』にすでに手を染めており、世界最悪の公的債務を高インフレで解決する可能性が高い」の主張を紹介している。
藤巻氏の著書のタイトルは『国家は破綻する』であるが、日本の国債は円建てなので日銀が円の増刷(実際には日銀B/Sの拡大)で額面通りに償還できるから、破綻といっても国債のデフォルトといったことはありえず、日本円に対する信認が失われる、つまりインフレの程度の問題であろう。藤巻氏は、異常にB/Sを拡大しているので、今後利上げなどがあると、日銀の経営に欠損が生じて債務超過も予想される。債務超過が巨大ななると通貨の信認を維持するのは困難で、ハイパーインフレなると予想する理由の一つとしている。
上念氏はハイパーインフレの定義として、経済学者ケーガンの「月率50%、年率13,000%」を示し、@生産設備の徹底的な破壊 A労働力の極端な不足 B高額紙幣の大量発行 のどれかの要件の達成が必要なので日本でハイパーインフレは起こらないとしているが、都合の良い定義を持ち出して、ハイパーインフレは起こらないとするのはあまりに我田引水ではないだろうか。ケーガンのハイパーインフレの定義が一般的なわけでなく、国際会計基準の定めでは「3年間で累積100%(年率約26%)の物価上昇」とされている。確かに大戦前のドイツのように短期間に物価が数万倍になることはなくとも、日本の戦中から戦後にかけての二桁のインフレも日本国民の生活にも日本経済にとっても破壊的である。
上念氏にはまじめな論議を期待したいものである。
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