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[国際18] トランプ米政権、IS打倒に向け68カ国の外相会合を初開催 違う生物トランプとオバマ 米国から同盟国と呼ばれなくなった韓国
World | 2017年 03月 22日 18:13 JST 関連トピックス: トップニュース

トランプ米政権、IS打倒に向け68カ国の外相会合を初開催

[ワシントン 22日 ロイター] - 米ワシントンに22日、68カ国の外相が集まり、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に向けた対策を協議する。昨年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利して以来、米国が主導する有志連合がこうした会合を開くのは今回が初めて。

会合は、ティラーソン米国務長官が主催。イラク北部モスルの再建支援や、リビアなどでのIS対策などについても協議される見通し。

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http://jp.reuters.com/article/mideast-crisis-usa-idJPKBN16T0XB

 

「君は2種類の違う生き物の話をしているよ」
トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
国境のレストランオーナー、オバマとトランプを語る
2017年3月23日(木)
篠原 匡、長野 光
 米国最南端の町、ブラウンズビル。メキシコ国境に隣接する町には国境のフェンスが既にある。もっとも、両国を隔てるリオグランデ川から離れたところに建てられたため、実際の国境とフェンスの間に取り残された住民も少なくない。彼の日常生活に支障が出ないよう、道路のところはフェンスが切れている。フェンスの目的が不法移民を阻止することだとすれば、その効果は全くない。

 「米国第一主義」というスローガンの下、トランプ大統領は雇用の国内回帰と治安の強化を推し進めようとしている。その政策を支持する米国人は一定数、存在する。それでは、国境に住む人々はどう感じているのか。 「フェンスの向こう側」シリーズ5回目は、ブラウンズビル(米国)の対岸の町、マタモロス(メキシコ)で人気レストラン「Garcia's restaurant bar」を経営している親子に意見を聞こう。
(ニューヨーク支局 篠原 匡、長野 光)
(フェンスの向こう側  Vol.1 / Vol.2 / Vol.3 / Vol.4  から読む)

メキシコとの国境に接するブラウンズビル(米国テキサス州)。国境のフェンスよりメキシコ側に住むアメリカ人が少なからずいる
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/032200017/map.jpg

フェンスの向こう側 Vol.5  レストラン・ガルシア
Raul Garcia(ラウル・ガルシア)
Manuel Garcia(マヌエル・ガルシア)
レストランなど経営
 過去10年を振り返ると、最初の8年は客足が減少しましたが、ここ2年くらいはだいぶ戻ってきています。麻薬カルテルの抗争でマタモロスが特に危ないという噂が広がったことがとにかく大きかったですね(参考記事「パトカーが先導する『死のハイウエー』、メキシコ」 毎日新聞)。マタモロスだけでなく、国境の町はどこも危険でしたが、メディアが危険性ばかりを声高に語ったんです。そういう話が、ここ2年でようやく落ち着いてきました。

「銃撃戦なんて一度も見たことはありませんよ」
 噂ではなく事実ではないかって? 確かに、ここから10マイル(約16キロメートル)、20マイル離れれば危ないところもあるかもしれません。ただ、私たちの店は国境のゲートからあまりに近いので、麻薬カルテルが銃撃戦を始めるなんてことはまずない。私の家族はマタモロスに住んでいますが、銃撃戦なんて一度も見たことはありませんよ。

ブラウンズビル(米国)の住民が足繁く通う人気レストラン「Garcia's restaurant bar」のラウル・ガルシア氏(写真:Miguel Roberts、以下同)

 その昔、この場所に大きな市場があったのですが火事で焼失してしまいました。その跡地を私の父が購入しビジネスを始めたのがきっかけです。1969年のことです。その後、1980年か1981年にまた火事があり、当時のビルが全部燃えてしまった。それで1983年に今のビルを建てたんです。

2000年代後半以降、麻薬カルテルの抗争が激化したマタモロス(メキシコ)。外務省の海外安全情報ではレベル2(不要不急の渡航は止めてください)に指定されている

 もともとは米国からの旅行者向けにメキシコのアートや雑貨を扱っていましたが、奥さんが買い物をしている間、旦那さんが酒を飲んで待てるように…とバーを併設したところこれが成功しまして。その後、レストランやドラッグストアとビジネスを拡大していきました。1975年頃は10人客が来たら8人が米国人でしたが、今は国内(メキシコ)のお客さんの方が多いね。

安価な薬を求めて米国から買いに来る人が多い
 ドラッグストアを開いたのは、薬を買いに来る米国人が多いからです。向こうで「タイレノール」(頭痛・解熱薬)がいくらするのかしらないけれど、こちらでは30錠が1ドル程度で手に入る。マタモロスの病院に通う人も多いですね。米国では虫歯を治すのに1000ドル近くかかると思いますが、こちらだと100ドルで直してくれる。医者の腕? 全く悪くありませんよ。

マタモロスの町には安価な薬や歯科治療を求めて大勢の米国人がやってくる

 私が子供の頃、1975年ぐらいの話ですが、国境警備自体ほぼありませんでした。みんな好きに行き来して、1週間くらい米国で過ごして帰るなんていうこともよくあった。リオグランデ川も今よりずっときれいで、子供の時はよく泳ぎました。とても楽しかったですね。
 政治に関するコメントは控えさせてもらいますが、国境警備の厳格化やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しでマキラドーラ(注)が影響を受けることはあり得るだろうね。自動車産業は特に怖がっているよね。ああ、父がちょうど来ました。
(注)製品製造にかかる原材料や部品、機械を無関税で輸入できる保税輸出加工区のこと。ティファナやシウダー・ファレスなどメキシコの国境の町にある。

八百屋の店主とマタモロスの日常

仲のいい隣人との間に壁を作るなんて
 私は「壁」に大反対だ。なぜかって? メキシコと米国はずっと仲良くやってきたんだ。それなのに、トランプは高い壁を建設するといっている。攻撃的だ。これは人権に関わる問題だ。仲のいい隣人との間に壁を作るなんて。われわれのビジネスに与える影響なんてどうでもいい。人権の問題なんだ。
 何で壁なんて作る必要があるんだ? 米国の大統領はしゃべり方、やることなすことすべて攻撃的だ。オバマはどうかって? 君は2種類の違う生き物の話をしているよ。片方は横暴で、片方は穏やかでナイスだ。ケンカの前に、まずは座って話そうじゃないか。オバマは本当にいい大統領だった。
 壁の費用なんてメキシコが払うわけないだろう! この店のためにカネを借りれば払うのは私だ。そんなの当たり前だろう。NAFTAはどうかって? 彼はやめないと思うよ。彼自身が必要と思うはずだ。時々、ヒトラーみたいなクレイジーな人間が出てくる。トランプとヒトラー? そっくりだよ。

このカーブを曲がると入国ゲートがある

 日経ビジネスはトランプ政権の動きを日々追いながら、関連記事を特集サイト「トランプ ウオッチ(Trump Watch)」に集約していきます。トランプ大統領の注目発言や政策などに、各分野の専門家がタイムリーにコメントするほか、日経ビジネスの関連記事を紹介します。米国、日本、そして世界の歴史的転換点を、あらゆる角度から記録していきます。


このコラムについて
トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/032200017/

 

米国から「同盟国」と呼ばれなくなった韓国

早読み 深読み 朝鮮半島

「食事会なし」で韓国を離れた米国務長官
2017年3月23日(木)
鈴置 高史

尹炳世外相と臨んだ会見で、ティラーソン国務長官は厳しい表情を見せた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(前回から読む)

 米韓の間の外交的な亀裂が、傍目にも分かるほどに広がった。

岸田外相とは飯を食べたのに

鈴置:米国のティラーソン(Rex Tillerson)国務長官の訪韓で騒ぎが起きました。国務長官は3月15日からの訪日の後、17日にソウル入りしました。

 米国は現在、THAAD(=サード、地上配備型ミサイル迎撃システム)の在韓米軍への配備を進めています。それを韓国が邪魔しないよう督励に来たのです。

 マティス(James Mattis)国防長官らの訪韓と同様、対韓圧力の一環です(「米国のTHAADを巡る対韓圧力」参照)。

米国のTHAADを巡る対韓圧力
2016年
12月20日 安全保障補佐官に内定のフリン元陸軍中将、訪米した韓国政府高官に「THAAD配備は米韓同盟の強固さの象徴」
2017年
1月31日 訪韓を前にしたマティス国防長官、韓民求国防長官に電話し、THAAD配備を確認
2月2日 マティス国防長官、訪韓し「北朝鮮の核の脅威が最優先課題」と表明、THAAD配備も再確認
3月1日 マクスター安全保障補佐官と金寛鎮・国家安保室長、電話会談し「THAAD配備を再確認」
3月1日 マティス、韓民求の米韓両国防長官、電話で会談しTHAAD配備を再確認
3月6日 米軍、THAADの一部機材を烏山空軍基地に搬入
3月17日 訪韓したティラーソン国務長官、会見で「韓国の次期政権もTHAADを支持することを期待する」
 ティラーソン国務長官は翌18日に北京に向かいましたが、韓国政府の誰とも食事をしませんでした。これが騒ぎの発端です。

 韓国各紙は「尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官が夕食に誘ったのに断られた」と一斉に書きました。

 中央日報の「米国務長官、日本外相と1時間の夕食会、韓国では会談だけ」(3月18日、日本語版)から引用します。

予想されていた尹長官との夕食会がなかった。韓国側は今回の訪韓を契機に両国外相間のスキンシップ強化を内心望んでいた。
このため外交部は当初、夕食会の日程を構想していたが、ティラーソン長官は個人の日程を消化するという立場だった。外交部は招待を断られる格好となった。
ティラーソン長官は岸田外相とは3月16日午後5時40分から1時間ほど業務協議を兼ねて夕食会をした。
同長官は3月17日の晩、ナッパー(Marc Knapper)駐韓米国大使代理と食事をし、韓国の動向などについて報告を受けたという。
国務長官の「疲れ」のせいだ

「差別された」と怒っているのですね。

鈴置:韓国人はどんなことでも「日本並み」の待遇を受けないと怒り出します。当然、この怒りを英語でも発信しました。

 コリア・ヘラルド(The Korea Herald)はティラーソン訪韓のまとめ記事「US says 'strategic patience' on NK is over」(3月17日、英語)の最後でそれを訴えました。

Tillerson spent almost 2 1/2 hours with Japanese Foreign Minister Kishida including a dinner, and another hour with Prime Minister Abe. But his meetings with Yun and Hwang were each confined to about an hour, without a lunch or dinner gathering. Seoul officials said the US side opted not to have a meal together, citing the secretary’s “fatigue.”
 岸田外相とは夕食付きで2時間半も話したのに、尹外相とはたったの1時間。ランチも夕食もなかった――という恨み節です。

 これだけなら「また韓国人がひがんでいるな」という話で終わったと思います。が、韓国の役人が言ったとされる「余計な一言」が問題に火を付けました。「食事なしはティラーソン長官の疲労のせい」との部分です。

 米国の外交界には「韓国疲れ」(Korea Fatigue)という言葉があります。日本の足を引っ張ろうと韓国政府が「日本の首相を米議会で演説させるな」などと無理難題を言うようになったからです(「米国の『うんざり』が『嫌韓』に変わる時」参照)。

 米国の外交担当者は一時は韓国人に会うのも嫌がるようになりました(「『アベの米議会演説阻止』で自爆した韓国」参照)。でも、今回の「疲れ」は肉体的な「疲労」です。

 この記事を読んだ誰もが「それぐらいの体力がなくて米国の国務長官が務まるものか」と考えたことでしょう。さっそく、世界のメディアがこの記事を引用しました。

 ワシントン政界に大きな影響力を持つ政治サイト「ザ・ヒル(The Hill)」は「Report: Tillerson cuts short South Korean Visit, citing ‘fatigue’」(3月17日、英語)と「疲労」を見出しにとりました。

 訪韓のまとめ記事ですが「疲労のために訪韓日程をはしょった話」から書き起こしています。

韓国政府は嘘八百

なぜ、韓国の役人は「疲れのせい」にしたのでしょうか。

鈴置:米国側の、それも不可抗力の理由にしておかないと「日本と比べ軽んじられた」との怒りが、自分たちに向くと思ったからでしょう。韓国の役人が本当にそう言ったとしての話ですが。

 国務長官としての資質に疑問を付けられたティラーソン長官は、直ちに反論しました。3月18日、ソウルから北京に向かう機中で、ただ1社だけ長官搭乗機への同乗を許されたウェブメディア「インデペンデント・ジャーナル・レビュー」(IJR)の記者に以下のように語ったのです。

 「Transcript: Independent Journal Review’s Sit-Down Interview with Secretary of State Rex Tillerson」(英語)から引用します。記者の初めの質問が「韓国紙は疲労から夕食会を断ったと報じているが、何があったのか?」で、それへの答えです。

They never invited us for dinner, then at the last minute they realized that optically it wasn’t playing very well in public for them, so they put out a statement that we didn’t have dinner because I was tired.
 ティラーソン長官は「私が夕食会を断ったのではない。韓国政府が招いてくれなかったのだ」と明言しました。さらには「それが明らかになると世論に悪い影響が出ると気がついた韓国政府が、私の疲労のせいにしたのだ」と言い切りました。

 すると記者がすかさず「韓国側が嘘を言っているのですね?」と確認しました。それに対してティラーソン長官は「いや、状況を説明しただけだ」と答えました。

中国の顔色を見た韓国

「状況を説明しただけ」ですか……。

鈴置:「韓国人が嘘つきと大声で言うつもりはないが、彼らの言っていることは嘘だ」ということです。

 長官は自らの主張を補強するためでしょう、「政府高官の日程はホスト国が組むものだ」と付け加えています。

どちらの言っていることが本当なのでしょうか。

鈴置:それに関しては「ヴァンダービルド」のペンネームで外交・安保に精力的に筆をふるう韓国の識者が考察を加えています。

 崔甲済(チェ・カプチェ)ドットコムの「朴槿恵の最悪の失策は尹炳世の起用」(3月20日、韓国語)の一部を翻訳します。

ティラーソン長官の主張が事実なら「尹炳世の外交部」の態度(思惑)を以下のように推定(仮定)しても無理筋ではない。
「中国はTHAAD配備に反対している。ティラーソン長官は配備を督励(強調)するために韓国に来た。その長官を我々(韓国外交部)が手厚くもてなせば、中国が不快に思うことだろう」
「ズボンが破れた」と言い訳

「飯なし」は中国の顔色を見てのことだった、というのですね。

鈴置:十二分にあり得る話です。中国の反対を懸念して韓国外交部はTHAAD配備に消極的でした。朴槿恵政権内部でも、配備派の国防部と厳しく対立していました。

 2016年7月8日、国防部は在韓米軍司令部と突然、「2017年末までの配備に合意した」と発表したのです。この時「尹炳世の外交部」は決定に「すねて見せる」パフォーマンスを敢行しました。

 国防部の記者会見と同時刻に尹炳世長官は「ズボンが破れた」と称し、ソウル市内の百貨店の紳士服売り場でショッピングをして見せたのです(「『中国入り陣営寸前』で踏みとどまった」参照)。

 外相として顔を出してもいい会見には出ず、敢えて衆目の中で買い物をする――。韓国では「私は配備に反対しました」との中国に対する言い訳だったと見なされました。

 中国に気に入られるためなら、せこいパフォーマンスを平気でやる外相ということです。である以上は今回の「飯なし事件」の犯人も韓国側と見なされてもおかしくはありません。

安倍首相にも「飯なし」

そう言えば、訪韓した安倍晋三首相に対しても「飯なし」でしたね。

鈴置:2015年11月、日中韓首脳会談に出席するため訪韓した安倍首相は朴槿恵(パク・クンヘ)大統領と2国間でも会談しました。が、食事には招待されませんでした。朴槿恵大統領は李克強首相に対しては晩さん会で歓迎しましたから、露骨な嫌がらせです。

 どの国でもそうですが、ことに韓国では客に飯を出さないというのは異常なこと。当時、韓国では「いくら日本との関係が悪いからと言って、これは恥ずかしい」との声も上がりました。

 ヴァンダービルド氏も先ほど引用した記事で、安倍首相とティラーソン長官がそれぞれ経験した「飯なし事件」を並べて書いています。以下です。

「尹炳世の外交部」にはすでに「反日に迎合する昼食不提供(対安倍)」という前科がある。先の推定が正しければ、今回は「親中に迎合する夕食不提供(対米国)」である。
中国の顔色を見、反日勢力の顔色を見るためなら、友好国(米日)との外交に悪影響を及ぼす非礼も辞さないアマチュア(国益毀損)外交を「尹炳世の外交部」は展開してきたのだ。
「文在寅の門前」に市

韓国人はよほど中国が怖いのですね。

鈴置:元・朝貢国とはそういうものなのでしょう。もっとも「尹炳世の外交部」が顔色を見るのは中国だけではありません。

 5月9日の大統領選挙で本命と見られるのが文在寅(ムン・ジェイン)「共に民主党」前代表です。

 朴槿恵前大統領の「国政壟断事件」が起きる直前には、北朝鮮との関係を疑われて支持率が低迷していました。というのに大統領の弾劾事件を主導した形となって、他を大きく引き離す人気No.1候補に躍り出たのです。

 文在寅・前代表は反米左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で秘書室長を務めました。今も「大統領になったら、THAAD配備の見直しや開城工業団地の再開を検討する」と明言しています。

 そして「共に民主党」は大統領権限代行の黄教安(ファン・ギョアン)首相に対し「THAAD配備は国会の批准を得てからにせよ」と米国との約束をひっくり返すよう要求し始めました。

 朝鮮日報が「事前に約束もなしに突然、黄代行を訪れTHAADを抗議した民主党」(3月21日、韓国語版)で報じています。

 政権をとったかのような「共に民主党」の一連の振る舞いに、同紙は社説「いくら支持率1位とは言え、やり過ぎの民主党人士」(3月17日、韓国語版)で厳しく批判しています。

 一方、役人も次期政権で登用してもらおうと、文在寅氏の周辺に群がっています。朝鮮日報の「文の前に列を成す官僚たち」(3月17日、韓国語版)が詳しく報じました。

韓国はただのパートナー

それを聞くと今回の「飯なし事件」の犯人は「尹炳世の外交部」という気がしてきました。

鈴置:確たる証拠はありませんが、状況証拠では真黒です。ティラーソン長官も、そうしたレクチャーを受けたと思います。ちゃんと「お返し」しています。

 先に引用した「インデペンデント・ジャーナル・レビュー」(IJR)の「Transcript: Independent Journal Review’s Sit-Down Interview with Secretary of State Rex Tillerson」で、「尹炳世の外交部」を真っ青にさせる発言をしました。

 「韓国人の嘘」に関する会話の次に「日本に何を求めるか」と聞かれた長官は以下のように答えました。

Japan is ― because of the size of their economy ― they are our most important ally in the region, because of the standpoint of both security issues, economic issues, stability issues. So that’s not anything new. That’s been the situation now, for decades. South Korea, similarly, is an important partner relative to stability of northeast Asia.
 「日本は最も重要な同盟国」と語った後に、聞かれてもいない韓国に触れ「北東アジアを安定させるための重要な1つのパートナー」と述べたのです。

 韓国では「日本が最も重要な同盟国と位置付けられた半面、我が国は同盟国と呼んでもらえなかった」「米国にとって、我が国は『1つのパートナー』に過ぎない」と問題になりました。

 聯合ニュースのシム・インソン・ワシントン特派員の「ティラーソン『日本は同盟、韓国はパートナー』で論議、日本優先の本音が露呈?」(3月20日、韓国語版)は、必死で火を消そうとする韓国の外交関係者の発言を紹介しています。

ティラーソン長官はインタビューで米日と韓米関係に不均衡はないと言っている。全体の文脈を見れば「同盟」か「重要なパートナー」かに意味を与える必要はない。
 しかし、この記事はそれを否定する次のような「反証」も載せています。

米国の当局者は通常、友好国に言及する時には戦略的な重要度に応じて、同盟―友人―パートナーの順で言及する。
お灸を据えた米国

「同盟国事件」は、ひがみがちな韓国人の思い過ごしでしょうか。

鈴置:いいえ、ティラーソン長官は意図的に韓国を「同盟国」扱いしなかったのだと思います。

 この「たった1人の同行記者」との一問一答は実によく練られていて、米国政府の意向の微妙なヒダまで伝えています。

 例えば「日韓の核武装」というテーマにも触れていますが、日本で大騒ぎにならないよう言葉を選ぶ半面、「北の核武装を許すのなら日韓にもさせるぞ」と、ちゃんと中国を脅しています。

 米国政府の意向をとにかく正確に伝えることを狙ったこの記事で、不要な誤解を招く発言をするはずはありません。明らかに韓国にお灸を据えるために「同盟国から外した」のだと思います。

身から出たサビ

そもそも韓国は米国から離れ始めていますしね。

鈴置:そこです。韓国人は「米国が大事にしてくれない」と文句を言いますが、韓国自身が米中二股外交に邁進して来て今、一気に「離米」に動くところなのです。「軽んじられる」のは当然です。身から出たサビなのです。

 ことに第2次朝鮮戦争が始まるかもしれないという時です。米国にすれば、在韓米軍を守るTHAADの配備を韓国政府に邪魔されてはかなわない。

 ティラーソン長官の訪韓の最大の目的は、韓国が中国側に寝返ってTHAAD配備を拒否することを防ぐことでした。

 しかし5月中旬にスタートする次期政権は配備拒否に動く可能性が高い。現政権でさえ、中国の顔色を見るのに必死であることが現地に来てよく分かったことでしょう。

 となれば、ここで一発、韓国を脅しておく必要があります。「THAAD配備を拒否したら同盟を打ち切るぞ」――とです。

 同盟を直ちに打ち切るかはともかく、配備を拒否したら米国は在韓米軍の撤収に動くと見るのが日米の専門家の常識となっています。

 「パートナー」という言葉にも意味があるのかもしれません。米軍は北朝鮮の核武装を防ぐために韓国の基地を使う可能性が大です。

 「パートナー」からは「とにかく基地は使うからな。その後、同盟がどうなろうと気にしない。もう、お前は一時的な協力者に過ぎないのだ」との米国の気分が嗅ぎ取れます。

「米韓」は「日米」の下受け

ティラーソン長官の脅しは効きましたか?

鈴置:大いに効きました。韓国経済新聞の社説「『日本は核心同盟、韓国はパートナー』と述べた米国務長官」(3月21日、日本語版)は「同盟国事件」と「飯なし事件」に関し、強い懸念を表明しました。

韓米同盟は我々にとって死活的な利害関係だ。繁栄を可能にした原動力でもある。「隷属だ」と騒ぐ一部の声は民族主義的な安っぽい感傷論にすぎない。
米国は「アメリカファースト」のスローガンの下、外交安保葛藤を覚悟して原点から見直している。世界は動いているが、韓国外交部はどういう考えなのか心配だ。
 朝鮮日報は3月21日の社説「米国務長官の言葉通り、朝鮮半島の未来は予測できない」(韓国語版)で以下のように書きました。

トランプ政権は韓米同盟を米日同盟の下部システムと認識している感もある。米国の朝鮮半島政策と韓米関係が、これまでは想像もできなかった方向にも行くかもしれないという事実をまずは受け入れねばならぬようだ。
 「米韓同盟」は「日米」の下請けに過ぎなくなった。それに気づかず今まで通りに行動していると、米国から見捨てられるかもしれない、との焦りの表明です。

陳謝のためワシントンへ?

 中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)ワシントン総局長も同じ日に「あきれる韓国外交」(日本語版)を書きました。この記事は「飯なし事件」を主題にしていますが、興味深いくだりがあります。

怒ったティラーソン長官に陳謝でもするかのように、尹炳世外交部長官は会談4日後の21日、我々には特に急ぎでもない米国務省主催の「反イスラム国(IS)外相会議」に出席するためワシントンへ行く。
 確かに、尹外相のこの会議への参加発表には唐突感がありました。「陳謝」のための可能性が大です。記事は以下のように結ばれています。

朝米間、米中間の衝突より韓米間の衝突が先に発生するしかない構造だ。その場合、「コリアパッシング」どころか、韓米同盟64年の最大の危機を迎えることもある。大統領候補らはそのような覚悟ができているのか。
「名誉革命」が呼ぶ米韓同盟の危機

 ほとんどの保守系紙を含め、韓国メディアは「世界に誇る名誉革命」と、朴槿恵弾劾劇を誇って来ました(「『名誉革命』と韓国紙は自賛するのだが」参照)。

 でも、その結果「反米左派政権」が誕生しそうです。「革命」を煽っているうちに、国を滅ぼしかねない危険な穴に自らを落とし込んでしまったと保守系紙もようやく気がついたのです。今となってはもう、手遅れの気もしますが。

(次回に続く)

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■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。

このコラムについて

早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/032100099/
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/692.html

[政治・選挙・NHK222] 働き方改革、残業時間の上限規制だけでは不十分 ニュースを斬る 社労士を活用して違反企業の監督体制を強化せよ 
働き方改革、残業時間の上限規制だけでは不十分

ニュースを斬る

社労士を活用して違反企業の監督体制を強化せよ
2017年3月23日(木)
八代 尚宏
 政府が進める「働き方改革」が、今春大きく動いた。安倍晋三首相は3月13日、経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長を首相官邸に呼び、残業時間の上限規制について、繁忙月は例外として「100時間未満」とすることを要請した。労使とも受け入れたことで、政府は労働基準法など関連法の改正案を今年の国会に提出する。

 従来は、労使が合意していれば残業時間を青天井で増やすことができた。この抜け穴を防ぎ、罰則付きの法律で上限を守らせる労働基準法の改正案が決められたことは画期的だ。しかし、実効性の担保には違反企業の確実な取り締まりと、時間ではなく成果に基づく専門職の働き方ルールの確立が不可欠である。

働き方改革の柱となる残業規制を巡る折衝では、首相官邸が議論を主導した(写真:読売新聞/アフロ)
政府の介入がなぜ必要か

 働き方改革の大きな柱のひとつが長時間労働の是正である。これまでも残業時間の上限規制はあったものの、企業が労働組合と合意した特別条項付きの三六協定さえあれば、残業時間を際限なく増やすことができた。この抜け穴を防ぎ、罰則付きの法律で残業時間の上限を規制したことは画期的である。賃金や労働条件の決定は労使自治に委ねるとの従来の原則を、公共政策の観点から修正したものとして大きな意義がある。

 労働組合のない中小企業の労働者は使用者に対してとくに弱い立場にあるため、労働組合組織率の引き上げ先決という見方もある。しかし、組合組織率や賃金水準の高い大企業ほど、時間外労働時間が長いのが実態である。これは大企業のほぼ全部が労働時間の上限を外す労働組合との特別協定を締結しており、月間80時間超や100時間超等、著しく残業時間の長い労働者の占める比率が、企業規模が大きいほど高いことでも示される(下の表参照)。このように労働組合が長い残業時間の歯止めとして機能していないことが、今回の法改正の背景となった。

大企業ほど長時間残業が多い

出所:厚生労働省就労条件実態調査(2013年度)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032100633/p2.png


 これは職種別同一賃金が一般的な米国等では、企業にとって既存の社員に残業割増賃金を支払うよりも新規雇用を増やす方が人件費の節約となることと比べて、日本では不況時にも過剰雇用を維持しなければならないという制約のためである。このため普段から残業に依存する働き方で、賃金に比例した残業手当を稼ぐとともに、不況時に労働時間を削減して雇用を守ることが労使双方にとっての利益となる。

 過去の高成長期に定着した、企業内で多様な業務を経験し熟練度を高めるキャリアパスを重視する慣行のため、個々の業務範囲が不明確となり、一部の社員に過大な負担が課される場合も少なくない。また、個々の仕事と賃金とが明確に結びつかないことから社員の人事評価の基準も曖昧となり、労働時間の長さが企業への貢献度の高さと見なされ易いことも長時間労働の温床となる。

 慢性的な長時間労働は社員の健康を損なうだけでなく、時間当たりの生産性向上も抑制する。また、専業主婦を暗黙の前提とした世帯主の長時間労働は、子育て期の共働き社員に不利となり、女性の活用と子育てとの矛盾を引き起こす大きな要因となる。しかし、従来の働き方を前提とした労使協調路線にこだわる企業に委ねていれば、抜本的な改革はいつまでも実現できない。これが安倍政権の下で、労働市場への強力な介入が必要となった所以である。

労働法違反への監督体制強化

 従来の労働基準監督業務は、危険な作業の多い建設・運輸等の産業や賃金の未払いがある中小企業に重点が置かれていた。しかし、今後の焦点となる残業時間の規制対象は、大企業も含む一般の事務所であり、監督の対象範囲が大幅に広がる。労働時間の上限規制が強化されても、それを取り締まる監督体制が整備されなければ絵に描いた餅となる。

 労働基準監督官が不足するならその増員を図れば良い筈だ。しかし平成28年度の労働基準監督官数は全国で3241人に過ぎず、ILO(国際労働機関)が求める雇用者1万人に1人の最低基準を満たすには約2000人も不足しており、毎年数十人の増員では焼け石に水である。とくに多くの事業所が集中する東京都23区では、監督官一人が約3000の事業所を担当するという試算もある。

 公務員の不足は他の取り締まり官庁でも共通の課題である。これに対して警察庁では駐車違反の取り締まり業務の民間活用を、また法務省では民間の警備会社等と共同の刑務所運営など、各々、人手不足を補う知恵を絞ってきた。これらと同様に、労働基準監督官の定期監査の一部を、法律で公務員と類似の権限と義務を与えた社会保険労務士等、民間の専門家に委託することが政府の規制改革会議から提案された。これは監督官が、労働者からの申告にもとづく、より緊急性の高い監査に重点を置けるようにすることが狙いとなっているが、厚生労働省側は消極的である。

 監督官の役割は取り締まりだけでなく、賃金や労働時間等、企業に対する労務管理の適切なあり方の指導も含まれ、社会保険労務士の果たす役割と重なる面が多い。これは国税庁と納税の適正化を指導する税理士との関係や、企業会計を監査する会計士の役割とも共通した面がある。こうした労働基準監督業務の民間活用を積極的に進めることを通じて、ただでさえ不足している労働基準監督官の監査の効率化と労働者保護の実効化に役立てることに真剣に取り組むべきだ。

時間に囚われない働き方へ

 残業時間に割増賃金を支払う現行の規制は、労働者が1時間余分に働けば、それに見合った量の製品が必ず生産される集団的な工場労働を暗黙の前提としている。ここでの残業手当は、追加的な報酬だけでなく労働者の疲労という労働コストの増加に見合ったペナルティーを使用者に科すことで、その乱用を防ぐことに意味がある。

 しかし、個人単位で多様な質の高いサービスが期待される研究者やプロジェクトの企画者等の高度専門的な業務では、労働時間の長さよりもアウトプットの質が重視される。ここで工場労働のような残業手当を支給すれば、不公平なだけでなくモラルハザードを引き起こし易い。このため上司の具体的な指示なしに働く高度専門職には、労働時間の規制を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」が欧米では一般的である。

 日本でも特定の専門職について実際に働いた時間の長さを考慮しない「裁量労働制」が設けられている。しかし、自由に働く時間を選べる職種であるにもかかわらず、「深夜・休日労働には割増残業代の支払義務」という規制が厳格に定められていることが欧米との大きな違いである。

 2000年代初に、電機労連が会社との交渉で作り上げた新裁量労働制は、深夜・休日に働く場合の多い長時間労働のプログラマーやシステム・エンジニアが対象である。自らの裁量で働き、時間の空いた時には少しでも長く休むことが容易になるように、労働時間と切り離された定額の報酬である「裁量手当」を定めた。これはいわば残業代のない管理職の手当に相当し、本給・調整給の約3割が相場であった。

 こうした先進的な労働組合の主導で作り上げた仕組みを、深夜・休日の割増残業手当を守らない労働基準法違反として摘発し、働き方の改革に結び付けなかった当時の近視眼的な労働基準監督行政が悔やまれる

 また、類似の仕組みはほかにもある。例えば、働く時間が不規則なマスコミ業界等では、みなし残業時間分の手当てを毎月一定額支払う制度が運用されている。これも現行法上、厳密には違法行為となる。これを現場の実際の働き方に合わせて法律を改正しなければ、見かけ上の違法行為がまん延することになる。

労働市場の流動化は労働者にとってもプラス

 こうした状況で、労働時間と報酬との関係を完全に断ち切った「高度プロフェショナル制度」等を含む労働基準法改正案が2015年に国会に提出されたが、未だ法制化されていない。これは高度な技能を持ち、自らの裁量で働く労働者について、時間に比例した残業手当規制を適用しない米国型の「ホワイトカラー・エグゼンプション)」に類似したものである。

 しかし、企業間を自由に移動する欧米の専門職労働市場と日本の労働市場との間には大きな違いがある。このため2015年の改正案では、年収が少なくとも1000万円以上の、企業との交渉力の高い労働者に対象を限定した上で、年間104日の休業日数を与える使用者の義務等の健康確保措置を設けていた。これは社員がひとつのプロジェクトに集中して働いた後はかならず連続して休暇を取ることを促し、疲労を蓄積させないことを法律で担保する仕組みである。

 少子化の進展で労働力が減少することは、労働者にとっての「売り手市場」を意味する。日本では労働市場の流動化に対しては、「企業のクビ切りの自由化」という否定的なイメージが強いが、それは労働者にとっても「労働条件の悪い企業からの脱出」を容易にすることでもある。長労働時間是正のためには、「雇用保障のために生活を犠牲にする」現行の働き方だけでなく、「働き方の質の高い企業に移る」労働者の選択肢を増やすことが基本となる。労働時間制度の改革は、労働市場の流動化を促す同一労働同一賃金等、他の制度改革と一体的に行うことで、いっそう大きな相乗効果を持つと言える。


このコラムについて

ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/744.html

[政治・選挙・NHK222] 「敵基地攻撃能力」には意味がない4つの理由 自衛隊:ソ連・中国の進出を阻止 森友学園の子供たちはヒトラー礼賛と米国人学者
「敵基地攻撃能力」には意味がない4つの理由
投資すべき分野は他にいくらでもある
2017.3.22(水) 部谷 直亮
ミサイル発射は「在日米軍基地狙った演習」 北朝鮮国営通信
北朝鮮が軍事演習で発射した弾道ミサイルを撮影したとされる朝鮮中央テレビ(KCTV)の映像(撮影地不明、2017年3月7日公開、資料写真)。(c)AFP/KCTV〔AFPBB News〕
近年、政府与党内や一部の野党も含めた永田町界隈で「敵基地攻撃能力」を保有するべきとの意見が盛り上がっている。

稲田防衛大臣は3月9日の衆院安全保障委員会で、敵地攻撃能力の保有を示唆した。また、3月8日のロイター通信は「(敵基地攻撃能力保有について)自民党は、抑止力が高まるとして今年夏前までに政府への提言を再びまとめる考えだ」と報じている。

背景にあるのは、ミサイル攻撃力を顕著に高めている北朝鮮の存在である。そして東シナ海で日本を威嚇し、日本を射程圏内に収める弾道ミサイルを大量に配備している中国の脅威もある。「敵基地攻撃能力」の保有を唱える人々はそうした背景を踏まえ、(1)抑止力が向上する、(2)MD(Missile Defense:ミサイル防衛)を配備するよりもコストが安くつく、としている。

しかし実際には、“現時点での”敵基地攻撃能力は、抑止力を向上させることはないし、コストは安いものではない。

以下では、敵基地攻撃能力の構築には意味がない4つの大きな理由を見てみよう。

【理由:その1】米国が敵地攻撃を許さない

仮に北朝鮮なり中国への敵基地攻撃を実施する必要に迫られたとしよう。そこで日本政府は敵地攻撃を敢行できるのだろうか。結論から言えば無理だろう。

北朝鮮への攻撃の場合は米中韓が、中国への場合は米国が間違いなく強硬に停止を求めてくるからだ。日本の都合で予期しない全面戦争への引き金を起こされて喜ぶ国はない。

実際、韓国は2010年3月の天安事件や10月の延坪島事件に際して、米国の圧力によって報復できなかった(延坪島事件では即応の砲撃のみ実施)。ゲーツ元国防長官は回顧録で、韓国側が空爆・砲撃を実施しようとしたが、大統領、国務長官、国防長官、JCS議長が何日間も電話して辞めさせたと述べている。

要するに日本単独で使用できる状況はほとんどないのである。

【理由:その2】相手の全面攻撃を惹起しかねない

エスカレーション管理上の懸念もある。政経中枢地域や軍事施設などへの攻撃は相手の反撃を呼ぶことを忘れてはならない。中国の場合は、たとえOTHレーダーのような施設であっても、本土への攻撃を許したことで間違いなくナショナリズムが沸騰し、指導部は責任問題を恐れるために何百発ものミサイル攻撃や重要施設へのゲリラコマンド攻撃を選択するだろう。

また、北朝鮮の場合は、ミサイル戦力等が破壊されることによるダメージを軽減するために、もしくは権威の象徴である建造物(日本のわずかな戦力で軍事以外の固定目標を狙うならそこだが)を破壊されたことによる威信の低下を補うために、一気に弾道ミサイル攻撃に踏み切るだろう。その場合、MDでは対応不可能な何十発(下手をすれば百発以上)もの攻撃となり、国民保護体制の整っていない日本としては重大な事態になりかねない。

この意味でも、やはり敵地攻撃能力は使い方が難しい。

【理由:その3】北朝鮮のミサイル発射機の捕捉は困難

現在議論に上がっている敵地攻撃能力は航空機による空爆もしくは巡航ミサイルである。だが、これらは着弾まで1〜2時間かかることを忘れてはならない。

当然、北朝鮮側は各種通信傍受やレーダーで監視しているだろうし、日本各地で監視している工作員などが、爆装したF-2支援戦闘機の発進や巡航ミサイルの発射を報じるであろう。それによって北朝鮮の弾道ミサイル部隊はさっさと移動し、防空壕に退避してしまうだろう。

北朝鮮のミサイル戦力の大部分は車載式である。そして、彼らは国中で強靭な防空壕を建設している。たとえ防空壕に入らなくても、移動する車両を航空機で射貫くのは難しく、固定目標を前提とする巡航ミサイルでは不可能である。なぜならば、発見から攻撃までの時間がわずか30分だとしても、スカッドミサイル発射機の車両は最大時速60キロメートルなので、30キロメートル移動してしまう。1時間ならば60キロメートル移動してしまうのだ(注)。

実際、あの米軍ですら、湾岸戦争やイラク戦争で大々的なスカッドミサイル狩りを繰り返し敢行したが、湾岸戦争ではデコイやタンクローリーばかりを破壊するにとどまるか、発射を探知しても攻撃機が間に合わなかったという。イラク戦争では55%の発射機の破壊に成功したが、それでも第一撃の発射を阻止できてない(注)。

特に北朝鮮は、平地の多いイラクと違って山岳に恵まれている。また、イラク軍と異なり、デコイと防空壕の配備に抜かりなく、GPS妨害等の電子戦能力も高い。そんな北朝鮮の移動式ミサイル発射機を、米軍に比べて質量ともに不十分な航空自衛隊の攻撃力で壊滅させられるだろうか(最新の米国防総省の報告書によれば北朝鮮の弾道ミサイルの移動式発射機は200を超えるとされている)。

(注)高橋杉雄「専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって――弾道ミサイル脅威への1つの対応――」『防衛研究所紀要』第8巻第1号、2005年10月、105〜121ページ。

【理由:その4】莫大なコストがかかる

何より、敵基地攻撃能力は莫大なコストがかかる。ミサイル防衛よりも安いというのは大きな誤りである。

一口に「敵基地攻撃能力」と言っても、以下の通り必要なアセットは多岐にわたる。

・偵察衛星の新たな打ち上げ
・対地早期警戒管制機の配備
・グローバルホークのような無人偵察機の増勢
・敵防空網を制圧するSEAD機部隊の配備と人員の教育
・巡航ミサイル部隊の編制
・電子戦機(現状は老朽化したYS-11やC-1改造の訓練機が若干あるのみ)の増勢
・偵察・電子戦機の護衛部隊の編制と訓練
・有人機が墜落した際のパイロット救出のための体制構築

これらには言うまでもなく高額なコストがかかる。また、これらを揃えたとしても破壊できる発射機はたかが知れている。そもそも、これらが戦力化するのは早くて2030年以降だろうが、その時期に日本の財政はもっているのか。これらの維持費や後年度負担は膨大な額であり、防衛費を2倍にしても追いつかない。北朝鮮という国家自体が存続しているのかという根本的な疑問も拭い去れない。

日本が注力すべき2つの施策とは

このように考えてみれば、日本の敵基地攻撃能力に実効性がないことは明らかである。では、いかにして北朝鮮などの弾道ミサイル戦力に備えるべきか。MDを単純に強化するというのもすでに限界なのは、指摘としてもっともな面も多い(将来的なレーザー方式は別として)。

第1に注力すべきは、やはりサイバー戦能力の構築である。

例えば米国は、リビア空爆に際して敵防空網制圧にサイバー攻撃を検討した(政治的判断で実施はしなかった)。また、イスラエルはイランの核濃縮施設の遠心分離機をスタックスネットで破壊している。

サイバー戦能力は、優秀なハッカー集団を獲得し組織化することによって構築できる。確かに設備投資や何より人件費は必要だが、100億円以上のF-35を1機増やすよりは費用対効果ははるかに上回る。何よりも北朝鮮軍は上意下達であることを考えれば、ミサイル軍と党指導部間の通信網の切断やサイバー部隊への打撃はきわめて有効であり、それこそ大きな抑止力となるだろう。今や我が国よりも電子ネットワークに大きく依存した作戦展開を行っている中国軍への有効性の高さは言うまでもない。

第2に注力すべきなのは、日本における国民保護計画の見直しである。現状の国民保護計画は非常にお粗末であり、そもそも訓練もほとんど行われていない。我々はそうした現状を冷静に見つめ、ミサイル防衛や敵基地攻撃の効果の限界を受け止めなければならない。つまり、着弾を前提とした被害極限の施策を充実させる必要があるということである。

繰り返しになるが、現状で議論されている敵基地攻撃能力は、本当に必要な装備や人への投資を阻害し、その高額な維持費で少ない予算をさらに圧迫する有害無益なものでしかなく、むしろ抑止力を低下させかねない。そろそろ、脊髄反射的に一手先を議論するのではなく、実効性や相手の反応や維持費も含めた二手三手先を読んだ防衛論議に移行すべき時期だろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49480

徹底解説自衛隊:ソ連・中国の進出を阻止した実力
自衛隊の歴史を読み直す(2)〜国内における行動実績
2017.3.22(水) 田中 伸昌
さよなら国立競技場、ブルーインパルスが展示飛行
国立競技場(東京都新宿区)が解体されるのを前に、上空を展示飛行する航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス(Blue Impulse)」(2014年5月31日撮影)〔AFPBB News〕
先週から毎週水曜日にお伝えしている徹底解説自衛隊。前回は終戦後に自衛隊がなぜ創設されたのか、その経緯を詳しく述べた。

また朝鮮戦争を契機として、我が国の防衛産業が産業として確立、世界トップレベルの実力を手にするところまでを見てきた。

今回は、冷戦期から中国軍の海洋進出が激しくなるまで、航空自衛隊と海上自衛隊が果たしてきた役割を解説する。ソ連と中国の圧力をはねつけてきた実力に迫る。

航空自衛隊による対領空侵犯措置

自衛隊法において、防衛大臣は、「国際法に違反又は航空法その他の法令に違反して我が国領域上空に侵入した外国の航空機に対して、着陸又は領域上空から退去させるための必要な措置を取らせるよう自衛隊の部隊に命じることができる」と規定されており、航空自衛隊がその任に当たっている。

この任務を遂行するために航空自衛隊は、北海道から沖縄まで日本全土の空域をカバーするよう山頂または離島などに設置されている全国28か所のレーダーサイトで昼夜を問わず24時間空域を監視している。

国籍不明と識別された航空機に対して、北海道千歳基地から沖縄那覇基地に至る全国7か所の航空基地で昼夜を問わず緊急発進できる2機態勢で待機している要撃機を発進させ、国籍の確認など、法に則った措置を実施している。

航空自衛隊は、昭和33年(1958年)に米軍から対領空侵犯措置任務を引き継いで今日に至るが、平成27年(2015年)度までの57年間において航空自衛隊が実施した対領空侵犯措置のための緊急発進回数は、合計2万5072回に及び、単純平均すれば1年あたり約440回緊急発進していることになる。

これをさらに分析すると、国際情勢の変化および我が国を取り巻く安全保障環境の変化に応じた次のような特徴がみられる。

第1期:昭和33(1958)〜昭和50(1975)年

朝鮮戦争休戦協定成立(1953年)後の一時的な米ソの雪解け時期を経て、キューバ危機による米ソ対立、米ソ代理戦争といわれるベトナム戦争とその終結(1975年)、中国とソ連の対立など、冷戦は複雑な変容を遂げる。

米ソが部分的核実験禁止条約を結び、その後戦略兵器制限交渉を開始するなどデタントへと向かった時代である。

我が国周辺においては、ソ連軍の活発な行動は見られず、この期間における空自機による緊急発進回数は比較的少なく、昭和33年から昭和50年までの18年間で5043回であり1年あたりでは約280回である。

第2期:昭和51(1976)〜平成3(1991)年

ベトナム戦争終結の翌年(1976年)からソ連邦の消滅(1991年)によって名実ともに冷戦が終了するまでの16年間である。この期間、空自機の緊急発進回数は最も多く、16年間で1万2082回に上る。

単純平均では1年あたり755回に上る。実に毎日2基地以上で緊急発進をしていることになる。この時代、日本周辺を飛行する軍用機はソ連空軍をおいてほかになく、そのほとんどがソ連空軍機である。

1970年代後半から1980年代後半にかけての時期、ソ連軍は極東においても我が国周辺で活発な軍事活動を続けていた。

空軍機は日本列島周回飛行や偵察飛行、あるいは訓練や演習など極めて活発な飛行活動を実施しており、これらソ連軍航空機の領空侵犯の防止並びに警戒・監視のために空自機が緊急発進しているものである。

この時期、ソ連は中央アジアでアフガニスタンへ侵攻(1979年)したが勝利を収めることなく撤退し、作戦を終結(1989年)している。同じ時期、イラン―イラク戦争(1980〜88年)も生じている。

米国は、ソ連のアフガニスタン侵攻ではアフガニスタンを支援し、イラン―イラク戦争ではイラクを支援するなどいずれにも関与している。これらを通じて米ソの対立並びにイスラム主義国との対立或いはイスラム主義国同士の対立などを経て、ソ連の財政的疲弊そしてソ連邦の消滅へと向かい冷戦は終結した。

第3期:平成4(1992)〜平成21(2009)年

ソ連邦消滅(1991年12月)に伴うポスト冷戦の時代の始まりから平成21年(2009年)までの18年間は、日本周辺における航空活動が最も低調な時期であり、空自機による緊急発進回数は累計3943回であった。

これは単純平均で1年あたり219回という極めて少ない緊急発進回数である。それでも毎週4回ないし5回の緊急発進をしていることになる。

ヨーロッパにおいて冷戦は終わったが、アジアにおいてはかつての共産主義国ソ連に代わって中華人民共和国(以下、中国)並びに朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が存在し、冷戦構造が主役を変えて存在し続けている。

ソ連邦消滅に伴い、かつての冷戦時のようなロシア機による領空侵犯の恐れのある飛行は極端に少なくなり、空自の緊急発進回数は冷戦中期〜後期のおよそ3分の1に激減している。

これは中国がいまだ軍事力の増強過程にあって、旧ソ連に取って代わる軍事力には至っておらず、日本周辺における軍事活動にはまだ制約があるということが1つの理由であろう。

中央アジアおよび中近東において、1998年に米英軍がイラクに対する空爆を実施(「砂漠の狐作戦」)した。

次いで、世界に衝撃を与えた2001年9月11日の米国同時多発テロが発生し、これに対して米英軍は国連安保理非難決議に基づきアフガニスタンに対する攻撃を開始した(後にNATO=北大西洋条約機構も作戦に参加)。

さらに2003年3月に米英軍はイラクに対する軍事行動を開始(イラク戦争)し、同年5月にこれを制圧し、イラクおよびアフガニスタンにおける戦闘の終結を宣言した。

このような中央アジアおよび中近東情勢や国際的なテロ活動の活発化の状況、並びに共産主義国ソ連の消滅とこれに代わる共産主義国中国が軍事力増強途上であることなどのために、我が国周辺における航空活動は極めて低調に推移し、従って空自機による領空侵犯対処のための緊急発進回数が極めて少なかったと言える。

第4期:平成22(2010)〜平成27(2015)年

平成27年度版防衛白書によれば、中国は1989年(注:6月天安門事件、12月米ソ首脳による冷戦終結宣言)から現在までほぼ一貫して毎年、国防費の対前年比伸び率10%以上を継続して軍事力の近代化・増強を図ってきた。

国防費の規模は1988年度から27年間で約41倍になっている。長期にわたるこの驚異的な国防費の増額の結果、陸海空軍戦力の近代化に伴う海軍の外洋活動の活発化、新たに設定された防空識別圏の適用に見合う空軍戦力の強化、さらには海警の増強など、近年における中国の軍事力、海上警備能力の強化は目を見張るものがある。

このような中で、平成22年度(2010年度)から平成27年度(2015年度)末までの空自機による緊急発進回数は、6年間で4004回あり、年平均すると667回/1年となる。これは冷戦中期から終末期における回数に次ぐ緊急発進の多さである。

緊急発進の対象となった航空機を国別の比率でみると、平成21年度:ロシア66%、中国13%、であったものが、平成22年度:ロシア68%、中国25%となっており、中国機に対する緊急発進回数が一挙に倍増している。

中国機に対する緊急発進回数は、その後も増え続け平成24年度においては、ロシア機44%に対して中国機54%となって中国機が過半数を占めるに至っている。

さらに平成27年度には、ロシア機33%に対して中国機65%となり、中国機に対する緊急発進回数がロシア機に対するものを凌駕しており、今後ともこの傾向は続くものと思われる。

この背景としては、平成4年2月(1992年2月)に中国が尖閣諸島を中国領と明記した「領海法」を公布した後強めてきた尖閣諸島の領有権主張と、この主張を象徴するような、平成22年(2010年)9月の尖閣諸島周辺の我が国領海内で起きた中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事案以降、南西方面の海上並びに航空における中国軍および海警の活動が活発化したことの表れであろう。

併せてそのような活動を可能にする近代化された装備の充実が、その背景にある。

海上自衛隊による我が国周辺海域の警戒・監視活動

海上自衛隊には航空自衛隊の平時における対領空侵犯措置のような任務は付与されていない。

しかし、我が国の領海および排他的経済水域における警察行動を主たる任務としている海上保安庁の対応能力を超えると判断される事態がある場合には、防衛大臣は海上自衛隊に海上警備行動を発令することができるとされている。

このような平時における対応、グレーゾーン事態への対応、そして有事における本格的な侵略事態への対応など、多様を極めるあらゆる事態に対して海上自衛隊が迅速・的確に対応するためには、平素から領海およびその周辺海域を警戒・監視するとともにその情報を的確に処理し対処できる態勢を取っておかなければならない。

警戒・監視の対象は、海上保安庁が民間の船舶であるのに対して、海上自衛隊は軍隊の艦船(空母、巡洋艦、駆逐艦等水上艦および潜水艦)及び誘導弾並びに武装した民間船舶である。

警戒・監視水域は排他的経済水域と防空識別圏とを勘案して決めている。海上自衛隊による警戒・監視は、固定翼航空機約80機、回転翼航空機約90機、護衛艦、哨戒艦艇および潜水艦などによって、24時間態勢で年間を通して、北海道周辺海域から日本海そして東シナ海に至る海域全てを哨戒している。

特記すべき事象は、2012年9月に一挙に延べ13隻の中国公船などが尖閣諸島周辺において領海侵入を繰り返し、中国はそれ以後今日まで、毎月延べ10隻内外(最大で28隻、最少で4隻)の領海侵入を恒常的に繰り返していることだろう。

これに対処する海上保安庁および海上の警戒・監視に当たる海上自衛隊、並びに航空から監視する航空自衛隊航空機の行動は極めて過密なものとなっている。

潜水艦の活動については基本的に公表されるものではないので、かつて冷戦期に極東ソ連海軍潜水艦の動向の捕捉に米海軍と共同で対処し、結果として戦争の抑止、ひいては冷戦の終結に貢献した事実を、元米国防省日本課長で米国ヴァンダービルト大学名誉教授ジェームス・E・アワー氏の論文から引用する。

ソ連との冷戦末期の10年間、日本と米国の対潜水艦哨戒機P3C、125機(内訳は日本が100機、米国が25機)が統合された作戦を切れ目なく展開し、ウラジオストクを母港とするソ連軍太平洋艦隊の潜水艦100隻の1隻ごとの動向を実際に把握していたという事実である。

そして、このようにソ連軍の潜水艦の所在地を常時、捕捉し続けていたという事実が、ソ連軍の軍事計画立案を複雑なものにし、結果として戦争の抑止につながった。

こうジム・アワー氏は述べている。海上自衛隊が冷戦を通じて培った潜水艦に対する監視能力並びに米軍との共同作戦能力は、今日の中国海軍の潜水艦に対する対処において十分に余りあるものであることは論を俟たない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49486

 

森友学園の子供たちはヒトラー礼賛だと米国人学者
別の学者は反論、アメリカに飛び火した森友学園問題
2017.3.22(水) 古森 義久
安倍首相、学校法人への国有地格安売却問題で関与を否定
衆院予算委員会に出席した安倍晋三首相(右、2017年2月24日撮影、資料写真)。(c)AFP/Kazuhiro NOGI〔AFPBB News〕
学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る問題が国会で取り上げられ、議論の的となっている。その森友学園の子供たちの宣誓を「『ヒトラー万歳』と叫ぶのに等しい」と断ずる論文を、米国人の歴史学者が発表した。

この女性学者は慰安婦問題で日本を長年、糾弾してきた人物である。森友学園を政治団体の日本会議に結びつけ、日本会議が安倍晋三首相を支援して日本を戦前の軍国主義や帝国主義に戻そうとしていると非難している。

一方、この主張に対して別の米国人歴史学者は「不当な日本叩きだ」と反論する。

安倍首相をヒトラーになぞらえるダデン氏

米国コネチカット大学のアレクシス・ダデン教授はオーストラリアの国立大学が刊行する東アジアの政治経済誌「東アジア・フォーラム」のインターネット版(3月12日付)に「アベがスキャンダルにはまる」と題する論文を発表した。

ダデン氏は日本歴史の研究を専門とし、ここ10年以上、慰安婦問題で韓国の主張を全面的に支持して日本を頻繁に非難してきた。特に安倍首相を激しく糾弾し、「右翼」「軍国主義者」「裸の王様」などというレッテルを貼ってきた。

ダデン氏は同論文で森友学園の問題を取り上げて、安倍昭恵・首相夫人と学園の関わりなどを批判的な表現で伝えている。

同論文で特に目につくのは、森友学園の園児が父母や安倍首相への感謝や中韓両国への非難を右手をあげながら「宣誓」として述べる姿を、「ハイル・ヒトラー(ヒトラー万歳)の姿勢」に他ならないと主張している点だ。

「ハイル・ヒトラー」はナチス・ドイツ時代にヒトラー総統への忠誠を誓った言葉で、右手を45度ぐらいの角度であげる敬礼の際に発せられていた。ダデン氏は同論文の他の個所でも「子供たちのハイル・アベの敬礼」と書いており、安倍首相をヒトラーになぞらえる意図が明確である。

またダデン氏は、森友学園の前理事長、籠池泰典氏が日本会議の会員だったことにも言及し、森友学園の教えが、明治憲法下での「天皇崇拝の狂信(カルト)」や帝国主義、軍国主義を復活させようとする日本会議の教えを基礎にしているとも述べる。

日本会議当局は「森友学園とは関係がない」と言明し、現在の活動目標はすべて民主主義の枠内であり、軍国主義を排するとしている。だがダデン氏は、日本会議が日本の政治を牛耳っており、とくに安倍政権をコントロール下に置いていると主張する。

日本の子供は横断歩道を渡るときも手をあげる

一方、ダデン氏のこうした主張への反対意見もある。

米国ウィスコンシン大学で日本の歴史を研究したジェーソン・モーガン博士は、ダデン氏の今回の論文を全面的に批判する見解を発表した。

モーガン氏は「ダデン氏は学者ではなく政治活動家であり、韓国の意を体する形で安倍晋三氏を長年叩いてきた。安倍首相をヒトラーになぞらえる今回の論文もその種の日本叩き、安倍叩きだ」と述べた。

モーガン氏はダデン論文に対する反論を、ダデン論文を掲載した「東アジア・フォーラム」編集部に投稿した。同時にその内容をブログなどで公開している。

モーガン氏はその抗議文の中で「森友学園も安倍氏もヒトラーとは明らかに無関係だ。ダデン氏がハイル・ヒトラーと決めつける子供たちの手のあげ方は、ナチスなどとはなんの関係もない。日本の子供たちは横断歩道を渡るときも、安全のために手をあげる」と指摘していた。

日本の国会での森友学園論争が思いがけないところまで飛び火したと言えそうだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49490
http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/747.html

[経世済民120] 米中経済戦争勃発に新たな火種 世界一贅沢国の結末 信頼の親日国共産党崩壊? ロボ課税 匠の技AIに 掃除機革命?床水洗い
米中経済戦争勃発に新たな火種
北朝鮮リスクと中国市場悲観論に傾き始めた米産業界
2017.3.21(火) 瀬口 清之
米国務長官、中国外相と初会談 北朝鮮への対応求める
20か国・地域(G20)外相会合の開催地であるドイツ・ボンで初会談に臨む、レックス・ティラーソン米国務長官(左)と中国の王毅外相(2017年2月17日撮影)〔AFPBB News〕
米中両国は経済的相互依存関係を深めており、仮に経済戦争に突入すれば互いに報復をエスカレートさせ、双方が極めて深刻な打撃を受ける関係にある。

これは両国経済のみならず、最悪の場合、世界経済全体にリーマンショック以上の衝撃を与え、世界大恐慌を招く可能性も十分ある。

米中両国間の経済戦争がそうした深刻な打撃を与えることを考慮すれば、両国政府は経済戦争を仕かけることによるリスクを十分認識し、互いにそうした事態を回避するよう努力するはずである。

以上が米中両国の経済関係には大量の核兵器保有国同士の間の相互確証破壊と似た関係が成立しているように見えると述べた前回2月の拙稿の主な論点である。

3月前半に米国出張した際に、以上の筆者の見方を米国の国際政治学者らに伝えたところ、概ね賛同を得られた。

ただし、米中両国間の外交問題を巡る深刻な対立による関係悪化が経済面での疑似的「相互確証破壊」の成立を妨げ、経済戦争に突入するリスクを完全に否定することはできないなど、いくつかの貴重な指摘を受けた。

本稿ではそれらのポイントについて紹介したい。

1.北朝鮮リスク

先月の筆者の論稿は米中両国の経済関係に焦点を当てたものだったが、米国の国際政治学者は以下のような外交問題が両国の経済関係に与えるリスクについても考慮する必要があると指摘した。

ドナルド・トランプ政権下において、現在、米中外交関係上の最大の懸案は北朝鮮問題を巡る対立先鋭化のリスクである。

トランプ政権は北朝鮮がミサイル発射による対米牽制行動をとったことに対し、北朝鮮に対する武力攻撃を含むあらゆる選択肢を検討し、強い態度で臨むスタンスを示していると報じられている。

早ければ4月にも行われる可能性があるトランプ大統領・習近平主席間の初の米中首脳会談において、北朝鮮への対応が主要議題の1つになると予想されている。

トランプ大統領は習近平主席に対して、中国からも北朝鮮に対してより強く厳しい対応をとるよう要求すると見られている。

しかし、中国と北朝鮮の関係はすでに冷え切っており、中国がある程度強く厳しい制裁措置を実施したとしても、北朝鮮が中国からの要求に耳を貸す可能性はほとんどないとの見方が一般的である。

そうした状況下で中国が北朝鮮に対してとり得る制裁措置は、エネルギーおよび食料の供給停止といった究極の強硬策しかない。もしこれを実施すれば北朝鮮経済は危機的状況に陥り、大量の難民が中国東北地域にあふれ出してくると予想される。

東北地域は過剰設備を多く抱える構造不況業種が集積しており、ただでさえ長期の経済停滞に苦しんでいることから、ここに難民が流入するのは中国の政治経済の安定確保に深刻な悪影響を及ぼすリスクが高い。

これほど内政上のリスクの大きな措置を中国政府が米国のために実施することは考えにくい。

そうした点を考慮すれば、中国が米国からの強い要請に応えて、米国がそれに満足する可能性は極めて低いと見られている。その場合、米中両国の対立が先鋭化し、米国側が中国に対して一段と強硬姿勢に転ずる可能性が高まる。

それが米国政府のどのような施策につながるかは未知数であるが、仮に南シナ海における軍事行動を伴う対中強硬姿勢や台湾に関する「1つの中国」論の見直しを迫るといった対応に出れば、米中関係は一気に悪化する。

そうした米国の強硬姿勢が中国国民の反米感情を煽り、中国全土で米国製品ボイコット運動や反米デモなどを引き起こし、米国政府が為替操作国の認定や関税引き上げなどで対抗するといった形でエスカレートしていくと、経済戦争に突入する可能性は否定できない。

ただし、以上のシナリオは民主党寄りの国際政治専門家が主張する、かなり極端な悲観的シナリオであり、トランプ政権の外交政策の欠陥を強調するために、あえて最悪のケースを想定している面は否めない。

これに対して、共和党寄り、あるいは中立的な立場の専門家は、これほど深刻な事態に至る可能性はそれほど高くないと見ている。

現在、トランプ政権内において対中政策をリードしているのは、ジェームズ・マティス国防長官、レックス・ティラーソン国務長官、ゲーリー・コーンNEC(国家経済委員会)委員長、ケネス・ジャスター国家安全保障会議(NSC)国際経済担当大統領次席補佐官らであると言われている。彼らはトランプ政権内では穏健派に属する。

これに対して、対中強硬路線を主張するタカ派には、スティーブ・バノン主席戦略官、ピーター・ナヴァロ大統領補佐官(国家通商会議担当)、ウィルバー・ロス商務長官らがいるが、今のところ対中政策にはあまり影響を及ぼしていないと見られている。

こうした穏健派主導の体制で対中外交を進めていくと、上述のような激突シナリオを回避できる可能性も十分あると考えられる。

ただし、これらのトランプ政権の主要メンバー間の勢力バランスの変化というリスクに加え、トランプ大統領自身の気分の変化が政策に及ぼす影響がもう1つのリスクであるとの見方がある点は考慮しておく必要がある。

このようにトランプ政権の対中外交方針は不透明で予測不可能な部分が多い。これに対して中国政府があまり過敏に反応せず、じっくりと構えて慎重に対応していくことができれば、米中衝突リスクは軽減される。

2.主要プレイヤーが政府ではないことによるリスク

当面、米中関係を悪化させる主因は上記の政治外交要因であるが、これを受けて米中関係の悪化を加速させる可能性があるのが、経済分野における主要プレーヤーである市場参加者=一般国民の動向である。

安全保障面における本来の相互確証破壊の関係を支える主要プレーヤーは両国政府である。一方、経済面での疑似的「相互確証破壊」の主要プレーヤーは市場参加者=一般国民であるため、政府同士のような制御が効きにくい。

いったん相手国に対する強い不満や憤りが国民感情として広く共有される場合、政府の力でこれをコントロールすることが難しくなる。

つまり疑似的な「相互確証破壊」の関係が成立していると分かっていても、両国の激突を招くモメンタムを止めることができなくなる可能性がある。

具体的には、中国国民による米国製品のボイコット運動や反米デモの動きが中国全土に拡散する場合、これを中国政府が短期間の間に沈静化させるのは極めて難しい。

あるいは、米国の労働者や一般国民の間で強い反中感情の高まりが生じる場合、米国政府もこれをコントロールすることは難しい。これは以前、尖閣問題発生後の日本に対する中国国民の姿勢の変化を思い起こせば容易に理解できる。

この主要プレーヤーのコントローラビリティの低さが疑似的「相互確証破壊」の成立を妨げる1つの要因となる。

3.中国ビジネスに対する米国企業の悲観論増大の影響

さらに、もう1つの指摘は、最近の米国企業の対中投資姿勢の変化である。

米国企業はこれまで、アップル、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ファイザー、P&G、マクドナルド、スターバックスなど、様々な分野で中国国内市場の大きなシェアを確保し、巨額の売上高と利益を享受してきた。

しかし、最近になって、上海の米国商工会議所の不満に代表されるように、知的財産権の侵害、資金回収難、政府の規制の突然の変更、中国企業と外資企業との差別的な扱いなどに対する不満が強まっている。

この1、2年、これらの問題点により、米国企業にとって中国市場は以前ほど魅力的ではなくなっているとの見方が増大している。

同時に中国経済の減速を眺め、中国市場の将来に対する見方も悲観的になっていることから、対中投資が慎重化しているとの声を耳にすることが多くなっている。ただし、実際の米国企業の対中直接投資金額は減少せず、むしろ逆に増加している。

以上で指摘されている問題点は日本企業にとっては数年前からずっと直面してきている問題であるため、最近になってこうした問題点に関する懸念が高まっているという声は聞いたことがない。

米国企業が最近になってこうした懸念を強めている背景についてはさらに分析を深める必要がある。

以上のような米国企業の中国ビジネス悲観論の拡大、それに伴う対中投資姿勢の慎重化は、両国が激突することによって生じる経済的打撃に対する受け止め方の変化をもたらす。

以前であれば深刻なダメージを懸念して、米中対立が先鋭化しないことを強く望んだ人々が、今後はそれほど強く望まなくなる可能性が高い。

これも疑似的「相互確証破壊」の成立にとってマイナス要因である。

以上のように、経済面における疑似的「相互確証破壊」は上記の3つの要因によって成立しにくくなる脆弱性を内包している。

米中両国はこうした点にも慎重に配慮しながら、経済戦争への突入を回避するために、様々な努力を重ねていくことが望まれる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49448


 


ナウル、世界一の贅沢に溺れた国の結末

神野正史の「人生を豊かにする世界史講座」

不労所得による繁栄は、地獄への入り口
2017年3月23日(木)
神野 正史
サウジアラビア・サルマン国王訪日

 今月、はるばるサウジアラビアからサルマン国王が来日していました。

 サウジアラビアといえば世界最大の産油国であり、日本は原油の3割をサウジアラビアからの輸入に頼っています。このため、日本とは切っても切り離せない深い関係にある国ですが、ほとんどの日本人は「サウジアラビア」と言われてもあまりピンと来ないかも知れません。

 サウジアラビアについては、これまでは時折、テレビ番組などで「原油産出国の金満ぶり」が紹介されるくらいでしたが、今回もその政治的・経済的背景よりも、サウジ側が持ち込んだ「エスカレーター式の特製タラップ」だの、「移動用のハイヤーが数百台」だの、「随行者1000人以上が都内に宿泊」だのといった、芸能週刊誌じみた下世話な話題ばかりが前面に押し出された報道がなされていたように感じます。

 しかし、今回の訪日で重要なことはそんなつまらないことではありません。なぜサウジアラビア国王が御自(おみずか)ら極東の日本くんだりまでやってきたのか。その理由にこそ、現在サウジアラビアが置かれた切実な窮境があります。


サウジアラビアなどの中東の産油国は、原油の輸出に偏った貿易構造からの脱却が長年の課題だ。
「金満体制」の本質

 ところで筆者は、マスコミで定期的に紹介される、そうした産油国の金満ぶりを見ても、彼らに対して羨望の気持ちなどまったく湧いてきません。それどころか、ああした金満ぶりをテレビカメラの前で自慢げに披露する人たちを目にするにつけ、憐憫の情すら湧いてくるくらいです。なぜならば、ああした金満はけっして長く続かないどころか、ひとたび零落(おちぶ)れたが最後、その後にはその国とその民族に末代まで悲惨な運命が待っていることは、歴史が証明しているからです。

 例を挙げれば枚挙に遑(いとま)がありませんが、まずは現代においてそうした問題を切実に抱える「ナウル共和国」を見てみましょう。

地上の楽園・ナウル共和国

 ナウル共和国とは、日本人にはあまり馴染みのない国かもしれませんが、かつて世界最高水準の生活を享受していたのに、一転して深刻な経済崩壊の状態に陥ったという点で、知る人ぞ知る国です。

 オーストラリアとハワイの間、太平洋の南西部にある品川区ほどの面積(21平方km)しかない小島にある共和国であり、世界でも3番目に小さな国連加盟国です。そこに住む人々は古来、漁業と農業に従事して貧しくもつつましく生きる“地上の楽園”でした。

 しかし19世紀、太平洋の島々がことごとく欧米列強の植民地にされていく中で、ナウルの“楽園”もまた破られることになります。そして、1888年にドイツの植民地になってまもなく、この島全体がリン鉱石でできていることが判明しました。

 リン鉱石とは、数千年、数万年にわたって積もった海鳥のフンが、珊瑚(さんご)の石灰分と結びついてできたもの(グアノ)で、肥料としてたいへん貴重なものでしたから、19世紀後半から採掘が始まりました。


ナウル共和国の経済を繁栄させた、リン鉱石の積出施設。(写真:Alamy/アフロ)
 やがて第二次世界大戦を経て、1968年にようやく独立を達成すると、それに伴ってリン鉱石採掘による莫大な収入がラウル国民に還元されるようになります。

 その結果、1980年代には国民1人当たりのGNP(国民総生産)は2万ドルにものぼり、それは当時の日本(9,900ドル)の約2倍、アメリカ合衆国(1万3,500ドル)の約1.5倍という世界でもトップレベルの金満国家に生まれ変わりました。

 医療費もタダ、学費もタダ、水道・光熱費はもちろん税金までタダ。

 そのうえ生活費まで支給され、新婚には一軒家まで進呈され、リン鉱石採掘などの労働すらもすべて外国人労働者に任せっきりとなり、国民はまったく働かなくても生きていけるようになります。

 その結果、国民はほぼ公務員(10%)と無職(90%)だけとなり、「毎日が日曜日」という“夢のような時代”が30年ほどつづくことになりました。

 はてさて、これが羨ましいでしょうか?

古代ローマの場合

 ここで多くの人が勘違いする事実があります。それは、「(地下資源など)最初からそこにあるもの」は“ほんとうの富”ではないということです。富でないどころか、それは手を出したが最後、亡びの道へとまっしぐらとなる“禁断の果実”です。

 たとえば──。

 古代ローマは、周辺諸民族を奴隷とし、その土地を奪い、その富を食い尽くしながら領土を広げていき、やがては空前絶後の「地中海帝国」を築きあげていきました。彼らローマ人は、そうして手に入れた属州(19世紀の植民地のようなもの)から無尽蔵に入ってくる富を湯水のように使い、贅の限りを尽くしていきます。

 富と食糧は満ち溢れ、すべてのローマ市民には食糧(パン)と娯楽(サーカス)が無償で与えられ、運動場・図書館・食堂まで併設された豪華な浴場施設(今でいえば一大レジャーランド)が各地で無料開放され、下々の者に至るまで働かずとも飢えることはなくなり、貴族などは食べきれない豪華な食事を、喉に指をツッコんで吐いては食らい、食らっては吐くを繰り返す有様。

 しかし、こうした自堕落な生活は、その民族の精神を骨の髄まで腐らせていきます。そもそもローマが強大になることができたのは、外に対しては命を惜しまず勇敢に戦い、内にあっては勤勉に働いたからです。

 しかし、人間というものは、ひとたび不労所得や贅沢を覚えたが最後、「額に汗して働く、貧しくともつつましやかな生活」に二度と戻ることができなくなります。つねに「怠けること」「遊ぶこと」「他者の富をかすめ取ること」しか頭にない人間に成り下がってしまうのです。

 あれほど勤勉で勇敢だったローマ人たちは、たちまち怠惰で軟弱な民族と化し、やがてローマそのものを滅ぼすことになりますが、そうした民族性は改まることなく、西ローマ帝国滅亡後も1400年にわたって異民族統治・分裂割拠の時代がつづく一因となりました。

 20世紀に入っても、イタリア軍のヘタレっぷりは世界に勇名を馳せた(?)ほど。そして現在、一説にイタリアはデフォルト(債務不履行)寸前とも言われます。

 つねに怠けること、遊ぶことを考え、額に汗して働くことを避け、さりとて分不相応な贅沢はやめず、国の生活保障に頼りきりとなれば、それも当然と言えます。古代ローマの時代、不労所得を得た“報い”が21世紀になった今も彼らを苦しめているのです。

近世スペインの場合

 さて、近世に入ると、スペインが他国に先駆けて絶対主義を確立するや、アメリカ大陸を“発見”、そこにあった“富”を略奪し尽くしていきました。これによりスペインは「スペイン動けば世界が震える」「スペインの領海に日没なし」と謳われ、その時代の覇権国家として君臨したものでした。

 しかし、その富は、スペイン人が額に汗して生んだものではありません。インディアンの富を略奪したものです。ローマについて覧(み)てきたとおり、このような“繁栄”は長続きしないどころか、民の心を腐敗させます。

 100年と保たずに新大陸の富を食い尽くすや、スペインはたちまち没落、二度と歴史の表舞台に出てくることはなくなり、現在、スペインもまたイタリア同様、やはりデフォルト寸前です。

“楽園”は地獄への入口

 “ほんとうの富”とは「額に汗して自ら生み出した富」だけであって、「最初からある富」から不労所得を得るだけの繁栄は、一見“楽園”にみえて、そのじつ“地獄の一丁目”にすぎません。

 それで得た繁栄などほんの一時のことにすぎないばかりか、それが過ぎ去ったが最後、まるで不労所得を得たことへの“神罰”が下ったかのように、その国その民族を子々孫々にわたって苦しめることになるからです。

 ナウル共和国では、働かなくても食べていけるようになったことで、働きもせず毎日「食っちゃ寝」の生活が当たり前となり、食事はほぼ100%外食に頼るような生活になりました。

 そうした生活が30年にもおよんだため、肉体が蝕(むしば)まれて、全国民の90%が肥満、30%が糖尿病という「世界一の肥満&糖尿病大国」になりました。そればかりか、精神まで蝕まれて、勤労意欲が消え失せ、そもそも「食べるためには働くのが当たり前」という認識すらなくなっていきます。

 すでに20年も前からグアノ(リン鉱石)が枯渇するだろうと予測されていながら、ナウルの人々は何ひとつ対策も立てず、努力もせず、ただ日々を自堕落に生きていくことしかできない民族となっていったのでした。

ナウルの“ほんとうの悲劇”

 しかし、ナウルの“ほんとうの悲劇”は、肥満でもなければ糖尿病でもなく、ましてや勤労意欲が失われたことでもありません。

 さきほど“地獄の一丁目”という表現を使いましたが、文字通り、彼らのほんとうの悲劇はここから。一番の問題は、もはや二度と「“古き佳きナウル”に戻ることができなくなった」という事実です。

 いざグアノが枯渇したとき、彼らが考えたことは「嗚呼、夢は終わった。我々はふたたび額に汗して働こう」ではありませんでした。すでに精神が蝕まれ切っていた彼らが考えたことは、「どうやったらこれからも働かずに食っていけるだろうか?」でした。すでに“末期症状”といってよいでしょう。

 そこで彼らがまず取った行動は、国ごとマネーロンダリングの魔窟となり、世界中の汚れたカネで荒稼ぎすること。それがアメリカの怒りを買って継続不可能となると、今度はパスポートを濫発してテロリストの片棒を担いで裏金を稼ぐ。それもアメリカから圧力がかかると、今度は舌先三寸でオーストラリアから、中国から、台湾から、日本から資金援助を引き出す。

 テロリストへのパスポート濫発などといったことに手を染め、ほとんど“ならず者国家”と成り下がった惨状ですが、それでも彼らはけっして働こうとはしません。

── 病膏肓(やまいこうこう)に入る。

 ナウル人が額に汗して働くことはこれからもないのだろうと、筆者は思います。ナウルが亡びる日まで。

資源のない日本の幸運

 このように、「不労所得」という禁断の果実にひとたび手を出したが最後、あとはけっして後戻りできない“亡びの道”を一直線に歩むことになります。泥棒がなかなか足を洗えないのも、博打打ちがなかなかギャンブルをやめられないのも、宝くじ高額当選者に身を持ち崩す人が多いのも、すべてはこの“禁断の果実”を味わってしまったからです。

 よく「日本には地下資源がない」と嘆く表現を見かけますが、筆者は「日本に地下資源がなくて本当によかった」と心から思います。地下資源がないからこそ、それを補うために頭を悩ませて創意工夫し、額に汗して勤勉に働いて富を生み出していかなければ国を維持できません。

 そうした厳しい歴史を歩んできたからこそ、日本人は洗練され、世界に冠たる国のひとつとして繁栄することができたのです。なまじ豊富な地下資源などがあったら、それに頼って怠けることを覚え、諸列強からその富を虎視眈々と狙われ、他のアジア諸国同様、日本も19世紀に植民地とされ、亡びていたことでしょう。

ナウルを反面教師にして

 今回、サウジアラビアの国王が御自らわざわざ出向いてまで日本にやってきたのは、こうしたことへの危機感からです。21世紀に入って以降、急速に石油に頼らない新エネルギーの開発が進んでいます。遠からず石油に頼らなくてもエネルギーがまかなえる時代が到来するでしょう。

 そうなってしまう前に対策を立てておかなければ、サウジもナウルの二の舞となることは火を見るより明らか。そこで今回、石油だけに頼る経済体制から脱却するべく、日本に経済協力を要請するためにやってきたのです。

 じつはこれ、地下資源の乏しい日本も他人事ではありません。今の日本が豊かなのは、先人たちの血の滲むような努力の賜(たまもの)です。

 現状の豊かさを維持するだけでも、若者には一層の智恵と努力が必要になってくるのに、今の若者を見ていると、先人たちが築きあげたこの“過去の遺産”にどっぷり浸かり、これを食いつぶしながらラクをすることばかり考えているように見えます。もしそうであるならば、日本の未来は殆(あや)うい。短期的視点でリン鉱石(グアノ)に依存したナウルと同様に、日本人が「先人の築きあげた富」に依存してしまえば、我が国もナウルのあとを追うことになるでしょう。


このコラムについて

神野正史の「人生を豊かにする世界史講座」
人生に役立つ知識を世界の歴史から学び、読者の方々が日々の生活に役立てていただくことを目指します。筆者は日頃、歴史を学ぶ歓びを人々に伝える、「歴史エヴァンジェリスト」として活動しており、このコラムをきっかけに、1人でも多くの方に「歴史を学ぶ楽しみ」を知っていただければ幸いです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122700036/032000008

 


信頼の親日国 投資人気の陰で共産党崩壊の危機も
アジアで急成長のベトナムに視線は熱いがリスクも
2017.3.22(水) 末永 恵
ファイアダンスで悪魔払い、ベトナムの伝統儀式
ベトナム北部トゥイェンクアン省のラム・ビン地区で開催された春祭りで、ファイアダンスの儀式に臨む人(2017年2月10日撮影)〔AFPBB News〕
日本企業の投資先(アジア、オセアニア地域)で最も人気の国はベトナムとなった。2016年のジェトロ(日本貿易振興機構)の日系企業調査で明らかになったのだが、ベトナムで「今後1、2年で事業展開を拡大する」と回答した企業が一番多かった。

中でも、卸売・小売業の拡大割合は、「78.4%」に達し、2位で73.5%のインドを突き放した。さらに、鉄・非鉄・金属、化学・医薬、電気機械器具分野でもベトナムの拡大割合は、それぞれ6割以上を記録し、断トツ人気だ。

全体的に日本企業のベトナムへの投資拡大が今後、さらに加速化すると見られる。

投資先としての魅力は、安価な労働賃金、人口約9400万人のうち、労働人口が約5500万人という豊富な労働力、さらに平均年齢が若い(約31歳)ことが挙げられる。

東南アジアの交通要衝

また、石油、天然ガス、石炭などに恵まれたベトナムは国土がインドシナ半島を南北に走り、地理的にもASEAN(アセアン=東南アジア諸国連合)の中心に位置する。

同地域第2位の経済大国のタイと、最大の経済大国のインドネシア、さらには中国(華南地域)を陸路で繋ぐ拠点に位置することが最大の利点の1つだ。

とりわけ、ベトナム最大の都市、南部に位置するホーチミンは最大の商都で、中国、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールなどと、陸海空路で結べるアジア地域の「経済帯路のハブ」となると見込まれているからだ。

さらに、ベトナムにとって日本は最大の経済援助国だけでなく、安全保障の面でも、対中国で歩調を合わすアジアの同盟国だ。

昨今、政治経済的に中国の影響力が増しているとはいえ、フィリピンやインドネシア、マレーシアなどと比較した場合、ベトナムは今、「アジアで最も信頼できる親日国」とも言える。

しかし、親日的だから、同じ仏教国だから、日本人と考え方が似ているわけではなく、「日本で通用することは、ベトナムでは通用しない」と考えた方が妥当だ。

そう、とかく日本人は外国人に“日本色”を求める傾向が強いが、日本人とベトナム人は、「違って当たり前」。

とは言いながら、ベトナムへの投資リスクは、一企業にとって対処困難な政治経済文化的問題以外でも、ベトナムの人々の価値観や気質など、「現地の常識」を熟知することで、企業として最小限に抑えられるものでもある。

ベトナム人は識字率が約95%で、一般的に勤勉で向上心が高く手先も器用で、資格・技能習得や転職などのために会社終業後、夜学に通う人がいる一方で、教育環境の格差も大きく、社会人としての常識や教育を備えた人が少ないとも言われる。

また、多民族国家のマレーシアやシンガポールと比較し、英語のできる人材は少なく、日本語に関しては、さらに少ない。さらに英語と日本語を駆使する人は、かなり優秀で貴重な存在だ。ベトナムではこうした優秀な人は大抵、共産党で働いたり、技術者になる人が多い。

こうした中、日系企業では、ホワイトカラーの多い職場では英語、工場の労働者などブルーカラーの多い職場では、ベトナム語を使用することが多い。

ベトナム人は一般的に勤勉と言われるが、他の東南アジア諸国のように職場では盗難や職務怠慢も見られ、会計など会社の資金を扱う地位についている人物が、内外で金銭的癒着を起こす場合も多い。

いわゆる賄賂の問題は、日本や欧米ではコンプライアンスなど厳しい罰則のある「タブー」でも、ベトナムでは商習慣、“企業文化”である。かと言って、表向きに露出されるものではなく、構造的で複雑、かつ厄介な問題で、その責任を日本からの出向統括者1人に任せられる問題でもない。

しかも、不慣れなことから判断を間違えると、ベトナムで経営継続ができなくなるだけでなく、刑事事件に発展する場合もあり、ベトナムで日系企業が対応に非常に苦慮する点だ。

また、(東南アジアの特徴とも言えるが)ベトナムでは、男性より女性の方が働き者で優秀、ゆえに企業では主力戦力だ。

半端ではない女性パワー

ベトナム戦争など、戦争で男手がなくなったからでなく、ベトナムでは、「家を守る」ことが、日本のように家庭に入ることでなく、大黒柱、すなわち稼ぎ柱になるということなのだ。そう、ベトナム社会はかかあ天下で、恐妻家がほとんどだ。

ベトナムの企業では、経理、人事、営業部門のほとんどが女性の独占市場となっている。ビジネスの交渉現場でも、必ず男性同僚と、あるいは夫婦でやって来るが、“最後の一刺し”を実行するのは、ボスの女性。

最近では経済的に自立した若年層で、シングルマザーが急増しているともいう。日本と違って欧米と同様、臨月になっても働き続ける妊婦が多く、産休も法令で半年、認められている。

ベトナムでは戦力の妊婦が出産ぎりぎりまで働く中、産休中の代替要員の確保、産休後の女性の復帰など、不慣れな日系企業にとっては大きな問題だ。しかし、ベトナムでの企業の成功は、女性の能力をいかに最大限に生かせるかにかかっており、同対策は不可欠だ。

また、経営上重要な点としては、首都の北部、ハノイと南部のベトナム最大の都市、ホーチミンでは、労働者気質で大きな違いがあることを熟知しておくことだ。

ベトナム最大の商都、ホーチミンを中心とする南部では、一般的に労働意欲や上昇志向が高く、現金主義だが、北部は違う。

一般的に、北部を中心にベトナム人は残業を希望しないが、南部では残業代を目当てに長時間労働を自らかって出る場合が多い。北部から南部への配置換えはあるが、南部から北部への配置換えは、ベトナム戦争の背景もあって南部の人が強烈に拒否するため、現実的ではない。

また、異文化の代表的な例としては、ベトナムでは、個人主義が台頭しており、個人やその家族の利益や考え方、価値観を非常に大切にする。

そのため、仕事の進捗確認がゆるく、計画的に仕事を進めるのも苦手。さらに、日本人のように法令や規則を遵守することも期待できない。団体プレーは不得手でむしろ、日本人にはスタンドプレーと映るべトナム人が目につく。

当然、身内や友人の冠婚葬祭が大事で、社員旅行や会社の仕事は最優先ではない。会社のために個人や家族との生活を犠牲にすることはなく、滅私奉公的発想や集団的利益を美化する文化もない。

よって、会社に対するロイヤルティーや帰属意識はなく、個人主義的考え方から、会社での同僚などとの情報共有をする文化もない。だから、退職時の引継ぎなどが、スムーズにいかない場合もある。

また、ベトナム人には、多目の仕事量を与えて、負荷をかけることが彼らの能力を生かす秘訣だ。3人の部下には、4人分の仕事を与えること。競争心や人事考課の敏感な彼らの労働意欲を高めることになる。

3人に3人分の仕事を与えては、誰かが補佐的な仕事に回り、他の人間のモチベーションも下げ、3人なのに2人、あるいは結果的に1人分の仕事しか達成しないことになる場合もある。

また、2008年4月、ナイキの工場スト関連問題が世界のメディアを賑わせたが、ベトナムでは経済発展に伴い、今後、さらに労働争議が増加することは否めない。そのほとんどが労働組合の指示ではない「山猫スト」だが、経営リスクとして対策を練っておく必要がある。

共産党独裁でも中国より社会情勢の不安は少ない

一方、ベトナム人の国民性や価値観以外のリスクとして、代表的なものは、ベトナムの政治経済、政策制度的なものだろう。

ベトナムが日系企業の投資先(アジア・オセアニア地域)で最も人気の背景の1つに、国内政治や治安の安定がある。中国と同様、共産党の一党独裁支配だが、中国のように、国家主席に権力が集中していないのが特徴だ。

いわゆるトロイカ体制で、共産党書記長、国家主席、首相の間で権力と機能は分離され、「権力の独裁化」を制御し、中国のような政治的リスクに伴う社会情勢の不安もどちからというと少ない。

しかし、筆者の周りの若者の間では、共産党離れが顕著だ。

「経済が発展しても、報道の自由、言論・表現の自由がない国は、国として結果的に崩壊する」(日系企業やベトナム国営企業勤務などのベトナム人)という。

言論統制が厳しく普段は表に出ることは決してないが、日頃、話を深く聞くと、「毎年、ベトナム戦争勝利の戦争記念日のプロパガンダが宣伝される。40年以上も前の話で、終戦以降に生まれた我々は、共産主義でなく、民主主義社会の誕生を願っている」(戦後生まれの知識人たち)と共産党批判は痛烈だ。

中国と同様、経済発展に伴う格差社会の台頭が、共産党一党独裁体制の批判を増幅させており、今後、ベトナムの格差拡大が社会不安を誘引する経営的リスクになる懸念が浮上している。

さらに、社会主義体制の象徴的な課題として、複雑な法体系と一貫性のない運用体制が挙げられる。

新しい法律が施行されても、省庁間で合致しない法律があったりと、結果的に、施行決定から、省令、通達が行われず、「実施細則がないのに、罰則のみが科せられる」という異常事態が発生することがある。

実際あった問題例を挙げると、省エネラベル法(家電などが対象)が施行されたとき、ラベルの内容の記載事項詳細が決定する前に、同法の発令の中で実施日のみが明記され、結果、実施日を迎え、ラベルの貼っていない完成品の輸入が税関で差し押さえられるという事態が起こった。

運用体制に一貫性がないため、行政の水際での役人による判断基準がバラバラとなり、そのため行政手続きで「特例の便宜」と称し、役人が賄賂を要求する温床ともなっている。言い換えれば、賄賂を正当化するため、政府ぐるみで問題を複雑化しているとも言える。

さらに、特筆すべきなのは、為替リスク、製造コストの高騰、裾野産業の脆弱化に、新興国に特徴的な未整備なインフラなどが挙げられる。

国内通貨の「ドン」の信頼性が低く経済的基盤が脆弱なベトナムは、実質ドル連動の変動相場制を敷いている。恒常的にドンの切り下げが行われ、外資系企業は収益を外的要因で左右されるという貿易赤字の産業構造になっている。

貿易赤字体質がもたらす通貨安

ベトナムでは多くの企業が、部材(原材など)を輸入するケースが主流なため、結果的に、インフレを促し人件費高騰や消費者物価の上昇も招いている。

その貿易赤字体質によるドン安は、製造コストの上昇を誘引し、さらに、製造コストの原因の1つに、人件費の上昇も挙げられる。ここ7年ほどで最低賃金の増加率が消費者物価のそれを上回り、ほぼ倍増した。

将来的に、物価上昇がさらに金利上昇を誘引し、企業競争力が一層、下がることも考えられる。また、製造コスト上昇が続く別の要因は、裾野産業の脆弱さにある。

ベトナムに進出した製造業は前述のように原材料を輸入資材に依存し、現地調達率が低く、通貨安による輸入価格上昇だけでなく、物流や在庫コスト、さらにはリードタイムの対応面において弱点となる。

日系企業の人気投資先のベトナムだが、上記のように様々な課題も抱えている。さらに、ベトナムは複雑な諸外国との関係をうまく天秤にかける一方、ゆえにそれらの国の政治や経済、さらには各国間の外交関係の影響をもろに受けやすい。

長年の親密な友好国のロシアは武器提供国で、その敵対国の中国は、南シナ海の領海問題でベトナム人の嫌中がヒートアップする一方で、最大の輸入国。さらにその敵対国の米国は、かつての戦争相手国だが、今では安全保障における対中戦略でなくてはならないパートナーで、しかも、最大の輸出国でもある。

さらに、ベトナムにとって日本は最大の援助国だが、一方で韓国が最大の投資国だ。

「日本のブランド力」は絶大で、昨秋から、東南アジア初、初等教育で日本語を第1外国語として学習教育を始めたベトナム。

しかし、「アジアで最も信頼できる親日国」は、自らの共産党崩壊や、複雑な列強との関係で、その国の成り立ちのもろさを露呈する危険性も同時に抱えているとも言えるだろう――。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49487

 


 


 

ゲイツ氏の「ロボットに課税する」は正しいか

1分で読める経営理論

欧州議会はロボットへの課税を否決
2017年3月23日(木)
エンリケ・ダンス
 米マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、最近のあるインタビューで「人間の労働に取って代わる、ロボットの労働に対して課税をすべきだ」と発言して注目を集めた。つまり人間は収入に応じて所得税を課されているのだから、人間に代わってロボットが同じ質・量の労働をするなら、ロボットの労働に課税するのも「あり」なのではないかという主旨である。ゲイツ氏は、荷物を運搬するドライバーや、倉庫の管理、清掃などといった仕事は今後20年ほどでなくなり、人工知能を搭載したロボットがその仕事を担うだろうという考えを示している。


ビル・ゲイツ氏。「ロボットによる大量失業の時代を迎える前に、ロボットに課税すべきだ」(写真:AP/アフロ)
 背景には、人工知能を搭載したロボットの導入が今後一気に進めば、人間の大量失業につながる可能性があり、社会が不安定になるその移行期間を何とかうまく乗り切らねばならないという、ゲイツ氏なりの懸念があるのだと推察される。ロボットを活用する企業から徴収した税金を、大勢の失業予備軍の人たちの新たな職業訓練に充当しようという狙いである。今から備えておく必要があると言うのである。

欧州議会「法律でロボットに規制をすべき」

 一方、欧州議会もロボットにも課税すべきという、ゲイツ氏のアイデアに似た内容の報告書を出していたが、2月16日に否決された。「ロボット労働の拡大に関しては法律でなんらかの規制をすべきだ」としながらも、ロボット労働そのものへの課税は見送られた。

 ロボットの「労働」に対しての課税は、一見単純そうに見えてなかなかの難問である。当然ながら歴史的に前例がない。産業革命以来、製造工程の自動化が進み、多くの労働者の職は奪われた。その後、機械の生産力は増大し、失業者は新たな職業に就き、企業の利益への課税額は増えたが、税金は企業の「利益」にかけられたのであり、機械の「労働」に対して特別の税金がかけられることはなかった。

 私は、ビル・ゲイツ氏のアイデアは、理詰めで考えたというよりも直観的という感じを受ける。人間を単純にロボットに置き換えただけのイメージだ。「ある『人間の』労働者が工場で5万ドル(約560万円)相当の仕事をしたので、この給料から一定の所得税、社会保障税(費)を差し引く。ゆえに、その人に代わって『ロボットの』労働者が同じ労働をした場合も、同様に課税するのは当然、というシンプルな発想だ。同じ仕事をしている「人間の代替」という考え方は分かりやすいが、この考えに対しては以下のような疑問が浮かび上がる。

超絶凄いロボットの労働への課税額は?

 労働時間から計算される人間の給料体系と、それをベースにした課税システムは、ロボットが人間と同じ内容の仕事を代行した場合にのみ適用可能だ。しかしながら、例えば人工知能などの発達により、人間よりもはるかに生産性が高い次世代ロボットが登場する可能性は高い。そうなってくると、状況は全く変わってくるのではないか。

 代替ロボットが、人間をはるかに超えた生産量を実現し、その上、はるかに高品質な製品を生産し始めたら、生産量や品質の向上に比例させて課税額を増やせばよいのだろうか? しかし、である。視点を変えれば、より優れた仕事や、高い生産性、品質の向上を求めて設備投資をした企業に対し、税の負担を重くするというのはいかがなものだろうか。そんなことをしたら、ロボットに投資しようという企業の意欲は薄れてしまうのではないか。

「ロボット時代」にソフトランディングするために

 ロボットの労働に課税するというアイデアには、社会がロボットを受け入れてゆくために、「ロボット化」の速度を抑制するという意味もあるとゲイツ氏は言っている。「たとえ自動化ロボット導入のスピードを遅らせても、課税をした方がよい」と同じインタビューで述べているのだ。

 しかしながら、やはりこれについても疑問が残る。その考えに従えば、ロボット労働の時代へとソフトランディングさせるために、技術開発のスピードにブレーキを掛けることになるわけだが、人間はテクノロジーの発達にブレーキをかけてもよいものなのか? ということだ。それは理にかなっていることなのか?

 もちろん現代では、テクノロジーの発達で得た利益が一部の少数の人の手に握られ、社会の二極分断化が進んでいるという現実もある。米国やヨーロッパを見ても、中流階級はどんどん崩壊している。富裕層と貧困層の二極化によって消費需要が落ち込み、大量生産の製品を消費者に買わせたいメーカーは窮地に追い込まれる。社会は立ち行かなくなる。現状への不満が社会的紛争を引き起こす要因となるだろう。とはいえ、ロボットへの課税によって、所得の再分配を促進し、今述べたような社会不安を緩和することは果たして可能なのだろうか。

ベーシックインカムで対応する方法

 ロボット労働にともなう大量失業時代に備えるために、ロボットへの課税ではなく、ベーシックインカム(政府が国民に基本的な所得を保障する制度)など、社会的不均衡を是正するための新たな手段を採用するという考え方もある。無条件に支給されるベーシックインカムは、従来からある条件つき(失業した時などの)給付金のシステムに代わるものだ。

 しかしながら、この対案も、根本的な問題とぶつかる。テクノロジーの発達などによって国境はどんどん取り払われているように見えるが、現実には各国がそれぞれ自国の経済政策によって税額を決める自由を持っている。グローバル企業が合法的に課税を回避するために、税金の安い国に拠点を築くことがごく普通に行われているのは誰もが知る事実である。そして、ベーシックインカム導入のために特定の国の法人税が高くなれば、それが企業のさらなる税金回避につながる可能性もある。

一国だけで解決できる問題ではない

 ある国がベーシックインカム導入のために、法人税の税率を上げるという政策を取ると、優良企業がその国に定着せずに、他国に移転してしまうといった問題が起こって来る。その上、富の再分配を行う目的でベーシックインカムを導入した国には、移民が大量に流入し、国境警備という問題も起こって来るだろう。

 繰り返しになるが、人間に代わるロボットに課税するというのはそんなに単純な問題ではない、ということだ。問題は一国の制度にとどまらないだろう。グローバル企業の税金の回避問題や、世界共通の法律制定の問題など、容易に解決できない大きな枠組みにまで問題は波及してしまうはずだ。この問題に関しては、場当たり的な解決策ではなく、もっと広く、深く、討議がなされるべきだと思う。


このコラムについて

1分で読める経営理論
スペインのIEビジネススクールで教える教授陣が、経営や社会、テクノロジーなどをめぐる最新の話題について分析・紹介するショートエッセイです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/283738/031600039

 

 
JFEエンジ、「匠の技」をAIに仕込む

エコロジーフロント

ゴミ焼却炉の人材不足を乗り越える方法とは
2017年3月23日(木)
半沢 智
 「やあ、炉内の様子はどうだい」「窒素酸化物の濃度が増えています。考えられる原因は…」

 ゴミ焼却炉の監視画面に運転員が話しかけると、人工知能(AI)が焼却炉の状況や適切な運転方法などを教えてくれる。そんな話が現実になろうとしている。JFEエンジニアリングは、同社が運転するゴミ焼却発電施設にAIの導入を進める。2017年度中にも試験運用を開始する。

炎の大きさ、色で異常を検知

 発電施設に導入するのは、日本IBMが提供する「ワトソン」と呼ばれるAIである。ワトソンの特徴は、人間が発する言語や人間が見たもの(画像)を解析し、それらの情報を知識として蓄積できるところだ。画像の様子や各種センサーから得られたデータから異常の予兆を見つけ出し、原因や適切な運転方法を助言する。

 AIには、ベテラン運転員のノウハウを習得させる。例えばベテラン運転員は、ゴミが燃焼する際の炎の大きさ、色、燃焼範囲などを見て炉の燃焼状態を把握し、先回りして異常を回避するノウハウを持つ。こうした暗黙知をAIに取り込み、ベテラン運転員のテクニックをいつでも利用できるようにする。


JFEエンジニアリングのリモートサービスセンター(写真:JFEエンジニアリング)
 同社がAIを導入する背景には、ゴミ焼却発電施設の新設需要の伸びは期待できないという現状がある。人口減少やリサイクル率の向上などが要因だ。一方、施設の更新案件で、運営主体である自治体が運用や保守を含めた包括契約を希望するケースが増えている。ゴミ焼却発電施設の運営は20年以上の長期に及ぶため、受注できれば安定収入を確保できる。

 JFEエンジニアリング都市環境本部・戦略技術チームの小嶋浩史氏は、「AI導入でサービス品質向上とコスト削減の両方が可能となる。入札で大きな強みとなる」と話す。

 JFEエンジニアリングは、ゴミ処理施設の遠隔支援拠点である「リモートサービスセンター」を2014年9月に設置し、運用・保守体制を強化した。ここでAIを活用する予定である。現在、国内5施設で遠隔監視を実施しており、2018年度までに海外を含めて10施設に拡大する計画である。

 廃棄物発電による売電収入の向上にも期待する。処理能力が1日当たり100〜150tの焼却炉を2つ持つゴミ焼却発電施設の場合、年間の売電収入は2億〜3億円になる。AIに発電量を管理させ、電力需要の高まる時期に多く発電することで、3%程度の収入増を見込んでいる。

 ゴミ処理発電施設の国内最大手である日立造船も、来年春をめどにAIを活用した施設の運用を始める予定である。今後、AIの予測精度や使い勝手などが、受注の決め手となりそうだ。

 発電所やLNG(液化天然ガス)施設などのエネルギー・環境プラントでもAIの導入が進みつつある。

 プラントエンジニアリング大手の日揮は、AIを使ったプラントの運営・保守サービスに乗り出した。発電会社やプラントを所有する資源メジャー、化学メーカーなどに売り込みを始めている。

 同社が採用したのは、NECのAIである。特徴は、異常の予兆を見つける「インバリアント分析」と呼ばれる技術だ。プラントが正常稼働している状態をAIに学習させておき、実際のデータと比較していつもと違う挙動を検出したら、それを異常の予兆とみなす。


エネルギー・環境プラントでもAIの利用が始まっている。写真は、日揮が建設した石油精製所(写真:日揮)
 通常の異常監視では、運転対象の温度、湿度、圧力、化学物質の濃度などを監視し、それぞれが基準値を外れたら異常とみなす。インバリアント分析では、データが基準値を外れない段階の運転員が気付きにくい変化や、過去に経験がない未知の異常を発見できる。

 異常の予兆検知は、運用効率の向上だけでなく、バルブやポンプ、圧縮機といった部品の劣化時期の予想にもつながるという。異常が発生する前に部品を交換できれば、不必要な稼働停止を避けることができ、燃料やCO2排出量の削減につながる。

AI活用でまず300億円の事業を創出

 これまでプラント建設を主力としてきた同社は、運用・保守を新たな収益源としたい考えだ。2016年5月に発表した中期経営計画では、事業領域拡大の1つとして、運用・保守事業への本格進出を掲げた。同社がこれまでに手がけたプラント以外の運用・保守も請け負う計画だ。

 昨年1月には専門部署「ビッグデータソリューション室」を立ち上げ、故障原因を特定するサービスを開始。既に5社と契約した。インフラ統括本部の三浦秀秋・統括本部長代行は、「AIはサービス強化の大きな一手となる。5年後に300億円のビジネスにしたい」と意気込む。

 AIは、省エネ技術として活用できるだけでなく、人材育成や海外展開など、多くの国内企業が抱える課題に応えられる可能性を持つ。環境プラントの運用・保守にAIを導入する取り組みは、千代田化工建設や富士通なども進めている。AIの活用で環境ビジネスは新たな局面に入った。


このコラムについて

エコロジーフロント
企業の環境対応や持続的な成長のための方策、エネルギーの利用や活用についての専門誌「日経エコロジー」の編集部が最新情報を発信する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230270/032200044

AIをどう使いこなすべきか、羽生棋士と考える

トレンド・ボックス

棋士 羽生善治氏×プリファード・ネットワークス 西川 徹社長、岡野原大輔副社長
2017年3月23日(木)
池松 由香
あらゆる産業のあり方を大きく変える可能性を秘めるAI(人工知能)。機械学習によって加速度的に賢くなるAIを、人類はどう使いこなすべきか。日本を代表する将棋の棋士とAIベンチャーのトップが未来を語った。

(写真=陶山 勉)
羽生善治氏(以下、羽生):1年前のCES(世界最大の家電見本市)でトヨタ自動車のブースに展示されていた機械学習による自動走行のデモンストレーションをビデオで見ました。交差点のような場所をミニチュアカーがぶつからずに行き交っていました。システムを作ったのがプリファード・ネットワークス(PFN)さんと聞き、いつかお話ししたいと思っていたんですよ。

西川徹氏(以下、西川):私と岡野原がコンピューターサイエンス関連の最先端技術を開発するプリファードインフラストラクチャーという会社を創業したのが2006年です。

 岡野原は機械学習やAI(人工知能)を、私は処理スピードの速いコンピューターの研究を担当してきました。技術のビジネス活用を目的に2014年に設立したのがPFNなんです。

岡野原大輔氏(以下、岡野原):これまで機械学習は、バーチャルの世界でしか使われてきませんでしたが、これが今、現実の世界でも使われ始めています。最も分かりやすいのが自動運転で、僕らはさらに産業用ロボットやライフサイエンスの分野でも機械学習の技術を実装しようとしています。まだ一般の人の元には届いていませんが、あと数年くらいで実現するのではないかと思っています。

経験の「集約」がAIの強み


羽生善治 Yoshiharu Habu
1970年生まれ。85年にプロデビューし19歳で竜王位獲得。96年に史上初の七冠独占達成。現在は三冠(王位、王座、棋聖)。(写真=陶山 勉)
羽生:私がNHKの番組のリポーターとしてAIを取材して思ったのは、サイバー空間でやっていたことをリアルの空間に落とし込もうとすると、物理的や社会的、法律的な制約が出てくるということです。

 だからこそ、AIをどのような形で導入するかという最初の一歩がすごく大事だと思うのですが、何か青写真はあるのですか。

岡野原:自動車分野では、どのような時に事故が起きるのかをシミュレーターで機械に学習させています。でも、実際にはシミュレーターと現実との間の差が埋まらないと活用はできません。

 ですから、世界を走る10億台ものクルマから事故の状況やヒヤリハットのデータを集めて機械に学ばせれば、事故を防ぐ方法を学べるのではないかと考えました。ここで重要な役割を果たすのが「ネットワーク」なんです。

西川:人と違うAIの能力は、ネットワークでつなげられる点です。人間は複数の脳をくっつけて大きくすることはできませんが、コンピューターはネットワークでつなげれば、膨大な情報を持つストレージにアクセスすることも、複数のプロセッサーを並べてスキルアウト(能力を増大)することもできるようになります。

岡野原:つまり、経験を「集約」できるんですよ。人間は他人に経験の内容を伝えられても、経験そのものは共有できませんよね。でもコンピューターなら、データを基に経験を再現できるので、学習スピードも速くなる。10台の機械が互いに経験を共有できれば、1台でする10分の1の時間で学習できる。これが機械の持つ可能性なんです。

羽生:自動運転では、例えば2019年1月1日に全てのクルマを自動運転に切り替えることができるなら、とても安全なような気がするんですよ。それこそ交通事故やそれによって亡くなる方が1桁2桁、いや3桁減る可能性もあるのではないかと。

 でも実際は、当分は人間が運転するクルマと混在しているわけじゃないですか。その時に、安全をどう担保するかがすごく難しい問題ではないかと思います。

岡野原:その通りですね。羽生さんに見ていただいたビデオでは、1台だけ赤いクルマが危険運転をしていました。あれは僕が操縦していたんですが(笑)、あの状況がまさにそう。学習したことと違う動きに柔軟に対応できるようにするのは容易ではありません。相手が何を考えているかを想像することは、まだ人間のようにはできません。

 動物なら、例えば馬は生まれて数分で立ち上がれますし、人間は絵本でも本物でもそれが象であると認識できます。これは、遺伝的な進化の過程でそういった知識が組み込まれているんですね。コンピューターではそうした側面は未熟と言わざるを得ません。

羽生:これから先、例えばクルマ以外のところでAIとかディープラーニングが目に見えて進んでいきそうな分野ってあるのですか。


西川 徹 Toru Nishikawa
プリファード・ネットワークスの創業者で社長兼CEO。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。(写真=陶山 勉)
西川:例えば産業用ロボットがあります。人間は物のつかみ方を一度覚えればそれで済みますが、機械は試行錯誤しないとうまく取れるようになりません。でも、世界中のロボットをネットワークでつなげれば、物をつかむというモデルをすぐに作れるようになるのではないかと考えています。

羽生:確かに、知覚についてはこれからすごいことが起こるんじゃないかと思います。だって、人間の視力はどんなによくたって2.0。機械なら7.0でも10.0でも、何百倍、何千倍にすることができる。耳でも鼻でも同じですよね。それがつながって回るようになれば、ものすごいことができそうですね。

西川:人と違ってものすごく小さな物から大きな物までつかめるようになるなど、可能性は膨らみます。

音楽や絵画でもAIが創作


岡野原大輔 Daisuke Okanohara
プリファード・ネットワークスの創業者で取締役副社長。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。(写真=陶山 勉)
岡野原:まだ見えていないAIの応用先として、クリエーション(創造)があります。人の下手な絵を格好いい絵にしてくれるなど、人間の創作活動のハードルを下げるという方向性です。

 演奏が難しいバイオリンしかなかった時代は、人間にとって音楽の創作活動は難しかったかもしれないけれど、ピアノの登場でハードルが下がった。これと同じように、音楽や絵画なんかでAIによる創作が世の中にあふれるようになるのではないかと思っています。

羽生:創造というのは、99%は過去にあった何かの組み合わせだと思うんですよね。ですからそうした意味での創造はAIでもできるようになるような気がします。

 将棋の世界では、AIが新しい発想やアイデアのきっかけになるということが既に起こっているんですよ。今、膨大な数のソフトが日々、対戦しているのですが、その中から創造的な作戦や戦法とかが生まれているんです。

西川・岡野原:そうなんですか!

羽生:はい。でも、あまりに膨大な量のデータなので、ソフトを作った人はそれに気付いていない。棋士が見て初めて、「これって今までにないすごい戦法だよね」と分かる。

岡野原:それは面白いですね。そのひらめきみたいなものを人と機械が共有できれば、これまで以上のアイデアが生まれそうです。

羽生:PFNさんは「Chainer」という機械学習ソフトを無償で公開していますよね。公開する理由や意図はどこにあるのですか。

西川:僕らはディープラーニングの研究開発はいろいろな人がやった方がいいだろうと思っているんです。僕らはまだ60人くらいしかいないので、アプリケーション、具体的にはクルマやロボットに実装するところで勝負すればいいと。

 僕らの予想では、ディープラーニングはいろいろな分野で使えて、しかも成功するという状況がしばらく続きます。であれば、いろいろな分野で試してもらった方が世の中のためになる。

 あと、採用活動をうまく進めるという目的もあります。僕らも当初は名前が知られていなかったのですが、Chainerを出してからは、「日本でディープラーニングといえばPFN」と言われるようになりました。

羽生:この分野でも技術者の人だったり、プログラムを書ける人の数が足りないのですか。

西川:足りないですね。

岡野原:ただインターネットが登場してから変わってきてはいます。今では研究者が論文を公開すると、1週間後とか2週間後に別の国、別の企業や研究機関からその改良版が出るんです。

 笑い話ですが、学会で賞を取った人がプレゼンテーションで、「もうこれの改良版の改良版が出ているからそっちを使ってください」と言うくらい、日進月歩の世界なんです。

羽生:例えば企業として、情報はどこまでオープンにして、どこまでクローズにするのかといった、ルールというか暗黙の了解はあるのですか。

 というのも将棋の場合、対局が終わった後に棋士同士で、「ここが良かった」「あれが悪かった」といった意見を共有する「感想戦」があるんですね。そこには、ここまでは聞いてもいいけど、これは聞いちゃダメという暗黙の了解があって、それを踏まえて自由に話し合っているんです。

西川・岡野原:へ〜え。

羽生:ですからネットワークとかAIの世界ではどうなっているのかと。

人間が賢くなるために使えばAIは決して怖くない

岡野原:やはりオープンとクローズの両方の世界があります。米グーグルのような一部の企業だけが情報を持ってはいけないということで、オープン化を進めている組織もあります。グーグルは個人の写真データを数千億枚、1兆枚という規模で持っています。そこで既に様々な研究がなされている可能性はありますよね。

 AIの世界では、非常に優秀な一握りの研究者が論文などに書かれていないアイデアやノウハウを持っていると言われています。その人たちの採用合戦もし烈になっています。米国では、優秀な人材の採用には、メジャーリーガーと同じくらいの年俸が必要だとも言われています。

羽生:人材が欲しいがために会社を買っちゃうような世界ですね。

岡野原:ですからこれまでAIの研究をクローズでやっていた米アップルも、つい先日、オープンにすると言い出しました。研究者には論文で名を上げたいという心理があるので、優秀な人材にとどまってもらって能力を発揮してもらうためにも、そういう環境が必要だと判断したのでしょう。

西川:(アイデアやノウハウを)特許で守ることが難しいので、情報を公開して「我々は先進的な研究をしていますよ」と宣伝しながら、データと(データセンターなどの)計算資源を押さえることが重要なんです。我々がトヨタさんと提携したのも、自動車のデータを押さえたいということもあるんです。

学習方法を機械に学ぶ

羽生:将棋の世界でもソフトが強くなってきています。人間の棋士が朝から晩まで長時間の試合を毎日続けるのは不可能でも、コンピューターだとそれができてしまうんですね。

 ですから私が今、考えているのは、膨大なデータの中から機械が見つけ出した特徴を、人が学ぶことができないかということです。だいぶ先かもしれないですが、「学習する方法」を人が機械に学ぶ時代は来るのでしょうか。

岡野原:来ると思いますね。人間が最も学習しやすいのは、難しすぎず、簡単すぎない問題を与え続けられること。「フロー状態」と言いますが、これを機械がパーソナライズできればいいのだと思います。

西川:AIは人類の新たな道具だと考えればいいと思います。コンピューターのプログラミング言語が進化して、どんどん新しいアプリケーションが出てきたように、ディープラーニングも人間の想像力で発展させて、生かせばいい。むしろAIは人間にとって、楽しみの方が多いと思います。

羽生:これから機械がどんどん賢くなるのは目に見えているので、人間の知能も同時に上がっていかなければ、社会に導入する際に何らかのひずみが生じてしまうことになりますよね。

 だから、人間がより賢くなるためにAIの力を使うことができればすごくいいなと。AIを脅威に感じている人も多くいるでしょうが、そう考えれば怖くなくなるかもしれませんね。

(日経ビジネス2017年1月9日号より転載)


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急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
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掃除機に革命? 床を水洗いできるヘッドの狙い
トレンド・ウォッチ from日経トレンディ
世界初、家電ベンチャーが開発
2017年3月23日(木)
日経トレンディ
 家電ベンチャーのシリウスが、水洗いクリーナーヘッド「スイトル SWT-JT500」を発表した。4月21日発売で、予想実売価格は2万円前後。スイトルは掃除機のヘッドの代わりに取り付けることで、ペットの糞尿や食べこぼしなど、水分の多い汚れを吸い取ることができる。既存の掃除機に取り付けて使う水洗いクリーナーヘッドは世界初だという。

家電ベンチャーのシリウスが4月21日に発売する、水洗いクリーナーヘッド「スイトル SWT-JT500」(オープン価格で、予想実勢価格は2万円前後)
 シリウスの亀井隆平社長は「掃除に革命を起こし、掃除機の新しいカテゴリーを作り出す商品」と自信を見せる。
 「水の力で掃除する世界初の水洗いクリーナーで、カーペットなどにこびりついた汚れや頑固なシミ、チリ、ホコリなどをニオイも残さずにきれいに吸い取る」(亀井社長)

シリウスの亀井隆平社長
 2016年10月24日からクラウドファンディングサイトの「Kibidango(きびだんご)」でスイトルの支援を募集したところ、10月26日には目標金額(100万円)を達成。最終的に503人の支援者から700台、1164万8136円の金額が集まった。

クラウドファンディングサイト「Kibidango(きびだんご)」で、2016年10月24日から12月22日まで支援者を募集していた
 スイトル自身は動力を内蔵せず、取り付けた掃除機の吸引力によって内部のファンが回転し、ゴミと空気を分離する。単純に水分の多いゴミを吸い取るだけでなく、本体内のタンクから水を噴射しながら掃除するのがポイントだ。
 日本では一般的ではないものの、欧米では水フィルター式掃除機など水分を吸い込める掃除機が普及している。しかし従来のものは大きな問題があったと亀井社長は語る。
 「欧米では水を吹き付けてから湿式掃除機で吸い取る『水掃除機』や、吸い取った空気を水でこす『水フィルター掃除機』が普及していたが、汚水と空気を完全に分離する技術は確立されていない。そのため、汚水が吸引されてモーター部に達すると電極部が漏電して故障の原因になるし、モーターの羽根などに汚水が付着すると排気の悪臭やサビ、汚れ、カビなどが発生する。また、吸い込み仕事率が低下するなど、さまざまなトラブルを引き起こし、製品そのものの寿命が落ちる原因となってしまう」(亀井社長)
 欧米は日本に比べて一般的に湿度が低く、室内でも靴を脱がない生活スタイルであることから水を使う掃除機が普及している。一方で、日本で普及していない理由について、亀井社長は「安全性、耐久性、操作性、収納性、また生活スタイルの違いなどから家庭用掃除機としては普及・定着していない」と語る。
 「潜在ニーズがあっても、日本人の家電に求めるクオリティーを満たす商品がなかったのが実情」(亀井社長)
 スイトルは広島県福山市の発明家、川本技術研究所の川本栄一代表が約20年前から温めていたアイデアを具現化したものだ。
 「川本さんが発明したアクアサイクロン技術やターボファンユニット、ノズルによって、カーペットなどにこびりついた汚れやシミなどを洗浄しながら吸引できる」(亀井社長)
水を噴射しながらゴミを吸い取る
 スイトルはキャニスター型掃除機のノズルを取り付けて掃除できるクリーナーヘッドだ。本体下部に水タンクがあり、先端のノズルをカーペットなどに密着させたときに負圧(外の気圧より圧力が低い状態)になることで弁が開き、タンク内の水が噴射される。

スイトルで掃除しているところ

カーペットにノズルが密着して負圧になることで弁が開き、タンク内の水が噴射される

コーヒーのシミがきれいに吸い取られているのが分かる
 ノズルから吸い取られたゴミは汚水槽のほうに入るが、「技術的な最大の課題が、吸引した汚水が壁面を伝わって掃除機本体に浸入することをいかに防ぐかだった」(亀井社長)という。
 「従来の水フィルター掃除機などの最大の弱点はここにある。汚水の侵入経路は回転するファンと本体の外壁との隙間だが、この隙間がなければファンがロックして回転できない。スイトルは掃除機の風圧を利用して逆噴射ターボファンユニットを回転させ、フタの天面にある外気取り込み口から外の空気を取り込んで『エアシール』、つまり空気の壁を作る。このエアシールの押し下げる力が、ファンの本体の外壁との隙間から浸み上がってくる汚水の侵入を防いでいる」(亀井社長)

スイトルの上部のフタを外したところ。上が汚水槽になっている

スイトルの下部のフタを外したところ。こちらに洗浄用の水を入れる

スイトルのノズル部分。ゴミなどを吸い取る様子や、水が出る様子がよく見えるようになっている

ノズル部分を下から見たところ。固形物をこすりつけないように、アヒルの口のような形状になっている

スイトルのフタの部分には、吸い込んだ汚水が掃除機のほうに流れないようにする逆噴射ターボファンユニットが付いている
 さらに、転倒時や落下時に掃除機に水が入らないようにする逆流防止弁も備えており、二重三重に安全対策を施している。
 本体前面にはレバーが備えられており、レバーを切り替えることで水の噴射をオン・オフできる。水を噴射してひと通りきれいにしたあとは、噴射を止めて吸い取れるという仕組みだ。スイトル本体には電子部品が全くないので、すべて水洗いできるようになっている。

本体前面のレバーで水の噴射をオン・オフできる
 「狙ったゴミをわずか1分で吸い取るスポットクリーニングが可能。汚れやニオイ、雑菌を閉じ込めて空気中に逃さない。わずかペットボトル1本分、500mlの水で最長3分間、高い洗浄力を発揮する。さらに除菌水の素を入れて50ppmの弱酸性次亜塩素酸水を作ると、家庭の除菌・消臭対策、特にペットのおしっこに極めて高い効果を発揮する」(亀井社長)
ターゲットは「ペット世帯」
 スイトルのターゲット層は「ペットを飼っている世帯」だと亀井社長は語る。
 「キャニスター型掃除機を持つ全国5340万世帯にスイトルを提案していくが、その中でコアとなるターゲットは犬を飼っている全国約800万世帯、猫を飼っている560万世帯。ペットがしてしまったおしっこの汚れ、いつまでも取れないシミ、抜け毛、しつこいニオイなど、ペットにまつわる悩みを持つ人は増えている。ペットの数は犬と猫を合わせると1980万頭にも達しており、今や15歳未満の子どもの人口より多い。ペット関連の消費も多様化して着実に拡大している」(亀井社長)

ペットを飼っている家庭がスイトルのメーンターゲットとのことだ

ペットの数は犬と猫を合わせると1980万頭に達し、15才未満の子どもの人口より多い
 もちろんカーペットを使用している一般家庭もターゲットになるが、最近の新築住宅のほとんどがフローリングになっている。そのあたりは逆風ではないのだろうか。
 「たしかにほとんどがフローリングだが、ペットにとってフローリングは足を滑らせて危険なこともあり、ペットを飼っている家庭の多くはカーペットやラグなどを使っているので、十分にチャンスはあると思う」(亀井社長)
 ペットを飼っている世帯以外では、高齢者や幼児のいる家庭にも訴求していくようだ。
 「高齢者の介護や幼児の食べこぼしなども有力なターゲット。発明した川本氏は20数年前に介護で苦労された経験があり、手を汚さずに排泄物などを一気に吸引できるものは作れないかと考えたのがスイトル開発の動機だったそうだ。スイトルは『掃除プラス洗浄』という掃除マーケットにおける新しいカテゴリーの提案」(亀井社長)
「デザイン」と「品質」を重視して開発
 亀井社長は2010年に三洋電機を退職してシリウスを起業し、三洋電機時代から関わりがあった次亜塩素酸水を空間清浄に用いた「J-BOY」を開発。医療機関や介護施設向けに販売している。

次亜塩素酸水を用いたシリウスの空間清浄システム「J-BOY」
 「三洋電機のDNAを受け継ぐ一人として、いつかは日の丸家電の復活をと胸に秘めていた」という亀井社長が川本氏の発明に出会い、「私にとっては日の丸家電復活のトリガーになる商品と直感した」と言う。
 ただし、シリウスはわずか6人の零細企業。スイトルを商品事業化するにはシリウスのみでは不可能だったと、亀井社長は語る。「独自の強みを持つパートナー企業との協業戦略が不可欠の前提となる。製販可能なら官民コラボなどの力を借りてでもヒット商品を生み出すことを期し、成功の条件として『デザインファースト』『クオリティーファースト』という2つの条件を設定した」(亀井社長)
 「デザインと品質は、ものづくりで最も優先されるべき基本原則事項」という信念を持つ亀井社長が重視したのが、全体を統括するディレクターにデザイナーを起用することだった。
 「デザインを製品戦略の根幹にすえて、デザイナーが商品の構造、企画段階から開発、販売、市場導入まで、全体を統括するディレクターとして開発に当たった」(亀井社長)
 デザインと商品のコンセプト設計は、秋葉原に拠点を持つクリエイター集団exiii(イクシー)が担当している。イクシーは電動義手「Handiii(ハンディー)」の開発によって「iF design award」でGOLD Awardを受賞し、国内では2016年のグッドデザイン賞金賞を受賞するなど、国内外で実力が高く評価されている。
 また、コンセプト設計とプロモーション戦略、コミュニケーション戦略については、ブランディングやマーケティングを得意とするクリエイティブ集団の未来予報の力を借り、設計・製造に関しては兵庫県加古川市のユウキ産業が担当した。
 ユウキ産業は、旧三洋電機の掃除機などの協力会社であり、今でも電機・自動車メーカーの金型樹脂成型、組み立て加工までこなす製造メーカーだ。スイトルの開発には、三洋電機の掃除機「Airsys(エアシス)」の開発チームが担当したという。
 「ユウキ産業は、掃除機そのものを知り尽くし、家電の品質基準を熟知し、品質に対する基本の考え方や姿勢が徹底している。かつて三洋電機でものづくりに取り組んだ一体感によって、利害が衝突する切迫した商品検討の現場や、妥協が許されない品質課題検討の場などにおいても信頼が得られたと確信している」(亀井社長)
 今回発表したスイトルの第1弾モデルは掃除機のノズルに装着するアタッチメントタイプだが、現在動力内蔵型(掃除機型)のモデルの開発も進めており、そのほかにも湿式乾式両用タイプ、さらには大型化、小型化したモデルなど商品ラインアップの拡充を図っていくとのことだ。
モーターを内蔵。単体で動作する水洗い掃除機も開発中
 発表会には製品デザインを担当したイクシーの小西哲哉CCOが登壇し、デザインプロセスについて解説した。

製品デザインを担当したイクシーの小西哲哉CCO
 「2015年11月にプロトタイプを見せていただいたときに、『おーっ!』と思った。カーペットにカップラーメンを散らかして掃除したときは本当にきれいに吸い取れて、『これは本当に欲しい』と思った。これをどうやってお客様に伝えるか、アイコニックな形状にするか、水の流れをどのように見やすい形にするかを念頭に置いてデザインした」(小西氏)

初期のデザイン案
 数種類作ったデザインコンセプトの中からハンドルに注力したものと、水の流れを強調したものとの2つに絞り込み、最終的にハンドルに注力したデザインを基に進めていったという。

2つに絞り込んだデザイン案
 もともとのプロトタイプは川本氏が図面なしに、勘を頼りにしながら手作業で作り上げたもの。それを3Dスキャンして構造をモデリングし、デザインの中に入れ込んでいったが、細部まで詰めていく段階で川本氏から新たなプロトタイプが生み出されていった。
 「そのたびにモデリングをし直さなければいけないのだが、第1弾より第2弾のほうが確実に性能がアップしているので、やるしかない」。小西氏は笑いながらそう語った。
 「今回は動力内蔵ではないが、モーターを内蔵して単体で動くものを考えている。今回、ユウキ産業さんと一緒に製品を開発していく中で得られた知見も加えて、さらにクオリティーの高いものを作りたいと思っている」(小西氏)
 スイトルの仕組みを発明した、川本技術研究所代表の川本栄一氏も続いて登壇した。
 「小西さんのデザインと実際の機能とのマッチングが難しい面もあったが、ノズルのラインや全体の出来上がりがすばらしく、リビングのどこに置いていても違和感どころか注目を集めるようないい商品になったと、本当に喜んでいる。この商品に限らず、水と空気を操る技術を使った違う商品が頭の中にあるので、これに飽き足らず、水と空気を制御する次の商品を作りたいという心境だ」(川本氏)

スイトルの仕組みを発明した、川本技術研究所代表の川本栄一氏

川本氏による原理試作。小西氏とユウキ産業がプロトタイプの試作を進めている最中にも、次々に新たな試作品が生まれていったという

3Dプリンターによって作られた試作品(写真左)と、完成一歩手前のモデル(写真右)
 筆者も発表会場でスイトルの使い勝手を試してみた。本体下部の前方が少しラウンド形状になっており、少しだけ力を入れて前に倒すだけでスムーズに吸い取れる。
 ノズルをカーペットに密着させて負圧になると、自動的に水が出てくるという仕組みもユニークで興味深い。ただし、そのためにはしっかりと密着させなければならず、少し慣れが必要なように感じた。このあたりは完全に電源なしで、掃除機の吸引力とそれを基にした気圧の変化だけで負圧が実現していることに起因しているのだろう。
 電源なしで使えるので完全に水洗いできるのがメリットではあるものの、床に凹凸がある場合などはうまく水が出てこない可能性もあるのではないだろうか。
 水が吹き出す量も多からず少なからず。ただし、水を出したそばからノズルで吸い込むので、できるだけ濡らしたくない場所(例えばベッドやふとん、ソファー、たたみなど)では水の量を減らしたり、反対に頑固汚れの場合は水の量を増やしたりと、水の噴出量をコントロールできる機構があればさらにいいのではないかと感じた。
 筆者も以前には猫を、現在は犬を飼っている。粗相をしてしまったり、吐いてしまったりということは日常茶飯事だ。掃除機に取り付けて掃除し、その後しっかりと水洗いするという手間がかかるものの、手を汚さずに掃除できることに魅力を感じる人は多いだろう。現在開発中だという掃除機タイプの製品の完成も楽しみにしたい。
(文・写真/安蔵 靖志=IT・家電ジャーナリスト)
[日経トレンディネット 2017年3月7日付の記事を転載]


このコラムについて
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[戦争b19] 南スーダンPKO、陸自撤収は大英断だった 今しかなかったタイミング PKO自衛隊員5人政府軍に連行 「兵士の誤解だった」
南スーダンPKO、陸自撤収は大英断だった
今しかなかったタイミング、自衛隊はしばらく国内に注力せよ
2017.3.21(火) 渡部 悦和
【AFP記者コラム】この国に生まれた悲運、南スーダンの絶望
この国に生まれた悲運、南スーダンの絶望(c)AFP/Albert Gonzalez Farran〔AFPBB News〕
安倍晋三首相は、3月12日、南スーダン国連平和維持活動(UNMISS)に従事している陸上自衛隊の撤収を決断し、その旨を発表した。

積極的平和主義を掲げる安倍首相にとって、今回の決定は苦渋の決断であったと思うが、英断だと高く評価したい。現地で活動する自衛隊員とその家族も安倍首相の決断に感謝していると思う。

日本の一部の野党やマスメディアは、安倍首相の英断に奇襲を受けたのであろう、「なぜ、今なのか。撤収の理由は何か」などと愚かな質問を発している。しかし、撤収のチャンスは情勢が小康状態にある今しかないのだ。

南スーダンの情勢は今後さらに悪化する可能性(飢餓の発生に伴う情勢の悪化など)がある。情勢が混沌として抜き差しならない状況での撤収は困難である。

自衛隊が撤収することに対して批判する国々は出てくるであろうし、現地の自衛隊員に対しあからさまに「卑怯者」とののしる者も出てくるだろう。過去においても、UNDOF(国連兵力引き離し監視軍)からの撤退の時もそうであった。

一方、国連のハク副報道官や南スーダンのマヤルディ大統領が「日本が南スーダンでしてくれたことに感謝したい」と述べたように、自衛隊は5年の長きにわたり立派に活動してきたと思う。

実際の撤収は現在活動している部隊の交代時期の5月末になるが、粛々と撤収準備を行い全員無事の帰国を祈念したい。

本稿においては、安倍首相の撤収決断までの国会での議論などの経緯を振り返り、我が国が抱える安全保障上の諸問題や国際平和協力活動をめぐる諸問題を指摘し、それら諸問題に対する解決策を考えてみたい。

結論的に言えば、それら諸問題の根本原因は憲法第9条の問題であり、憲法改正が喫緊の課題であることを指摘したい。

撤収のタイミングとして今が最適である

PKOに参加する自衛隊の撤収を判断するには、以下のようないくつかの要素を検討しなければいけないが、私は安倍首相の撤収決断のタイミングは適切であったと評価する。

安倍首相に反対する党やマスメディアは、「治安の悪化でないなら、なぜこのタイミングか。」と批判しているが、これは自衛隊の撤収作戦を全く知らない者の批判である。治安が小康状態だからこそ撤収するのだ。

●自衛隊の撤収作戦が難しいか容易か
主として現地の治安状況が大きな要素

自衛隊にとって、治安が悪い状況下における撤収作戦は難しい作戦となる。情勢が小康状態の今こそ撤収のチャンスなのだ。

撤収作戦は襲撃される可能性のある難しい作戦であることを理解してもらいたい。まず撤収の準備を自衛隊の宿営地を中心として実施しなければいけない。撤収準備間に襲撃される可能性があるので警戒を厳重に行いながら、同時並行的に撤収準備をしなければいけない。

撤収の際には徐々に部隊がいなくなるので、残される部隊が攻撃される可能性は徐々に増してきて、最後に撤収する部隊が最も狙われやすいので特段の注意が必要になる。

撤収準備は宿営地のみならず、撤収のための全経路において行うことになる。その際の最重要事項は安全の確保であり、予想される危険に対して万全の対策を講じる必要がある。

現地の治安状況が悪化すると、撤収間の安全確保が難しくなるので、情勢が小康を保っている今が最適なのだ。

●我が国を取り巻く安全保障環境

撤収に際しては、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を考慮すべきで、この考慮要素は自衛隊の活用について国内任務で使うのか、国外任務で使うのかという問題でもある。

一部の野党やマスメディアの議論で抜けているのは、日本を巡る厳しい安全保障環境だ。日本は今、内憂外患が絶えない厳しい環境にある。

内憂については、日本は1000年に1度の地殻変動の大激動期にあり、今後、首都直下地震や南海トラフ大震災はほぼ確実に発生する。これらの大震災が引き起こす未曾有の危機に備えなければならない。

私が思い出すのが2011年だ。この年の3月11日に東日本大震災が発生したが、陸上自衛隊はハイチのPKOに派遣されていた。当時ハイチで活動する隊員は、日本に帰って災害派遣に参加したいと熱望していたが、その願いは叶わなかった。

海外での任務を優先するか国内での任務を優先するかの問題だ。

私は国内での任務を優先すべきだと素直に思う。特にハイチのPKOも南スーダンのPKOもその主体は施設部隊である。この施設部隊は災害派遣では大活躍する虎の子の部隊だ。その施設部隊が早期に日本に帰ってくれるのはありがたい。

外患については、中国、北朝鮮、ロシアの存在だ。直近の危機である北朝鮮の核ミサイルの開発や我が国に向けたミサイルの実射は、非常に危険な段階に入っている。

つまり、3月6日に北朝鮮が発射した「4発のミサイルの目標は在日米軍基地である」と北朝鮮自身が発表したように、日本が狙われているのだ。

また中国は、尖閣諸島周辺の日本の領海をしばしば侵犯し、世界第2位の経済大国となり、世界第2位の国防費で急速に軍事力を増強している中国は脅威であるし、北方四島を占領するロシアにも警戒が必要だ。

内憂外患の絶えない厳しい時代において、規模の小さな自衛隊の一部を海外任務で使うのが適切か否かの検討が必要だ。

日本が危機の時にPKO撤収を政局にすべきではない

日本が内憂外患の絶えない時期にPKO問題を政局にすべきではない。ましてや北朝鮮が日本を狙ってミサイルを発射している状況において、完全に国内の些末な問題である「森友学園問題」を巡り低レベルな議論を繰り返す日本の国会は異常である。

特に民進党は、その前身である民主党が南スーダンPKOへの自衛隊の派遣を決断し、派遣を命じたことを忘れてはいけない。撤収までの責任は、政府与党のみにあるのではなく、民進党にもある。

民進党は、治安の悪化や駆けつけ警護問題に絡めて自衛隊の撤収を主張してきた。今、安倍首相が撤収を決断したのだから、素直に撤収を喜べばいいではないか。

「森友学園問題」とPKO撤収問題を絡めて何が何でも政局にしようとする意図が垣間見える政党を誰が支持するというのか。すべての国会議員がすべきは、5年間の長きにわたり灼熱の地で黙々と施設作業に従事してきた自衛隊に感謝し、5月末の無事の帰国を祈念することではないのか。

政府の答弁に対する違和感

一方で、政府の国会答弁を聞いていると、素直には納得できない発言があった。

例えば、自衛隊の活動地域であるジュバ周辺で政府軍と反政府軍の銃撃戦があったとしても、ずっと「治安は安定している」と言い続けてきたが、その認識は国民の認識や現地の自衛官の認識とは違うのではないか。

特に現地で活動する自衛隊員にとっての治安問題は命にかかわる事項であり、現実の治安が悪化しているにもかかわらず、「治安は安定している」と言われ続けると良い気持ちはしないのではないか。

また、日誌の問題があったが、「戦闘」ではなく「衝突」が国会答弁では適切だという発言にどれほどの国民が納得したであろうか。「戦闘」と言ってしまえば、PKO参加5原則の1つ「紛争当事者間での停戦合意」が成立しなくなるという事情は分かるが、違和感はある。

政府答弁の不自然さの根本原因は憲法第9条にある。憲法第9条に整合する解釈をしつつ、何とかして国連PKOに自衛隊を参加させたいと思うから、すっきりしない政府解釈と答弁を続けなければいけないのだ。

我が国のPKO参加に関する本質的な問題点は何か?

今回のPKO撤収に関する国会議論の不毛さの根本的な原因は、憲法第9条第2項(「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」)にある。

●PKOへの自衛隊の参加と憲法第9条の問題

・政府の解釈

武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限のものに限られること、停戦合意が破れた場合には、業務を中断して撤収することができること、以上の2点をもって憲法で禁じた武力行使を行うことはない。

・東京外国語大学の伊勢崎賢治教授の主張

伊勢崎教授によると、ルワンダ内戦における大量虐殺がトラウマとなり、その反省をもとに1999年にコフィー・アナン国連事務総長(当時)が告示(国連部隊による国際人道の遵守)を宣布した。

この告示により、国連PKOは「紛争の当事者」となることが前提になった。日本政府は、国際人道法に制約されながら戦闘つまり交戦することも9条2項で禁止する「交戦権の行使」として解釈しているのだから、他国の紛争の当事者となるPKOへの自衛隊の参加の違憲性は改めて問われるべきだったと主張している*1。

また、伊勢崎教授は、「今PKOに加わることは、『紛争の当事者』になることを前提としなければなりません。それは、つまり、『敵』を見据え、それと『交戦』することです。9条が許しますか?これは9条の問題なのです」と言い換えて説明している*2。

政府としては、「敵を見据え、それと交戦する以前に撤収する」のだから9条に違反しないと解釈するのであろう。いずれにしても、憲法第9条の改正なくしてPKOを巡る明快な議論はできないであろう。憲法改正に向けて特段の努力をすべきである。

*1=“日本はずっと昔に自衛隊PKO派遣の「資格」を失っていた!”、現代ビジネス

*2=南スーダンの自衛隊を憂慮する皆様へ〜誰が彼らを追い詰めたのか?、現代ビジネス

●参加5原則の問題

参加5原則は以下の5点であるが、今回の派遣から撤収までの経緯に鑑み、参加5原則の妥当性こそ真剣に議論し、必要ならば修正すべきであろう。

@紛争当事者間で停戦合意が成立していること
A紛争当事国(紛争当事者)が我が国の平和維持隊への参加に同意していること
B平和維持隊が中立的立場を厳守すること

C以上の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合、撤収することができること
D武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限を基本。安全確保業務及び駆け付け警護の実施にあたり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能

今回、治安との関係で問題になったのが「@紛争当事者間で停戦合意が成立していること」である。

最近の平和維持活動においては、内戦に伴う「住民の保護」が主たる任務となることが多く、紛争当事者間で停戦合意が成立していなくても、「住民の保護」の任務を遂行することになる。

自衛隊だけが、「停戦合意が成立していないから撤収します」と言えば、平和維持部隊を構成する他国部隊などから批判されるであろう。停戦合意を5原則から外すか否かも含めて議論すべきだろう。

また、Dの武器使用権限のさらなる緩和が必要なのか否か、憲法第9条の交戦権との関連での議論もすべきであろう。結果として憲法改正の議論をすべきであろう。

●いわゆる「一体化」の問題

伊勢崎教授の一体化に関する意見と政府の解釈は違うが、どちらの解釈が適切なのかは議論すべきであろう。伊勢崎教授の意見によると、自衛隊はまぎれもなく「PKF(Peace Keeping Forces)の工兵部隊」として活動してきた。

歴代の自衛隊の施設部隊は、PKFの工兵部隊であり、現場ではずっとその扱いであった。自衛隊はPKFであるだけでなく、PKFという多国籍軍としての「武力行使」に“一体化”して活動する。当たり前である、一体化しなかったら、多国籍軍としてのPKFは成り立たない。

施設部隊として送られた自衛隊が、基地に閉じこもり、全く何もしなくても、他のPKFの部隊が交戦すれば、自衛隊も自動的に交戦主体としてみなされる。国際法から見れば、自衛隊はじっとしていても、PKO参加の時点で、静的に、「武力の行使」と一体化する*3。

この問題も9条2項が禁じる交戦権の問題と関連し、憲法を改正することにより解決できる問題である。

筆者の意見

今回の安倍首相の南スーダンPKOに従事する陸上自衛隊の撤収に関する英断を高く評価する。

南スーダンからの撤収によって自衛隊が参加するPKOはなくなるが、次に参加するPKOを過早に探したりするのは適切ではない。

今やるべきことは、国際平和協力業務のみならず、我が国の安全保障全般に大きな影響を及ぼしている憲法第9条第2項の改正について議論をし、努めて早く改正することである。

憲法の改正がなされるまで、自衛隊は、我が国が直面する内憂外患に鑑み、主として国内任務に専念すべきである。ただし、例外的な国外任務として、アジアで発生した大震災(地震、津波など)に対する積極的かつ短期の災害派遣活動を重視して実施すべきである。

最後に、自衛隊に対し、この5年間の南スーダンでの活動に感謝するとともに、5月末の無事の帰国を祈念してやまない。

*3=自衛隊「海外派遣」、私たちが刷り込まれてきた二つのウソ〜ゼロからわかるPKOの真実、現代ビジネス
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49468

中韓関係:解き放たれたナショナリズム
2017.3.22(水) The Economist

(英エコノミスト誌2017年3月18日号)

米軍のTHAAD配備に中国反発、安全保障上の利益「断固」守る
韓国・ソウル近郊の平沢にある烏山空軍基地に到着した、最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の装備。在韓米軍提供(2017年3月6日撮影)。(c)AFP/US FORCES KOREA (USFK)〔AFPBB News〕
中国当局が韓国に怒りをぶつけよと国民をたきつけている。ただし、やり過ぎには用心している。

3月半ば、北京の望京地区にあるスーパー、「ロッテマート」の店内は妙に静かだった。ショッピングカートを押す年配の買い物客がほんの数人いるだけで、店員は棚にある商品を並べ直してばかりいる。レジ担当の店員によれば、数週間前に「何かがあった」せいで客の少ない日が続いているという。その「何か」とは、韓国のロッテグループが2月28日、韓国にある社有地に米国のミサイル迎撃システムの配備を認める契約を交わしたことだ。

中国政府はこれに反応し、国民に怒りを表に出すよう促している。それも中国の店舗が不買運動に見舞われているロッテグループのみならず、韓国のものほぼすべてを標的にするよう仕向けている。

中国政府がナショナリズムを外交の武器として利用することは珍しくない。前回は2012年、習近平氏が権力を握る少し前に、日本が東シナ海で支配している島々の国有化に踏み切ったことを受け、その島々の領有権を主張している中国政府当局が抗議運動を行うよう国民に呼びかけた。

通常であれば、中国が韓国をこのような攻撃の標的にすることはない。しかし中国は今回、「THAAD」という略称で知られる地上配備型ミサイル迎撃システムの配備を韓国が決めたことに激怒している(システムの一部は3月6日に韓国に到着した)。

米国は、THAADは朝鮮半島を北朝鮮から守るのに役立つと話している。だが中国は、米国はシステムの強力なレーダーを使って中国のミサイルを「こそこそかぎ回り」、その抑止力を低下させるつもりだと反発している。

中国の国営メディアはここ数週間、韓国の「誤った決断」を毎日批判している。北京を本拠地とする対外強硬主義の新聞「環球時報」は中国の消費者に対し、「韓国を戒める」よう奨励している。「痛めつけてやる」べきだとも書いていた。

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[あわせてお読みください]
「敵基地攻撃能力」には意味がない4つの理由 (2017.3.22 部谷 直亮)
米中経済戦争勃発に新たな火種 (2017.3.21 瀬口 清之)
南スーダンPKO、陸自撤収は大英断だった (2017.3.21 渡部 悦和)
韓国、5月9日大統領選挙 経済は大丈夫か (2017.3.17 玉置 直司)
迫る北朝鮮の脅威、日本は報復攻撃力の構築で対抗を (2017.3.16 北村 淳)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49488

 

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南スーダンPKO、自衛隊員5人が政府軍に連行 「兵士の誤解だった」
The Huffington Post | 執筆者: 安藤健二
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投稿日: 2017年03月19日 10時41分 JST 更新: 2017年03月19日 10時48分 JST SOUTH SUDAN JAPAN
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防衛省は3月18日、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊員5人が首都ジュバ市内で南スーダン政府軍に一時拘束されたと発表した。5人は約1時間後に釈放されたという。時事ドットコムなどが報じた。

NHKニュースによると、5人は18日午前10時(日本時間午後4時)ごろ、護身用の銃器を持ってジュバ市内の陸自部隊宿営地から南約1.5キロの商店で買い物していた。そこで、武器の取締りを実施していた南スーダン政府軍から尋問を受け、商店から約4キロ離れた広場に連行された。5人は、PKO部隊の印が付いた戦闘服姿だったという。

南スーダンに派遣されているPKO要員は身分を保障されており、政府軍による武器取り締まりの対象ではなかった。毎日新聞によると、南スーダン政府は「一部兵士の誤解だった」と日本大使の抗議に対して謝罪した。政府軍兵士に陸自隊員が連行されるのは部隊派遣が始まった2012年1月以降、初めてだ。

日本政府は、陸自部隊約350人の5月末めどの撤収を10日に表明。菅義偉官房長官は「治安悪化が理由ではない」と説明していた。


■関連スライドショー(南スーダンPKO)

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南スーダンPKO
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Anadolu Agency via Getty Images
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南スーダンPKO、陸自施設部隊が撤収へ これまでの経緯は?

南スーダンの陸上自衛隊撤収に思うこと | 長有紀枝
もっと見る: 国際 南スーダン 南スーダン PKO 自衛隊員 連行 自衛隊
http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/18/south-sudan_n_15458360.html
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/816.html

[原発・フッ素47] 「無印良品」を放射能汚染と“誤報”した中国国営テレビの顛末 中国、震災以降の禁輸措置も解除せず 風呂敷広げ放射能汚染訴え
2017年3月23日 陳言 [在北京ジャーナリスト]
「無印良品」を放射能汚染と“誤報”した中国国営テレビの顛末


販売元である良品計画の本社所在地が「製造地」として報道された(写真は問題になった商品ではありません)
 中国の国営放送である中央テレビは毎年、消費者権利保護デーである3月15日に特別番組『315晩会』を放映する。例年、非常に高い視聴率を記録する番組だ。

 今年の3月15日夜に放映された『315晩会』では、「放射能で汚染された日本の食品が中国に流入していること」が取り上げられ、無印良品、永旺(イオン)スーパー、カルビー、深セン海豚跨境科技有限公司などの名前が公表された。これらの企業の中で最も知名度が高いのは無印良品である。

 中央テレビによると、「無印良品が販売している日本製の食品のパッケージ上には中国語で日本の生産地を表示したラベルが貼られているが、そのラベルをはがすと、これらの商品の本当の生産地が『東京都』と記されている」。東京都は中国が食品輸入を禁止している放射線汚染地区だ。

 予想通り、この番組によって瞬く間にSNS(ソーシャルネットワーキング)上は無印良品に対する批判や罵詈雑言であふれ返った。これに伴い、日本の企業や国、日本人を侮蔑するコメントもネット上を賑わせた。普段は厳しい言葉で民族主義に反対している『新京報』でさえ、当日夜のうちに、同社の微信(WeChat、ウィーチャット)公式アカウント『沸騰』上で、無印良品を叩く記事を掲載した。

無印の反撃と
世論の逆転

 しかし翌3月16日、無印良品(上海)商業有限公司は、同社の公式アカウント上で、報道されている問題は「誤解」であるという声明を出した。中央テレビが指摘している食品パッケージに記されている「東京都」は生産地ではなく同社の本社所在地であって、今回取り上げられた「ノンカフェインはと麦&レモングラス茶」の生産地は福井県、「大粒卵ボーロ」の生産地は大阪府で、いずれも中国が食品輸入を禁止している放射線汚染地区ではない。

 いつもなら、315晩会で社名を出し吊るし上げた企業に対しては、中央テレビ局はその後、行政の立ち入り検査があればその様子、企業責任者の事情説明、消費者の抗議の声などを追加的に報道する。例えば、イオンに立ち入った行政担当者に対し、中国の現地責任者が日本産の食品の前で「棚から商品を下ろした。現在、産地を再確認している」と説明する様子が報じられた。しかし、中国で最も有名な無印に対しては、なぜか報道はなかった。無印の出した「誤解」声明についても、中央テレビは報じていない。

 もっとも、他のメディアは、無印への取材を忘れたわけではない。16日、『澎湃新聞』は「上海出入国検査検疫局が提供した情報によれば、無印良品が販売している上述の二つの食品は、それぞれ福井県と大阪府で製造されたことが調査によって確認された」と報じた。「無印良品(上海)商業有限公司の輸入記録を調べたところ、日本の放射能汚染地区で製造された商品は見つかっていない」とのことだ。

 無印が公然と「誤解である」と声明を出した後、遅ればせながらカルビーも反論をした。カルビーについては、個人輸入などの電子取引(Eコマース)で人気商品ゆえか、ネットでは何人かのブロガーが輸入禁止の地域から入っている製品はまったくないという情報を明らかにし、小さいながらも“つぶやき”の援護をした。

 かくして、中央テレビの面目は丸つぶれとなった。国営のメディアとして、基本的な事実確認さえ疎かにしているようでは、あまりにも職業倫理と節操に欠けていると言わざるを得ないのではないか? そんな中央テレビを非難する声が、ネット上に次々に上がった。『新京報』は3月16日、『沸騰』上に掲載した無印良品を叩く記事をひそかに削除した。

国営テレビの誤報に反証
破られた暗然の了解

 3月22日現在、誤報に対して、中央テレビは事態の収束に乗り出すことはなく、もちろん日本企業に対する謝罪なども、番組を見るかぎり行っていない。

 誤報に対して謝罪・訂正することは、国営放送の中央テレビを除けば、中国のメディアもきちんと行う。ただし、筆者の感覚としては、中国のメディアも日本のメディアと同じく、各社の意見の違いがあってもメディア各社の間には「互いを攻撃し合わない」という暗黙の了解はある。中央テレビが間違いを犯しても、その間違いを直接指摘するようなことはしないのが、これまでの風潮だった。

 しかし今回、前述のように『澎湃新聞』はそのタブーを破り、独自の取材によって中央テレビの誤りを正す報道を行った。

『財新ネット』も同様に、この問題に対して「客観性」を貫いた。3月16日、『財新ネット』は「日本の食品:正規ルートでの購入には何ら問題なし」という記事で、無印良品だけでなく、すべての合法的に輸入された日本の食品を弁護した。同記事は「日本の食品は汚染されているゆえに、すべて店頭から撤去すべきだ」という根拠のないデマを直接否定した。

 驚くべきことに、中国のポータルサイト大手『網易』は3月17日付で、「誤解は禁物:日本からの輸入食品はどれも安全」という記事を掲載し、『財新ネット』よりもさらに力をこめて日本の食品を弁護した。

『網易』の記事では、「福島原子力発電所での事故が発生した後、中国は直ちに日本および放射線汚染地区からの輸入食品を締め出した。この禁止措置は国家品質監督検査検疫総局が2011年6月13日に公布したもので、今日に至るまで続いている」と指摘している。

 また「日本政府が作成した報告や外国の研究者たちの継続的な調査によって、福島地区の食品の安全性はすでに証明されているが、放射線汚染地区の食品に対して輸入を禁止するという措置は、核と聞くと顔色を変える中国において、すでに固着化してしまっているようだ」と『網易』の記事は分析している。

 網易は「メディア同士で互いを攻撃し合わない」という暗黙の了解さえも破り、「一万歩譲って、仮に中国で販売されている無印良品の食品に本当に問題があったとしても、それは合法的な検疫プロセスを経て中国に輸入されたものである以上、どこからともなくやって来た『不良会社』に対する責任は税関や検疫部門が負うべきではないか? 年に1度の315晩会で、問題を指摘するどころか逆にしっぺ返しを喰らってしまった」と厳しい見解を示した。

 この記事には「呉小異」という署名があるが、ネット検索しても何者かが分からない。その理由を推測すると、この名前は臨時に利用した仮名に過ぎず、言い換えるとこの記事は読者の誰かが投稿したものではなく、『網易』の編集部によるものなのだろう。

 あるジャーナリストは、こんな話をした。「実のところ、プロとしての素養や職業倫理の程度において、中央テレビの記者は中国のメディア各社からかなり軽蔑されているが、それもまた公然の秘密である」という。検証を疎かにした素人報道をしているというよりも、“どなたか”の思いを忖度して、報道していくことは、ままあったからだ。今回の網易が取った行動は、このような軽蔑的な感情の発露なのかもしれない。

 福島原発の事故については、日本政府、東電が事故に関するデータなどを隠蔽しているのではないかとの報道が中国メディアも中に存在しているのは事実だ。原発事故による放射線で汚染された食品が中国に流出しているというデマも、インターネット上でたまに見かける。この数年間で、大多数の国が日本からの食品輸入を禁止する措置をすでに解除しているにもかかわらず、中国では昨年「米国が日本の食品を輸入停止にしている」というデマも広がった。315晩会での無印、イオン、カルビーをめぐる報道は、そんな状況から出た。

 デマが広がりがちな中国世論に向けて、中央テレビの報道はまさに火に油を注ぐものだった。ただし、火傷したのは日本企業ではなく、火遊びをした中央テレビであった。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

*「陳言の選り抜き中国情報」は今回が最終回となります。長い間のご愛読ありがとうございました。
http://diamond.jp/articles/-/122166?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

 


中国の「放射能汚染」告発に無印良品が徹底反証

中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス

“小清新”は「中国産フェイクニュース」より「日本産」を支持
2017年3月22日(水)
福島 香織

中国中央テレビCCTVは特別番組「315晩会」で「無印良品」を告発したが…(写真:Imaginechina/アフロ)
 毎年3月15日の世界消費者デーの夜に、中国中央テレビCCTVは特番を組んで消費者目線に立って企業やブランドの問題点を暴露する。いわゆる「315晩会」である。消費者保護のためのキャンペーン番組の体をとっているが、その実、外資企業や大手企業をバッシングすることで、社会不満を募らせる庶民のガス抜きをする番組でもあり、また外資系企業の評判を落とすことで、中国国内企業を擁護する狙いもあるといわれている。とにかく視聴率は高く、その番組でやり玉に挙げられた企業は株価が一気に下がったり、クレームが殺到して、一時的にでも市場から排除されるので、外資企業も含め、この日はびくびくなのだった。

 今年は、折りからTHAADミサイルの報復として韓国企業・ブランド・韓流ドラマなどが排斥されていたので、ターゲットは韓国企業になるだろうと思われていたのだが、蓋を開けてみると、ターゲットになったのは、米国企業と日本だった。ナイキと、日本の“福島原発汚染食品”を販売していたとされた無印良品だ。

 興味深いのは、無印良品側はこの報道に対し、「誤解である」と反論、対象商品の撤去にも応じなかったことである。そしてさらに面白いことには、ネット上にはCCTVの取材のほうが怪しい、どっちを信じる?といった発言まで流れた。これまでも「315晩会」の取材の在り方には確かに不条理な部分もあったのだが、企業側はその不条理に文句を言わず、ひたすら謝罪し、“バッシング”をやり過ごす、という方法をとってきた。その方が“被害”が少ないからだ。

 では、無印良品が強気にも反論した背景は何なのか。

互動百科は謝罪、ナイキは返金を表明

 今年の315晩会で、消費者をだます悪徳企業としてバッシングされたのは大手では、中国ネット企業・互動百科、アメリカのスポーツ関連品メーカー・ナイキ、そして日本の無印良品(良品計画)である。

 互動百科は中国のウィキペディアみたいな、ネット上の知識プラットフォームだが、そこにはあからさまな商品広告が載せられていた。例えば健康食品「極核5S」の欄には、「冬虫夏草の800培の功能」といった虚偽の商品宣伝が載せられている。中国では健康食品の広告において、根拠のない功能をうたってはいけないと決められているが、互動百科という、“ネットユーザーによる知識プラットフォームにおける意見”というスタイルにすることで、その盲点をついた“広告宣伝”が可能というわけだ。

 しかも、百度百科は本来、ユーザーが無料で知識・情報を書き込んでいくもので、そこに虚偽があった場合は、互動百科側が削除・凍結するルールになっているのだが、実のところ、互動百科側に広告費を払えば、あたかもユーザーによる知識プラットフォームの体を装った広告が、削除されないまま残ることまで暴いた。互動百科はこの番組放送後、いち早く「一部社員のやったことで、今後企業管理に漏れがないようにいたします」と謝罪を表明した。

 またナイキのテクノロジーシューズ・ズームエアに内蔵されているはずのエアユニットが、中国でコービー・ブライアント北京五輪仕様復刻版と銘打って売り出されたものに関しては内蔵されていなかったことも315晩会で暴露された。国際標準のズームエアと、中国国内限定販売用のズームエアと仕様が二つあるというのだが、消費者にしてみれば納得いかない話だろう。ナイキ側は誤解を呼ぶ広告の仕方をしたとして、消費者が望めば全額返金に応じるとしているが、消費者側は消費者権益保護法にのっとって、購入額の三倍の慰謝料を支払うべきだと訴えていた。ちなみに、この番組放送後、ナイキ側は沈黙を守っている。

「なんと恐ろしいことか」

 さて、問題の日本の“放射能汚染食品”のバッシング報道だが、CCTVは中国国内1万3000以上のネットショップやスーパーで日本の核汚染食品が売られていると暴露した。例えば、カルビーのスナックの製造元は東京都。工場は栃木県。東京都も栃木県も2011年の311東北大地震以降、中国が食品輸入禁輸措置をとっている対象12都・県(現在は10都・県)に含まれている。スーパーの棚に並んでいるレンジでチンするごはんパック。中国語の製造元表示には北海道産とあるのだが、その中国語表示をめくると、製造者住所は新潟県。これも禁輸措置対象地域だ。こうした“日本の放射能汚染食品”は、良質・安全を売りにしているブランド・無印良品のスーパーで売っていることも判明した。

 からくりは至って単純で、天津や深圳の保税区留めで輸入したのち、保税区内から宅配便で保税区外に送る。よくある密輸入のパターンである。

 こうしたCCTVの調査報道映像のあと、スタジオの司会者は、「初期統計で1万3000もの店で放射能汚染食品が売られているとは。この数字はなんと恐ろしいことか。まさか輸入代理店は、国家の法律を知らないわけではないでしょう。まさか、これら食品が自分たちの同胞友人たちの健康を損なうかもしれないことを知らないわけではないでしょう」と怒りをあらわに訴えるのである。

 この放送を受けて、中国のメディアは「恐怖!日本の放射能汚染食品を我々は食べていた!」と煽情的なニュースを流し、ネットショップでは一斉にカルビー製品が姿を消し、全国のスーパーは日本産の食品を棚から撤去したのだ。だが、この番組に反論した企業があった。無印良品だった。

CCTVを信じるか、無印を信じるか

 無印良品サイドは、中国のSNS微博のオフィシャルアカウントで「輸入食品はすべて安全検査を受けている。放射能汚染食品を販売したという事実はなく、CCTVは製造会社の住所と生産地を混同しているだけであり、報道は全くの誤解だ」と表明した。そして315晩会で批判対象となった日本産食品・飲料の原産地は、実は福井県と大阪府であるとの説明をしたうえで、原産地証明を出してきちんと税関検査を受けて、合格を得た商品であるということを、税関書類の写真を添付しながら訴えた。もちろん、店舗から対象食品・飲料を撤去しなかった。

 さらに意外なことに、この無印良品の抵抗は中国のネットユーザーたちを味方につけ「無印良品の逆襲が成功!」「企業広報は無印良品に学べ!」「CCTVを信じるか?無印を信じるか?」といった発言も飛び出した。また、一部大手ネットメディアも無印良品側の言い分を丁寧に報じた。

 これはなぜかということを考えるとなかなか面白い。

 微博ユーザーのV(VIP称号、影響力のあるアカウント)アカウントの少なからずが、CCTV報道に突っ込みを入れて、無印良品サイドの立場に立って発言している。

 例えば「青年考古学生」という編集者のアカウントはこういう。

 「CCTVが何を言おうが、地方メディアが何を信じようが、無印良品が声明を出す前は、ほとんど一方的な暴露でしかなかった。さらに言えば新京報メディアは、(独自取材もせずに)“無良印品”などと揶揄した。メディアは自分で事実を求める精神で再調査・再取材しないのか?」

 とあるブログニュースはこう指摘する。

 「中国において、メディアの擬人化がひどく進んでいて、まるで視聴者・消費者を父母のように一方的に誘導するようになっている。…CCTVが発信したのだから、我々も唱和せねばならない。CCTVをそらんじておけば、どちらにしろ私たちには責任がない。こういう大衆の心の在り方は、無責任なメディアと同じである」

 中国における官製メディアへの不信は実は、ネットを駆使するような若い世代や知識層の間には根強くある。だが、メディアが共産党の喉舌であり、党の代理人としての立場にある以上、表立った官製メディア批判は党批判となるので、多くの視聴者はフェイクニュースだとわかっていても、あまり文句はいわない。そして、政治的安全を考えて、時にそのフェイクニュースにあえて乗じて、自分の利益になるように行動する。

 例えば、かつて日本で生産されているSK‐Uの化粧水に、中国の品質検査上問題のある成分が検出された、という報道があると、それが実は日中関係悪化にともなう中国サイドの一種の報復バッシングであるとわかっている消費者も、空のSK‐Uの瓶を持って返金を要求したりもした。真実は何かということよりも、どう行動すれば政治的に安全であり、個人として利益を得られるか、ということが中国大衆の判断基準でもあった。

 では、この“日本の放射能汚染食品”問題について、少なからぬネットユーザー、大衆が多少の“政治的安全”を犯して、無印良品のサイドに立ったのは、どういうわけか。

“小清新”が好む村上春樹、岩井俊二、無印良品

 ここからは私の想像なのだが、一つの背景は、“無印良品”という日本を体現するようなブランドの威力、信頼性というものがあったのではないか、と思う。中国経済の悪化にともない、外資系企業、外資系ブランドの撤退ラッシュが続く中、無印良品は怒涛の出店を展開し中国の若い世代に圧倒的な支持を受けている。中国の「名創優品」チェーンなどは、明らかに無印良品のブランド力に乗じた戦略で人気を博した。しかも無印良品の持つイメージ、たとえばシンプル、ナチュラル、エコ、オーガニック、ちょっと上質な暮らしといったキーワードは、中国のプチブル層に誕生した“小清新”と呼ばれる若い女性層の好みに合致し、いわゆるエルメスやシャネルに身を固めるセレブ層とは違う、洗練された自然派の都市民ファッションの一つの流行となった。

 そもそも小清新というイメージ自体が、非常に日本的といわれ、小清新が好む小説・映画といえば村上春樹や岩井俊二がトップに来るし、化粧も日本的なナチュラルメイク、美肌スキンケアに重点を置き、ふかひれアワビの飽食よりも、オーガニック食品やマクロビ(日本発の健康食生活法)にこだわる。つまり小清新のイメージは無印良品であり、無印良品のイメージは日本を体現しており、若い小清新な中国人にとって日本とは、シンプル、ナチュラル、エコ、オーガニック、ちょっと上質な国として、圧倒的な信頼を得ている。日本のこの無印良品的ブランド力は、中国における一つの文化形成に寄与するだけの影響力を持っていたわけだ。このあたりの背景は、拙著『本当は日本が大好きな中国人 (朝日新書)』(朝日新書)に詳しいので参照してほしい。

 そのきわめて日本的イメージの無印良品が、CCTV報道に対して「誤解だ」といち早く発信した。ここで、CCTVは嘘つきだ、といわずに「誤解だ」というあたりが奥ゆかしい。そして、わざわざ丁寧に、証拠の税関書類や品質検査合格書類などを添付して、冷静に誤解を解こうとしていることが、好感を得た。こうなってくると、普段、中国のフェイクニュースに対して正面から声を上げることが難しい中国ネットユーザーたちも、ちょっと嬉しくなってくるようだ。ネット上では「疑いなく、無印良品の勝利」と指摘する声もあった。

傲慢フェイクニュースにうんざり

 もう一つは、中国人消費者の間に、中国の“日本の放射能汚染地域生産物”の全面禁輸にうんざりしている空気があった。エコ、ナチュラル、安心、安全、ちょっと上質にこだわる中国の都市部プチブル層は、実は日本製の食品を買いたい。だから、日本旅行に行った際に食品の爆買いをするし、日本に留学・駐在している友人に頼んで送ってもらったりする。売れるから、ネットショップで、カルビーのフルグラ(栃木県産)が販売されるのだし、密輸入の真空パックごはんにわざわざ北海道産とウソの生産地を書いたシールを張ってまでスーパーの棚に並べられるのだ。

 スーパー側も消費者側も、震災後6年も経つ今なお、日本の10都県からの禁輸措置を不条理だと感じているのだ。はっきり言って、日本の放射能汚染食品の問題よりも、そろそろ北京にも飛んでくる黄砂とともに放射性セシウムを吸い込むことによる内部被ばくの方がよっぽど深刻で切実な問題ではなかろうか。

 この後、中国当局の無印良品イジメが本格化して、最終的に無印良品側が前言を撤回して謝ることになるのか、それとも無印良品の冤罪ということで決着がつくのかはまだわからない。

 だが、消費者にとって、バッシングすべき不良品は、自前取材をせずにフェイクニュースを日常的に流し、あたかも自分たちが世論をコントロールしているかのような傲慢さを隠さないメディアの方だということは、別に中国だけの話ではないということだ。

【新刊】『孔子を捨てた国――現代中国残酷物語』

 ともに儒教を文化の基盤にしているから「中国人とは理解しあえる」と信じる日本人はいまだに多い。だが、習近平政権下の空前の儒教ブームは、政治に敏感な彼らの保身のための口パクにすぎず、中国人はとうに孔子を捨てていたのだ。 「つらの皮厚く、腹黒く、常に人を疑い、出し抜くことを考え、弱いものを虐げ、強いものにおもねりながら生きていかねばならない」中国人の苛烈すぎる現実を取材した。
飛鳥新社 2017年2月15日刊

このコラムについて

中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
 新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。
 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。
 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/032000093/



 


中国国営テレビが日本産食品を「放射能汚染」と攻撃 震災以降の禁輸措置も解除せず
朝日新聞デジタル | 執筆者: 朝日新聞社提供
投稿日: 2017年03月16日 08時32分 JST 更新: 2017年03月16日 08時53分 JST CHINA FLAGS
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中国TV「東京は放射能汚染地域」 日本産食品を標的に

 中国の国営中央テレビ(CCTV)は15日の特別番組で、「政府が輸入を禁止している日本の福島県周辺の食品が大量に売られている」と報じた。今も広範囲の禁輸措置をとる中国政府の規定を根拠に、消費者に人気の高い日本産食品を狙い撃ちにした格好だ。

 CCTVは毎年、「世界消費者権利保護デー」の3月15日に、消費者の権利を損なう企業の行為を批判する特番を放映し、全国的な注目を集めている。過去には米アップルや日本のニコンなど、外資系企業も多く「標的」にされてきた。

 中国政府は2011年の福島第一原発事故を理由に、周辺10都県に及ぶ東日本の広い範囲からの食品輸入を今も禁止している。CCTVは、東京都などの対象地域を「放射能汚染地域」と表現した上で、ネット通販や日系の大型店などで大量の食品が、規制をくぐり抜けて輸入販売されていると批判した。取扱業者は1万3千社以上に上るとしている。

 番組で紹介されたシリアルや米などは「中国産よりも安心」として、消費者の人気が高い。危険性を誇張した報道で、こうした食品輸入への監視が厳しくなりそうだ。日本政府は中国の禁輸措置に対して、「日本国内で安全に流通・消費されている」として、是正を求め続けている。(北京=斎藤徳彦)

(朝日新聞デジタル 2017年03月16日 06時18分)
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http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/15/chinese-tv-on-japanese-foods_n_15392744.html


 


風呂敷広げ放射能汚染訴え 札幌アートイベント語り合う
2017/3/20 07:00
画像
大風呂敷を敷いた会場で語り合う福島の音楽祭関係者ら
 放射性物質の飛散防止を表現するアート「大風呂敷プロジェクト」について考える集会が19日、札幌市中央区の「おおどおり大風呂敷工場」(大通西4、新大通ビルディング4階)で開かれた。今夏に札幌でこのプロジェクトを計画している札幌国際芸術祭実行委メンバーら約60人が集まり、プロジェクトを最初に実施した福島市の音楽祭関係者らと語り合った。

 大風呂敷プロジェクトは、布を縫い合わせた大きな風呂敷を地面に敷いたり、屋内に張ったりするアートで、東電福島第1原発事故による放射能汚染の深刻さを伝えるのが狙い。福島市内で開かれた2011年の音楽祭で生まれ、札幌や東京、名古屋など各地に広がった。(上野香織)

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https://this.kiji.is/216316206178779137?c=110564226228225532
http://www.asyura2.com/16/genpatu47/msg/703.html

[経世済民120] ユニクロとセブンが目指す「消費者を信じない商品開発」インフレ2%の達成は程遠い 全部自分でやってしまう人 春節爆買減の訳
2017年3月23日 森山真二
ユニクロとセブンが目指す「消費者を信じない商品開発」


「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは衣料品の製造から販売で革命を起こせるか――。これまでの日本の流通はメーカー、卸、小売業と明確な縦割りが存在した。しかし、ユニクロは製造小売業という製造から販売まで一気通貫の業態を定着させた。そしてこの先は「情報製造小売業」に変わるというのである。片やセブン-イレブンも、プライベートブランドに力を入れメーカーと流通業の垣根を崩し、「工場を持たないメーカー」になりつつある。(流通ジャーナリスト 森山真二)

ショッピングサイトでは
AIのコンシェルジュサービスを導入

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は東京・有明の新本部披露で集まった報道陣を前に意気軒高だった。柳井氏は「服を作る人と着る人の境をなくす」、「一人ひとりに寄り添う」、「次の世代に繋がるサスティナブルな社会を作る」というテーマを掲げた。

 今までのユニクロといえば「俺たちがこんなに安くていい服をつくったのだから、買うのは当たり前でしょ」という売り方だったといえる。つまり、消費者をどっぷり信じ切った売り方ともいえるが、「寄り添う」ということは移り気な消費者の痒い所に手を届かせるという発想への転換だ。この発言に、ファッション商品だけではない、これからの流通のあり方が集約されている。

 今後、刷新するユニクロのショッピングサイトではAIのコンシェルジュサービス(UNIQLO IQ)を導入、チャットするように欲しい商品を探すサービスを展開する。とくに、春夏アイテムだけで2万種類超をそろえ、体型に合わせセミオーダーで選べる商品を増やすという。

 柳井社長はさらに、あるインタビューで今後、RFID(非接触でデータの読み書きを行う自動認識システム)の導入で商品の企画・生産を週単位から1日単位にシフトし、究極的にはリアルタイムで商品企画・生産をやるという見通しを立てている。この結果、店頭の商品が毎日入れ替わるような態勢の構築を目指す。「シーズン」というくくり方で企画や生産する考え方をやめるともいう。

 衣料品は企画から生産まで時間が必要だ。このため、まだ寒く冬が去っていないのに、店頭は春夏物に切り替わり、まだ暑く夏が去っていないのに、秋冬物に切り替わってしまう。衣料品ではこんなギャップが当たり前になっていた。

 毎日商品が入れ替わるようにできれば、こうしたギャップを解消でき、欲しいときに欲しい商品があるという、つまり「売る人」と「着る人」の境をなくせるというわけである。

 翻って、国内の生活必需品のメーカーは本当に「消費者に寄り添った」商品づくりをしているのだろうか。いまだ、メーカーは「俺たちがこんなにいいものを作ったのだから、君たちは買うのは当たり前でしょ」という発想を持っているところが多いのではないか。もはやユニクロのように、その転換が必要だろう。

「セブンプレミアム」で
1兆5000億円を計画

 消費者はすでに既成の商品では飽き足らなくなっている。新しい商品でないと財布の紐を緩めない。新しい発想が生まれない一つの理由としてメーカーと流通業に厳然とした「垣根」があるからだ。メーカーと流通側はその垣根を崩さないと新しい世界は開けない。

 セブン&アイ・ホールディングスが約1兆1500億円の売上高のあるプライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」を2019年度に1兆5000億円の売上高まで引き上げる計画を打ち出している。

 しかし、1兆5000億円の目標はそれほど下駄をはかせた数字ではないだろう。1兆5000億円のメーカーといったら、それなりの規模である。食品メーカーでは味の素や、明治ホールディングスなど数えるほどしかない。

 セブン&アイにはセブン-イレブンという全国2万店近い強力な販路があるから、それくらい売れるのは当たり前ではないかという指摘はあるかもしれない。しかしそうでもなさそうだ。

 2007年にPB「セブンプレミアム」の販売を始めて約10年、鈴木敏文セブン&アイ名誉顧問は会長を辞任する前に「セブンプレミアムを作りたいというメーカーが列をなしている」と言っていた。

 セブン-イレブンはメーカーなどが参加したチームマーチャンダイジング(商品化計画)で、徹底的に商品の市場を調査する。食品だったら繰り返し味覚を検証する。それも何度も作り直す。

 メーカーにとってはPBの出現によって、セブン-イレブンから自らの商品の"売り場"がなくなることに対する"防衛"の意味もあるだろうが、その半面自ら「作らせてほしい」というほど、セブン-イレブンは消費者の嗜好を的確につかんでいるといえる。裏を返せばメーカーは消費者の嗜好を的確に掴んでいなかったともいえる。

未来を予見した発言をしていた
ダイエー創業者の故中内功氏

 ダイエーを創業した故中内功氏は「流通業は工場を持たないメーカーになるべきだ」と説いた。まったく未来を予見したかのような発言だったが、ダイエーも実際、その言葉を信じ愚直に商品開発をやり、不動産や異業種に投資しなければ経営不振に陥らず、イオンの傘下に入ることもなかったと思う。

 だが、それを代わって成し遂げようとしているのがセブン&アイであり、同社はすでに「工場を持たないメーカー」の域に近づいているといっていい。

 ユニクロ柳井社長は「作る人と着る人の境をなくす」という。元々ユニクロのような製造小売業は自分で製造し販売する仕組みだ。このため、柳井社長は「販売した際のデータは次の製造に生かされ、消費者のニーズが鮮明になっていく」と話している。

 だが、まさにセブン&アイのPBも同じ。消費者に近い位置にいるセブン-イレブンが消費者のニーズをすくいとり、そのニーズを愚直に反映させた商品を作っている。まさに、メーカーと流通の境を低くしている。

消費者を信じないで
寄り添って徹底的に調べる

 では、なぜセブン&アイが流通業のなかで1兆円超を達成できたのか。実は、こんな話がある。

 セブン&アイのセブン-イレブンは数年前から、ローソンの牙城だった関西攻略に乗り出している。ローソンに比べ店舗数で劣っていたが、今では上回っている。その巻き返し策はなんのことはない、愚直に関西地区の味覚を調べのである。

 セブン-イレブンでは元来、一部のおでんなど以外の商品では地域差はなかった。だが、関西地区の攻略にあたって外食店100店以上、商店街数ヵ所で、食べ歩きをして味覚を詳しく調査した。その上でメーカーとチームを組み関西仕様の商品を作ったというから、その徹底力が違う。

 16年2月期には、売上高900億円近くに達したい入れたてコーヒーにしても、過去4回ほど失敗している。しかし諦めなかった。一度「これだ」と思った商品は成功するまで味覚や販売方法を検証して徹底して取り組むのである。下手に妥協はしないのだ。

 消費者を信じないで、消費者に寄り添って徹底して調べる――。それを商品開発に生かす。今後、ITがそれを加速していくだろう。製造、流通の垣根をなくした「消費者を信じないマーケティング」がますます必要になるかもしれない。
http://diamond.jp/articles/-/122159


 


2017年3月23日 加藤 出 [東短リサーチ取締役]
インフレ2%の達成は程遠いヤマトの値上げが話題のお国柄

 


宅配便の運賃引き上げを検討しているヤマト運輸。値上げは、消費税率の引き上げ時を除くと27年ぶりだという?Photo:Rodrigo Reyes Marin/Aflo
宅配便最大手のヤマト運輸が、宅配便の運賃引き上げを検討しているというニュースが大きな話題となっている。1面トップで報じた全国紙もあった。

 しかし、米国人がこの話を聞いたとしたら、「なぜそんな話題が新聞の1面に載るのか」と驚くと思われる。なぜなら、米国では荷物の配送料の値上げは日常茶飯事だからだ。

 日米の消費者物価指数(CPI)における「配送料」の動きを比較してみよう。

 20年前となる1997年1月の価格を100とすると、日本の今年1月は98だ。非常に硬直的である。ヤマト運輸が検討している今回の値上げは、消費税率引き上げ時を除くと、実に27年ぶり(バブル期以来)だという。

 対照的に、米国の「配送料」は持続的な上昇を示してきた。20年前の価格を100としたときに、今年1月は153だ。米企業は日本企業と違って、人件費などのコスト増加分をサービス価格に自然体で転嫁してきた。

 ただし、過去のこのコラムで触れてきたように、米国でもモノの多くは長期デフレに陥っており、耐久消費財の価格は20年前に比べて18%も下落している。

 それでも米国のコアCPI(食料やエネルギー等を除いた総合指数)が、この20年間で一度もデフレになっていない理由は、サービス価格が大きく上昇してきたことにある。

 今回のヤマト運輸の値上げは、インフレ2%を目指している日本銀行にとって朗報ではある。だが、CPIにおける配送料のウェイト(全体に対する比率)は、たったの1万分の15にすぎない。

 そのため、今回の値上げが他業種におけるサービス価格の引き上げを誘発するかどうかが、まずは注目となる。

 また、より重要なのは、安定的なインフレ2%が実現するためには、米国のようにサービスの値上げと賃金上昇が毎年続けて発生する必要があるという点だ。配送員が疲弊している実情を世間に訴えて、ヤマト運輸が何とか値上げを実現しても、次の値上げが10年後ということでは、日銀としては困るのだ。

 そう考えると、日本におけるインフレ目標2%を達成するまでの道のりはまだ遠いことがあらためて実感される。

 値上げしづらい空気、またはそれを招いている人々の行動規範を「ゼロ・インフレ・ノルム」と呼ぶ。それを打ち壊すまで、日銀は超低金利政策を粘り強く続けようとしている。

 しかし、日本経済は先行き伸びていくという予想(成長期待)が人々の間に存在しなければ、たとえ融資の金利が低かったとしても資金需要は湧いてこない。人口問題を含む構造改革に着手しなければ、日銀が実施している超低金利政策の景気刺激効果は限られてしまう。

 また、最近気になるのは、「人手不足→賃上げ→消費拡大→値上げ」という循環の拡大は緩やかな一方で、人件費の増加をサービス価格に転嫁しないで済むように、営業時間の短縮やIT化推進を含めた工夫によって、価格上昇を抑える動きが各所で広がりつつある点である。

 現在の人手不足は労働年齢人口の減少が主因であり、消費の過熱に起因するものではない。それだけに、「ゼロ・インフレ・ノルム」を克服することは容易ではないといえそうだ。
http://diamond.jp/articles/-/121807

【第9回】 2017年3月23日 坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
「全部自分でやってしまう人」の生産性が低い理由
「人に任せられない人は、仕事ができない」とよく言われるが、本当なのだろうか。元・週刊ダイヤモンド編集長で、『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』の著者・坪井賢一氏に、経済学の視点からこの通説について解説してもらった。
生産性を高める「比較優位」の思考法
坪井賢一(つぼい・けんいち)
ダイヤモンド社取締役、論説委員。 1954年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年にダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集部に配属後、初めて経済学の専門書を読み始める。編集長などを経て現職。桐蔭横浜大学非常勤講師、早稲田大学政治経済学部招聘講師。主な著書に『複雑系の選択』(共著、1997年)、『めちゃくちゃわかるよ!金融』(2009年)、『改訂4版めちゃくちゃわかるよ!経済学』(2012年)、『これならわかるよ!経済思想史』(2015年)、『シュンペーターは何度でもよみがえる』(電子書籍、2016年)(以上ダイヤモンド社刊)など。 最新刊は『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』
 人に仕事を任せられない、全部自分でやってしまう……そんな人は「仕事ができない」「労働生産性が低い」とよく言われる。実はこれ、経済学的にも正しい。経済学には「比較優位の原理」という言葉がある。比較優位の原理とは、労働生産性の高い財に特化して交易することが相互に利益となることを証明した理論だ。つまり、得意な分野を見極め、生産性を高めるための考え方である。国や会社から個人のレベルにまで使える思考法だ。

 比較優位の原理は、イギリスの経済学者デイヴィッド・リカード(1772〜1823)が、1817年に出版した著書で明らかにしたものだ。リカードは、イギリスとポルトガルの貿易を例にとって議論を進める。ポイントは労働生産性の比較だ。次の式によれば、2者を比較して、分母の労働投入量が少ないほうが、同じ産出量の場合は労働生産性が高いことになる。
労働生産性=産出量÷労働投入量
 リカードは、イギリスとポルトガルのワイン、毛織物の貿易で比較優位を説明した。まず、両国のワインと毛織物の労働生産性を検討する。1年間で一定量のワインと毛織物の生産に必要な両国の労働者数は、以下の通りだ。
イギリス:毛織物=100人、ワイン=120人
ポルトガル:毛織物=90人、ワイン=80人
 産出量をすべて100とすると、双方の労働生産性は以下のようになる。
◆イギリス
毛織物 100÷100=1
ワイン 100÷120=0.83

◆ポルトガル
毛織物 100÷90=1.11
ワイン 100÷80=1.25
 このとき、ポルトガルが毛織物の生産を増やすとすると、その分、ワイン生産の労働量を減らさなければならない。しかしそれでは、ワインの労働生産性が毛織物より高いので、ワインを生産すれば得られる利益を逃すことになる。このように、ある行動を選択すると失われる、他の選択可能な行動の最大利益を機会費用という。法律用語では、逸失利益(本来得られるべきだったのに、得られなくなった利益)というが、こちらのほうがわかりやすい。
 ポルトガルでは、毛織物の生産を増やせば増やすほどワインの逸失利益が増大する。毛織物の自国生産にこだわってワインの機会費用を忘れてはいけない、ということだ。イギリスは毛織物の労働生産性のほうが高いから、ワイン生産を増やそうとすると、毛織物に投じている労働量を減らす結果となり、毛織物に大きな逸失利益が出る。
 したがって、ポルトガルはワインに、イギリスは毛織物に比較優位があることになる。これがリカードの解説だ。こうしてポルトガルとイギリスがそれぞれ特意技に特化して交易すると、両国全体の利益が増加することになる。
なぜ、全部自分でやってしまう人は仕事ができないのか?
 話を戻そう。「仕事を任せられない人」「全部自分でやってしまう人」の労働生産性が低い理由については、比較優位の原理を仕事に置き換えるとよくわかる。
 第2回ノーベル経済学賞(1970年)受賞者ポール・A・サミュエルソン(1915〜2009)は、弁護士と秘書の関係で比較優位の原理を説明している。

 ある弁護士は秘書業務にも精通していて、文書作成も秘書より早い。しかし、秘書業務まで弁護士がやると、その時間でこなせる弁護士業務の利益を逃す(逸失利益)。すると弁護士業務の報酬が減り、事務所の経営がうまくいかなくなる。つまり、秘書には秘書業務に比較優位があるわけだ。このように、仕事においてもそれぞれの比較優位を意識することが、個人、そして組織全体の生産性を上げることになるのである。それゆえ、すべて自分でやってしまう、人に任せられない人は、全体の労働生産性を低くしてしまい、売上も利益も落としてしまうことになる。
 比較優位の原理のように、知っておくと仕事の考え方や質に影響を与える経済学思考は、他にもいくつもある。ビジネスマンとして最小限の経済学の知識は身につけておきたいという方は、ぜひ拙著『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』を参考にしていただけると幸いだ。

http://diamond.jp/articles/-/120944

 

2017年3月23日 中島 恵 [フリージャーナリスト]
中国人訪日客の「春節の爆買い」が減った意外な理由


中国人観光客といえば、春節と国慶節の大型連休に大挙して来日し、土産物を友人や親戚のために大量に購入する「爆買い」のイメージが日本では根強い。しかし、中国社会は急速に成熟しつつあり、自分の楽しみやプチ贅沢のために旅行を楽しむ人々が増えている。(ジャーナリスト 中島 恵)

大型連休を外して
来日する中国人観光客

 目下、日本企業や役所は年度末の慌ただしい時期。子どもがいる家庭では学校が春休み中という人も多いだろう。さて、中国は? というと、2月の春節を一つの区切りとして、新しい年が始まって2ヵ月。学校も今は通常通りだ。外国なので日本の暦と異なるのは当たり前だが、日本人の間には「中国人が日本観光に大挙してやってくるのは春節と国慶節(10月1日の建国記念日)の大型連休のとき」という刷り込みがないだろうか?

 だが、そんな中国のカレンダー通りの行動パターンは早くも崩れ去っている。カレンダー通りに行動するのは、カレンダー通りにしか休暇が取れない人々であり、最近ではプチ富裕層や洗練された層が「えっ?そんな時期にも?」と驚かされるような「違う時期の日本」をめがけて、わざわざやってきているのだ。

「今月末に東京に買い物に行く予定なんですよ。新しい『マロニエゲート銀座』をチェックしてみようと思って。目黒川のあたりでお花見もできたらいいな〜と思っています。中島さん、窓から桜が眺められるおしゃれなカフェとか知っていますか?」

 杭州在住の中国人女性(35歳)は3月上旬、中国版ツイッターの微信(ウィーチャット)からこんなメッセージを送ってきた。その女性は自身も杭州でレストランとセレクトショップを経営。以前来日したときには東京・大手町の『星のや東京』にも宿泊し、合羽橋や目黒、自由が丘などをくまなく散策していただけに、ヘタな回答はできない。私自身はおしゃれなカフェやスポットを知らないので、友人に聞いて紹介してあげた。

 彼女が日本情報をよく知っているのは日本に関する情報だけを紹介するSNSのサイトを常にチェックしているからだ。そこで日本の最新ファッション、新規オープンの専門店やカフェ、トレンドの情報を得る。さらに日本に行った友だちや日本在住の中国人からの生情報をプラスして、自分の仕事のスケジュールをやりくりした上で来日する。だから、春節と国慶節の大型連休はまったく関係がない。「春節は仕事が休みなので、家族で静かに過ごす大事な時間」だし、「国慶節は自分の店の書き入れ時で忙しい」からだ。

バーゲンセール初日や
お花見を狙って来日

 では、そんな流行に敏感で先端を行く彼女たち中国のアラサーは、具体的にはいつ日本にやってくるのか?

 一つは日本の百貨店や専門店のバーゲンセールの時期だ。夏物のセールなら7月。冬物のセールなら1月。とくに有名百貨店の特定のブランドのセールは日本在住の中国人の友人や店から直接連絡をしてもらい、セール初日をめがけて来日する。

 以前、拙著『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』の執筆のために取材した伊勢丹の担当者は「中国のお客様は最初から日本の百貨店にやってくる"明確な動機"を持っていて、欧米ブランドよりも日本ブランドに興味があります。それに、日本人もまだあまり知らないような新進気鋭のクリエーターズ・ブランドも買っています。各百貨店やブランドのセール時期も熟知していますね」と話していた。

 ふだんからファッション専門のサイトなどをチェックし、品番まで調べ上げていて“指名買い”もする。バーゲン時期だけでなく、3ヵ月に1回、定期的に新作を買いにやってくる常連客もいるというから、おのぼりさんで混雑する大型連休はむしろ避ける傾向にあるのは当然だ。セールの行列に並んでいるのが「中国人」だとわからないのは、彼らの外見や雰囲気が日本人とまったく見分けがつかないからであり、単独行動か、あるいは多くても2〜3人だけで静かに行動しているからだ。

 次に増えているのは、日本ならではの季節を楽しめる時期。たとえば3月末〜4月上旬のお花見だ。桜のシーズンに大勢の中国人が観光にやってくることは今や珍しくないが、意外と増えているのは2月に静岡県で見ごろを迎える河津桜のお花見。

 日本人でも関東地方の人にしか馴染みがない早咲きの桜だが、流行に敏感な中国人の中にはすでに河津桜の存在を知り、わざわざこの時期にぶつけて来日するという“お花見マニア”もいるほどだ。「普通の団体観光客がするお花見よりも“ワンランク上”のお花見を静かに楽しんでみたい」(前述の杭州在住の女性)のだという。

 上海在住の別の女性の友人は「たまたまネットで尾瀬の水芭蕉の花を見ました。水がきれいな日本だからこそ、あんなにきれいな花が咲くのですね。開花時期が短いから、ぜひ日程を合わせて見に行ってみたいですね。水芭蕉を観賞しながらハイキングをするのも楽しそう」と話していたが、まさに「日本のこの時期にしかない○○を見たいから」とピンポイントでわざわざ日程を組む成熟層も増えている。

夏祭りや紅葉
アイドルコンサートなども目的

 夏祭りや秋の紅葉シーズン狙って来日したいという声も高まっている。夏祭りは日本全国各地で行われているが、東北3大祭の「ねぶた祭」「竿灯」「仙台七夕祭」のほか、博多どんたく、京都の祇園祭などにも興味津々だ。何度か外国を訪れてその国の「通」になってくると、首都ではなく地方都市にこそ魅力を感じるという日本人がいるのとまったく同じ現象だ。

 北京在住のキャリアウーマンの女性は「日本の主な観光地はほとんど回りましたが、お祭りはその時期にしかやらない特別なもの。地方のホテルや旅館も予約が取りにくくなるので、かなり前から計画を立てるんです。浴衣や着物を着て見に行くのが夢」と話していた。

 『AKB48』や『嵐』などのアイドル、人気声優などのコンサート、B級グルメやご当地ラーメン、お弁当などの全国グルメフェスティバル、東京ドームで毎年開催している世界らん展なども同様で、「ほとんど日本でしか開催していない限定もの、そこに行けば一堂に揃っていて味わえる料理、お祭り気分のライブ感なんかが魅力ですね。計画を立ててその時期に合わせて航空券のチケットを取ります。だから、春節とか国慶節なんて、まったく関係がないんです」(上海の20代の会社員)という。日本では春節や国慶節になると中国人を意識した「熱烈歓迎」という赤や黄色の看板や横断幕を見かけるが、成熟層はそんなありきたりの団体さん向けのものには見向きもしないのだ。

中国社会は急激に成熟化
「メンツ消費」は減少している


中島恵さんの『中国人エリートは日本をめざす なぜ東大は中国人だらけなのか?』(中公新書ラクレ)が好評発売中。238ページ、842円(税込み)
 爆買いが終わったといわれて久しい。むろん、まだ団体観光客は来日する全中国人観光客の半数ほどはいるし、免税店に行くのが目当てという人が消滅したわけではない。春節や国慶節でなければまとまった休暇が取れないという人もまだ多いだろう。中国は分母が巨大なだけに、それが完全になくなることなどありえないし、それを否定するものではない。

 だが、一つのものを大量買いするステレオタイプの中国人が徐々に減少している背景には、中国社会の急激な成熟化があり「メンツ消費の減少」も関係している。同僚や友だち、親戚に買う(買わなければならない)大量のお土産のために時間を費やすより、自分の楽しみやプチ贅沢のために旅行を楽しむ人々が急速に増えてきていることは確かだ。それが「春節離れ」「国慶節離れ」という現象として表面に出てきているのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/122163?

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/412.html

[政治・選挙・NHK222] 石原慎太郎も逆らえなかった東京都庁に巣食う「パワー」の正体 豊洲大赤字 移転中止は絶対あり得ない!地下水「基準」問題真相

2017年3月23日 窪田順生 [ノンフィクションライター]
石原慎太郎も逆らえなかった東京都庁に巣食う「パワー」の正体

東京都の百条委員会に証人として出席した、石原慎太郎、浜渦武生両氏。責任逃れ発言に落胆したとの声がもっぱらだが、豊洲移転案の経緯や臨海副都心開発の歴史を振り返れば、石原氏の言うような「都知事でさえ逆らえない大きな流れ」が実際にあったことが分かる。(ノンフィクションライター 窪田順生)

石原元知事の責任逃れ!?
百条委員会での発言

 ここ数日、メディアや評論家の間で、石原慎太郎氏と浜渦武生氏の「百条委員会」にガッカリしたという意見がたくさん出ている。


石原元知事の発言を一面的に「責任逃れ」とだけ解釈してしまえば、重要な事実を見逃すことになる。都知事すら逆らえない「大きな流れ」は実際に東京都に存在するPhoto:Natsuki Sakai/AFLO
 確かに、お二方の話は従来の主張通りで、東京ガスの瑕疵担保責任免除がどういうプロセスで決定されたのかというのは、まったく見えなかった。落胆する気持ちは分からなくもない。

 しかし、そういう表層的なところだけではなく、彼らが発した言葉を一つひとつ咀嚼してみると、実は今回の豊洲問題の「元凶」が見え隠れしていることに気づく。

「都庁全体の流れとして、市場を豊洲に移すということは、大きな流れとして決定していて、私も逆らえなかった」(石原慎太郎氏)

「豊洲しかないからという話はあった」(浜渦武生氏)

 これらの発言を、マスコミの多くは「責任逃れ」的なニュアンスで紹介している。

 石原氏就任の直後に市場長に就いた大矢実氏は百条委員会で、自分が豊洲と築地の比較対照表を提示したうえで豊洲がいいと決断し、石原氏が「それでいこう」と言った、という主旨のことを述べている。ということは、自分たちで強引に豊洲移転を決めておいて、土壌汚染が問題になったから急に知らぬ存ぜぬになっているのではないか。そう疑いの目を向ける方も多いだろう。

 私は、石原氏と浜渦氏をかばうつもりなどさらさらないが、お二方は特に間違ったことは言っていない、と思っている。彼らが都庁へやってくるずいぶん前から、東京都のなかに、豊洲へ市場移転をする「大きな流れ」というのが確かに存在していたからだ。

不特定多数の「豊洲移転」論が
いつの間にか既定路線に

 これまでもちょくちょく報じられたが、東京都が「豊洲移転」を匂わせ始めたのは、まだ石原さんが国会議員だった1995年にさかのぼる。

『東京魚市場卸協同組合五十年史』には、市場当局と港湾局が協議し、港湾局から大田区の城南島、江東区の豊洲への移転の可能性を示唆された、という記述がある。

 このあたりを境に、官・民・学が一丸となって「豊洲移転」を持ち上げていく。97年になると、大蔵事務次官から国際開発銀行総裁となった平田敬一郎氏が顧問を務め、学者と若手官僚が集まった「乃木坂研究会」が、「中央卸売市場を晴海または豊洲地区へ移転・整備するためのコンセプトと具体的な計画案」(97/10/02 日経流通新聞)を出した。

 さらに、これに触発されるような形で、98年3月になると、築地市場の卸や仲卸など業界八団体が「豊洲地区(江東)への移転の可能性を検討するよう都に要望」(98/03/10 日本経済新聞)する。

 はっきりとした顔の見えない、不特定多数の「思惑」によって、徐々に築地移転という道は「豊洲」に続くように誘導されていくのだ。

 石原氏が「百条委員会」で豊洲の土地選定について「青島知事からの引き継ぎだった」と述べているように、豊洲移転のレールは石原氏が99年に当選した時点では、既にビタッと敷き詰められていたのである。

 いや、移転は決まっていたかもしれないが、これまでも「城南島」とか「晴海」などの名前が出ているじゃないか、そっちへ行かず、東京ガスの跡地なんかに強引に決めたというのは、石原・浜渦コンビに何か利権的なものがあったからだろ、という人もいるだろう。

 もちろん、その可能性もなくはないので、そこはぜひ立派なジャーナリストのみなさんに調査報道で明らかにしていただきたいのだが、一方で、このお二方の力をもってしても覆すことのできない「都庁の大きな流れ」というものが、実際にあったというのも紛れもない事実である。

豊洲新市場誕生を後押しした
東京都の「忖度」の中身

 それは具体的に言ってしまうと、「臨海副都心構想を進めるのなら、新市場を江東区へもっていってあげよう」という、東京都の「忖度」である。

 なぜ、都が江東区の顔色を伺わなくてはいけないのかということをご理解していただくためには、バブル真っ盛りの頃に時計の針を戻さなくてはいけない。

 東京都が「臨海部副都心開発基本構想」をぶち上げたのは87年。ちなみに、石原氏はまだ国会議員として清和会に合流したあたりで、浜渦氏も公設秘書として、永田町のど真ん中にいた。

 都心から約6キロの東京湾埋め立て地(440ヘクタール)に国際化、情報化に対応した副都心を2000年までに建設しようというこの構想は、今からは考えられないほどバブリーな開発規模や費用だった。

 なぜこんな超巨大プロジェクトが可能になったのかというと、都による「調整」がうまくいったからである。

 というのも、実はこの開発の中心となる「13号埋立地」(現在のお台場エリア)は「領土問題」に揺れるパレスチナのような存在だったのだ。結局、問題は以下のように解決した。

「13号埋立地を江東区、港区、品川区が帰属を譲らず、最後は東京都の調停により、江東区7割、港区2割、品川区1割で決着を見たのです」(江東区ホームページ・区政最前線〜区長室から〜平成28年4月)

 この分割案が82年に受け入られたことで、臨海副都心開発構想は大きく動き出した。つまり、東京都にとって13号埋立地の「7割」の帰属を持つ江東区というのは、臨海副都心開発を進めていくにあたって常に顔色をうかがわなくてはいけない存在となったのだ。

「都」が「区」に気を遣うなんてことがあるわけないだろ、と思うかもしれないが、江東区に限ってはある。それを如実に示すのが、87年当時、都心と臨海副都心をつなぐ新交通システム(現在のゆりかもめ)が新橋〜お台場間までしか想定されていなかったことに対して、小松崎軍次区長(当時)が不満をもらして臨海副都心と江東区を結ぶ路線を求めた際に発したこの言葉だ。

「臨海部の埋め立て地は投棄ゴミの通過道となった江東区の犠牲の上に完成したことを忘れてもらっては困る」(87/11/07 朝日新聞)

臨海副都心誕生の「功労者」
江東区への“配慮”

 年配の方は覚えているだろうが、戦後から70年代にかけて「東京ゴミ戦争」というのがあった。都民の生活水準が上がって大量のゴミが出ると、それらはすべて夢の島の最終処理場へ向かったが、通り道の江東区は悪臭などが問題になっていた。都は新たな清掃工場をつくろうとしたが、杉並区が住民の激しい抵抗で拒否。それを受けて、江東区は杉並区からのゴミの受け入れを拒否するという事態に発展した。その時、夢の島へ続く道路に仁王立ちするという力技でゴミ受け入れを阻止をしたのが、先の小松崎区長だ。

 つまり、江東区というのは、臨海副都心開発をしていくうえでの、そもそもの大前提である「湾岸エリアの埋め立て」の最大の功労者であり、同時に最大の犠牲者だったのだ。

 政治や行政が「犠牲者」になにかしらの「優遇措置」を与える、というのは米軍基地のある沖縄や、原発を誘致した自治体を見ても明らかだ。当初、市場の移転先として候補として名前が挙がった「城南島」は大田区、「晴海」は中央区である。「犠牲者」である江東区が優先され、これらの名前が候補から消えるのは、ある意味で当然だった。

 そう考えていくと、臨海副都心構想の進捗とまるで足並みをそろえるように、築地の移転先として「豊洲」が本命になっていくという不可解な動きが理解できる。

 臨海副都心の開発推進を公約にして99年に知事になった石原氏は就任直後、「お台場カジノ構想」をぶち上げる。これが江東区の神経を逆なでした。

 シェアや歴史的経緯で言えば、「13号埋立地」の盟主は江東区になるはずだった。だから、江東区は「臨海部の将来のシンボルゾーンにふさわしい町名になるように」という願いを込めて、「青海」というこじゃれた地名をつけた。しかし、注目の新都知事が「お台場」という表現をメディアに繰り返し用いたことで、あのエリア一帯は「青海」ではなく、「お台場」という港区のイメージが強くなってしまったのだ。

 その後、「ゆりかもめ」は小松崎区長の求めたとおり、豊洲までつながった。パレットタウンや大観覧車のおかげで「青海」も賑わっているが、それでもあの一帯は「お台場」と呼ばれることが多い。

 臨海副都心開発という「大きな流れ」を進めていくなかで、「犠牲者」が冷遇されている現状に鑑みて、東京都庁の内部で「新市場はとにかく豊洲へ」という「忖度」が生まれた可能性はないか。

隠然たる権力を振るってきた
東京都港湾局

 事実、東京都政がこのような「大きな流れ」にめっぽう弱いことを示す事実がある。実は臨海副都心開発構想は91年に頓挫しかけたことがある。バブル崩壊によって地価が下落、地代収入が急激に落ち込んで資金難に陥ったのだ。都議会もノーを突きつけて予算凍結。この一大プロジェクトも幻に終わるのかと思われた時、副知事を委員長として発足した臨海副都心開発再検討委員会が全体のスケジュールを3年遅らせば実現できると言い出した。

 その副知事は高橋俊龍さん。港湾局の出身である。

「お台場カジノ」や「東京ガス跡地」の印象があまりにも強いので、港湾まわりの利権というと、石原氏や浜渦氏がすぐに結び付けられるが、彼らは所詮、明治時代の「東京市」から100年続く港湾開発の、ほんの一時期に登場したプレーヤーにすぎない。

 この連載でもかつて述べたが(「小池知事が豊洲騒動で見せた巧みな情報操作術とは?」参照)、湾岸エリアの事業、先ほど触れた埋立地案件も含めて、すべて港湾局の「縄張り」である。それは豊洲もしかりで、 『「豊洲」という地名も、工事を担当した東京市港湾局が賞金百円で職員から募集して選んだといわれる』(朝日新聞99年9月13日)という戦前からの深い因縁がある。

 東京ガスと浜渦氏の水面下の交渉を追及するのもいいが、この人が交渉にあたる前から、臨海副都心開発の旗振り役をしていた今沢時雄港湾局長が、東京ガスに顧問として天下りし、取締役の席に座っている。

 石原・浜渦コンビのキャラクターの強さについつい目を奪われがちだが、こうして経緯を丹念にたどっていくと、東京都港湾局がしばしば“豪腕”を振るっていたことが分かる。石原氏が言及した、都知事さえも逆らえない「都庁内の大きな流れ」を、単に石原氏の責任逃れと捉えてしまっては、東京都庁の抱える闇をみすみす見逃すことになるのではないだろうか。

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http://diamond.jp/articles/-/122167


 


【第79回】 2017年3月23日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
豊洲市場は大赤字!金融の視点で見える事業面での大問題

 築地市場の豊洲への移転については、東京都の小池百合子知事が昨年11月7日に予定されていた移転を延期し、予定されていた9回目の地下水モニタリング調査の結果を待って判断するとしていたが、その結果、基準値の79倍ものベンゼンを検出した地点が含まれるなど、従来移転の前提としていた都のコミットメントが果たせていないことが明らかになった経緯にある。さらに、3月19日に公表された再調査の結果は、更に悪化した部分もあるなど、芳しいものではなかった。
 ところで、豊洲移転の可否を決めるには、この環境基準の問題だけでなく、豊洲移転後の市場の持続可能性という「金融的な視点」も必要である。本稿では、主に金融の視点から見えてくる現実について論考してみたい。
豊洲移転の可否についての
2つの視点
 あらかじめお断りしておくが、筆者は豊洲移転の可否についてはニュートラルな立場である。また、本稿で述べる内容は筆者の個人的見解であって、小池知事ほか誰の意見をも代弁するものではない。ただ単に、既に公開されている資料の解読を試みるものだ。
 そもそも豊洲市場への移転の可否判断は、東京都だけで決められるものではなく、その前提として、農林水産大臣からの移転認可が必要だ(卸売市場法第10条)。では、その移転の認可を得るには、どういう条件が満たされる必要があるのだろうか。
 卸売市場法第10条には、以下のような記述がある(太字は筆者による)。
 (認可の基準)
 第十条  農林水産大臣は、第八条の認可の申請が次の各号に掲げる基準に適合する場合でなければ、同条の認可をしてはならない。
 一  当該申請に係る中央卸売市場の開設が中央卸売市場整備計画に適合するものであること。
 二  当該申請に係る中央卸売市場がその開設区域における生鮮食料品等の卸売の中核的拠点として適切な場所に開設され、かつ、相当の規模の施設を有するものであること。
 三  業務規程の内容が法令に違反せず、かつ、業務規程に規定する前条第二項第三号から第八号までに掲げる事項が中央卸売市場における業務の適正かつ健全な運営を確保する見地からみて適切に定められていること。
 四  事業計画が適切で、かつ、その遂行が確実と認められること。
 ここから読み取れることは、移転の認可を取得するためには、(1)生鮮食料品等を扱う上で適切な場所にあること、すなわち、環境的に問題がないこと (2)事業の継続可能性があること、の2点が必要だということだろう。
 このうち、環境に関しては本稿の目的ではないのでごく簡単に述べるが、そもそも豊洲の土地は東京ガスの工場跡地であったため、現在でも土壌汚染対策法上の汚染が存在する区域(形質変更時要届出区域)に指定されている。土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による「汚染の除去」ができた場合には、形質変更時要届出区域の指定を解除すると定めているが、その「汚染の除去」が完了するためには、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続することを確認すること」が必要とされている。
 そういうこともあり、都は2014年から2016年11月まで、2年間の地下水モニタリング調査を行なってきたのだ。農林水産省の資料の中には、汚染が存在する区域である「形質変更時要届出区域」について「生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない」と明記されたものもあり(http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokusan/bukai_08/pdf/ref_data04.pdf、別添7に記載あり)、「地上」と「地下」は違うとはいえ、原則として地下をしっかり浄化することが移転認可の条件になり得ると考えることもできる。
 したがって、それを確認するための2年間の検証結果が出る前の昨年11月に市場移転をするという舛添前知事の判断は、明らかに行政手続きを逸脱していたのである。もともとその結果が判明するのは今年1月の予定であった。それから農水省に移転認可の申請をするのだから、正当な手続きを踏むならば、もともと移転は早くて今春以降にしかできなかったはずだ。
 また、土壌汚染が判明している土地に卸売市場を設置するという石原都知事のやや無理筋な判断を正当化し、都民に安心感を与えるため、歴代都知事は、議会と都民に対して「地下の土壌を環境省が定める環境基準以下にする」ということが事実上移転の条件であると繰り返しコミットしてきた経緯にある。そのため、これまで数百億円という巨費を掛けて土壌汚染対策を行なってきたのだ。もちろん、食品を扱う建物内と土壌はコンクリート等で覆われており、土壌を環境基準以下にしなくても必ずしも法令に違反しているわけではない。
 しかし、「安全」と「安心」は似て異なるものだ。たとえば、遺伝子組み換えのトウモロコシは、法令上「安全」かもしれないが、それを「安心」して買う消費者は極めて少ないだろう。歴代知事は、「安全」であることはもちろん、都民の「安心」を確保するために土壌を環境基準以下にするとコミットしてきたのであるから、それが守れずにいる現状、小池知事がいきなり従来のコミットメントを破るわけにはいかないのではないか。もし現状で移転をするというのであれば、都民ないしその代表たる都議会の承認を改めて得る必要があることは言うに及ばない。もちろん、それで東京都が移転に舵を切ることになっても、農水省が移転の認可を出すかどうかは定かではない。
 なお、「築地市場の方が不衛生だ」というような指摘も散見されるが、築地市場は、現在まさに使用されているのであって、今問題にされているのは「豊洲に移転するかどうか」の判断なのであるから、ここで築地のことを議論することは不要であるばかりか、むしろ不適切なのではないか。もちろん、築地市場は、それが使用されている間は、しっかりとした補修等を行なっていく必要があることは言うまでもないし、築地がどうであるかに関係なく、豊洲への移転に問題なければ移転すればいいのであるし、豊洲への移転に問題があるなら移転できないだけの話だ。
大幅なキャッシュフロー赤字の可能性大
豊洲市場に持続可能性はあるのか
 では、農水省の移転認可基準のもう一つである「持続可能性」はどうだろう。
 この問題については、小池知事になって再開された市場問題プロジェクトチーム(市場PT)の席で今年1月と2月に配布された資料( http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt05/06_keizokusei.pdf , http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt06/06_shijoukaikei.pdf )に数値の開示がある。市場の持続可能性、つまり事業採算の話は、これまで都議会で真剣に話し合われてきた形跡がない。しかし、前述のように、農水省の移転認可判断は市場の持続可能性も考慮に入れてなされるのであり、また、採算が取れない場合には赤字補填のための税金の投入が必要になる。
 まず豊洲市場単独の収支を検討してみよう(図1)。
◆図1:各市場の収支(豊洲市場は開場後概算額・減価償却費を除く)
出典:第5回市場問題PT資料 
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 市場問題PTの資料からわかることは、豊洲市場は、開業後、毎年68億円の収入に対して費用が166億円、差し引き約100億円の赤字になるということだ。もちろん、費用の中には、現金流出を伴わない「減価償却費」も含まれているが、その71億円を仮に差し引いたとしても、やはり毎年30億円の赤字(キャッシュフロー赤字)となる。
 しかも、試算の前提として、豊洲市場は水産物で1日2300トン、青果物で1日1300トンの取扱量を想定している。しかし、図2に明らかな通り、築地市場の年間取扱高は年々減少しており、平成14年比で既に3割強も減少しているのである。
 1日あたりに直すと、図2の折れ線グラフのように、現在では築地市場の水産物の取扱量は1日1500トン程度と見られ、豊洲の目標値はそれに比べて50%以上も多いことになる。すなわち、豊洲市場は、開業後、計画通り年間100億円程度の赤字で収まるかどうかさえ甚だ疑わしく、しかもその赤字幅が年々拡大してもおかしくない。もちろん、豊洲市場は築地市場と比べて十分な駐車スペースの確保がなされているなど、優位な点もあるだろうが、それだけで一気に取扱量が50%も増えるとは考えにくい。
 ちなみに、現在の築地市場は年間6億円の黒字、減価償却費を入れないキャッシュベースの収支は年間18億円の黒字である。
◆図2:築地市場の取扱数量の推移(水産物)
出典:第5回市場問題PT資料
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 一方、東京都の市場会計は、図1の11市場を一体として捉えた事業運営をしている。したがって、もし豊洲市場が赤字であっても、他の市場の黒字でそれが相殺できるならば、豊洲市場の持続可能性は保たれることになる。
 その市場会計の今後の推移予想が図3である。
◆図3:市場会計による損益見込み

出典:第5回市場問題PT資料 
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 豊洲の開業は平成28年を想定していた。そこで平成28年から先を眺めてみると、経常損益は毎年44億円〜140億円程度の赤字で推移することが見込まれている。しかし、従来の都の説明では、「(先述の)減価償却費を差し引いたベースでは、毎年22億円の赤字〜15億円の黒字で推移するので、市場会計は持続可能である」との結論になっている。
 しかし、ここには様々な数字のマジックがある。第一に、先述の通り、この収支の前提となる豊洲の取扱量が現在の築地に比べて非常に多いと仮定されていること、そして、それが減少しないことになっているのを現実的と見るのかどうかだ。
 では、仮にこの非現実的とも思える取扱量の前提が達成されたとしたら問題ないのだろうか。筆者は、図3の損益見込みを精査し、この表の裏側に隠されている「からくり」を取り除いた実力値で表を作成し直してみることにした(図4)。
◆図4:償却前収支について

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 金融業界では、事業収支の実力値や事業の継続可能性を測る際には、補助金や一時的な損益や、減価償却費など「非現金項目」を除き、逆に、設備の修繕費など、損益に関係なくてもキャッシュフローに影響する項目を算入する。それと全く同様の手法に従うまでだ。
 図4からわかることは、以下の通りだ。
 (1)事業の実力を示す営業利益段階では、豊洲開業後は毎年73億円〜171億円の赤字であり、その赤字は毎年拡大を続ける
 (2)営業損失から減価償却費を除いた「償却前営業利益」は毎年22〜29億円程度の赤字と、一見小さく見えるが、建設改良費と呼ばれる設備投資が毎年50億円かかるため、キャッシュフローは毎年79〜117億円もの赤字となっている
 (3)経常利益には、一般会計からの毎年20億円もの補助金が入っているほか、築地の土地を売却したと仮定した場合の一時的な利息収入が11〜44億円含まれており、これらを控除した実力値で見ると、営業利益と変わらない大きな赤字を計上し続ける
 (4)都の主張では、「償却前経常利益」は「毎年22億円の赤字〜15億円の黒字で推移するので、市場会計は持続可能である」とされているが、実際には、これら補助金や一時的な利息収入を除いた「実力償却前経常利益」は、毎年19〜69億円の赤字であるほか、これに設備改良費を入れると、キャッシュフローは毎年68億円〜126億円の赤字になる
 筆者は銀行勤務時代にはプロジェクトファイナンスを手掛けてきたが、その経験からすると、この事業は大幅なキャッシュフロー赤字であり、しかも、プロジェクションの前提となる市場取扱量の仮定が甘すぎて、単独では到底持続可能とは思われない。毎年のキャッシュフロー赤字は、誰かが埋めなければ市場は持続できない。誰が埋めるかと言えば、それは東京都民の税金ということになる。
大きなキャッシュフロー赤字を
税金で賄うことが許容できるのか
 以上のように、豊洲市場が持続可能かどうかは、ひとえに都民が毎年の大きなキャッシュフロー赤字を税金で賄うことが許容できるかどうかにかかっている。しかも市場は、一度稼働を始めてしまうと、次の50年、100年固定化してしまう恐れが高い。東京都の人口もそう遠からず減少に転じ、税収も減っていくと予想されている。そんな中、東京都が毎年巨額の赤字を補填し続けることが本当に可能なのかどうか、都民ないし都民の代表たる都議会で慎重に審議すべきは当然である。
 仮に、都民が、豊洲市場では土壌の環境基準を満たさなくても良く、かつ、毎年巨額の税金を支払って赤字補填してもいいと言うのであれば、選択肢はクリアである。それで農水省の認可が下りるのであれば、晴れて豊洲に移転すればよい。
 しかし、仮に都民が、環境ないし税金投入のいずれかを許容できない場合はどうするか。現在実際に使用されている築地市場を改修するのか、それとも「第三の道」を模索するのか、その場合、豊洲の土地の再利用、それに関わる都市計画はどうするのか。また、築地の改修は可能なのか。
 小池知事が豊洲移転を一旦ストップしたことが、豊洲市場に係る環境面や持続可能性面の問題点を都民に開示するきっかけとなった。透明性を重視する小池知事らしい判断だ。仮に結果的に予定通り豊洲に移転することになったとしても、そういう問題点があることを都民が十分理解した上で実行されることがとても重要だと筆者は考える。今後、都庁及び都議会において、ファクトを踏まえた実り多い議論がなされることに期待したい。
(ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長 安東泰志)

http://diamond.jp/articles/-/122154?


 

【第166回】 2017年3月23日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
豊洲移転中止は絶対あり得ない!地下水「基準」問題の真相


重要な石原氏「地下水発言」
「基準」こそ混迷の要因だ

 3月20日、都の百条委員会に石原慎太郎氏が出席した。豊洲への移転を決めた責任を認める一方、当時の都庁幹部が重要局面では知事の了解を得ていたと証言していることについては「担当者に一任し、記憶にない」とした。

 ただ、豊洲移転は、青島都政からの引き継ぎであったことを明らかにした。また、地下水に厳しい基準を課したことは認めたが、小池都知事にはその基準にとらわれずに豊洲への移転を決断してほしいとも述べた。

 マスコミは「新しい事実が出なかった」と、石原発言を非難するが、筆者は、この石原氏による地下水発言こそ重要だと思う。これまでマスコミは、地下水から「基準」以上の有害物質が検出されたという記事を報道してきた。この「基準」こそ、豊洲問題の混迷の主たる要因だからだ。

 そのカギは以下のとおりだ。これまで、東京都の専門家会議の主張は明確であり、豊洲の地下水から環境基準を超える物質が検出されたが、安全性に問題はないという。

 ただし、一般の人はこれに困惑する。「基準」以上なのになぜ問題にならないのか。その理由は明白だ。

混迷の要因は地下水の基準
報道はあくまでも「環境基準」

 それは、マスコミが報道している「基準」とは、あくまでも「環境基準」であって、「安全基準」ではないのだ。

 環境基準は、環境基本法で定められた、人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準である。

 具体的に地下水の環境基準は、そのまま飲めるほどきれいなものである。もちろん、それが望ましいのはいうまでもない。環境基準はあまりにハードルが高いので、実際にはそれを満たしていない所は都内では多い。

 筆者は東京の山手出身であるが、筆者の周りでも50年程前までは井戸水が飲めた。ところが、有害物質が指摘されはじめ、都より井戸水から水道水に変更するように指導された。今では、23区内で井戸水を使うのは珍しくなっており、湾岸地区で井戸水を使うところはないだろう。

 具体的に、東京の地下がどうなっているのかの一端は、東京都のホームページに出ている。そこには、状況調査の結果、土壌の汚染状態が指定基準に適合しない土地については、要措置区域または形質変更時要届出区域として指定された結果が出ている。都内の至るところで指定されている。その中には、築地も豊洲もあるが、そこでの環境基準は満たしていないだろう。

地下水を飲まないのなら
環境基準は大きな問題ではない

 筆者は、この表をラジオ番組で紹介したが、一緒に出ていたアナウンサーの自宅の近くにも環境基準に適合しない汚染場所があったと驚いていた。筆者の自宅近くで開発された場所も載っており、多くの人が、身近の場所が指定されていると思う。いうまでもないが、通常は何もしなくてもいいが、問題があっても適切な対策をすれば、安全基準を満たしその地上では安全に生活もできる。

 環境基本法の環境基準を超えたらすべてダメかというと必ずしもそうではなく、土壌汚染対策法が最終的なよりどころとなる。

 土壌汚染対策法では、有害物質について「地下水摂取リスク」と「直接摂取リスク」を管理するとされている。たとえば、ベンゼンでは地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ数値であるが、直接摂取リスク基準は定められていない。

 また、シアンの地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ「不検出」であるが、直接摂取リスク基準では一定量は許容されている。ヒ素の地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ数値であるが、やはり直接摂取リスク基準では一定量は許容範囲だ。

 要するに、土壌汚染対策法では、地下水を飲まなければ、環境基準をクリアしなくてもいいわけだ。さらに、直接摂取リスク基準は、土壌汚染が存在すること自体ではなく、土壌に含まれる有害な物質が人体の中に入ってしまう経路(摂取経路)が存在していることを問題とするので、この経路を遮断するような対策を取れば問題ないとなる。この対策のキモは、コンクリート等により物理的に遮断すること、つまり封じ込めである。幸いなことに、豊洲市場には十分な地下空間(地下ピット)が存在する。そこで厚いコンクリート工事を実施して建物内の安全を確保するのが最善手であろう。

 このため、専門家が「環境基準を満たさなくても、安全基準を満たせば安全性に問題ない」と言うわけだ。

 事実、小池都知事も、おそらく地下で環境基準を満たしていないところもあると想定される築地市場においても「コンクリートで遮蔽しているので安全」と言っている。豊洲でも同じロジックにより、安全といえるだろう。

科学的見地で「安全」ならば
「安心」を得るのが政治家の役目

「安全」という観点から見れば、新しい豊洲市場のほうが古い築地市場よりはるかに安全である。例えば、築地市場は開放系になっており、外から物質、生き物が中に容易に入ってくる。このため、ねずみ等も多く不衛生という意見が多い。また、耐震性から見ても、豊洲市場のほうが安全である。

 これに対して、小池都知事は、豊洲市場は「安全」であるといいながら、「安心」でないという理由で、豊洲移転にストップをかけている。科学的な見地から「安全」であることが確保されたら、都民から「安心」を得るように努めるのは政治家の役目だろう。また、それはマスコミの責務でもあるだろう。

 こうした点から、小池都知事とマスコミは、築地市場と比較しても豊洲市場が「安全」であることを広く都民に知らせるべきである。その上で、「安心」を得られるようにすべきだ。

 以上は、「安全」性の観点から見て、豊洲市場が築地市場より優れているということであるが、経済的な観点からも、豊洲市場のほうがいいといえる。

「そもそも論」として、ある事業について、中止するのがいいのか、継続するのがいいのかを意思決定する際、経済学の「サンクコスト」概念が役に立つ。投下した資本のうち、事業の撤退や縮小を行っても回収できない費用のことをサンクコスト(sunk cost=埋没費用)という。それまでにどれだけコストをかけたかを気にしても仕方ない。その後にかけるコストと得られる便益を対比させ、その後のコストが大きければ中止、便益が大きければ継続となる。

サンクコストは膨らむ一方
豊洲移転中止はあり得ない

 サンクコストを築地移転に適用してみよう。都議会に提出された資料によれば、豊洲市場の整備費(コスト)は、3926億円(2011年2月)、4500億円(2013年1月)、5884億円(2015年3月)と、時を追うごとに膨らんでいる。その内訳を見ると、建設費は990億円→1532億円→2752億円、土壌汚染対策費は586億円→672億円→849億円である。

 もっとも、今の時点で豊洲市場はほぼ完成しているので、これ以上、コストをかける必要はない。その便益は、一定の安全基準を満たせば、少なくとも4000億円以上、普通は6000億円以上であろう。有害物質の出たとしても、コンクリートで遮蔽するなどにより、安全面で問題なくすることは今の技術で可能である。安全対策費用で6000億円を超えない限りは、サンクコスト論から、豊洲を利用するという結論である。

 ということは、今の段階で豊洲移転中止はあり得ないわけだ。これはわざわざサンクコスト論を使わなくても、今の豊洲市場に安全対策を施して使わないのはもったいないという常識でもわかる話だ。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)
http://diamond.jp/articles/-/122164

http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/759.html

[国際18] トランプ政権vs諜報機関、後戻りできない対立へ  米国務長官は南シナ海に言及せず トランプが火に油注いだウクライナ・ロシ

トランプ政権vs諜報機関、後戻りできない対立へ

FBIとNSAの長官が全面否定、トランプ氏にとって最悪の1日

2017.3.23(木) Financial Times
(英FT.com、2017年3月20日付)

トランプ陣営とロシアとの共謀「証拠なし」 下院情報委員長
米首都ワシントンのホワイトハウスで、米小売業界トップらと会談するドナルド・トランプ米大統領(2017年2月15日撮影)。(c)AFP/SAUL LOEB〔AFPBB News〕
?ドナルド・トランプ米大統領が就任して以来、事実上毎日が「こんなことでっち上げられない」という瞬間の連続だった。だが、20日の議会公聴会――および公聴会に関するトランプ氏のライブツイート――は、ねつ造を完全に葬り去った可能性がある。米連邦捜査局(FBI)と米国家安全保障局(NSA)のトップが、大統領は何の根拠もなく陰謀論をぶち上げたと事実上証言したのだ。

?ジェームズ・コミーFBI長官とマイク・ロジャーズNSA長官が証言している傍らで、トランプ氏は両氏が言わなかったことを発見しようと必死だった。「NSAとFBIは議会で、ロシアは選挙プロセスに影響を与えなかったと証言した」とトランプ氏はツイートした。このツイートが投稿されたのは、FBIがトランプ陣営とロシア政府との共謀について捜査していることをコミー氏が正式に認めた直後のことだ。

?どんな基準で測っても――そして、これは傾斜の大きい尺度だ――、この日はトランプ氏にとって、これまでで最悪の1日だった。

?米国史上前例のない組み合わせという政権の最高幹部2人が、大統領の選挙チームの刑事告訴につながりかねない審問をめぐって、現職大統領の言い分を真っ向から否定したのだ。たとえFRBの捜査が何の成果も生まなかったとしても、両長官の証言はトランプ氏の権威を致命的に損ねた。

?英国がトランプ氏にスパイ行為を働いたという同氏の主張を「ナンセンス」「不条理」として一蹴した英国政府の意見に同意するかどうか問われると、ロジャーズ氏はためらうことなく同意した。米国最大の諜報機関のトップが、自身が仕える大統領の発言に対する外国の痛烈な描写を支持したのだ。リチャード・ニクソンでさえ、これほど直接的に否定されることはなかった。

?これでトランプ氏はどんな立場に置かれるのだろうか。まず、少なくともさまざまな捜査が終了するまでは、ロシアの影がトランプ政権に付きまとうことが確実になる。それも疑いが払拭されるのは、当局が訴追しないことを決めた場合に限られる。捜査終了までには、数カ月、ことによれば数年かかる可能性がある。その間ずっと、まだ続くリーク、面目を失うような証言によって憶測が激しくなるだろう。しかも、トランプ氏が新たな陰謀論を付け加えないで、このありさまだ。

?次に、トランプ氏は今、米国の諜報機関、米議会情報委員会の共和党トップ、事情を知る立場にいる事実上すべての人に退けられた虚偽バージョンの出来事に完全にコミットしたことになる。

?トランプ氏には、バラク・オバマ前大統領がトランプタワーの盗聴を命じたとする突拍子もないツイートを撤回するチャンスが何度もあった。ところが同氏は、自分がミスを犯したことを認める代わりに、米国にとって最も緊密な同盟国である英国、ドイツ両国の政府を架空の物語に巻き込んだ。

?大きなナゾは、トランプ氏がなぜ、打ち消すことができた何気ないツイートをめぐり、米国の同盟関係と自身の政権の地位にこれほど大きな巻き添え被害を与えようとしているのか、ということだ。

?決定的な答えが出てくるまでには、長い時間がかかるかもしれない。その理由は、トランプ氏が自分の選挙陣営が米国の選挙に影響を与えるために積極的にクレムリンと共謀したという事実から世間の関心をそらそうとしているからかもしれない。そのような事実が判明すれば、ウオーターゲート事件よりも大きな事件になり、大統領の弾劾、失職につながる可能性もある。

?同じように、その理由は、トランプ氏はたとえ自身の政権の信頼性を犠牲にしようとも、心理的に過ちを犯したことを認められないからかもしれない。後者の方が比較的些末であり、我々がすでに知っている事実にも一致する。

?20日の出来事の後、我々には分かっていることが、もう1つある。就任から2カ月経った今、トランプ氏は米国最大の法執行機関と米国最大の諜報機関のトップによって、暗に夢想家のレッテルを張られたということだ。しかし、トランプ氏は戦術を変える気配を一切見せていない。トランプ氏のホワイトハウスとインテリジェンスコミュニティーの関係がもう後戻りできない地点を通り越すのは間違いなく時間の問題だ。

By Edward Luce

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49504

 

 

世界情勢 アメリカ 中国 安全保障
米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか
トランプ政権の南シナ海政策に揺さぶりをかける中国
2017.3.23(木) 北村 淳

中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017年3月19日撮影)。(c)AFP/Lintao Zhang〔AFPBB News〕

 トランプ政権のレックス・ティラーソン国務長官(元エクソン・モービルCEO)が日本、韓国を訪問した足で中国を訪問し、王毅外相、習近平国家主席と会談した。
 中国当局は、トランプ政権国務長官の初の訪中を前に、南シナ海のスカボロー礁に環境観測所を建設する方針を明らかにした。

最後に残された焦点、スカボロー礁
 南シナ海での軍事的優勢を手にする海洋戦略を推し進める中国は、西沙諸島を手に入れ、南沙諸島での優勢的立場も手にしつつある。そして、スカボロー礁に対する軍事的コントロールの確保が、中国海洋戦略にとって残された重要課題となっている。
 フィリピン沿岸から230キロメートルほど沖合に浮かぶスカボロー礁は、マニラから直線距離で350キロメートル程度しか離れていない。そして、アメリカ海軍がフィリピンに舞い戻ってきた場合に主要拠点となるスービック海軍基地からも270キロメートル程度しか離れていない戦略的要地である。
 スカボロー礁には1990年代末からフィリピン守備隊が陣取っていたが、2012年に人民解放軍海洋戦力がフィリピン守備隊を圧迫・排除して以来、中国が実効支配を続けている。ただし、フィリピンと台湾もスカボロー礁の領有権を主張しており、いまだに決着していない。
中国人民解放軍による南シナ海コントロールの状況。南シナ海は国際通商航路帯(シーレーン)が縦貫する
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/a/f/-/img_af2fba8d209447b0141ec8f157350595282653.jpg

スカボロー礁もいよいよ軍事拠点化
 スカボロー礁より550〜700キロメートルほど南西には南沙諸島の島嶼環礁が点在しており、そのうちの7つの環礁に中国が人工島を建設し軍事拠点化している(その状況は本コラムでも繰り返し取り上げているとおりである)。
 オバマ政権は、そうした中国による人工島建設作業を半ば見過ごした形になってしまっていたが、強力な軍事施設の誕生を目にするや、ようやく(遠慮がちにではあるが)中国に対して警告を発し始めた。
 とりわけスカボロー礁に関しては、「中国がスカボロー礁に人工島や軍事施設を建設することは、アメリカにとってレッドラインを越えることを意味する」と強い警告を発した。
(参考・関連記事)「レッドラインを超えた?中国がスカボロー礁基地化へ」
 警告を発した2016年夏の段階では、中国によるスカボロー礁の埋め立て作業や人工島建設作業などはまだ実施されていなかった。その後もしばらくの間、スカボロー礁の本格的埋め立て作業は確認されていなかった。
 だが、今年に入ってフィリピン政府が「中国がスカボロー礁を軍事拠点化しようとする兆候を確認した」と警鐘を鳴らし始めた。

米国の“本気度”を試した?
 トランプ政権は、中国による南シナ海の支配権獲得行動に強い危機感を表明している。ティラーソン国務長官は、「中国が南シナ海をコントロールすることは何としてでも阻止しなければならない。そのためには中国艦船が人工島などに接近するのを阻止する場合もあり得る」といった趣旨の強固な決意を語った。
 そのティラーソン国務長官が訪中する直前、三沙市市長がスカボロー礁を含む6カ所の島嶼環礁に「環境観測所」を建設することを公表した(三沙市は、南シナ海の“中国海洋国土”を統括する行政単位。政庁は西沙諸島の永興島に設置されている)。「環境観測所」建設の準備作業は2017年の三沙市政府にとって最優先事項であり、港湾施設をはじめとするインフラも併設するという。
 これまで中国が誕生させてきた人工島の建設経緯から判断するならば、観測所に併設される港湾施設や航空施設などの各種インフラ設備は、いずれも軍事的使用を前提に建設され、観測所は同時に軍事基地となることは必至である。この種の施設を建設するには、スカボロー礁の埋め立て拡張作業は不可欠と考えられている。
 中国に対して弱腰であったオバマ政権ですら、「スカボロー礁の軍事基地化を開始することは、すなわちレッドラインを踏み越えたものとみなす」と宣言していた。そして、トランプ政権が誕生するや、外交の責任者であるティラーソン国務長官は「中国による南シナ海支配の企ては、中国艦船を封じ込める軍事作戦(ブロケード)を実施してでも阻止する」といった強硬な方針を公言した。
 そのティラーソン国務長官が訪中する直前に、中国側はスカボロー礁に環境観測所を建設する計画を発表したのである。まさにトランプ政権の南シナ海問題に対する“本気度”を試した動きということができよう。
南シナ海問題は後回しに
 中国を訪問したティラーソン国務長官がどの程度南シナ海問題(とりわけスカボロー礁に関する中国の動き)を牽制するのか、アメリカ海軍関係者は大いなる関心を持っていた。
 ところが、ここに来て急遽、アメリカにとって中国との関係悪化を食いとどめなければならない事態が発生してきた。すなわち、北朝鮮のアメリカに対する脅威度が大きくレベルアップしたのだ。
 軍事力の行使を含めて「あらゆるオプション」を考えているトランプ政権としては、中国の北朝鮮に対する影響力を最大限活用せざるを得ない。要するに「あらゆるオプション」には、いわゆる斬首作戦をはじめとする軍事攻撃に限らず、「中国を当てにする」というオプションも含まれているのだ。
 そのためティラーソン長官としては、この時期に中国側とギクシャクするのは得策ではないと判断したためか、北京での会談では南シナ海問題に言及することはなかった。
 いくら中国が南シナ海をコントロールしてしまったとしても、それによってアメリカに直接的な軍事的脅威や経済的損失が生ずるわけではない。ところが北朝鮮の核弾道ミサイルはアメリカ(本土はともかく、日本やグアムのアメリカ軍基地)に直接危害を加えかねない。したがって、南シナ海問題を後回しにして北朝鮮問題を片付けるのが先決という論理が現れるのは当然であろう。

日本は腹をくくった戦略が必要
 アメリカが強硬な態度に出られないのは、中国がすでに南シナ海での軍事的優勢を確保しつつあり、その状況を覆せないという事情もある。
 いくらトランプ政権が「スカボロー礁はレッドライン」と警告し、ティラーソン長官のように「南シナ海でのこれ以上の中国海軍の動きは阻止する」と言ったところで、現実的には現在のレベルのアメリカ海洋戦力では虚勢に過ぎない。トランプ政権が着手する350隻海軍が誕生してもまだ戦力不足であると指摘する海軍戦略家も少なくない。そのため、アメリカ海軍が南シナ海で中国の軍事的支配を封じ込めようとしても、それが実行できるのは5年あるいは10年先になることは必至である(そのときは南シナ海は完全に“中国の海”になっているかもしれない)。
 いずれにせよ、老獪な中国、そして怪しげな中国─北朝鮮関係によってアメリカの外交軍事政策が翻弄されているのは間違いなく、アメリカが強硬な南シナ海牽制行動をとることは難しい。その結果、中国による南シナ海のコントロールはますます優勢になるであろう。
 南シナ海の海上航路帯は“日本の生命線”である。そうである以上、日本は“中国の圧倒的優勢”を前提にした戦略を打ち立てなければならない。
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トランプが火に油注いだウクライナ・ロシア紛争
対立が一段とエスカレート、米国の対ロシア政策の重石に
2017.3.23(木) 杉浦 史和
ロシアのクリミア編入から3年、記念行事の盛り上がりは控えめ
ロシアのクリミア編入から3年を迎え、港湾都市セバストポリで行われた記念行事の様子(2017年3月18日撮影)〔AFPBB News〕
?ウクライナとロシアの関係が再び急速に悪化している。3年前にロシアがクリミアを併合してから、ウクライナ東部地域における対立はミンスク合意以降、小康状態にあったかに見えた。

?しかしながら、特に2017年に入って戦闘が激化し多数の死傷者が出てミンスク合意は事実上反故にされているほか、様々な形の対立が進んでいる。

?まずは文化面での対立だ。

?欧州最大の音楽イベント、「ユーロ・ヴィジョン・ソング・コンテスト2017」はウクライナで開催されることになっている。

?しかし、ロシアを代表する歌手でソチ・パラリンピック大会開会式でも車椅子から美声を披露したユーリヤ・サモイロワさんがクリミア併合を祝う席で歌ったことを理由に、ウクライナが参加拒否の姿勢を示している。

コンクリートで封鎖されたロシア資本の銀行

?さらに経済面での対立としては、先週、ウクライナ・ズベルバンクのキエフ支店前の玄関が、ウクライナ民族主義派によりコンクリートとセメントで文字通り封鎖されるという事件が発生した。

?その実力行使の様子は映像で見ることができる。ロシアとウクライナの対立の根深さを象徴するものだ。

?ズベルバンクとはロシア最大の国営銀行であり、ウクライナ・ズベルバンクは、その100%出資子会社である。ロシアの金融機関であるという理由で民族主義派らの憎悪の標的となった。

?民族主義派の過激行動は1店舗に限らず、他の多くの地域で同行のATMが破壊されたほか、同じくロシア系の金融機関であるアルファ・バンクのシャッターや壁などにペンキで落書きがされるなどの破壊行為が報告されている。

?これは、2017年2月18日付の大統領令でウラジミール・プーチン露大統領が親ロシア派の占領しているルガンスク、ドネツク地域で親ロシア自治政府が発効したパスポートを身分保障書類として公式に認めるよう要請したことに端を発する。

?ウクライナ・ズベルバンクはこの要請を受け入れたとされ、東部ウクライナでの独立に強く反対する民族主義派らの反発を招いた。

?ウクライナ・ズベルバンクによれば、3月9日にこの要請受け入れを撤回すると表明していた。14日からキエフ支店での営業が停止されたほか、翌15日から個人普通口座からの現金引き出し額を3万グリブナ(約1120ドル)までに引き下げている。

?これに関連して3月15日には、ウクライナ国家安全防衛会議でロシア国家資本が入っている銀行のウクライナ国内における営業停止を求める決定がなされた。

?ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はこれを翌16日に採用し、今後1年間のウクライナ・ズベルバンクをはじめ計5行のウクライナにおける営業に制限をかけた。同大統領は、西側に対しても同様の制裁措置をとるように求めている。

?制裁が禁止する内容は、親銀行を利するようなあらゆる金融取引、配当、金利、銀行間取引、劣後ローンのコルレス勘定からの資金の支払いを禁止している。

?具体的には、ウクライナ国外での資金の引き出しが禁止されるが、ウクライナ居住者と親銀行に勘定のある顧客との間の決済は禁止していない。

?2017年初時点で、ウクライナには96行の商業銀行があり、そのうち外国資本の参加している銀行は25行ある。

?今回制裁対象となったのは、ウクライナ・ズベルバンク(資産残高484億グリブナ、ウクライナ商業銀行中第6位)、プロムインヴェスト銀行(資産残高343億グリブナ、同第11位)、ヴィテベ銀行(資産残高206億グリブナ、同第15位)、ヴィエス銀行(資産残高39億グリブナ、同第32位)、そしてビーエム銀行(資産残高18億グリブナ、同第47位)の5行である。

上位15行のうち3行が制裁対象に

?上位15行のうち3行が制裁対象となり、ウクライナ経済全体にとっての意味は小さくない。5行の資産総額はウクライナ銀行業界の全資産額の8.8%を占める。

?ロシアには国営銀行で資産残高第1位のズベルバンク(貯蓄銀行)と同じく国営銀行のヴィテベ(対外貿易)銀行が存在するほか、国営の開発銀行として対外経済銀行があり、いずれもが何らかの形で国策銀行として機能している。

?今回の5行はいずれもこれらの子会社で、プロムインヴェスト銀行が対外経済銀行の、ヴィエス銀行がズベルバンクの欧州子会社であるズベルバンク欧州の、そしてヴィテベ銀行とビーエム銀行がロシア・ヴィテベ銀行のそれぞれ子会社である。

?ウクライナ側にロシアの国家資本の入った銀行がウクライナから利益を奪い取っているという意識があるのは明白で、ウクライナ中央銀行は、今回の措置を通じてこれらの銀行が適切に売却されウクライナからの退出を望んでいるようだ。

?ロシア側も対外経済銀行はプロムインヴェスト銀行を今年前半にも売却する予定で、タス通信によれば、その売却先も見つかっていたという。

?ヴィテベ銀行もビーエム銀行を売却予定で投資家を探していた。これに対して、ウクライナ・ズベルバンクはこうした方策を全く検討していなかった。

?一般にロシア資本の中東欧地域への進出は、ロシア国家の安全を守るといった特異な意図を持っている。

?とりわけ2007年のミュンヘン会議でのプーチン演説を契機として、利益確保主体ではなく、より安全保障確保を優先したディールを開始しているとの見方がある。

?2008年のジョージア紛争を経て、CIS諸国における政権転覆の動きが強まるなか、これに有効な反対行動を可能とするように対象国の政治体制へも手を伸ばせる形で経済進出を図っているという。

?ロシア資本の金融支配が原因で一国の金融制度全体を揺るがせた事例として、ブルガリアにおける大手銀行の1つ、コーポレート・コマーシャル銀行の2014年の破綻がある。

?ここにはヴィテベ銀行の子会社、ヴィテベ・キャピタルが参加していたが、資金引き上げを契機として破綻し、ブルガリアは信用不安に見舞われた。

?これらの動きを念頭にウクライナにおける3つの国営銀行の進出実態を考えると、まだまだウクライナの政治情勢をロシア有利に動かせるほどの実力はなかったとはいえ、ウクライナが懸念を持つのもある程度は理解できよう。

?しかし現在のロシア・ウクライナの対立は、文化や銀行問題にとどまるものではない。

深刻さ増す東部地域の経済封鎖

?むしろこれよりもはるかに深刻な問題の一端として銀行問題などが表出したというのが実態だ。より深刻なのが東部地域の経済封鎖問題である。

?ウクライナ東部地域には無煙炭の産出地があり、一帯は親ロシア分離派に占拠されているものの、ウクライナ人の実業家が経営に従事し、ここからウクライナの他の地域に暖房用燃料や製鉄用の原料として供給されている。

?戦闘が起こっても、対立が激化しても、ウクライナの西側は石炭供給に関しては東部地域に頼ってきていたのだ。

?しかしウクライナ民族主義派にとっては、この石炭供給が親ロシア分離派およびロシアを利するのではないかとの懸念が強く、2017年1月からこの石炭供給を差し止めるため、実力で封鎖行動に出ていた。

?この問題はポロシェンコ大統領にとっては頭痛の種だった。

?なぜなら、切実な問題としてウクライナの暖房用燃料の約半分が東部地域の無煙炭により賄われており、特に冬場にその供給がストップすれば、外国から高い燃料を急いで買う必要があり、ただでさえ苦しい同国の経済事情を大いに悪化させる危険性がある。

?さらに政治的な問題として、東部地域との間を経済封鎖すれば、ウクライナから切り離された東部地域がかえってロシア側との結びつきを強め、分離独立の口実を一層与えてしまうからである。

?そもそも経済封鎖自体がミンスク合意に反するという問題もあった。発電の燃料不足にも拍車がかかり停電が頻発するなど、ウクライナ政府は1か月あたり40億グリブナ(約1億5000万ドル)の経済的損失を被っているとしている。

?ウクライナ政府は何度も経済封鎖を解除するよう求めたが、これが長期化したため東部の石炭産業は炭鉱などの操業が事実上停止していることを3月上旬に認めていた。

?こうした状況を背景に、ウクライナ政府は突如3月9日、東部地域との道路・鉄道交通の遮断措置を自らとることを決めた。結局、国内の政治状況からウクライナ民族主義派の圧力にポロシェンコ大統領が屈したのである。

?これに対して、親ロシア分離派は素早く対応した。

?翌週3月15日、ウクライナで一番の富豪と言われるリナト・アフメトフ氏の所有するSCMグループのエネルギー部門であるDTEKエナジーの占領地域における資産を差し押さえ、ウクライナとの貿易も禁止した。

?ウクライナ情勢における東部地域の分離独立問題は、新たな段階に入ったと言える。

トランプ政権誕生が1つの引き金

?こうした事態の急変を受け、国際通貨基金(IMF)はウクライナへの新たな175億ドルに上る融資のうち、10億ドル分のディスバースメントを中止した。結局、ウクライナの方が、ロシア側よりも大きな犠牲を払いそうである。

?しかしながら、政府がそうした措置をとらざるを得なかった理由は、国内政治状況のみで語れるものではない。

?ロシアとの関係改善を訴えて大統領選挙を勝ち抜いたドナルド・トランプ米大統領の登場がその理由だ。

?トランプ氏のロシアとの和解路線はどうやら簡単には進まなさそうであるものの、ウクライナにとって米国・ロシアの和解は、どういう形になるかは不透明とはいえ、現状の追認、場合によっては既に失ったクリミアを回復することはおろか、東部地域の分離独立問題でも何らかの譲歩を求められることになったであろう。

?このため、民族主義派らもポロシェンコ大統領もウクライナ問題は過去のものではないと言うことを示す必要があったのだ。

?同様のことを政府もまた考えていたことを示す例が、本年1月17日に東部地域でのテロ支援を理由にロシアを国際刑事裁判所に提訴した事例だ。

?ウクライナは既にクリミアの併合を巡って国際司法裁判所に訴えてきたが、ロシアは2016年11月、同裁判所がクリミア併合を事実上の占領状態に該当すると判断したことを不服として離脱を表明している。

?このように見てくると、ウクライナとロシアではまだまだ紛争が長期化することが予想され、両者の和解は非常に困難であろう。同時にそのことが米国の対ロシア政策にも大きな重石になるのは避けられないであろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49499

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[国際18] 「主役は極右」だったオランダ総選挙ポピュリズムか否か:欧州の試練は続く     メルケルを脅かすSPDの「シュルツ旋風」
 
ヨーロッパ?政治

「主役は極右」だったオランダ総選挙ポピュリズムか否か:欧州の試練は続く
2017.3.23(木) 新潮社フォーサイト

新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
オランダ総選挙、中道右派の与党が第1党維持 極右抑える
オランダ・ハーグで記者会見する極右・自由党のヘルト・ウィルダース党首(2017年3月15日撮影)。(c)AFP/ANP/Robin Utrecht〔AFPBB News〕
(文:三井美奈)

?欧州の小国オランダの選挙が、これほど国際的注目を集めたのは初めてだ。米国発の「トランプ旋風」は欧州でも吹き荒れるのか。その試金石となった。ヘルト・ウィルダース党首が率いる極右「自由党(PVV)」は第2党にとどまったが、終始選挙戦の主役だった。はっきりしたのは、「ポピュリズム(大衆迎合主義)か否か」が政治の新機軸となったことだ。左右両翼が政権を争った欧州政治は崩壊に向かっている。

ポピュリズムは止めたが・・・

?マルク・ルッテ首相は「オランダが“誤ったポピュリズム”を止めた」と大喜びだった。自身が率いる中道右派の自由民主党(VVD)が首位となり、「英国の欧州連合(EU)離脱、トランプ米政権の誕生」という悪い流れを断ち切ったというのだ。とはいえVVDは議席を41から33に大きく減らし、信任を得たとは言い難い。ルッテ首相には、ポピュリズムのドミノを止めるのが唯一の目標になっていたのだ。

?オランダ政治は戦後、VVDとキリスト教民主勢力、中道左派・労働党の3大政党が「親EU・民主主義」の枠を作ってきた。1998年の総選挙では、定数150のうち3大政党の合計は112議席にのぼった。それが徐々に減り、今回は計61。過半数にも届かない。特に労働党は退潮が著しい。2012年総選挙で獲得した38議席は9議席に減り、少数政党に転落した。極右勝利を回避したとはいえ、米英両国と同様、エスタブリッシュメント(支配階層)への反乱が起きているのは明らかだ。

?アムステルダム大のハイス・シューマッハー准教授は「今回はPVVか、反PVVかを問う選挙だった」とした上で、「連立交渉はPVV抜きで進むが、小党連立の不安定政権になるだろう。各党はアンチPVVだけが共通点だった」と指摘する。ルッテ首相の続投には、少なくとも4党の連立が必要だ。

「緊縮」への抗議表明

?ウィルダース氏は選挙を自分自身に対する国民投票に変えてしまった。彼は何者か。

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?オールバックの髪をブロンドに染めているものの、母は旧植民地のインドネシア系で、生粋の白人ではない。イスラム嫌悪発言はトランプ氏以上に直情的で、「コーランはテロの源泉。禁書にする」「国境を閉めろ!?イスラム過激派が来るぞ」と公言する。国際テロ組織アル・カーイダがインターネット上に出した標的リストに名前があがり、「生命の危険がある」として選挙戦では24時間警備がついた。

?党の公約は、A4判の紙1枚に書かれた11項目だけ。「オランダの脱イスラム化を進める」「EU離脱を問う国民投票を行う」以外、これといった政策もない。財源を示さないまま「年金支給年齢を65歳に戻す」「所得減税」を掲げ、左派票獲得を狙った。

?世界の注目は、「EUの優等生オランダで、なぜ極右なのか」に集中した。経済成長は毎年2%前後と堅調で、失業率は5%。緑と運河で覆われた国土はどこもインフラが整備され、トランプ政権を生んだ米中西部の「ラストベルト」とは大違い。欧州福祉大国の代表で、グローバル化の恩恵を受けてきた貿易国家でもある。

?オランダ人ジャーナリストはそんな優等生国家に「裏側」があるとし、昨年大ヒットしたテレビのドキュメンタリー番組を勧めてくれた。アムステルダム郊外での貧困層の暮らしを追った「罪」という題名の作品。「平等の社会」と自負する国の底辺で、格差が広がる実態を浮き彫りにした。番組で紹介された借金苦の男性には、「助けてあげて」と寄付金が4万ユーロも集まった。

?番組制作者のエステル・グールド氏に電話すると、「ウィルダースへの投票は、緊縮を進めた政府への抗議表明ですよ。特に労働党に対しては、貧困層の間で『裏切られた』という思いが強い。自分の声が政治に届いていない、という不満が強い」と話した。

?格差はユーロ危機後にひどくなったという。政府が補助金を削減したためだ。政府が省力化に努めた反動で、手当申請はすべてコンピュータ化され、高齢者や貧困層には手に負えないほど複雑化した。

「イスラム嫌悪」の原因

?今世紀に入ってから、オランダでは「イスラム嫌悪」につながる2つの衝撃的事件があった。

?2002年の選挙直前、コラムニストのピム・フォルタウィン氏が暗殺された。「イスラム移民流入を止める」と公約して新党を結成した人物で、同性愛者であることを公言していた。銃撃犯は白人青年だったが、彼の死は「政治的殉死」と見なされた。

?第2の事件は2004年に起きた。大画家の弟の子孫で映画監督のテオドール・ファン・ゴッホ氏がモロッコ系青年に銃撃された上、のどを切り裂かれ、惨殺された。イスラム社会の女性に対する暴力を告発する短編映画を作った直後だ。表現の自由や男女平等を尊ぶオランダの価値観を「イスラム教徒が脅かす」という恐れが、殺人事件により現実のものとなった。

?オランダのイスラム教徒は現在、約85万人。人口の約5%を占める。多くは1960〜70年代、政府が労働力として招いたモロッコやトルコからの移民とその子孫だ。

?オランダは多文化主義を誇り、学校でのイスラム教教育も容認してきた。「他人に迷惑をかけない限り、自由を尊重する」が国是で、安楽死や同性結婚、売春を法で認める国である。だからこそ、立場が違うという理由で殺人を犯す人や集団は、「国を揺るがす存在」と映る。

?ポピュリズムを止めたルッテ首相も、選挙戦中の新聞広告で「この国のルールに従わない者は出ていけ」と主張し、イスラム移民の犯罪に厳しい姿勢をとった。

「ルペン大統領」誕生の可能性

?オランダ総選挙でウィルダース氏の勢いを止めたとはいえ、求心力低下に悩むEUにとってはほんの息継ぎでしかない。今年は4〜5月にフランスで大統領選があり、9月にはドイツ総選挙が控える。イタリアも年内の総選挙実施が濃厚だ。

?中でもフランスでは、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首の当選が現実味を帯びてきた。大統領選の争点はオランダ以上に、「極右か否か」に集中する。

?しかも、ここで止め役が期待されるのは、39歳のエマニュエル・マクロン前経済相だ。オランド大統領ら仏社会のエリートを輩出した名門「国立行政学院」出身で、選挙は今回が初めて。社会党の予備選にさえ出たことがない。公約といえば、どう見てもオランド政権の焼き直し。このシロウト政治家に、EUの中核を担うフランスの未来を託さざるを得ないのである。

?そうなったのも、フランスはオランダ以上に左右両翼の崩壊が著しいためだ。

?ドゴールの流れを汲む中道右派・共和党候補のフランソワ・フィヨン元首相は、妻と娘、息子の家族3人を自分の秘書にして、給与として約1億円も支払った。今や公金横領の容疑で、捜査を受ける身だ。社会党候補は、党内左派のブノワ・アモン前教育相。予備選を勝ち抜いたものの、「国民全員に月750ユーロ(約9万円)の最低所得を保証」「雇用を奪うロボット生産に対する課税」という浮世離れした公約で支持が伸びない。それどころか、オランド政権を支えた党内中道派が相次いで不支持を表明し、党は分裂寸前だ。

?フランスは2回投票制で、第1回投票の上位2人が決選投票に進む。目下の世論調査では、左右2大政党の公認候補が上位2人に残れず、ルペン対マクロンの一騎打ちになりそう。マクロン氏に「極右阻止」の期待がかかるのは、このためだ。これまでは極右アレルギーがあるため、「ルペン氏は決選投票で敗退する」と見られてきたが、そんな仏政治の常識は今回に限って通用しそうにない。

なぜ福祉大国で?

?それにしても、欧州で「反イスラム」を声高に掲げるポピュリズム政党が台頭するのは、オランダやフランス、ドイツのほか、デンマークやフィンランド、スウェーデンなど日本がお手本としてきた福祉大国ばかり。同じポピュリズム政党でも、イタリアの「五つ星運動」やスペインの「ポデモス」は緊縮反対を掲げながら、イスラム移民排斥やEU離脱にはあまり熱心ではない。中東からの難民流入の最前線なのに、である。

?アムステルダム大のシューマッハー准教授は「豊かな人ほど、変化を恐れる。自国の福祉や文化に満足しているからこそ、人権や個人の自由を尊ぶ欧州の価値観がイスラム台頭で脅かされている、という不安が強いのだろう」と指摘する。

?オランダ総選挙は、ポピュリズム政党の勢いが、主要政党が総力を挙げて対抗しなければ止められないほど強いことを示した。既成政党は生き残りのため、ポピュリストに負けないほど強く「国益優先」を打ち出し、厳しい移民政策をとるようになるだろう。欧州政治や外交は当面、ポピュリズムという大きな流れの中で動くしかない。


三井美奈
1967(昭和42)年、奈良県生まれ。産経新聞外信部編集委員。一橋大学社会学部卒。読売新聞ブリュッセル支局員、エルサレム支局長、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員などを経て、2011〜15年パリ支局長。2016年10月から現職。著書に『安楽死のできる国』『イスラエル―ユダヤパワーの源泉―』『イスラム化するヨーロッパ』など。

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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49489

 


メルケルを脅かすSPDの「シュルツ旋風」
熊谷徹のヨーロッパ通信
ポピュリズム台頭に対抗するドイツ
2017年3月23日(木)
熊谷 徹

SPDの党大会で挨拶するシュルツ氏(写真:ロイター/アフロ)
 9月に連邦議会選挙が行われるドイツ。この国の政治のダイナミズムを象徴する現象が今起きている。左派勢力のカムバックは、欧米を覆いつつある右派ポピュリズムの暗雲に対するドイツの回答だ。
 3月19日、社会民主党(SPD)はベルリンで臨時党大会を開催した。最も重要な議題は、党首の正式な選出である。最も有力な党首候補は、欧州議会の議長だったマルティン・シュルツ(61歳)。1月末にジグマー・ガブリエルが党首の座を退き、シュルツが事実上内定していた。
得票率100%で党首に
 この党大会で、驚くべきことが起きた。有効票を投じた605人の代議員の全員が、シュルツを党首に選んだのだ。SPDの153年の歴史の中で、党首が100%の得票率で選ばれたのは、今回が初めて。
 シュルツは満面の笑みをたたえて「この投票結果は、我々が連邦首相府を制覇するという堅い意志の表れだ」と獅子吼。党員たちは座席から立ち上がり、スタンディング・オベーションを送った。年配の女性党員は「全員が立ち上がって党首に拍手を送ったのは、ヴィリー・ブラントが1964年に党首に選ばれた時以来ではないかしら」と感慨深げに語った。
シュルツ登場でSPDの人気が急上昇
 いまSPDは、熱い興奮に包まれている。10年以上にわたり低迷を続けた同党が、シュルツの登場以来、猛然たる巻き返しに転じたのだ。SPDによると、今年1月以降、約1万人の市民が新たにSPDの党員になった。この「シュルツ現象」の勢いにはドイツの政治ジャーナリストだけではなく、SPDの幹部たち自身も目を丸くしている。
 シュルツ現象のダイナミズムは、ここ数カ月間の世論調査の結果にはっきり表れている。公共放送局ARDが3月9日に行った調査によると、SPDの支持率は1ヶ月前の調査に比べて3ポイント増えて31%となった。今年1月に比べるとほぼ10ポイントの上昇である。
 SPDはメルケルが率いるキリスト教民主・社会同盟=CDU・CSU(32%)に肉迫している。もしもSPDが左翼党(リンケ)、緑の党と連立すれば47%になり、CDU・CSUを大幅に上回る。
 メルケルは2015年に89万人のシリア難民を受け入れたことをめぐり、保守勢力から厳しく批判され、支持率が低下している。ARDが実施した世論調査によると、回答者の55%が「メルケル政権の仕事ぶりに不満だ」もしくは「やや不満だ」と答えている。
左派連立政権が誕生する可能性
 保守派に属するドイツ人の間では、「メルケルの政策があまりにも左傾化している」として疎外感を抱く人が増えている。このためCDU・CSUは、反EUと反イスラムを旗印に掲げる右派ポピュリスト政党「AfD(ドイツのための選択肢)」に支持者を奪われつつある。メルケルにとって最大の脅威は、これまでAfDだと考えられてきた。
 しかし今年1月に突如巻き起こったシュルツ旋風も、メルケルが無視することのできない重大な脅威となりつつある。つまり、シュルツを首班とするSPD+リンケ+緑の党の「赤・赤・緑連立政権」の誕生が、急激に現実味を帯びてきたのだ。
 ARDが2月初めに行った世論調査によると、「もしも首相を直接選ぶとしたら、シュルツを選ぶ」と答えた回答者は50%に達し、メルケルへの支持率(34%)を上回った。
ドイツ政党支持率調査(2017年3月9日)

資料・ARD
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/032200026/g1.jpg

「アゲンダ2010は誤りだった」
 なぜシュルツの人気は高いのだろうか。彼はベルリンでの党大会で「社会的公正を実現するとともに教育と家庭を重視し、労働組合との結束を強める」と宣言したが、具体的な政策はまだ提示していない。詳細は今年6月の党大会で発表する予定だ。
 だがすでにはっきりしていることは、彼が社会保障を重視するSPD左派に属することだ。つまりシュルツは、1998年以来SPDを支配してきた、シュレーダー、ガブリエルという財界寄りもしくは実務派の政治家とは、一線を画す人物なのである。ある意味では、SPDが「労働者と社会的弱者を守る」という伝統路線に戻ろうとしていることを示している。そのことが、多くの党員を熱狂させているのだ。
 シュルツは今年2月に、かつてSPDの党首だったゲアハルト・シュレーダーが断行した雇用市場改革プログラムを修正し、富の再配分を強化する方針を明らかにしている。2003年に実施されたこの改革は、戦後ドイツの雇用市場・社会保障制度に最も深くメスを入れた。
 「アゲンダ2010」と呼ばれるこの改革で、シュレーダーは失業者に対する国の給付金を切り詰め、長期失業者の数を大幅に削減することに成功した。さらに彼は社会保障サービスの切り詰めによる労働コストの削減、人材派遣業の規制緩和など、企業の利益を増大させる政策を次々に打ち出した。この政策は、財界だけではなくCDU・CSUからも高い評価を受けた。メルケルは、2005年に首相に就任した時に、アゲンダ2010について、シュレーダーに感謝の言葉を送ったほどだ。
 2009年にユーロ危機が表面化した後も、ドイツ経済が絶好調であった理由の一つは、シュレーダー改革によって、労働コストの伸び率を他国に比べて低く抑えることに成功したからだ。
 だがシュルツは、「ドイツでは所得格差が拡大する一方で、不安定な仕事しか持てない人が増えている。これは、社会の主流派が過去に犯した過ちがもたらした結果だ。我が党も過ちを犯した。だが我々はそのことに気づき、過ちを修正しつつある」と述べた。
 つまり、彼は「アゲンダ2010」が過ちだったとして、この改革プログラムを批判したのだ。
社会保障の拡充による富の再配分を
 特にシュルツは、中高年の失業者向け援助金の支給期間を延長する方針を打ち出した。なぜ彼は、この点を問題視しているのか。
 シュレーダー改革以前のドイツには、Arbeitslosengeld (失業者給付金)とArbeitslosenhilfe(失業者援助金)という2つの援助金があった。前者は税引き前の年収(上限6万2000ユーロ)から社会保険料と税金を引いた額の60%〜67%を、最長32カ月支給した。また後者は、失業者給付金の支給期間が過ぎた後に、手取り所得の53%〜57%を支給。その期間は、無期限だった。
 シュレーダーは「失業者への援助が手厚すぎるので、賃金の低い仕事に就きたがらず、失業者でいる方が良いと考える人が多い」として、このシステムを廃止。これらに代えて、Arbeitslosengeld(第一次失業者給付金)とArbeitslosengeld II(第二次失業者給付金)という2つの給付金を導入した。
 前者は、税引き前の年収から社会保険料と税金を引いた額の60〜67%を支給するもの。この点は変わらないが、シュレーダーはその支給期間を18カ月に短縮した。以前のシステムに比べて14カ月も短い。
 18カ月が過ぎると、失業者は第二次失業者給付金を受け取ることになる。その金額は当初西独で毎月345ユーロ(4万1400円・1ユーロ=120円換算)、東独では月331ユーロ(3万9720円)と定められた。これは、生活保護とほぼ同じ水準である。多くの年配の勤労者が、失業して1年半経つと生活保護並みに低い援助金しかもらえなくなったのである。これは多くの失業者にとって、屈辱だった。
 2005年に誕生したメルケル政権は、シュレーダー改革はあまりにも厳しいと考え、58歳以上の失業者に対する第一次失業者給付金の支給期間を24カ月に延長した。さらに第二次失業者給付金の金額も若干引き上げた。
 シュレーダー改革は、企業に長年勤めた後に解雇された失業者も、ほとんど働いていない若年失業者と同じく、生活保護と同水準の援助金しかもらえないシステムを生み出した。このことは、特に中高年労働者のSPDに対する怒りを増幅させた。彼らは長年にわたり失業保険制度に保険料を払い込んできた。それゆえ、若年労働者と同じ扱いを受けるのは不当だと感じたのだ。
 シュルツは、これらの政策が社会の不公平感を強めていると主張している。
 さらに、期限付き雇用契約についても彼は批判の目を向けている。ドイツの雇用契約は、原則として無期限だった。シュレーダーが規制を緩和し、期限付きの雇用契約を締結しやすいようにした。シュルツは、企業が期限付きの雇用契約を締結できる条件を、これまでに比べて厳しくする方針を打ち出している。
アゲンダ2010はSPDに深い傷を与えた
 ドイツの雇用統計を見ると、失業者数は2005年には486万人だったが、2012年には290万人に減った。だがその一方でシュレーダー改革は、低賃金労働者を増加させた。たとえばシュレーダーは、ミニジョブという制度を作り、企業に対し社会保険料の支払いを免除した。仕事の内容はオフィスの掃除など、低賃金の職種である。
 だがミニジョブだけでは、給料の額が低すぎて生活できない市民が多い。このために第二次失業者給付金を受け取っていた市民の数は、2011年の時点で286万人に達した。彼らは国から援助金をもらっているものの、一応仕事を持っているので、雇用統計上は失業者とはカウントされない。シュレーダーが失業者数を大幅に減らすことに成功した陰には、こうした統計上のトリックがあった。つまりシュレーダー改革は、米国や日本と同様のワーキング・プアー問題をドイツにもたらしたのだ。
 シュレーダー改革に対して、旧東独を中心に抗議の声が上がった。SPDは州議会選挙で次々に惨敗。SPD地方支部からは、シュレーダーを批判する声が高まった。労働組合も、彼に背中を向けた。シュレーダーは2005年の連邦議会選挙で敗北して、首相を辞職し政界を去った。。1998年の連邦議会選挙におけるSPDの得票率は約40%だったが、2009年には23%に落ち込んだ。史上最低の得票率を記録することになった。
 シュレーダー政権で財務大臣を務めたオスカー・ラフォンテ―ヌら党内の左派勢力はSPDを去り、「リンケ」を創設した。1990年にSPDの党員数は約94万人だったが、2012年には約半分の47万人に減少した。アゲンダ2010はドイツに未曽有の好景気をもたらしたが、SPDは満身創痍となった。
庶民派首相候補・シュルツ
 シュレーダーがアゲンダ2010を実施して以降、CDU・CSUとSPDの政策が似通ってしまい、両党とも独自性が見えなくなった。
 つまり、SPDが「アゲンダ2010」をはじめとするネオリベラル的な政策を取り始め、労働者ではなく企業を利する党に変質したとして、市民たちは落胆した。彼らは今、シュルツが登場し「アゲンダ2010を見直すことによって、SPDが以前の姿を取り戻す」ことに強い希望を抱いているのだ。これに対してCDU・CSUと経済界は「シュルツの政策はドイツの経済成長にブレーキをかけ、再び失業率を高めるだろう」と警告している。
 社会保障を拡大することで富の再配分をめざすシュルツの路線は、CDU・CSUとSPDの政策の違いを多くの市民に見えやすいものにした。
 シュルツの経歴は異色だ。彼は1955年に、オランダ国境に近い、ノルトライン・ヴェストファーレン州のヴュルゼレンという人口4万人足らずの町で、警察官の家庭の五男として生まれた。1966年にアーヘンの近くのギムナジウム(大学へ進学する準備をするための高等中学校)に入ったが、1974年に中退。大学などの高等教育を受ける道は閉ざされた。
 このため彼は本屋の店員になるための実務教育を受け、出版社や書店に勤務。1982年から1994年まではヴュルゼレンで書店を経営していた。彼は1970年代に一時アルコール依存症となったが、克服して1980年からは断酒している。
 彼は19歳の時にSPDに入党し、1984年にヴュルゼレン市議会の議員、1986年にはヴュルゼレンの市長を務めた。1994年には欧州議会選挙で初当選し、欧州議会の社会民主党議員団の院内総務などを歴任。2012年から今年1月までは、欧州議会の議長を務めた。
 つまり、シュルツは23年間欧州議会に所属し、ドイツの州レベル、連邦レベルでは議員として活動したことが全くない。ドイツ国内の政争にもまれず、シュレーダーが2003年にアゲンダ2010を断行した時にも、この国の政界から離れていたことが、シュルツにとって幸いした。前党首ガブリエルの人気が高まらなかった理由の1つは、彼がアゲンダ2010を支持したために、党内の左派から常に冷ややかな目で見られていたことである。
 つまりSPDはシュルツというドイツ国内政治の門外漢を迎えることによって初めて、アゲンダ2010の呪縛から解放されることができた。髭面のシュルツは大学を出ていないせいもあり、エリート臭さがない。むしろ町工場の経営者か食料品店の店主のような、庶民的な印象を与える。
 同じSPDに属しながら、イタリアの高級紳士服「ブリオーニ」をまとい、葉巻をくゆらすのを好んだシュレーダーとは、全く毛色が異なる政治家なのだ。CDUに属するヴォルガング・ショイブレ財務大臣は、シュルツについて「左のポピュリストだ」と警戒心をむき出しにしている。
首相レースは振り出しに?
 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の記者ヤスパー・フォン・アルテンボックムは、3月20日付の社説で「シュルツが登場し、連邦首相の座をめぐる競争は振り出しに戻った」と述べた。彼は、去年12月まではほぼ確実と見られていたメルケル4選が、覆されるかもしれないと主張しているのだ。
 政治の世界ではモメンタム(勢い)が重要な役割を果たす。2003年以来右に振れていたSPDの振り子は、今大きく左へ戻ろうとしている。この勢いを利用したシュルツが、メルケルを破って首相の座に就く可能性も否定できない。
 9月の連邦議会選挙の動向を占うカギとなるのは、3月から順次行われる州議会選挙の結果だ。まずは3月26日にザールラント州で、5月14日にはノルトライン・ヴェストファーレン州で行われる。ドイツの政治が、ますます面白くなってきた。(文中敬称略)


このコラムについて
熊谷徹のヨーロッパ通信

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/032200026

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/698.html

[政治・選挙・NHK222] ふるさと納税、返礼上限3割まで 総務省要請へ 実質賃金0.1%減 なぜ社員は帰れないのか 日本はどうして皆に嫌がられたか
ふるさと納税、返礼上限3割まで 総務省要請へ
2017/3/23 2:00日本経済新聞 電子版
 総務省はふるさと納税の返礼品の価格について、寄付額の3割までに抑えるよう全国の地方自治体に要請する。自治体が寄付金を集めるために高額すぎる返礼品を競って導入しているため。返礼品の金額の目安を設けるのは初めてで、寄付の多くを自治体の手元に残して地域活性化の原資に充ててもらう。

 4月1日付で全国の自治体に通知する。ふるさと納税は自分の好きな自治体に寄付をすると、寄付額から2000円を差し引いた分の税…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS22H5K_S7A320C1MM8000/


実質賃金0.1%減 1月確報
2017/3/23 10:02
 厚生労働省が23日発表した1月の毎月勤労統計(確報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除く実質賃金は前年同月比で0.1%減少した。速報段階より0.1ポイント減った。名目賃金を示す現金給与総額は26万9790円で前年同月比で0.3%増加した。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H01_T20C17A3EAF000/

1月の実質賃金、確報値は0.1%減に下方修正 毎月勤労統計
2017/3/23 9:29
 厚生労働省が23日発表した1月の毎月勤労統計調査(確報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月に比べて0.1%減少した。名目賃金が減少し、速報段階の横ばいから下方修正となった。

 従業員1人あたりの平均の現金給与総額(名目賃金)は0.3%増の26万9790円だった。速報段階では0.5%増だった。内訳をみると、基本給にあたる所定内給与が0.6%増と速報値(0.8%増)から下方修正。残業代など所定外給与も0.2%減と0.2%増だった速報段階からマイナスに転じた。一方、ボーナスなど特別に支払われた給与は2.0%減と速報値の3.7%減からマイナス幅が縮小した。

 パートタイム労働者の時間あたり給与は2.0%増の1106円となった。速報段階(2.5%増)から伸び率は縮小した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕

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http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL23HPN_T20C17A3000000/


 


なぜ社員は帰れないのか?要因ごとに残業を削減する

働き方改革を進めるポイント(第2回)
2017.3.23(木) 梅田 修二


 長時間労働に対する社会的な関心の高まりや、国による残業時間の上限規制の議論を受けて、企業は残業時間削減への取り組みが急務になってきている。
 残業時間削減のために「業務量削減のための改善活動」や「20時以降残業禁止、ノー残業デーなどの残業規制」などに取組んでいる企業は多い。これらは確かに残業時間の削減に有効な取り組みである。だが、大きな成果を出すには、まず自社の残業実態および残業要因を正しく把握した上で適切な対策をとる必要がある。

【1】 残業実態を把握する
 最初に行うべきなのは、自社の残業実態を正しく把握することだ。なぜなら、残業実態によって、残業時間削減に有効な対策が異なるからである。
 例えば、部門全員の残業が多い場合は、部門の業務量を削減する改善活動が有効だが、特定の個人のみ残業が多い場合は、その個人が担当している業務の効率化や分担変更を図る必要がある。また、慢性的に残業が多い場合は、業務量を削減する改善活動が有効だが、月末月初だけ残業が多い場合は、その時期に実施している業務を効率化したり実施タイミングをずらす必要がある。
 このように残業実態によってとるべき対策が変わってくるため、単に「残業時間が多い」という平均の現象だけを捉えていては効果的な対策を取れない。
 大切なのは、どこの部門が多いのか? 誰の残業時間が多いのか? どの時期の残業が多いのか? など、残業実態を具体的に把握することである。
 そのためには、部門別・個人別の残業時間データを単に取得するだけでなく、残業時間の部門間・個人間・役職別・雇用形態別などのバラツキや、月別・日別・曜日別などの推移を確認することで残業実態を把握する必要がある。
残業実態の把握例(部門別/個人別の残業時間のバラツキ)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/2/9/400/img_2994cec1f67d19309d10d44836ead6b541823.jpg

残業実態の把握例(管理職/担当者の残業時間比較)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/6/8/450/img_68ce68b0d2a9bd4f9969a90fea1407b435982.jpg

【2】 残業要因を把握する
 残業実態を把握したら、次は、なぜこのような実態になっているのか、その要因を把握する必要がある。具体的には、職場の業務項目を洗い出し、業務量・発生タイミング・業務分担・属人化有無などを把握することで残業要因を突き止めていく。
 主な残業要因は以下の5つに集約されるが、残業要因はどれか1つというより、複数の要因が組み合わさっていることが一般的である。
(1)要員数に対して業務量が多すぎる
 職場の業務項目を洗い出して業務量を積み上げたところ要員数に対して多すぎる場合は、業務量と要員数の適正化を図っていく必要がある。具体的には、まず有効性の低い業務の廃止・簡素化や、業務のやり方の見直しによって業務量削減を図っていく。それでも、まだ業務量が多すぎる場合は増員を検討する必要がある。
(2)各業務に、本来できる時間以上に時間がかかっている
 業務量としては多くないが、本来できる時間(基準時間)よりも余計に時間がかかっていると残業になる。主な原因は、スキル不足、手戻り、間延びした仕事の進め方などである。間延びした仕事の進め方とは、「今日は時間に余裕があるからゆっくり仕事をしよう」といった、時間あたりの生産性を意識しない仕事の進め方のことだ。ホワイトカラーの職場では基準時間が設定されていないことが多く、間延びした仕事の進め方によるムダが多い。そのため「この業務は何時間でやる」といった、時間を意識した仕事の進め方に変えていくことで残業削減を図っていく。
(3)業務の実施タイミングが悪い
 業務量は多くないが、業務の実施タイミングが悪いと残業になる。例えば、定刻の終業時の直前に急に業務を依頼されたケースや、当日対応する必要のない業務まで当日対応したために残業が発生したケースである。対策としては、受付時間を設定したり、担当者に直接依頼しないように受付ルートを設定したり、業務を受ける際に納期を確認するなどして、業務の発生タイミングや実施タイミングの適正化を図っていく。
(4)特定個人への業務負荷集中
 管理職の残業が多い場合は、プレイヤーとして業務を抱えすぎているケースが多い。残業が多い管理職はもっと部下に任せて、業務移管していく必要がある。また、管理職が遅くまで残業していることにより、帰りづらい雰囲気を作り、“付き合い残業”が発生している可能性もある。管理職は自ら率先して早く帰る姿勢を部下に示すことが求められる。
 一方、担当者の残業が多い場合は、属人化が原因なことが多い。そこで、属人化を解消し、分担変更を図っていく必要がある。また、いわゆる「デキル担当者」に業務が集中し残業が発生しているケースもある。その場合は、管理職が担当者の業務量をコントロールしていく必要がある。
(5)特定時期(日・曜日・月)の業務負荷集中
 特定の日、曜日、月に残業時間が集中している場合は、その時期に実施している業務を効率化したり、実施タイミングをずらす必要がある。対策を実施しても業務負荷が集中して残業が発生する場合は、そのタイミングのみ増員したり、他部門から応援してもらうことを検討する必要がある。
残業削減の真の目的は?
 残業削減は、従来はコスト削減が主な目的であったが、現在はコストをかけでも行うものになっており、目的が変化してきている。現在、社員の健康増進やワークライフバランス確保など、企業は様々なお題目で取り組んでいるが、本来、目指すべきなのは「時間あたり生産性の向上」「採用競争力向上・離職率低下による社員の確保」「顧客や取引先からの信頼の維持・向上」である。
 つまり、「企業競争力の維持・向上」が真の目的であることを忘れてはならない。単なるコスト削減や福利厚生、社会要請に応えるために取り組むのではなく、“儲ける”ための経営戦略として取り組むべきなのだ。
 残業時間削減の取り組みは、生活残業をしている社員やもっと働きたいというモーレツ社員からの抵抗も多い。そのため、何のために残業削減を行うのか取り組みの目的を明確にし、社員に理解させることが、取組初期の段階で何よりも大切である。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49382

 

「日本はどうして皆に嫌がられたのか」、株式アナリストの答え
Tom Redmond
2017年3月23日 07:03 JST

• あらゆる投資家グループが2017年は日本株売り
• SMBC日興のアラム氏が投資家のタイプ別に理由を分析

バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチの世界ファンドマネジャー調査をうのみにしてはいけないと、SMBC日興キャピタル・マーケッツの株式ストラテジスト、ジョナサン・アラム氏は忠告した。
  同調査では日本が世界で2番目に人気の高い株式市場だということになっているが、内実は違うという。外国人投資家や国内の個人投資家、信託銀行も皆今年に入って日本株を売り越していると、アラム氏は日本取引所グループのデータに基づいて21日のリポートで説明した。「世界の投資家はブル(雄牛)の着ぐるみを着たベア(熊)だ」という。

ブルかベアか

Photographer: Alex Kraus/Bloomberg

  このリポートが発表された翌日の22日、TOPIXはドナルド・トランプ氏の大統領選挙勝利以降で最大の下げとなった。今年の上げをすべて失うまであと1%に迫った。
  「日本はどうして皆に嫌がられたのか」と同氏はリポートの中で問い掛ける。売りの理由は投資家のタイプによって異なるというのが同氏の回答だ。外国人投資家の場合は円高が理由だという。円は今年に入りドルに対して5%近く上昇した。
  一方、個人投資家や投資信託は相場が上昇すると利益確定に動く傾向があると同氏は指摘。TOPIXは米大統領選直後に売られた後、今月の高値までに20%余り上昇した。
  年金基金からの受託が多い信託銀行も、今年は売り越している。これについて、アラム氏は理由を説明していない。
  「一つの要素として、株価が上昇したという事実がある。これは個人投資家、ひいては本質的に個人の資金の運用手段である投資信託に売りを促す傾向がある。別の要素として、円が値上がりした。これは外国人投資家の売りを誘うものだ。信託銀行については、分からない」とアラム氏は書いている。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iRcDae2ZQxSA/v1/-1x-1.png

原題:‘How Has Japan Managed to Offend Everyone?’ Asks Stock Analyst(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-22/ON7T316TTDSC01


 



http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/764.html

[原発・フッ素47] 1号機メルトダウン 冷却装置経験者不在はなぜ 生かせなかったイソコン 見えてきた教訓は
1号機メルトダウン 冷却装置経験者不在はなぜ
3月21日 20時01分
6年前に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故の際、最初にメルトダウンした1号機で事故対応の鍵を握っていた非常用の冷却装置。実際の操作を経験した人がいない状態で対応を迫られました。実はこの装置、長い間、起動しにくい設定になっていたことが関係者の取材や残された資料からわかりました。重要な冷却装置は過去、どのような経過をたどり、事故を迎えていたのか。見えてきた教訓は何か。解説します。

生かせなかったイソコン
福島第一原発1号機の非常用の冷却装置。正式には「非常用復水器」、通称「イソコン」と呼ばれます。
トラブルなどで原子炉の圧力が高まると自動で起動し、電源が無くても配管の弁さえ開いていれば原子炉からの蒸気が冷却水が入ったタンクの中で冷やされて戻ってくる仕組みになっていて、重要な冷却手段でした。

6年前も午後2時46分の地震で原子炉が緊急停止したあと自動で起動しましたが、運転員が配管の弁の調整をしながら、原子炉の冷却にあたっている間に津波によって電源が失われ、イソコンの稼働状況がわからなくなってしまいました。
このとき原子炉建屋の外に出ているイソコンの排気口から「もやもや」とした蒸気が出ていたのを見て、イソコンは動いていると判断。しかし、実際は動いていませんでした。

午後6時ごろ、一時的にバッテリーが回復し、イソコンが動いていないことを示すランプが点灯したため、運転員はイソコンを再び動かします。しかし、外に排出される蒸気がしだいに見えなくなったため、現場は「イソコンのタンクの水がなくなって空だきの状態になり、配管が壊れれば、放射性物質を含む蒸気が外に放出されるおそれがある」と心配してすぐに停止。

その後、資料を調べるなどして、イソコンには10時間程度、原子炉を冷やせるだけの水があると考え、午後9時半になって再び動かしますが、このとき1号機の核燃料はすでにメルトダウンしていたと考えられています。

各種事故調査が指摘
1号機のメルトダウンは、原子炉建屋の放射線量を高めて事故対応を難しくしたうえ、翌日の水素爆発を引き起こし、その後の3号機や2号機の事故の連鎖につながりました。

政府の事故調査・検証委員会は「イソコンの作動を経験した者は発電所にはおらず、かつての経験談が運転員間で口伝されるのみだったという。当直のみならず発電所の対策本部、ひいては本店対策本部に至るまで、イソコンの機能等が十分に理解されていたとは思われず、原子力事業者として極めて不適切だった」。
事故の検証を行ったアメリカの原子力発電運転協会は「イソコンに関する詳細な知識の不足が、適切に運転しているか否かの診断を困難にした可能性がある」とそれぞれ指摘しています。

経験者不在はなぜ?
ではなぜ、発電所内に重要な冷却装置を動かした人がいないという状態に陥ったのでしょうか。

1号機で過去にイソコンが起動するようなトラブルはなかったのか、公表されている情報を調べたところ、原子炉が緊急停止するなどして原子炉の圧力が高まるケースは何度か起きていました。しかし、いずれもイソコンが起動したという記録はなく、その代わり、原子炉の圧力を下げる「逃がし安全弁」と呼ばれる別の機器で対応していました。

どういうことなのか。東京電力関係者への聞き取りや情報公開請求などで取材を進めた結果、1981年、1号機で、「逃がし安全弁」が先に作動し、イソコンは自動で起動しにくくなるような設定変更が行われていたことがわかりました。

東京電力は、この当時、逃がし安全弁に国産の技術が導入され、弁の信頼性が向上したと説明していますが、イソコンより逃がし安全弁を優先した理由については、記録がなく、確認できないとしています。
イソコン“ためらう装置”

このときの設定変更の理由は確認できていませんが、イソコンをめぐる当時の状況について、1998年から福島第一原発の所長も務めた、ビジネス・ブレークスルー大学の二見常夫教授は、次のように述べています。
「イソコンは、万一損傷などが生じると放射性物質を外に漏らすおそれがあることや、作動するとごう音とともに大量の蒸気を出すため、周辺住民に不安を与えるとして動かすことをためらう装置だった」。

さらに、1号機が運転を開始した1971年から数年は、実際にイソコンを起動させる試験を行っていたこともわかりました。1973年に入社し、イソコンの起動試験にも立ち会った東京電力元技術者の北山一美さんは「大きな音や大量の蒸気で住民を驚かさないよう、イソコンの試験は深夜に行っていた」と証言しています。しかし、1974年以降、イソコンの起動試験を行った記録や証言は途絶えます。1981年の設定変更もあってイソコンはトラブルがあっても作動することはなくなり、いわば“封印”されたような状態になっていったと考えられます。
イソコン再び動きやすく
この“封印”は奇しくも原発事故の前年、2010年に解かれます。
きっかけは2009年2月に起きたトラブルでした。1号機の設備の不具合で原子炉の圧力が上昇。設定どおり、逃がし安全弁が自動で作動しましたが、原子炉が緊急停止する圧力に達せず、結局、運転員が手動で原子炉を止めることになりました。東京電力はこのトラブルを重く見て、安全対策を見直し、2010年、こんどはイソコンが逃がし安全弁より先に作動するよう設定変更したのです。
実際に動かす試験行われず
しかし、実際に動かす試験はこのあとも行われませんでした。
これについて東京電力は「イソコンは、損傷などが生じると放射性物質を外に漏らすおそれがある」とし、研修などで知識を習得していたとしています。
事故のあと公表された1号機の事故対応の手順書には2010年の設定変更履歴の記載はあるものの、具体的な対応を記した本文が見直された形跡は見あたりませんでした。
結局、イソコンを動かした経験のある人が現場に誰もいない状態で事故を迎えていたのです。
見えてきた教訓は
2010年の設定変更は、当時の規制当局、原子力安全・保安院に届け出がありましたが、保安院も、実際にイソコンを動かす試験を求めてはきませんでした。
原子力工学に詳しい法政大学の宮野廣客員教授は「装置は実際に使ってみないと使えないもので、こうした経緯が事故の拡大を防げなかった背景となった可能性がある。今後の教訓として、ほかの安全設備についても試験や訓練のあり方を見直す必要がある」と話しています。

いまある国内の原発にイソコンはありませんが、宮野客員教授など専門家が指摘するのは、ほかの原発にも安全上重要でありながら、実際には動かしていない設備があるということです。

例えば、原子炉を冷却するため手段として全国に配備が義務づけられた消防車について、原子炉への注水訓練は行われているものの、事故を想定したときに確実に原子炉に水は届くのか、あるいはどれくらいの水が入るのか確認しておく必要があるといいます。

また、緊急時に格納容器の圧力を下げるベントと呼ばれる操作を行うには、ラプチャーディスクと呼ばれる金属製の膜を破らなければなりませんが、福島第一原発2号機ではベントが成功したかわからなかったことから、実際に一定の圧力をかけて破れることを調べておく必要もあるとしています。

こうした安全設備について、原子力規制庁はNHKの取材に対し、「実際に装置を動かす試験にあたっては慎重な検討が必要だが、アメリカは原発の運転中に実際に動かす試験を行っており、リスクも踏まえながら調査・検討したい」とコメントしています。

動かすリスクをおそれるあまり、いざというときに生かすことができなかったのではないか。動かすリスクがあるという原発の重要設備の試験を今後、どう考えていくのか、難しい問いを投げかけています。

科学文化部
岡本賢一郎 記者

科学文化部
国枝拓 記者
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http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_0321.html


http://www.asyura2.com/16/genpatu47/msg/704.html

[政治・選挙・NHK222] 英科学雑誌 日本の科学研究の失速を指摘 予算削減、深刻 留学 学生数も減少 研究不正 新たに30件省庁間天下バータ疑惑

英科学雑誌 日本の科学研究の失速を指摘 予算削減、深刻 米留学 学生数も減少

3月23日 4時36分

世界のハイレベルな科学雑誌に占める日本の研究論文の割合がこの5年間で低くなり、世界のさまざまな科学雑誌に投稿される論文の総数も日本は世界全体の伸びを大幅に下回ることが、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」のまとめでわかりました。
「ネイチャー」は、「日本の科学研究が失速し、科学界のエリートとしての地位が脅かされている」と指摘しています。イギリスの科学雑誌「ネイチャー」は、日本時間の23日未明に発行した別冊の特別版で日本の科学研究の現状について特集しています。

それによりますと、世界のハイレベルな68の科学雑誌に掲載された日本の論文の数は、2012年が5212本だったのに対し、2016年には4779本と、5年間で433本減少しています。

また、世界のハイレベルな68の科学雑誌に掲載された日本の論文の割合は、2012年の9.2%から2016年には8.6%に低下しています。

さらに、オランダの出版社が集計した、世界のおよそ2万2000の科学雑誌に掲載された論文の総数は、2005年から2015年にかけての10年間で、世界全体では80%増加した一方で、日本の増加は14%にとどまり、日本は世界全体の伸びを大幅に下回っています。
特に、日本が以前から得意としていた「材料科学」や「工学」の分野では、論文の数が10%以上減っているということです。

こうした状況について、「ネイチャー」は、「日本の科学研究がこの10年で失速し、科学界のエリートとしての地位が脅かされている」と指摘しています。

その背景として、ドイツや中国、韓国などが研究開発への支出を増やすなか、日本は大学への交付金を減らしたため、短期雇用の研究者が大幅に増え、若い研究者が厳しい状況に直面していることなどを挙げています。

「ネイチャー」は、特集記事の中で、「日本は長年にわたり科学研究における世界の第一線で活躍してきたが、これらのデータは日本がこの先直面する課題の大きさを描き出している。日本では2001年以降、科学への投資が停滞しており、その結果、日本では高品質の研究を生み出す能力に衰えが見えてきている」と記し、長期的に研究に取り組める環境の整備が求められるとしています。

米留学 学生数も減少
論文の発表数が最も多い、世界最大の科学大国アメリカに留学する学生の数でも日本は減少の一途をたどっています。
アメリカの教育関連の非営利組織「国際教育研究所」によりますと、日本から
アメリカへの留学生の数は、1994年度から1997年度にかけては国別で1位で、ピーク時の97年度には4万7073人でした。
しかし、2005年度に3万8712人と4万人を切って以降、大幅な減少が続き、2015年度には1万9060人まで減り、国別で9位と、中国やインド、サウジアラビアや韓国などよりも少なくなっています。

減少の原因について「国際教育研究所」は、日本の少子高齢化や留学の期間と、日本の就職活動の時期とが合わないことなどを挙げています。

一方で、急速に留学生の数を増やしているのが中国で、アメリカへの留学生の数で1998年度に日本を抜いて1位になって以降、ほぼ増加の一途をたどっています。一時はインドに抜かれたものの、2009年度に12万7628人と10万人を超えて再びトップとなり、昨年度は32万8547人と、アメリカへの留学生全体の31.5%を占めるに至っています。
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事務連絡)「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に基づく取組状況に係るチェックリスト(平成29年度版)の提出について(依頼)(平成29年2月10日)

事務連絡

平成29年2月10日

関係各研究機関代表者 殿

文部科学省科学技術・学術政策局

人材政策課研究公正推進室

「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に基づく取組状況に係るチェックリスト(平成29年度版)の提出について(依頼)

文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)(以下「ガイドライン」という。)を策定し、各研究機関に対し、ガイドラインを踏まえた厳格な対応を要請しているところです。
文部科学省では、ガイドラインを踏まえた体制整備等の取組状況を把握するため、文部科学省又は文部科学省が所管する独立行政法人から配分される競争的資金を中心とした公募型の研究資金(以下「競争的資金等」という。)に応募する研究機関等に対し、平成28年度より、「「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に基づく取組状況に係るチェックリスト」(以下「チェックリスト」という。)の提出を求めているところです。
平成29年度については、より広範にガイドラインを踏まえた体制整備等の取組状況を把握するため、これまでに競争的資金等に応募している研究機関のみでなく、基盤的経費等を含めた文部科学省の予算の配分又は措置により研究活動を行う全ての研究機関に対し、チェックリストの提出を求めることとしますので、チェックリスト(平成29年度版)の提出をお願いします。
なお、文部科学省の予算の配分又は措置による研究活動を一切行っていない研究機関についても、本事務連絡の発送を受けた場合には、文部科学省の予算の配分又は措置で研究活動を行っていない旨、チェックリスト(平成29年度版)の一部を提出することで御連絡ください。
上記の詳細や平成29年度版様式のダウンロードの方法については、別紙に記載していますので、必ず別紙を御確認の上、提出をお願いします。
なお、本チェックリストについては、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成26年2月18日改正)に基づく「体制整備等自己評価チェックリスト」とは異なりますので御注意ください。

「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に基づく取組状況に係るチェックリスト(平成29年度版)記入・提出要領 (PDF:219KB) PDF
府省共通研究開発管理システム(e-Rad)ポータルサイト(※e-Radポータルサイトへリンク)
http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/1382387.htm

 


 2017.3.18 21:11
【文科省天下り斡旋】新たに30件超の違法事案 省庁間で「天下りポスト」バーター取引の疑念も…


合同庁舎に掲げられた文科省の看板=1月、東京・霞が関
 文部科学省の組織的天下り斡旋(あっせん)問題で18日、新たに30件を超える違法な天下り事案が判明した。注目されるのは、文科省以外に他府省OBまで大学に斡旋していたことだ。「役所間で天下り先をバーター取引していたのではないか」。霞が関全体で天下り先が減少する中、そうした疑念を指摘する声も上がっている。

 文科省の調査で今回、外務省の退職者からも経歴情報を受け取り、大学側に伝えていたことが判明した。外務省をめぐっては、大使ポストを歴任した元外交官が昨年4月、東京外国語大特任教授に就任し、その採用過程で文科省が大学側に人物紹介したことが明らかになっている。このケースも、職員による斡旋を規制した国家公務員法違反の事案に含まれるとみられる。

 文科省以外に他省庁OBが大学教授に就任することは珍しくなく、東京外大のケースは氷山の一角とみられている。民進党議員は2月の衆院予算委員会で、文科省の事務次官経験者が大使として転任している事例をあげた上で、天下り先をめぐる文科省と外務省との「バーター(取引)ではないか」と追及する一幕もあった。

 また、別の民進党議員は1月の参院代表質問で、文科省などの府省庁を検査対象とする会計検査院のOBが大学や学校法人などに再就職している事例を挙げ、「文科省などが検査院OBに指定ポストを斡旋しているのではないか」と質問した。天下り先が比較的少ない検査院に各省庁が指定ポストを提供する見返りに、検査への手心を期待しているのではないか-との疑いがあるためだ。

 安倍晋三首相は検査院職員が検査対象の府省庁や団体に再就職している場合でも、「厳正な検査を実施している」と答弁し、問題はないとの考えを示した。

 省庁間で天下り先の指定ポストを融通し合うような状況について、ある省庁幹部は「天下り規制の強化により霞が関全体で天下りポストが減少する中、省庁が裏で取引しながら天下り先のポスト確保に動いているのではないか」との見方を口にした。
http://www.sankei.com/affairs/news/170318/afr1703180043-n1.html

http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/772.html

[医療崩壊5] “がん後遺症” 社会復帰を阻む壁 日本人の2人に1人がかかるといわれるがん 
“がん後遺症” 社会復帰を阻む壁
3月22日 21時00分
日本人の2人に1人がかかるといわれるがん。医療の進歩によって患者の生存率は飛躍的に向上していますが、がんが治ったあといざ社会復帰をしようとすると大きな壁に阻まれることが多い実態をご存じですか。”がんの後遺症”です。手術や抗がん剤などの治療を受けたあとに体が動かしにくくなったり、手足の激しい痛みやしびれが出たりして、仕事や生活に深刻な影響を及ぼします。後遺症の予防や治療には、「がんのリハビリテーション」が有効だとされていますが、医療の制度や態勢に課題があり、リハビリが必要なのに受けられない患者は少なくありません。がんを経験したいわゆるがんサバイバーは国内で推計500万人。がん経験者の社会復帰のために今何が求められているのか取材しました。
結婚指輪が着けられない

「外せなくなると指輪を切らなければいけなくなると言われたので、怖くなってしまって・・・」
千葉県に住む芹川和子さん58歳です。9年前、乳がんと診断されました。手術は成功しましたが、退院後、がんの後遺症の1つ、「リンパ浮腫」に苦しんできました。

「リンパ浮腫」の症状は、ひどいケースでは手足が曲げられなくなるほど太くなる激しいむくみが特徴で、悪化すると痛みや高熱などの炎症反応が出ることもあります。がんの転移を防ぐために手術でリンパ節を切除したり、放射線治療の影響でリンパの流れが滞ったりすることで治療後しばらくしてからおこることが多いと言われます。

芹川さんもがんの再発を防ぐために抗がん剤や放射線治療を受けましたが、その後、リンパ浮腫の症状が出始めました。「リンパ浮腫」は、一度、発症すると治りにくく、悪化すると長期間安静が必要になることもあるため、退院後、社会復帰を目指そうとするがんサバイバーにとって、深刻な影響を与えるがん後遺症です。芹川さんの場合、左腕全体が腫れあがる症状が繰り返しあらわれるようになり、お風呂に入るとき以外は左腕の付け根から手のひらまで包帯などを何重にも巻いて過ごさなければならならなくなりました。英語の塾講師をしていた芹川さんは、抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けてしまったつらい時期にもかつらをかぶり、英語の力を落とさないよう英会話学校に通っていました。しかし、「リンパ浮腫」の症状がいったんあらわれると、1か月以上続くことも少なくなく、一時は仕事に復帰したものの、結局、辞めざるを得なくなったといいます。

芹川さんは「当初は治療を終えることで頭がいっぱいで、後遺症のことまで考えていませんでした。治療が終わり、仕事ができるかもしれないと思って復帰したら症状が出てしまいました。いろいろなことにだんだん消極的になってしまいとてもつらいです」と思いを語ってくれました。
リハビリが拠点病院でさえ受けられない
がん患者の社会復帰を妨げるがん後遺症。実は、退院後にリハビリテーションをしっかり行えば、症状が出るのを大幅に抑えることができるとわかってきています。

日本リハビリテーション医学会が4年前の平成25年にまとめた国内初のガイドラインには、がんのさまざまな後遺症にリハビリがどの程度効果があるか紹介されています。

例えば、芹川さんが苦しんでいる乳がんのあとのリンパ浮腫については、柔軟体操やマッサージなどのリハビリを継続して受ければ、発症のリスクを7割以上減らせる事が紹介されリハビリの実施が強く推奨されています。

また、肺がんや大腸がんなどの患者も退院後のリハビリを継続的に行うことで手術後に続く手足の痛みやしびれを抑えたり、治療後に起こる肺炎などの合併症の発症リスクを下げたりする効果があることも紹介されています。

しかし、日本ではこの社会復帰に重要なリハビリがなかなか受けられない実態が初の調査でわかってきました。慶応大学の辻哲也准教授ら日本医療研究開発機構の研究班は、がんのリハビリの実施状況を調べようと、全国に427あるがん拠点病院を対象にアンケート調査を実施しました。

がん拠点病院は、全国どこでも質の高いがん医療を提供できるよう国と都道府県が設置したもので、地域のがん医療の中心となっている医療機関です。

ところがアンケートの回答を寄せた188のがん拠点病院のうち、退院後、外来でリハビリが行われていたのは45病院のみ。4分の1しかありませんでした。実施できない理由として最も多かったのは、保険診療の対象外となっているで65.5%、次いで、担当する医療スタッフの不足が56.4%、などとなっていました。

がんのリハビリを巡っては去年12月のがん対策基本法の改正でも、患者の状況に応じた良質なリハビリを提供できるよう、国や自治体に求める内容が新たに加えられています。

調査を担当した辻准教授は「拠点病院であっても態勢が十分でないことは重く受け止めるべきだ。がん患者の社会復帰には、外来での長期的な支援が重要で国は早急に診療報酬など制度を改善してほしい」と話しています。
患者独自の取り組みも
こうした状況の中、自らの力で少しでもがん後遺症をよくしたいと取り組みを始めた患者たちがいます。

東京・江東区にある、がん研有明病院。ここでは、手足の痛みやしびれが何年も続くなどがんの後遺症に苦しむ患者らが患者会を作り、定期的に集まっています。この日は、リンパ浮腫のむくみを抑えるために腕や足を上げ下げする体操などをゆっくりとした動作で30分ほどかけて行いました。

会を立ち上げたのは、9年前に乳がんと診断されたあとリンパ浮腫の後遺症に苦しみ続けてきた広瀬真奈美さん(54)です。

医師からは、後遺症の予防には適度な運動が有効だと言われたものの、どんな運動をどれくらいすればいいのかわからず途方に暮れました。
専門家の元でリハビリを受けたいと病院を訪ね歩きましたがいずれも「がん患者のリハビリはできない」と断られたといいます。広瀬さんは「がんは治っても後遺症があると社会復帰が難しいのに、そのための支援が無い状況に愕然としました。仕事も子育てもあるのにどうやって生活していけばいいのかと本当に不安に感じた」といいます。

このままでは、同じような悩みに直面するがん患者が増えるばかりだと、広瀬さんは、医師や看護師それに理学療法士などに協力してもらい、がん患者のための運動プログラムを作成。現在は、患者会の集まりのほか、都内のスポーツクラブなどでがん患者のためのさまざまな運動教室を運営するようになっています。

広瀬さんは今、がん患者がリハビリを受けにくい実態について次のように訴えています。「患者さん個人の症状に合わせた運動プログラムを組むことができないなど私たちができることは限られています。がんサバイバーは今後も増えていきますし、私たちはがんが治ったあとも生きていかなければなりません。治療のあともがんサバイバーの社会復帰を支えてくれるよう医療が変わってくれることを願っています」

がんのリハビリの実態調査を行った慶応大学の辻准教授の研究班では、全国にがんのリハビリが広がる下地を作ろうと、がんの種類ごとにどんなリハビリの効果が高いか具体的なプログラムを検証する研究を始めています。がんサバイバーが急増する中、がん対策基本法の基本理念である「がん患者が安心して暮らすことのできる社会」を実現するために国をあげた取り組みが求められます。

辻准教授らの研究班 ホームページ
http://www.jascc-cancer-reha.com/

キャンサーフィットネスのホームページ
http://cancerfitness.jp/
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_0322.html?utm_int=detail_contents_tokushu_001 


http://www.asyura2.com/16/iryo5/msg/575.html

[社会問題9] 米人気子ども番組「セサミストリート」に自閉症の新キャラクター  「自閉症の君が教えてくれたこと」 
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170322/K10010920951_1703222129_1703222138_01_02.jpg
米人気子ども番組「セサミストリート」に自閉症の新キャラクター
3月22日 21時13分
自閉症への理解を深めてもらおうと、アメリカの人気子ども番組「セサミストリート」に、来月から自閉症の女の子のキャラクターが新たに登場することになりました。
アメリカの人気子ども番組「セサミストリート」は、1969年の放送開始以来、150を超える国や地域で放送されていて、読み書きだけでなく、人種や障害など幅広いテーマを番組で取り上げてきました。

番組を制作するNPOは、自閉症の子どもを育てる家族から要望が寄せられたことをきっかけに、5年前から専門家の助言も受けて準備し、来月から自閉症の女の子のキャラクターが新たに番組に登場すると発表しました。
NPOによりますと、「ジュリア」という名前の4歳のキャラクターは、ぬいぐるみや歌が大好きで、たくさんの歌詞を克明に記憶しているなど、自閉症の特徴も表現しているということです。

保健当局によりますと、臨機応変なコミュニケーションや対人関係を築くのが苦手な自閉症などと診断された子どもはアメリカでは去年、68人に1人と、2000年の倍近くに増えたということです。

アメリカ最大の自閉症支援団体の女性は、「新しいキャラクターの登場で、子どもたちが自閉症をこれまでとは違う視点で見てくれるようになると思う」と話しています。
関連リンク
NHKスペシャル 「自閉症の君が教えてくれたこと」NHKオンデマンド 12月11日
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170322/k10010920951000.html


 
 「自閉症の君が教えてくれたこと」

※この番組は字幕表示があります

朗読 : 三浦春馬
語り(語り手) : 滝藤賢一 、ayako HaLo

重度の自閉症である東田直樹さんは、人と会話をすることはできないが、文字盤を使えば豊かな表現力を発揮する。世界的にもまれな存在である。24歳になり、プロの作家となった東田さんは、自閉症のみならず、さまざまなハンディを抱える人たちがどう幸せを見つけていけばいいのか、エッセーや小説を書いている。前回の番組後、ガンを患い、自らもハンディを抱えることになったディレクターの視線で描く感動のドキュメンタリー。

2016年放送
(C)NHK

この番組についてのご注意
この番組は、高画質のHD版の視聴が可能です(PCのみ)。コントローラーの画質選択ボタンで「HD」を選択して、全画面表示でご覧ください。(通信環境などにより、HDでご覧いただけない場合もあります。)
http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2016074520SA000/index.html?
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/777.html

[国際18] 中国による経済的制裁にもろいのはどこの国だ トラ相場下火 原油下落 ブラジル食肉不正、菅「直接影響ない」世界的供給不足へ
【インサイト】中国による経済的制裁にもろいのはどこの国だ
Tom Orlik (BI Economist)、Justin Jimenez (BI Associate)
2017年3月23日 13:12 JST

中国のアジア地域での権益は拡張している。国内総生産(GDP)も域内のどの国よりも規模が大きい。これらを合わせると中国には、国家安全保障上の目的を達成するため行使できる恐るべき多数の経済的手段が備わっていることになる。
  この点にごく最近気付いた国が韓国だ。米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に合意した同国は、中国からの経済的制裁に見舞われた。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)エコノミクスの分析に基づくと、中国の圧力に最ももろいのは韓国やマレーシアなどで、相対的に強いとみられるのは日本とベトナムだ。

中国の経済的制裁によるリスク評価マップ 出所:ブルームバーグ・インテリジェンス
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ixWNEYRq6R5w/v2/1200x-1.png

  
  東アジアを見渡すと、韓国、日本、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、ベトナムが中国との間で安全保障あるいは領土を巡る紛争を抱えている。どの国・地域が中国からの提案を受け入れたり引き下がる可能性が高いのか。この答えを探るため、BIエコノミクスは貿易、観光、投資、失業の4項目の指標からランク付けを試みた。
貿易
• 中国が輸入制限すれば、同国との貿易黒字が対GDP比で大きい国が打撃を受ける。韓国のその割合は6%、マレーシアが7%で最も高いようだ。対中国でかなりの貿易赤字となっているベトナムは最も安全だ。とはいえ、中国は特定の製品に輸入制限を課す可能性がある。韓国がTHAAD配備に備える中、中国は健康と安全性の懸念などを理由に化粧品から温水洗浄便座に至る韓国製品の輸入を禁じた。
観光
• 中国の中間層の拡大によって、域内の各国では中国からの観光客が重要な収入源となりつつある。中国人観光客のキャンセルでどんな状況になるのかを韓国は今、目の当たりにしている。国内の人口に対する中国人の年間訪問者数で考えると、お隣の台湾と韓国がこのリスクに最もさらされている。これに対し、中国人観光客の割合が最も低いのはフィリピンだ。
投資
• 中国のアジア投資ポートフォリオは膨らんでいる。東南アジアでは中国の「一帯一路」構想に賛同する国にゲームチェンジャーとなるような投資が供与されることもあり得る。対GDP比で中国からの直接投資のストックが最も大きいのはベトナムであり、プロジェクトのパイプラインが干上がれば影響は最も大きい。これと対照的なのは、自国で進んだインフラを持ち、歴史的に中国との問題を抱える日本だ。
失業
• 失業率が低い国は相対的に、中国による経済上の脅しあるいは約束に対して抵抗力があるだろう。失業率が高い国は反応しやすいかもしれない。域内で深刻な失業率に苦しむ国はないので、この点では比較的強いようだ。
  このリスクランキングは、中国の経済的制裁のリスクに最もさらされている国を決定的に示すものではない。歴史的データに基づくランキングでは、将来起こり得るシフトの把握はもちろんできない。また例えば、企業のリスクという問題は簡単な数字で捉えることが困難だ。韓国のロッテグループはTHAAD配備に向けて土地の提供に合意した後、中国でごうごうたる批判を受けている。
  データ中心のアプローチには限界がある。だがそうであっても、安全保障上の利益のために中国が経済的手段を使った力の誇示を一段と図りつつあるようにみえる現在、このリスクランキングは第一の手掛かりを提供してくれるだろう。
原題:ASIA INSIGHT: China’s Economic Sanctions, Mapping Who’s At Risk (抜粋)
翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先:
東京 角田 正美 mkakuta@bloomberg.net
翻訳記事に関するエディターへの問い合わせ先:
東京 蒲原桂子 kkambara@bloomberg.net

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON8WEF6S972A01

 

 

トランプ政権が保守派支持求めヘルスケア法案の見直し検討
Bloomberg News
2017年3月23日 07:55 JST 更新日時 2017年3月23日 10:23 JST

保守派の自由議員連盟は10項目の保障内容を義務付けた規定に反対
この規定の修正について政権と下院議員が議論している−当局者

共和党ヘルスケア法案の下院採決が迫る中、ホワイトハウスは同案の通過を確実にするため、法案への反対姿勢を崩さない議員の取り込みを狙い、法案見直しについて下院の保守派と協議している。
  事情に詳しいホワイトハウス当局者によれば、下院議員とトランプ政権当局者は、保険プランに10項目の保障内容を盛り込むよう義務付けた米医療保険制度改革法(オバマケア)の規定を共和党案で修正することを議論している。同当局者によると、この規定の修正を求めている共和党保守派の下院議員から成る「下院自由議員連盟」の議員らが23日にホワイトハウスを訪れる予定。下院は同日の法案採決を予定している。
  下院自由議員連盟を率いるマーク・メドウズ議員は22日、記者団に対し、事態が動く兆候が見られると発言。「本当に進展が見られるかもしれないと非常に心強く感じている」と語った。
原題:Trump Discusses Changes to Health Bill to Win Over Conservatives(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-22/ON8NOO6KLVR601


 


トランプ相場は下火に、ドル上昇分ほぼ削る−弱気センチメント増勢
Lananh Nguyen、Robert Fullem
2017年3月23日 11:06 JST

• オプションのリスクリバーサル、ドル強気センチメントの転換示唆
• ドルを売る「根拠は一段と説得力を増した」−UBSのボルツ氏

ドル弱気派が不利な形勢を脱しつつある。
  22日の外国為替市場でドルは昨年11月以来の安値を付け、オプション市場はユーロと円に対して投資家がドルに一段と悲観的になっている状況を示唆する。いわゆるトランプ相場の形成でドルは上昇してきたが、経済成長後押しの政策が具体化しない中で値上がり分はほとんど削られた。UBSのウェルスマネジメント部門は対ユーロでのドル売りを勧め、為替取引で世界2位の規模を誇るJPモルガン・チェースは顧客にドル強気ポジションを短期的に解消するよう助言した。
  UBSの為替ストラテジスト、コンスタンティン・ボルツ氏はドルをショート(売り持ち)にする「根拠は一段と説得力を増した」と発言。昨年11月の米大統領選でのドナルド・トランプ氏当選以降のドルに強気な市場コンセンサスは、トランプ政権の政策やその効果をめぐり疑問が浮上する中で「どんどん変化しつつある」と付け加えた。UBSはユーロが向こう半年で1ユーロ=1.15ドルまで上昇すると予想。対円ではドルが110円を下回る水準に下落するとみている。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iBgT8KM01XZ0/v2/-1x-1.png

  ドルは年初来で約3.7%下落。トレーダーらは米国の財政刺激策の詳細や利上げの道筋がはっきりするのを待っている。その前の4年間は米経済が金融危機から立ち直り利上げが開始される中で上昇基調にあった。
  オプション市場では、ドル上昇に備えるコストが低下しつつある。ドルの見通しが悲観的になっているためだ。市場センチメントを示す指標のリスクリバーサルは、ドル強気からの転換を示唆している。
原題:Trump Trade Becomes Chump Trade as Bullish Dollar Bets Sour (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON8SSH6S972C01 

 


原油は下落するとの見方−米シェールオイル増産とOPEC不透明感で
Joe Carroll、Bailey Lipschultz
2017年3月23日 11:40 JST

「原油在庫多過ぎ」、強気見通し維持困難:リンチ社長
チューダーは2018年の原油価格見通しを下方修正、増産予想で

原油市場を担当するアナリストらは、原油価格見通しについて強気姿勢を後退させている。世界の在庫が縮小しない可能性が示される中、原油価格は2週間足らずの間に約10%下落した。
  ヒューストンを拠点とする投資銀行チューダー・ピッカリング・ホルト・アンド・カンパニー・インターナショナルは22日、北米の指標原油ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の2018年の見通しを13%引き下げ、1バレル=65ドルとした。その理由は、米国の原油生産が日量120万バレル増加すると予想しているからだ。これは従来予想を50%上回る。
  石油輸出国機構(OPEC)による原油減産がどれくらいの期間続くかを巡る不透明感に加え、米国の原油増産により世界的指標の北海ブレント原油価格は1月3日以降、約7ドル下げている。現時点での問題は、今後もこれほどのペースで生産が伸びる余地があるか、そして、価格は下落するかどうかだ。
  ストラテジック・エナジー・アンド・エコノミック・リサーチ(マサチューセッツ州)のマイケル・リンチ社長は「原油在庫が多過ぎる。市場は再均衡すると言われ続けているが、その証拠は見当たらない。強気姿勢を維持するのは難しい」と述べた。
  
原題:Oil Price Forecasts Falling on Shale Revival, OPEC Uncertainty(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON8X296S972A01

 


ブラジルの食肉不正 官房長官「直接の影響ない」
3月22日 12時36分
菅官房長官は記者会見で、ブラジルで衛生基準を満たしていない食肉や加工品が国内外で販売されていたことについて、捜査対象となった施設からの食肉の輸入手続きを保留しており、日本に直接影響を与えるものではないという認識を示しました。
ブラジルでは、政府の検査官に賄賂を払って検査を免れ、衛生基準を満たしていない食肉や加工品を国内外で販売していたとして、食肉加工業者21社が捜査当局による捜索を受けました。

これについて、菅官房長官は午前の記者会見で、「わが国としても、日本にあるブラジル大使館を通じて得た情報をもとに、きのう夜の時点で捜査対象となった21施設すべてについて、輸入手続きを保留している」と述べました。

そのうえで菅官房長官は、「平成27年度におけるわが国の鶏肉の輸入量のうち、ブラジルからは43万トン輸入しているが、今回不正があったとされる21施設のうち、1つの施設からの輸入実績があるのみで43万トンのうち8900トンだ。日本に直接影響を与えるものではないと考えている」と述べました。

そして菅官房長官は、「しっかり注視していくとともに、引き続き、食の安全には、政府として全力で取り組んでいきたい」と述べました。
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ブラジル 衛生基準満たさない食肉販売で捜索 各国に影響3月22日 5時14分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170322/k10010920111000.html


ブラジル 衛生基準満たさない食肉販売で捜索 各国に影響
3月22日 5時14分
ブラジルの食肉加工業者が衛生基準を満たしていない食肉などを販売していたとされる問題で、農林水産省と厚生労働省は、ブラジルの捜査当局から捜索を受けた2社からの食肉の輸入手続きを21日から検疫の段階でいったん止める「保留」の措置を取り、日本国内に流通しないようにしています。
農林水産省によりますと、ブラジルは日本にとって鶏肉の主な輸入先で昨年度(H27年度)の輸入量は42万6000トンで鶏肉の輸入量全体のおよそ8割を占めています。

日本では鶏肉の消費量のおよそ3割を輸入に頼っているということですが、農林水産省は「今のところ鶏肉は国内に在庫があるため、直ちに大きな影響が出ることはないと見ている。ただ、今後、影響が広がらないかどうかブラジルでの捜査の状況など情報収集を進めていきたい」としています。

一方、大手商社の三菱商事によりますと、食肉の輸入手続きで「保留」の措置を受けたブラジルの2社のうち、1社と取り引きがあるということです。このため三菱商事は現在、現地からの情報収集を進めるとともに、輸入量や国内の流通に対する影響などについて調査しているとしています。
ブラジル 食肉加工業者21社が捜索受ける
ブラジルの捜査当局は今月17日、政府の検査官に賄賂を払って検査を免れ、衛生基準を満たしていない食肉や加工品を国内外で販売していたとして、大手食肉加工業者2社を含む21の食肉加工業者を捜索し、業者の担当者や検査官など合わせて30人以上を拘束して調べています。

捜査当局は2年前から捜査を進めていたとしていますが、衛生基準を満たしていない食肉などが、どれくらいの期間、どれだけの量、国内外で販売されていたかなど、詳しい内容は明らかにしていません。

当局は食肉加工場を閉鎖したり、スーパーの棚から製品を撤去したりしているほか、捜査対象となった21の業者の食肉や加工品の輸出を一時的に禁止する措置を取っています。

ブラジルは世界有数の食肉の輸出国で、テメル大統領は各国の大使を呼んで冷静な対応を呼びかけていますが、中国や南米チリがブラジル産の食肉の輸入を停止するなど、影響が広がっています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170321/k10010919591000.html?utm_int=detail_contents_news-related-auto_001

ブラジル食肉不正疑惑=ブラジル産食肉の輸入停止相次ぐ=火消しに必死のマッジ農相=捜査は拙速との批判の声も

2017年3月22日

ブライロ・マッジ農相(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)http://www.nikkeyshimbun.jp/wp-content/uploads/2017/03/fa5d231e606e418022a5dd9d66edd905-300x200.jpg

 【既報関連】17日に行われたブラジル連邦警察のカルネ・フラッカ作戦において明るみに出た、ブラジル食肉加工業界の品質検査不正疑惑は、世界中に波紋を引き起こし、ブラジル産の食肉の一部または全面輸入停止を表明する国が相次いだと20、21日付現地各紙・サイトが報じた。
 食肉の品質検査不正疑惑発覚直後にブラジル産食肉の輸入停止を発表したのは、欧州連合(EU)や韓国、中国、チリだ。EU、韓国、中国の2016年のブラジル産食肉輸入量は、ブラジルの食肉輸出量の27%を占める。
 ブライロ・マッジ農務相は、四つの国と地域が輸入停止を発表した直後に、連警の捜査対象になった21社に対し、輸出禁止措置をとった。連邦政府は、ダメージが国内全社に及ばないように取り組んでいる。
 テメル大統領は「一部の会社のせいで、ブラジルの農牧畜業全体の評判が落ちる事は避けねばならない」とし、ブラジルの食肉加工会社4837社の内、捜査対象になっているのは21社に過ぎないと強調した。
 その後、韓国は20日夜、ブラジル産の輸入鶏肉にはこれまで問題はなかったとして、輸入制限を課さず、検査の厳格化のみに止めると発表した。
 しかしその後も21日の午前には香港が、今回の捜査対象企業の肉であるか否かに関わらず、ブラジル肉の輸入停止を表明した。スイスはEUと歩調を合わせて、捜査対象企業限定での輸入停止を発表した。
 マッジ農相も「一部の食肉企業に不正の疑惑がかけられただけで、ブラジル産食肉全体が駄目だということにはならない」としたが、中国はすべてのブラジル肉の輸入を停止するとしている。
 農務省高官は21日夜にも中国サイドと電話会談を行い、状況説明を行う予定だと、同日付現地紙は報じている。マッジ農相も「21日夜の電話会談で、輸入停止の状況が少しでも改善する事を願っている」と語った。
 マッジ農相は19日、カルネ・フラッカ作戦には技術的な誤りがあると批判した。同作戦の捜査員は、捜査にはまだ公開できない証拠書類があり、作戦は今後も進展すると反論した。
 20日のTVニュースでは、カルネ・フラッカ作戦に関連する技術鑑定書は2通しかないと報道した。2年前に始まったとされる捜査は、主に肉の検査員と業者間の電話盗聴に基づいている。
 20日には、クリチーバの連邦裁判所判事が同作戦の捜査チームに対し、捜査の材料となった全ての鑑定書を21日までに提出するように命令した。
 なお、日本の農水省と厚労省は現地時間の22日、捜査対象になった2社からの輸入をいったん停止する措置をとった。
http://www.nikkeyshimbun.jp/2017/170322-22brasil.html


 

ブラジルの食肉不正問題、世界的な鶏肉供給不足につながる恐れ
Tatiana Freitas、Shruti Date Singh、Jonathan Gilbert
2017年3月23日 10:24 JST

食肉の安全性巡る取り調べ受け主要輸入国がブラジル産の輸入制限
不足分を補充することが可能な国は恐らくないとの見方も

鶏肉はどこか。世界の大手鶏肉輸入業者はそう問い掛けているかもしれない。世界最大の供給国であるブラジルからの鶏肉輸入を各国が禁止しているためだ。
  ブラジルの大手食肉加工会社の一部が製造する食品の安全性に関して取り調べが進められる中で、中国や韓国、メキシコなどの国々がブラジルからの輸入を制限した。ブラジルは世界の鶏肉輸出の約40%を占め、世界の鶏肉貿易に大きな穴が開いたままとなる可能性がある。
  折しも、ブロイラー鶏肉の世界2位の輸出国である米国で鳥インフルエンザが発生。韓国などの国々が米国産の輸入を制限していることから、競合する生産国が不足分を埋め合わせることができなければ、鶏肉供給が世界的に不足する恐れがある。
  インフォーマ・エコノミクス・グループFNP(ブラジル)のディレクター、ホセ・ビンセント・フェラス氏はサンパウロから電話インタビューに応じ、「米国が鳥インフルエンザの影響を受けている状況で、どの国が鶏肉輸出大国ブラジルからの供給の不足分を完全に埋め合わせることができるかを予測するのは難しい」と指摘。「現時点で可能な国は恐らくないだろう」と述べた。
  ブラジルが世界の鶏肉貿易に占める割合は今年、拡大すると予想されていた。鳥インフルエンザの影響が及んでいないブラジル産鶏肉の需要は、アジアや欧州、米国での鳥インフルエンザウイルス発生を受けて増加した。米農務省は昨年10月、中国が主導的な成長市場となるとの見通しを示している。ブラジルのペレイラ商工サービス相は、今回の食肉不正問題で主要食肉供給国としてのブラジルのイメージが打撃を受ける可能性があるとの見方を示した。
  
原題:Brazil Tainted-Meat Scandal Leaves the World Hungry for Chicken(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON8QW86S972A01
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/703.html

[国際18] 米国の移民制限でカナダに向かう有能な人材 トランプ相場変調、十の理由 ECB最後の長期オペ スイス中銀7.52兆円外貨買
Column | 2017年 03月 23日 15:38 JST
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コラム:
米国の移民制限でカナダに向かう有能な人材


 写真は、米国との国境を違法に越えてカナダのケベック州に入るスーダン出身とみられる家族。20日撮影(2017年 ロイター/Christinne Muschi)

Kate Duguid & Gina Ghon
[ニューヨーク/ワシントン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領の経済ナショナリズムでは、カナダという予想していなかった国が恩恵を受ける。米政権の移民制限により、高度な技術や専門知識を持つ有能な人材は今後、より寛大な受け入れ国カナダへと流れるだろう。
トランプ大統領は2月末に行われた初の議会演説で、カナダの移民制度を取りあげ、外国人のカナダ国内での経済的自立を確実にしている点を評価。専門知識や技術がない労働者を受け入れ対象とするより好ましいと述べた。カナダは移民申請でポイント制を採用している。自身の教育水準や英会話能力(仏会話能力)、職務経験など様々な項目で能力に応じ点数を加算して申請する方式。
カナダは、外国人の受け入れ拡大という、トランプ大統領とまったく逆の目標を達成するためにこうした制度を採用している。2013年の国勢調査によると、国内人口のうち外国で生まれた人が占める割合はカナダが20%なのに対して、米国は13%にとどまっている。
確かにトランプ大統領は、カナダのような能力ベースの移民審査に関心があるようだ。ただ、それ以上に大統領は、高度熟練労働者の受け入れ制限にこだわっているようだ。米政府は4月以降「H─1B」ビザの「優先手続き」を最長6カ月停止すると発表。「H─1B」ビザは、ITなど特定分野で高い専門性を持つ外国人が米国で就労する際に申請する一時就労ビザ。申請から発給まで通常だと数カ月かかるが、優先扱いだと15日以内で処理される。
米国の反移民政策は、高齢化社会における労働力不足に拍車をかける。ピュー・リサーチ・センターの試算によると、ベビーブーム世代の最も若い人たちが71歳に達する2035年までに、約820万人のベビーブーム世代が労働市場から撤退する。働く世代の移民は、その労働人口減少分の60%近くを補うことが可能。ただ、そうした人々が米国に入国できればの話だが。
カナダ政府は今月初め、海外の有能な人材を迅速に受け入れるため、6月に新たなプログラムを開始すると発表。労働許可申請手続きを平均2週間程度にするほか、高度な技術を持つ労働者の短期就労には労働許可書を必要としない方針。米国の「H─1B」保有者のカナダ受け入れを目指す狙いもある。
米国への移民制限を心配する米ベンチャーキャピタル、Yコンビネータは、バンクーバーの複数の新興企業創始者との面会を計画している。今後、リモートからのプログラム参加を試す計画という。他のハイテクやエンジニアリング分野の有望な人材は今後カナダに流れるだろう。そうなれば間違いなく米企業への打撃となる。
●背景となるニュース
*米国市民権・移民業務局(USCIS)は3月3日、IT業界が多く利用する米国の一時就労ビザ「H─1B」の優先的な手続きを一時的に停止すると発表した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

スライドショー:米国からカナダへ越境する移民たち

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A man who claimed to be from Sudan who kept saying "I just want to be safe" is told to stop by a Royal Canadian Mounted Police (RCMP) officer telling him "Stop, you are already in Canada" after he illegally crossed the U.S.-Canada border leading into Hemmingford, Quebec, Canada, March 20, 2017./Christinne Muschi
REUTERS/CHRISTINNE MUSCHI
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• コラム:米財務長官、株高でトランプ政権称賛は見当外れか 2017年 02月 24日
• コラム:物価高で窮地の英中銀、市場が助け舟も 2017年 03月 22日
• 視点:トランプ円安は幻想、進む「米国の日本化」=青木大樹氏 2017年 01月 23日
http://jp.reuters.com/article/column-us-canada-immigration-idJPKBN16U0H3?sp=true

 


 
Business | 2017年 03月 23日 12:22 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース

「トランプ政策迷走」だけでない、市場が慎重になる10の要因

[ロンドン 22日 ロイター] - 昨年11月の米大統領選以降、大躍進してきた世界の株式市場に陰りがでてきた。上げ相場の材料となっていたトランプ米政権の減税、インフラ投資、金融規制緩和の具体的な内容が示されないことに失望感が広がっている。

きっかけは、内政の最優先課題の一つ、オバマケア(米医療制度改革法)の改廃を巡る迷走。代替法案で、与党・共和党内の足並みが揃わず、通過のめどが立たない。

しかし、相場に影響を及ぼしているのはそれだけでない。以下に10の要因を挙げた。

1)金利

量的緩和(QE)やマイナス金利など、約10年にわたる超緩和的な金融政策の結果、世界はいまだにカネ余り状態にあるが、潮目は変わりつつある。米連邦準備理事会(FRB)は2回政策金利を引き上げ、さらなる利上げを想定。欧州中央銀行(ECB)は、政策金利の一つを予想よりかなり早く引き上げることを検討していることをほのめかしている。それが、たとえタンカーの進路変更くらい緩やかな動きだとしても、市場は神経質になっている。

2)イールドカーブ

米フェデラルファンド(FF)金利や短期金利が上昇しても長期金利は上昇しない──イールドカーブ(利回り曲線)の「平坦化」と称される長短金利差の縮小は、投資家が金利の大幅上昇を正当化するほど経済成長や物価上昇の勢いが強くないと考えていることを示唆し、しばしば成長鈍化やリセッション(景気後退)の前触れともされる。

3)銀行

イールドカーブの平坦化は、短期で資金を調達し長期で貸すことによって利ざやを稼ぐ銀行にとってマイナスだ。米大統領選後、長短金利差が拡大(イールドカーブのスティープニング)し、それで金融株が上昇し、相場全体を押し上げた。しかし、3月に入って金融株に陰りがでてきた。トランプラリーで30%上昇した米金融株は、ピークから10%値下がりしたが、さらに下がる可能性がある。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)の直近の運用担当者調査によると、銀行株はかなり買い持ちが積み上がっている。米金融株.BKXは21日、4%安と昨年6月以来最大の下げを記録した。

4)ポジション(持ち高)

BAMLの調査結果で注目されるのは、株価が過去17年で最も過大評価された水準にあるということだ。しかし、米大統領選後の上昇相場の長さを考えると、さほど驚くことでないとも言える。ダウ指数は42日かけて1000ドル上昇し2万ドルの大台に乗ったが、そこから2万1000ドルに到達するのは24日しかかからなかった。BAMLのマイケル・ハートネット氏は、株価の水準とポジションの状況から「3月/4月にリスクラリーが一服」するとみている。ポジションの偏りは、株だけでない。ドルがかなりロングに傾き、強気一色の様相を呈する一方、債券への投資資金配分はここ3年で最低だ。

5)相関性

いわゆる平時には、市場の動きには一定のパターンがある。ドルが上昇すると、原油などのコモディティ(商品)が下落、ドルが下げればコモディティが上がるといった具合だ。これは、コモディティがドル建てで取引されるためで、ドルとコモディティはしばしば逆の動きをみせる。しかし今週は、ドル、原油、銅、その他コモディティがそろって下落。相関あるいは逆相関関係の崩れは、投資家がリスクオフ姿勢になっていることを示唆する。

6)市場のマイルストーン

市場のムードが暗転し、資産市場が下落すると、節目的な水準が意識されるようになる。大台など、きりのいい数字もそうだ。

ドル指数は今週100.00を下回った。北海ブレント原油先物の50ドル割れ、米10年債利回りの2.50%割れなど、節目を突破ないし割り込むと、市場の転換点のシグナルと言われることが多い。持ち高が偏っている時は特にそうだ。

21日米株市場では、ダウとS&P500が米大統領選前の昨年10月以来、初めて1%以上下落した。恐怖指数と呼ばれるVIX指数が2カ月超ぶりの水準に上昇したのも当然といえる。

7)経済のサプライズ

世界経済が緩やかなペースで推移している間に、モメンタムが弱まっている可能性がある。米シティグループが算出している主要国の経済サプライズ指数は、概ね横ばいないし徐々に低下している。特に顕著なのが英国とユーロ圏のそれで、日本はマイナス圏に落ち込んだ。これは、想定されるトランプ政権の刺激策が与える経済へのプラス効果が薄れていることを示し、金融市場にとって好ましくない兆候だ。

8)ブレグジット(英国のEU離脱)

昨年6月の英国の欧州連合(EU)離脱決定は、とりあえず多くの専門家が懸念していた経済への大打撃をもたらさなかったが、状況は徐々に変わりつつあるようだ。英政府は3月29日に正式に離脱を通知するが、成長は減速しており、企業の投資は凍結、物価が大幅に上昇し実質所得が目減りしている。さらに、離脱が企業や市場に与える影響が不透明で、スコットランドでは独立の是非を問う住民投票を再度実施する機運が高まっている。

9)四半期末

カレンダーは重要な要因だ。投資会社、ファンド、銀行、その他市場参加者は毎四半期末に会計処理などの理由でポートフォリオや帳簿をお化粧する。第3・四半期末まで残すところ1週間となり、利益確定の動きを強めているとみられる。

10)バリュエーション

昨年11月の大統領選挙の日、S&P500指数の予想PER(株価収益率)は16.6倍から18倍超に上昇し、米株は2004年以降で最も割高となった。一方、同指数の配当利回りは2%強と、約2.4%の米10年債利回りに劣る。不透明感が広がる中、企業利益が伸びるかどうかが問題だ。

*見出しを修正して再送します。

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http://jp.reuters.com/article/global-markets-volatility-idJPKBN16U07G


 

Business | 2017年 03月 23日 15:53 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース

焦点:トランプ相場、オバマケア代替案否決で変調の恐れ

[ニューヨーク 22日 ロイター] - 米医療保険制度改革(オバマケア)代替法案が23日に議会下院で採決されるのを前に、株式市場の雲行きが怪しくなってきた。

トランプ政権が同法案を下院で通過させることができなければ、減税など成長押し上げ策の実現を巡る不透明感が高まり、「トランプ相場」が「トランプ・タントラム(かんしゃく)」に一変しかねない様相だ。

著名投資家でダブルライン・キャピタルを率いるジェフリー・ガンドラック氏は「代替法案が通過しないか、採決が延期された場合、トランプ相場の先行きには大きな疑念が生じる」と警告した。

昨年11月の大統領選でトランプ氏が勝利して以来、米国株が上昇してきたのは、同氏が掲げる経済政策を上下両院の過半数を制する与党・共和党が迅速に後押しするとの見立てからだったが、今やそうした期待は後退してしまった。

オバマケア代替法案で共和党内の足並みがそろわない状況を見た投資家は、他の政策でも同様の事態が起きると考えている。

ベテラン投資家として知られるブラックストーン・アドバイザリー・パートナーズのバイロン・ウィーン副会長は、特に減税案について新たなトラブルの種が出てくるようなら、株価は調整局面に陥りかねないとの見方を示した。

ウィーン氏は「(オバマケア代替法案を巡る)共和党内のごたごたが減税問題に影を落としている。減税は実質国内総生産(GDP)を上向かせる財政刺激策の柱とみなされてきたが、GDPが改善しなければ企業利益も増加せず、株式市場の足場はもろくなる」と指摘した。

ストラテジストは何週間も前から、市場がトランプ氏の経済政策には何も問題がないというシナリオを織り込む展開に警鐘を鳴らしてきた。折りしも、S&P総合500種の予想利益に基づく株価収益率(PER)は18.1倍と2004年以降の最高水準近くにある。

投資家やストラテジストの話では、8年続く強気相場が直ちに脅かされるとは見込まれないとはいえ、株価が5─10%下落するリスクはある。カンバーランド・アドバイザーズのデービッド・コトク最高投資責任者は「ミニ・タントラムのように見える。トランプ氏はオバマケア代替法案の下院採決に自らの命運がかかるようにしてしまった。もし下院を通過しないと市場はショックを受ける」と述べた。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ傘下のUS SPDR部門のマイケル・アローン最高投資ストラテジストは、代替法案が否決されれば、これまで株価が非常に短期間に急伸してきた点を踏まえると5%の調整は不合理な事態ではない、と説明した。

(Megan Davies、Rodrigo Campos記者)

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http://jp.reuters.com/article/usa-markets-trump-idJPKBN16U0BD?sp=true

 

スイス中銀:16年の外貨購入、7兆5200億円相当−フラン高の抑制図る
Catherine Bosley
2017年3月23日 16:20 JST

スイス国立銀行(中央銀行)は昨年、671億フラン(約7兆5200億円)相当の外貨を買い入れた。スイス・フラン高の抑制を図った。23日公表の年次報告書で明らかにした。
  2015年の外貨購入は861億フラン相当だった。年間最高額は12年の1880億フラン相当。スイス中銀は対ユーロでのフラン相場上限を15年1月に撤廃した後、フランの上昇圧力を抑えるためにマイナス預金金利も活用している。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iEDtLGZouWKM/v4/-1x-1.png

原題:SNB Spent 67.1 Billion Francs on Currency Interventions in 2016(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON99X36JTSEP01

 


ECB、最後の長期オペへ−焦点は出口の手順に、QEとマイナス金利
Alessandro Speciale、Andre Tartar
2017年3月23日 16:48 JST

欧州中央銀行(ECB)は23日、最後の条件付き長期リファインナンスオペ(TLTRO)の資金を割り当てる。景気改善で非伝統的政策からの脱却計画を求める声が高まる中、債券購入プログラムとマイナス金利に注目が集まることになる。
  ECBはフランクフルト時間午前11時半(日本時間午後7時半)に最後のTLTROの応札結果を発表する。ブルームバーグが実施した調査では、利用額の予想は300億−7500億ユーロ(約3兆6000億−90兆1000億円)と幅広い。中央値は1100億ユーロ。利用額によって、銀行がECBの今後の政策についてどう考えているかを垣間見ることができる。
  ブルームバーグの調査では債券購入プログラムの終了は2018年の半ばごろと予想されている。ECBは同プログラム終了後も相当期間、低金利を続けるとしているが、この期間の短縮や場合によっては順序の逆転もあり得るとの発言がECB当局者らから聞かれるようになっている。
  メリオン・キャピタルのエコノミスト、アラン・マケード氏は「今回は低コストの資金を4年間確保できる最後の機会なので当然、今までのTLTRO2よりも需要は多くなる。しかしECBがこれまでの想定より早く利上げをすることへの懸念が強まっていることで一段と需要が増えるだろう」と話した。
  ECBは当初のTLTROを14年9月に開始。さらに借り手に有利になったTLTRO2は昨年始まり、合わせて11回のオペで計5700億ユーロを供給した。TLTROはマイナス金利と債券購入プログラムと並ぶECBの景気刺激策の一つ。
  TLTROで借り入れられる額は銀行の融資ポートフォリオの規模に連動する。融資促進のこの政策は有効だったと、ブルームバーグの調査に答えたエコノミストの70%が回答した。
  政策パッケージが奏功しユーロ圏経済は15四半期連続で拡大、インフレ率も2%に達したが、ECBはまだ勝利宣言していない。プラート理事は先週、見通しは政策変更議論を促すようなものではないと述べた。
  それでも、出口戦略の議論は始まっており、債券購入とマイナス金利の解除の順序が9日の政策委員会で言及された。ノボトニー・オーストリア中銀総裁とビスコ・イタリア中銀総裁は現在のECBのフォワードガイダンスが変更される可能性について発言している。
  投資家もこれを認識し、現行マイナス0.4%の中銀預金金利が12月までに引き上げられる確率を50%以上織り込んだ。1カ月前には11%にすぎなかった。
ECBはQE終了から利上げまでの期間を短縮も−ビスコ氏

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原題:ECB Ending Four-Year Loans Makes Banks Focus on Stimulus Exit(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9BCD6JIJUO01

 


 
債券先物が続伸、米政策先送り懸念で買い継続−超長期はオペ後に売り
船曳三郎
2017年3月23日 08:09 JST更新日時 2017年3月23日 16:04 JST

• トランプ政権への失望感、過度な金利上昇の揺り戻しも−みずほ証
• 30年債利回りは0.81%と3週間ぶり低水準も、午後は上昇に転じる

債券市場では先物相場が上昇。トランプ米大統領の景気刺激策が先送りされるとの懸念からリスク選好ムードが後退しており、買い優勢の展開が続いた。一方、超長期ゾーンは日本銀行による今年度内最後の買い入れオペ実施後に売りに押される展開となった。
  23日の長期国債先物市場で中心限月6月物は前日比2銭高の150円44銭で開始。一時150円51銭と、中心限月ベースで2週間ぶりの高値を付けた。結局6銭高の150円48銭で終了した。

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  みずほ証券の辻宏樹マーケットアナリストは、「海外要因で基本的には底堅い展開だが、午後は上値が重くなった。トランプ政権に対する失望感と言えばそれまでだが、今まで金利が一気に上昇し過ぎた後の揺り戻しの面も大きい」と指摘。超長期ゾーンについては、「年度内は入札もオペもなくなり、年度末に向けて投資家の買いが入るかどうかだ」と述べた。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の346回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値と横ばいの0.055%で推移した。みずほ証の辻氏は、「直近レンジの下限付近で相場の上値は重くなるところ。10年金利は日銀に動きが抑制されている」と話した。
  米医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の下院採決を23日に控え、共和党の一部保守派議員が法案可決を阻んでおり、米財政刺激策の実施が先送りされるとの見方が強まっている。22日の米国債市場では10年債利回りが一時2.373%と2月28日以来の低水準を付けた。外国為替市場では一時1ドル=110円台後半まで円高が進んだ。
超長期ゾーンと日銀オペ
  超長期ゾーンでは、新発30年物54回債利回りが同1.5ベーシスポイント(bp)低下の0.81%と3週間ぶりの水準を付けた後、一時0.835%まで売られた。新発20年物160回債利回りも午後は売り優勢で0.5bp高い0.64%を付けた。新発40年物9回債利回りは1bp低下の1.01%。
  東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは、「季節要因も影響し、投資家の参加が乏しいと映る。超長期ゾーンの買い入れ結果次第では反落」と予想していた。
  日銀はこの日、長期国債買い入れオペを実施。残存期間「10年超25年以下」が2000億円、「25年超」は1000億円、「1年以下」は700億円、物価連動債は250億円と、いずれも前回から据え置き。運営方針によると、超長期ゾーンは今月の最終回。応札倍率は「10年超25年以下」が2倍台でやや上昇、「25年超」は3倍台で低下した。
アベノミクス懸念

安倍晋三首相

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images
  一方、この日の参院予算員会では森友学園理事長の籠池泰典氏の証人喚問が行われ、安倍昭恵首相夫人から寄付金100万円を受け取ったと証言した。みずほ証の辻氏は、「安倍政権の根幹が揺らぐような問題になれば債券市場にもネガティブだが、今のところ影響は限定的」と言う。
  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは、政治力・求心力の低下が深刻化すれば、次期日銀総裁のアベノミクス色後退⇒過度な金融緩和の是正⇒債券売りというシナリオも考えられると指摘した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-22/ON8NE86JIJUQ01 


http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/704.html

[経世済民120] 「黒田緩和の副作用だ」トランプ政策との狭間で右往左往する国内銀 アップル厳しい現実iPad衰退 グーグル広告停止危機拡大
「黒田緩和の副作用だ」トランプ政策との狭間で右往左往する国内銀
野沢茂樹、酒井大輔
2017年3月23日 00:00 JST

• 米大統領選挙を挟んで海外中長期債を買い越しから売り越しに
• 米国債運用、最大で約5.7%の損失となる試算も

日本銀行の黒田東彦総裁が4年前の異次元緩和導入時に期待した通り、国内金融機関は日本国債の運用を減らす一方で外債を増やしてきたが、トランプ政策期待をきっかけとした世界的な金利の上振れで雲行きが怪しくなっている。
  財務省の統計によると、国内勢は世界的に金利が低かった米大統領選挙前の約4カ月間に海外の中長期債を7兆2930億円買い越し、トランプ氏の当選後は今月上旬までの同期間に6兆5117億円を売り越した。米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの米国債指数はデータでさかのぼれる1997年以降での最高を記録した昨年7月から12月半ばにかけて約9.4%低下するなど、米国債の投資環境が悪化している。

トランプ米大統領と握手をするムニューシン米財務長官

Photographer: Kevin Dietsch/Pool via Bloomberg
  売り越しの主体は預金取扱機関だ。海外中長期債の売越額は11月から2月までに4兆5679億円と国内勢全体の売り越しを上回り、前年同期の1兆8213億円の買い越しから様変わりしている。外債の運用技術や体制が十分ではない中小の地方銀行や信用金庫などが利用する投資信託も4カ月間で3975億円売り越した。
  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「銀行勢は巨額の国債購入が必要な異次元緩和に約4年前の導入当初からオペでの売却という形で協力し、外債にシフトしてきた」と指摘。海外金利の急上昇に見舞われて売り越しを余儀なくされているのは「まさに黒田緩和の副作用だ。ポートフォリオ・リバランス効果と言うが、マイナス金利という過度の金融緩和が安全資産をなくし、むしろ金融システムリスクを高めてしまった」とみる。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iIU6f42nYAo8/v2/-1x-1.png
  

黒田日銀総裁

「日本銀行が長期国債を大量に買入れる結果として、これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸し出しを増やしていくことが期待される」。黒田総裁は異次元緩和の導入直後から、「ポートフォリオ・リバランス」効果を波及経路の一つに挙げてきた。しかし、トランプ米大統領が掲げる大規模な景気刺激策を先取りした米金利の急騰で、外債の運用環境は一変している。
  銀行勢は国内金利が20年債までマイナス圏に突入する中、海外の中長期債を昨年7月に今年度最大となる2兆6857億円買い越した。米10年物国債利回りは同月に1.3180%と過去最低を記録した後、12月に2.6394%に急騰。BOAメリルの指数によれば、この間に米国債を高値づかみして底値で売らされた投資家は約5.7%の損失を被った計算になる。
  米国の経済・物価情勢の改善を背景に連邦準備制度理事会(FRB)は先週、今局面で3回目の利上げを実施。年内の追加利上げも示唆している。米10年債利回りは14日に2.6277%まで上昇。ヘッジファンドなど大口投機家が先物取引で米10年債売越額を大幅に減らす中、今週は2.4%前後に下げているが、ブルームバーグの調査によると、市場関係者は来年3月末までに3%(中央値)に達すると見込んでいる。
  今月9日付の日本経済新聞朝刊は、金融庁が地銀の運用部門に焦点を当てた特別検査を実施すると報じた。遠藤俊英金融庁監督局長は同日の参院財政金融委員会で、特定の金融機関には立ち入り調査すると説明。地銀は低金利の国債に代わって外債などへの投資を膨らませているため、トランプ氏当選後の米金利上昇を受けた保有外債の価格下落が経営に与える影響などを調査するとしている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-22/ON7FBY6TTDS001


 


【インサイト】アップルが直面する厳しい現実−iPadは衰退の一途
Shira Ovide
2017年3月23日 14:21 JST

米アップルはようやく、タブレット型端末「iPad(アイパッド)」事業で現実に目を向け始めている。
  同社は21日、 アイパッド主力機種の廉価版の新型モデルを発売すると発表した。この機種の後継モデルが出るのは2014年後半以来となる。
  アイパッドの主力機種にとって、2年半という新モデル発売の間隔は極めて長い。ただ、この傾向はアップルのパソコン(PC)「Mac(マック)」事業でも取り入れられている。

販売台数の推移
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iAxDEfC7qo7Y/v1/-1x-1.png

 アイパッド主力機種の発売の間隔が空くのは低迷の兆しではなく、アップルと同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)が現実を認めていることを示している。クックCEOはかなり長期間にわたりアイパッドが成長事業だと主張してきた。 だが、実際にはそうでないことはあまりにも明白だ。
  アイパッドの販売台数は12四半期連続で減少している。直近の年度ではアイパッドの販売台数は初代モデルが発売された2011年度以降で最低となった。これは「一時的」だとする販売停滞がもはや一時的ではないことを示す十分すぎる証拠だ。同社は毎年新型モデルの発売に時間と資金を割かないことで、衰退の一途をたどる事業に対して正しいアプローチを取っていることになる。
  ただ、アイパッドがもはや成長事業でないということを、誰かがクック氏に教えるべきだ。
  クック氏は1月のアナリストとの電話会議で、アイパッドの今後の展開について「私は依然非常に楽観的だ」と語った。短期的な売り上げに打撃を与える可能性のある一時的な在庫の問題を除いては、「私はアイパッドに対して極めて強気だ」と述べた。
  アップルは、人々のアイパッドへの満足度が高く、中国やインドなどの国々で売り上げが伸び、タブレット市場シェアが首位であると引き続き自負している。これらは全て本当のことかもしれない。しかし、縮小する産業で首位であることを図々しく自慢できる企業はほとんどないはずだ。調査会社IDC によると、16年の世界のタブレット販売は15.6%減少した。
(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)
原題:Apple’s Bullish Hopes for iPad Run Into Harsh Reality: Gadfly(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON93L16S972A01

 


米グーグルの広告めぐる危機拡大、AT&Tなど大口広告主が支出停止
Mark Bergen、Joe Mayes
2017年3月23日 15:36 JST

不快なユーチューブ動画と共に広告が掲載されることに懸念強まる
J&Jやベライゾンもボイコットに加わる−数億ドル規模の損失か

米グーグルの広告をめぐる危機が世界に広がっている。欧州に続き、米国でもAT&Tやジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)といった大口広告主の一部が、不快なコンテンツと並んで広告が表示される恐れがあるとして、グーグルのディスプレーネットワークや傘下のユーチューブへの支出を停止した。
  一部の広告がテロや反ユダヤ主義をあおるユーチューブ動画と共に掲載されているとの英紙タイムズの報道をきっかけに先週、批判が噴出。英政府と英紙ガーディアンがユーチューブから広告を取り下げ、広告・マーケティングで世界6位の仏ハバスはグーグルのディスプレーネットワークとユーチューブから同社の英顧客の広告を引き揚げた。
  22日にはこうしたボイコットの動きが大西洋の対岸にまで拡散。大口広告主である米企業の相次ぐ撤退で、グーグルとユーチューブは数億ドル規模の損失を被る恐れがある。
  米携帯電話サービス大手のAT&Tとベライゾン・コミュニケーションズは同日、グーグルへの検索連動型以外の広告支出を停止すると発表。ヘルスケア製品で世界最大手のJ&Jは世界中でユーチューブの広告全てを一時中止した。
  AT&Tの広報担当は発表資料で、「グーグルが再発防止を確かにするまで、同社の検索外プラットフォーム上に掲載された広告を引き揚げる」と表明。ベライゾンもブランドを守るため同様の措置を講じており、調査も開始したと広報担当が発表資料で明らかにしている。
  グーグルは今週に入りこの問題に対応し新たな措置・方針を打ち出したが、多くの広告主はさらなる詳細やその成果を見極めるまで広告掲載を再開しない意向だ。英セインズベリーとBBC放送、トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン(VW)、ハバスは22日、グーグルの発表後もユーチューブからの広告撤退の決定に変更はないと説明。製薬大手の英グラクソスミスクラインも同日、ボイコットに加わった。
  グーグルの関係者は個々の顧客についてコメントを控えている。
原題:Google Ad Crisis Spreads as Biggest Marketers Halt Spending(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON94WM6JIJV301

 

米MSCI:指数に組み入れ可能とする中国本土銘柄、大きく減らす
Jeanny Yu
2017年3月23日 13:50 JST
米MSCIは同社の株価指数への中国本土株組み入れに関する新たな提案の中で、組み入れ可能とする本土銘柄数を昨年の案から大きく減らした。
  MSCIがウェブサイトに掲載した22日付の文書によれば、MSCI中国指数への採用が可能な人民元建てA株の数はこれまでの448から169に減った。これら銘柄が指数に占めるウエートは3.7%から1.7%に低下するという。香港と中国本土の証券取引所接続を介して外国人投資家がすでに売買できる大型株のみが組み入れ検討対象になることも明らかになった。
  また指数の計算には、これまで中国本土の人民元相場を使うとしていたが、新たな提案ではオフショアの元相場で指数算出を行う方針であることも示した。
原題:MSCI Pares Down China Stock Inclusion Proposal as Hurdles Remain(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON92BN6S972L01


アジア株:売り圧力後退−MSCI新興市場指数が小幅高
Adam Haigh
2017年3月23日 15:09 JST
23日のアジア株式市場では、売り圧力が後退している。前日は日本株などが大きく下げていた。
  MSCI新興市場指数は日本時間午後2時45分前後の時点で、前日比0.1%高。22日は0.6%安と、ほぼ2週間ぶりの下げで引けていた。
  韓国総合株価指数は0.3%高、オーストラリアのS&P/ASX200指数は0.4%上げている。
原題:Asia Stock Selloff Eases as Yen Weakens With Gold: Markets Wrap(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON97BR6KLVR601


テンプルトン、約1360億円相当のインド国債を今週購入−関係者
Subhadip Sircar
2017年3月23日 17:12 JST
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ihNO6PXv2Apw/v3/-1x-1.png

国債購入は21−22日に行われ、2021−23年償還債が中心−トレーダー
インド人民党の地方議会選勝利後、外国から資金流入

フランクリン・テンプルトン・インベストメンツは今週の2日間で約800億ルピー(約1360億円)相当のインド国債を購入した。事情に詳しい関係者が明らかにした。
  公に話す権限がないとして匿名を条件に語ったトレーダーによれば、この国債購入は21−22日に行われ、償還期限は2021−23年が中心だった。JPモルガン・チェースが買い入れを仲介したという。
  モディ首相のインド人民党が11日に同国最大のウッタルプラデシュ州議会選で勝利後、インドには外国からの資金が流入。株式は最高値を更新し、債券も値上がりしている。
  テンプルトンの広報担当者、メリッサ・タン氏(シンガポール在勤)とJPモルガンのインド広報担当、モリカ・セナパティ氏(ムンバイ在勤)はいずれもコメントを控えた。

原題:Templeton Said to Purchase About $1.2 Billion of India Bonds (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9CRH6S972B01

 

日経平均4日ぶり反発、内需株堅調 日銀のETF買い観測も支え

[東京 23日 ロイター] - 東京株式市場で日経平均は、4日ぶり反発。1ドル110円台まで円高が進んだことを嫌気して外需大型株に売りが先行、指数は一時、取引時間中として2月9日以来の安値水準を付けた。だが、円高一服を背景に買い戻しが入りプラス圏に浮上。堅調な内需株や日銀のETF(上場投資信託)買いの観測も下支えとなり、後場は小じっかりとした値動きとなった。

TOPIXも4日ぶり反発。セクター別では、石油・石炭、鉱業、不動産が上昇率の上位。半面、その他製品、海運、銀行の下落率が高かった。

参院予算委員会で、学校法人「森友学園」の籠池泰典氏の証人喚問が行われた。同氏は国有地取得で政治的関与があったのではないかと思っている、などと述べたが、市場への影響は限定的だった。

また自民、民進両党は迫田英典国税庁長官と武内良樹財務相国際局長を24日の参院予算委員会に参考人招致することで合意した、との一部報道が出たが、「両氏は籠池氏より安倍首相や夫人の昭恵氏との直接的な関連が薄く、あまり材料視はされないだろう」(大和住銀投信投資顧問・経済調査部部長の門司総一郎氏)との見方が出ていた。

米国でのオバマケア(医療保険制度改革法)の代替法案採決やイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の講演を今晩に控え、投資家の様子見姿勢が強まった。

個別銘柄ではトーカロ(3433.T)が大幅反発。22日に発表した業績・配当予想の上方修正を好感した買いが入った。1株75円としてきた年間配当予想も85円(前年実績75円)に増額修正した。

半面、日本製鋼所(5631.T)が続落。同社は22日、2017年3月期の連結当期損益予想を80億円の黒字から40億円の赤字に修正した。素形材・エネルギー事業の事業環境の回復遅れなどに伴い減損損失(特別損失)が発生する。

任天堂(7974.T)は6日ぶりに反落した。米資産運用大手ブラックロック(BLK.N)の日本法人が22日付で関東財務局に提出した大量保有報告書で、同社が任天堂株の5.17%を取得したことが明らかになり、これを材料視した買いが先行したが、徐々に利益確定売りに押された。

東証1部騰落数は、値上がり824銘柄に対し、値下がりが1037銘柄、変わらずが149銘柄だった。

日経平均.N225

終値      19085.31 +43.93

寄り付き    19048.84

安値/高値   18973.75─19105.11

TOPIX.TOPX

終値       1530.41 +0.21

寄り付き     1528.46

安値/高値    1523.11─1531.73

東証出来高(万株) 175963

東証売買代金(億円) 21905.45

(辻茉莉花)

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ドル111円前半、4カ月ぶり安値から反発後は伸び悩み
 3月23日、午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べ、わずかにドル高/円安の111円前半をつけた。写真はワルシャワで2011年1月撮影(2017年 ロイター/Kacper Pempel)
 3月23日、午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べ、わずかにドル高/円安の111円前半をつけた。写真はワルシャワで2011年1月撮影(2017年 ロイター/Kacper Pempel)
[東京 23日 ロイター] - 午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べ、わずかにドル高/円安の111円前半。前日の海外市場で4カ月ぶり安値圏の110円後半まで下落したドルはこの日、オバマケアの代替案可決に楽観的な見方が広がったことや、米長期金利の上昇を受けて、早朝の安値から111円半ばまで反発した。

東京市場では、仲値公示付近にドル買い/円売りが優勢となり、一時111.54円まで上昇。その後、参院予算委員会で「森友学園」の籠池泰典氏の証人喚問が行われる中、米長期金利の上昇に合わせて、この日の高値111.58円を付けた。しかし、午後は伸び悩み、再び111.28円まで反落した。

トランプ政権と共和党幹部は22日、米医療保険制度改革(オバマケア)改廃法案の23日採決に向けた話し合いを続け、法案の修正を求めていた党保守派の支持取り付けに前進ていることを明らかにした。

この報道も手伝い、ドルは前日につけた4カ月ぶり安値110.73円から反発したが、「ロンドンでの襲撃事件など地政学的リスクに加え、トランプ相場の巻き戻し圧力で、依然円は買われやすい状況」(金融機関)だという。

午後3時の英ポンド/円GBPJPY=Rは139.08/12円。前日の海外時間には、ロンドンでの襲撃事件をきっかけに一時137.70円と、1月17日以来2カ月ぶりの安値まで下落した。

森友学園問題について「これから財務省の役人の喚問も予定されるなど、長引けば長引くほど、安倍政権は相当なダメージを受けそうだ。支持率も下がり、解散総選挙どころではなくなり、結果的に、政権の弱体化を招くだろう」(アナリスト)との声が聞かれた。

共同通信によると、自民、民進両党は23日の参院国対委員長会談で、森友学園の国有地払下げ問題を巡り、迫田英典国税庁長官と武内良樹財務相国際局長を24日の参院予算委員会で参考人招致することで合意した。

籠池氏は証人喚問で、国有地が最終的に8億円余り値引きされたと聞き、想定外の大幅な値下げにびっくりしたと述べ、値引きの根拠は近畿財務局などに聞いてほしい、と述べた。

ドル/円JPY=  ユーロ/ドルEUR=  ユーロ/円EURJPY=

午後3時現在 111.39/41 1.0789/93 120.19/23

午前9時現在 111.36/38 1.0788/92 120.14/18

NY午後5時 111.14/17 1.0795/99 120.08/12

(為替マーケットチーム)

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きょうの国内市況(3月23日):株式、債券、為替市場
Bloomberg News
2017年3月23日 16:58 JST

国内市況の過去の記事はこちらです。指標はここをクリックして下さい。

●日本株4日ぶり小反発、内需や石油に見直し−米金利懸念で銀行は軟調

  東京株式相場は小幅ながら4営業日ぶりに反発。根強い企業業績期待や期末に向けた配当取りの動き、日本銀行による指数連動型上場投資信託(ETF)買いの観測などから午後にかけ堅調となった。不動産や電力、食料品株など内需セクターのほか、石油株が高い。
  半面、米国の長期金利低下が嫌気され、銀行株は安く、円高警戒感でゴム製品や機械など輸出株の一角、海運株は軟調。株価指数の上値を抑制した。
  TOPIXの終値は前日比0.21ポイント(0.01%)高の1530.41、日経平均株価は43円93銭(0.2%)高の1万9085円31銭。
  ちばぎんアセットマネジメントの加藤幸祐運用部長は、「米共和党の話から判断し、オバマケアの代替法案の採決は厳しそうだが、事前に否決に備えた動きも出ているだけに、否決後に米国株がどこまで戻せるかが焦点」と話した。ただし、米国株に比べれば「日本株は割安。為替が1ドル=110ー115円のレンジを維持できるなら、来期上半期業績への影響は限定的。為替に影響されにくい好配当銘柄や低ボラティリティのディフェンシブ関連は堅調」ともみている。
  東証1部の売買高は17億5963万株、売買代金は2兆1905億円。値上がり銘柄数は824、値下がりは1037。代金は前日に比べ18%減った。米国では医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の本会議採決があり、国内では衆参両院予算委員会での学校法人森友学園(大阪市)の籠池泰典氏の証人喚問が進行と、様子見ムードも強かった。
  東証1部33業種は石油・石炭製品や鉱業、不動産、電気・ガス、食料品、保険など17業種が上昇。その他製品や海運、銀行、パルプ・紙、建設、卸売など16業種は上昇。売買代金上位では東芝やアサヒグループホールディングス、住友不動産、アナリストが投資判断を上げたSUMCOが高い。任天堂やKDDI、ディー・エヌ・エー、カカクコムは安い。

●債券先物が続伸、米政策先送り懸念で買い継続−超長期はオペ後に売り

  債券市場では先物相場が上昇。トランプ米大統領の景気刺激策が先送りされるとの懸念からリスク選好ムードが後退しており、買い優勢の展開が続いた。一方、超長期ゾーンは日本銀行による今年度内最後の買い入れオペ実施後に売りに押される展開となった。
  長期国債先物市場で中心限月6月物は前日比2銭高の150円44銭で開始。一時150円51銭と、中心限月ベースで2週間ぶりの高値を付けた。結局6銭高の150円48銭で終了した。
  みずほ証券の辻宏樹マーケットアナリストは、「海外要因で基本的には底堅い展開だが、午後は上値が重くなった。トランプ政権に対する失望感と言えばそれまでだが、今まで金利が一気に上昇し過ぎた後の揺り戻しの面も大きい」と指摘。超長期ゾーンについては、「年度内は入札もオペもなくなり、年度末に向けて投資家の買いが入るかどうかだ」と述べた。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の346回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値と横ばいの0.055%で推移した。みずほ証の辻氏は、「直近レンジの下限付近で相場の上値は重くなるところ。10年金利は日銀に動きが抑制されている」と話した。
  日銀はこの日、長期国債買い入れオペを実施。残存期間「10年超25年以下」が2000億円、「25年超」は1000億円、「1年以下」は700億円、物価連動債は250億円と、いずれも前回から据え置き。運営方針によると、超長期ゾーンは今月の最終回。応札倍率は「10年超25年以下」が2倍台でやや上昇、「25年超」は3倍台で低下した。

●ドル・円は111円台前半、オバマケア代替法案の採決待ちで上値限定

  東京外国為替市場のドル・円相場は、1ドル=111円台半ばまで水準を切り上げた後、伸び悩む展開となった。前日の米国時間終盤の流れを引き継いでドル買いが先行したが、医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の採決を控える中、上値は限定的だった。
  午後4時48分現在のドル・円相場は前日比ほぼ横ばいの111円18銭。午前の仲値公示にかけて値を上げ、日経平均株価のプラス圏浮上も後押しとなり111円58銭まで上昇。その後はオバマケア代替法案の採決を控えてドルが伸び悩む中、上げ幅を縮小した。22日のニューヨーク市場では、トランプ政権の政策実行力の不透明感から一時110円73銭と昨年11月22日以来の安値を付けた後、前日急落した米株の持ち直しを受けて終盤に111円台前半へ値を戻した。
  オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)マーケッツ本部外国為替・コモディティー営業部長の吉利重毅氏は、「米国株の下落が昨日はいったん落ち着いたこともあり、ドル・円の買い戻しが先行した」と指摘。ソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔為替資金営業部長は、仲値以降のドル・円について「米下院でのオバマケア代替案の採決待ちで動意がなくなった」と説明した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9CRK6JTSE801

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/413.html

[環境・自然・天文板6] 英アン王女「遺伝子組み換え作物には恩恵」、兄の皇太子に異論
世界の雑記帳
英アン王女「遺伝子組み換え作物には恩恵」、兄の皇太子に異論

2017年3月23日 12時52分(最終更新 3月23日 12時52分)
イギリス

 3月22日、英国のアン王女(66)が遺伝子組み換え作物(GMO)には現実的な恩恵があると発言し、環境災害になると主張する兄のチャールズ皇太子と真っ向から対立する意見を示した。写真は16日に撮影(2017年 ロイター/ Matthew Childs)
 [ロンドン 22日 ロイター] - 英国のアン王女(66)が遺伝子組み換え作物(GMO)には現実的な恩恵があると発言し、環境災害になると主張する兄のチャールズ皇太子と真っ向から対立する意見を示した。

 王女はBBCラジオの農業番組でインタビューに応じ「遺伝子技術は現実的な恩恵を持っていると思う。ときには悪影響ももたらすだろうが、さほど多くないと考える」と語った。

 アン王女は「適切な価格の食糧生産が改善されるのであれば、遺伝子技術がその一端を担うことを受け入れなければならない」と発言した。

 チャールズ皇太子は長らく有機農産物を強く推奨しており、GMOの広範囲な利用は「史上最悪の環境災害をもたらす」と警鐘を鳴らしたこともある。

 インタビューは、23日に放送される。

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http://mainichi.jp/articles/20170323/reu/00m/030/006000c
http://www.asyura2.com/15/nature6/msg/519.html

[経世済民120] 米株支えるアニマルスピリッツは健在か 17年度の金融環境と銀行株の見通し 欧州不運、気まぐれトランプ 英小売売上反動上昇
FX Forum | 2017年 03月 23日 19:06 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
米株支えるアニマルスピリッツは健在か

岩下真理SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 23日] - 米国株は、14―15日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ決定と、16日のトランプ政権による予算案概要発表を受け、調整色を強めている。

前者はいったんの材料出尽くし、後者はトランプ政権への失望感につながった。目先はオバマケア代替案の議会承認の行方だが、仮に難航すれば、大型減税やインフラ投資、規制緩和など他の重要課題への着手も遅れるとの懸念は強まるだろう。

マルバニー行政管理予算局(OMB)局長によれば、予算教書の発表は5月中旬頃を目指しており、ムニューシン財務長官は、8月の米議会休会までには税制改革法案を成立させたい意向だ。トランプ大統領は、当初は就任100日となる4月末までに立法措置を目指していたが、大幅にスケジュールは後ずれした。

ただ、各省スタッフの任命・承認も遅れており、事務作業が遅れるのはある意味で必然的なことだ。

目先の試金石は、オバマケア代替案が、4月のイースター休暇(下院は6日まで採決可能、その後21日まで休会)前に上下両院を通過できるかだろう。その次は、2017年度暫定予算期限の4月28日だ。2018年11月に中間選挙を控える共和党下院議員にとって政治的な成果は必要であり、ライアン下院議長が議会共和党をどうまとめられるかが鍵を握る。

一方で、筆者がトランプ相場の起点と考えている米10年債利回りは、FOMC開催時の2.6%台から22日には一時2.4%割れまで低下。予想以上に金利が低下した背景には、投機筋のショートカバーや金利上昇リスクのある欧州債から米国債への資金シフトなどの需給要因が大きく作用したとみる。

世界経済の回復、原油価格の安定(過去2年に比べ)というファンダメンタルズは変わっておらず、2.3%割れを買い進む状況にもない。筆者が名付けた「トランポリン相場」は、期待の第1幕から、昨年12月中旬以降は調整の第2幕(米10年債利回りの2.3―2.6%のレンジ)が続いている。米国経済がこのまま堅調さを持続するなら、適度な株価調整はあっても弱気相場には至らないとみる。

トムソン・ロイター・データストリームによると、1年後の予想利益に基づく予想株価収益率(PER)は現在18倍と2004年以降で最も高い水準に近い。適度な調整をこなした方が、息の長い相場となる可能性が高まる。

昨秋のトランプ大統領当選後の米株高の持続は、米国の企業と家計マインドを押し上げた。米供給管理協会(ISM)発表の製造業景況指数の動きは、在庫調整の進展と強い受注が読み取れ、年前半の堅調持続を示している。米国でのアニマルスピリッツは確かに強まっており、ソフトデータの大幅改善が、今後は生産や消費というハードデータを着実に押し上げることを確認できるかだろう。

<FRBバランスシート縮小議論に要警戒>

3月FOMC後の会見でイエレン連邦準備理事会(FRB)議長は、「今後数年間は緩やかな利上げペースが妥当と判断した」と発言し、市場に優しいFRBを再び演出した。

今回の声明文では、「インフレ率は中期的に2%近辺で安定すると予測」とし、新たな表現として「対称的なインフレ目標との比較」が盛り込まれた。「2%は物価の天井ではなくて目標だと思い起こすべきだ。2%を下回っていた局面と同様に、時には2%を超えることもあるだろう」と述べ、物価上振れを許容する可能性を示唆したと解釈できる。

しかし、「物価が過熱するような状態になれば、金融政策もそれに伴って調整していく」とも語った。1月の個人消費支出(PCE)総合物価指数は前年比プラス1.9%と目標に近づいており、今後は物価の上振れをどの程度まで許容するのか、要人発言などで見極めていくことになろう。

米国の賃金は物価の遅行指標であり、労働市場のタイト化に伴い、先行きに上昇が波及していく可能性は十分に考えられる。その点、賃金の先行指標である雇用コスト指数の動向が重要となろう。1―3月期分が4月28日に発表される。

なお、3月FOMC声明文にはバランスシート縮小に絡む新たな文言は盛り込まれなかったが、4月5日発表の3月FOMC議事録ではその議論内容を確認する必要がある。何回か議論の後、その手順などをまとめて発表する可能性(早ければ6月)はありそうだ。

直近では、投票権のある2人のFOMCメンバーの発言が目を引く。3月利上げに1人反対したミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は17日、バランスシート縮小時期と方法に関する詳細な計画を公表するまで、利上げを見送るべきと主張した。21日には、ダラス連銀のカプラン総裁が、年内にあと2回の利上げを行い、バランスシートの段階的な縮小に向けた取り組みを続けることが妥当との認識を示した。

実際のバランスシート縮小は、まだ先と思われるが、その計画はそう遠くない時期に公表される心積もりは必要だろう。この材料も、一時的には株価調整を促す可能性があることを覚えておきたい。

<ECBテーパリング議論前倒しの可能性>

日本と比較する形で2017年の欧米物価動向を考えると、欧州は日本に比べ原油価格変動が川下の物価に影響を与えるタイムラグが短いこと、さらには足元のユーロ安が押し上げ効果があることなどから、欧州の物価上昇が日米に比べて一番速い。

他方、米国では日本と異なり、家賃と医療費の物価押し上げ寄与が大きい。ただし、最新2月分の消費者物価指数(CPI)では、帰属家賃が前年比プラス3.5%(1月も同3.5%)となり、昨年12月の同3.6%をピークに鈍化してきた。それ以前の帰属家賃の急上昇の背景として、賃貸志向の強まりが指摘できるが、昨年後半から住宅着工件数での集合住宅の優位も低下しており、賃貸家賃価格の上昇一服につながっているようだ。加えて米国はドル高の物価抑制効果がある。

3月9日の欧州中銀(ECB)理事会後のドラギ総裁会見では、追加措置の緊急性低下を説明したものの、「2017年末まで量的緩和を続ける」というフォワードガイダンスを維持した。ECBスタッフによる物価見通しは、2017年の中央値はプラス1.7%(昨年12月時は同1.3%)、2018年はプラス1.6%(同1.5%)と上方修正されたが、目先は夏前にもエネルギー価格持ち直しによる一時的な物価上昇率はピークをつけるとの見立てだ。

背景にあるのは原油動向である。昨年2月に米国産標準油種(WTI)ベースでは26ドルで底入れ、昨年4月から35―45ドルに切り上がり、5月以降は40―50ドル前後で安定化。10月以降は50ドル超が続くも、今年3月に下落して47―49ドル台の推移。4―6月期にかけては、前年同月比での上昇率は一服が見込まれる。

それでも、ユーロ圏の2月消費者物価指数(HICP)は前年比プラス2.0%に上昇しており、ECB内でタカ派が金融引き締めを主張するのは自然の流れだ。特に労働組合の強いドイツでは、今後の賃上げに伴いサービス価格が上昇していく可能性は高い。

今年最大の欧州政治リスクである4―5月のフランス大統領選挙が波乱なく終われば、4月から月600億ユーロに減額する国債買い入れ額のさらなるテーパリング議論が、意外と早まる可能性には注意したい。2015年春と同様で、欧州債売りが足元の米国債買いの流れを変えるきっかけになり得るだろう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)

(編集:麻生祐司)


コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
コラム:トランプ氏の円安誘導批判は「空砲」=池田雄之輔氏 2017年 02月 06日
コラム:ドル高に陰り、綱引きの軍配は円高へ=亀岡裕次氏 2017年 02月 23日
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-mari-iwashita-idJPKBN16U0UY

 


17年度の金融環境と銀行株の見通し
2017年3月23日

チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。
大槻 奈那 プロフィール 

●欧米の金融政策は、揃って出口=緩和縮小へ。日本は、消費者物価伸び悩みに足を引っ張られ、マイナス金利維持を強いられる。
●日米で銀行株が売られ、資金が欧州に若干戻っている感。しかし、欧州の銀行に対する投資は金融緩和縮小が本格化すると不良債権が増加する恐れがあり、やや時期尚早。
●一方、米銀の収益環境は、確実な金利上昇や景気拡大を背景に良好。時間はかかっても規制緩和やインフラ投資等の確度は高い。邦銀に比べて収益にも株価にもアップサイドあり。

3月の各種イベント後、特に米国の利上げとその方向性に対する思惑で、金利や為替が大きく変動した(図表1。文末図表15に主な予定を記載)。これらを踏まえて、今後の世界的な金融政策の動向を整理しつつその銀行株への影響を検討する。

I.主要国の金融政策の動向:徐々に緩和縮小(出口)へと向かうが、日本は出遅れ
図表2の通り、先進主要各国で、英国BREXITや米大統領選などに揺れ動いていた昨年から、一気に引き締めモードに移行した。

そもそも、今回の金融緩和の縮小は、経済実態から言えばやや遅きに失した感がある。金融緩和に伴う世界的な債務の積み上がりや(図表3,4)、各国のインフレ率(図表5)、不動産価格(後掲図表6)からは、既に昨年半ば頃には緩和縮小に転じる条件が整いつつあったことがわかる。


昨年は、「年4回」との年初予想に対し、実際は「年1回」に留まった。このトラウマが、米国利上げへの淡い不安感を生んでいる一因である。
今年も確かに、トランプ政権の閣僚人事の遅れなど政策実行力が不安視されているが、それは"タイミング"の問題である。昨年のようなや英国EU離脱や大統領選など、底が見えないような不確実性ではない。今年も5月のフランス大統領選はテールリスク (可能性は低いが何かあったら一大事) だが、それを通過すれば、各国の経済情勢に応じた金融引き締めが本格化するだろう。フランス大統領選で大波乱が起きない限り、順当な「年3回」の利上げを予想する。
一方日本については、前掲図表5にもあるとおり、改善傾向とはいえゼロ近傍の低インフレが続いている。年後半から若干加速すると思われるが、それでも2%目標の安定達成は遠く、貸出増加ペースも緩く、他国のような地価上昇にも見舞われていない(図表6)。本格的な出口戦略に向かうのはまだ早いだろう。

とはいえ、マイナス金利深堀りの可能性は低いと思われる。国民からの印象の悪さ、地銀の経営難を招くとの批判や、米国の為替操作国批判への懸念等が根強いためだ。従って、更なる緩和の手段もないし、これ以上は国債を購入しにくい(その効果への疑念と買う国債が少ないため)、という"消去法"的な意味で、日本も、どちらかといえば金融緩和縮小の可能性が高い。しかし、そのスピードは、(あったとしても)極めて緩やかになり、政策金利は少なくとも17年度(18/3期)中はマイナス0.1%を維持すると考える。
なお、10年国債利回りのゼロ%のメドは市場金利に応じて引き上げられる可能性はあるだろう。しかしそれでも0.1%程度の小幅な動きに留まると考えられ、ドル円レートの支えになるだろう。

II. 銀行への影響
米国:米銀は引き続き好環境の恩恵大
このところ米銀株の下落が続いているが、経営環境としては、@金利上昇、A金融規制緩和、B貸出拡大期待の3点から引き続き改善傾向である。改善のペースについては、政治的混乱でスローダウンする懸念もあるが、いずれにしても、金利は上昇方向で、景気の拡大傾向も続くだろう。
特に、金融規制の緩和は、地銀などシンプルな預貸業務中心の銀行については、米国企業の活動を助ける上、予算の手当てが殆ど必要ないため、ある程度は実現するだろう。6月初旬までにムニューシン米財務長官が案を取りまとめる。これらのメリットを受ける米地銀は、アナリスト・コンセンサスでも今期は10%程度の増益予想となっており、まだ収益にも株価にもアップサイドがあると考える (図表7)。

欧州:回復基調だが、まだ局所的に懸念が残る。金融緩和縮小なら銀行間の格差拡大
欧州の銀行では全体としては財務の改善が見られるが(図表8、9)、依然、イタリアの銀行再建は道半ばである。

最大手のウニクレディトは3月初旬に130億ユーロの株主割当増資が終了した。しかし、大手第3位のモンテパスキは公的資金60億ユーロ超(報道ベース)を申請中で、ECBの返済能力審査待ちである。しかし、イタリアでは住宅価格がなかなか下げ止まらず(図表10)、全体に不良債権比率低下ペースは緩やかである(図表11)。主要2行の再建が終了したとしても、仮にイタリアの他の銀行が再建2行並みの不良債権引当金を計上した場合、大幅な資本増強が必要となる可能性がある。
その場合、イタリア政府が昨年末に準備した公的資金枠200億ユーロ(約2.4兆円)では足りない可能性が高い。

更に、今後ECBが金融緩和の縮小に向かうことで、欧州の銀行の不良債権が増大する可能性がある。イタリアへの影響はとりわけ深刻だが、それ以外でも低成長国(ギリシャ、イタリア、デンマーク、フランス、ポルトガルなど)に不良債権問題が波及するリスクがある。このような金融緩和縮小の副作用については、4月7-8日のEU財務相理事会で議論されると報じられている。
欧州で金融緩和の縮小が本格化すれば、銀行の格差が拡大するだろう。資本などの健全性が高いところは、金利上昇によって収益が回復し、それ以外は、金利上昇による景気後退で、再び不良債権が増え始めるというリスクにさらされるだろう。

日本:成長の材料が不足
日本は、世界の金融引き締めの流れからは遅れるため、邦銀が金利上昇の追い風を受けるにはまだあと1年は必要だろう。また、17年度に国内の貸出拡大が加速する要因には乏しい。これまで国内成長を後押ししていたアパートローンや消費者ローンなどの伸びが鈍化しそうで、これを補う要素は少ない。全国銀行ベースの来年度の国内貸出増加率は、今年度よりやや低い2%強に留まると予想する。
貸出利鞘は、マイナス金利導入影響が響いた今年度に比べれば、悪化速度が緩やかになるだろう (図表12)。ただし、特に預金の増加が著しいため、貸出に回し切れない金額(預貸ギャップ)が拡大し(図表13)、貸出競争は確実に激化するとみられる。このため、17年度の利鞘は6〜8bp程度(マイナス金利の影響があった16年度は10bp前後)低下し、全行合計で約3,000億円の減益要因になると思われる。

これに対し、海外志向の強いメガバンクにはまだ若干の補完余地はあるとしても、国内の営業環境的には他国比かなり不利である。これまで利益を下支えしていた引当金の戻入益も期待できそうにない。このため、17年度の全国銀行の利益は楽観視できず、横ばいから微減益となる可能性が高いとみられる(図表14)。
ただし、短期金利底打ちの期待が少しでも出始めた場合、全く異なる展開が見えてくる。仮に、17年度後半に、インフレ率が1%を超え始め、日銀にも金融緩和縮小の期待感が高まれば、邦銀株には10余年ぶりの大幅な上昇も期待できるだろう。

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過去のレポート
2017年3月23日
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トランプ大統領の規制緩和で恩恵を受ける金融機関は?
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金融政策は"無風"。物価下振れリスクと為替不安定化で、緩和長期化の方向
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2017年の展望:久々に銀行セクターに明るい兆し
https://info.monex.co.jp/report/financial-market/index.html 

 
ストラテジーレポート
配信日:2017年3月23日

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。
1カ月後を見据えて広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
昨日の日経平均は400円を超える大幅安。昨年11月以降の「トランプ相場」で最大の下げ幅を記録した。円相場も一時110円台まで円高が進み、4か月ぶりの水準をつけた。起点は21日の米株式市場で、ダウ平均が4日続落し、前日比237ドル安という昨年9月以来、約半年ぶりの大きな下げとなったことだ。
その背景は各種メディアの解説の通りである。米国議会でオバマケア代替法案の審議が難航していることでトランプ政権の政策期待が急速に後退している。共和党幹部はメディケイド加入者を制限するなどの変更を同党の法案に加えたが、可決に消極的な一部の共和党議員(主に保守派)の支持を取り付けることはできなかった。オバマケア撤廃でいきなりつまずいているようでは、市場が望む大型減税やインフラ投資などが先送りされる懸念が台頭している。それを反映して米国金利が低下した。米国金利の低下は株式市場の下落でリスク回避資金が米国債に流れたことでも助長された。長期金利の低下は、これまで「トランプ相場」をけん引してきた金融株の下げを誘い、悪循環に陥っている。
日本株も同じ構図で悪材料が重なった。米国株安 ⇒ リスク回避 ⇒ 米国金利低下・円高 ⇒ 金融株・輸出株に売り圧力 という構図である。
問題はどこで下げ止まるかだが、米国議会での審議難航はある程度、相場に織り込まれた感がある。昨日の米国株式市場でダウ平均は小幅安だったがS&P500、ナスダック総合とも小幅に反発した。今朝の東京市場でも日経平均は節目の1万9000円前後でもみ合うような動きとなっている。これだけ円高が進んだことを考えればむしろ底堅いと言える。
日経平均とドル円

(出所)Bloomberg
短期的にはイエレンFRB議長の講演や、オバマケア代替法案の下院可決などで持ち直すことが期待されるが、再び上値を試し、その先の2万円に向かうには材料不足。あと1カ月待つ必要がある。
あと1カ月経てば3月期の本決算の発表が始まる。2017年度の業績を織り込みにいけば日経平均は2万円に届くだろう。アナリスト予想の平均であるクィックコンセンサスで日経平均のEPS(1株利益)は1460円。PER13.7倍で2万円である。より保守的な日経予想でも1370円(12カ月フォワードEPS、出所:クィックアストラマネージャー)だ。2万円はPER14.6倍。じゅうぶん無理なく届く水準だ。
1カ月後には2万円。そう信じれば、この1万9000円絡みは買っていける。
あと1カ月で日本株の買い材料である決算発表が始まる。しかし、1カ月後の4/23はフランス大統領選の第1回投票日だ。忌まわしいことに昨日、ロンドンでテロとおぼしき凶行が起きた。今後、フランス大統領選までの1カ月で欧州に再び不穏なムードが広がれば、極右政党を率いるマリーヌ・ルペン候補の支持率が高まるだろう。それと同調して市場のリスクオフムードも高まる。
日本の決算発表が始まる前にもう一度、買い場が来るかもしれない。
そう考えれば、押し目買いはいっぺんには入れずに、数回に分け、タイミングを刻んで実施したい。
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Column | 2017年 03月 23日 14:15 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:揺れる欧州の不運、盟友国に「気まぐれトランプ氏」


John Lloyd

[20日 ロイター] - トランプ大統領とメルケル首相の初顔合わせとなった米独首脳会談は、悪天候のため予定より3日遅れて17日に開催された。政治的、倫理的、そして人格的にも極端に対照的な両首脳の会談は、天候同様に険悪なものになり得た。

だが、冷淡な空気の漂う共同記者会見の様子からすると、感情的な爆発は抑えられたようだ。ともに世界で最も大きな政治的権力を持つ男性と女性の間で行われた会合の詳細が、調査報道によって再現されることを願いたいものだ。

共同記者会見の席上でトランプ大統領は、両首脳がオバマ前政権による盗聴行為の犠牲者仲間だという演出をぎこちなく試みたが(メルケル首相の携帯電話は米国家安全保障局により盗聴されていた)、メルケル氏は戸惑った表情を浮かべただけだった。そこには、仲間意識は微塵も感じられなかった。

トランプ大統領は場当たり的な人物だ。彼が抱く今日の愛は、明日の裏切りだ。大統領就任後、初の海外首脳として迎えたメイ英国首相に対して「特別な関係」を連発したトランプ大統領だったが、その後、大統領候補だった自身の電話を盗聴する際にオバマ氏が英政府通信本部(GCHQ、米国の国家安全保障局に相当する)の助けを借りたとの言いがかりをつけた。

トランプ大統領は、GCHQの関与についてはフォックスニュースに出演したゲストの発言を引用しただけだと述べている。右派として知られる同局は、その後この関与についての告発から距離を置いている。

だが、トランプ大統領が他の危機へと取り組んでいく一方で、英国の情報機関関係者にとってこの件は重大な意味を持っている。米国の治安当局との緊密な協力は彼らにとって必要不可欠だが、規模に劣るパートナーであるだけに、軽視されることには神経を尖らせている。トランプ大統領の主張に対する抗議のなかで、GCHQは(通常では使わない)「馬鹿げている」「ナンセンス」という2つの言葉を使った。彼らの憤りの深刻さを物語っている。

今回の対立は米英両国の亀裂を示すものとされているが、事情はもっと複雑であり、トランプ大統領時代が続くうちに、その複雑さはさらに深まっていく可能性が高い。米国の情報機関は、英国の持つネットワークを本当に重視している。そのなかには、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった英語圏諸国の組織との情報共有が含まれており、米英を含めたいわゆる「5つの目」を構成している。

本人以外は誰も信じていないことの裏付けを取るよう汚れ仕事を押しつけてくるトランプ大統領に、憲法上、仕えなければならない米情報コミュニティのいら立ちが、最近の報道からも伝わってくる。

トランプ大統領は彼自身の基準に従って、あるいは親密なアドバイザーの基準に従って行動している。それは制度や関係が、驚くほど大統領の気分に左右されるということであり、「米国第一」の旗印に合うようなインフラや政策の提供に向けて突進するということである。

トランプ支持者は欧州のナショナリストたちを仲間だと思っている。少なくとも、彼ら同様、各国の愛国精神の追求に熱心だと思っており、それはロシアのプーチン大統領とも共通する視点だ。

だが先週のオランダ下院選挙におけるヘルト・ウィルダース氏率いる極右政党「自由党」の敗北は、たとえ移民に反対しており、イスラム主義者による攻撃を恐れているとしても、大半の欧州市民が超えようとはしない一線を示しているのかもしれない。モロッコ出身の移民について懸念しているかもしれないが、それでもウィルダース党首のように彼らを「人間のクズ」と呼ぼうなどとは思わないものなのだ。

今回の勝利は、オランダという小さな国が過去数十年のあいだに実現した最も重要な選挙結果となる。これによって、欧州全域に限らず、主流派に属する各国の政治家は、ほっと安堵のため息をついた。

先日のオーストリア大統領選で敗北したポピュリスト的なナショナリズムは、軽蔑していたオランダ中道政党を倒すこともできなかった。何といっても、ロッテルダムはロンドンと同様、ムスリムの市長を擁しているのだ。

トランプ大統領は欧州で人気を博するまでには至っていない。

オランダのニュース番組「Sunday with Lubach」での愉快なエピソードのなかで、「神が創造した最高の脱税システム」をオランダの魅力の1つとしてトランプ氏に紹介するなど、同氏は常に風刺されている。右派ナショナリスト政党はトランプ氏を好み、何百万人もの支持者を抱え、世論調査でリードすることも多いが、それでも彼らは多数派ではない。

現在、最も権力の座に近いと思われる欧州のナショナリストは、自分の地域や国をEUから、あるいは少なくとも統一通貨ユーロから離脱させたいと考えている人々ではない。それは、ある地域(彼らに言わせれば「国」なのだが)を本国から分離独立させようとしている政党だ。

その最たるものがスコットランド国民党である。彼らは「超リベラル」「超欧州主義」と見られたがっており、あらゆる種類の移民を歓迎している。英スコットランド自治政府のスタージョン首相によれば、移民は「スコットランドで暮らすことを希望するという、われわれに名誉を与える存在」なのである。

スペインのカタルーニャ地方のナショナリストも、同じようなアプローチをとっている。彼らにとってナショナリズムとは、旧来の「国家」の悪い部分をすべて捨て去る方法なのだ。

依然としてEUで有力な勢力は、基本的な立ち位置として、リベラルな国際主義と全般的に平和主義的な視点を掲げている。彼らは、加盟国のいっそう緊密な統合が唯一の道だと考えている。それは欧州委員会のユンケル委員長が堅持する立場だ。だが、ユンケル委員長などのEU幹部は、これまでのところ、その面ではあまり成果を挙げていない。

EUは崩壊していないし、近い将来そうなる可能性も低い。ほとんどの国では福祉や医療制度に負担がかかっているが、それでも十分機能している。世界的な基準に比べれば、所得も全般的に高い。社会の偉大な麻薬である娯楽は今や多様化しており、過去のどの時期と比べても、より刺激的で、自由に入手可能だ。暴力的な抗議行動はめったにない。

とはいえ、こうした状況が変化する可能性はある。

いくつかの大国、特にイタリアとスペインでは、特に若年層を中心とする失業率が、ここ数カ月わずかに下がったとはいえ、依然として非常に高い。若者の実に3分の1以上が仕事を見つけられず、反抗勢力の潜在的な予備軍になっている。ギリシャでは若者の失業率が約45%に上り、一時は60%にも達していた。

今週末、EUの基礎となったローマ条約の締結60周年を祝うため、欧州27カ国の首脳が集まる。英国のメイ首相は欠席する予定だ。出席する意味がないと考えている。首脳たちはEUの未来を思い描こうとしているが、英国はその未来には含まれていないのだから。

ローマで27カ国の首脳が祝福する伝統は、素晴らしいものだ。かつてはいがみ合っていた諸国間の協力、旧共産圏諸国のEUへの包摂、貧困地域への支援、そして大学や非政府組織、企業、政党、各国政府のあいだで形成された数千もの新たな協力関係。さらには欧州各国・諸国民のあいだの差異と類似性についての理解の深まりなどが挙げられる。

だがその伝統は、EUを袋小路に追い込んでいる遺物でもある。極右は敗北に苦しんでいるが、EU全域に及ぶ彼らの数百万もの支持者は消滅しないだろう。

国民国家から権力を奪うのではなく、それを返していくような方向で、ナショナリストのバブルをはじけさせるような、思い切った変化が必要だ。容易なことではない。このような状況下において、EUがどうなろうと気にしない人物が「一番の友好国」の指導者とは、何という最悪の巡り合わせだろうか。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)


コラム:中国、通商駆け引きでトランプ氏にささいな贈り物 2017年 03月 10日
コラム:ドル120円予想を支える2つの根拠=鈴木健吾氏 2017年 02月 20日
コラム:恣意的な統計作成に潜む「危険な罠」 2017年 02月 26日
http://jp.reuters.com/article/europe-trump-column-idJPKBN16U0DX?sp=true

 


2月の英小売売上高、前月比1.4%増=反動で伸びる―国民統計局☆差替【3/23 19:07】
【ロンドン時事】英国民統計局が23日発表した2月の同国の小売売上高は、前月比1.4%増となった。ロイター通信が事前にまとめた市場予想の0.4%増を大幅に上回ったが、増加は昨年10月以来4カ月ぶりで、このところのマイナスからの反動要因が大きい。統計局は「2月は極めて強い伸びを示したが、直近3カ月ベースで比較すると減速している」と説明した。

1月の売上高は従来発表の0.3%減から0.5%減に下方修正された。

2月の売上高の内訳は、食料品店が0.1%増(1月は0.3%減)に持ち直した。日用品店は3.7%増(同2.4%減)、インターネット販売店は4.0%増(同0.9%減)とそれぞれ急伸。ガソリンスタンドも2.9%増(同2.2%減)と好調だった。衣料・靴店は1.0%増(同2.7%増)に減速した。

前年同月比では3.7%増と、事前予想の2.6%増を大幅に上回った。1月の売上高は従来発表の1.5%増から1.0%増に下方修正された。

アジア投資銀、加盟数70=開業1年でADB上回る【3/23 18:39】
【北京時事】中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は23日、13カ国・地域の追加加盟を承認したと発表した。創設メンバー57カ国と合わせ70カ国・地域に拡大。2016年の開業から1年で、日米が率いるアジア開発銀行(ADB)の67を上回った。カナダも新たに加わり、先進7カ国(G7)で未加盟は日米だけとなった。

AIIBは設立前、既存の国際金融機関並みの透明性が確保できるか懸念されたが、ADBとの協調融資などを通じて、無難な滑り出し。日本企業も関与しやすい環境が整いつつある。

加盟が認められたのはアジア域内がアフガニスタン、香港など5カ国・地域、域外がカナダ、ベルギー、ペルー、スーダンなど8カ国。金立群総裁は「これでほぼ全ての大陸からメンバーを迎え入れることになり、誇りに思う」と述べるとともに、さらに多くの参加に期待を示した。

習近平国家主席が創設を提唱したAIIBは16年1月に業務を開始。中国が進めるシルクロード経済圏「一帯一路」の構築と歩調を合わせ、アジア、欧州、アフリカなどで、道路、鉄道、港湾、送電網といったインフラの整備に投融資する。

2月の英小売売上高、前月比1.4%増=国民統計局【3/23 18:32】
英国会近くでテロ、3人死亡=実行犯射殺、7人拘束―イスラム過激思想影響か【3/23 18:31】
〔ロンドン外為〕円、111円近辺(23日午前9時)【3/23 18:11】
大阪市に大型診療所=南海新ビルに―南東北グループ【3/23 17:57】
電子タグで簡単決済=次世代カート試作―大日本印刷【3/23 17:40】
個人消費を上方修正=景気判断は維持―月例報告【3/23 17:39】
東京市場サマリー(23日)【3/23 17:38】
【東京株式】4日ぶり小反発=買い戻しに

円高進行が重しとなる中、前日の大幅安の反動とみられる買い戻しがやや優勢となり、日経平均株価は前日比43円93銭高の1万9085円31銭、東証株価指数(TOPIX)は0.21ポイント高の1530.41と、ともに小幅ながら4営業日ぶりに反発した。銘柄の41%が値上がりし、値下がりは52%だった。出来高は17億5963万株、売買代金は2兆1905億円。

【東京外為】ドル、111円台前半=オバマケア代替法案に警戒感

東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、米国の医療保険制度改革(オバマケア)代替法案の行方に警戒感が広がり、1ドル=111円台前半に下落した。午後5時現在、111円24〜25銭と前日(午後5時、111円50〜50銭)比26銭のドル安・円高。ユーロは対円、対ドルとも下落。同時刻現在は1ユーロ=120円07〜07銭(前日午後5時、120円45〜45銭)、対ドルで1.0793〜0796ドル(同1.0801〜0803ドル)。

【東京債券】先物、3日続伸=上値は重く

債券先物は小幅に3日続伸。長期国債先物の中心限月2017年6月物は前日比6銭高の150円48銭で取引を終えた。長期金利の指標となる新発10年物国債346回債の利回りは変わらずの0.055%。

【短期金融市場】無担保コール翌日物速報値、マイナス0.037%

日銀が公表した短期金融市場での無担保コール翌日物の速報値は、加重平均がマイナス0.037%(前営業日確報値マイナス0.039%)、最高レートは0.001%(同0.001%)、最低レートはマイナス0.070%(同マイナス0.075%)だった。

【東京原油】中東産原油、WTI上昇受け5日ぶり反発

中東産原油は5営業日ぶりに反発。終値は、中心限月8月先ぎりが前日比340円高の3万4910円、ほかが130〜300円高。日中立ち会いは、ニューヨーク原油(WTI)相場が切り返したことから、期先中心に買いが先行して始まった。その後、WTIの堅調推移を眺め上げ幅を拡大し、この日の高値圏で取引を終えた。

【東京金】円引き締まり受け小反落

総じて小反落。終値は、中心限月2018年2月先ぎりが前日比6円安の4447円、ほかは5円安〜変わらず。日中立ち会いは、円の引き締まりを受け、売りが先行して始まった。その後、取引中のニューヨーク金先物相場や為替が小幅な値動きにとどまったことから、もみ合いが続いた。

【経済統計】

◆ガソリン価格、0.3円上昇の133.8円=4週連続上昇

◆2月のパソコン出荷、14.7%増=個人向け好調―JEITA

【要人発言】

◆菅官房長官:昭恵氏、「寄付していないと考えている」=籠池氏の100万円寄付発言

【ニュースから】

◆籠池氏、「首相夫人から100万円」=森友問題で証人喚問―参院予算委

◆個人消費、3カ月ぶり上方修正=景気判断は維持―3月の月例経済報告

◆独自:ドコモ、通話補助アプリを本格展開=18年、音声を文字変換

◆トヨタ・NTT、「つながる車」で提携=次世代通信技術を活用

◆JR東海、17年度設備投資額は4570億円=リニア工事の本格化で過去最大

〔東京外為〕ドル、111円台前半=オバマケア代替法案に警戒感(23日午後5時)【3/23 17:22】
顧客情報5100件紛失=大和証【3/23 17:17】
円相場、111円24〜25銭=23日午後5時現在【3/23 17:12】
車両生産、27日再開=三重の工場火災―トヨタ車体【3/23 17:11】
〔アジア外為〕軟調=オバマア代替案の行方に注目(23日)【3/23 17:05】
ついに防御破られる=車暴走テロ、阻止困難―英【3/23 17:04】
【ロンドン時事】フランスやベルギー、ドイツなど大陸欧州で近年、イスラム過激派によるテロが相次ぐ中、英国では大規模テロは発生していなかった。その理由については情報機関の優秀さや、島国のため武器流入を阻止しやすいことなどが指摘されてきた。しかし、車で歩行者に突入するという比較的容易な手口によってついに防御網が破られ、英国を標的としたテロが今後さらに誘発される恐れが現実味をもってきた。

英国では2005年7月、52人が死亡する同時多発爆破テロがロンドンで発生したが、その後多数の死傷者が出るテロは起きていなかった。警察当局は今月6日、13年6月以来、13件のテロ計画を未然に阻止したと発表したばかりだった。

ただ、「テロ発生は時間の問題」と警戒する見方は少なくなかった。政府発表のテロ警戒レベルは14年8月以来、5段階の上から2番目で「テロ発生の可能性がかなり高い」を意味する「重大」に引き上げられたまま。情報機関、対外情報部(MI6)のヤンガー長官は昨年12月、英国が直面する過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロの脅威は「前例がない大きさ」と警告していた。

車で歩行者を襲うテロは最近、欧州各地で相次いでいる。仏南部ニースで昨年7月、花火見物客に大型トラックが突っ込み86人が死亡。ドイツの首都ベルリンでも昨年12月、クリスマスの市場にトラックが突入し12人が犠牲となった。各国がテロ対策を強め、爆発物や銃によるテロが難しくなる中「車暴走テロ」が今後一層増加する恐れがある。

ベルリンの事件後、ロンドンでもエリザベス女王の住居バッキンガム宮殿前の道路を、観光客に人気の衛兵交代の時間帯に試験的に封鎖する措置が取られた。しかし、車さえあればいつ、どこでも可能なのが暴走テロだ。「予測し防御するのが最も困難なタイプのテロ」(BBC放送)とみられており、完全阻止は不可能だ。

〔香港外為〕ドル、午後3時現在111円23〜30銭(23日)【3/23 16:47】
ファミマに宅配ロッカー=コンビニ受け取り拡大―日本郵便【3/23 16:45】
ガソリン価格、4週連続上昇【3/23 16:21】
資源エネルギー庁が23日発表したレギュラーガソリン1リットル当たりの店頭価格(21日時点)は、全国平均で133.8円となり、前週に比べ0.3円上昇した。3月初旬の石油の卸価格引き上げの転嫁が進み、4週連続で値上がりした。

地域別では、35道府県で値上がりした。上昇幅は高知(3.6円)、福島、愛媛、徳島(各1.3円)などが大きかった。値下がりは、岡山(1.0円)、石川(0.6円)、富山(0.3円)の10都県。京都、島根は横ばいだった。

日立工機のTOB終了=議決権の9割弱を取得―米ファンド【3/23 15:54】
〔東京貴金属〕金、円引き締まり受け小反落=白金は4日続落(23日)【3/23 15:51】
金は総じて小反落。終値は、中心限月2018年2月先ぎりが前日比6円安の4447円、ほかは5円安〜変わらず。日中立ち会いは、円の引き締まりを受け、売りが先行して始まった。その後、取引中のニューヨーク金先物相場や為替が小幅な値動きにとどまったことから、もみ合いが続いた。

ゴールドスポットは、1円高の4466円。

銀は、30銭〜60銭安。

白金は4営業日続落。NY安や円高を映し、中心限月18年2月先ぎりが23円安の3446円、ほかは20〜30円安で取引を終えた。プラチナスポットは21円安の3452円。

パラジウムは5〜32円高で引けた。(了)

[時事通信社]
http://fx.dmm.com/market/news/


http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/415.html

[政治・選挙・NHK222] 賃上げ失速 “曲がり角”の春闘 個人消費上方修正 下流化ニッポン 貧困直結「住宅危機 人口減社会 中間層の憤り社会を分断

賃上げ失速 “曲がり角”の春闘

3月23日 15時01分
3月15日、大手企業の経営側が労働組合の要求に一斉に回答する集中回答日を迎えました。結果は、多くの企業で4年連続のベースアップとなったものの、その水準は去年を下回るというものでした。デフレからの脱却には所得の向上が欠かせないとして、政府が経済界に賃上げを求める、いわゆる「官製春闘」もことしで4年目。賃上げの流れはかろうじて継続したものの、その在り方は曲がり角に来ています。
(経済部・山田賢太郎)
賃上げの勢い なぜ失速

賃上げの勢いは、なぜ、失速したのか。

私が担当している自動車業界を中心に、ことしの春闘の労使交渉を振り返ってみます。

どれくらいの水準の賃上げに踏み切るか、経営側が決断する際に、大きな判断材料となるのは、今後も安定的に収益が上げられるかどうか、という点です。経営側からすると、ひとたび、基本給を引き上げるベースアップを実施すると、将来にわたって会社側の負担になるという理由からです。

トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなど主な自動車メーカーの労働組合は、去年の要求額と同じ3000円のベースアップを要求しました。これに対して、経営側は、円高で足元の収益が圧迫されているうえ、さらに保護主義的な主張をするトランプ政権の政策が、経営にどのような影響を及ぼすのか読み切れない、などと主張。組合側にとっては逆風が吹く中で交渉が始まりました。

自動車メーカーなどの労働組合で作る自動車総連の相原康伸会長は「働く人の将来への不安を払しょくし、豊かな国内市場を作っていくという意味でも、労働条件の引き上げはその根幹だ」と高い水準でのベースアップにこだわる姿勢を示しました。

ニュース画像
これに対して、ある自動車メーカーの幹部は「政府からの要請もあり、ベースアップはやらないといけないが、足元の業績もよくなく、去年までのようにはいかない」と慎重な物言いで、労使双方の溝は深い状態が続きました。

こうした中で、注目されたのが春闘の相場作りに大きな影響力を持つトヨタ自動車の対応です。トヨタ自動車はことし3月期の業績は、本業のもうけを示す営業利益が前の年度と比べて35%余りも減益となる見通しです。大きく利益が落ち込む中で、トヨタの幹部は「会社の実力以上のものは出せない」と述べるなど、経営側は去年の妥結額の1500円には遠く及ばないというスタンスを崩しませんでした。

ただ一方で、政府から賃上げへの期待が強く示されていることや、将来を担う人材を育て、会社の競争力を高めるという観点から、負担感が強い子育て世代にターゲットを絞って、子どもがいる従業員への手当を拡充することで、最終的には労使が歩み寄る結果となりました。

15日に妥結した主な大手企業の経営側の回答状況です。

<ベースアップの金額>(月額・ベースアップ相当分含む)

ことし 去年
トヨタ自動車 1300円 ↓ 1500円
日産自動車 1500円 ↓ 3000円
ホンダ 1600円 ↑ 1100円
三菱自動車 1000円 ↓ 1100円
日立製作所 1000円 ↓ 1500円
パナソニック 1000円 ↓ 1500円
富士通 1000円 ↓ 1500円
三菱重工 1000円 ↓ 1500円
IHI 1000円 ↓ 1500円
4年連続でベースアップは実施するものの、多くの企業で去年の妥結額を下回り、賃上げの勢いは失速気味という結果となりました。

ことしの労使交渉を振り返って、自動車総連の相原康伸会長は「掲げた要求額に届かなかったことは現実だし、昨年の実績を下回る状況も残念だと言わざるをえない」と総括。一方、経営側は、トヨタの上田達郎常務が「収益が大幅減益の見通しになる中で、昨年並みのベアは難しい状況だった。組合員の活力や日本経済の好循環に対する貢献を考え合わせたのが今回の回答だ」と話し、難しい判断だったと振り返りました。

働き方改革、大きなテーマに

一方で、ことしの春闘では新たな動きが見られました。

それは「働き方改革」が労使交渉で大きなテーマとなったことです。

自動車部品メーカーの「曙ブレーキ工業」はベースアップのほかに、仕事が終わってから次の勤務までに一定の間隔を設けるインターバル制度や、在宅勤務制度など新しい制度を導入することで妥結しました。また、大手タイヤメーカーの「住友ゴム工業」は、所定労働時間を15分短縮するものの、基本給は変えず実質的な賃上げを行うほか、1時間単位で有給休暇が取得できる新たな制度を導入することになりました。

今後の春闘について、曙ブレーキの荻野好正副社長は「賃金の引き上げも大事だが、経営を取り巻く環境は不透明で一律のベースアップは難しくなっている。働き方改革でも労使間が連携してさまざまな制度の導入につなげたい」と話していました。

春闘の歴史で、働き方にこれだけ焦点が当たるのは初めてのことで、長時間労働の削減など時代に即した新しい働き方を模索する動きは来年以降さらに広がる見通しです。

ただ、働き方改革は、単に残業を減らすとか、休みを取りやすくするだけではありません。短い時間で成果を上げるということも求められます。労使が、賃上げだけでなく、働き方についても真剣に議論をする、そのスタートラインに立ったとも言えます。

ニュース画像
曲がり角にきた“春闘”

このように新しい動きも見え始めたことしの春闘ですが、取材を通じて感じたのは、春闘の在り方そのものが、今、曲がり角にきているのではないかということです。

「賃金は上がっているけど消費に結びつかないのも事実。なぜそうなのか、分析して対応する時期が来たのではないか」

こう指摘したのは、日本商工会議所の三村明夫会頭です。デフレからの脱却を目指す政府の呼びかけに応じて、企業は賃上げを継続してきてはいるが、政府の狙いとは裏腹に、それが消費の拡大に結びついていないのではないか。そんな疑問が経営者の間から出始めています。

その理由については、さまざまな見方がありますが、厚生年金や健康保険といった社会保険料の負担額も増えているため、賃金が上がっても実際の手取りはそれほど増えていないのではないかという分析もあります。

労使がともに知恵を出し合いながら、効率的な働き方と生産性の向上を両立させる新たな仕組みをどう作り上げてゆくのか。また、政府の側も、経済界に賃上げを呼びかけるだけではなく、根強い将来不安の払しょくに結びつく社会保障制度の抜本的な改革にどう取り組むのか。経済の好循環を実現するためにも、経営側と組合側、そして、政府の側も、一度立ち止まって考えることが必要な時期にさしかかっています。

ニュース画像
山田賢太郎
経済部
山田賢太郎 記者
平成14年入局
熊本局、松山局をへて経済部
現在 自動車・重工業界を担当
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http://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0323.html

 

個人消費、3カ月ぶり上方修正 3月の月例経済報告
2017/3/23 17:45
保存 印刷その他
 政府は23日まとめた3月の月例経済報告で、国内景気の基調判断を「一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」として据え置いた。据え置きは3カ月連続。新車販売などが好調だったことなどから個人消費の判断を3カ月ぶりに上方修正した。

 個別項目では個人消費と企業収益を上方修正した。個人消費は2月、生鮮野菜の高騰で消費者の節約志向が強まったとして下方修正していた。だが新車販売や外食が復調したため3月は上方修正した。企業収益は1日に財務省が発表した2016年10〜12月期の法人企業統計で経常増益だったことを受け、2カ月連続で上方修正した。

 内閣府は全体の判断を据え置いた理由として「雇用や所得環境の改善に比べ、消費の回復がまだ鈍いため」としている。

 海外景気は「一部に弱さがみられるものの、全体としては緩やかに回復している」として4カ月連続で据え置いた。

賃上げ減速、中小・非正規が消費回復の鍵 (2017/3/15 23:43)

消費は力強さ欠く 2月の街角景気1.2ポイント低下 (2017/3/9 2:30) [有料会員限定]

特集「点検 日本経済」

主要ジャンル速報
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H18_T20C17A3EE8000/

月例経済報告 消費は持ち直しも景気判断は据え置き
3月23日 18時07分
政府は、今月の月例経済報告で、所得の伸びを背景に「個人消費」は持ち直しているものの、景気全体としては大きな変化は見られないとして、「一部に改善の遅れも見られるが、緩やかな回復基調が続いている」というこれまでの判断を維持しました。
今月の月例経済報告で、政府は、『個人消費』について、所得が緩やかに伸び、自動車販売や外食などが上向いているとして「総じて見れば持ち直しの動きが続いている」と判断を引き上げました。
また、輸出企業を中心に業績が上向いてきていることから、『企業収益』も「改善している」と2か月連続で判断を引き上げました。
『輸出』や『企業の生産』は「持ち直している」という判断を据え置き、『住宅建設』も「このところ弱含んでいる」という判断を変えませんでした。
この結果、景気全体としては大きな変化とは言えないとして、「一部に改善の遅れも見られるが緩やかな回復基調が続いている」というこれまでの判断を維持しました。
また、景気の先行きについては緩やかに回復していくとしていますが、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の今後の利上げの動きや、トランプ政権の経済政策などに留意する必要があると指摘しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170323/k10010921901000.html

 

下流化ニッポンの処方箋 貧困に直結する「住宅クライシス」をどう防ぐか 貧困クライシス・インタビュー(3)

2017年3月15日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事
貧困クライシス・インタビュー(3)
 「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版、972円)を執筆した藤田孝典さんへのインタビュー最終回は、藤田さんが提唱する「社会住宅構想」について聞きました。ハウジングリスクを減らす住宅政策への転換を訴えます。出版記念トークライブ「藤田孝典さんと考えるニッポンの未来」は3月30日(木)です。【経済プレミア編集部・戸嶋誠司】

欧州で定着する「社会住宅」
 −−藤田さんはかねてベーシックニーズ、つまり生活に必要な素材の脱商品化を提唱してきました。中でも住宅分野は必要性が高いと訴えています。その考え方と方法を教えてください。
 藤田 住宅分野への投入資金を増やして住宅費(家賃)全体を下げ、不安定居住による貧困を回避したり、貧困ビジネス介入を防いだりする考え方です。不安定居住の問題は貧困に直結し、また困窮からの脱出を難しくします。日本では賃貸も分譲も含め、住宅は経済商品という考え方が根強いですが、その意識を変え、住宅を社会ストックとして整備しよう、という提案です。
 具体的には、住宅費の安い特区を作り、家賃負担を軽くしたい人に集まってもらう、あるいは、空き家を政策的に活用する、家賃への公的補助を増やすなどの方法が考えられます。
 −−公営住宅を増やすということですか?
 ◆欧州で長く定着している「社会住宅」(建設や管理に公的助成がある住宅)の考え方です。国や自治体建設による公営住宅があり、また民間企業や団体が公的助成を得て運営する住宅もあります。欧州では社会賃貸住宅が住宅全体の2割程度を占め、家賃補助受給世帯は2割、というデータもあります。
藤田孝典さん=高橋勝視撮影
 全体的に所得が減り、デフレトレンドが終わらず、人口減少が避けられないのに、日本の住宅政策はいまだ「持ち家重視」です。住宅ローン減税のような持ち家促進施策はあっても、公的住宅整備率は6%足らずです。そこで、住宅を社会資本として整備することで、ハウジングリスク(住まいを失うリスク)と困窮に陥る可能性を減らすのが狙いです。
 雇用の不安定化と所得低下は、住宅確保の大きな障害です。同時に住居が不安定だと就業や健康に影響します。中間層や低所得層向けの住宅政策充実は、経済成長や人口問題などさまざまな分野によい影響を与えるでしょう。
住宅「脱商品化」の政策転換を
 −−確かに、高い家賃負担にあえいだり、高齢者が賃貸住宅を借りにくい状況があり、不安は増すばかり。一方で、全国で空き家空き室が増えています。全体的になんだかちぐはぐです。
 ◆現在の住宅政策は、ほぼ市場任せです。ここに国、行政が介入するべきだと思っています。住宅の価格、家賃が高いまま、社会経済情勢の大変動で中間層以下の人たちに住宅不安が生まれています。不安は消費を抑え、家族形成に影響します。家賃やローン負担を減らすための住宅政策転換は時代の要請ではないでしょうか。
 ただし、国や自治体が直接住宅を建てて、ではなく、民間の力を活用しながら、市場を通じて住宅政策に手を入れる方法が望ましいと思います。民間マンションを借り上げ、一部家賃補助の仕組みを取り入れて貸している東京都住宅公社のような例もあります。
 −−昔は公団住宅や公営住宅がたくさんありました。
 ◆1951年施行の公営住宅法に基づいて、戦後の住宅整備が進みました。しかし今、自治体は公営住宅の管理・募集戸数を減らしています。認定NPO法人ビッグイシュー基金が2013年に調査・発表した「住宅政策提案書」は、近年の状況を次のように指摘しました。
 「自治体が管理戸数、募集戸数を減らした結果、応募倍率は上昇し、供給対象は狭まり、高齢者、障害者、母子家庭など、福祉カテゴリーに合致する世帯をおもな対象とする傾向を強めた。たとえ低所得であっても稼働能力があると見なされると、公営住宅入居機会はほとんど与えられない」

 住宅確保は生活の基本です。憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とうたっています。住宅問題をただ市場に任せるだけではなく、国が積極的に関与することで、新しい価値を創造すべきでしょう。
高負担と手厚い還元が必要
 −−財源が必要ですね。
 ◆そのためには思い切った増税と、税金の手厚い還元が必要です。この20年、税金や税率はじわじわと上がりましたが、上がった分が返ってくる実感を私たちは持てませんでした。負担感ばかり強まるので、増税への忌避感も強い。年金や医療をめぐって高齢者や障害者への風当たりも強まりました。今のままでは分断が広がるばかりです。
 私は増税と同時に、医療、介護、教育、保育、住宅のベーシックニーズ5分野への現物給付サービスを強化するべきだと提言しています。そうやって安心感が生まれると、例えば消費を伸ばしたり、結婚につながったりするでしょう。
 中間層がどんどん下に落ちている今の現状は、本のタイトル通り、まさに「貧困クライシス」です。クライシスを乗り越え、未来を作るための新しい発想を、どんどん打ち出していきたいですね。

藤田孝典さんの新著「貧困クライシス」好評発売中
 藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が3月1日に発売されました。相対的貧困率が16%に達したニッポンの現状を、細かな事例とデータで検証しています。全国の書店、アマゾンでお買い求めいただけます。
貧困クライシス トークライブ!藤田孝典さんと考える「ニッポンの未来」
 3月30日(木)午後6時半〜8時、東京都千代田区一ツ橋1のパレスサイドビルB1毎日ホール(地下鉄東西線竹橋駅直結)で開催します。よき未来を作るためにどのような新しい仕組みが必要なのか、来場者のみなさんと一緒に考えます。入場無料、予約制です。予約は毎日メディアカフェのサイトからどうぞ。
http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170314/biz/00m/010/001000c 

若者と女性は活躍できるか“人口減社会”のサバイバル
2017年3月12日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

貧困クライシス・インタビュー(2)
 3月1日発売「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版、972円)では、若者と女性を追い詰めるブラック企業の実態も多く紹介しています。「失われた20年」を経て、さらに苦しい時代を生きる若者や女性をどう支えればいいのか。著者・藤田孝典さんへのインタビュー2回目です。【経済プレミア編集部・戸嶋誠司】

藤田孝典さん=高橋勝視撮影
20年後の2037年はどんな世界になっているか
 −−バブル経済が崩壊し、グローバル化が進んで若者の貧困は誰もが知る社会問題になりました。非正規雇用率は40%超えなのに、少子化で人口減少は確定している。次の20年でいったい何が起きるのでしょうか。いま30歳の人は50歳になります。
 藤田 現在までの少子化で、日本の人口が今後減り続けることはほぼ確定しています。そもそも、人口減少とは社会システムの維持が困難になること。生産年齢人口が減り、消費が減り、税収も減るわけですから。
 このままデフレが続き、再分配のシステムが変わらず、非正規労働者が増え続けると、人口減少トレンドは加速します。社会はさらに縮み、格差が広がり、分断されて、今以上に子供を育てることが難しくなる。難しいから子供を育てようと思う人はさらに減る。あるいは、育てることを諦める人が増えます。
 現状を放置したら間違いなく日本経済は衰退するでしょう。単なる貧困問題にとどまらない、未来に対する最大の危機感を持つべき時期が来たと思います。
経団連本部前で長時間労働反対をアピールする若者=2017年3月8日
 −−将来親になる人の数が減っているのだから、今後生まれる子供の数を劇的に増やさない限り、人口も増加に転じない。しかし、子供を増やす仕組みになっていない、ということですね。どこで間違ったのでしょうか。
 ◆団塊世代(1947〜49年生まれ)に次いで人口ボリュームが大きい団塊ジュニア(広義の意味で1970年代生まれ)のところで、手を打たなければいけなかったのですが、何もできませんでした。
 団塊ジュニアは年間200万人ほどのボリュームがあります。彼らが学業を終え、就職や結婚、出産に臨もうとした時期は、バブル崩壊後の「失われた20年」と重なります。就職できなかった人、社会的経済的不安から結婚できなかった人、子供を作らなかった人が大量に発生し、2000年代前半に起こるはずだった「第3次ベビーブーム」は、結局起きませんでした。
 バブル崩壊後、政府は労働者派遣業の規制を緩和し、企業は非正規雇用を増やしました。その結果何が起きたか。低賃金労働者が増え、所得格差が広がりました。子供を増やすのではなく、減らす政策。企業を生かそうとして将来の人口を減らしてしまったのですから、失政と呼んでいいでしょう。
今の社会で女性は本当に活躍できるのか
 −−労働力確保のために、女性活躍推進が宣伝され、移民受け入れも検討されています。
 ◆昨年の「保育園落ちた日本死ね!」ブログの通り、待機児童は減らず、子育て環境は良くなっていません。しかし、仕事に就いて家事育児介護もやれ、という今の仕組みで、女性が活躍したがるとは思えません。
 他の先進諸国のように移民を受け入れ、語学と職業訓練を提供して、労働市場に押し出していくことも現実的な政策の一つとは思いますが、日本が彼らに提供する労働環境や賃金が、彼らにとって魅力的なものかどうか分かりません。
 日本でも外国人への偏見や排外主義が高まっています。実習生制度が不十分で、賃金差別もあります。それを改善しないまま、簡単に定着してくれるとは思えません。予想以上に日本は働きにくい、住みにくいと思われるでしょう。

 −−常に政策が後手後手ですね。
 ◆専門家ですら予想が立てられないほど人口減少と高齢化の速度は速く、高齢者の寿命の延びが著しい。急速に成熟しながら、人口が減り、衰退していく可能性が高く、あらゆる社会システムの専門家は強い危機感を持っています。だから今こそ、社会システム維持のために思い切った意識改革と政策転換が必要なのです。
 今後、企業が非正規雇用を減らすとは思えません。むしろ、正規雇用の賃金を下げ、平準化を目指すのではないでしょうか。もしそうであるなら、社会保障をさらに充実させなければいけません。
 どんな雇用形態であっても子供をちゃんと育てられるようにする、教育を受けさせられるようにする、介護と医療をちゃんと受けさせられるようにする仕組みに転換して、今と将来への安心感を提供する必要があります。
バブルに踊り、「失われた20年」を作った団塊世代の罪
 −−こんな社会にした大人たちに腹は立ちませんか?
 ◆立ちますよ。結局のところ、90年代中盤以降、若者の雇用を不安定にしたことが格差拡大や少子化を招いたのですから。振り返って、大人社会のその時々の選択に恨み節を言いたくなります。「あそこで踏ん張ってくれてたらなあ」と。
 企業防衛で福利厚生を削り、人件費を削り、社会保障にも手を入れず、若者を犠牲にしながら社会を温存してきたツケを、高齢者自身が今払わされようとしています。老後不安を生んだのは彼ら自身と言ってもいい。社会保障費を負担する若者が減って、自分に跳ね返るとは、なんの因果応報かと思います。
 「失われた20年」については、特にバブルに踊った団塊世代の人たちには、きっちり責任を取ってほしいと思います。

 −−若者には「貧困は自己責任だ」という意識が強いですね。
 ◆そう思わされてきたからです。そして、彼らは社会に対して「おかしい」と声を上げる回路を持っていません。内省して、「自分が悪いからだ、努力しなかったからだ、誰かのせいだ」とひたすら悩む。連帯したり、政治に向き合ったりした経験に乏しいし、かつてその役割を担った労働組合の力も弱い。
 その回路を作り、若者に希望を持たせ、将来への安心感を抱かせる政策が必要とされているのです。
藤田孝典さんの新著「貧困クライシス」好評発売中
 藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が3月1日に発売されました。相対的貧困率が16%に達したニッポンの現状を、細かな事例とデータで検証しています。全国の書店、アマゾンでお買い求めいただけます。
貧困クライシス トークライブ!藤田孝典さんと考える「ニッポンの未来」

 3月30日(木)午後6時半〜8時、東京都千代田区一ツ橋1のパレスサイドビルB1毎日ホール(地下鉄東西線竹橋駅直結)で開催します。良き未来を作るためのどのような新しい仕組みが必要なのか、来場者のみんさんと一緒に考えます。入場無料、予約制です。予約は毎日メディアカフェのサイトからどうぞ。
 <次回の「下流化ニッポンの処方箋」は、3月15日に掲載します>
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【「頼みの綱」生活保護へのバッシングはなぜ起きるのか】

藤田孝典
NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。
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連載 下流化ニッポンの処方箋
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下流化ニッポンの処方箋
「中間層の憤り」が社会を分断“貧困ニッポン”の危機
2017年3月10日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

貧困クライシス・インタビュー(1)
 連載「下流化ニッポンの処方箋」が本になりました。3月1日発売「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版、972円)です。3月30日(木)午後6時半からの出版記念トークライブ「藤田孝典さんと考えるニッポンの未来」を前に、藤田さんにニッポン社会の危機と、未来への希望について聞きました。【経済プレミア編集部・戸嶋誠司】

「貧困自己責任論」をたたき潰したい
 −−昨年6月の連載開始以来、あらゆる世代の貧困状況をこれでもかこれでもかというほど取り上げ、紹介してきました。「暗い話を広めるな」という批判も強かったようですね。状況は少しは変わったと思いますか?
 ◆藤田 「下流老人」を出版した2015年以降、貧困に対する社会の認知は少しずつ進んだと思います。所得が落ち込み、みんなが生活に困りやすくなっている状況が、肌感覚で理解され始めたのでしょう。誰もが「いつ自分がそうなるか分からない」という不安を感じ、当事者として考えられるようになってきたのだと思います。逆に言えば、「貧困が身近に」なったのかもしれません。
 その結果、全国での講演回数も増え続けています。不安なので話を聞きたい、もう少し貧困の実情とその対策を知りたい、と考える人が多くなりました。そこでは「一生懸命働いて、努力しているのに、困窮から抜け出せないのはなぜか」とよく質問されます。
 今回の本「貧困クライシス」でも、困窮は社会構造の問題であることを重ねて指摘しています。「自分が悪いわけではない」ということの意味を、もっと多くの人に考えてほしいと思い、本にまとめました。自己責任論をたたき潰したいのです。
 −−「貧困自己責任論」は私たちの心に刷り込まれています。
 ◆貧困バッシングや生活保護受給者批判を見ても、「貧困は本人のせい」「努力しないで怠けていたからだ」という批判が相変わらず強い。貧困への差別と偏見は、自己責任という感覚の裏返しです。
藤田孝典さん
 だからこそ、連載では、貧困に至った登場人物の生活ディテールをしつこく細かく紹介しました。自己責任なんてとんでもない、誰もがいつこうなってもおかしくないんだ、という実態を広く訴えたかったのです。
 2年前、「下流老人」の講演に行くと、「貯金をしていなかった本人が悪い」「若いころから計画性を持って生きてこなかったためだ」という発言が多かった。「貧困は個人の努力で防ぐもの」という意識ですね。
 しかし、アベノミクスの限界が見え、グローバル化や少子高齢化によって社会経済構造が激変しようとしている今、「個人の努力にも限界があるよね」というふうに、認識は変わってきました。ただし、「じゃあどうすればいいのよ」という不安は消えず、回答も用意されていません。
家族だけでは解決できない問題
 −−自己責任でなんとかするしかないと思っていたが、「どうもそうではないらしいぞ」と気づき始めた2年間、ということでしょうか。
 ◆まだ揺れていますよ。下流老人にならないために、どんな保険に入ればいいか、どんな商品を買えば貧困にならないのかと悩んでいます。それは個人の努力でしかありません。
 これまで日本の社会福祉・社会保障は、家族に頼っていました。個人や家族で乗り切るという精神論で立ち向かわざるを得なかった。家族原理主義以外の規範がないのです。では、家族の力が弱まったらどうするのか。その時の選択肢がそもそも少ない。家族主義からの脱却は、日本の社会福祉の主要目標の一つだと思っています。
 −−でも、政治は伝統的な家族観を持ち出して、家族内で解決しろと強要してきます。
 ◆社会の最小単位である家族が最初に支えるのは自明ですが、家族間の関係は思ったほど強固でもなく、しかも揺らいでいます。世帯所得が下がっているので、助け合いはすぐに負担に変わります。
 家族が大事、家族はお互いに温情と慈愛に満ちているものだという言説は、DV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待の増加を説明できません。だから、どのような家族であっても、社会の側に最低限の保障、困らないシステムを用意しておくことが必要なのです。誰もがそれを頼っていいという、意識の転換を強く促したいですね。

国境を超えて広がる分断と格差
 −−経済情勢が好転したかどうかはともかく、貧困状況を表す指標はどんどん上昇しています。しかしながら、他者の境遇を想像できない人たちもいて、社会に分断が起きているように思えます。
 ◆2012年の相対的貧困率は16%あまり。6人に1人が相対的な貧困状態にありますが、そもそも、急に貧困が増えたわけではありません。ここ20年間で、中間層の人たちが塊として、ゆっくり下に落ちています。
 中間層の中や下にいる人たちは、さらに下に落ちないように必死に踏ん張っている。努力して、がんばっている人たちからは、貧困状態にある人たちがなぜがんばれないのか、分からない。「私のように努力すれば大丈夫なのに」という視線は、すぐに「努力をしないから貧しくなったのだ」という偏見に転じます。また、このような努力至上主義は、生活保護受給者などの弱者批判に結びつきやすいという特徴があります。
 −−生活保護や外国人へのバッシングのことですか?
 ◆友人の井手英策・慶応大教授(財政社会学)は、中間層による弱者批判や移民バッシングを「反乱」と呼んでいます。彼は自分のブログ(http://ameblo.jp/eisku-ide/)でこう書いています。
 「中間層、とくにその中でも『中の下』の層の憤りが歴史を動かしているということ。転落の恐怖におびえる『中の下』が分厚く、かつ彼らが強い生活不安に襲われている国ほど、低所得層や移民層のバッシングが政治的に効果をもつ。『あなたたちの生活不安を生み出しているのは、あなたたちの仕事を奪い、福祉を乱費し、財政を危機に陥らせているあいつらだ』という具合に。英米の物語は対岸の火事ではない」
 英国のEU(欧州連合)離脱決定や米国のトランプ大統領誕生の背景が、貧困や所得格差をめぐる日本の状況と似ているという指摘です。一生懸命がんばっても報われないのは敵ががいるからじゃないか、というバッシングの連鎖は、国境を超えて広がっている。その結果、日本でもあらゆる場所で分断が起きています。
 本のタイトル「貧困クライシス」には、貧困だけではなく、貧困を巡る社会の分断こそが危機である、という思いも込めています。誰かをたたいても、自分の暮らし向きが良くなるわけではないし、誰かを幸せにするわけでもない。闘うべき相手を間違えてはいけないと、強く思います。
 <次回「若者と女性は活躍できるか“人口減社会”のサバイバル」>
藤田孝典さんの新著「貧困クライシス」好評発売中
 藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が3月1日に発売されました。相対的貧困率が16%に達したニッポンの現状を細かな事例とデータで検証し、その解決法を読者のみなさんと一緒に考えます。全国の書店、アマゾンでお買い求めいただけます。
貧困クライシス トークライブ!藤田孝典さんと考える「ニッポンの未来」

 3月30日(木)午後6時半〜8時、東京都千代田区一ツ橋1のパレスサイドビルB1毎日ホール(地下鉄東西線竹橋駅直結)で開催します。いま、どのような新しい仕組みが必要なのか、良き未来を作るための発想の転換を来場者のみなさんと一緒に考えます。入場無料、予約制です。予約は毎日メディアカフェのサイトからどうぞ。
 <次回の「下流化ニッポンの処方箋」は、3月12日に掲載します>
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藤田孝典
NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。
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下流化ニッポンの処方箋
生活困窮者の保護費を搾り取る貧困ビジネスの暗闇
2017年2月1日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

 生活保護受給者向けの宿泊施設を埼玉県内の複数箇所で運営していた宗教法人に対し、さいたま市が1月26日、新規入居者受け入れと施設の新規開設を禁じる行政処分を出しました。いわゆる「貧困ビジネス」に対する、条例に基づいた規制です。私たちのNPO法人「ほっとプラス」もこれまで入居者の相談に応じ、また県やさいたま市に対応を求めていました。その経緯を紹介します。
東京の路上生活者を勧誘して埼玉の施設に収容
 行政処分を出されたのは、さいたま市岩槻区や川口市などで、路上生活者を収容する宿泊施設を運営している宗教法人「善弘寺分院宗永寺」(東京都足立区)です。
 宗永寺は2006年ごろから埼玉県内に低額宿泊所を開設し始め、主に東京都内で勧誘した路上生活者を入居させています。届け出されているさいたま市内の施設は次の通りです。
 (1)宗教法人善弘寺分院宗永寺岩槻寮=岩槻区大字浮谷1489の1(2)美園寮 =岩槻区大字釣上新田1478の1(3)掛寮=岩槻区大字掛460の3(4)豊春寮 =岩槻区大字表慈恩寺959の1(5)鹿室寮=岩槻区大字鹿室1152の1
 ある日、宗永寺の施設で暮らすある男性が「ほっとプラス」に相談に来ました。
 「施設も食事もひどくて退去したいが、手元にお金が残らないので出るに出られない。どうしたらいいでしょうか」というものでした。
 仕組みはこうです。路上生活者を入居させた後、宗永寺職員が役所に同行して生活保護を申請させます。同時に、宗永寺と入居者の間で金銭管理契約を結びます。宗永寺は毎月の保護費支給日に、マイクロバスなどで入居者を役所に連れて行き、受給した生活保護費をその場で袋ごと回収します。この保護費で施設を運営し、利益を上げていると見られます。
反貧困ネットワーク埼玉が開いた「無料・低額宿泊所」の相談会。多くの人が相談に訪れた=埼玉県川口市で2016年4月9日、鴇沢哲雄撮影
劣悪な施設で受給者を囲い込み
 男性の話を聞いて、実際に施設の部屋を見に行きました。施設はさいたま市郊外の岩槻区の民家や畑、工場が混在する地域にひっそりと建っていて、一見すると工事現場の宿舎のような雰囲気です。2階建ての建物の中に2〜3畳程度の小部屋がいくつもあり、入居者が生活しています。
 風呂トイレ共同の建物1階に食堂があり、1日朝夜2回食事が提供されていましたが、揚げ物1品にご飯、みそ汁といった貧しい内容の食事で、栄養が行き届くようなものではありません。タオルなどの生活用品はすべて有料です。
 入居者に平日500円、休日1000円のお金を渡し、あとは宗永寺側が管理します。「金銭管理ができない人に代わってお金を管理し、食事も部屋も提供している」という名目です。実際、入居者から印鑑や生活保護受給者証を預かっています。月平均12万円程度の生活保護費のうち、本人に渡るのは2万〜3万円。住居費や食費、光熱費などの名目で残りを宗永寺側が手に入れる仕組みです。
 狭い部屋と貧しい食事をあてがわれ、生活保護費の大半を入居費用として徴収されるため、まとまったお金が手元に残らない入居者は出ていくこともままなりません。生活困窮者を劣悪な環境に囲い込み、生活保護費を手に入れる「貧困ビジネス」の典型です。
 「食事はひどいし部屋には虫がたくさん出る。人が住む所じゃないが、行くあてもない」という男性に付き添い、市内のアパートを探しました。一方、「ここを追い出されたら路上に戻るしかない。行くところがないのであまり騒がないでほしい」という入居者も多くいました。貧困と路上生活者がなくならない限り、貧困ビジネスもなくなりません。
さいたま市では2013年、無届け施設事業者が入居者の生活保護費を1億円以上横領する事件も発覚した=さいたま市見沼区の宿泊施設で2013年2月、西田真季子撮影
規制強化が入居者を路上に追い帰すジレンマも
 生活保護費支給日に入居者を集団で役所に連れて行き、役所の面前でおおっぴらに保護費を回収する光景は、異様でした。しかし、入居者が自発的に金銭管理契約を結んでいる限り、自治体の介入は困難でした。
 本来、生活保護費は本人が受け取り、管理し、自立に役立てるべきお金です。その制度をビジネス化した事業者が全国ではびこっています。
 福祉関係者やソーシャルワーカーから対策を求める声が上がったことを受け、さいたま市は13年10月、貧困ビジネス事業者を規制する条例を施行しました。市への届け出と、入居者に渡す金額や契約解除条項を定めた金銭管理契約書の写しを、入居者に渡すことなどを事業者に義務づけています。

 さいたま市は今回、指導に対して改善が見られなかったとして、宗永寺に対し新たな利用者入居と、新たな施設開設を禁じる処分を出しました。
 しかし、宗永寺は川口市でも同様の施設を運営しています。16年4月には、川口市の福祉事務所敷地内で生活保護費を回収する様子を取材していた報道機関の記者に、宗永寺の複数の職員が「写真を撮ったな、カメラを出せ」などと大声を出しながら暴行する事件があり、職員が現行犯逮捕されました。しかし、川口市に規制の動きはありません。
 さいたま市生活福祉課によると、16年11月時点で、さいたま市内の届け出施設は74施設。また、宗永寺の5施設には17年1月1日時点で224人が入居しています。
 その多くは稼働年齢層で、入居以前は路上で生活しており、生活保護を受給すらできていませんでした。貧困ビジネスの事業者が彼らに住む場所を提供し、生活保護を受給させているのは確か。施設を閉鎖させても、入居者は路上に戻るだけで問題は解決しません。
 生活困窮者への社会の正しいアプローチと、その後の丁寧なケースワークで、貧困をビジネス化させないことが必要です。
生活保護を受給しながらNPO法人「ほっとプラス」のシェアハウスで暮らす男性=さいたま市内で戸嶋誠司撮影
http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170131/biz/00m/010/009000c 

http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/778.html

[経世済民120] 世界大変化「VUCA」を生き抜く「働き方改革」とは ママ社員の無理筋要求に上司は 捨てないパン屋 善意で解決せぬ食品ロス
辻野晃一郎の「世界と闘え」
世界大変化「VUCA」を生き抜く「働き方改革」とは
2017年2月28日 辻野晃一郎 / アレックス株式会社代表取締役社長兼CEO
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 先日、鹿児島の知覧を訪問する機会があった。太平洋戦争中に神風特攻隊の前線基地となった陸軍の飛行場があったところだ。知覧特攻平和会館には、沖縄の激戦地に向けて片道分の燃料と爆弾を積み出撃していった17歳から20代前半の若者たちの写真や絶筆が多く展示されており、彼らの慟哭(どうこく)が嫌でも伝わってくる。

 20歳そこそこで「人生の総決算 何も謂ふこと無し」などと書き残して旅立っていった若者たちが、今の日本の働き方改革の議論を見聞きしたらどう思うであろうか。
 前途洋々たる若者たちに犠牲を強いた狂気の時代のことをわれわれは決して美談にしてはならないが、それから70年以上を経た現在を思うとき、気が付くことがある。結局、国家運営の構図として、自らは決してリスクを取らない中央政府の軍人・政治家・官僚などの愚策、失策、無策、怠慢の犠牲に真っ先にされるのが若者であった図式は、今でもさほど変わっていないのではないか、ということだ。

 現在、貧困に苦しむ若年層の増加は深刻な社会問題となっているし、奨学金の返済ができずに自己破産する若者も増えているという。

混沌とした時代「ブーカ」を生きるためには

 最近、「Volatility(変動)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧)」の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」という造語が使われるが、世界は同時多発的な大変化に見舞われている。

 インターネット、IoT(モノのインターネット)、人工知能、人口爆発、超高齢化、紛争の激化、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、トランプ米大統領の誕生など、技術、政治、経済、自然環境、安全保障といったあらゆる面で、従来の常識や概念が通用しない先の読めない混沌(こんとん)とした時代を迎えている。

 日本企業に目を転じると、シャープは台湾企業の傘下に入り、名門企業の代表格であった東芝はあっという間に倒産寸前になっている。長く続いたデフレとグローバル競争の激化で広がった構造不況の根は深く、大企業に勤めていれば一生安泰という時代はとうに終焉(しゅうえん)した。

 今の時代、われわれは、いざとなれば政府や会社などに頼らず、自己責任で自分の人生を切り開くような生き方を強く意識することが大切だ。会社やトップの都合を優先し、黙々とまじめに頑張ったつもりでも、気が付いたら会社が倒産したり、不正の片棒を担がされたり、さらには追い詰められてうつ病になったり、リストラされたり、自ら命を絶つようになったりと、ただ一生懸命まじめに働くだけでは人生を台無しにするようなことにもなりかねない。従順な受け身体質や依存体質は危険なのだ。

 今の日本には、少なくとも法を順守する限りは、戦前の徴兵制など個人が国家に強制拘束される仕組みは存在せず、職業選択の自由も憲法で保障されている。つまり、今の会社や仕事を選んだのも自分、今の働き方を選んだのも自分、と考えるようにすれば、すべてのことは自分自身が日ごろ何を考え、どんな行動や選択をしてきたかの帰結にすぎない。

「賢く考えて働く」ことの重要性

 そうした考えに立つ場合、さしあたってのシンプルな目標は、自助努力で経済的自由を確保する、ということになるだろう。働き方改革の機運盛り上がりの背景には、長時間労働を強いられる環境の中で、給与が上がらない人たちが増え、そういう人たちの疲労とストレスがたまっていることが根底にある。

 しかし、給与が足りないのであれば、愚痴を言ったり節約するよりも、キャッシュポイント(収入源)を増やすために自助努力で勉強したり行動したりすればよい。インターネットの発達はそのための手段を多く提供しているし、企業でも副業歓迎や推奨の動きが出てきている。

 そもそも、収入には、大きく分けて、勤労所得と不労所得がある。勤労所得は文字通り働いて得る所得だ。日本人には、「汗水垂らしてまじめに一生懸命に働く」ことを尊重する労働観があり、これは非常に大切なことだ。
 しかし、ただまじめに一生懸命働いているだけでは、必ずしも報いられる世の中ではない。企業などに長く勤めていても、以前のように徐々に給与が上がっていくということは今後あまり期待できない。そうすると、まじめに一生懸命働くことに加えて「賢く考えて働く」ことが重要になってくる。

経済的余裕や自由を得るための働き方改革を

 収入源を増やすためには、不労所得にも目を向ける必要がある。株式投資や不動産投資など、文字通り、働かずにモノやお金にお金を生ませて得る所得のことだ。最近では、20代の人たちの中にも、不労所得に目覚める人たちが増えてきていると聞くが好ましい傾向だ。
 もちろん、不労所得で稼ぐためには、まず勤労所得で稼ぐ必要がある。勤労所得で少額でもまとまった原資を作り、それを投資、運用していくのが第一歩だろう。失敗して原資を失うリスクもあるが、長期的に上手に投資、運用すれば確実に資産を増やすことも可能だ。

 日本では、大半の給与生活者の所得税は、会社が代行して源泉徴収し国庫に納める仕組みになっている。そのため、税金に対する理解や意識が育っていないし、全体的に個人の金融リテラシーが低い。働き方改革で最も重要なポイントは、まず、個人が金融リテラシーのレベルを高めるとともに、副業などで勤労所得の収入源を増やすとか、さらには不労所得を加えて全体的な収入バランスを見直し、経済的な余裕や自由を確保する道を目指すことなのではないだろうか。

 自助努力で経済的な余裕を得ることができれば、会社や上司に依存したり媚びたりする必要もない。長時間労働から脱却し、労働生産性を高めるためには、経済的に独立した個人を増やしていくためのインフラ整備や社会人教育が最も有効だろう。フィンテックなどの金融テクノロジーの発展もそのような社会の実現に資する可能性を秘めている。
 ただでさえ仕事に追われて忙しい中、副業や不労所得など自分とは関係のない話とか、実行難易度が高い話のように感じるかもしれない。しかし、政府や会社に期待し、シングルインカムの勤労所得が向上することを願っているだけでは、一生あくせく働いても経済的な余裕や自由を得られるとは限らない。働き方改革の本質は、自分の人生プランやそのための収入モデルを自ら再構築する、ということでもあるだろう。

 <「辻野晃一郎の『世界と闘え』」は原則、月1回掲載します>

 辻野晃一郎さんの新刊「『出る杭』は伸ばせ! なぜ日本からグーグルは生まれないのか?」(文芸春秋)が昨年12月13日に発売されました。週刊文春での2年余にわたる人気ビジネスコラム連載から56本を厳選して加筆。書き下ろしのコラムも収録されています。
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辻野晃一郎
辻野晃一郎
アレックス株式会社代表取締役社長兼CEO
1957年福岡県生まれ。84年、慶応義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニー入社。VAIOなどの事業責任者、カンパニープレジデントを歴任。2007年、グーグルに入社し、その後、グーグル日本法人代表取締役社長に就任。10年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。著書に「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」(新潮社)、「リーダーになる勇気」(日本実業出版社)、「『出る杭』は伸ばせ! なぜ日本からグーグルは生まれないのか?」(文芸春秋)などがある。
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ママ社員の無理筋要求に上司はどう対応すべきか
2017年2月24日 井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 Aさんは従業員数100人ほどの会社の男性経理課長です。2人の子供を育てるワーキングマザーの部下B子さんへの対応に困っていました。B子さんは、第2子が3歳になった3カ月前まで、第1子出産後から通算で5年間、時短勤務をしていました。
 同社では、育児・介護休業法に定められた、子供が3歳になるまで利用できる短時間勤務制度があり、社員の希望により最大2時間まで勤務時間を短縮することができます。一般社員は午前9時から午後6時までですが、B子さんは午前10時から午後5時までとしていたのです。

遅刻が多く職場に影響が……
 B子さんは、通常勤務に戻ってからは始業時刻ギリギリの出社が続いています。そして、何かと理由をつけて遅刻を繰り返します。電車が少しでも遅延すると、他の社員は間に合ってもB子さんだけは必ず遅刻してしまうのです。
 A課長も共働きです。B子さんの状況がよくわかり、「子供を保育所に預けてから出社するのだから多少は仕方がない」と考えていました。しかし、そんなB子さんを見ていた、若手社員の出社も始業時刻ギリギリになってしまったのです。Aさんが若手社員を注意すると、「B子さんと違って始業時刻には間に合っています」と言われてしまいました。
 「このままではまずい」と考えたA課長は、B子さんが遅刻したときはその都度、口頭で注意しました。するとB子さんは、「遅れた時間分は昼休みを減らして仕事します」と言い、実際に遅れた日は、昼休みを早めに切り上げるようになったのです。

支援のつもりの特別扱いで要求がエスカレート
 しばらくたったある日、A課長はB子さんから相談を受けました。「再来週の火曜日、子供の学校の行事で午前中を休みたいのですが、有休が残っていません。その日は午後1時から午後9時までの勤務にしてもいいですか?」と言います。その日の翌日には、B子さんも準備書類の作成に携わっている会議があります。A課長はしぶしぶ承知し、遅刻ではなく1日出勤したこととして取り扱ってしまいました。
 それ以降、B子さんの要求がエスカレートしていきました。「3時間早く帰りたい日があるので午前6時に出勤してよいか」「今日遅刻した30分は、2日後に30分多く働くことで調整したい」。さらには、子供の急な発熱で休んだ日について、「有休が残っていないので、代わりに休日に出勤してもよいか」などです。
 A課長はB子さんを支援するつもりで、できるだけのことをしていたつもりでしたが、午前6時からの勤務や休日出勤は論外でした。「それはできない」と断って早退や遅刻、欠勤扱いとしましたが、B子さんから「休日出勤の振り替え休日と同じ考えではないですか。先に平日に休日を取って、あとから休日出勤するのがなぜダメなのですか?」と詰め寄られ、答えに窮してしまいました。

社員の都合で始業・終業時刻の変更はできない
 多くの会社では就業規則に、「業務上の都合により、始業・終業時刻および休憩時刻を変更することがある」と定めています。この「業務上の都合」とは、会社側の都合を意味します。社員が個人的な事情で、始業・終業時刻を変更することはできません。
 フレックスタイム制を導入する会社であれば、社員が自分の始業・終業時刻を決めることができます。しかし、今回の事例の会社はフレックスタイム制を導入していませんでした。
 また、就業規則に「業務上の都合により、やむを得ない場合は休日を他の日に振り替えることがある」と定められていたとしても、やはり「業務上の都合」は会社側の都合を指します。
 社員は、会社の指揮命令を受けるのが原則です。労働日と休日をいつにするかは会社側が決めることです。会社側がB子さんのような申し出を受け入れる義務はありません。
 B子さんには子育て中という理由があったとしても、遅刻などを繰り返せば周りの社員に悪い影響を与えるでしょうし、懲戒処分の対象にもなりえます。会社やA課長は、B子さんと話し合い、時間通りの勤務が難しいようであれば、時短勤務の期間を延長するなどの対応も考えられるでしょう。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>
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井寄奈美
特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170223/biz/00m/010/004000c
http://www.sr-iyori.com/
 

 

「捨てないパン屋」の挑戦 休みも増え売り上げもキープ
藤田さつき 北郷美由紀2017年3月22日12時53分

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【動画】パンを捨てないパン店=金川雄策撮影
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パンを手作りの石窯から取り出す田村陽至さん=金川雄策撮影
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 精魂込めて作ったパンでも、売れ残れば捨てるしかないのか――。作り方と売り方、そして働き方を変えることで、捨てないパン屋に生まれ変わった店がある。この挑戦は、2030年までの達成を世界が合意した国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」によって社会課題を解決していく取り組みとも重なる。

SDGs 国谷裕子さんと考える
 小麦の甘い香りが立ってきた。ゆっくりと温度が下がる石窯で、田舎パン「カンパーニュ」が皮の厚みと香ばしさを増していく。

 材料は粉、塩、水だけ。薪の石窯でじっくり焼き込んだ直径30センチのパンは、どっしりと存在感がある。

 広島市のパン屋「ドリアン」。パン職人の田村陽至(ようじ)さん(40)と妻芙美(ふみ)さん(36)が二人で営む。ここは、おととしの夏からパンを一個も捨てていない。

 12年前に実家の店を継いだとき、経営は厳しかった。リニューアルし、手作りの具にこだわる菓子パンや総菜パンに加えて、天然酵母のパンも始めた。40種類を売り、田村さんは夜10時から翌日夕方まで寝ずにパン作りに追われた。

 閉店後、売れ残ったパンを毎日のように捨てた。25リットルの袋が満杯になることもざらだった。「捨てるのおかしいよ」。バイトで働くモンゴル出身の女の子に言われた。自分だっていやだ……でも仕方ない、と思った。食中毒が起きたら店は終わりだろう。

 評判の人気店になったものの、コストがかさみ利益は出なかった。若い従業員に給料を満足に渡せず、パン作りを教える時間もない。「このまま10年、20年、次の世代まで続けられる仕事なんだろうか」。自問自答した。

 ログイン前の続き2012年、店を休業し、ヨーロッパのパン屋で修業した。その3軒目が、ウィーンの名店「グラッガー」だった。

 職人たちが働くのは午前中だけ。日本では常識の生地を2回発酵させる工程もなく、手抜きに見えた。だがパンは比較にならないほどおいしい。「材料は入手できる最高のものを使う」ことを教わった。「1日15時間以上働いてきた自分は一体何なんだろう」と思った。

 「僕の店で実験してみよう」。田村さんは再開を決めた。

 まずは売るパンを、カンパーニュなど2種類にしぼった。小麦は北海道・十勝の有機栽培のものに変えた。輸入小麦に比べ4倍の価格だったが、チーズなどの具材をなくして原価を抑えた。具材がないことで、2週間ほど日持ちもするようになった。

 次は「働き方」だった。スタッフは自分と販売担当の妻の二人に。店は週3日の午後だけ開く。田村さんがパンを焼くのは朝4時から11時。午後は体を休め、充電する時間だ。

 そして、パンを捨てないための売り方を考えた。「うちの小麦で作ったパンが残ったら送って。全部買います」。生産者から届いたメールの言葉が背中を押した。

 焼きたてはまず厨房(ちゅうぼう)の横へ。代金の箱を置いただけの無人販売だ。その後、店でパンが余れば、地元の野菜移動販売やハム店に託す。受注生産の定期購入サービスも始め、現在の送り先は北海道から沖縄まで約160人に広がった。

 気づくとパンを捨てない店になっていた。18平方メートルの小さな店には、日々味わいが変わっていくパンを楽しみに多くの人が訪れる。売り上げは年2500万円。休業前と変わらない。

 田村さんはいま研修生を受け入れている。1カ月間、住み込みでともにパンを焼き、未経験者でもいい。「5年後に流行が終わるパンでなく、これまで長年残ってきたものを受け継ぎたい。こんなパン屋が日本に増えたら面白いかなと思って」(藤田さつき)

■作りすぎと売りすぎからの脱却を

 日本では、年間632万トンの食べ物が廃棄されている。これは、東京都民が1年間で食べる量に匹敵し、国民全員がおにぎりを毎日1個ずつ捨てている計算になる。

 パンは捨てられやすい食品の筆頭格。「デパ地下では閉店まぎわまで商品を補充しなくてはならない。そうやって毎日、大量のパンが売れ残り、捨てられている」と食品ロスを研究する井出留美さんは話す。著書「賞味期限のウソ」で、食品廃棄の現状と問題点を指摘した。

 生産者、メーカー、小売り、外食、家庭のそれぞれで廃棄は深刻だが、どこも取り組みは鈍い。その理由を、井出さんは「当事者意識が欠如しているから」と指摘する。

 井出さんは「生活者が自ら動くこと」を提案する。陳列棚の手前から商品をとる。賞味期限は前倒しで設定されていることを知り、捨てる前によく考える。まとめ買いをしない、といったことだ。空腹で買い物に行くと買いすぎるという調査結果もあるという。

 「消費者が変われば業界が動きやすくなり、行政の重い腰もあがる」と井出さん。作りすぎと売りすぎからの脱却を実現することが食品ロスを減らすカギとなる。(北郷美由紀)

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善意だけでは解決しない食品ロス 店・家庭に必要なのは
2016年9月18日05時38分
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朝日新聞デジタルのアンケート
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 食品ロスは、生産から消費の各段階に出ます。減らそうという努力は、各段階で始まっています。それでも出てくるものについては、飼料や肥料などにリサイクルする方法もあります。アンケートでは、小売り、消費者の取り組み、それに国の関与を求める意見が多くありました。一歩前に進むには、いま何が必要なのでしょうか。

議論の広場「フォーラムページ」はこちら
 食べ残しが作法と言われた中華料理の店が、食品ロスに取り組んでいます。横浜中華街を訪ねました。

 年間10万を超える客を迎えるという大珍楼新館。求めに応じ一皿の量を少なくし、食べ残しを持ち帰る「ドギーバッグ」を勧めています。支配人の栗原義徳さんは「食べきれない量を出すのが礼儀。食べきるのは失礼。そういう中国文化はありますが、お客様のため、そして経費を考えて食品ロス対策に取り組んでいます」。

 少量提供の背景には、大人数でテーブルを囲む光景が少なくなってきたことがあります。2人連れが増え、昔ながらの一皿だと2、3品で十分です。「エビチリ、チャーハン、マーボーで終わり、です。お客様ももの足りないし、こちらも中華料理をもっと知ってほしい」

 持ち帰りは、場の雰囲気次第。式次第のあるような宴席ではやりにくいですが、アットホームなテーブルには、衛生上可能と判断できる範囲で、「持ち帰れますよ」とプラスチック容器を用意します。「おなかいっぱいだが、ほかにもっと食べたかった」「夕食をつくる手間が減る」と喜ぶ客が圧倒的だそうです。

 店は、捨てる量を減らせるとともに、食後の片付けにかかる時間や手間という人的コストを省けます。同店は、横浜市が食品ロス対策として2012年に始めた「食べきり協力店」事業に参加しています。市によると、中華街では「文化になじまない」と渋る店もあるそうで、大珍楼は少数派です。ただ、同店の取り組みは市の事業以前からだそう。栗原さんは、「行政がやろうというからではなく、店に利益があるからやっています」と強調しました。(村上研志)

 京都市は2014年から「食べ残しゼロ推進店舗」の認定制度を始めました。市内の飲食店と宿泊施設が対象で、今年7月末時点で257店舗が認定されています。「食材を使い切る工夫」「食べ残しを出さない工夫」といった取り組みの中から2項目以上を満たすことが条件。認定を受けると、店の情報や取り組みが市のホームページに掲載されます。

 認定を受けた京料理の老舗「六盛(ろくせい)」を訪ねました。約300席ある店は、食材を使い切る工夫として「食材の無駄が出ないように仕入れている」「魚のあらや骨、野菜の皮などを利用したメニューの提供」「余った食材をスープやパテ、スタッフのまかない料理に利用」といった取り組みをしています。

 調理場で、その様子も見せてもらいました。まな板の上に置かれたハモは、頭と尾のついた身と、中骨、腹骨に分け、中骨と腹骨は客に提供する揚げ物に。ハモが大きく、中骨が太い時には、まかないの汁物に入れるそうです。

 六盛の堀場弘之会長は「京料理は食材に感謝し、残さず食べることが基本。特に魚は、肝はつくだ煮にもなる。食べられないところはほとんどない」と話します。

 最近は、会席などのコース料理の量を、客の好みに応じて減らすことが多いといいます。「高齢の方のなかには、量は食べられないので、少なくして良い素材を使ってほしいという声も多い」そうです。

 六盛では昨年度、食べ残しや調理くず、魚あらなども含めた生ごみが約42.5トンあったそうですが、今年度は、2トンほど減らすことを目指しています。(浜田知宏)

 スーパーやコンビニエンスストアで売れ残った食品はどこに行くのでしょうか?

 コンビニ大手のローソン。昼下がりに東京都内の店舗で、商品を棚から撤去していました。同社によると、消費期限の3時間前をめどに下げます。持ち帰って食べるまでの時間を見込んでいるのだそうです。ローソンで出る売れ残り食品は1店舗1日あたり7.8キロ(2015年度)。全国で年3万6千トンになります。

 売れ残りを減らすのに大事なのは正確な需要予測。同社は店ごとに過去の実績や天気などを分析して精度を高めています。消費期限が迫った商品を値引きする店もありますが、「24時間営業では、スーパーのように閉店前に売り切ることができず、値引きシールを貼る負担も重い」(同社)。売れ残りをゼロにするのは難しそうです。

 千葉県市川市の食品リサイクル会社、農業技術マーケティング(伊藤秀幸社長)には、都内や千葉県内のローソン約450店舗で売れ残った弁当やおにぎり、サンドイッチがトラックで次々と運ばれてきます。消費期限前や切れたばかりのものです。「未利用資源で廃棄物ではありません」と野呂重之副社長は言います。

 基本的には手つかずの食品ですが、たまに缶や割り箸などが混じるので手で除きます。ほかはベルトで分別機に運ばれて、プラスチック容器とミンチ状になった食品残渣(ざんさ)に分けられます。残渣を乾燥機に入れると、さらさらの粒に。ふるいにかけて細かいプラスチックなどを取り除きます。飼料メーカーが配合して、養鶏用の飼料が出来上がります。

 飼料は千葉県内の養鶏場で使われます。卵は「エコで育った千葉のたまご」という名前で、千葉県と茨城県の一部のローソンで売られます。

 ローソンは全国約1万3千店の2割で売れ残り食品のリサイクルに取り組み、年8千トンが再生利用されているそうです。ただ、地域によってはリサイクル業者が少ないので、全国に広げるのは難しいといいます。

 スーパーやコンビニの食品ロスなどを利用して野菜や食肉を生産し、排出した店舗などで販売することを、「リサイクルループ(輪)」と呼びます。食品リサイクル法でループと認定されたのは、これまでに54事業あります。

 コンビニ大手のファミリーマートの都内など500店舗から出る食品残渣は液体飼料になり、その飼料で育てられた豚が、同社の弁当のおかずになります。スターバックスコーヒージャパンのコーヒーの豆かすは飼料や肥料にされ、とれた牛乳や野菜は店の乳製品やサンドイッチになります。イオン、ユニーなどのスーパーも、食品ロスを飼料化したり肥料化したりし、これを用いて生産された豚肉や野菜を自分たちの店で販売しています。

 食品リサイクル実施率は製造業95%、卸売業57%、小売業46%、外食産業24%と、加工が進んで私たちのテーブルに近くなるほど低くなっていきます。(今村尚徳、編集委員・石井徹)

■アンケートに寄せられた声は

 食品ロスをなくすには。アンケートの声の抜粋です。

●「すぐに使う物でも賞味期限が長い商品を選ぶ傾向にあることも現実です。食品ロスを非難するよりも先に自分の行動を見つめなおしてほしいです。せめてすぐ使いきってしまう商品については、期限の短い商品を選ぶ心がけをしてもらえばいいですね」(福岡県・30代男性)

●「残りものを持ち帰ることを恥ずかしいと考えるのは日本独自の文化ではないかと思いますが、この認識を変えていくことが必要だと思います。飲食店側が積極的に『お持ち帰り』文化を定着させてはどうでしょうか?」(海外・40代女性)

●「流通における食品ロスの最も効果的で最良の解決法は、半額以下の価格での値引き販売である。日常的に期限の短い食品が半額以下で買えるなら、特売で買いだめもしなくて済むし、流通在庫の返品、廃棄も減る」(京都府・30代男性)

●「ごみの分別収集も、自治体レベルでの取り組みがあってはじめて実現した。同じく、食品ロスの問題も、個々人レベルでの問題意識はすでにあるので、国、自治体が仕組みをつくると解決に動き出すと期待します」(東京都・60代女性)

●「最も必要なこと=最も足りていないことは、消費者意識だと思います。具体的には、食べられる時期を判断する能力を取り戻すことと、食べたいものがいつでも好きなだけ手に入る自由をあきらめることです。この二つがゆがんでしまった結果が食品ロスだと思います。どちらも食育推進で解決に近づくのではないでしょうか」(福岡県・30代女性)

■社会経済システム、どんな変革が可能なのか

 「食品ロスが減っても飢餓に苦しむ人の食料が増えるわけではない」という声を聞きます。でも、国連食糧農業機関(FAO)は、食品ロスが世界的な食料の減少や価格の高騰につながることを懸念しています。満足に食べられない人は国内にもいます。

 食品ロスの削減に反対する人はいません。そういう問題こそ個人の心がけや善意だけでは解決しないように感じます。米国や韓国にはフードバンクの活用を促進する法律があり、フランスは食べられる食品を捨てることを法律で禁じました。私たちにはどんな社会経済システムの変革が可能なのか、消費者を含めて突き詰める必要がありそうです。(石井徹)

     ◇

 ◆ほかに神田明美、斎藤健一郎、服部誠一、吉沢龍彦が担当しました。

     ◇

 ご意見はメールasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「フォーラム面」係へ。

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http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/416.html

[経世済民120] 米週間新規失業保険申請件数:25.8万件に増加、7週ぶり高水準 ECB最後の長期オペ供給過去最大 旧村上F、東芝筆頭株主
米週間新規失業保険申請件数:25.8万件に増加、7週ぶり高水準
Michelle Jamrisko
2017年3月23日 22:38 JST
先週の米週間新規失業保険申請件数は7週ぶりの高水準に増加した。
  労働省の発表によると、3月18日終了週の新規失業保険申請件数は前週比1万5000件増の25万8000件。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想は24万件だった。
  より変動の少ない4週移動平均は24万件と、前週の23万9000件から増加。失業保険の継続受給者数は11日までの1週間に3万9000人減少して200万人となった。
 統計の詳細は表をご覧ください。
原題:Claims for U.S. Jobless Benefits Increase to Seven-Week High(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9RAE6VDKHT01


 


 
ECBが最後の長期オペ、供給額は過去最大−焦点は出口戦略へ
Alessandro Speciale、Andre Tartar
2017年3月23日 16:48 JST更新日時 2017年3月23日 23:06 JST

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• 最後のTLTRO2の利用額は2335億ユーロ
• 利上げが視野に入り始め安価な資金の魅力増す


欧州中央銀行(ECB)は23日、最後の条件付き長期リファインナンスオペ(TLTRO)を実施した。利用額は2335億ユーロ(約27兆9700億円)に達し、以前に実施されたTLTROの借り換えを除いた純額ベースでTLTRO1とTLTRO2を通じて最高となった。
  景気回復でECBの緩和措置解除の議論が求められ始める中で、金利ゼロまたはそれ以下の4年物資金の需要は高まり、474銀行が応札した。ブルームバーグが実施した調査で、利用額の予想中央値は1100億ユーロ(レンジ300億−7500億ユーロ)だった。  
  利用額が大きかったことは、ECBが積極的な金融緩和の終わりに向かおうとしているとの臆測が銀行側にあることを示唆する。ブルームバーグの調査では債券購入プログラムの終了は2018年の半ばごろと予想されている。ECBは同プログラム終了後も相当期間、低金利を続ける方針を打ち出しているが、一部の政策委員会メンバーからは、この期間の短縮や順序の逆転もあり得るとの声が聞かれている。
  ドラギ総裁はこの日、銀行が課題を解決するのに残された時間は少ないとの見方を示した。総裁は単一監督メカニズム(SSM)の年次報告書の序文で「銀行セクターがユーロ圏の景気回復を支える能力は収益力の低さによって抑えられている」と指摘。「過剰な規模と非効率、負の遺産が銀行の低収益力の原因だ。これらの問題を適切に解決するのは銀行自身の仕事だ。力強い景気回復のために迅速に解決する必要がある」とくぎを刺した。 
  今回のTLTROではイタリアの銀行の利用が活発で、最大手のウニクレディトは244億ユーロを借り入れた。
  ECBは当初のTLTROを14年9月に開始。借り手にとってさらに有利になったTLTRO2は昨年始まり、合計12回のオペでの供給額は純額ベースで約8340億ユーロとなった。
  TLTROで借り入れられる額は銀行の融資ポートフォリオの規模に連動する。融資促進を狙ったこの政策は有効だったと、ブルームバーグの調査に答えたエコノミストの70%が回答した。
  政策パッケージが奏功しユーロ圏経済は15四半期連続で拡大、インフレ率も2%に達したが、ECBはまだ勝利を宣言していない。プラート理事は先週、見通しは政策変更議論を促すようなものではないと述べた。
  それでも出口戦略の議論は始まろうとしている様子で、債券購入とマイナス金利の解除の順序が9日の政策委員会で言及された。ノボトニー・オーストリア中銀総裁やビスコ・イタリア中銀総裁らは現在のECBのフォワードガイダンスが変更される可能性について発言している。
  投資家もこれを認識し、現行でマイナス0.4%の中銀預金金利が12月までに引き上げられる確率を50%以上織り込んだ。1カ月前には11%にすぎなかった。
ECBはQE終了から利上げまでの期間を短縮も−ビスコ氏
ドラギECB総裁:銀行は経済支えるため迅速に収益力回復を

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iMlOPVS.qe2I/v2/-1x-1.png
原題:Banks Take $252 Billion in ECB Free Loans With QE Exit in Mind(抜粋)
UniCredit Borrows More Than $26 Billion in Final ECB TLTRO Round(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9BCD6JIJUO01


 

ヘッジファンドのエフィッシモが東芝株式8.14%保有−筆頭株主に
平野和
2017年3月23日 18:01 JST

シンガポールのヘッジファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが東芝の筆頭株主に躍り出た。同社が23日、関東財務局に提出した大量保有報告書で東芝の発行済み株式数の8.14%を保有(報告義務発生日は15日)していることが分かった。
  エフィッシモCは物言う株主として知られた旧「村上ファンド」出身者が設立したヘッジファンド。ブルームバーグのデータによると、8.14%の株式保有は東芝の筆頭株主という位置づけになる。東芝は米原子力事業が抱える巨額損失で債務超過状態に陥り現在、主力のメモリ事業の売却などに動いて再建を目指している。
  エフィッシモCは、この日の大量報告書の中で保有目的を「純投資」とし、大半は「投資一任契約に基づく顧客資産運用のため」と説明している。
  東芝の株価は、損失懸念が発覚した昨年暮れに400円台から200円台に急落。年明け以降は下落基調の中、2度にわたる決算発表延期のほか、メモリ事業売却や米原子力事業の見直しを巡る報道を受け乱高下している。23日は前日比6.9%高の207.3円で取引を終了。出来高は日本の市場全体でトップの約1億7900万株だった。
  エフィッシモCは川崎汽船のほか、近畿車両、大阪製鉄、日東紡績の株式なども大量に保有している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9DQ96KLVRK01
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/424.html

[国際18] プーチン政権批判の前ロシア議員、射殺 ウクライナ首都 「国家テロ」とウクライナ
プーチン政権批判の前ロシア議員、射殺 ウクライナ首都
モスクワ=駒木明義2017年3月23日23時06分
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 ウクライナの首都キエフ中心部の路上で23日、ロシアの前下院議員デニス・ボロネンコフ氏(45)が射殺された。ボロネンコフ氏は昨年末にウクライナ国籍を取得。その後、プーチン政権を厳しく批判していた。

 インタファクス通信によると、容疑者は護衛に撃たれ、運ばれた病院で死亡した。ウクライナのポロシェンコ大統領は「ロシアによる国家テロ」との見方を示したが、ロシアのペスコフ大統領報道官は「馬鹿げている」と強く反発した。

 ボロネンコフ氏は昨年の下院選まで共産党の議員を務めていた。ロシア国内で詐欺などの疑惑の渦中にあり、不逮捕特権を失ったためウクライナに逃れたとみられていた。

 ウクライナ検事総長によると、ボロネンコフ氏はウクライナ国籍の取得後の今年1月、親ロ派のヤヌコビッチ前大統領が2014年の政変の際にプーチン大統領に軍の派遣を要請した書簡とされる文書を検察当局に提供。インタビューなどではロシアによるクリミア半島併合を批判していた。(モスクワ=駒木明義)

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「捨てないパン屋」の挑戦 休みも増え売り上げもキープ
http://www.asahi.com/articles/ASK3R6S9WK3RUHBI02P.html


 


政権批判の元ロシア議員射殺=「国家テロ」とウクライナ
2017年03月23日 23:24 発信地:ロシア

時事通信
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政権批判の元ロシア議員射殺=「国家テロ」とウクライナ
【3月23日 時事通信社】ウクライナ警察によると、首都キエフで23日、ロシアのデニス・ボロネンコフ元下院議員(45)が射殺された。ボロネンコフ氏はプーチン政権に批判的で、ウクライナのポロシェンコ大統領はロシアによる「国家テロ」と糾弾した。両国の対立はさらに深まりそうだ。

 ボロネンコフ氏はロシア共産党に所属し、2011年から昨年まで下院議員を務めた。昨年、ロシアからウクライナに移住。その後はロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入を非難したり、ロシアに亡命したヤヌコビッチ前大統領に対するウクライナ当局の捜査に協力したりして、ウクライナ国籍を与えられた。

 ボロネンコフ氏はキエフ中心部のホテルの入り口近くで射殺された。ポロシェンコ大統領は「過去に欧州各地であったようなロシア情報機関の手口だ」と批判した。(c)時事通信社
http://www.afpbb.com/articles/-/3122527
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/707.html

[政治・選挙・NHK222] 昭恵氏、FBで反論「100万円の寄付お渡ししてない」「籠池氏は堂々」政権に焦り 想定外の攻防にじむ危機感「蟻の一穴」広が
昭恵氏、FBで反論「100万円の寄付お渡ししてない」
2017年3月23日22時45分

http://www.asahi.com/articles/photo/AS20170323005604.html

籠池泰典氏の証言への反論が掲載された安倍昭恵氏のフェイスブック。「100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料をいただいたこともありません」と書かれている
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 安倍昭恵氏は23日夜、自身のフェイスブックに反論を掲載した。寄付金や講演料の授受について「籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません」「私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております」と否定した。国有地をめぐる籠池氏からの働きかけについても「要望に『沿うことはできない』と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています」とした。

特集:森友学園・籠池氏の証人喚問
■昭恵氏の投稿の主な内容

 安倍晋三首相の妻昭恵氏は、23日に開かれた学校法人「森友学園」の籠池泰典理事長の証人喚問を受け、同日夜に自身のフェイスブックにコメントを投稿した。主な内容は次の通り。

 @寄付金と講演料について

 私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております。

 籠池さんは、平成27年9月5日に塚本幼稚園を訪問した際、私が、秘書に「席を外すように言った」とおっしゃいました。しかしながら、私は、講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません。この日も、そのようなことを行っていない旨、秘書2名にも確認しました。

 また、「講演の控室として利用していた園長室」とのお話がありましたが、その控室は「玉座の間」であったと思います。内装がとても特徴的でしたので、控室としてこの部屋を利用させていただいたことは、秘書も記憶しており、事実と異なります。

 A携帯への電話について

 次に、籠池さんから、定期借地契約について何らか、私の「携帯へ電話」をいただき、「留守電だったのでメッセージを残した」とのお話がありました。籠池さんから何度か短いメッセージをいただいた記憶はありますが、土地の契約に関して、10年かどうかといった具体的な内容については、まったくお聞きしていません。

 籠池さん側から、秘書に対して書面でお問い合わせいただいた件については、それについて回答する旨、当該秘書から報告をもらったことは覚えています。その時、籠池さん側に対し、要望に「沿うことはできない」と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています。その内容について、私は関与しておりません。

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http://www.asahi.com/articles/ASK3R76GQK3RUTIL068.html

 

「籠池氏は堂々」政権に焦り 想定外の攻防にじむ危機感
岩尾真宏、二階堂勇2017年3月23日21時59分
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籠池泰典氏が証人喚問で読み上げたファクスの文面(同氏提供)
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 学校法人「森友学園」(大阪市)をめぐる籠池(かごいけ)泰典氏に対する国会の証人喚問は、「籠池劇場」さながらの様相になった。籠池氏は国有地売却問題の追及は受け流す一方で、安倍晋三首相の妻・昭恵氏との関わりを詳細に証言。政権与党は想定外の防戦に追われ、焦燥感を強めている。

特集:森友学園・籠池氏の証人喚問
 安倍政権の幹部は、籠池氏が昭恵氏とのつながりを詳細に語った直後から、一斉に火消しに走り出した。

 「事実関係は籠池氏の国会証言とは異なる」。菅義偉官房長官は23日午後の記者会見でこう強調した。菅氏はその直前の証人喚問でつまびらかにされた、昭恵氏付き職員が籠池氏に送ったファクスのコピーなどを記者団に配布。「夫人は中身には関わっていない」と語り、あくまで職員と籠池氏側のやりとりであると繰り返した。

 菅氏が記者会見で、国会で議論された資料を記者団に配って説明するのは極めて異例で、昭恵氏が渦中に引き込まれていることへの危機感の表れとも言える。別の官邸幹部は23日夕、昭恵氏と籠池氏の妻とのメールのやりとりを印刷した紙を記者団に見せ、「昭恵夫人は、籠池氏の妻の長文のメールに何回かに一回、短く返信しているだけだ」と、昭恵氏の関わりは薄いとの主張を展開した。

 政権与党は、この日の証人喚問で問題の幕引きを狙っていた。籠池氏のこれまでの発言や学園の経営状況などに焦点を当て、籠池氏が信頼性に欠けることを印象づけて、昭恵氏や政権側の主張の正当性を示す作戦だった。

 午前の証人喚問で質問に立った自民党の西田昌司参院議員は、森友学園の資金繰りなどが「一番大事なポイントだ」と追及。新設予定だった小学校の建築費をめぐり、金額が違う契約書を国や大阪府に提出していた問題を籠池氏にただした。だが、籠池氏は「刑事訴追を受ける可能性がある」「議員の言っていることは的が外れている」とかわし続けた。

 同党の葉梨康弘衆院議員は、籠…
http://www.asahi.com/articles/ASK3R55WLK3RUTFK011.html

「蟻の一穴」広がる疑念、財務省が守るのは…籠池氏喚問
吉村治彦2017年3月23日20時12分
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参院予算委での証人喚問を終え、委員長席に向かって頭を下げる森友学園の籠池泰典氏=23日午後0時20分、国会内、岩下毅撮影
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■籠池氏証人喚問、記者の視点

 この日、証人喚問に臨んだ森友学園の籠池泰典理事長は、私が2月9日付で国有地の売却問題を報じる直前に取材に応じた時と同じく、冗舌に見えた。しかし、真実を述べなければ偽証罪に問われる土俵には1人。主張の真偽はすぐには検証できず、謎は深まっただけだった。

特集:森友学園・籠池氏の証人喚問
 籠池氏は、2015年9月に安倍晋三首相夫人の昭恵氏から100万円の寄付を受け取ったと改めて証言。開設予定だった小学校の名誉校長に就いた昭恵氏との間で電話やメールのやりとりがあったとする内容も語った。しかし、異例づくしの用地取得の枠組みを誰が整えたのか。ごみ撤去費約8億円の根拠とともに、問題の根幹は未解明のままだ。

 約1カ月にわたる国会審議を経ても解明が進まない最大の要因は、当時の担当者から聞き取りもせず、面会記録も廃棄したとして情報開示に消極的な財務省の姿勢にある。財務省は何を守ろうとしているのか。

 そもそも取材を始めたきっかけ…
http://www.asahi.com/articles/ASK3R5R7ZK3RPTIL03W.html

http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/784.html

[政治・選挙・NHK222] “手土産”が踏み絵になりつつある北方領土交渉 防衛装備庁マネー研究者への誘惑 100万円寄付よりも国有地問題を追及せよ
“手土産”が踏み絵になりつつある北方領土交渉

解析ロシア

着々と進むロシア化「そしてαだけが残った」
2017年3月24日(金)
池田 元博
 日本とロシアの政府間で最近、重要な協議が相次いだ。北方領土での「共同経済活動」などを話し合う公式協議と、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)だ。一連の協議を通じて、北方領土交渉を進める道筋はみえたのだろうか。

3月20日、日ロ外務・防衛担当閣僚協議 都内で開催された(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
のっけから日本側に「冷や水」

 日ロの思惑の違いが、改めて浮き彫りになったといえるだろう。先に東京で相次ぎ開かれた日ロの外務次官級協議と、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)である。

 まず3月18日に開いた次官級協議。昨年12月の日ロ首脳会談の合意を受け、北方領土での共同経済活動について話し合う初の公式協議となった。

 安倍晋三首相とプーチン大統領による肝煎りの合意とあってか、両国政府ともそれぞれ関係省庁による事前協議を開いて具体案を検討するなど、かなり入念な準備を進めてきた。

 日ロ協議では、日本側がウニやホタテ、アワビの養殖、北方4島周辺のクルーズ船観光、遠隔医療サービスなどの事業を提案。ロシア側も島民の住宅の改修などを日ロの共同事業案として挙げた。

 昨年の首脳会談後に出したプレス向け声明は、北方4島での共同経済活動が「平和条約問題に関する日本及びロシアの立場を害するものではない」と規定。安倍首相はロシアの法律でもなく、日本の法律でもない「特別な制度」の下で実施すると強調していた。

 ただ、のっけから大枠の法制度の議論をしていては、いつまでたっても進展は期待できない。まずは北方領土で実施したい具体的な事業案を持ち寄り、個々のプロジェクトごとに実現可能性やそのために必要な法整備を議論していくべきだというのが、双方のほぼ共通の認識となっている。日本側が今回提案した事業案も、法制度の面で比較的クリアしやすい案件を中心に選定したといえるだろう。

 ところが協議では、ロシア側代表を務めるモルグロフ外務次官が「ロシアの法律に矛盾しないという条件の下でのみ、実現されなければならない」と強調。「特別な制度」に固執する日本側に冷や水を浴びせた。

早くもにじみ出た認識の違い

 実は今回の次官級協議の2日前の3月16日、ロシア外務省のザハロワ情報局長もモスクワで全く同じ発言をしている。ロシア側が事前に擦り合わせた主張であることは明らかだ。

 しかもザハロワ局長は、日ロの共同経済活動では「南クリール(北方領土)の社会・経済発展にとって重要な提案」を重視する立場を表明。共同経済活動を北方領土問題の解決と平和条約締結への一歩と位置づける日本側との認識の違いが、早くもにじみ出ている。

 協議では北方4島の元島民の墓参など往来の簡素化も話し合い、航空機利用の具体化などを早急に検討することで合意した。

 ただ、この関連ではラブロフ外相が両国間の「国民全体の交流のさらなる簡素化」にも言及。具体例として、サハリン州と北海道の間でビザなし制度を導入する可能性を打診していることを明らかにした。日ロの合意を最大限利用しようとするロシア側の思惑も垣間見える。

 次に、3月20日に開いた2プラス2はどうだったのか。

 安全保障問題を協議する日ロの2プラス2は2013年11月以来で、今回が2回目だ。ウクライナ危機の影響で長らく開かれていなかったが、昨年12月の日ロ首脳会談の際にロシア側が再開を強く求め、日本側も平和条約締結交渉の環境整備に資するとみて受け入れた経緯がある。

 ウクライナ危機後の主要7カ国(G7)による対ロ包囲網を突き崩す狙いでロシア側に利用された面も否定できないが、日本側がこの機会を利用して特に正そうとしたのが、北方領土での軍備強化の動きだった。

当面、見込めそうもない領土問題の進展

 ロシア軍は昨年、北方領土の択捉島と国後島にそれぞれ新型の地対艦ミサイル「バスチオン」「バル」を配備した。さらにショイグ国防相は先月、北方領土を含むクリール諸島に1個師団を年内に展開させると表明した。現在、択捉島と国後島に合計で約3500人のロシア軍が駐留しているとされるが、さらに増強されるのは確実な情勢で、日本政府は強い遺憾の意を表明していた。

 しかし、2プラス2に出席したショイグ国防相は「師団の展開は過去6年間、沿海地方、サハリン州、アムール州で進めてきたものだ。誰かを標的にしているわけではなく、純粋にロシアの領土を守るためのものだ」と表明。日本側の抗議にもかかわらず、予定通り計画を進める考えを強調した。

 ロシアの軍事専門家の間では、米国に対する抑止力強化と北極海航路の需要拡大を見込み、ロシア軍がオホーツク海全体を要塞化しようとしているとの見方が大勢だ。ロシアにとって、北方領土を含むクリール諸島の軍事的・地政学的な重要性はとみに増しているとみるべきなのだろう。

 今回の2プラス2では、核兵器やミサイル開発を続ける北朝鮮に連携して対処する方針を確認するなど、成果もなかったわけではない。だが、その北朝鮮情勢に関しても、ラブロフ外相が協議後の共同記者会見で真っ先に挙げたのが、米国のミサイル防衛(MD)システムへの懸念だった。

 軍事的な圧力を強める中国を日ロの安保協力を通じて抑制しようという日本側の期待に対しても、ラブロフ外相は「中国や東アジア首脳会議に加わる他の国々」と共に、アジア太平洋地域の安保環境の向上に努める立場を表明。あえて中国との連携を強調することで、日本側の思惑をけん制した。

 安倍首相は今年、4月末にロシアを訪問するほか、9月にウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムへの出席も予定している。昨年と同様にプーチン大統領と首脳会談を重ね、平和条約締結に向けた環境整備を加速する意向だ。これに伴い、日ロ間の経済や安保協力もある程度は前進するとみられる。

 ただ、平和条約締結の前提となる領土問題の進展は当面、見込めそうもない。ロシアでは来年3月の大統領選を控え、国民の琴線に触れる「領土の割譲」の問題はただでさえタブーになっているという事情があるからだ。

共同経済活動が“人質”に

 それ以上に気がかりなのは、日ロの領土交渉の進め方だ。昨年末の首脳会談の合意を受け、北方4島での共同経済活動が領土交渉を進めるほぼ唯一の道筋となってしまったからだ。本来は平和条約締結問題を話し合う次官級協議も、共同経済活動に焦点を当てざるを得なくなっている。

 もちろん、日ロの共同経済活動が首尾良く実現できれば良いが、先の次官級協議で浮き彫りになったように、双方が納得できる形で推進するのは容易ではない。結果的に何も実現できなければ、ロシア側は「日本側は南クリールに関心がない」とみなし、領土問題でより強硬な立場を主張する言い訳に使うのは目に見えている。

 ロシアの極東政策を統括するトルトネフ副首相は今月初め、北方領土での日ロの共同経済活動について「長く待つつもりはない」と言明。日本側が決定を引き延ばしたり、効果的な事業プランができなかったりした場合、ロシアは「優先的社会経済発展区域」(TOR)と呼ばれる経済特区を設置し、日本抜きで独自に開発を進める考えを表明した。

 しかも、ショイグ国防相が2プラス2で改めて表明したように、ロシア軍は北方領土での軍備強化に余念がない。ロシア政府も最近、北方領土を含むクリール諸島の5つの無人島に、ソ連時代の将軍や政治家にちなんだロシア風の名前を命名するなど、“ロシア化”を着々と進めているのが現実だ。

「そしてαだけが残った」

 日本外務省が昨春、政府系の全ロシア世論調査センターに委託して実施した世論調査では、日ロ間にいまだ平和条約が締結されていないことを知らないロシア国民が少なくない。ロシア政府内でも、現状でとくに支障がないのだから領土問題で譲歩してまで平和条約締結を急ぐ必要はないとの見方も根強い。


*日本外務省が昨春、政府系の全ロシア世論調査センターに委託して実施/グラフの単位=%
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/032300025/graph1.png


 プーチン大統領は最近になって態度を硬化させているものの、平和条約締結後に歯舞、色丹2島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言の有効性は認めてきた。一方の日本側は「4島の日本の主権確認」という公式的な立場はともかく、水面下では「2プラス2」(2島返還後に再交渉)、「2プラスα」(2島返還、残る2島は共同経済活動)など様々な案を模索してきた。

 結果的に共同経済活動という細い糸だけが、頼みの綱になっているといえなくもない。日ロ関係に詳しいアレクサンドル・パノフ元駐日ロシア大使は、政権ごとにころころと変わる日本側の対応のまずさが敗因としたうえで、今の状況をこう評した。「そしてαだけが残った」。


このコラムについて

解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/032300025


 

 

「防衛装備庁のマネー、研究者への誘惑強い」

「軍民両用技術」の曲がり角

東大・須藤教授、防衛装備庁の研究資金に反対意見
2017年3月24日(金)
武田 健太郎

軍民両用研究の是非を議論するため、2月に日本学術会議がシンポジウムを開催。研究者からは防衛装備庁の研究推進制度に反対する意見が多かった(写真:共同通信)
 防衛用にも民生用にも使える軍民両用技術「デュアルユース」。防衛装備庁は2015年、「安全保障技術研究推進制度」を開始した。同庁が興味を持つテーマを対象に、一般の大学や研究機関、企業などに研究資金を提供する仕組みだ。科学者の代表機関である日本学術会議は、この制度の利用について4月にも正式見解を出す方針を示している。

 同制度を利用する是非を巡り科学者の意見は揺れている。そのなかで、宇宙物理学者で東京大学大学院教授の須藤靖氏は、「防衛省からの資金は、研究に指向性を与える」と反対意見を唱える。さらに、同制度が注目される背景には、経費削減に苦しむ若手研究者の存在があるとインタビューでは指摘している。

軍事研究か否か、区別はできない

学術会議で「安全保障技術研究推進制度」を巡る議論が進んでいます。

須藤:科学者の我々が考えるべきことは、科学を通じて世界の人々を幸せにすること。学術研究を前に進めるために非常に重要なことは、自由に研究し、結果をすべての人たちに公開することだ。

 「安全保障技術研究推進制度」は、研究の方向性に何らかの指向性を与える可能性がある。情報発信を制限する必要もある。科学の発展や世界の平和、幸福の追求とは相いれないというのが私の立場だ。

防衛に関する研究そのものに反対しているのでしょうか。

須藤:イデオロギーの議論になるので、防衛研究そのものの是非については意見しない。防衛省は国防という重要なミッションを持っていて、その範囲内で活動すること自体に反対はしていない。

 ただ、基礎科学の研究者たちが補助金を通じて、気が付かないまま、防衛省のミッションに取り込まれてしまうことを非常に懸念している。

安全保障技術研究推進制度は、純粋な防衛目的ではなく、軍民両方に有用な研究を対象にするとしています。

須藤:私は宇宙に関する観測データを使った理論的な研究に取り組んでいる。軍事とは全く関係ない研究をしているつもりだ。しかし、天文学のデータ取得には、かなりのところで衛星を使う。衛星の技術はもともと軍事関連から来たものだと言われることもある。

 学術研究を巡って、何が基礎研究で、どこからが軍事研究かと判断するのは不可能だ。したがって、軍民両用だから良いとか悪いという現在の議論は意味をなさない。大切なのは、その資金がどこから出ているかという点に集約されるはずだ。

 研究に対して、国防を最大のミッションとする防衛省からお金が来るのか、それとも科学技術の推進をミッションとする文部科学省などからお金が出てくるのか、という点で議論することが非常に大事だ。

それでは、防衛に関する研究はどのように進めて行くべきでしょう。

須藤:一般の大学とは切り離して、防衛省の管轄内で研究者を雇うべきだ。どういう機構になるかは分からないが、例えば防衛大学に組織を立ち上げて研究するならば、私は文句を言うつもりはない。

非効率が許される研究資金

安全保障技術研究推進制度の予算は2015年に始まってから右肩上がりに増え続けています。

須藤:2015年に3億円、2016年には6億円、2017年度は110億円に突然増えた。防衛予算は総額で約5兆円と、文科省関係の予算とは規模が全然違う。そうすると、補助金額は簡単に1000億円にも増えかねない。

 しかも、防衛のお金は効率的である必要がない。予算で買ったミサイルをすべて相手に打ち込んで撃沈させたとして、そんな効率的な使い方をするのは非常に残念なこと。買ったけれども使わなかった。非効率であることが、むしろ嬉しいこと。そういうお金だから、短期的な成果を求める文科省の補助金などに比べ、使い勝手が良い。研究者への誘惑は強い。

 10年後、20年後に、「今が学術研究の分岐点になった」と言われる可能性が非常に高い。安全保障技術研究推進制度の予算が1年で20倍近くに増えたのを見れば、数値的に見ても明らかだ。

 いったん研究者がお金をもらってしまうと歯止めがきかなくなる。最初は全研究費の1%だったのが、10%になり、やがて50%になる。そうなると、もう防衛省の言うことを聞くしかなくなる。だから、やはり研究者は今回の補助金制度にははじめから応募しない決意をするべきだ。

米国では国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)がインターネットの原型を作るなど、軍民両用研究が成功しているように思えます。

須藤:米国では軍民両用技術の研究が進んでいるとのイメージを持つ人が多いが、実は違う。米国でも軍事と一般の研究が明確に区別されている。一般的な大学のキャンパス内には軍事研究は基本的に持ち込まないようにしている。

 軍事研究を進めるのは専門の機関だ。すべての人が入り口でチェックされるなど、非常に厳しい管理体制をしいている。そういった組織に一度入った人たちは、もう決して後戻りはできない。

 第2次世界大戦時のマンハッタン計画には、物理学分野におけるノーベル賞級の人たちが参加した。今でも個人のイデオロギーに基づいて、国のためにと軍事研究に進む人が米国にいる。いったん、そちら側にいってしまうと、純粋に世界の発展のために科学を推進しようという議論は成り立たなくなる。

 軍事からのお金を受け取ることがなくても、素晴らしい基礎研究ができると、今こそ私は主張したい。それは実は戦後の日本が示したこととでもある。

日本の研究、コスパ良い

日本が示したものというのは?

須藤:日本の基礎科学の研究費はアメリカの1%とか圧倒的に小さな規模。それでありながら、ここ10〜20年間で日本の研究が、世界のトップとは言わないけどトップレベルに達したのは間違いない。

 お金の効率で考えると日本の研究は極めて良くできている。誇るべきことだ。だから、安全保障技術研究推進制度からの補助金をもらわないとダメだと言う人たちは、今まで先人たちがどれだけ頑張ってきたかを考える必要がある。効率的に研究を進めてきた歴史を我々は守っていく。私たちには義務がある。

学術会議が4月に方針をまとめます。どのような内容が理想的と考えますか。

須藤:安全保障技術研究推進制度に応募しないと明記すべきだ。2月の中間とりまとめでは、制度利用の是非を各大学が自由に判断して良いと解釈をする人がいる一方で、基本的には応募してはいけないと解釈する人もいる。幅広い解釈ができ、誰もが賛成できる文章にしている。しかし、学術会議として制度に反対するという内容を、はっきりと言っておくべきだと思う。

学術会議での議論は、研究者の間でも関心を集めていますか。

須藤:太平洋戦争を経て(戦争を目的とする科学研究には従わないという)1950年の学術会議の声明を出した。その頃の議論を経験した人は非常に少なくなっている。私のさらに下の世代は、そういう議論があったことすらも知らない。

 しかも、今の20代、30代は研究費が非常に少なくて困っている。職も不安定。そういった状況で、防衛装備庁から自由に基礎研究をやって良いと言われると、全然悪くないと思ってしまう。研究をやって近視眼的になっていると、そうなりかねない。

 だけど、10年後にどうなるか、ちょっと考えてみなさいと言ったら、たいていの人たちはそこで初めて分かってくれる。若手研究者に気付かせてあげられない、我々の世代にも非常に責任がある。

若手研究者の経済状況というのも、今回の議論の裏側にあるのですね。

須藤:助教などの安定した雇用ポジションに付けるのは、30年前だとだいたい30歳すぎというのが普通だった。ところが現在では、天文学分野でも、1つのポジションに50〜100人が応募する。いまや35〜36歳で雇用が安定したポジションにいる人は、非常に優秀か、あるいは幸運な人しかいない。場合によっては40歳代でも短期的なポスドクのポジションで食いつなぐ必要がある。

 そうすると、経済的な問題、ご家族の問題とかを考えたら、軍事・防衛と学術の関係についてではなく、2〜3年後の自分の職と研究を優先する。それは当然だ。それが死活問題というのはよく分かる。だから、優秀な若手研究者をどのように安定的に雇用するかが、今回の議論とは密接に関係している。

研究の自由、奪われたくない

解決策はあるのでしょうか。

須藤:基本的には文科省管轄のお金を増やすしかない。ついでに言うと、世界一の研究者には膨大なお金を使うといった過度なインセンティブに傾いた資金の使い方には反対する。日本で今までノーベル賞を取った人たちは、お金欲しさに研究したわけではない。それでもこれだけ立派なノーベル賞学者を輩出している。

 重要なことは、1人の研究者に資金を集中するのではなく、幅広く資金を分散させることだ。例えば教授の給料が若手研究者の2倍だとすると、教授の給料をさらに2倍に増やしたら若手4人分になる。それだったら教授の給料は上げることなく、若者を2人雇用した方が良い。

 基礎研究というのは非常に裾野が広い。どの研究が良い成果に結び付くかなんて実は誰も分からない。色々な人が色々な方向から、人と違う研究をやる自由を保障して初めて成果が出る。何かを基準に選別して、特定の人だけに膨大なお金を付けるというのは、完全に無駄な行為だ。

 私を含めてほとんどの研究者は、リッチになるためにこの業界に入ったわけではない。自分の好きな研究が自由にできることが何よりもの喜びだ。「学者は好きなことをやって飯を食っている」と言われるが、まったくその通り。自由があって貧しくないのであれば、良いと思う。安全保障技術研究推進制度は研究の自由を妨げる可能性を持つ。私は反対だ。

須藤靖(すとう・やすし)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県生まれ。1981年東京大学理学部物理学科卒業。1986年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。カリフォルニア大学バークレー校、ミラー基礎科学研究所研究院、茨城大学理学部物理教室、広島大学理論物理学研究所、京都大学基礎物理学研究所を経て現職。日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。

このコラムについて

「軍民両用技術」の曲がり角
 防衛用にも民生用にも使える軍民両用技術「デュアルユース」。ロボットやAI(人工知能)などの最先端分野を中心に、軍民の境目は薄まりつつある。防衛装備庁は2017年度、デュアルユースの活用に向け、有望な研究を手掛ける大学や企業などに提供する資金を大幅に拡充。だが「軍事」への警戒感を持つ研究者らが反発し、激しい議論が起こっている。有識者へのインタビューを交えつつ、現状をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/031500046/032300003/

 


100万円寄付よりも国有地問題を追及せよ

田原総一朗の政財界「ここだけの話」

2017年3月24日(金)
田原 総一朗

(写真:ロイター/アフロ)
 大阪府豊中市の国有地が大幅に安い価格で学校法人「森友学園」に売却された問題で、3月23日に同学園理事長の籠池泰典氏の証人喚問が行われた 。

 一連の中でも最も大きな問題は、国有地を大幅に安く売却されたことだ。森友学園が小学校を開設するにあたり、財務局が鑑定価格9億5600万円の国有地を、地下のごみ撤去費8億1900万円を差し引いた約1億3400万円で購入した。さらに民進党の指摘では、国が汚染土除去費用1億3176万円を支払い、結局、同学園が負担したのはたった200万円だったという。

 こんなことは、どう考えてもあり得ない話だ。国有地の売却にあたり、何らかの介入があったとしか思えない。事実、証人喚問では籠池氏は「その都度その都度の場所で政治家の関与があったのではないかと思っている」と述べている。

 証人喚問で籠池氏は、自民党の柳本卓治参院議員や北川イッセイ前参院議員、日本維新の会の東徹参院議員に相談したことを明かしている。鴻池祥肇参院議員を含めて、これら議員の働きかけが、結果的に介入になったのか、与野党を含めてしっかりと究明していく必要がる。

100万円寄付問題で、籠池氏は安倍首相に喧嘩を売った

 16日には、籠池氏が衆参予算委員会のメンバーに対して、「安倍晋三首相から妻・昭恵夫人を通じて2015年9月に100万円の寄付を受けた」と話したという。ただ、菅義偉官房長官は、同日の記者会見でこの内容を否定している。

 これについて、「日本会議の研究」(扶桑社新書)を執筆した菅野完氏が、「籠池氏が安倍首相から寄付を受け取った物的証拠がある」として、寄付者名簿と振込票の画像を公開した。これに対し安倍首相は、「そんな事実は全くない」と発言している。

 僕は、これは籠池氏が安倍首相に真っ向から喧嘩を売りつけたんだと思う。籠池氏が安倍さんに政治献金をしたということを公表することはあり得るかもしれないが、安倍さんから寄付してもらったことを公表することは、普通では考えられないことだ。

 首相に喧嘩を売るということは、ある意味「捨て鉢」だ。何が籠池氏を捨て鉢にさせたのか。

 経緯を振り返ると、不自然さが残る。籠池氏は9日、大勢のマスコミの前で「小学校開設の申請は続けるし、悪意ある批判に対しては、園として今後も断固として戦う」と言い切っていた。ところが、翌日の夕方に開かれた記者会見では180度姿勢を変え、「認可の申請を取り下げる。理事長を退任する」と発表した。

 さらに15日も、籠池氏は日本外国特派員協会での会見を延期した。実は彼は、同日の午前中に上京している。マスメディアの記者たちは、彼が東京に来れば、おそらく財務省か国土交通省に行くだろうと推測し、両方を張り込んだのだが、籠池氏はどちらにも現れなかった。

 この日、籠池氏は誰に会ったのか。相当影響力の強い人物、おそらくは政治家に会って、何らかの圧力をかけられたのではないかと思う。

 そのあたりまでは、言ってみれば自民党の説得が効いていた。しかしその後、籠池氏は安倍さんに対して真っ向から喧嘩を売る形になった。

 野党は、以前から籠池氏の国会招致を要求していたが、これを安倍さんや自民党が拒否していた。ところが、100万円寄付問題が表沙汰になると事態は一変する。

 野党が求めていた「国会招致」。一般的に考えれば、まずは参考人招致からだと思われていたが、突如、自民党サイドが「証人喚問」をすると言い出した。

 参考人招致と証人喚問は、全く「重み」が違う。参考人招致というのは、何を言ってもいい。嘘を言っても、答えなくても許される。一方、証人喚問は、嘘を言えば偽証罪で罰せられるのだ。

 証人喚問の話が出たことについて、一番驚いたのは野党側だろう。参考人招致を拒否し続けていた自民党が自ら「証人喚問をする」と言い出したからだ。自民党の幹部たちからも「なぜ証人喚問になったのか」と驚く声も上がっている。

 これを誰が決めたのか。自民党の中で僕が取材した限りでは、どうやら安倍さん本人が言い出したという。なぜ、これまで参考人招致すら拒否していた安倍さんが、証人喚問をやると言い出したのか。

 安倍さんは籠池氏が売った喧嘩に対して相当怒りを感じたのではないかと僕は思う。籠池氏と安倍さんの間には、「対立」などという生易しい言葉では言えないほどのことが生じたのではないか。

今回の100万円寄付問題は、かつての「偽メール事件」とは違う

 籠池氏が「安倍首相から100万円の寄付を受けた際の書類だ」と主張する振込票について、「それは本物なのか」「信用できる証拠なのか」と疑う声も出ている。特に民進党は慎重な姿勢を見せているという。

 それはかつて、民主党がライフドア事件をめぐり、ねつ造されたメールを公表して鬼の首を取ったかのように自民党を追及した「偽メール事件」があったからだろう。

 僕は当時、この事件をよく取材したが、偽メールの仲介者はジャーナリストの端くれで、その人物の名前を出した時に、週刊誌の編集者たちが「あんな男のことは信用できないよ」と口を揃えた。実際、それは信用できないメールだった。

 しかし、今回は当時の事件とは相当違うと思う。もしでたらめの証拠ならば、籠池氏は安倍さんに喧嘩を売ることはなかっただろう。

 今回、寄付者名簿と振込票を公表した菅野完さんに対し、籠池氏はずいぶん信頼を寄せているようだ。菅野氏の取材を受け、菅野氏を通して発言をすることもあった。僕は菅野氏と会ったことはないが、彼の著書「日本会議の研究」は、かなり取材をして執筆していると感じた。その点を考えると、民主党の偽メール事件を仲介したジャーナリストとは随分違うと思う。

 籠池氏は、100万円の寄付を公表した時点で、証人喚問までのシナリオは想定していたのではないか。

 今回の証人喚問で、安倍さんが籠池氏に100万円の寄付をしたことについて、白黒をはっきりと立証することはできなかった。

 両方に証拠が出なかった時は、安倍さんとしてはイメージが悪いだろう。「やはり100万円の寄付はあったんじゃないか」という疑惑が残ってしまう。ただ、昭恵夫人が森友学園に100万円の寄付をするということは、法律的に何の問題もない。

重要なのは100万円寄付ではなく、国有地の問題だ

 証人喚問をすることで、安倍さんは幕引きを図りたいと考えているのかもしれない。そうはいかないだろう。やはり、野党は国有地売却の交渉時に財務省の理財局長だった迫田英典国税庁長官や、当時の近畿財務局長らの証人喚問も求めると思われる。

 野党は安倍さんを首相の座から引きずりおろしたいと考えているかもしれない。

 だが、最大の問題は100万円寄付問題ではなく、国有地が格安で売却された問題だ。一般的にはあり得ないことについて、近畿財務局長に問う必要がある。

 今後、財務省は野党が要求する証人喚問に応じるのか。ここが1つの大きな焦点だ。野党は国有地問題にフォーカスし、厳しく追及すべきである。


このコラムについて

田原総一朗の政財界「ここだけの話」
ジャーナリストの田原総一朗が、首相、政府高官、官僚、財界トップから取材した政財界の情報、裏話をお届けする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/032300013
http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/787.html

[不安と不健康18] 生産性も向上! 睡眠「4つのNGと3つの法則」「繁忙期残業100時間」は朗報か? 悲報か? 
生産性も向上! 睡眠「4つのNGと3つの法則」

8割の社員が効果を実感した企業も

ビジネスパーソンに贈る 眠りの超スキル
2017年3月24日(金)
伊藤和弘=フリーランスライター

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/16/091500011/032200009/1.jpg

仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

 作業療法士・睡眠健康指導士の菅原洋平さんが、企業の依頼を受けて「睡眠マネジメント研修」を行うユークロニアを設立したのは5年前のこと。当初は外資系企業が中心だったが、最近は国内企業からの依頼も増えてきたという。

 「事故防止、社員のメンタルヘルス、生活習慣病の予防、生産性の向上、といった目的で依頼される企業が多いです。特に外資系では“スリープ”はビジネススキルの一つと見なされていますので、社内研修に取り入れる企業が多かったのですが、日本でもストレスチェックの義務化をきっかけに昨年から睡眠改善に関心を持つ企業が増えてきました」(菅原さん)

 菅原さんが睡眠研修を担当した出光興産で研修に参加した人たちに聞くと、82%が研修による睡眠の改善を自覚したという。加えて、生産性の向上も確認された(下グラフ)。

睡眠研修の後に生産性が向上

出光興産で睡眠マネジメント研修に参加した17人に調査。研修から2カ月後、グラフに示した6項目の平均自己評価点数がすべて向上。総合点は研修前から12.3%上がった。(データ提供:ユークロニア)
 その菅原さんが指導する睡眠改善法の基本は、「4つのNG」を解消することと、「4−6−11の法則」を守ることだ。それはどんなものなのか、順番に説明しよう。

良かれと思ってやっている習慣が逆効果に

 まず、「4つのNG」から。例えば「眠る前にコーヒーを飲むと良くない」なんていうのは誰でも知っているだろう。問題は「いい睡眠を取ろうとして逆効果になっている習慣」だ。

1. 寝室で本を読む

 眠る前に本を読む習慣がある人は少なくない。それ自体は悪くないのだが、「まずいのはベッドの上で読むこと」と菅原さん。テレビを見る、スマホをいじるといった行為も同じ。要するに、「ベッドの上で眠ること以外の何かをやる」のが良くないという。

 菅原さんは「脳にはフィードフォワードという働きがあり、場所と行為をセットで記憶するんです」と説明する。その結果、次にその場所に行ったとき、よりスムーズに同じ行為ができるようになる。本を読んでいれば「ベッドは本を読む場所」、テレビを見ていれば「ベッドはテレビを見る場所」と脳は思い込んでしまうわけだ。それが安眠を妨げてしまう。

 それを防ぐには、眠らないうちはベッドに入らないこと。睡眠以外の行為は極力しない。そうすることで、「ベッドは眠る場所」と脳に覚えさせるのだ。

 ただし、これまでの生活習慣をやめろというわけではない。「ワンルームマンション暮らしだったら、就寝前にベッド以外のイスなどに座って本を読んだり、テレビを見てもいい。とにかく、ベッドの上でしなければOKです」と菅原さんはアドバイスする。

2. 眠くないのに早起きするため早くベッドに入る

 翌朝、出張で早く起きなければいけないときなど、睡眠時間を確保するためにいつもより2時間も早くベッドに入る。ところが、なかなか眠れず、深夜になるまで悶々と過ごしてしまった――こんな経験はないだろうか?

 「人間は目覚めて光を見てから16時間後に眠くなるようにできています。無理に早く眠ろうとしても、なかなか眠れるものではありません」と菅原さん。眠れないと、いろいろなことを考える。それが前述のフィードフォワードによって、「ベッドは考え事をする場所」と脳が信じてしまうと、慢性の不眠症にもつながりかねない。

 例えば、朝7時に起きたとしたら、「寝るのに丁度よいのは、16時間後の午後11時くらい」などと計算してベッドに向かうといい。多少の早寝は構わないが、眠くもないのに、いつもより早い時間にベッドに入って、無理に寝ようとしてはいけない。

3. 毎日同じ時刻にベッドに入る

 規則正しい睡眠リズムを作るため、毎日同じ時刻にベッドに入る。いいことに思えるが、まず意識すべきなのは就寝時刻ではなくて起床時刻が正解だ。一般的には目覚めて光を見てから16時間後に眠くなるので、「就寝時刻ではなくて、起床時刻を一定にすることが大切なんです」と菅原さんは話す。

 毎日同じ時刻に眠って同じ時刻に起きられれば確かに理想的だが、仕事に追われるビジネスパーソンが毎日同じ時刻に就寝するのは難しい。ときには眠くならない日もあるだろう。そんなときに無理にベッドに入っても、なかなか快適な眠りはやって来ない。

 一方、毎日の起床時刻を同じにして、同じ時間に朝日を見ていると、少しずつ就寝時刻もそろってくるようになるという。

 特に注意してほしいのは休日だ。平日は出社のため早く起きなければいけないが、休日なら昼まで寝ていることもできる。しかし、そうすることで平日にできていた体内時計のリズムが崩れてしまう。平日と同じ時刻に起きるのは無理でも、「寝坊による起床時刻の遅れはせめて3時間以内に。そうしないとメンタルの不調が起こりやすくなります」と菅原さんは注意する。それでは足りないという人は、前日に少し早めに寝るようにしよう。

4. 帰りの電車で睡眠不足を補う

 通勤電車で睡眠不足を補っているビジネスパーソンも多い。行きの電車で寝るのはまだいいが、帰りの電車で寝るのはいけない。睡眠圧といって、起きている時間が長いほど直後の睡眠は深くなる。「夕方以降に眠ると睡眠圧が減って、夜間のメジャースリープが浅くなってしまうんです」と菅原さん。


帰りの電車で寝ると、夜間のメジャースリープが浅くなってしまう。(©PaylessImages-123RF)
 特に通勤時間の長い人は要注意だ。夕食後のうたた寝も同じく良くない。夕方以降は眠くてもガマン。たっぷり睡眠圧をためて爆睡しよう。

3種類の生体リズムを整える

 「4つのNG」を覚えたら、次は「4−6−11の法則」を実行してほしい。これは睡眠に関係する3つの生体リズムを整える方法で、数字はそれぞれの時間を表している。


■起床後4時間以内に光を見る(メラトニンリズムを整える)

 夜になると、脳の松果体からメラトニンというホルモンが分泌されて眠くなる。一方、早朝を迎えて強い光を見ると、メラトニンの分泌が止まって眠気が消える。だから、起きたら光を見ることが大切なわけだ。前に触れたように、光を見ると16時間後に再びメラトニンが増加する。


起床後1時間以内に朝日を見ることが、快眠への第一歩となる。(©PaylessImages-123RF)
 起きても窓を開けずに薄暗い部屋で過ごしていると、メラトニンの分泌が止まらず、いつまでも目が覚めない。メラトニンを止める感度が最も高いのは起床後1時間以内。時間が経つほど感度が落ちて、起きてから4時間以上経つと光を見ても反応しなくなる。起きたら1時間以内に朝日を浴びるのがベスト、自宅に籠もりっきりの日でも4時間以内には光を見るようにしよう。


■ 起床後6時間経ったら仮眠タイム(睡眠−覚醒リズムを整える)

 目覚めてから最初の眠気がやって来るのは8時間後。朝7時に起きている人なら午後3時頃だ。「この時間に眠くなりやすい人は、起床後6時間が経った頃、一般的には昼休みの時間に仮眠を取るといいでしょう」と菅原さん。

 昼間の仮眠のポイントは「眠くなる前に」「1〜30分以内」「イスに座ったまま」「起きる時刻を3回唱える」ことだ。

 わずか1分目を閉じるだけでも、脳を休めることができる。6分以上の仮眠で、その後のパフォーマンス低下を防ぐことも確認されている。ただし、30分以上寝ると睡眠が深くなって、夜のメジャースリープに影響するのでNG。仰向けにならず、イスの背もたれにもたれて寝たほうがいいのも同じ理由だ。

 「自己覚醒法といって、寝る前に起きる時刻を3回唱えると意外とスムーズに起きられます。夜の就寝前にも、ぜひやってみてください」と菅原さん。目覚まし時計を使わずに決めた時刻に起きると、気分がいいのはもちろん、日中の居眠りも少なくなるという(Psychiatry Clin Neurosci. 2002 Jun;56(3):223-4)。


■起床後11時間経ったら体を動かす(深部体温リズムを整える)

 睡眠中は体温が下がる。起床後は体温が上がり出し、起床してから11時間経つと、体温が最も高くなる。このタイミングで運動すると、さらに体温が上がり、眠るときスムーズに下がりやすい。逆にこの時間帯に眠ってしまうと、夜中に体温が下がりにくくなり、眠れなくなってしまうという。

 朝7時に起きた場合、11時間後となるのは午後6時だ。快眠のためには、運動は夕方から夜のほうがいい。会社からの帰りに、一つ前の駅で降りて歩くのもいいだろう。特に気をつけてほしいのは休日の夕方だ。つい家でゴロゴロしがちな時間帯だが、散歩でも買い物でもいいので体を動かすことを心がけてほしい。

 この「4−6−11の法則」すべてを実行しようと思わなくてもいい。「一つ整えば自然と他のリズムも整っていきます。やりやすいものを一つ注意するだけでも効果はあるはず」と菅原さんは話す。睡眠を改善したい人は早速今日から試してみよう!

菅原洋平(すがわら ようへい)さん
ユークロニア社長、作業療法士、睡眠健康指導士 
菅原洋平(すがわら ようへい)さん 1978年生まれ。国際医療福祉大学卒業。国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター勤務などを経て、2012年より現職。様々な企業で「睡眠マネジメント研修」を行いながら、ベスリクリニック(東京都千代田区)で「睡眠外来」を担当。著書に『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『「寝たりない」がなくなる本』(王様文庫)など。

このコラムについて

ビジネスパーソンに贈る 眠りの超スキル
 仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。しかし、大事なプレゼンや商談の日を寝不足でむかえたのでは、せっかくの準備も報われにくい。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まない! ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/16/091500011/032200009

 


http://www.asyura2.com/16/health18/msg/442.html

[経世済民120] 仰げば尊し、わが社の恩 「繁忙期残業100時間」は朗報か? 悲報か? 熟年離婚で夫婦どちらも「老後ビンボー」に! 「定年
仰げば尊し、わが社の恩

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

2017年3月24日(金)
小田嶋 隆

 先週の今頃、いわゆる残業時間の上限を100時間未満とすることで労使の話し合いが一致したというニュースが流れてきた(こちら)。

 様々なソースをあれこれ読み比べて確認してみたのだが、このニュースを伝える文章は、どれもこれも、どこからどう見ても、あらゆる点でどうかしていて、私の感覚では、マトモに読み進めることができない。支離滅裂過ぎて意味が読み取れないというのか、すべての前提があまりにも異常過ぎて、うまくアタマが回らないのだ。

 だって、労使が合意した残業時間の限界点が「過労死ライン」を超えた先に設定されているって、これ、死んだ人間だけが受け取れる死亡保険金を担保に借金をするみたいな、ジョークにしてもあんまり悪趣味でしょうが。

 最初に前提部分の話をしておくと、私は、今回の労使間の議論の源流にある「働き方改革」という言葉が、すでにして異様だと思っている。

 「働き方改革」は、第3次安倍内閣のもと、2016年9月26日に内閣総理大臣決裁によって設置された内閣総理大臣(第97代)・安倍晋三の私的諮問機関であり「働き方改革実現会議」が中心になって推し進めることになっている改革なのだが、個人的には、この会議の名称にも気持ちの悪さを感じている。

 ついでに言えば、この「働き方改革実現会議」の背景にある「一億総活躍社会」という言葉も強烈な違和感を覚えているのだが、そこまで網を広げると話が拡散してしまう気がするし、前にも書いたので(こちら)別の機会に。

 話を元に戻す。

 「働き方改革」と言ってしまうと、成句の構造上「改革」の成否は労働者の側に帰せられることになる。
 それ以前に、「労働者の働き方が間違っているからそれを改善する」というスジのお話に聞こえる。

 つまり、「働き方改革」という言い方で問題に取り組もうとする限りにおいて、あくまでも言葉の響きの上での話ではあるが、残業が多過ぎることも、労働生産性が低い傾向も、過労死が相次いでいる現状も、すべては労働者の側の「働き方」が悪いからだという認識から出発せねばならないことになるわけだ。

 考え過ぎだと思うだろうか?
 私はそうは思わない。
 タイトルを甘く見てはいけない。
 特に、「改革」のようなものを立ち上げる時は、自分たちが、何のために何のどの部分を改革するのかをはっきり指し示した上で動き出さないと、成果を上げることは期待できない。

 「働き方改革」というフレーズは、その意味で的を外している。

 この言い方だと、労働者の働く意識や、働く方法や、働く姿勢が間違っていることがすべての元凶で、それを改めるためには、個々の労働者が自分たちの働き方と仕事に対する取り組み方と、仕事への意識の持ち方を見つめ直して、より効率的に、生産性高く、意識高く働くべく自らを改革して行かなければならないってな話に落着してしまう。

 そうでなくても、「働き方改革」は、雇用主や労働基準監督局や経営側が取り組むべき課題であるよりも、より強く労働者の側が意識改革として取り組むべき努力目標であるかような響きを放射している。

 よりくだけた言い方をするなら、「働き方改革」という言い回しは、うかうかすると、

「おまえらがダラダラ働いてるから残業が減らないんじゃないのか?」
「いつまでも職場の人間とダベってないでキビキビ働けってこった」
「っていうか、残業代目当てに用も無いのに会社に残ってるんじゃねえよ」

 ぐらいなことを示唆しているようにさえ聞こえるわけで、であるとすれば、こんなたわけたキャッチフレーズを掲げている限り日本の労働問題は改善の端緒にたどりつくことさえできないに決まっているのである。

 本来なら、残業の問題は、「働かせ方改革」という言い方で、よりストレートに雇用側の使用責任を問うカタチで規定されるべきイシューだ。

 「働かせ方改革」がピンと来ないのなら、さらに具体的に「人員配置改革」と言い直しても良い。その方が、解決の方策がずっと見渡しやすいはずだ。

 最近、『豪腕――使い捨てされる15億ドルの商品――』(ハーパーコリンズジャパン)という本を読んだ。米大リーグで、投手の4分の1がトミー・ジョン手術(内側腹側靭帯再建手術)を受けることになっている現状に対して警鐘を鳴らしている書物で、投手の酷使と故障の問題について、1試合の投球数、登板感覚、投げる球種、休養のあり方などなど、様々な方向からの仮説や提案を、現役の投手や医師への徹底した取材とともに紹介した好著だ。

 詳しい内容は本書の内容に譲るが、提示している問題の核心は、投手の故障が「酷使」に起因しているという至極単純な事実のうちにある。

 よって、野球のピッチャーの肘という、人間の肉体に付けられる値札で最も効果な部分を防衛するための最良の方法は、それを大切に使うこと以外に無い。実にシンプルな話だ。

 さてしかし、日米の球界では、先発投手の投球数や登板間隔への考え方がかなり異なっている。

 おおまかに言って、日本のプロ野球が1試合の投球数にさほどこだわらない(日本のプロ野球の投手は、時に1試合で150球以上を投げきることがある)代わりに、登板間隔を長めに確保する(先発投手は通常、中5日ないしは中6日の間隔で登板する)のに対して、米大リーグでは、1試合の投球数の上限をおおむね100球以内に制限する一方で、先発投手のローテーションは基本的に中4日で回している。

 いずれの運営方法が投手の肘や肩にとって負担が少ないのかは、議論の分かれるところでもあれば、個人差を含む部分でもあって一概には言えない。が、どっちにしてもはっきりしているのは、日米いずれの球界でも、結局のところ、ピッチャーが酷使されているという事実だ。

 この「限られたピッチャーが酷使される傾向」を改めるためには、思い切った投球数制限ないしは登板間隔制限を課すか、ベンチ入りの選手の人数(あるいはダグアウトで準備するピッチャーの数)を増やすか、年間の試合数を減らすか、あるいは野球のルールそのものを変えて、1試合のイニング数をたとえば5イニングに短縮するといったような、ドラスティックな変化が求められる。

 とはいえ、監督が優秀な投手を酷使することは、野球が勝利を目指す競技である限りにおいて、むしろ当然の取り組みであるわけで、とすれば、投手の酷使傾向を改善する手立ては、監督の采配術や投手自身の気持ちの持ちようの中からは到底導き出されない。

 「ピッチング改革」や「投げ方改革」のようなお題目を掲げてみただけのおざなりな取り組み方からは、なおのこと生まれない。

 ピッチャーの酷使を改めるためには、「投げさせ方改革」、さらには「野球ルール改革」「試合日程改革」「ベンチ改革」といった、野球の競技としての前提を構成するルールや日程や営業方針の根本的な改革に取り組まなければならない、と、当たり前の話ではあるが、つまりはそういうことなのだ。

 もうひとつ例をあげる。

 教育現場から体罰を駆逐するために「体罰改革」を掲げても、おそらくたいした効果はあがらない。生徒にヘルメットを装着させたり、受け身の取り方を指導することで安全な体罰の推進を促したところで、肝心の教師の側が体罰を教育の一環と見なしている限り、状況の改善は期待できない。

 体罰を根絶するためには、まず最初に教育者による「体罰」が、一般人による「暴行」とは別種の、一定の愛情と教育効果を伴った動作であるかのごとき類推を許す「体罰」という用語を駆逐せねばならない。

 でもって、たとえば「暴力教育追放運動」であるとか「対生徒暴行摘発改革」といった、より目的をはっきりさせたタイトルの取り組みを開始せねばならない。

 「働き方改革」は、体罰問題における「殴られる側」に焦点を当てた言い方で、その意味では「殴られ方改革」で、体罰を根絶しようとする試みに近い。
 真に改革を望んでいるのなら、「殴っている側」を摘発しないといけない。

 残業問題で言うなら、残業を強要している側の人間やシステムを変えるべきだということで、その場合、やはり改革のスローガンは、「人員配置改革」ないしは「職場改革」(いっそ「職馬鹿威嚇」でも良い)の方がずっとわかりやすい。

 さて、言葉の問題を措くとしても、100時間という数字は、やはりどこからどう見ても圧倒的に狂っている。

 決定の経緯もどうかしている。
 報道によれば、経団連が「月100時間」、連合が「月100時間未満」を主張して譲らずに対立が続いていた状況を踏まえて、安倍首相が、13日に開催された、首相、経団連、連合の三者会談の中で、両トップに

 「ぜひ100時間未満とする方向で検討いただきたい」

 と要請したということになっている。
 で、経団連と連合の両首脳は会談後、記者団に対し、

 「首相の意向を重く受け止めて対応を検討したい」

 と口をそろえた、てなお話になっている。
 なんという予定調和というのか出来レースというのか稚拙なプロレスというのか茶番劇であろうか。

 それ以前に、「100時間」と「100時間未満」を争っていたことになっている労使双方による争点の、なんとみみっちくも白々しいことだろう。

 ちゃんちゃらおかしくて笑うことすらできない。

 そもそも労働者の時間外時間については、労働省告示「労働時間の延長の限度等に関する基準」によって、その上限が1カ月の場合は45時間、1年の場合は360時間と規定されている。

 ということはつまり、月100時間の残業は、その着地点からしてすでに法令違反だ。

 とすると、このたびの合意は労働側と経営側の偉い人たちが集まって話し合いを重ねた結果、現行法で許されている残業時間の2倍以上のところで線を引くプランに労使双方が賛成したというお話になるわけだが、いったいこれはどこの世界のディストピア小説の一場面であろうか。

 違法な残業で職場を運営することに労使が合意したということはつまり、間違っているのは法律の方で、現実はあくまでも法律とは無縁な場所で動いているということなのだろうか。

 この手の話題に、法令遵守一点張りの理屈を持ち込むのは、あんまりスジの良くない態度だ。

 実際、法律を盾にものを言う学級委員長ライクな説得術は、現実の労働現場で働いている生身の人間の耳には、書生くさい理想論にしか聞こえないものなのかもしれない。

 というのも、今回、時間外労働の上限規制について労使が話し合いを持たなければならなくなったこと自体、そもそも労働基準法の規定ないしは「サブロク協定」(正式には「時間外・休日労働に関する協定届」。 労働基準法第36条が根拠になっていることから、一般的に「36協定」という名称で呼ばれている)が、あまりにも労働現場の実態にそぐわない非現実的な「絵に描いた餅」だったことを反映しての出来事だったからだ。

 法令だけの話をするなら、日本の公道には、どこの場所のどんな道路であれ、100km/h以上で走って良い道は1本も通っていない。とすれば、その日本の道路を走る日本のクルマが、100km/h以上の速度で走る性能を備えていること自体、違法な運転を促すけしからぬ事態だと言って言えないことはないわけだが、事実としては、日本の自動車会社が自社製の自動車に取り付けているスピードリミッター(最高速度制限装置)は、自主規制により180km/hに設定されている。

 とすると、この180km/hと100km/hの幅はいったいどんな意味を持っているのだろうか。

 もしかして、今回決まった100時間という数字は、スピードリミッターの180km/h制限と同じく、

 「建前論を言えば100km/h以上はそもそも違法だって話なんだけど、まあ、それは法令上の目安てなことで見てみぬふりをしておくことにするとして、それでも180km/hは、絶対に超えてはならない命を守る最後の一線としてメカニカルにフィジカルに絶対的に強制しておかなければならない」

 ということなのかもしれない。

 「色々と職場ごとに事情もあるだろうし、繁忙期ってなことになれば、そうそう法令遵守一辺倒で働いているわけにもいかないことはわかる。でもそれでも100時間の線だけは死守しないとダメだよ」

 ということなら、まあ、こんな尻抜けの合意でも、まるで意味がないということはないのかもしれない。

 とりあえずは、最初の一歩として数字が出てきただけでも上等だと、そう考えている勤労者ももしかしたら、少なくないのだろう。

 でも、自動車の場合、リミッターが180km/hだからといって、100km/hを超える速度で走っていれば、いずれ取り締まりの網にひっかかることになっている。

 バレなければ大丈夫だとは言っても、どんな場合であれ速度を超過して走っている現場を警察官に押さえられたら罰金と違反点数を召し上げられる恐れは常にあるわけで、そういう意味では、100キロ制限という規定は、まるで有名無実な空文であるわけではない。一定の有効性を持っている。

 ところが、「サブロク協定」には、何の罰則も無い。そもそも違反を取り締まる機関が想定されていない。

 そのあたりを考えると、100時間というこのウソみたいな合意点は、奇天烈で非人間的で猛烈に悲しくて哀れで靴下臭くはあるものの、日本の労働者がはじめて手にした有効な残業撤退ラインであるのかもしれない。

 まあ、その残業限界点が、過労死ライン(月80時間なのだそうですよ)を超えた場所に設定されているあたりが、なんだか逆に現実的な感じを与えるあたりがこの話のさびしいところであるわけだが、ひとつ提案がある。

 日本の勤労者が残業を回避できないのは、ひとつのタスクをチームで請け負う前提が守られているからだという話を聞いたことがある。

 つまり、仕事が個人に属しているのではなくて、仕事の方に個人(それもチームで)が属しているから、自分だけの判断で仕事のペースを決めたり、加減することが難しいというのだ。

 実際、自分が休んだら職場の全員に負担がかかる状況では、残業の回避は個人の労働観の問題というよりも、その人間のコミュニケーション作法の問題になってしまう。

 人間関係を大切にする人間は、簡単には帰れないことになる。つまり、自分の私生活を防衛するために仕事仲間の私生活を踏みにじらないといけないみたいな設定になっているとしたら、これはマトモな日本人であればあるほど、定時退社は難しくなる。

 つい3日ほど前、ツイッターに以下のような投稿をした。

《若い人たちが先に進めるのは、3年か4年ごとに卒業式がやってきて強制的に環境がリセットされるからだと思う。環境が新しくなれば、いずれ中味も新しくなる。同じ連中とツルんでいたら人間は変われない。20年同じ会社で働いているオヤジが腐るのは、淀んだ水の中で暮らしているから。》(こちら)

 この書き込みには、意外な反響があって、現在のところリツイート数が5000件を突破している。

 ちょうど卒業式の時期だったということもあるのだろうが、私は、リツイートされた理由は、日本人の多くが、多かれ少なかれ自分たちが「場」に支配されていることを強く自覚しているからなのだろうと考えている。

 「働き方改革」の問題は、「働き方」や「労働観」や「生産性」の問題である以上に「場」の問題だ。

 職場という「場」の持っている巨大な呪縛が、そこで働く人間たちに残業を強いている。

 残業時間が減る代わりに、職場の居心地を失うのだとしたら、他の場を知らない中年以上の世代は大反対するはずだ。

 逆に言えば、職場の外に有効な「場」(友人、家庭、趣味のサークルなどなど)を持っていない勤労者は、自動的に残業に依存するようになるのだろうし、職場は職場で、残業によって従業員から職場以外の「場」を奪うことで、彼らの忠誠心を確保しようとしているのかもしれない。

 ともあれ、こんな現状をもし本気で打破したいなら「自分にとっての所属時間が、わりとすぐ終わる場所」に、会社を変えてしまうしかない。学校に通う子供たちがそうであるように、3年か4年ごとに卒業式がやってくるのであれば、日本の大人も、もう少し自分本位の振る舞い方ができるようになることだろう。

 うん、山ほど反論が来るのは分かりきっている。だが、「会社なんて、そんなもんだ」と思えなければ、おそらく「働き方改革」だろうが「働かせ方改革」だろうが、きっとうまくいかない。まともな会社で1年持たなかった私だから言える真実だ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

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諦めつつもすがりたい。ほかに信じるものがない。
棄教に踏み切れず沈黙を選ぶ、それが私たちか…。

 当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。相も変わらず日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。

このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/032300087


 

 


「繁忙期残業100時間」は朗報か? 悲報か?

働き方の未来

働き方改革実現会議が「実行計画」を策定へ
2017年3月24日(金)
磯山 友幸

残業時間の上限規制がかかれば、これまで事実上「青天井」となっていた残業時間に歯止めがかかることになる。しかし「繁忙期の上限、1カ月100時間未満」は妥当なのか?
かえって残業を助長しかねないとの危惧も

 「残業100時間を法律で許すなんて暴挙だ」「一律的な規制は限界。自律的に働きたい労働者も考慮すべきだ」──。

 政府がとりまとめた繁忙期の残業時間の上限を1カ月100時間未満とする案について、左右両派から非難の声が上がっている。規制強化を求める労働者側からすれば、法律に「100時間未満」と明記されれば、そこまで働かせることが「合法」だという意識が広がり、かえって残業を助長しかねないと危惧する。一方で、ソフトウェア開発やクリエイティブ系の仕事に就いている人たちは、納期前に集中的に仕事をするなど自分のペースに合わせるのが当たり前で、一律に時間で規制されては仕事がやりにくいという声もある。果たしてこの「上限100時間未満」は、働き手にとって朗報なのか、悲報なのか。

 政府は昨年9月から続けてきた「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)で、3月末までに「働き方改革実行計画」を策定する。長時間労働の是正は、その中の最大の柱のひとつだ。

 3月17日に首相官邸で行われた9回目の会議では、「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案」という文書が出された。会議のメンバーでも連合の神津里季生会長と、経団連の榊原定征会長が合意し、安倍首相が了承したものだ。

 そこにはこう書かれている。

<原則>

■ 週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とし、違反には次に掲げる特例を除いて罰則を課す。

<特例>

■ 特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。

■ かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける。

■ この上限については、

 @2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。

 A単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。

 B加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。
もともと「例外」を除いて、残業は月45時間までのはず

 これを読んで、瞬時にルールを理解できる人は少ないだろう。もともと労働基準法では残業は月45時間までという原則が明記されている。ところが、話をややこしくしているのが「例外」を認めている点だ。労働基準法の36条にはこう書いてある。

 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間又は前条の休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」

労使で合意さえすればOKの「36協定」

 何ということはない、労使で合意さえすれば、良いとしているのだ。これが「36(さぶろく)協定」と呼ばれるものだ。日本での労働時間は法律で定められている「建前」と労使合意による「本音」の二本立てでこれまでやってきたわけである。その建前と本音のかい離が激しくなっているから、職場での過重な労働が当たり前になっているわけだ。

 当初、働き方改革実現会議では、この36協定を廃止すべきだ、という声が出た。労使で合意すれば例外を設けられるようにするのではなく、法律で上限を決めればよいではないか、というわけだ。

「36協定」廃止の話は消え、特例の上限を決める方向へ

 ところが会議が進む中で、「36協定廃止」の話はどこかへ消え、「本音」である特例の上限を法律で定めるという話になった。要は、労使双方にとって「36協定」は都合が良い制度なのである。ここで言う労使とは連合と経団連だ。

 経団連にとって、労働組合と合意すれば「例外」が設けられる36協定が便利なのは容易に理解できる。御用組合が多い中で、経営側の思いどおりに残業時間を設定できるからだ。では、連合にとっても都合がよいとはどういう事か。つまり、「労使合意」を条件とすることで労働組合の存在意義を確保していることになるからだ。つまり、法律よりも労使合意が超越するという現状を変えたくなかったわけである。

 だが、この労使合意というのも実は「建前」だとみることができる。労働組合の組織率は今や17.3%。大企業を除くほとんどの会社に労働組合はない。法律では組合の代わりに「労働者の過半数を代表する者との協定」を条件にしているが、本当に彼らが労働者の過半数の意見なのかどうかも怪しい。

「組合は『労使合意』を押しつけてくる」

 「組合は敵ですね。会社と残業時間を合意したと言って、社員に押し付けてくるわけですから」。そう労働組合がある大企業の若手社員は言う。組合があるからといって、1人ひとりのライフスタイルにあった「働き方」を実現できているわけではないのだ。

 では、「100時間未満」を法律で定めることは無意味か、といえばそうではない。「100時間未満」という時間よりも、法律で上限を決めるということが大きいのではないか。いったん上限が法律に入れば、その法律を改正して上限時間を徐々に短くしていくという流れになる可能性は十分にある。長時間労働を是正する第一歩になり得るだろう。

「100時間」では、死ぬ寸前まで働け、と言っているに等しい

 だが、いかんせん「100時間未満」という上限は緩すぎる。100時間の残業をして脳溢血で死亡すれば、ほぼ間違いなく労災認定がされる。死ぬ寸前まで働け、と言っているに等しい。とくに危惧されるのは、慢性的な人不足に陥っている飲食店や小売店などの中小零細企業で、「100時間未満」という数字がひとり歩きしかねないことだ。

 厚生労働省が昨年6月に公表した「過労死等の労災補償状況」によると、2015年度の「脳・心臓疾患」による労災申請件数は795件と前年度に比べて32件増えた。請求のうち死亡した例は283件におよぶ。いわゆる「過労死」である。過労死した人の数も2014年度の245件から増えている。

「過労死」のケースで目立つ「自動車運転」と「建設」

 9回目の働き方改革実現会議では、安倍首相が「残る重要な課題」として、2つの職種を挙げた。「自動車の運転業務」と「建設事業」である。長距離トラックの運転手や、深夜にわたって工事に携わる建設作業者は長時間労働を強いられるケースが多い。とくに人手不足が深刻化している現在、さらに長時間の過重労働に追い込まれている。実際、過労死認定されたケースの中で目立つのが「自動車運転」と「建設」なのだ。安倍首相は「長年の慣行を破り、猶予期間を設けた上で、かつ、実態に即した形で時間外労働規制を適用する方向としたい」としており、長時間労働にメスが入ることになりそうだ。

 もっとも、職種によっては単純に労働時間の上限を設けるだけでは、長時間労働の解消につながらないケースも想定される。仕事の仕方自体を変えない限り、労働時間を短くすることは難しい。現在と同じ成果をどうやったら短い時間で上げることができるのか。経営者と従業員だけでなく、顧客なども一体となって、仕事の仕方を抜本的に変える必要がありそうだ。そういう意味ではこの3月にまとまる「行動計画」は、あくまでも第一歩に過ぎないだろう。

緊急アンケートのお知らせ
 日経ビジネスでは日本企業の働き方改革の実態について、緊急アンケートを実施しています。回答にかかる時間は5分程度です。回答は3月27日(月)までにお願い致します。
 集計結果は後日、日経ビジネス、日経ビジネスオンラインなどで発表します。
 ご回答いただいた方には、抽選で薄謝をプレゼントさせていただきます。
 ご協力いただける方はこちらから。

このコラムについて

働き方の未来
人口減少社会の中で、新しい働き方の模索が続いている。政官民の識者やジャーナリストが、2035年を見据えた「働き方改革」を提言する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/032300038/


 

 
熟年離婚で夫婦どちらも「老後ビンボー」に!

「定年男子 定年女子」の心得

ある日突然に、それはやってくる...
2017年3月24日(金)
大江 英樹

大江英樹(おおえ・ひでき)氏
経済コラムニスト。1952年、大阪府生まれ。大手証券会社で個人資産運用業務、企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年後の2012年にオフィス・リベルタス設立。写真:洞澤 佐智子
 長年の会社勤めを終えてようやく定年退職を迎える、今日が最後の出社日。終業時刻になって最後にみんなに拍手と花束で見送られ、職場を後にする。どこの会社でも見受けられる定年の日の光景です。ちょっと寂しいような、それでいてちょっとホッとしたような気持ちで家路に向かう。

 そして家に着いて妻と2人でグラスを交わし、しみじみとそれまでの人生を振り返る。やがて食事も終わり、後片付けをした妻が、新聞を読んでいる自分のところにやってきて1枚の紙を差し出す。何かと思って目をこらすとそれはなんと「離婚届」! 夫の顔に衝撃が走る。こんなドラマのような話が、巷では結構増えているようです。

 2005年に渡哲也さんと松阪慶子さんが主演したテレビドラマ『熟年離婚』は平均約20%という高視聴率を上げ、熟年離婚という言葉が流行語にもなりました。

 事実、厚生労働省の人口動態調査によれば、1990年代に全ての世代で上昇した離婚率は、2000年代以降、婚姻期間10年未満の層で減少に転じたのに対して、婚姻期間20年以上の層では横ばいが続いているのです。

 長年連れ添った夫婦が離婚をするのですから、他人にはうかがい知れない様々な思いがあることでしょう。周囲がその是非をとやかく言うべきではないということは確かですが、ごく一般的に考えた場合、少なくとも老後の生活ということで見れば、熟年離婚には2つの大きな問題があると思います。1つはお金の問題、そしてもう1つは生活の問題です。

経済的には決してプラスにはならない

 まずはお金の問題ですが、先に結論から言ってしまうと齢をとってからの離婚というのは経済的には決してプラスにはなりません。離婚に絡むお金として、具体的に慰謝料や財産分与、そして年金といったところから見ていきましょう。

 慰謝料というのは結婚している相手方の不当な行為によって精神的苦痛を受けた場合に、その償いとして請求できるお金のことを指します。したがって離婚の場合に常に慰謝料が生じるとは限りません。精神的苦痛というのは不貞行為であったり、DV(家庭内暴力)であったりといったことが一般的ですが、他にも慰謝料を請求できるケースはあるでしょう。

 私は法律の専門家ではありませんから詳しいことはわかりませんが、よく芸能人が慰謝料を何千万円も貰ったという話がありますが、あれはもちろん一般的なことではありません。結婚していた期間と責任の度合い、それに相手の経済力によって変わってきます。社会保険労務士の井戸美枝さんによれば、20年以上の結婚期間があっても慰謝料は300万円程度もあれば多い方だそうです。

年金で分割できるのは厚生年金だけ


 次に財産分与ですが、これは結婚している間に築いた財産の半分が目安です。ただし住宅ローンやマイカーローンなどの借り入れはここから差し引きます。サラリーマンの場合、財産の多くは不動産すなわち自宅でしょうし、それもまだローン返済が残っていたりするとその分を引かなければなりませんから、莫大な金融資産でも持っていない限りはそれほど多くのお金にはならないでしょう。

 そして年金です。年金分割という制度ができて、離婚しても妻は夫の年金の一部を受け取れるようになったと言われますが、実際のところは、それほどもらえるわけではありません。

 分割できるのは厚生年金の部分だけですから、夫が自営業なら妻には1円も分割の恩恵はありません。夫がサラリーマンや公務員であれば、専業主婦の妻の場合、半分はもらえます。

 ただしこれは結婚期間に相当する部分ですから、例えば結婚期間が30年で、その間の厚生年金が月額にして10万円ぐらいだとすれば、その半分の5万円が妻の分となります。妻自身の基礎年金と合わせても10万円を少し超える程度ですから、それだけで十分な老後の暮らしができるかどうかは疑問です。夫は夫で、厚生年金が半分になってしまうわけですから、こちらも老後のお金は心細くなります。


作成:社会保険労務士井戸美枝さん(『定年男子 定年女子』より)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030600122/032300004/rule.png


 結局、経済的なことを考えればできれば夫婦円満で離婚などせずに暮らすというのが望ましいわけです。さらに、共に働いて仲良く暮らすことができればベストな選択だと私は考えます。その理由は、経済面のみならず、定年後の生活の面においても、とてもメリットが大きいからです。

熟年離婚よりも怖い高齢離婚

 齢をとって離婚し、1人暮らしになるのは寂しいものです。女性から離婚を切り出す場合、夫と一緒に暮らすのが耐えられず離婚に至るというケースでは特に、離婚した後の妻は生き生きと新しい生活を楽しんでいます。

 逆に離婚を切り出された夫の方は、それ以降落ち込んでしまうことが多いようです。よく言われる「老後の三大不安」は「お金」「健康」「孤独」ですが、熟年離婚によってお金が不安になるだけではなく、離婚によって精神的にダメージを受けて孤独感に苛まれるということになります。

 ひいては健康面にも悪影響を及ぼしかねません。生活していくという面についてもやはり熟年離婚というのはマイナスになる可能性が高いということは言えるでしょう。

 では、そうならないようにするにはどうすればいいのでしょうか。離婚の原因はどちらかが一方的に悪いというわけではなく、多くの場合、複雑な理由がありますから単純明快に「こうすれば絶対大丈夫!」みたいなものはありません。

 正直言って、冒頭のドラマのように定年退職の日に妻から離婚を切り出されたのでは、それを止めることはまず不可能だと言っていいでしょう。

 しかしながら昔と違って今や「人生100年時代」と言われていますから、60歳からでも新しい人生を切り開こうと思えば、不可能というわけではありません。問題は定年後、夫が家にいるようになってから様々なコミュニケーションの問題でぎくしゃくして、あげくは離婚に至るというケースです。

 俗に言われている「夫原病」というやつですね。定年を迎えた夫がずっと家に居ることによって妻のストレスが高まり、心身ともに悪化してしまうと言われているものです。

 夫の立場からすれば、長年一生懸命働いてきてようやく退職し、家でのんびりしているのにどうしてそんな風に言われなきゃならないのか、と思うかもしれませんが、奥さんの立場からすれば家のことは何一つせずに、ただ世話がかかるだけの夫の存在が憂鬱に感じるのは仕方ないことだと思います。こうしたストレスが積み重なって残りの人生が少なくなった時点でさらに悲惨な「高齢離婚」になるのは何としても避けなければなりません。

夫婦は同じ趣味などなくてもいい

 そのために大切なことだと私が思うのは、夫も妻もお互いに自立することだと思います。特に夫は仕事をしないのであれば、積極的に家事をすべきです。

 少なくとも奥さんの忙しいときは食事ぐらい自分で作ることが必要です。何もせずに家でゴロゴロして「おーい、メシはまだか?」というのは最悪のパターンです。妻が出かけようとすると「あれ、俺のメシは?」というのも同じです。小さい子供じゃないのだから、簡単な食事ぐらい自分で作ればいいのです。

 どうしてもできなければどこでも総菜は売っていますし、外に食べに出かけてもいいのですから。もし料理が苦手なら掃除でもなんでもかまいません。少なくとも定年後は家の中では家事についてイコールパートナーだという意識を持って「自立」することが求められます。


イラスト:フクチマミ
 私自身、定年後は家で料理をすることが増えました。やってみると結構楽しいものです。料理本なんか買わなくても最近は料理に関するネットの投稿サイトを見ればレシピはたくさん載っています。

 「男の料理」にありがちな高価な食材を一杯買ってくる必要もありません。台所で余っている食材をキーワードとして入れて検索すれば、それを使ったお料理の数々が出てきますので、自分で考える必要もありません。料理というのは段取りがすべてですから、料理しながら片づけることも考えると、脳の活性化には最も効果があるそうです。

 私はどちらかと言えば家で仕事をすることが多く、妻は外へ働きに行くのでたまに早起きすると妻のお弁当を作ったり、終日家にいるときは晩御飯を用意していたりすると喜ばれます。ボケ防止に加えて妻からも感謝され、自分の楽しみも増えるという、いわば一石三鳥だと言えます。

 もちろん、こうした料理をはじめとする家事だけに限らず、外での仕事についてもイコールパートナーと考えるのが理想でしょう。できれば夫も妻も現役時代だけではなく定年後も自立して自分で働くことをおすすめしたいです。経済的にも、夫婦のコミュニケーションの面から見てもこれがベストな選択肢だと思うからです。

 企業が実施している定年間際の「ライフプランセミナー」などで、よく「定年後は夫婦で共通の趣味を持ちなさい」とか「夫婦で一緒に過ごせる時間を作りなさい」みたいなことを言われますが、私はこういうステレオタイプな思い込みは間違いだと思います。

 共通の趣味などなくてもいいのです。大事なことはお互いを尊重し、互いの領域に踏み込み過ぎないことだと思います。夫婦とはいっても他人ですから、趣味や興味が違うのは当たり前です。それを無理に合わせようとするからストレスが溜まるのです。もちろん自然に同じ趣味を持っているのであれば、それはとても結構なことです。一緒に楽しめるのであればそれに越したことはありません。ただ、無理やり一緒に活動する必要はないということなのです。

 私は親、兄弟、子供は血のつながった他人、そして夫婦はこれまで一緒に戦ってきた戦友だと思っています。できることならこれからも同じ人生をずっと一緒に戦っていけるのが理想です。そのためにも夫婦は決して無理をして相手に合わせようとせず、互いに相手を尊重して暮らしていくことがベストと言えるのではないでしょうか。

本内容をもっと詳しく知りたければ…
『定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!』

 「定年後は悠々自適神話」は崩壊。65歳まで働くことを覚悟している現役世代がほとんど。
しかし勤務先で再雇用されても仕事のやりがい、給与ともに大幅ダウンし、職場の居心地はひどく悪いのが現実だ。

 さらに65歳で会社を「卒業」し、年金収入だけになったら、本当に暮らしていけるのか…。 親や自分の介護にかかるお金は? 60代からの就活ってどうやればいい?

 人生100年時代に、経済的にも精神的にも豊かな定年後を送るために現役時代から準備すべきことを、お金のプロであり、リアル定年男子&定年女子のふたりが自らの経験と知識を総動員してガイドする。

定年男子 定年女子、トークイベントを開催!
『3月31日(金)、紀伊國屋書店大手町ビル店 紀伊茶屋にて!』

このコラムについて

「定年男子 定年女子」の心得

STOP! 老後破産。定年男子こと、元金融マンで経済コラムニストの大江英樹氏が本音で語る「金持ち老後」入門コラムです。「不安な未来」に向けて、何をどう備えるべきか。定年退職時に預金150万円しかなかったという自らの体験を基に、優しく解説します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030600122/032300004


http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/426.html

[国際18] 韓国ロッテが怯えた中国「告発TV番組」の顛末 日本産食品の「産地誤読」で面子失った国営中央テレビ ギリシャ銀預金流出再開
韓国ロッテが怯えた中国「告発TV番組」の顛末

日本産食品の「産地誤読」で面子を失った国営中央テレビ


世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
2017年3月24日(金)
北村 豊

中国の「告発番組」で日本産の食品が標的となったが…(写真:Imaginechina/アフロ)
 中国の国会に相当する“全国人民代表大会”の第12期第4回会議は3月5日に開幕し、3月16日に12日間の会期を終えて閉幕した。その閉幕日前日の3月15日は“国際消費者権益日(世界消費者権利デー:World Consumer Rights Day)”で、中国では“中国消費者協会”が毎年テーマを決めて全国的な活動を展開してしている。今年のテーマは「“網絡誠信 消費無憂(誠実で信用できるインターネットで憂いなき消費)”」で、全国各地の消費者協会はインターネットショッピングで安全な消費を行うためのキャンペーンを展開した。

最有力候補は韓国ロッテグループ

 また、3月15日の夜には国営の“中央電視台(中央テレビ)”が、特別番組「世界消費者権利デー消費者の友特別夜会」(略称:3・15夜会)を放送するのが毎年恒例となっている。3・15夜会は1991年3月15日から開始された番組で、中国政府の関係部門と中国消費者協会が共同で主催し、社会生活の中で消費者の権益を侵害する事例を取り上げてその実態を暴露することにより、消費者の権利保護を呼び掛けると同時に、消費者の合法的権利意識の向上を目的としている。

 3・15夜会に対する中国国民の関心は非常に高く、視聴率が高い国民的人気番組の一つとなっている。このため、3・15夜会で消費者権益を侵害している事例として取り上げられると、致命的なダメージを受ける可能性が高く、企業は存亡の危機に立たされるし、商品は販売に急ブレーキがかかり、売上高の大幅な低下は避けられない。そればかりか、3・15夜会は外資企業を標的とした外資叩きの手段としての役割も果たしており、2013年にはアップルとスターバックス、2014年にはニコン、2015年には日産、ベンツ、フォルクスワーゲンが消費者権益を侵害しているとして取り上げられ、各社が大きな損失を被っている。

 さて、中国国民は3・15夜会を心待ちにすると同時に、消費者権益を侵害している事例として取り上げられる可能性が高いのは何かと想像をたくましくした。そこで最有力候補に浮かび上がったのは韓国のロッテグループ(中国名:“楽天”)であった。中国が反対する米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(略称:THAAD)」の韓国配備に、その配備地として所有するゴルフ場の敷地を国有地と交換する形で提供したのがロッテだった。THAADの韓国配備に協力したロッテは中国に盾突いた企業となった。ロッテ所有のゴルフ場敷地がTHAAD配備地に決定した昨年11月以来、中国はロッテ叩きを開始し、中国国内でロッテが「楽天」として展開する事業に対する規制を強化し、楽天は事業の休止を余儀なくされつつある。<注1>

<注1>中国の楽天叩きについては、2017年3月17日付の本リポート「THAAD韓国配備開始、止まらぬ中国のロッテ叩き」参照。

 人々は3・15夜会で消費者権益侵害の事例として槍玉に挙げる可能性が最も高いのは楽天であろうと想像していたし、多数の評論家も同様の予想を発表していた。そうした事態を最も恐れていたのは楽天を始めとする韓国の中国進出企業であった。今や韓国はTHAAD配備によって中国に敵対する国として位置づけられ、楽天を筆頭とする韓国の中国進出企業は針のむしろに座らせられ、祈るような気持ちで3・15夜会の放送が始まるのを待った。

告発は7件、韓国企業は含まれず

 3・15夜会は中央テレビの「財経チャンネル(CCTV2)」で3月15日の夜8時から2時間にわたって会場となる中央テレビ本部ビル内の大ホールから実況放送された。同番組の中で消費者権益を侵害している例として取り上げられたのは7件で、その概要は以下の通りであった。

(1)世界最大の中国語百科ウェブサイト“互動百科”に掲載されているデタラメな広告。

 4800元(約8万円)を支払えば、科学的裏付けのない薬品や経歴詐称の医院の広告が堂々と掲載され、善良な消費者を騙す手助けをしている。

(2)河南省“鄭州市”の“科視視光公司”

 科視視光公司は無資格で鄭州市内の小中学校で視力検査を行い、検査時に児童・生徒に家庭情報を記入させ、そこに書かれた電話番号を使って父母に連絡を取り、同社が扱うコンタクトレンズの販売を行っている。彼らには医師資格もなく、彼らの行為は全て違法である。

(3)家畜の成長促進剤、オラキンドックス(Olaquindox)

 かつて中国では“痩肉精(赤身エキス)”<注2>と呼ばれる飼料添加剤が大きな問題となったが、今日新たにオラキンドックスが飼料添加剤として販売されている。その肉を人間が食べることにより健康に与える影響は極めて危険である。

<注2>“痩肉精”の詳細については、2011年4月1日付の本リポート『薬品漬け「健美豚」の恐ろしい副作用』参照。

(4)日本の放射能汚染地域で生産された食品を輸入して販売

 2011年3月に日本の福島県で発生した原発事故による放射能汚染地域で生産された食品が生産地をごまかす形で輸入されて、「無印良品」や「“永旺超市(イオン)”」などの店舗で大量に販売されている。中国は日本の放射能汚染地域からの食品輸入を禁止しており、これは明らかな違反行為である。

(5)“耐克(ナイキ)”製シューズの「エアクッション」搭載という虚偽広告

 米バスケットボールの選手「コービー・ブライアント」が2008年の北京オリンピックで使用したシューズの複製品の販売広告で、ナイキが特許を持つエアクッション「ズームエアー」搭載の製品と宣伝していたのに、実際に当該製品を購入したらズームエアーは搭載されていなかった。これは明らかに虚偽広告である。

(6)黒いサプライチェーンの“月嫂(出産・育児ヘルパー)”

 浙江省“杭州市”の一角には100m足らずの路地に数十軒の“月嫂公司”が軒を連ねて“月嫂”の紹介・派遣業務を行っている場所があるが、“月嫂公司”は無資格なのに、“月嫂”になりたい女性たちに“月嫂”の資格証明書である「“月嫂証”」の偽物を販売して金儲けしている。このため、彼らが派遣する“月嫂”の多くは何の知識もない無資格者である。

(7)老人に伸びる黒い手、悪辣な「健康講座」

 全国各地で老人を集めて行われている健康講座は、優しい言葉で老人の信頼を獲得した後は、病歴などを聞き出した上で言葉巧みに騙して、病状の改善には何の効果もない健康補助食品を数十倍の高値で販売する詐欺集団である。

 人々の予想に反し、上記の通り3・15夜会が提起した7件の消費者権益侵害の事例には楽天を始めとする韓国の中国進出企業は含まれていなかった。3・15夜会を外資叩きの手段の一つとしている感のある中国が、どうして楽天を筆頭とする韓国の中国進出企業を標的にしなかったのか。その理由は不明だが、楽天が胸を撫で下ろしたことは想像に難くない。

ナイキは謝罪・賠償、無印良品は反駁

 外資企業として消費者権益侵害の例に挙げられたのは、(4)の日本の放射能汚染地域で生産された食品を輸入販売したとされた無印良品などの日本企業と(5)の米国のナイキであった。“耐克体育(中国)有限公司(ナイキ中国)”は3・15夜会の放送直後に“上海市楊浦区市場監督管理局”の調査を受け、翌16日には謝罪を表明した。3月17日、ナイキ中国は声明を発表し、同社製品の「ハイパーダンク(Hyperdunk)2008 FTB」モデルの宣伝に間違いがあったとして販売済み商品の回収を表明し、回収に応じた購入者に対して販売価格1499元(約2万5000円)の全額を返金するのに併せて4500元(約7万4000円)の賠償金を支払うことを言明した。さすがはナイキで、3・15夜会が告発した問題に迅速に対応し、わずか2日で解決にこぎ着けたのだった。

 ところで、無印良品などの日本企業はどう対応したのか。中国は2011年3月に福島県で発生した原発事故から6年間が経過した現在もなお、日本の宮城県、福島県、茨城県、千葉県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、新潟県、長野県からなる10県を放射能汚染地域として認定し、当該10県を原産地とする食品の輸入を禁止している。良品計画の中国子会社“無印良品(上海)商業有限公司”は、3月16日に“微博(マイクロブログ)”を通じて中央テレビの3・15夜会の指摘に対して下記の声明を発表して強く反駁した。

声 明 書
 2017年中央テレビ「3・15夜会」の中で暴露された「無印良品の一部輸入食品が日本の放射能汚染地域産である」とされた件に関し、当社は次のように声明する。

【1】今回誤解を引き起こした原因は、当社が販売している輸入食品の表示に「販売者・株式会社良品計画RD01 東京都豊島区東池袋4-26-3」とあったことだが、これは当社の親会社の名称と登記住所を示すものであり、当社が輸入販売する食品の原産地ではありません。

【2】3・15夜会が指摘した2件の輸入食品の原産地は以下の通り:

 無印良品「ノンカフェイン ハト麦とレモングラス(穀物飲料)」原産地:日本国福井県
 無印良品「卵黄ボーロ(焼き菓子)」原産地:日本国大阪府

【3】当社は全国の消費者に向けて言明します。当社が輸入・販売する日本の食品は、「国家品質監督検査検疫総局」が公布した日本の食品・農産物の検査検疫に関わる規定を厳格に遵守しており、中国政府が禁止した日本の放射能汚染地域産の食品を輸入・販売していません。当社が輸入・販売する食品には全て「原産地証明書」が有り、証明書の正本は「上海出入境検査検疫局」に提出し、併せて「中華人民共和国入境貨物検査検疫証明」を取得しています。毎回の輸入食品の通関検疫申告書および証明書は全て規定に合致しています。

声明者:無印良品(上海)商業有限公司   2017年3月16日
 無印良品の2件以外に3・15夜会が暴露したのは、(a)“永旺超市(イオン)”が販売していた北海道産米の「パックご飯」の中国語表示を剥がしたところ、実際の原産地は放射能汚染地域の新潟県であった、(b)広東省“深圳市”の“海豚跨境科技有限公司”がネット上で販売していたカルビーの「フルグラ(フルーツグラノーラ)」は中国語の原産地表示は「日本」となっていたが、袋の裏面に表示されていた工場記号K1は放射能汚染地域である栃木県の清原工場であった、という2件であった。(a)と(b)について反論が行われた様子はなく、3・15夜会の指摘が正しいものであるかどうかは分からない。

北京市で「汚染地域産食品」見つからず

 3月16日に“中新網(中国新聞ネット)”は「“北京市食品薬品監督管理局”:北京市で日本の放射能汚染地域産の食品は差し当たって見つからず」と題する記事で次のように報じた。

【1】3月16日、北京市食品薬品監督管理局は全市の流通要所に対し食品安全監督取締り検査を行った。“食品管理流通処”の処長は、「今回の検査範囲は、市場、“超市(スーパーマーケット)”、“便利店(コンビニエンスストア)”、農産物市場などの実質的な食品経営企業で、無印良品、“永旺(イオン)”、“711(セブンイレブン)”、“屈臣氏(Watsons)”などの総合食品経営企業も含むものだ」と述べた。

【2】16日午前9時までに、北京市内の“家楽福(カルフール)”、“華堂(イトーヨーカ堂)”、“永旺(イオン)”、“沃尓瑪(ウォルマート)”、“楽天(ロッテ)”などの18のスーパーマーケットチェーン、北京市の農産物市場、“京東商城”などの電子商取引企業が輸入食品の自主検査を行った結果、国家が禁止する日本の放射能汚染地域を原産地とする輸入食品はとりあえず見つからなかった。セブンイレブン本部は北京市内の全店舗に対して日本からの輸入食品を売場から下げて自主検査を行うよう指示したが、問題の商品は存在しなかった。

 上記の事実から分かることは、3・15夜会が暴露した「中国が禁止している日本の放射能汚染地域を原産地とする食品が輸入され、中国市場で販売されている」という事実は存在しないということである。それは単に食品薬品監督管理局の役人が商品に貼られていた表示を読み誤り、生産企業の本社所在地を生産地と誤解しただけのことだった。その誤解を鵜呑みにして、3・15夜会で意気揚々と消費者権益侵害の事例として放送したのは中央テレビの極めて恥ずかしい勇み足と言える。

「独善と我田引水」治す薬、見つからず

 この事実を踏まえて、中国のインターネットの掲示板には中央テレビを非難する書き込みが殺到した。あるネットユーザーは、「ばつが悪い話だ。中央テレビは問題の商品を摘発しようとして、逆に虚偽報道を摘発された」と書き込んだ。また、別のネットユーザーは、「無印良品をやっつけようとしたのは中央テレビではなく、“外交部(外務省)”だった。結果として、中央テレビは無印良品の宣伝に寄与した」と書き込んだ。

 事の真相は分からないが、中央テレビは国営メディアであり、中国共産党総書記の“習近平”が主導する“媒体姓党(メディアの名前は党)”であるからには、中国共産党が何らかの意図で日本からの輸入食品に対し打撃を与えようとした可能性は否定できない。だが、残念ながら、その意図はあっけなく打ち砕かれ、中央テレビは面子を失ったのだった。

 3・15夜会が楽天を含む韓国の中国進出企業を槍玉に挙げることはなかったが、それが確認された後の3月20日、韓国政府はTHAADの韓国配備を理由に中国が韓国に対する経済的報復を強めているとして、世界貿易機関(WTO)へ中国による協定違反の可能性を提起した。これに対し中国外交部の報道官は、報復措置は中国国民の民意によるものだとして、政府の関与を否定した。しかし、上述の無印良品に関わるネットユーザーの書き込みからも分かるように、報復措置への中国政府の関与を否定する中国国民はごく少数なのではなかろうか。独善と我田引水は中国が患う難病だが、それを治す薬は残念ながら未だ開発されていない。


このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/284031/032300022/

 

 


 
フィリピン中銀、政策金利を3%に据え置き−インフレ予想を下方修正
Siegfrid Alegado、Ditas Lopez
2017年3月23日 18:27 JST

エコノミスト21人中19人が据え置きを予想
17年のインフレ率を3.4%と見込む、従来予想3.5%−18年は3%


フィリピンの中央銀行は23日、主要政策金利である翌日物リバースレポ金利を過去最低の3%に据え置いた。景気拡大に伴うインフレ圧力に直ちに対応する必要はないと判断した。
  ブルームバーグが実施したエコノミスト調査では、21人中19人が据え置きを予想。2人は利上げを見込んでいた。政策金利予想のエコノミスト調査で全員一致の見方でなかったのは2年ぶり。
  オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のシンガポール在勤エコノミスト、ユージニア・ビクトリーノ氏は政策発表前、「物価圧力が強まっている。商品相場上昇だけでなく力強い内需もその理由だ」と指摘。その上で、「すぐに引き締めを始める必要はないとみている。7−9月(第3四半期)が最適だろう」と話した。
  2月のインフレ率はここ2年余りで最も高い水準だった。ただ同中銀は今年のインフレ率見通しについて、2月9日に示していた3.5%から3.4%に引き下げた。2018年のインフレ率予想も3.1%から3%に下方修正した。
原題:Philippine Central Bank Holds Rate as Inflation Fight Gears Up(抜粋)Philippine Central Bank Cuts 2017, 2018 Inflation Forecasts(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9F4A6KLVRC01


 

ギリシャで銀行預金流出が再開−支援策協議の行き詰まりで不安高まる
Nikos Chrysoloras、Alessandro Speciale
2017年3月23日 21:38 JST

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ツァカロトス財務相は債権団と協議続ける
国内銀向けELA上限を4億ユーロ引き上げ

ギリシャでは銀行預金流出の動きが再び始まった。これを受けて、同国の中央銀行は欧州中央銀行(ECB)の承認を得て国内銀行に提供する緊急流動性支援(ELA)の上限を引き上げた。金融支援の協議行き詰まりで、経済破綻の瀬戸際に陥った2015年の再現が預金者の頭をよぎっている。
  ギリシャ中銀の23日声明によれば、ECB理事会はギリシャの国内銀向けELA上限を466億ユーロ(約5兆5800億円)へと、4億ユーロ引き上げる要請に異議を唱えなかった。この引き上げは「ギリシャ国内行の流動性状況を反映し、民間部門の預金動向を考慮」したものだという。
  事情に詳しい関係者は、年初から3月16日までの預金流出額が約36億ユーロに上ったと明かす。預金減は税金の支払いならびに外国銀行口座への秩序立った資金移動を反映していると、情報が非公開であることを理由に匿名を希望した関係者が語った。
  ギリシャ中銀がELA上限値の公表を開始した2015年9月以来、上限引き上げを要請したのは初めて。ELA上限に関する声明から預金動向の「安定化」や「改善」という文言が削除されたのも初めてだ。銀行の健全性に対する預金者の信頼感が緩やかな回復を続けた16年は、ギリシャ国内銀への資金動向が純流入となっていた。同中銀は2週間前にELA上限を1億ユーロ引き下げたばかり。中銀報道官からのコメントは得られていない。
  ツァカロトス財務相と債権団の話し合いはこれまでのところ実を結んでおらず、協議のもつれが今年夏に返済期限を迎える債務の支払い不能につながる恐れがある。こうした不透明感が経済活動を圧迫し、今年の景気回復への期待を損ねかねない。
原題:Greek Deposits Bleeding Drama Resumes Amid Bailout Uncertainty(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON9MNZ6TTDS501

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/708.html

[不安と不健康18] 脂肪が「悪役」になったのはいつの時代からか 『脂肪の歴史』「男の更年期」改善、男性ホルモン補充療法の効果に疑問符
【第41回】 2017年3月24日 峰尾健一 [HONZ]
脂肪が「悪役」になったのはいつの時代からか

『脂肪の歴史』

脂肪というと悪役のイメージがすっかり定着している。では、「悪役」になったのはいつ頃からでしょうか
『脂肪の歴史』――原書房の“「食」の図書館”シリーズからの1冊である。豚肉、サンドイッチ、ビール、砂糖など、今まで食べ物や飲み物、調味料の歴史を取り上げてきたこのシリーズの流れからすると「脂肪」というのは少し浮いているような気もする。とはいえあくまで「食」の図書館ということで、脂肪といってもぜい肉の方ではなく、バターやマーガリンといった食用脂肪の歴史を辿っていく。


『脂肪の歴史』
ミシェル フィリポフ、服部 千佳子(訳)
原書房
176ページ
2200円(税別)
 脂肪というとすっかり悪役のイメージだが、3大栄養素のひとつにも数えられるように、カラダにとってなくてはならない存在でもある。タンパク質や炭水化物よりも1キログラムあたりのカロリーが豊富でエネルギー密度が高いため、多くの狩猟採取社会で重要な役割を果たしている。ほとんどの伝統的な食生活において脂肪は全カロリーのうち40%前後を占め、さらには伝統的なマサイ族の生活ではその割合が約66%、イヌイットにおいては約70%に上るとも言われているそうだ。

 動物性食物源への依存度が高い文化には、「ウサギ飢餓」と呼ばれる病気があるという。狩りの獲物となる動物がやせ細る晩冬や早春に脂肪分の少ない肉を摂取し過ぎると、脂肪とタンパク質のバランスが崩れてタンパク質中毒を起こしてしまうのだ。「激痛と満たされない空腹に苦しみながら死に至る」という解説だけでも充分恐ろしい。

 栄養素としてだけでなく、脂肪は「象徴」としても機能していた。第1章のタイトルは「権力と特権」。貴族たちの饗宴におけるご馳走としての肉、年貢として徴収されることもあった牛脂やバター、紀元前から君主の権力を示す道具でもあったオリーブオイルなど、古代から中世にかけて社会的序列を表すものとしての役割を担っていた例が挙げられる。

 さらには宗教との関わりにおける象徴としての働きについて、バターを中心に書かれている。さまざまな宗教で、バターは多産、繁栄、浄罪を象徴するとされていた。中世イングランドの婚礼では、多産を願って新婚夫婦に壺に入れたバターを贈る習慣があったという。フランスのブルターニュ地方では、結婚の祝宴で彫刻や装飾を施したバターのかたまりがいくつも飾られた。チベットでは、バターは寺院の仏像に塗りつけたり、女神像など仏教のシンボルである彫像を作ったりするのに使われる。

 今では嫌われ者とされる脂肪も、地域や時代を越えて眺めるとずいぶん違った扱われ方をされていることがわかる。では、悪役としての歴史は一体いつ頃から始まるのか。

 大きなきっかけとなったのが、ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士によって1950年代に開始された「7ヵ国研究」である。アメリカ、日本、フィンランド、オランダ、ギリシャ、イタリア、加えて当時のユーゴスラビアの中年男性の食習慣について長期にわたり調査したこの研究では、日本など心臓疾患の少ない国の国民は飽和脂肪酸の摂取量が少ない傾向にあるが、アメリカやフィンランドを含む国々は心臓疾患の罹患率と食事に含まれる飽和脂肪酸の量が高水準であることが指摘された。「食事と心臓疾患に関する仮説」と呼ばれるこの研究の成果が認められ、キーズ博士は1961年に『タイム』誌の表紙を飾り、ベストセラーとなった著作を通してその研究は広く一般にも知られるところとなる。

 相関関係はあっても因果関係があるとは限らない、飽和脂肪酸の代替物として使用された部分硬化植物油の製造時に発生するトランス脂肪酸が健康に悪影響を及ぼす、そもそも脂肪を「良いもの」と「悪いもの」に単純に区別すべきでない、といった批判の声は当初から上がっていた。しかしキーズ博士の考えは当時の多くの医学的権威によって支持され、飽和脂肪酸「悪魔」説は通説となる。消費者団体からの圧力も加わり、大手食品メーカーは部分硬化植物油へのシフトを進めていく。

 90年代にトランス脂肪酸の悪影響が明らかにされるまで、それまでの信仰が一転して批判に変わる様子といった細かなプロセスについては本書『脂肪の歴史』に譲る。感じるのは、何が体に良いのか、または悪いのか、とにかく人は健康に関してはっきりした答えを欲しがるということだ。「脂肪の善悪二元論」によって生まれる信仰と、その移り変わりに沿って乱立と淘汰をくり返す健康ビジネス。脂肪に限った話ではないが、健康に関する情報に対して適切な距離を取ることの難しさは今に至るまで変わらないのだ。

 そうしたことも考えさせられつつ、本書ではさまざまな角度から、脂肪の歴史ついて、さらにそこから映し出される人々の営みについて知ることができる。児童文学や映画など大衆文化における脂肪という切り口もあれば、「食」の図書館シリーズの本領を発揮したような、グルメにおける脂肪についての記述も豊富だ。

 西洋に関する記述に偏りがちな感はあるものの、すっかり定着した「悪役」としての脂肪に別の角度からスポットを当て、より前向きで豊かなイメージを抱かせてくれる。脂肪に対する見方をマイルドにしてくれる1冊だ。


(HONZ 峰尾健一)
http://diamond.jp/articles/-/122270



【第334回】 2017年3月24日 井手ゆきえ [医学ライター]
「男の更年期」改善、男性ホルモン補充療法の効果に疑問符

 団塊世代を狙い、日本でも「テストステロン(男性ホルモン)」の低下に伴う心身の不調に対し、ホルモン補充療法(TRT)が注目され始めた。ところが昨年来、TRT先進国の米国から「TRTには期待するほどの効果はない」という複数の試験結果が報告されている。

 通称「T試験」は、テストステロン補充群と非補充群で(1)運動能力、(2)性機能、(3)活力、(4)記憶・認知機能、(5)ヘモグロビン濃度(加齢に伴い低下し貧血を誘発)、(6)骨密度、(7)心血管の動脈硬化度(コレステロールだまり=プラークの厚みで計測)を比較検討した七つの試験を指す。

 7試験の対象者は、血清テストステロン値が275ng/dL未満で、性機能低下や心身の不調を訴える65歳以上の男性、およそ800人。

 19〜40歳の若年期レベルのテストステロン濃度を回復するため、1%濃度のテストステロン・ジェルを補充する群とプラセボ補充群に割り振られ、それぞれ1年間治療を受けた。

 まず昨年2月に報告された(1)〜(3)の結果だが、補充群では性活動が有意に改善したものの、12カ月の間に効果は低下。また、勃起機能も若干の改善を認めたが、既存の勃起不全改善薬には劣った。また運動能力や活力は多少改善したが、予想ほどではなかった。

 残る(4)〜(7)は先日、結果が報告されている。こちらも予想に反して補充群で心血管のプラークの厚みが増加したほか、認知機能は非補充群と比べ、良くもなければ悪くもない、という何とも期待外れな結末が示された。一方、ヘモグロビン濃度は改善、骨密度は非補充群より良好という結果だった。

 米国ではここ数年、製薬企業の宣伝攻勢で安易なTRTが横行。関連学会や行政が心血管疾患へのリスクを理由に「ホルモン低下を伴う明らかな病気以外での使用」にたびたび警告を出している。

 男性は女性のように「更年期」のはっきりした線引きがない。それだけに加齢による体力・気力の減退や性機能の衰えが気にかかる。とはいえT試験の結果からすれば、TRTに費用と時間をかける意味があるかどうかは疑問だ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)
http://diamond.jp/articles/-/121847
http://www.asyura2.com/16/health18/msg/443.html

[経世済民120] アマゾンのクラウドサービスが独走している理由 百貨店PB上手く行かず 意識高い系すぐ辞める理由 新入社員に頑張る理由ダメ
【第143回】 2017年3月24日 
アマゾンのクラウドサービスが独走している理由

――アンディ・ジャシー アマゾン・ウェブ・サービスCEOに聞く
アマゾン・ドットコムの子会社である「アマゾン・ウェブ・サービス」(AWS)は、世界最大のビジネス向けコンピュータインフラ事業である。2006年にこのサービスを立ち上げたアンディ・ジャシーCEOが3月に来日し、日本の顧客企業、パートナー企業を訪問。日本市場のさらなる拡大にも手ごたえを感じている。なぜAWSは強いのか、そして今後の注力分野を聞いた。

クラウドという“重力”には
誰も逆らえない


アンディ・ジャシー(Andy Jassy) アマゾン・ウェブ・サービスCEO、アマゾン・インフラストラクチャーCEO。AWSだけでなくアマゾン・ドットコムのインフラ部門を統括する。1997年アマゾン・ドットコム入社。ジェフ・ベゾスCEOのテクニカルアシスタントを務めたこともある。2002年からアマゾンのシニア・エグゼクティブチームのメンバー。2006年AWSサービスを立ち上げる
――まず、AWSの現状についてお聞かせください。

アンディ・ジャシーCEO(以下・黒文字)AWSの売上高は今期のランレート(通期予想)が140億ドル(=約1兆5000億円)に達すると見ています。すでに非常に大きいだけでなく、毎年50%の成長を遂げています。クラウドインフラ事業の分野でAWSは、2位以下のベンダーすべてを足し合わせても、その数倍の売り上げ規模となっています。

 すでに世界中で、多くの企業がすでに採用いただいているのですが、実は、世界各国の政府をはじめ、まだこれからAWSを採用するという企業や機関が非常に多いということを忘れてはいけません。つまり成長はまだまだこれから加速するのです。

――2004〜2005年ごろ、アマゾンが自社のECサービスのインフラを短時間で構築できるように作った仕組みがAWSの原点だということですが、なぜ、このサービスでAWSが先行できたのでしょうか。

 大手ITベンダーをはじめ他社でも、こうしたサービスは検討していたはずです。ただ、他社はこの市場はそれほど大きくならないだろうと懐疑的に思っていた時に、我々が本格的にスタートを切り、一貫して投資を拡大してきました。現状で他社より6〜7年先行しているという認識ですが、私自身、ここまで差をつけることができるとは思っていませんでした。

――どうして他社は、出遅れただけでなく、追いつけないのでしょうか。

 AWSと他のプロバイダーとの間には、かなり大きな違いがあります。まず、多と比べて我々はすでに非常に多くのサービスと機能を持っています。同時に、他社に先駆けて急速にイノベーションを遂げています。昨年、我々は1016個もの新しい重要な機能をAWSに追加しました。それはすべて、顧客からの要望に応えていくためです。1日平均3つの機能が新たに用意され、選択可能です。

 機能の追加は日々加速しており、ますます他社との差は開いていくと思います。これによってあらゆる企業は、現在のビジネスアプリケーションをクラウドに移すだけでなく、新しい付加価値を得ることができます。

 2つ目のアドバンテージは、AWSにはすでに非常に大きな「エコシステム」ができています。具体的には、開発パートナー、アプリケーション開発会社、そして顧客企業のユーザーのネットワークです。多くの主要な開発パートナー企業がAWSへの知識を深めていただいているおかげで、クラウドへの移行という大きな転換期に、顧客企業が既存の開発会社に安心して相談できる状況が生まれています。

 3つ目は、AWSは先行しているため成熟度が最も高いことです。我々は他社よりも大きなスケールで仕事をするノウハウを持っています。

2015年からAWS単体の業績を開示

――AWSは、なぜこれほど安くインフラを提供できるのですか。

 我々はアマゾンという流通業が母体で、基本は「ローマージン・ハイボリューム」のビジネス文化です。一方の伝統的なIT企業は非常にマージンが高いモデルでずっとやってきました。ですから、利益の薄い事業にわざわざ切り替えるのは難しかったのだと思います。

 ところが、2015年にAWSのビジネスを初めて決算で明らかにしたとき、それがいかに大きなビジネスなのかということを示すことができました。かつ、彼らが思っていたよりもクラウドへの移行は早く進んでいるということも明らかになったのだと思います。

 既存のIT企業がやってきたことは、既存の企業の顧客に対するサービスでした。AWSがやろうとしてきたこととは大きく違いました。ビジネスインフラにクラウドが使えるという発想は、既存のITに集中していると見えてこなかったのだろうと思います。我々は新鮮な目で、顧客にとって何が一番ハッピーなのかを検討することができました。既存のビジネスに深く入り込んで、うまくいっている中では、確かにローマージンのビジネスを始める意義は見いだせなかったのだと思います。

 クラウドが注目されてきた中で、おそらく既存のIT企業は、従来のソフトウェア・パッケージをクラウドとしてリパッケージできないかと考えていたのだと思います。ですが、それは全く考え方が間違っていることに気が付くのが遅れてしまったのです。日々顧客のワークロードが増えていく中で、そうした既存の方法論を拡大していくことは、例えて言うなら“重力”に対して戦いを挑むようなものです。

大企業がクラウド化することは
最初からわかっていた

――AWSは新しいビジネスアイデアを実現し、それをスケールアップさせるインフラとして使い勝手がいいものと認識していました。しかし今では多くの伝統的な大企業もAWSを事業基盤として採用し、また検討しています。大企業がクラウド化を真剣に検討するようになったきっかけはあるのでしょうか。

 AWSは開始当初から、多くのスタートアップがスクラッチ(プログラムを独自にコードから作ること)で開発していました。Airbnb、Pitarest、Slackといった企業です。日本でも、gumi、sansan、freeeをはじめとする多くの企業が使っています。

 そして、5年ほど前から、さまざまな業界で大企業がビジネスインフラにAWSを採用すると発表しています。

 日本での最新の事例は、世界で活動する銀行グループのBTMU(三菱東京UFJ銀行)です。ごく最近AWSを広く採用することを決めていただきました。数多くのアプリケーションをAWSに移行する計画で、その目的はビジネスのスピードアップ、そしてコスト削減です。75%のスピードアップ、30〜40%のコストダウンを目指しています。つまり、5年間で1億ドルものコストをセーブできる計算です。

 またNTTドコモは、すでに非常に多くのアプリケーションをAWS上で動かしており、約8ペタバイト(8000テラバイト)ものデータを日々やり取りしています。ほかにもローソン、ファーストリテイリング、日本通運など日本の代表的な企業が、あらゆるアプリケーションをAWSへ移行する作業を進めています。

米CIAもAWSを使っている

――大企業からの引き合いが増えたという5年前に、何かがあったのでしょうか。

 AWSは開始当初、スタートアップをターゲットとしていたものの、いずれ最も大きな顧客が大企業や政府になるだろうということはわかっていました。ですが、彼らがクラウドに事業基盤を移すにはかなりの時間、5年程度はかかることもわかっていました。非常に大きなアプリケーションのインフラを移行するには、それぐらいの検討時間が必要だったのです。

 大企業は大きな転換には保守的で、移行を決めてからも慎重に検討していくのは当然のことです。既存の事業基盤を維持しながら変革することが必要だからです。

 もう一つ重要なことは、大口の顧客が検討を進める間、我々は非常に高いパフォーマンス、高いセキュリティをもって運用してきたということです。その結果、先行して大規模な導入を決める企業が現れ始めました。

 たとえば、それまで自社のサーバでアプリケーションを開発していたネットフリックスが、全アプリAWSに移行することを発表したように、それが実際に可能だということを示したことがシグナルになり、大企業もいよいよ移行できるということを認識しました。さらに米国の情報機関であるCIAがAWSをビジネスに使うということを発表したことで、セキュリティの高さも証明されました。多くの企業が、CIAも使うのなら、確かなものだというお墨付きを得ました。

セキュリティやデータガバナンスでも
世界最大規模の管理体制を敷く

――クラウドが社会インフラとしての重要性が増す中、AWSのセキュリティに関して新たな取り組みはありますか。

 開始当初からセキュリティはAWSの最重要課題のひとつでした。その考えは今も変わっていません。常に新しい機能を追加し、信頼性も向上させています。したがって、現在の規模のセキュリティチームを他社で抱えるのはもはや難しいほど、体制は拡大し増強しています。

 厳格なセキュリティを維持するためのアプローチとしては、過去30年間の企業たちがやってきたアプローチと同じ方針でやっています。物理的なデータセンターへのアクセスも厳しくしています。また顧客がAWSを解約したあと、そのデータをクリーンにワイプすることも行っています。顧客が選択できる追加のセキュリティの機能も提供しています。

 またデータ処理の記録も、非常に粒度の細かいアクセス管理をしています。個人がどこでなにを操作したのかを把握できるほどの厳格な管理が可能です。また暗号化のキーを確保する方法は何通りか用意しています。すべてのサービスを暗号化することもできます。コンプライアンス対応も行っています。「クラウドトレイル」というサービスを開始しました。これはユーザーのアクセスログを得ることができます。AWSにデータを預けておけば、どんなに昔にさかのぼっても詳細なログデータを取り出すことができます。これは大きなメリットです。

 また、CISOの心配事は、社内のどこかで悪いサーバが動いているのではないかということです。AWSなら1つのAPI(プリケーション・プログラム・インターフェース)で、どこにいてもアクセス状況やデータの動きを取り出して一元管理できます。オンプレミス(自社運用のシステム)に比べて、クラウドの可視化のレベルは全く違うのです。

――来年GDPR(EUの個人データ保護規則)が施行されますが、対応はできますか。

 これらの情報管理機能で、GDPRにも対応できると確信しています。GDPRに限らず、我々はこれからもすべての国や地域の法律に完全に準拠していきます。

――毎年50%の成長率は、今後も続けられますか。そしてどこまで成長するのでしょうか。

 将来を予測することはできませんが、これからも意味ある形で成長を続けていけると楽観視しています。なぜなら今日お話したように、大企業や政府の大規模なクラウド移行は今後本格化するからです。

(取材・文/ダイヤモンドIT&ビジネス 指田昌夫)
http://diamond.jp/articles/-/121905


 

2017年3月24日 生地雅之 [株式会社オチマーケティングオフィス代表]
百貨店のプライベートブランドはなぜ上手く行かないのか


写真はイメージです
百貨店のPBは
徐々に広がっているのだが…

 ブランドは、ショップブランドとグッズブランドに大別されます。ショップブランドには歴史のある老舗ブランドが多く、百貨店で言えば三越、高島屋、伊勢丹、大丸、松坂屋、東急、東武、西武、小田急等、歴史と伝統のある呉服系百貨店、電鉄系百貨店がその代表です。また、GMS(総合スーパー)においてもイトーヨーカドー、イオン、ユニー、イズミヤ等、そうそうたる規模を誇る小売業が名を連ねます。

 一方グッズブランドとは、バーバリーやラコステ、トロージャン(大丸松坂屋)やナンバートゥエンティワン(三越伊勢丹)、ラクチンシリーズ(マルイ)のような、商品に名前を付けているブランドです。ただし、バーバリーやラコステはともかく、総合小売業が作ったブランドは認知度が低く、企業名やアイテムすら消費者に知られていないケースがほとんどです。つまりブランディング(ブランドの育成)ができていないのです。

 直近の百貨店の売上は低迷しています。百貨店は売上回復のために自主開発商品(プライベートブランド商品、PB商品)を展開していますが、上手く行っているとはいえない状況です。

 確かに、百貨店のPB商品は徐々に広がりつつありますが、そもそも百貨店は委託・消化取引に慣れているので、その中では低いシェアにとどまっています。例外的にそごう・西武のPB商品の売上は1000億円あり、それなりに評価できるのですが、中核の衣料品トータルPBである「リミテッド エディション」のシェアはまだまだ低い状態です。

百貨店は総合小売業
テイストの絞り込みができない

 なぜ、百貨店のPBは上手く行かないのでしょうか。

 百貨店の強みは“総合”小売業です。つまり、店名イコール一つのテイストという絞り込みができません。その代わりに、様々なテイストを包含し、幅広いお客様に対応しています。

 その結果、お客様は「お気に入り」を見つけられないのです。テイスト志向の強いお客様はグレードを変えないで、テイストの明確なセレクトショップや、1ショップ1ブランドのSPA(製造小売業)型専門店に移行してしまっているのです。

 では、百貨店がPBで成功するのはどうしたらいいでしょうか。ヒントは「1ショップ1ブランド」「1テイスト」です。

 例えば、良品計画。PBの「MUJI」を、テイスト軸で括ったライフスタイル型(衣・食・住)ブランドとして1ショップ1ブランド展開し、テイストを気に入っていただいたお客様のライフスタイル(タ―ゲットとなる消費者の、日常生活の朝から夜まで)をすべて包含しているのです。

 衣料品でいえば、SPAを標榜するZARA、GAP、H&M、FOREVER21等は、1ショップ1ブランドを貫き、1テイストを軸にした提案で、店舗数による規模の拡大を図る戦略です(ただし、ZARA-HOMEはZARA を着る人が好むテイストにはなっておらず、別のテイストのお客様を狙っているので、各々はともかくトータルでの相乗効果を発揮しての成功は覚束ないと思われます)。

 彼らの強みは1ショップ1ブランドによるコーディネイトが可能であり、百貨店やGMSのように、お店の中の多様なテイストの中から、自らか、またはアドバイスを受けながら、コーディネイトをセレクトする必要がないのです(もっとも、ユニクロの場合は、日常(コモディティ)を全て包含する戦略であり、多テイスト混載なので多少事情は異なります)。

 要するに百貨店であっても、お客様の気に入ったテイストのブランド売場であれば、「そこに行けば、お気に入りがすべて、迷わずそろう」ように提案すべきなのです。

 バーニーズやユナイテッドアローズ、ビームス等はバイヤーの考えるコンセプトによるセレクトショップであり、現在でこそオリジナル比率を高めてはいるものの、SPAではありません。彼らは自分の考えるコンセプトの編集を第一義に置き、意思を表現してお客様に提案し続けている企業なのです。だから平均的に営業利益率も高い企業が多いのです。

 ヴィトンやエルメス、シャネルも、ある意味ファクトリーやアトリエから派生した、1テイストのコンセプトを軸にしたグッズブランドです。中でも成功しているのがラグジュアリーブランド。ブランドエクイティを高めて利益は後で付いてくるといったビジネスにまで進化しているので、営業利益は2ケタ台まで到達しています。

百貨店に必要不可欠な
テイスト軸のライフスタイル売場の構築

 これからの百貨店にはテイスト軸のライフスタイル売場構築が必要不可欠ですが、まだまだ緒にも付いていません。その上、このライフスタイル売場構築に欠かせない、テイスト軸のライフスタイルPB開発(衣食住共通の1ブランド)もなく、単品PBしかできていないのが現状です。テイスト軸のライフスタイルを提案可能にできるショップ&グッズブランドを、プライベートブランドとして開発すべきなのです。前述のMUJIの考え方は、ターゲットを置き換えれば十分に百貨店、GMSにおいても通用します。

 百貨店においては、多テイストを包含したアイテム売場が多いのですが、アイテム売場からテイスト軸の売場に転換させ、自分の気に入ったテイストはこの「○○○ブランド売場」を訪れさえすれば他には行かずに済むように、衣、食(カフェレストラン程度でも)、住までテイスト別に売場を構築をすべきでしょう。要はテイスト別に多ブランド化(当初は2つ程度ででも)が必要なのです。

 まずは現状からどうするか、ではありません。それ以前に将来像が明確に定められていないので、テイスト軸のライフスタイル売場やテイスト軸のライフスタイルPBのコンセプトすら見いだせていないのです。

 ゴ―ルに向けた通過点としての、近いテイストでセレクトされた自主編集売場が増えてきています。それをいち早く、他社では展開していない、自店のお客様にカスタマイズされたプライベートブランドに進化させて行くべきでしょう。

(株式会社オチマーケティングオフィス代表 生地雅之)
http://diamond.jp/articles/-/122341


 


 

2017年3月24日 プレスラボ
「意識高い系学生」が会社をすぐに辞めてしまう理由


「意識高い系の学生」という表現がすっかり定着しているが、そういった学生たちは、社会人となって実際に活躍できているのだろうか。口先だけで終わるケースもあれば、有言実行のケースもあるだろう。かつて意識高い系だった学生が、その後どんな社会人になったのか。実際のエピソードを交えて紹介する。(取材・文/有井太郎、編集協力/プレスラボ)

4月を前に知っておきたい
意識高い系の「その後」

 まもなく訪れる4月は、新入社員が各職場に配属されるシーズンだ。フレッシュな人材の中には、高い目標を掲げ、勉強熱心な新卒社員もいることだろう。

 2000年代から「意識高い系の学生」という言葉が頻繁に使われるようになった。どちらかといえば、最近は学生を揶揄するような、ネガティブなニュアンスの強い表現といえよう。ただ、高い目標を掲げること、意識が高いこと自体は決して悪いものではない。就活市場では、間違いなく意識の低い学生よりも、意識の高い学生が求められるのではないか。

 問題は、彼らの入社後である。意識の高い学生は、社会人になってから実際に活躍できているのだろうか。「口先だけだった」というパターンや「理屈ばかりで行動を伴わなかった」なんてケースもあるのではないだろうか。

 ということで、新卒社員が入社する4月を前に、意識の高い学生の「その後」を調べた。そしてこの記事で紹介した事例が、ほんのわずかでも、4月から新入社員を育てていく現役ビジネスパーソンの参考になれば幸いである。

実は早期退職が多い?
意識高い系でチェックすべきこと

 意識高い系の学生が、社会人となってどんな働きぶりを見せたのか。さまざまなビジネスパーソンに話を聞いたところ、意外なのか予想通りなのか、「早期離脱してしまった」というケースが多く聞かれた。それらの声をいくつか紹介しよう。

 まずは、ある企業にトップの成績で入社した新卒社員について、こんな実例が聞かれた。

「ある年、新入社員の代表挨拶を務めた新卒社員は、まさに理想的なタイプでした。頭も良く知識もあって、コミュニケーション能力も高い。先輩の中に溶け込むのも早かったし、とにかくこの会社の仕事で『多くの人の力になりたい』と常に話していました」(35歳男性/イベント企画)

 しかし、その期待の新入社員は「6ヵ月で会社を辞めてしまった」という。

「精神的にパンクしてしまったんです。同期の中で最初の退職者でした。いくら意識が高い彼でも、この会社は1年目の仕事がハードで、先輩にも厳しく言われるケースが多々ありました。加えて、1年目の彼はそこまで素晴らしい活躍ができませんでした。彼は意識が高く学生時代も優秀だったからこそ、これまで挫折したり叱られたりした経験が少なかったのでは。それで、立ち直れなかったのかもしれません。もちろん、彼をそこまで追い詰めた上司にも責任があると思います」(同)

「意識の高さ」と「精神的な打たれ強さ」は比例しない。そしてそれが、キャリアの舵を大きく転換させてしまう可能性もある。

 他には、こんな早期離脱のケースがあった。

「優秀な大学を出て、大卒時点でかなり知識力の高かった新卒社員。ただ、実際に働かせてみると融通が利きませんでした。現場の状況に合わせて臨機応変に対応できなかったり、ムダな部分で仕事が遅くなったり。何より、自分が納得するアドバイス以外は『はあ…』と気のない返事をして聞かなかったんです。彼は結局、入社から半年で退社。『昔から夢だった』という学校の先生を目指しました」(40歳女性/商社)

「入社初日から先輩に堂々と自分の目標を語り、『3年後には月間ナンバーワンの売上を記録します』と言っていた女性社員は、3ヵ月で辞めてしまいました。働き始めると仕事の覚えが悪く、最初は高く評価していた上司が『あんまりだな』と言い始めた頃に辞めてしまいましたね。高い目標を掲げるのはいいのですが、その達成に向けて少しでも暗雲が立ち込めたり、苦しんだりした時にすぐ逃げる。今までそういう生き方をしてきたのかもしれません。意識の高さはアテにならないと思いました」(29歳男性/販売) 

 高い目標を掲げたり、理想を持ったりするのはいいが、そのイメージと実際の働きぶりが噛み合わないと、すぐに離脱する人も多いようだ。よく言えば「切り替えが早い」とも言えるが……。もし意識の高い新入社員と接する機会があったら、失敗した後の「粘り強さ」や「気持ちの切り替え方」など、逆境への対応力をチェックしておくのも大切かもしれない。

有能な意識高い系は去っていく?
会社にとっては悩ましい存在

 前項で取り上げたのは、どちらかといえば仕事ができなかった意識の高い学生だが、仕事ができる若者も当然いる。ただし、その人たちも行き着く先は「退職」というケースが珍しくないようだ。

「エリート大学を出て入社した新人は、1年目でプロジェクトのメイン担当に抜擢されるなど、素晴らしい活躍を見せていました。自分から案件のメイン担当に立候補するほどで、まさに有言実行の意識高い系でした。

 入社時から会社の将来を考えているタイプで、飲み会でも彼だけは会社の不満を言いませんでした。毎日楽しそうに働いていましたが、入社から4年ほどで辞めてしまったんです。1年くらい前から色々な勉強会に出ていたようですが、そこで同年代の大企業社員の話を聞いて、さらに高いステップを目指したくなったのでしょう。私の会社は中小企業なので、できることには限界があります。上を目指すには当然の決断でした。でも、会社としては大きな痛手ですね」(36歳男性/IT)

 意識が高くて仕事ができる。そんな人材が入ってくれれば上司としても嬉しいが、意識が高いからこそ、転職などでさらなるステップアップを目指すのは自然な流れ。意識が高い学生は、全般的に見て、退職してしまうリスクが高いともいえる。

 ここである人の意見を紹介したい。大手メーカーで働く35歳のDさん(男性)だ。彼も新卒当時かなり意識の高いタイプで、同様に意識の高い若手の人たちと積極的に交流していた。

 意識の高い若者と数多く触れ合ってきた彼は、自身の経験も踏まえこんな話をした。

「意識の高い人は、『必要なスキルをこの会社で身につけたら、数年で起業しよう』と考えていることが多いと思います。自分もそうでしたし、自分が話を聞いた人はほとんどがそういう考えでした。たとえ最初から起業などのビジョンを持っていなくても、本当に意識が高ければ、次第に『自分で会社を起こそう』とか、『転職して自分の仕事領域を広めよう』と考えがちです」

 そして実際、Dさんの周りでは何人かの若手が起業したという。あるいは、会社の仕事をこなしながら常にSNSなどで外へ向けた発信をして、外資系の企業にヘッドハンティングされたケースもあるという。「今の時代、意識の高い学生で『新卒入社の会社でずっとやりたい』なんて本気で考える人はいないのでは」と語る。

意識高い系にとって
「挫折」の乗り越え方がカギ

 とはいえ、意識の高い新卒社員がみな自分の望み通り起業できたり、さらなる上の企業に転職できたりするわけではない。そんな人はどうなるのか。先述した早期離脱のパターン以外にもあるはずだ。

 先ほど登場したDさんも、若い頃は意識が高く「起業しよう」と考えていた。だが、起業せず今もずっと同じ会社で働いている。

「社会人になって3年くらい経った時に、完全に挫折しました。自分の能力の限界を感じたというか。現実に打ちのめされましたね(笑)。起業するとか、別の企業にヘッドハンティングされるなんて、自分には無理だとわかったんです。しばらくは目標を失いましたが、次第に『それならこの会社で少しでも大きな仕事をやろう』と考え直しました。それからは、とにかく会社のために身を捧げてます」

 若い頃は起業のことばかり話していたDさんが、今は会社に献身的な人材となっている。同期の社員からは「まさかこんなに人が変わるなんて」と驚かれるという。

 意識高い系の学生が挫折しても、なかにはDさんのように切り替えて、そのエネルギーを「今の会社で頑張ろう」という方向に替えるケースもあるのだ。

 ちなみに、Dさんの同僚に話を聞くと、やはり彼の評価は社内でも高く、仕事も率先してやっていると評判のようだ。意識の高い学生の「その後」を考える上では、参考にすべきパターンではないだろうか。

 ただし、意識の高さを会社に向けたものの、それが社員の不満を招いたケースとして、こんな例もある。新卒社員の話ではないが、一例として挙げておきたい。

「ウチはサービス業で、新たに管理人としてやってきた人が『お客様のためになるサービスで、東京トップをとる』と熱弁してました。語り口もピュアで、若い社員も感動していたのですが、実際に働き出すとその意識の高さはお客様よりも『会社からの評価』に向いていることがわかりました。つまり、お客様の気持ちを気にせず利益ばかりを優先したり、必要最低限の接客しかしなかったり。その意識の高さは会社にとってプラスかもしれないけど、下で働く社員は幻滅。誰も管理人を支持しなくなりました」(29歳女性/サービス業)

それが本心ならば
意識高い系は貴重な人材

 意識高い系のその後を聞いてみると、実際に活躍できるかどうかのポイントは「意識の高さが本物かどうか」に行き着く気がしてならない。

 たとえばIT系の人事を務めるMさん(39歳女性)は、意識が高い若者と接する時に、こんなポイントを見るという。

「意識が高い人において見極めるべきは、それが本心なのか戦略なのか。自分を良く見せようと意識が高いフリをする人はたくさんいますし、そのような戦略の人は、ちょっと挫折した時にすぐ諦めたり環境を変えたりしようとしがちです」

 反対に、本心で言っている人は「環境や状況、会社の文化にかかわらず、自分の考えをはっきり言います。そういった人は、最終的に活躍することが多いですね」と話す。

 なお、他のビジネスパーソンからはこんな意見もあった。

「本当に意識の高い人は、もし仮に一つの職場で燃え尽きたり挫折したりしても、仕事に一所懸命向き合ってきているので、そこで大きな経験が蓄えられると思います。そしてそれは次の仕事に生きますし、どこへ行ってもある程度は通用するはず。こう考えると、やはり意識を高く持つに越したことはない気がします」(35歳男性/広告)

 意識高い系の学生が、入社時に掲げた目標を達成し、有言実行を証明していく――。そういったケースは、全体で見れば少数だろう。また、そんなことができるような有望な人材は、すぐに起業や転職などをして会社からいなくなる可能性がある。

 ただし、最初の言葉通りには活躍できなかった意識の高い若者たちも、挫折をうまく乗り越えられれば、会社にとってはとても大切な人材になっていく。また、本当に意識が高い若者ならば、真剣に仕事と向き合う分、失敗からもいろいろなものを吸収していくはずだ。

 「意識高い系」という言葉はどうも皮肉交じりのニュアンスになりつつあるが、いろいろトータルで見ると、やはり意識の高い若者は貴重ではないだろうか。彼らはキャリアの積み方や環境次第で、大きな可能性を秘めているからだ。
http://diamond.jp/articles/-/122337

 

2017年3月24日 安藤広大 [識学代表取締役社長]
上司は新入社員に「頑張る理由」を与えてはいけない


4月になれば、新入社員が入ってくる。そこで、新入社員に対して、「どうしたら、やる気を出してもらえるか」などと考え、「やる気を出させる教育」などをしていないだろうか。このように、仕事に対して「頑張る理由」を与えることは、本人の人生のためにも絶対にしてはならない。(株式会社識学代表取締役社長、組織コンサルタント 安藤広大)

新入社員に対して
会社が絶対にしてはならないこと

 もうすぐ4月。新入社員が社会人デビューをする。多くの新入社員たちは、不安を胸に抱えながらも、少なからず未来に希望を抱きながら新生活をスタートさせることだろう。

 そして、新入社員を迎える多くの会社は、新たな活気ある戦力を迎え、会社がいい方向に変わっていくことに大いなる期待をしていると思う。

 しかし、現実を見れば、入社後3年での離職が、3〜4割とも言われている。未来に希望を抱いた新入社員は、数年後には会社に不満を持ったり、未来に希望を持てなくなって去って行き、新戦力に期待した会社側は「人事が採用をミスったな」と、また来年の新入社員に期待を寄せるというケースが、残念ながら多く見られるのが実態だ。

 その一方、新入社員が一定数、離職していくのは、自然なことであるともいえる。というのも、入社試験でお互いが100%理解し合うことは不可能だからだ。入社後にアンマッチが発生する事態を完璧に防ぐということはできない。大学生と社会人になってからでは、接触する人間も情報も大きく変わるものだ。だから、社会人になってから、新たな人生の目標ができる。それを入社した会社では「実現できない」と判断することも出てくるからだ。

 なので、一定割合で離職が発生するのは致し方がない。ただし、新入社員を受け入れた会社としては、彼ら彼女らの人生に対し、大きなマイナスとなることはしてはならない。その責任が会社側にはあるはずだ。

頑張る「理由」は
会社が与えてはならない

 その「大きなマイナスとなること」とは、何か。

 それは新入社員に「勘違い」させてしまうということに他ならない。「勘違い」したまま転職し他の会社に入っても、周りから評価を得る事はできない。そして、また次の会社も去る事になる。その「勘違い」は更に強固なものになっていく。新入社員の時に始まった「勘違い」がキッカケで、どんどん社会人として「生きる力」を失っていく事になるのだ。

 さて、その「勘違い」とはどのようなものだろうか。

 それは「仕事を頑張る“理由”は会社が与えてくれるものだ」というものだ。会社は、社員が発揮する有益性に対して給与という対価を支払っている。対価が発生している以上、社員は成果という有益性を発揮しなければならない。つまり、そもそも社員は無条件で「頑張らないと」いけない存在なのである。

「仕事を頑張る“理由”は会社が与えてくれるものだ」という「勘違い」をしてしまった社員はどうなるか。

「やる気が出ないのは、会社がやりがいのある仕事を与えてくれないからだ」
「もっと上司が盛り上げてくれたら、私たちも一生懸命働くのに」
「会社のビジョンを聞いてもワクワクしないので頑張れない」
「上司が話を聞いてくれないのでモチベーションが上がらない」

 などと、自らの「頑張っていない」ことや、業績が悪いのを、会社や上司のせいにし始めてしまう。つまり、「他責の思考」を強く持つようになってしまうのである。

「他責の思考」を持てば
成長できない

 他責の思考を持つ人は、成長することもできない。なぜなら、うまくいかないことは全て他人の責任にしてしまうからである。

 ただし、いくら本人が他責の思考を持っていたとしても、周りからの評価は残念ながら、そんなこととは無関係に下される。どれだけ「自分の責任ではない」「会社が悪い」「上司が悪い」と認識をしていたとしても、周りが上司の言い分や評価を尊重するのである。そして、それが会社から下される評価となるのだ。

 これは、紛れもない事実だ。そして、どこの組織に行こうが、この事実は変わらない。そして、会社から下された評価をもとに、対価が、待遇が決定されるのである。「仕事を頑張る理由を会社が自分に与えてくれたか」どうかとは無関係に進行していくのである。

 しかし、「勘違い」をした社員は、この事実から目を背け、最後まで他責にしたまま会社を去ってしまう。そして、また、高い確率で次の会社でも同じことを繰り返してしまうのだ。

 この「勘違い」した社員を作らないこと、そして、このような社員を世の中に放出しないことは、新卒社員を採用する会社の大きな責任だ。

 前述したような種々の理由で、一定割合で離職が発生することは致し方ない。しかし、新入社員に「勘違い」をさせること、そして、「勘違い」をさせたまま離職させる会社側の罪は大きい。なぜなら、その社員は「勘違い」が原因で一向に活躍できず、社会全体では、有効な若い戦力が活用されないまま燻り続けるからである。

優しい良い上司ほど
「勘違い」を生み出しやすい

 それでは、どのような会社、上司の言動が新入社員の「勘違い」を生み出すのか。

 あなたは、以下のようなことを考えたりしていないだろうか。

「どうすれば部下はモチベーションを上げてくれるだろうか」
「どういう言葉が部下のやる気スイッチを押すのかな」
「部下を頑張る気にさせるのが上司の仕事だ」

 これらは、すべて新入社員を「勘違い」させる大きな要因となる。

「常に上司が自分の“頑張る”理由を与えてくれるものだ」と。そして、だんだんと「他責の思考」を強く持つようになるのである。


安藤広大さんの『伸びる会社は「これ」をやらない!』(すばる舎)が好評発売中。224ページ、1620円(税込み)
 一見、優しくて良い上司に見える言動が、実は部下の「勘違い」を誘発する。そして、部下の人生に大きなマイナスを与えることになるのだ。

 では、上司は「頑張る理由」を与えなくていいのだろうか。

 答えはイエスで、「頑張る理由」は与えなくていい。むしろ、与えてはならない。なぜなら、「頑張る理由」を他人から与えてもらえなければ「頑張れない人」になってしまうからだ。「頑張る理由」は与えられた環境下で、自分で見出すものだ。

上司がやるべきことは
部下が迷わないようにすること

 上司がやるべきことは、明白である。「部下が迷わないようにすること」だ。迷わせてしまうことは完全に上司の責任だ。なぜなら、業務上、目標設定する機能は上司にしかないからだ。そして、部下が「迷った」先に混乱があり、そこにストレスがかかり離職をしてしまう。この離職は上司が完全に悪いし、これだけは避けなくてはならない。

 部下は迷うことさえなければ、いずれ成長する。そして、勝手に自ら「頑張る理由」を見つけ出す。仮に、離職したとしても、それは新たなチャレンジをするための前向きな離職だろう。そして、過去を振り返った時に、自分が去った会社に対して、成長させてくれたことに感謝することはあっても、恨むことはないだろう。

 これから入ってくる新入社員たちが「勘違い」をして、辛い人生にならないためにも、社会にとって貴重な戦力を無力化させないためにも、受け入れる会社の方々には、くれぐれも新入社員に、こちらから「頑張る理由」を与えないでいただきたい。
http://diamond.jp/articles/-/122149
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/437.html

[医療崩壊5] 治療費の高い医者が「名医」とは限らない理由
2017年3月24日 井手ゆきえ [医学ライター]
治療費の高い医者が「名医」とは限らない理由


同じ病気で、同じ病院に入院しても、担当医が違うと治療費はかなりばらつくようだ。治療成績が金額に比例して上がるならまだ納得できるかもしれないが、高い治療費を払ったからといって死亡率、再入院率にはほとんど影響しないというのだから頭を抱えてしまう。右肩上がりの医療費を補填しようと自己負担増や健康保険料を引き上げる前に、ぽっかり抜け落ちていた「医師個人の臨床能力」の費用対効果と価値にスポットを当てるべき時期なのかもしれない。(医学ライター 井手ゆきえ)

治療費を決定づける3要素
患者の重症度、病院、そして医師個人

 先週、米国医師会が発行する「JAMA Internal Medicine」に掲載された1本の日本人研究者による論文が、米国の医療関係者の注目を集めた。医療費高騰の背後にある治療費のばらつきには、一般に信じられてきた病院側の要因より、医師個人の診療パターンに帰する部分が大きいという結果が示されたからだ。

 治療費を決める要因は、大きく(1)患者の基礎疾患や重症度(当然、重い病気を治すにはお金がかかる)、(2)病院側の要因(MRIやCTなどの設備があるか、専門病院か否か等)、(3)医師個人の診療パターン(検査をたくさんするか、高額な薬を使うか等)の3点に分けることができる。たとえば、全く同じ患者を治療していても、大きな治療費のばらつきがあれば、その責任は(2)の病院や(3)の医師にあると考えられる。

診療パターンの違いが影響か
同じ病院で治療費に40%超の開き

 今回、ハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏らの研究グループは、メディケア(65歳以上の高齢者がほぼ全員加入する公的医療保険制度のこと)に加盟している約5万人分(2011〜2014年)のデータをもとに、内科の病気で入院した患者についてメディケアから病院および医師個人に支払われた金額(償還額)と治療成績との関係を解析した。

 原則、自由診療の米国では地域や病院単位で医療の価格が数倍も違うことがある。しかも、あらかじめ値引き分を想定した上乗せ請求が当たり前のように行われている。


つがわ・ゆうすけ/ハーバード公衆衛生大学院(医療政策管理学)研究員。東北大学医学部卒業後、聖路加国際病院、世界銀行を経て現職。ハーバード公衆衛生大学院でMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.を取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学」において医療政策におけるエビデンスを発信している。
 しかし、今回の研究ではそれらの影響を排除しているため、日本と同じように統一された診療報酬制度の下で病院や医師への支払いが行われていると考えてもらっていい。

 解析にあたっては患者要因の影響を消すため、特に米国独特の医師の職種である「ホスピタリスト」2万人分のデータを使用した。ホスピタリストは入院病棟に勤務する内科医のことで、一般的にシフト勤務しており、勤務時間内に入院してくる患者を順番に担当する。患者は医師を選ぶことができず、また医師も患者を選り好みすることはできないので、一人ひとりが担当する患者の重症度や病気の内容はある程度同レベルにそろう。

 また同じく病院側の要因の影響を消すため、同じ病院に勤務する治療費の高いホスピタリストと治療費の安いホスピタリストを比較している。

 その結果、同じ病気に罹患した患者に費やされる治療費のばらつきは、病院より医師個人の診療パターンの違いによる影響が大きいことが判明した。同じ病院内ですら、最も金がかかる医師と最もリーズナブルな医師との間に40%以上の治療費格差があったのだ。

 しかも、高額な治療費を取る医師とリーズナブルな医師との間で、入院後30日以内の死亡率と再入院率を比較したところ、差は認められなかった。つまり、「お金をかけてもかけなくても結果は同じ」だったのである。こうなると一部の医師は検査や処置をイヤというほど重ねなければ、同僚と同じ治療成績を残せないのか? と勘ぐってしまう。

患者の負担増をいう前に
医療の無駄の削減を

「この結果から医療費の高騰を効果的に抑えるには、これまでのように病院側の要因に介入するだけでなく、医師個人の診療パターンに焦点を当てるべきだということが分かります。多くの検査をしたり高い薬を使っていても、それは患者さんのためになっていない可能性があります」と津川氏は指摘する。

 従来、米国では高騰する医療費を抑えようと公的医療保険、民間医療保険を問わず、支払い元が病院に厳しい基準を課し、パフォーマンスに応じた支払いを徹底してきた。

 例えば、入院後30日以内の死亡率や再入院率が明らかに高い病院に対しては改善勧告が繰り返され、改善の兆しがない場合は償還率の引き下げや支払い拒否という事態もありうる。さらに2017年からは、医師個人の診療パターンや治療成績を評価し、それによって支払額が増減する仕組みも導入された。今回の結果は、その流れを後押しするもので、今後は医師個人の「腕」を評価する基準作りが進むだろう。


津川友介さんと中室牧子さんによる『「原因と結果」の経済学?データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)が2月17日から発売予定。208ページ、1728円(税込み)
 さて、破綻寸前とはいえ皆保険制度下にある日本はどうだろう。米国民ほど痛切ではないが、日本でも医療費負担が家計を圧迫している。津川氏は「今、日本でも高齢者の自己負担額の見直しや健康保険料の増額が議論されていますが、今回の結果は医師の診療パターン次第でアウトカムを損なわず医療費の無駄を減らせる可能性を示唆しています。国民の負担増をいう以前に、かぜに抗生剤を処方すると言った医療の無駄を減らすことが先決だと思います。」という。

 とはいえ、日本ではようやく昨年4月から、日本版HTA(医療技術評価)が試行導入され医薬品と医療機器の費用対効果に関する評価が始まったばかり。診療プロセスの費用対効果や医師個人の診療パターンの評価なんて何年先になるかわからない。関連団体の猛反発は必至だろうし……。

 とりあえず、個人的に医療の無駄を削減するには、目の前の医師とコミュニケーションをとり、検査や投薬の目的をしっかり聞き取ること。「入院したついでだから、あれもこれも検査しておきましょうか」なんて甘言にノッてしまうと、お財布にも健康にも悪い可能性がある。
http://diamond.jp/articles/-/122333
http://www.asyura2.com/16/iryo5/msg/576.html

[国際18] ポピュリストの見分け方 米NAFTA離脱は中国の利 株価急落、多数の容疑者 倫敦高級空家減らず−懲罰的税率 リターン5割
ポピュリストの見分け方
QuickTake Marc Champion
2017年3月24日 08:35 JST

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「ポピュリズム」ほどここ数年で突如として再び目につくようになった言葉は他にほとんどない。米国のドナルド・トランプ大統領や英国のナイジェル・ファラージ氏、フランス極右政党のマリーヌ・ルペン党首、イタリアのコメディアンで「五つ星運動」党のベッペ・グリッロ党首といった政治家が勢力を増すという、先進国に出現した現象を表現する言葉として日々使用されている。これらの政治家は過去の著名なポピュリストがそうだったように、それぞれ異なる政治目標を掲げている。彼らの共通項となっているのは、その政治スタイルだ。

1. ポピュリストとは?

ソーシャリズム(社会主義)やファシズム、リベラリズム(自由主義)、イスラミズム(イスラム主義)およびその他ほぼすべての『ズム(主義)』が付く政治用語とは異なり、ポピュリズムには内容がほとんどない。ジョージア大学のカス・ムッデ准教授はこれを「無垢(むく)」な人々と腐敗したエリートに宿る「浅薄」なイデオロギーと説明する。ポピュリズムを道具箱ととらえて、そこからどんな種類の政治も行うことができると考えると、理解しやすいかもしれない。例えば、急進的社会主義者であったベネズエラのポピュリスト、故ウゴ・チャベス元大統領と、経済政策ではマーガレット・サッチャー元英首相の保守主義に傾倒する英国のナイジェル・ファラージ氏をつなぐものはほとんどない。

オランダのウィルダース党首


2. どのように見分けるか?

スウェーデンのウプサラ大学政治学部フェロー、ベンジャミン・モフィット氏は、過去の28人のポピュリストを研究した結果、次の3つの中核要件を特定した:

エリートの対極に位置する者としての「大衆」に訴える

ポピュリストのリーダーが自身をエリートと区別し、「大衆」を導いているとの立場を確立するためにあえて衝撃的な言い回しを使うということをモッフィト流に控えめに表現した「不作法さ」を備えている

体制に対抗する理由を正当化するために危機的状況を利用する、またはそれを生み出す


3. 政治家は「大衆」に訴えるのが常では?

そうではあるが、ポピュリストは非難されるエリート以外を訴える対象とすることで、自分たちだけが一般大衆すべての意思を代表しているとの印象を言葉巧みに与える。そして、競争相手を「大衆」に背く人々と位置付け、それゆえに非民主的で違法であるとの理論を展開する。ポピュリストがとりわけ強い二極化要因であるのはこのためである。

4. 有権者はなぜ「不作法」を容認するのか?

オランダでは、極右・自由党のヘルト・ウィルダース党首がコーランをイスラム版の「わが闘争」と評した。彼の性格を認める支持者はほとんどいなくても、その言動は、リベラルな体制に揺さぶりをかけ移民を問題として取り扱うよう求めるものであり、自分たちの側に立った政治家であることを印象づける。同様に、米国のトランプ大統領もある普通の政治家のキャリアを台無しにするような発言をすれば激励される。「エリート」がその偏見や性差別に満ちた発言を非難すれば、それは単に大統領が「大衆」の一人であることを確認する結果となるにすぎない。

5. 危機的状況が必要な理由は?

危機的感覚は、「エリート」とそれが象徴するすべてを打倒する革命の本質的な理由を正当化する。歴史学者のニーアル・ファーガソン氏らは、ポピュリズムの動きを招く要因の一つに金融危機を挙げる。ファーガソンは、2008年の金融危機が多くの米国人に「政府組織と大企業、そしてメディアの間には不健全でおそらく腐敗した関係」があり、切り崩す必要があることを納得させたと記している。ポピュリストは、代償が大きいとの印象を生み出すために状況を誇張することが多い。トランプ大統領が大統領就任演説で米国の現状を「大虐殺」という言葉で言い表した理由も、これかもしれない。

6. 人気(ポピュラリティー)とポピュリズムの関係は?

ポピュリストが成功するためには、他の政治家以上に人気を集める必要がある。選挙に勝つことは重要ながら、得票数や取り込むことのできる大衆の数、ツイッターのフォロワー数も勝利に匹敵するほど重要である。これらの要素は大衆の意思を代表しているとのポピュリストの主張を裏付けるものとなるからだ。こう考えると、トランプ政権が最初の数日間に、大統領就任式への参加者数が低く見積もられたことや昨年11月の一般投票での敗北について熱心に異議を唱えていた理由が理解できる。ただ、当然ながら例外もあり、ファラージ氏が率いていた英独立党は、議会で1議席以上を獲得したことがないにもかかわらず、欧州連合からの離脱の是非を問う国民投票の実施を実現させていた。
「法と正義」の集会(2015年ワルシャワ)
「法と正義」の集会(2015年ワルシャワ) Photographer: Wojtek Radwanski/AFP via Getty Images

7. 民主主義にとってポピュリストは善、または悪?
いずれとも言えない。一部の政治学者は、ポピュリズムが民主主義から発展すると同時にそれを破壊することができるものであるため、民主主義の病的状態と言い表す。民主主義にとって代わるものとしてポピュリズムが台頭する傾向があるのには理由がある。大衆を代表するパワーを失った民主主義を是正する手段との印象を与えるからだ。「大衆」の意向を代表すると主張することで、ポピュリストは彼らの心に訴える再出発を約束することができる。

8. ポピュリストが政権についたらどうなるのか?

ポピュリストは社会を揺さぶる気前の良い約束をするため、政府の能力を制限するために設置された民主主義的な抑制と均衡、特に司法機関やメディアと即座に衝突する。そうなると、次に打つ手はこれらを大衆の意向を阻止するエリートの謀議に加担する機関であると宣言し、つぶそうと試みることになる。

9. 実例を挙げると?

例えば、ポーランドでは15年に「法と正義」党が政権をとった後、旧共産党エリートの腐敗を主張しそれを一掃することを約束した。新政権の採択した法律を同国の憲法裁判所が取り消す動きに出ると、政府は裁判官をパルチザンと判断し、判決を無視して裁判所の権限を弱める法律を制定した。ハンガリーでは、ポピュリストのビクトル・オルバン首相が、ポーランドのケース同様に彼に対抗する同国の憲法裁判所の独立性をおとしめたとして欧州連合(EU)から厳しい非難を浴びた。また、米国のトランプ大統領は就任後1カ月内に、難民およびイスラム圏国家7カ国の国民の米国入国を制限する大統領令を連邦地裁判事が差し止めたことに対し、彼を「いわゆる判事」と軽んじて非難した。大統領はまた、メディアを「米国民の敵」と批判している。

原題:How Do You Know a Populist When You See One?: QuickTake Q&A(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ON5JG46JIJUP01


 

 
サマーズ氏:米がNAFTA離脱なら中国を大いに利する結果に
Bloomberg News
2017年3月24日 10:09 JST

サマーズ元米財務長官は23日、ドナルド・トランプ氏の大統領選期間中の公約通り、メキシコなどとの北米自由貿易協定(NAFTA)を米国が打ち切れば、中国を大いに利することになるとの考えを示した。
  メキシコ・アカプルコで開催の年次銀行会議に出席中のサマーズ氏は、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、メキシコに対し非友好的な政策を取り続ければ、ベネズエラの故ウゴ・チャベス氏のような大統領をメキシコで誕生させ、米国との緊張を招く可能性があるとも指摘した。
  トランプ大統領はNAFTA離脱か再交渉を公約に掲げるとともに、メキシコとの国境の壁建設費用を同国に負担するよう求めている。
  サマーズ氏は「米国のNAFTA離脱ほど中国を戦略的・経済的に利するものはない」と発言。「それは北米での生産効率低下を意味し、中国が率いるアジアに思いがけない大きな恩恵をもたらすことになる」と語った。
原題:Summers Says Scrapping Nafta Would Be Handing a ‘Gift’ to China(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONAME26K50YW01

 


【コラム】火曜日の株価急落には多数の容疑者−エラリアン
コラムニスト:Mohamed El-Erian
2017年3月24日 10:16 JST

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米国株式市場は21日に大幅下落したが下げは驚くほど短命に終わり、ここ数年投資家に都合よく作用してきた2つの仮説をあらためて裏付けた。金融市場は極めて弾力性に富んでいるというものであり、もう一つは目立った相場下落は買いの好機と捉えるのが良い、という仮説だ。

  だが、S&P500種株価指数が約100日ぶりに1%超下げる展開になったことの説明としてアナリストらが指摘した容疑者は数多く、これらに含まれる情報は軽くあしらうべきではない。

  21日の相場急落の最大要因は、ライアン米下院議長がまとめトランプ大統領が支持する医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の支持で、共和党が速やかに結束できなかったことだ、という指摘がまずある。これは、減税をはじめとするトランプ大統領の成長重視政策の法案可決が今後困難になることの兆候だと捉える見方だ。

  また、独特の複雑さがあり過去に論争を呼んだ医療保険改革をまず議会に持ち込むというホワイトハウスの判断が相場急落の要因だとみる向きもある。むしろ、比較的通過させやすい税制改革を先に扱っていれば、今後の法案成立に向けて勢いをつけることができたはずなのに、という視点だ。そして今、医療保険を巡る分裂が露呈してしまい、仮に土壇場で解決に至ったとしても、議会が次に審議する法案の先行きを暗くした可能性があるという。

  政治関連の材料をさらに広い視野で捉え、欧州諸国の選挙を取り巻く不透明性が相場急落の一因になったと考えるアナリストもいる。特に反体制派の影響力に着目している。英国がリスボン条約50条の発動日を決め、欧州連合(EU)離脱交渉が開始目前となったことも、こうした見方を支えている。

  4つ目に、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げに対する遅延反応だったと捉える向きもある。あと年内2回の利上げ見通しが強いことも手伝って、金融当局が以前ほど資産価格のてこ入れを続けることに意欲的でなく、そうする能力も低下していることの表れだと解釈している。

  さらに5つ目の視点として、何らかの株式相場調整がいつ起きてもおかしくない状態にあったとの声も出ている。結局のところ、インプライドボラティリティー(IV、予想変動率)と実際のボラティリティーを示す数値はこれまで非常に低く、21日までは昨年10月以降という珍しく長い期間にわたって顕著な相場下落が起きていなかった。

  最後に、日本が年度末に近いことから一部がポートフォリオのリスクを減らし、これが相場急落に作用したとみるアナリストもいる。

  実際には、これら全てが下落の材料になっていたかもしれない。だが、相場急落がひとまず落ち着いたのでもう意味がないとしてこれらの材料を片付けてしまうのではなく、経済成長率、企業利益、レパトリ(海外利益の本国への還流)資金がそれぞれ大きく伸びるとの大胆な見方が続く中で、株式が何度も逆風をうまく乗り越えてきたことの重要な再確認としてこれらの材料は受け止めるべきだ。

  アガサ・クリスティー作の推理小説「オリエント急行の殺人」に登場する探偵エルキュール・ポアロが置かれた状況のように、今回は容疑者全員が何らかの役目を果たしたと考えるのに十分な理由がある。だが今回の場合、犠牲者に損害はなく、言うまでもなく大損害を受ける事態にもならなかった。少なくとも現時点では。
(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)
原題:The Many Culprits in Tuesday’s Selloff: Mohamed A. El-Erian(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONA2J76VDKHT01


 

 

「ビッグウルフ」の元資産運用者らのファンド、9カ月でリターン46%
Mikael Holter
2017年3月24日 11:29 JST 
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ノルウェー資産家の元運用者ら、石油業界の資産やジャンク債に投資
石油業界回復で資金は今後3−5年で3倍にも−ベステレン氏
 
石油タンカーと沖合掘削事業で富を築き「ビッグウルフ」と呼ばれたノルウェー出身の資産家ジョン・フレドリクセン氏。そんな同氏とつながりの深い2人が、石油関連のディストレス債や敬遠された資産への投資で驚異的なリターンを生んでいる。しかも、上値余地はまだまだ大きいという。
  この2人はエスペン・ベステレン氏とフレデリク・ハルボシェン氏。両氏が設立したタイタン・オポチュニティーズ・ファンドは、運用開始から9カ月のリターンが46%に達した。今や投資額を最大1億7500万ドル(約195億円)増やそうとしている。目標は年率リターン30%以上で、今後3−5年に資金を2倍または3倍にすることだ。ベステレン氏は2010年初めから15年後半までフレドリクセン氏の個人的な投資を運用・管理。同氏の企業数社に勤務経験があるハルボシェン氏は、同ファンドに最も出資している。
  タイタンの最高投資責任者(CIO)を務めるベステレン氏は「チャンスは今だ」と電話インタビューで発言。「石油業界が経験したのはほぼ前例がないような下降サイクルで、極めて厳しかった。われわれはこれが好転し、今後数年続くと確信している」と説明した。

  世界的なだぶつきで原油価格が急落し、石油会社は14年から16年の間に投資を40%余り減少させた。生産会社に加え、エンジニアリングから採掘までさまざまな関連サービスを提供する企業の評価額もがた落ちし、多くが破綻やその瀬戸際に追い込まれた。
  昨年6月にスタートしたタイタンにとっては、これが投資のお膳立てになった。開始時の運用資産は約5000万ドルだったが、最新の月間報告によれば、資産は7200万ドル以上に膨らんでいる。
  ベステレン氏は「業界は底を脱したばかりで、2017年は活動が上向く最初の年になると確信している」とし、「われわれは石油投資の回復で恩恵を受ける企業に投資している」と語った。ロンドンを拠点とする同社の投資チームは割安なエネルギー企業の株式や債券のほか、独自のネットワークでアクセスできる私募発行の証券や企業間取引にも資金を投じていく方針だ。
原題:Hedge Fund Run by Former ‘Big Wolf’ Trader Delivers 46% Return(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONA53F6JTSEA01


 


 
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/715.html

[経世済民120] 日銀が8年ぶりの国債売り現先オペ、期末需給逼迫で−応札2倍台 ドル日本株は米利上でこう動く 生活保護への誤解煽るTV報道
日銀が8年ぶりの国債売り現先オペ、期末需給逼迫で−応札2倍台
船曳三郎
2017年3月24日 12:16 JST 更新日時 2017年3月24日 12:24 JST

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日本株続伸、米金利低下や円高が一服−金融や素材、輸出広く買われる
今までの四半期と比べて一番モノが不足しそう−東短リサーチ
1兆円の予定額に対し2兆円を超える応札

日本銀行は24日午前の金融調節で国債売り現先オペを実施した。大規模な国債買い入れを背景に深刻化している民間金融機関の国債保有不足を受けたもので、レポ市場で国債の貸し手が特に少なくなる年度末に対応した。
  午前9時30分の金融調節で日銀は国債売り現先オペ1兆円を通知。国債を売却して一定期間後に買い戻す同オペには、2兆円を超える応札があった。応札する金融機関からの銘柄指定がないオペの実施は2008年11月28日以来。今回の対象期間は年度末をまたぐ3月27日から4月3日までの1週間だ。
  東短リサーチの寺田寿明研究員は、「以前から期末越えのモノ不足が指摘されていたが、今年は今までの四半期と比べても一番モノが不足しそうな状況で、日銀が前もって手を打った」と指摘。こうした国債の貸し借りは民間の金融機関同士でレポ市場を通じて行われているが、「日銀の国債買い入れで資金がじゃぶじゃぶになる一方、国債はどんどん流通量が減っており、どうしてもバランスが悪くなっている」と言う。
  日本証券業協会が公表している東京レポレートによると、3月末をまたぐ1週間物はマイナス0.788%と、07年10月のレート公表以来の最低水準を大幅に更新した。決算期末は金融機関の国債需要が現金よりも逼迫(ひっぱく)することで、金利のマイナス幅が拡大する傾向にある。東短リサーチの寺田氏は、「金融機関の保有国債がどんどん減って今年は特に厳しく、流動性が残っているレポや短期国債でもモノ確保の動きが出ている」と言う。
  日銀は23日に、異例とも言える3月末のレポ市場における国債需給タイト化への対応策を発表した。今回実施した国債売り現先オペは来週以降も必要に応じて通知する方針だ。また、特定銘柄の国債を金融機関に貸し出す国債補完供給オペでは、対象先ごとの1回あたりの応募銘柄数の上限を一時的に20銘柄から30銘柄に引き上げるほか、月内は国庫短期証券の買い入れを取りやめる。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONAOT36K50ZE01


 

【第18回】 2017年3月24日 村上尚己
【予測】ドル円&日本株は「米利上げ回数」でこう動く!
ドル円為替相場や日本株の今後を左右する最もわかりやすい指標は「米FRBによる利上げ回数」である。「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏は、それぞれの局面でどのような予想をしているのか? 最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介しよう。
3回目の「大幅円安」は期待できるか?
ドル円相場と株価の動きが連動していること、そして為替はマネーの量を左右する日米両国の経済政策によって動くことはすでに以前の連載で解説したとおりだ。したがって、ドル円や株価の大きなトレンドは、日本と米国の経済政策、なかでもマネーの量に直結する金融政策を見ていれば、大きく見損なうことはまずない。
※参考
日本株マーケットは「異常」だからこそ儲けやすい
―ドル円相場と日経平均株価はなぜ連動しているのか?
http://diamond.jp/articles/-/116543
「トランプ円高論」はマネーの基本をわかっていない!!
―円の価値は「○○」が決めている
http://diamond.jp/articles/-/116538
過去の大きな値動きを見ながら、そのことをまずは確認してみよう。
ドル円相場と日米経済政策の推移
上の図を見ればわかるとおり、ここ5年間ほどで大幅な円安が起きたのは「2012年末〜2013年春(1ドル80円前後→100円台)」と「2014年末〜2015年半ば(1ドル100円前後から125円付近)」の2回である。そして、今回のトランプ相場が「3回目」になると私は考えている。
1回目の円安はとてもシンプルだ。民主党の野田首相が国会解散を突如宣言した2012年11月半ばから円安が始まり、12月半ばに経済政策のレジームチェンジを掲げた安倍首相が誕生するまでの過程で1ドル90円前後までの円安・ドル高が進んでいる。
さらに安倍首相は、従来から日銀の政策を強く批判してきた経済学者の浜田宏一氏(イェール大学名誉教授)を内閣官房参与に、黒田東彦、岩田規久男両氏を日銀の新たな総裁・副総裁に据える人事を断行。政府と日銀のあいだでは2%のインフレ目標協定が実現し、2013年4月からベースマネーを2倍に拡大させる大規模な量的・質的緩和(QQE1)がはじまると、ドル円相場は一挙に100円台の大台に乗せた。
「FRBテーパリング」と
「日銀QQE」との相乗効果
1回目の円安が「日本の経済政策の大転換」に支えられていたのに対し、2回目の円安は日米の政策が相乗効果を発揮した例だと言える。当時、2014年4月の消費増税による悪影響で、日本は経済成長率にもインフレ率にも鈍化の兆しが見えていた。そこで同年10月、日銀は量的・質的金融緩和第2弾(QQE2)を発表し、国債・ETFなどの買い入れを拡大させた。これをきっかけに、1ドル100円前後だったドル円相場はわずか1ヵ月半で120円前後まで動いた。
これを背後で支えていたのが、米FRBの金融引き締めである。2014年夏場あたりから米国経済の堅調ぶりが目立っており、そのあたりから私は「FRBが量的緩和のアクセルを緩め、テーパリング(緩和縮小)に踏み出す可能性がある」という見通しを公表していた。日銀がQQE2を打ち出した10月には、実際にFRBがテーパリング開始を発表。「円のマネー供給量が増え、ドルのマネー供給量が減る」という期待がドル円の方向性を決める典型的なパターンが見られた。
以上2回の大幅な円安ドル高が、日本銀行の金融緩和強化、そしてFRBの緩和縮小といった政策転換によってもたらされたことは明らかだ。そして2017年からは再び、日銀が緩和を強化し、FRBは利上げを再開する見通しがある。つまり、基本的な構図はこれまでと同じであり、1ドル120円台の円安・ドル高が進む可能性は高い。
米国利上げの「回数」が決め手に
もちろん、この数字はさまざまな要因に影響を受ける。では、ここから先、ドル高・円安が「どの程度まで進むか」については、どう考えればいいだろうか?
日米双方の経済政策に大きな変化がなければ、為替相場の動向を最も左右するのは、FRBがどれくらい金融を引き締めていくかであり、米国の政策金利(FF金利)を上げる回数である。つまり、経済に対するブレーキをどれくらい踏み込んでいくかということだ。
この意思決定は、FRBの理事7名と各地区の連邦準備銀行総裁5名から構成されるFOMC(連邦公開市場委員会)で下される。利上げについてはさまざまな見方があるが、「年2回ペース」なのか「年3回ペース」なのかで主要メンバーのあいだでも意見が割れているのが現状だ。
FRB利上げ回数とドル円・日本株のシナリオ
これまでFOMCでは、FF金利の誘導水準を2015年末に0.25〜0.5%に、さらに2016年末に0.5〜0.75%に引き上げている。つまり、「1年に1回、0.25%ポイントずつ」という具合いに、きわめて緩やかなペースでブレーキを踏んできたわけだ。
もしもチャイナショックやBrexitのような経済減速のリスク要因が見られれば、直ちにFRBは利上げに慎重な姿勢を見せるはずだ。一方、国内経済がこのまま堅調で、国外にも景気下振れリスク要因がなければ、年3回の利上げは十分にあり得る。
そうした外的なショック以外に利上げ回数を左右するのは、米国の経済成長率・インフレ率・失業率といった経済統計である。たとえば、米国の成長率がここ数年続いていた2%程度の水準から上振れ、インフレ率も2%の目標水準を超えてくるような状況になれば、FRBが利上げを先送りする理由はなくなる。
そして、米国経済が堅調な成長を見せるかどうかは、トランプ大統領の拡張的な財政政策がしっかり実現されるかどうかにかかっている。減税などが公約どおりに実施されて効果を発揮すれば、米国の成長率は4%近くになり、インフレ率も2%を超えてくるだろう。失業率も安定的な回復を見せるはずなので、年3回の利上げシナリオがかなり現実味を帯びてくることになるはずだ。
利上げ回数とドル円の関係はどうなるだろうか? イエレンFRB議長が現状で想定していると推察されるのが年2回の利上げだが、この場合、ドル高・円安は比較的緩やかに進むと予想される。2015年半ばにつけた1ドル125円が目安になるだろう。一方、私が想定しているように、トランポノミクスが積極的に推進され、FRBが3回以上の利上げを行うことになれば、一段のドル高・円安がもたらされる可能性が高く、1ドル130円台も射程内に入ってくる。
株価はどこまで上昇するか?
では、日本株についてはどうか? 繰り返しになるが、日本が完全にデフレから脱却し、2%のインフレを安定的に実現するまでは、ドル円相場と日本株市場の連動性が高い状況は続く。このため、2017年の日本株は円安の進み具合いに依存するというのが、まず大きな前提としてある。
さらに、米国経済の復調と中国経済の安定もあって、2016年央から企業業績は回復基調に転じている。ここに1ドル120円台の円安が加われば、2017年度の企業利益は2ケタ以上の増益に上振れるだろう。
アベノミクス発動後の日本株の推移
株式市場ではそれを織り込む格好で株高が続くため、早晩、日経平均株価は2万円の大台に乗せることになる。2015年のピークだった1ドル125円まで円安が進めば、株価も同様に当時のピークである2万1000円前後をつけると考えるのが自然だ。
もっと言えば、FRBの利上げが3回となり、1ドル130円台をつければ、2万1000円を大きく超える上振れ余地が出てきても不思議ではないし、この状況が一定のあいだ続けば、日経平均株価はやがて2万5000円以上、バブル期以来の高値水準を目指し上昇するだろう。
村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。
http://diamond.jp/articles/-/116561

 


 

2017年3月24日 みわよしこ [フリーランス・ライター]
生活保護への誤解を煽り立てるテレビ報道続出の驚愕


年明けから生活保護に関する大変気がかりな報道が続く。背景には、本年予定されている生活保護法の再改正・生活保護基準見直しもあるように思われてならない(写真はイメージです)
新春の生活保護占いはいきなり「大凶」
外国人に生活保護の適用は必要ないのか?

 2017年1月5日木曜日夜、本連載の記事を手離れさせてホッと一息ついていた私は、友人・知人たちがSNSに書き込んだテレビ番組に対する感想を読み、びっくり仰天した。

 その番組とは、NHK・Eテレの「ハートネットTV」で放映された「シリーズ 暮らしと憲法」の第2回「外国人」だ。「ハートネットTV」は、障害者や福祉について、他のメディアが取り上げない題材を積極的に取り上げてきた番組だ。切り口は鋭く、必ずしも「お茶の間にウケる」とは限らないが、そこは視聴率が売上に響くわけではないNHKの「強み」をフル活用しているのだろう。

 しかし友人・知人たちの感想は、「そのハートネットが?」と私を驚愕させる内容だった。テレビを持たない生活が33年目に入っている私だが、その番組はなんとしても見ないわけにはいかない。というわけで、手段を講じて視聴した。そして、真っ青になった。

 番組は、日本で働き続け、年老いて生活保護に頼るしかなくなった外国人労働者たちの姿を、その人々の生活の基盤が日本にしかないことと共に示している。また、日本で生まれ育ち、日本語を第一言語としている外国人の少年少女たちの姿や声も紹介している。

 その人々に生活保護以外の選択肢がないのなら、福祉事務所と生活保護ケースワーカーの出番となる。番組の中では、外国人の多い豊橋市で、外国人生活保護世帯に親切・丁寧に対応するケースワーカーの姿も紹介されている。

 しかしながら、番組の内容を一言で要約すると、「外国人に生活保護は適用しなくてもよいのではありませんか?」だ。冒頭では、日本国憲法が定めた「基本的人権」や「法の下の平等」の主語が国民であること、憲法には外国人に関する記述はないことが紹介されている。

 また、当分の間「外国人に生活保護制度を準用する」とした1954年の厚生省通達を紹介し、豊橋市のケースワーカーの声として、「半世紀以上……当分の間というには長過ぎる気が」という意見を紹介している。

 また、2014年7月、日本の永住権を持つ外国人高齢女性が生活保護を申請したところ、認められなかった件に関する最高裁判決があった。番組は、最高裁判決の「生活保護は日本国民に限られる」「自治体の判断で外国人に支給している」という判断も紹介している。

 年明け、神社で引いたおみくじは「中吉」だった。しかし新春生活保護占いは、大凶だ……。

生存権は「基本的人権」で
「国が前提」なのか?

 番組は、識者の声として2人の大学教員の意見を紹介している。

 1人目の近藤敦氏(名城大学法学部教授)は、まず基本的人権が普遍的な人間の権利であることを述べ、さらに基本的人権のうち最も重要な生存権、すなわち生活保護を利用する権利は、国民に限定された権利ではないとしている。

 しかし、2人目の百地章氏(国士舘大学客員教授)は、法律の文言に「国民は」「何人も」と書いてあるかどうかを問題にする考え方は現在主流ではないこと、「国家以前の権利」として説明できる権利があることを述べた後に、「国家を前提にしないと説明できない権利がある」とし、例として参政権・社会権・入国の自由を挙げている。生活保護を利用する権利については、「財政が破綻しても保障しなくてはいけないのか、日本人を放っておいても外国人を優先するのか。国家としてあり得ないことです」としている。ということは、生存権は「国家以前の権利」ではない、ということだろう。

 番組はこの後、外国人の子どもに対する義務教育現場の混乱を紹介して終わる。どう解決されるべきかについては、両論併記、玉虫色だ。しかし少なくとも、「外国人に生活保護を認める必要はない」というメッセージが隠されていることは、構成から言って否定のしようがない。

 しかも、生活保護に関する重要な文書や規定、このような番組をつくる人々なら知っていて当然の事柄に、なぜか触れられていない。もしかすると、“なぜか”と問うことさえ野暮というものかもしれないが。

 それらの文書や規定の中から、最も重要と私が考えるものを2点紹介しておきたい。

 最初の1点は、1954年の「外国人にも生活保護を準用する」という厚生省通知だ(生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について/昭和29年5月8日 社発第382号)。この通知は、生活保護法新法が1950年に施行されてから4年後に発せられているのだが、生活保護法をつくった厚生官僚・小山進次郎氏は、1951年、自らの著書『生活保護法の解釈と運用』の中で、生活保護法旧法(1946)では「社会福祉の分野においては堅持せらるべき」態度として内外人平等の原則を採ったが、新法では外国人に対して明確に保護の請求権を認める一方で、法文上は「日本国民の権利」と一歩後退させた、という内容を述べている。

 とはいえ法文上、生活保護法は日本国民のための制度である。小山氏は外国人に関し、「まずはその国の外交機関、解決しない場合には生活保護制度で」とも述べている。これらを明文化したものが、1954年の局長通知である。しばしば喧伝されている「厚生省の局長が、暴動などの圧力に屈して勝手に通達を出した」という説は、全くの誤りだ。

 また、2014年の外国人と生活保護に関する最高裁判決に関しても、重要なことが1つ、番組内で全く紹介されていない。それは、もともと外国人の生活保護に関する権利は、日本人と同じ意味で認められてきたわけではないということだ。外国人には保護請求権があっても審査請求権がないため、生活保護申請が却下された場合、残る法的手段は行政訴訟しかない。

 しかし、この番組を見て、「ちょっと大変だけど、小山進次郎氏のその原典を読んでみるかな」「外国人の権利について、ちゃんと整理してみようかな」と思った人は、たぶん1人もいないだろう。番組が、そういう理解を促すつくりにはなっていなかったからだ。

気になる生活保護報道が相次ぐ
春のテレビ番組を徹底リサーチ

 その後も、生活保護に関しては大変気がかりなメディア報道が続いている。

・2017年3月6日/「好きか嫌いか言う時間」(TBS)

「正しい生活保護の在り方について話し合う60分」ということだが、「正直者は馬鹿をみる?」「あなたの税金が無駄使いされている? 受給者の生活に密着」という番組内容紹介から、「正しい」の意味するところは「死ぬ気で働け」「充分に悲惨でいろ」「自分の希望を持ったり実現したりするな」といったことだろうと予測され、見る前からウンザリする。

 番組には当事者も登場しており、最初の1人は生活保護で暮らしながら生活保護バッシング記事を書いているライター。合法的な範囲で生活保護を利用していることを番組内で強調して反感を買っていた。「そう主張して反感を買うように」という演出ありき、なのだろうか。登場した他の当事者は、傷病を持つ子だくさんのひとり親・傷病がありながら水際作戦を経験した女性であった。

 実際のところ、その人々が「生活保護世帯を代表している」と言えるだろうか。生活保護世帯の半数以上は、今や低年金・無年金の高齢者。「働けるのに働かない」、あるいは就労による生活保護脱却を期待できる人々は、もともと生活保護で暮らす人々の中では多数派ではなかったが、そういう人々は、さらに少数派になっている。

 むろん、番組制作側に「働けるのに働かない生活保護の人々」というイメージと反感を煽る意図があるのなら、「働けないから働いていない」「働いているが、自分や家族を養えるほどの収入を得るのは難しい」という生活保護の多数派にフォーカスするわけがないだろう。

・2017年3月12日/「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ)

 この日取り上げられた6つのテーマのうち1つが、小田原市の「生活保護なめんな」ジャンパー問題であった。パネラー8名のうち4名(長谷川幸洋氏・猪瀬直樹氏・加藤清隆氏・竹田恒泰氏)が、ジャンパーをつくった小田原市職員を支持し、理由は「役人の仕事が大変」「やる気を出す意図」「ひどい受給者もいる」「むしろ表彰すべき」というもの。支持しなかったのは、「他にも方法があるはず」という桂ざこば氏、「モチベーションを高める方法なら他にも」という峯岸みなみ氏、「ジャンパーに効果があると思えない」という萩谷麻衣子氏の3名。田嶋陽子氏は「どちらでもない」。

 支持派が優勢なのだが、小田原市が開催した検討会(前回参照)は、放映1週間前の3月5日までにすでに2回、このジャンパー問題に関する検証を行っている。ジャンパーをつくり着用していたケースワーカーたちは、検討会に直接参加はしていないが、経緯や当時の思い、現在の所感などは検討会で紹介されている。

 表面的に「元受給者による傷害事件が起こったので士気を高めるため、問題のある文言を刷り込んだジャンパーを着用した」という事実だけに対して「賛成」「反対」と議論しても意味はない。発覚直後ならともかく、1ヵ月以上経過し、小田原市の検討会で詳細が明らかになっていたタイミングで、なぜこのような番組が放映されてしまうのだろうか。しかも、小田原市の検討会で共有された情報の多くはウェブで公開されていた。

「親族扶養は保護の要件」は
極めてよくある誤解

・2017年3月15日/「『悪い奴らは許さない!』直撃!怒りの告発スペシャル」(日本テレビ)

 ”悪い奴ら”の一例として紹介されているのは、世帯認定が実態と異なるというタイプの不正受給だ。ある地方都市で、「生活保護で暮らす50代の独身女性が、別の住所に居住して(以下略)別の住所に居住して余裕のある生活をしているといる」という市民からの通報があり、実際に1週間以上、自分の住所にいなかった。市役所職員らは張り込みを行い、女性が実際には比較的裕福そうな実家に居住していること、自動車を運転していることを突き止めた。父親からの経済的援助も認められたため、不正受給とされた。その時点で、世帯の認定と実態の間に食い違いが生じていたことは間違いない。

 番組は、他にも同様の不正受給の例が多数あることに加え、弁護士の「扶養能力のある親族がある場合には保護は受けられない」という意見も紹介した。親族による扶養は生活保護に優先されるのだが、弁護士の意見は「親族による扶養は生活保護の要件」を意味する。「親族扶養は保護の要件」というのは、極めてよくある誤解である。

 また、女性の不正受給について、弁護士は「詐欺罪にあたる」とコメント。詐欺に当たるかどうかは、どの時点で、どのような意図で、福祉事務所が把握していた「女性は単身世帯」という情報と実態との違いが生じていたかによる。

 この他にも、週刊誌などのメディアを中心に、気がかりな生活保護報道が続いている。

狙われているのはどこの誰?
背景に生活保護基準の見直しか

 こうした報道の背景にあるのは、本年2017年に予定されている生活保護法の再改正・生活保護基準見直し(引き下げ)であろう。

 生活保護法の再改正では、生活困窮者自立支援法の施行後のフィードバックも含め、より就労促進的になることが予想される。

 私自身は、「働けるのに働かないという人々が多数いて生活保護、国の財布を圧迫している」という俗説は否定するが、「働きたいけど働けない」「働きたいと思うには何もかもが不足している」という人々に対する支援は、人権の問題として重要だと思う。しかし、現在目論まれている生活保護法の再改正の方向性は、「働けるのに働かない」という範囲を拡大し、「働けるのに働けない」という“認定”を容易にし、ペナルティと結びつけることにあるのではないかと危惧している。

 また厚労省は福祉事務所に対し、受け持ち生活保護世帯がパチンコをしているかどうかに関する報告を求めている。これもまた、「働けるのに生活保護でパチンコ」というイメージを独り歩きさせるために役立てられるのではないだろうか。

 また生活保護基準の見直しで、現在最大の標的になっているのは、ひとり親家庭に対する母子加算だ。自民党政権下で廃止され、その年のうちに政権交代によって民主党政権下で復活された母子加算に対し、現政権は「どうしても再度廃止したい」という強い意向を持っているようだ。

 この他、児童養育加算など生活保護世帯の育児に関する加算、生活保護世帯の子どもが保育園に入所しやすいことなども、現政権は「解消」すべき点と考えているようだ。


本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)が好評発売中
 母子加算も児童養育加算も、生活保護世帯が保育園に入所しやすいことも、貧困の中での育児が子どものハンデにつながることを減らし、子どもたちが心身ともに健やかに育成されやすい状況をつくるために設けられたものだ。それらが失われれば、生活保護世帯の子どもたちは、現在でも貧困なのに、さらに深刻な貧困へと押しやられる。

 子どもの貧困を本気で解消するつもりがあるのなら、子どものいる世帯の生活保護基準は高め、少なくとも悪化させず、さらに生活保護ではカバーできない支援を充実させるしかないだろう。私は、現政権や政府文書がどれだけ「子どもの貧困に取り組む」と語っても、とても信じられない。

 この国は、どこに向かって進もうとしているのだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/122338
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/438.html

[経世済民120] 黒田日銀総裁:現時点で金融緩和度合いを緩める理由はない ヘルスケア法案の行方に注目集中 メキシコNAFTAなしで生き残る
黒田日銀総裁:現時点で金融緩和度合いを緩める理由はない
日高正裕
2017年3月24日 14:14 JST

エネルギーの物価押し上げは一時的、物価の基調が高まること不可欠
国債買い入れに近い将来、問題が生じるとは考えていない

日本銀行の黒田東彦総裁は24日、都内で講演し、現在の物価動向は2%上昇の目標には距離があり、「現時点において金融緩和度合いを緩める理由はない」と述べた。
  黒田総裁は、2017年度はエネルギー価格が消費者物価の前年比に対して小幅のプラス寄与になると見込まれるものの、押し上げは「あくまで一時的」であり、18年度にははく落すると分析。物価目標の実現には「基調的な物価上昇率が高まっていくことが不可欠だ」と述べた。
  物価上昇の勢いは「なお力強さに欠けている」とし、経済と物価は「下振れリスク」の方が大きいと説明した。物価目標の実現のため、現在は「現状のイールドカーブを維持し、 世界的な経済情勢の好転を生かしていくべき局面だ」と話した。
  昨年9月に導入した長短金利操作については「国債の買い入れは円滑に行われており、近い将来において問題が生じるとは考えていない」と述べた。将来的に日銀の国債買い入れが困難となり、長期金利がコントロールできなくなるといった市場の見方に対しては、否定的な見解を示した。
  また国債買い入れなど「日々のオペ運営によって、先行きの政策スタンスを示すということはない」と語った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONAXZL6S972G01


 

ヘルスケア法案の行方にウォール街の注目集中、「困惑の市場」揺らす
Dani Burger
2017年3月24日 10:46 JST

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投資家は議会審議の行き詰まりを懸念してヘッジ増加
ヘルスケア法案の成否、トランプ政策の行方の前触れに


ウォール街の注目がワシントンに集中した。
  米議会共和党が23日にヘルスケア法案可決に十分な賛成票の確保を試みる中、S&P500種株価指数は前半堅調だったものの終盤下げに転じ、「トランプ相場」で最悪の下落局面は継続となった。一方、米国債など安全資産の需要は増加した。
  下院共和党は同日の取引終了前に、保守派によるトランプ政権案の検討を受けて法案採決の延期を発表。S&P500種は前日比0.1%安でこの日の取引を終えた。ダウ工業株30種平均は0.02%安、ナスダック100指数は0.2%安。
  市場にとってヘルスケア法案の採決は、歴史的な相場上昇に打撃を与えるか、それともトランプ米大統領が成長促進策を推進できるとの楽観論を裏付けることになるか、決め得るものだ。米大統領選以降に時価総額が2兆2000億ドル(約245兆円)増加した米株式市場は極めて重要な試練を迎えており、懸念は明白だ。

  経済の好調が最近の相場上昇に寄与した点に疑問を呈する人はいないが、成長促進に向けた選挙公約の法制化開始を求める投資家は多い。ヘルスケア法案の採決を間近に控え、ストラテジストや投資家は法案否決の見通しと、議会の行き詰まり状態が続いて税制改革や規制緩和の公約実現の時期が見通せなくなるシナリオに備えつつある。
  ファンドストラットのトム・リー氏は、「市場は高値圏にあり、当惑している」と説明し、共和党の政策課題の信頼性を判断する構えだと語った。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iiz6Xlrr6rpo/v2/-1x-1.png

  ギャムコ・インベスターズの成長株担当最高投資責任者、ハワード・ウォード氏は「下院採決かその後の上院採決で法案が否決されれば、市場全体に利益確定売りのきっかけになる。否決はトランプ政権の政策課題の推進やタイミングを危険にさらす」と分析した。
  ミラー・タバクの株式ストラテジスト、マット・メイリー氏は「当面、ヘッジの動きが増え、ディフェンシブ銘柄の一角が好調になる。法案が通過すれば相場は多少上昇するが、すぐに反落するだろう。今回のプロセスが物語っているのは、トランプ大統領の意向通りの法案通過は一段と難しくなり、政策の実施には市場が今想定しているよりも長い時間が必要になるということだ」と指摘した。  
原題:Wall Street Frets Over Health Vote Sway on ‘Baffling Market’ (3)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONAM6M6K50YG01


 

メキシコはNAFTAなしでも生き残れる−ビデガライ外相
Eric Martin、Erik Schatzker
2017年3月24日 13:45 JST

NAFTA見直しが3カ国に有利にならない場合メキシコは離脱する
ペソ安定化メカニズムをNAFTA見直し合意に盛り込む可能性

メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)見直しを巡り米国とカナダとの間で加盟3カ国に利益となる合意をまとめられない場合、NAFTAからの離脱に備える。メキシコのビデガライ外相が23日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで語った。
  同相はペニャニエト政権がコミットしているのはNAFTA継続だと述べるとともに、対米交渉でメキシコが受け入れ可能な範囲を明確に定めていることを明らかにした。トランプ米大統領の娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏との自身の強固な関係にも触れ、今後に向けメキシコにとっての利点になると説明した。
  ビデガライ外相はロス米商務長官がNAFTA見直しの一環として今月示唆したメキシコ通貨ペソの安定化メカニズムについて、自由なペソ取引が維持される限り、同メカニズムを盛り込むことにオープンな姿勢を示した。その上で、「交渉内容がメキシコに好ましいものでないなら、メキシコはNAFTAから離れ」、世界貿易機関(WTO)ルールに頼ることになると話した。
原題:Mexico’s Top Diplomat Says Nation Can Survive End of Nafta (2)(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONASWP6TTDS101
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/443.html

[経世済民120] 世界経済:同時好況の幕開けか 株動揺もヘッジ疲れ 燃費規制見直し達成延ばす程 Utub暗転 株続伸、ドル反発 債券下落も

世界経済:同時好況の幕開けか
2017.3.24(金) The Economist


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(英エコノミスト誌?2017年3月18日号)

世界の国外旅行者、7年連続増 アジアがけん引
旅行者のシルエット。米首都ワシントンにあるレーガン・ナショナル空港で(2016年12月22日撮影)。(c)AFP/SAUL LOEB〔AFPBB News〕
ここ10年間の経済は「偽りの夜明け」ばかりだった。今回こそ、本当に違うように感じられる。

?経済と政治のサイクルには連動しない習性がある。例えば、ジョージ・ブッシュ元大統領(父親の方)に聞いてみればいい。同氏が1992年の米大統領選挙で敗れたのは、足元の景気後退を招いたと有権者に批判されたからだった。また、ドイツのゲアハルト・シュレーダー氏が2005年の選挙で首相の座を追われたのは、痛みを伴う改革を実行したためだった。改革の果実は、後任のアンゲラ・メルケル首相が収穫した。

?1930年代の大恐慌以来となった深刻な金融危機から10年近く経過した今、多くの国や地域の経済がようやく上向いている。米国、欧州、アジア、そして新興国市場で、景気という名の気球が、すべてのバーナーに火がついた状態で浮上しようとしている。2010年に見られた短期間の回復以来のことだ。

?しかし、政界のムードはさえない。数年に及ぶ経済の低迷のせいで大きくなったポピュリスト(大衆迎合主義)の反乱は、まだ広がりを見せている。グローバル化は人気がなくなり、米国大統領のイスには経済ナショナリストが座っている。3月15日に行われたオランダの総選挙は、反イスラムのイデオローグであるヘルト・ウィルダース氏を中心に耳目を集めたが、欧州には同氏のように不満を抱えた扇動家がほかにも大勢いる。

?この経済と政治のサイクルの不一致は危険だ。景気がさらに良くなり、それがポピュリストの政治家の功績だということになってしまったら、彼らの政策が信用され、壊滅的な影響をもたらす危険性が出てくるからだ。だからこそ、待望久しい上昇気流が生まれて、多くの人々の景況感が改善するときには、その背景に何があるのかをしっかり見定めなければならない。

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[あわせてお読みください]
米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか (2017.3.23 北村 淳)
「主役は極右」だったオランダ総選挙 (2017.3.23 新潮社フォーサイト)
中韓関係:解き放たれたナショナリズム (2017.3.22 The Economist)
信頼の親日国 投資人気の陰で共産党崩壊の危機も (2017.3.22 末永 恵)
米中経済戦争勃発に新たな火種 (2017.3.21 瀬口 清之)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49508

 


News | 2017年 03月 24日 12:28 JST 関連トピックス: トップニュース

アングル:
米株動揺でも際立つ「ヘッジ疲れ」

[ニューヨーク 23日 ロイター] - 米国株は今週、トランプ米大統領の医療改革や経済政策の実施が遅れるとの見方から、数カ月ぶりの大幅な下落に見舞われる場面があった。しかしオプショントレーダーはここ数年、ヘッジを掛けては無駄に終わる経験を繰り返して「ヘッジ疲れ」しており、今回は状況を静観している。

今週は医療保険制度改革法案(オバマケア)代替案の審議難航が懸念され、S&P総合500種.SPXが21日に1%以上下落した。

しかしこのところ、ボラティリティは急上昇してもすぐに鎮静化する傾向が強まっており、オプションを使ったヘッジはコストに見合わなくなっている。このため投資家は相場が1日大きく動いたぐらいでは腰を上げない、と専門家は指摘する。

21日の株価急落で、安全資産とされる金XAU=や円JPY=は買われたかもしれないが、オプションを使ったヘッジは増えなかった。

MKMパートナーズのデリバティブ・ストラテジスト、ジム・ストラガー氏は「投資家は過去数年間、ボラティリティが概ね抑制されている状況に慣れてしまった。すこし相場が下がるとすぐに買い戻され、あっと言う間に最高値を更新する」と述べた。

減税など、トランプ大統領が約束した他の政策でも審議が難航し、株価が今後下落する恐れはあるが、オプショントレーダーは慌ててヘッジを掛けようとはしていない。

BMOキャピタル・マーケッツの株式デリバティブ・ディレクター、アレックス・コソグリヤドフ氏は「パニックの兆しはあまり見られない」と言う。

21日はコール(買う権利)よりもプット(売る権利)の売買の方がわずかに優勢だったが、その後はコールが増えている。23日は米東部時間午後1時までの時点でコール・オプションの出来高が410万枚、プットが400万枚となった。

投資家はこのところ、せっかくオプション料を払って株価変動へのヘッジを掛けても活用されず、コストが投資リターンに食い込む経験をしてきた。

「あなたはヘッジファンドなのに、過去7年間ヘッジの費用を払わない分あなたの祖母の方が運用成績が良かったとしたら、そろそろ祖母を見習う決意をしなければならない」とストラガー氏は話した。

(Saqib Iqbal Ahmed記者)

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G20声明に「反保護主義」明記せず:識者はこうみる
http://jp.reuters.com/article/hedging-fatigue-us-stock-idJPKBN16V0D9?sp=true

 

 

News | 2017年 03月 24日 15:48 JST 関連トピックス: トップニュース

アングル:トランプ氏の燃費規制見直し、基準達成延ばす程度か

[デトロイト 23日 ロイター] - トランプ米大統領は先週、オバマ前大統領時代に決まった自動車の燃費基準を見直すと表明し、「米自動車産業への攻撃は終わった」と述べた。しかし燃費の良い車を求める消費者や、輸出に厳しい基準を求められる自動車メーカーの状況を踏まえると、見直しによる影響は基準達成を数年遅らせる程度にとどまりそうだ。

見直しの対象は、2025年までに平均燃費性能を1ガロン当たり54.5マイルに倍増する基準。コストが掛かり過ぎ、雇用が奪われると訴えてきたメーカー側の勝利と言える。

ただフォード・モーター(F.N)のボブ・シャンクス最高財務責任者(CFO)は23日の投資家向け電話会議で「いかなる形であれ撤回を求めているわけではない。達成すべき水準について話し合いたいだけだ」と述べた。

また、無公害車(ZEV)計画を採用するカリフォルニア州を含む10州は、前政権が決めた基準を堅持する方針。これらの州は米自動車販売の約3割を占める。

アリックスパートナーズのマネジングディレクター、マーク・ウェイクフィールド氏は、米国内で基準が2分し、「メーカーが同じ車種について2つの異なる基準に合ったバージョンを製造せざるを得なくなれば、コストが高くなるかもしれない」と懸念する。

オバマ政権時代の規準撤回を求めていた米国自動車工業会(AAM)は23日、ホワイトハウスに書簡を送り、全米の統一的な基準を維持するためカリフォルニア州との協議を早急に始めるよう促した。

<影響力小さいEPA>

センター・フォー・オートモティブ・リサーチの労働・産業グループ・ディレクター、クリスティン・ジチェク氏は、米国の基準が撤回されれば中国や欧州など、より規制の厳しい地域への自動車輸出が難しくなると予想。このため「(規則が)撤回されることはなさそうだ。せいぜい厳しい基準の達成時期が遅れる程度だろう」と言う。

アリックスパートナーズのウェイクフィールド氏は、米国が後ずさりしている間に世界最大の市場である中国が電気自動車を推進し続ければ、「米国から中国にある程度投資が移る」恐れがあると話した。

地球温暖化に懐疑的な米環境保護局(EPA)のプルイット新長官は、厳しい基準を課せば13年間で2000億ドルのコストが生じるため、消費者が支払う価格が跳ね上がり、雇用が国外に逃げる事態につながると考えている。

モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は、誰が政権に就いているかに関わらず、自動車業界は2022─25年の基準を達成できないと予想した上で、EPAの見直しによる影響は軽微にとどまると見る。

「燃費問題に影響しそうなすべての要因を順位付けすると、EPAは消費者の好みと技術進歩の行方に大きく差を付けられ3位に甘んじるだろう」と話した。

全米自動車労働組合(UAW)のデニス・ウィリアムズ委員長は、米自動車販売の約6割を占めるトラックとスポーツタイプ多目的車(SUV)の消費者は、燃費向上を重視していると指摘。「メーカーは後戻りする過ちを犯してはならない。われわれの使命は組合員を守ることだが、同時に将来を見据える必要があることは理解している」と述べた。

(Nick Carey、Paul Lienert記者)

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http://jp.reuters.com/article/trump-auto-review-idJPKBN16V0N0?sp=true


 
Technology | 2017年 03月 24日 16:36 JST 関連トピックス: トップニュース

アングル:ユーチューブの広告戦略、過激派動画問題で暗転

[23日 ロイター] - 動画共有サイトの「ユーチューブ」でヘイトスピーチや過激主義を主張する動画に企業などの広告が掲載された問題を受け、米アルファベット(GOOGL.O)傘下のグーグルは大手企業による相次ぐ広告取り下げに直面している。

こうした事態を受けて、テレビから広告を奪うというユーチューブの長期戦略が危機に瀕する可能性があると専門家らは指摘する。

これまで大手企業から多額の広告掲載料を得てきたユーチューブだが、この数週間で通信大手ベライゾン(VZ.N)、AT&T(T.N)、医薬品・健康関連用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)(JNJ.N)などが広告契約をキャンセルした。

「動画はシリコンバレーが考えるよりエコシステムとしてかなり脆弱(ぜいじゃく)だ」と語るのは米調査会社ディフュージョン・グループのアナリスト、ジョエル・エスペリエン氏。「問題はすべてのコンテンツが同じではないこと。好みの要素があり、それが壊してしまえば、全体が崩れる始まりのようになる」との考えを示した。

グーグルはユーチューブの業績をほとんど明らかにしていないが、検索事業が成熟化した今、グーグルにとってユーチューブは成長の原動力だとアナリストらは見ている。

アルファベット株は今週3%超下落している。

グーグル幹部は21日、ユーチューブが広告掲載基準を見直しに着手し、広告主の管理を強化する措置を取ると表明。グーグルも動画監視チームの人員を増やし、監視用の人工知能(AI)を改良することを計画している。

アルファベットのエリック・シュミット会長はフォックスニュースのインタビューで、今回ヘイトスピーチ動画と共に表示された広告は、システムのすき間を通り抜けたものだと説明。

「われわれは広告と動画をマッチさせているが、広告はあらゆる所から集まるため、アルゴリズムをすり抜ければ無関係の動画に表示される」と述べ、今後は掲載基準を厳しくするほか、人による監視時間をより長くする考えを示した。

これに対し、メディア戦略会社マグナ・グローバルのデービッド・コーエン社長は、グーグルの発表は広告主の懸念を和らげることにほとんどつながっていないと指摘。同氏は、個人的にはグーグルがアルゴリズムの改善など対策を強化しているはずだと言う。

ただ、こうした管理強化は広告が表示される動画の割合を減らし、ユーチューブ上のクリエーターが作る活気あるコミュニティーを阻害しかねない。

今回の問題が発覚する前からも、オンライン広告の表示に関する管理は広告主にとって大きなトピックとなっていた。ソーシャルネットワークやニュースを集約するアグリゲーターは、昨年の米大統領選で偽ニュースを拡散したとして非難の的となり、広告主らはヘイトスピーチとされるコンテンツに自社広告が掲載されないよう求めてきた。

アドフラウド(広告詐欺)対策などを手掛けるトラスト・メトリックスのマーク・ゴールドバーグ最高経営責任者(CEO)は「ロボットによる広告詐欺や偽ニュース、ヘイトスピーチなどを受け、大手ブランドはこれまで以上に事態を憂慮している」と話した。
http://jp.reuters.com/article/alphabet-youtube-idJPKBN16V0R1


 


来週の日本株は戻り試す、調整後の買い戻しが優勢

[東京 24日 ロイター] - 来週の東京株式市場は、戻りを試す展開となりそうだ。為替の円高が急激に進行しない限り、今週調整した分の買い戻しが優勢となると想定される。3月期決算企業の権利付最終売買日を28日に控え、配当取りの買いも下支えになる見込みだ。

日経平均の予想レンジは1万8900円─1万9500円。

3月21日─24日の週は、米医療保険制度改革(オバマケア)代替法案の採決を巡り、米トランプ政権の政策実効性に対する懸念が重しとなった。日経平均は23日に、取引時間中で2月27日以来、約3週間ぶりに節目の1万9000円を下回った。だが翌24日は採決が延期されたと伝わったにもかかわらず、円高一服を背景とした押し目買いで堅調な値動きとなった。

3月27日─31日の週は、前半が3月末の権利付最終売買日を前に、配当利回りの高い銘柄を中心に売り惜しむ雰囲気が広がる可能性が高い。市場が推計する配当落ち分は130円ほどで、翌日に「配当落ち分を埋められるかがポイント」(中堅証券)という。

だが、「配当落ち分を考慮しても、円高が進行しない限りオバマケア代替法案で調整した分、値を戻す公算が大きい」(SMBCフレンド証券チーフストラテジストの松野利彦氏)という。為替が1ドル110円以上の水準を維持していれば、輸出企業の業績悪化懸念は深刻にはならないとの見方が市場のコンセンサスのようだ。

「オバマケア代替法案がスムーズに採決されれば、市場に安心感が広がる。日経平均の下値も1万9000円程度だろう」(松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏)との声も聞かれた。

国内外ともに主だったイベントはなく、経済指標では、海外で29日に米2月中古住宅販売仮契約が、30日に米10─12月期GDP確定値が発表される。ただ、「米連邦公開市場委員会(FOMC)も終了したばかりで注目度は高くない」(前出の中堅証券)という。

国内では27日に3月15日─16日開催分の日銀金融政策決定会合の「主な意見」が公表される。また、IPO(新規株式公開)も連日予定されている。31日は2月家計調査、2月消費者物価指数、2月鉱工業生産などの一連の指標が発表される。海外では、27日に独Ifo景況感指数、31日に中国3月製造業PMIが、それぞれ公表される。

「機関投資家の年度末の売りも一巡し、値が軽くなる時期。だが1万9000円─1万9500円のレンジ相場の上抜けは来月までおあずけ」(SMBCフレンド証券の松野氏)との声が聞かれた。

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http://jp.reuters.com/article/tokyo-stock-fomc-idJPKBN16V0UX


日本株続伸、米金利低下や円高が一服−金融や素材、紙パ広く買われる

  東京株式相場は続伸。米国の長期金利低下が一服、円高の勢いも鈍り、銀行や保険など金融株、化学など素材株、電機や電力、陸運株と幅広い業種が高い。家庭紙製品を値上げする王子ホールディングスをはじめ、パルプ・紙株は上昇率トップ。配当権利取りの動きも株価を押し上げた。
  TOPIXの終値は前日比13.51ポイント(0.9%)高の1543.92、日経平均株価は177円22銭(0.9%)高の1万9262円53銭。
  T&Dアセットマネジメントの山中清運用統括部長は、「米ヘルスケア法案はトランプ米大統領や共和党の政策の目玉で、何らかの形で妥協点を見いだして決着をつける可能性がある」と指摘。米国株が本格調整しなければ、「年3回の利上げが見込まれる中で1ドル=110ー115円のレンジから外れた円高にはなりにくい」とし、日本株も「大崩れの心配はない」と話した。
  東証1部33業種はパルプ・紙、電気・ガス、銀行、保険、化学、建設、陸運、医薬品など30業種が上昇。石油・石炭製品、海運、鉱業の3業種は下落。売買代金上位では、投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントによる買い増しが判明した東芝が大幅高。三井住友フィナンシャルグループやファナック、ソニー、花王、今期利益計画を上方修正した大林組も高い。半面、三菱電機やJR九州、ヤフーは安い。東証1部の売買高は18億2174万株、売買代金は2兆1456億円。値上がり銘柄数は1559、値下がりは351。

●債券下落、欧米債安や益出し売りが重しとの声−日銀は売り現先を実施

  債券相場は下落。前日の欧米債券相場が反落したことに加えて、一部投資家からの超長期ゾーンへの益出しの売りが相場の重しになったとの見方が出ていた。
  長期国債先物市場で中心限月6月物は、前日比9銭安の150円39銭で取引を開始し、いったん150円28銭まで下落。午後はやや下げ幅を縮め、結局は9銭安の150円39銭で引けた。
  マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ長は、「米連邦公開市場委員会(FOMC)と日銀決定会合前には実施しにくかった償還資金の再投資が超長期ゾーンなどに出てきている割には上値が重いので、売り手もいるようだ」と話した。「金融庁の特別検査をにらんで地方銀行などが長期化しているデュレーションの調整と、益出しが可能な超長期債を売っている可能性がある」と指摘した。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の346回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より1ベーシスポイント(bp)高い0.06%で始まり、0.065%に上昇した。新発2年物374回債利回りは1.5bp高いマイナス0.26%、新発5年物131回債利回りは2bp高いマイナス0.145%まで売られた。新発20年物160回債利回りは一時1bp高い0.65%まで上昇した後、0.645%で推移した。
  日銀はこの日午前の金融調節で、約8年ぶりとなる国債売り現先オペを実施した。3月27日開始で期日が4月3日の1週間物となる。1兆円の予定額に対し、2兆601億円の応札があり、応札倍率は2.06倍となった。最高落札利回りはマイナス0.110%、平均落札利回りはマイナス0.130%だった。
  日銀は23日、レポ市場の国債の需給が引き締まっているため、24日に1週間物の国債売現先オペを行い、27日以降も必要に応じて同オペをオファーするほか、月内は金融市場調節の一環として行う短国買い入れを実施しない方針などを発表した。

●ドル・円は反発、米連銀総裁発言支え−オバマケア代替案の採決見極め

  東京外国為替市場のドル・円相場は反発。米国時間に医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の米下院採決を控える中、米地区連銀総裁発言などを支えに1ドル=111円台半ばまで水準を切り上げた。
  午後3時25分現在のドル・円は前日比0.5%高の111円45銭。朝方に110円86銭まで下げた後、仲値にかけて値を戻し、午後には111円48銭までドル高・円安が進んだ。前日は一時110円63銭と4カ月ぶりのドル安・円高水準を付け、2011年2月25日以来で最長の8営業日続落を記録していた。
  NBCフィナンシャル・マーケッツ・アジアのデービッド・ルーディレクター(香港在勤)は、「ドル・円は110円50銭−60銭で実需勢の買いが意識される中、仲値での買いや週末を控えたショートカバーで上昇している感じ」と説明。「レンジも大きくみれば110−115円だが、直近では112−115円から110−113円に下方シフトしたようで、ドルが重い状態は続きそう」と述べた。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONB3I26K50XV01

 

【債券週間展望】長期金利低下か、日銀の金利抑制姿勢や政治リスクで
三浦和美
2017年3月24日 16:56 JST

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まだフラットニングの余地は残っている−SBI証
2年入札、中期国債需要根強く消化に問題ない−岡三証
 
3月5週(27ー31日)の債券市場では長期金利に低下圧力がかかりやすいと予想されている。米国の株高・債券安をけん引してきたトランプ政権の経済対策をめぐる不透明感の強まりに加えて、日本銀行の金利上昇抑制姿勢が背景にある。
  新発10年物国債346回債利回りは0.065%で連休明け21日の取引を開始した。トランプ政策の行き詰まり懸念を背景とした米長期金利の低下を受けて22日には0.055%と、3週間ぶりの水準まで買われたが、その後は0.065%に戻した。

  SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、「海外の展開次第だが、円高・株安が意識されやすいタイミング」とした上で、「原油のダウンサイドリスクが高く、インフレ圧力の後退というシナリオもあり、まだフラットニングの余地は残っている」と指摘。「米国が利上げを急がないトーンの中、日銀はオペ日程公表などで金利の大幅上昇に警戒を強めており、買いやすくはなっている」と話した。
日銀国債買い入れ
日本銀行本店
日本銀行本店 Photographer: Yuriko Nakao/Bloomberg
  日銀の長期国債買い入れオペは、29日と31日に残存期間「1年超5年以下」と「5年超10年以下」がそれぞれ予定されている。前回オペの買い入れ額は1−3年が3000億円、3−5年が4000億円、5−10年が4500億円だった。
  また、日銀は31日に「当面の長期国債等の買い入れの運営について」を発表する。3月分からは各ゾーンの買い入れ実施日程を明らかにしている。
  SBI証の道家氏は、「4月からいくつかの年限で国債発行が減額になるが、それに合わせて日銀が買い入れを減らしてくるのではないかとの思惑もある」と説明。ただ、「あくまでも発行減に合わせるということで、需給バランスとしてはニュートラルなイメージ」としている。
2年債入札
  財務省は28日に流動性供給入札を実施する。残存期間5年超−15.5年以下の国債が対象で、発行予定額は5000億円程度となる。30日には2年利付国債の入札が予定されている。発行予定額2兆2000億円程度に減額となる。
  
  岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは、2年債入札について、「中期国債には根強い需要が続いており、消化に問題はない」とみる。
市場関係者の見方
*T
◎マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ
*日米会合前には実施しにくかった償還資金の再投資が超長期ゾーンなどに出てきている割には上値重く、売り手もいるようだ
*円相場が対ドルで110円を突破して上昇すると、市場で根強い日銀による10年債の誘導目標の引き上げ観測に冷水を浴びせる可能性
*長期金利の予想レンジは0.05%〜0.09%
◎岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジスト
*31日に2月の国内消費者物価指数(CPI)の発表、1月は生鮮食品除く全国CPIが13カ月ぶりに前年比で上昇し今後も上昇基調は続く見込み
*日銀がいずれ10年金利の操作目標引き上げるとの警戒感根強い
*長期金利の予想レンジは0.05%〜0.09%
◎SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジスト
*年度末まで残り1週間で無理にポジション取る動きも見込みにくい
*サプライズがあるとすれば、27日予定の予算成立後に衆院解散するかどうか
*長期金利の予想レンジは0.04%〜0.09%
◎アムンディ・ジャパンの浜崎優市場経済調査部長
*日米ともに政治リスクが頭をもたげており、しばらく利回りは上昇しにくい
*投資家は当面、リスク回避の行動に出やすいとみている
*長期金利の予想レンジは0.05%〜0.10%
*T
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-24/ONB3CP6JTSE901


http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/448.html

[国際18] 商用ドローン2021年には10倍超に増加 出荷300万台 ギリシャEUに援護要請 本物のリーダーは「反論する義務」を心得

商用ドローン2021年には10倍超に増加

米連邦航空局がリポートで見通し明らかに
2017.3.24(金) 小久保 重信
アマゾン、初のドローン配送を英国で実施 注文から13分で完了
インターネット小売り大手米アマゾン・ドットコムが公開した、商品配達に使われるドローンの写真(2013年12月1日公開、資料写真)。(c)AFP/AMAZON〔AFPBB News〕
米連邦航空局(FAA)が、このほどまとめた航空宇宙産業リポートによると、米国におけるドローン(無人機=UAS:Unmanned Aircraft System)の実働数は、今後5年で急増する見通し。

商用ドローン、2021年に最大160万機

FAAによると、ドローンのうち、趣味目的の小型機は昨年末時点で約110万機だった。これが2021年までに約350万機へと増加し、市場の成長度合いによっては最大450万機にまで増えるとFAAは見ている。

一方で、昨年末時点で4万2000機だった商用ドローンは、2021年に44万2000機と、10倍超に増大する見通しだが、最大160万機に達する可能性もあると、FAAは予測している。

立ちはだかる規制の壁

こうして予測値に幅があるのは、市場が急速かつ、大きく変化していることに加え、現在施行されている商用ドローンの運用規則に多くの制限があり、将来それらの制限が緩和される可能性があるからだ。

昨年6月に公表され、同年8月に施行されたドローン使用に関する運用規則では、飛行が許可されるのは、操縦者から視認できる範囲の高度400フィート(約122m)以下となっている。

また、飛行できる時間帯は日の出30分前から日の入り30分後に限定され、夜間の飛行は認められない。さらに、飛行に直接関係のない人の上を飛ぶことや、1人の操縦者が複数機を同時操縦することも禁じている。

米アマゾン・ドットコムは、いち早くドローンを使った商品配送システムのプロジェクト「Prime Air」を立ち上げ、実験を繰り返しているが、こうした規制がある限り、同社のドローン計画は実現しない。

(参考・関連記事)「アマゾン、米国でドローン配送の実験開始か」

米メディア(Unmanned Aerial Online)によると、そもそも商用ドローンの飛行は禁止されている。そうした中、FAAは企業や団体に対し、それぞれ個別に審査を行い、問題がないと判断すれば制限を免除している。

規制緩和を示唆

ただ、今回FAAはリポートの中で、予測値に幅があることの説明として、規制に関するいくつもの前提条件を考慮したと述べ、次のような表現で規制の一部が緩和あるいは撤廃される可能性があることを示唆している。

「予測に最小値と最大値があるのは、規制環境の変化の進み具合という前提条件がいくつもあるためだ。規制環境が変化すれば、商用目的のドローン利用は、より広範かつ日常的なものになる」

なお、米国の市場調査会社ガートナーは、先ごろ公表したリポートで「民間用ドローンは個人の趣味用や産業用のいずれにおいても国や自治体の規制という障壁があり、これが市場成長を阻害する要因にもなっている」と指摘。一方で同社は「これまでのところドローン人気は衰えることを知らず、今後世界のドローン市場は急成長する」とも報告した。

ガートナーによると、昨年における民間用ドローンの世界出荷数は約215万機だった。これが今年は前年比39.0%増の約300万機になると同社は予測している。

(参考・関連記事)「急伸するドローン市場、今年の出荷台数300万台に」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49522



急伸するドローン市場、今年の出荷台数300万台に
ただし、配送用ドローンは3年後も1%未満との予測
2017.2.14(火) 小久保 重信

英イングランド西部ウィルトシャー州ランズベリーの公園で、一人称視点(FPV)ドローンを操縦するドローンレースの世界チャンピオン、ルーク・バニスターさん(2016年12月22日撮影)。(c)AFP/Ben STANSALL〔AFPBB News〕
米国の市場調査会社、ガートナーがこのほど公表したドローン(小型無人飛行機)の市場に関するリポートによると、昨年(2016年)1年間における民間用ドローンの世界出荷台数は約215万台で、前年に比べ60.3%増加した。これが今年は同39.0%増の約300万台になるという。

市場規模、2020年に100億ドル突破へ

また昨年における民間用ドローンの売上金額は約45億ドル(約5113億円)だった。これが今年は34.3%増の約60億5000万ドル(約6874億円)となり、2020年には、そのほぼ2倍の112億ドル(1兆2725億円)に達すると同社は見ている。

ガートナーによると、民間用ドローンは個人の趣味用や産業用のいずれにおいても国や自治体の規制という障壁があり、これが市場成長を阻害する要因にもなっている。しかし、これまでのところドローン人気は衰えることを知らず、今後世界のドローン市場は急成長すると同社は予測している。

個人用はスマホの撮影ツールとして人気

ただ、その状況は個人用と産業用でそれぞれ異なるようだ。

例えば個人用は、スマートフォンに手頃な価格で追加できる、写真・動画撮影ツール、あるいは自撮りツールといった用途として、今後も引き続き人気が高まると同社は見ている。

これらのドローンは一般的に、飛行距離や飛行時間が短く(5キロメートル、1時間以内)、高度も500メートルまでと制限されている。また機体の重さは2キログラムまでと軽く、価格は5000ドル(約57万円)未満のものが一般的という。

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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49178

 

 

Business | 2017年 03月 24日 16:49 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース

ギリシャ、改革巡りEUに援護要請 60周年宣言支持と駆け引き

[アテネ 24日 ロイター] - ギリシャのチプラス首相はローマで開かれる欧州連合(EU)首脳会議を前に、EUの基礎となるローマ条約の調印60周年で採択する「ローマ宣言」を支持すると述べる一方、労働市場改革を求める国際通貨基金(IMF)に対抗するためEUの援護が必要との考えを示した。

チプラス首相はEUのトゥスク大統領と欧州委員会のユンケル委員長に宛てた書簡で、ローマ宣言を支持する意向だとした上で、「とはいえ、これらの功績をたたえるには、それがギリシャにも適用されることを公式に明確にする必要がある」と指摘。

ギリシャ支援を巡って、国際債権団は新たな融資の見返りにさらなる改革を求めているが、ギリシャは今週、労働者の権利保護を求めてローマ宣言への支持を留保する構えを見せた。

チプラス氏は書簡で「ギリシャの権利を共に保護し、欧州の社会モデルに戻れるよう支持を求める」と訴えた。

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http://jp.reuters.com/article/eurozone-greece-bailout-pm-idJPKBN16V0RN

 


本物のリーダーは「反論する義務」を心得ている
ウィリアム・テイラー:『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。
2017年3月24日
間違っていると思う意見には、「反論する義務」がある――。これはマッキンゼー・アンド・カンパニーで受け継がれる価値観だ。リーダーには、異議を呈する気概、そして異論を受け入れる謙虚さの両方が求められる。


 人や組織を導く最善の方法は何か。最も有効な競争方法は何か。こうしたことを考える人にとって、昨今は頭が混乱してめまいが起こりそうな時代である。

 公職者として許される(または模倣に値する)振る舞いとは、何によって決まるのだろうか。フォルクスワーゲンやウェルズファーゴ、FIFAなど、なぜこれほど多くの有力組織で、首脳陣は自分たちの未来を脅かす悪しき行為を許してしまうのか。大きな野心を抱くイノベーターは、行く手に避けられない批判や反対にどう対処し、自信がただの大言壮語に成り下がるのをどう防げばよいのだろうか。

 偉大なリーダーシップが求められているこの世界で、上記は多くのリーダーが答えられないであろう疑問の、ごく数例にすぎない。私自身も容易に答えられるとは思っていない。しかし、私が研究してきた最高のリーダーたち――たしかな人的価値に基づく持続的な経済的価値を生み出してきた、経営者や起業家――について、わかっていることがある。彼らは「反論する義務(obligation to dissent)」を理解し、尊重しているのだ。

 端的に言えば、ビジネスや政治や社会で優れたリーダーになるためには、周囲の人々に次のことを促さなくてはならない。本音を語ってもらうこと。偽善や不正行為に注意を向けてもらうこと。そして、リーダーが周囲に対して強い意志と率直さを示すのと同じように、彼らにも強い意志をもって率直にリーダー自身を評価してもらうことである。

 私が初めてこの言葉に出会ったのは、2016年、ビクター・ホーというCEOへの興味深いインタビュー記事だった。ホーは顧客ロイヤルティの強化を支援するファイブスターズの共同創業者で、1億ドル以上のベンチャー資金を調達していた。記事では、自分の幼少期や大学時代のこと、そして起業家としての才覚が磨かれた経験について語っている。そして、一流コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーでの勤務経験についても触れ、不穏に響く1つの教訓について、『ニューヨーク・タイムズ』紙にこう述べている。

「マッキンゼーで学んだ最も強烈な教訓があります。いまでは私も新入社員全員に伝えていますが、“反論する義務”と呼ばれるものです。どんな会議においても、その場で最も経験の浅い者が、最古参のベテランに異議を唱える最大の権限を持つ、ということです」

 なんと強烈な概念だろう。政界の中枢部で日常的に起こっていることと、まったく対照的だ。実際、反論する義務はマッキンゼーの文化の象徴となっている。これを数十年前に打ち立てて大事にしてきた人物は、同社を世界で最も著名なコンサルティング企業にした伝説的リーダー、マービン・バウワーだ。

 バウワーの伝記には、マッキンゼーの元マネージングディレクターであるフレッド・グラックが、この偉大なリーダーと最初に出会ったときのことが書かれている。両者がばったり出くわしたとき、バウワーはグラックに、入社後初めて手がけている仕事は順調かと尋ねた。グラックは正直に答え、パートナーたちのやり方は完全に間違っている、という自分の考えを述べた。

 翌朝グラックは、バウワーの部屋に来るようにとのメモを目にする。自分はクビになるんだな、と彼は思った。しかし部屋に着くと、バウワーはプロジェクトリーダーと電話でグラックの異議について話し合っており、新人のほうが正しいということで合意した。パートナーらはそれまでのやり方を見直し、クライアントには現時点までの費用を請求せず、最初から出直すことになったのである。

 あるシニアコンサルタントは、伝記著者にこう語っている。「間違っていると思う意見には反論する義務がある。これがマービンの方針だった。マービン自身、そうしている。……そして、反論する気概がある人は滅多にいない」

 マッキンゼーのOBでキャリアアーク・グループ会長兼CEOのロビン・リチャーズは、社員に期待する振る舞いを次のように明言している。「上司の言うことすべてに同意するような会議は、やるべきではありません。反論する義務があってこそ、最高の知恵と成果を得られるのです。人はそういう環境を好みます。自分に価値があると感じられ、大胆になります」

 現実はどうだろうか。反論する気概がある人も、大胆になれる人も非常に少ない。なぜなら、反論する義務を強調し、奨励するリーダーは滅多にいないからである。

 マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントの名誉教授であるエドガー・シャインは、リーダーシップと組織文化の専門家であり、偉大な経営者の特徴について何十年も研究を重ねてきた。彼が繰り返し強調している特徴の1つは、謙虚さである。すなわち、異論を受け入れる資質だ。悲しいことに、そうした謙虚さはごく稀にしか見られない。

 シャインは著書『問いかける技術』でこう述べている。あるとき、彼は学生たちに、マネジャーへの昇格は自分にとって何を意味するか、と尋ねてみた。「学生たちはためらうことなく、こう答えた。『人にやるべきことを指示できるようになる、ということです』」。これはまさに、数多くの危機と失望を招いてきた「自分はすべてを知っている」型のリーダーシップである。

 シャインはこう警告する。「私たちの多くは心の底で、勝たないことは負けを意味すると思っている」。経営者らの「暗黙の前提」は、「人生は根本的に、そしていつ何どきでも、競争である」ということだ。しかし、謙虚さと野心は必ずしも矛盾するものではない、とシャインは主張する。不確実性にあふれる世界で大事を成し遂げようとするリーダーにとって、「野心を実現するための謙虚さ」こそ、最も効果的かつ持続可能な考え方なのだ。

 謙虚さを歓迎しよう。異論を歓迎しよう。そして、最近私たちが目にしているリーダーとは違う、もっと有益なリーダーシップを歓迎しよう。


HBR.ORG原文:True Leaders Believe Dissent Is an Obligation January 12, 2017

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊はSimply Brilliant: How Great Organizations Do Ordinary Things in Extraordinary Ways(Portfolio)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー?常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。
http://www.dhbr.net/articles/-/4748


http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/718.html

[経世済民120] 株主の優先順位は4番目 インフレが日銀を追詰る 干上がる国債 FRB、市場対話のイノベ AI時代、労働の無い社会が成立か

【第7回】 2017年3月24日 新 将命
株主の優先順位は4番目

ステークホルダーには優先劣後の順位がある
王道経営においては、株主よりも社員の幸福や顧客満足のほうが優先される。社員満足、顧客満足というプロセスの結果が、株主満足だからだ。株主満足を実現することができれば、満足した株主が現経営者に引き続き経営を委ね、結果として正の循環が生じる。こうして「黄金のループ」は完結する。


よい卵が欲しければ、ニワトリを大事にせよ

 王道経営は、ステークホルダー主義であるといっても、ステークホルダーは全員が横一線で同列かというとそうではない。そこには、わずかながら優先劣後の順位がある。

 王道経営におけるステークホルダーの優先順位は、ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレード「我が信条」が見事に示している。すなわち、1番目は顧客や取引先、2番目は社員、3番目は社会、そして最後の4番目が株主である。

 社員の幸福や顧客満足のほうが、株主よりも先行するのである。

 なぜならば、「黄金のループ」で説明したとおり、株主満足は、社員満足、顧客満足というプロセスの結果であるからだ。よい果実を手に入れるためには、実をつける木が健康であり健全でなければならない。健康で健全な木が育つには、土壌が滋味豊かでなくてはならない。虫に食われないための手当も必要だ。

 株主よりも、顧客満足が優先されるのは仕方ないとしても、社員が株主より優先されるという議論には、違和感を覚える人がいるかもしれない。しかし、黄金のループをしっかりと理解すれば、社員満足が株主満足よりも優先されるというのは道理であり、当然のことだとわかるだろう。

 よい卵がたくさん欲しいのであれば、ニワトリを大事にするしかないのである。

 近年、AI(Artificial Intelligence=人工知能)の進歩が著しい。チェスや将棋、囲碁の名人たちが人工知能を備えたコンピュータと対戦し、コンピュータが勝利するということも珍しくなくなった。最近では、いずれ人の仕事のほとんどは、AIやロボットに取って代わられるという主張も聞く。AIがこのまま進歩・発展すれば、現場の判断はAIが行うので、現場の社員の熟練や創意工夫の重要度はどんどん小さくなるというのである。人の判断業務はなくなり、一部接客など身体を動かすだけの仕事になるという。

 AIやロボットの技術が進歩すれば、現場の人間の仕事が、機械に取って代わられるということは、可能性としてはある。では、AIの技術が進歩した場合でも、株主よりも社員優先という黄金のループは変わらないだろうか。

人を感動させることができる社員の重要性は不変

 チェスや将棋、囲碁の名人とコンピュータの対戦を見ていると、機械は、その場そのときで最善の選択をすることに長けているようだ。したがって、ロボットでも、そのときどきでスタンダードなサービスはできるだろう。つまり、ぎりぎり及第点の顧客満足(事前期待=事後評価)を果たすことは、AIやロボットでも可能かもしれない。

 しかし、たとえば一泊5万円の高級旅館をお客さまが選ぶのは、満足を超えた感動に対して一泊5万円にバリュー・フォー・マネー(支払った金額に対し、手に入れることのできる価値)を認めるからである。お客さまは、旅館の設備に感心することはあっても感動することはあまりない。

 旅館の細やかな心配り、サービスに対して感動を覚え、そこにバリュー・フォー・マネーを感じるから、お客さまは高額の料金を支払うのである。人の心を動かせるのは、同じ心を持つ人だけだ。機械に感動は起こせない。文字通り機械的サービスに終わってしまう。

 また、商品・サービスをコモディティー化させず、高付加価値を維持するためには、お客さまの期待に応え続けることが必須である。

 期待というものは、満足すればするほど膨らんでいく。事前期待が大きくなれば、事後評価のレベルも高めなければならない。

 ダントツのリピート率を誇る東京ディズニーリゾートが、常に新しいアトラクションの導入にチャレンジするのは、来場するたびに膨らみ続けるお客さまの期待に応えるためである。だからこそリピーターが生まれる。これが機械にできるだろうか。

 AIは“Assisting Intelligence(人の智慧を補助する)”技術として活用してこそ、社会に役立てることができる。将来、AI技術が進歩しても、社員品質が企業の格差を決定づける主たる要因であることには何ら変わりはない。
http://diamond.jp/articles/-/121702


 

インフレに向かう世界で追い詰められる日銀
「異次元の財政政策」で出口は見えるか

2017.3.24(金) 池田 信夫

世界的にインフレの見通しが強まってきた中、日銀は「出口」を見つけられるのか?
FRB(米連邦準備制度理事会)は3月15日、政策金利を0.25%ポイント引き上げて0.75〜1%とした。利上げの最大の原因は最近の物価統計がFRBの目標とする年率2%前後になったことで、世界的にインフレの見通しが強まってきた。

そんな中で、日銀は「出口」が見つからない。400兆円以上に積み上がった国債は、インフレで金利が上昇すると大きな評価損が出るので、へたに動けない。しかし黒田総裁が危機を脱する方法がある。それは日銀が「財政政策」でインフレを起こすことだ。

財政ファイナンスが「デフレ予想」を生み出した

黒田総裁が2013年4月に就任して4年たつが、日本はインフレに向かう兆しがない。その最大の原因は皮肉なことに、日銀のやっている財政ファイナンスにある。国債市場のうち、日銀の保有するシェアは4割を超える。日銀が国債を買い支えて「イールドカーブ・コントロール」で長期金利の上昇を防いでいるため、国債は「ゼロリスク」の資産になっているのだ。

最近の10年物国債の金利は平均0.08%。小さいようにみえるが、1000億円買うと8000万円もうかる。地方ではこんなに楽にもうかる融資は少ないので、地方銀行や信用金庫は長期国債を買う。こういう現象をクラウディングアウト(押しのけ)と呼ぶ。

日本国債はあまりにも魅力的なので、リスクの高い民間融資を押しのけている、というのが最近話題になったクリストファー・シムズ(プリンストン大学教授)の指摘である。

国債に押しのけられて投資が減り、企業貯蓄(いわゆる内部留保)が増えて長期金利が低下した。黒田総裁の「異次元緩和」が国債のリスクを減らして民間投資を減退させ、デフレを促進したのだ。

日銀のやっている457兆円の「財政政策」

あまり知られていないが、日銀は財政政策を行っている。日銀法43条は「この法律の規定により日本銀行の業務とされた業務以外の業務を行ってはならない」とその役割を金融に限定しているが、「ただし、この法律に規定する日本銀行の目的達成上必要がある場合において、財務大臣及び内閣総理大臣の認可を受けたときは、この限りでない」と例外を設けている。

この但し書きにもとづいて日銀は、国債だけでなく、ETF(上場投資信託)が9.7兆円、株式が1.2兆円など、合計456.8兆円の資産を保有している(2016年9月現在)。これは日銀が総需要を増やす財政政策である。

資産の規模があまりにも大きいので実感がつかめないと思うが、その評価額が2%変動しただけで約9兆円の評価損が出る。これは日銀の自己資本(約6兆円)を上回るので、債務超過になる。これは一般会計で埋めるしかないので、政府と日銀の統合バランスシートでみると、日銀は(国会の承認なしに)巨額の公共投資をしているのだ。

今まではデフレで評価益が出たのでリスクが見えなかったが、これからインフレになると逆転する。世界的に金利が上がると、日銀は評価損をこうむるので、バランスシートを縮小しなければならない。これが出口政策である。

アメリカは出口政策の第1段階であるテーパリング(量的金融緩和の縮小)から、金利を引き上げる第2段階に入っているが、日本は第1段階にも入れない。それは日銀が財政ファイナンスで国債を買い支え、民間投資をクラウディングアウトしたからだ。

黒田総裁の任期はあと1年。それまでに出口への道筋をつけないと、いずれ国債が枯渇して、財政ファイナンスは絶対的な限界に逢着する。しかし日銀が国債を減額してバランスシートを縮小すると、投資家が国債を売って金利が上がり、大きな評価損をこうむる――というジレンマに日銀は陥っている。

「インフレ税」で所得分配は公平になる

このジレンマを脱却する方法はあるだろうか。1つは政府が財政赤字を減らして国債の発行を減らすことだが、これは逆効果になるかもしれない。政府が財政赤字を縮小すると投資家が予想すると、彼らは安全な国債を買うので物価が下がり、実質債務(借金÷物価)は増えるおそれがある。

もう1つは、インフレ税をかける(政府がインフレにして借金を踏み倒す)ことだ。日銀が保有している国債を売れば、長期金利は上がり、国債が投げ売りになって債券市場が崩壊する・・・というのがよくある話だが、今まで日本国債ではそういう大パニックは起こったことがない。2003年の「VaR(バリュー・アット・リスク)ショック」(国債価格の歴史的な暴落)では長期金利が0.43%から2%近くまで急上昇したが、その後は落ち着いた。

今度もその程度でおさまると想定すると、日銀が400兆円の国債を売れば、インフレを起こすことができる。このとき日銀=政府は、シムズの表現でいうと、政府債務をインフレで返済すると約束することが大事だ。

物価が2%上がると実質政府債務は20兆円ぐらい減るので、消費税8%分ぐらいだ。税法上は日銀が「課税」を行うことは許されないので、日銀法43条のオペレーションとしてやればよい。ただ政府の同意は必要で、日銀に説明責任はある。

これはケインズの赤字財政とは違う異次元の財政政策である。日本経済新聞はそれを「無責任」だと批判しているが、財政の責任とは何だろうか。歳出が税収の2倍にのぼる国で、増税と歳出削減だけで1100兆円もの政府債務をなくすという不可能な約束をすることが責任ある態度だろうか。

シムズの理論は奇想天外にみえるが、1930年代にもケインズ理論は奇想天外だった。インフレ税が消費税や所得税より有害かどうかは自明ではない。少なくとも理論的には、インフレで預金が目減りするので、それは金融資産への一律課税となり、最も損するのは富裕層だから所得分配は公平化する。徴税コストはゼロで、捕捉率の違いもない。

さらに年金などの社会保障債務も減額できるので、世代間の所得分配も公平になる。インフレ予想が定着して金融資産が減価すると、人々は金利などの「不労所得」に頼らないで、生産的な労働をするようになるだろう。これはケインズの推奨した「スタンプ付き貨幣」と同じである。

もちろんこれは危険なギャンブルである。国債の暴落が暴落を呼び、リーマンショックのような大パニックとハイパーインフレが起こる可能性もある。通貨価値を毀損すると、日常的な取引のコストも大きくなる。わざわざ日銀が危ない橋を渡る必要はない、という反対論が多いだろう。

しかしシムズも指摘するように、このまま問題を先送りしていると「急激な変化」が起こるリスクが大きい。それを100年後まで先送りできると考えるのは楽観的だが、20年後ならいいだろうか。そのころは高齢化で、ショックに耐えられないかも知れない。インフレ税は壮大な社会実験だが、少なくとも検討する価値はある。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49523


 

 

干上がる国債市場に異例の一手 日銀、8年ぶり供給
2017/3/24 14:39
 日銀が市場に流れるお金の量を調節するオペレーション(公開市場操作)で「異例の一手」を繰り出した。約8年ぶりに「国債売り現先オペ」という手法を使い24日、約1兆円もの国債を市場に供給したのだ。金融緩和を続けているはずの日銀が国債の売却により市場から資金を吸い上げたとの誤解を生みかねない異例の対応は、国債不足が「飢餓状態」にまで達していることを如実に映し出している。

■国債1兆円分、市場に供給

 国債売り現先オペとは、一定期間後に再び買い戻す条件付きで日銀が保有する国債を金融機関に売却するオペの手段の1つだ。このオペを実施したのは2008年11月28日以来。金融機関からは2兆601億円の応札があり1兆2億円を落札した。今回のオペの対象期間は年度末をまたぐ3月27日から4月3日までの1週間だ。

 このオペが長らく実施されていなかったのは、大規模緩和のもとで日銀が市場との間で手がけてきたオペと真逆の方向感を持つ手法だからだ。これまで日銀が頻繁に実施してきたのは金融機関から国債を買い入れる代わりに資金を供給する「国債買い入れオペ」。今回のオペは国債を供給することで見かけ上、市場から資金を吸い上げる形になってしまう。

■「国債がどこにもない」

 日銀がこのオペの実施に踏み切ったのは資金の吸収が狙いではなく、3月の決算期末を控えて金融市場で国債不足が極端に強まっていたことが背景にある。

 「国債がどこにもない」――。年度末に向け、市場では国債の奪い合いとも言うべき状況が起こっていた。最も顕著に表れていたのは、銀行などが国債と現金を一定期間交換する債券貸借取引。日本証券業協会が23日公表した指標金利(東京レポ・レート)は1週間物(期日は3月27日〜4月3日)の取引が前日比0.686%低いマイナス0.788%と、過去最大のマイナス金利に沈んだ。「わずか1日でこれほど金利が低下したのは初めて」(野村証券の中島武信氏)という。

 金融機関の間では決算期末の貸借対照表上に余分な現金を置いておくより国債で運用しているほうが決算上、「見栄え」が良くなることなどから国債の需要は期末に高まりやすいとされる。さらに国債は様々な金融取引の担保としても使われている。「期末越え」を控えて金利を払ってでも国債を一定期間確保したいというニーズが膨らんだことがマイナス幅の拡大につながった。

 日銀の対応は早かった。同市場で23日に取引金利が急低下したのを受け、長らく実施していなかった国債売り現先オペの実施を含む対策を同日夕刻に発表した。日銀の異例の対応を受け、市場は急速に落ち着きを取り戻しつつある。24日の同市場では1週間物の金利がマイナス0.145%と大きく戻した。

■金融緩和の副作用強まる

 ただ、市場の国債不足は日銀自身が金融緩和のため「国債を買いすぎた」ことに根本的な原因がある。日銀は長期国債の新規発行額のほとんどを買い入れているうえ、短期国債も毎月、数兆円単位で市場から買い続けている。

 東短リサーチの寺田敏明氏は「緩和が長く続いていることで、流通市場の国債不足は累積的に深刻化している。年度末のような一時的な需要が加わっただけでも、大きな変動が起きやすくなっている」と指摘する。

 日本では物価上昇が見通せないなか、金融緩和の状態は当面続く見通しだ。3月末を越えれば市場の動きはいったんは収まるとみられるものの、構図は変わらないだけに期末ごとに市場では国債の「飢餓状態」という副作用が繰り返される懸念がある。

(浜美佐)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ24HAS_U7A320C1000000/



日銀総裁「金融緩和緩める理由ない」 都内で講演
2017/3/24 13:56
 日銀の黒田東彦総裁は24日に都内で講演し、現在の経済や物価の情勢を踏まえれば「金融緩和度合いを緩める理由はない」と語った。ゼロ%程度に誘導している長期金利の目標について、早期の引き上げを否定。2%の物価安定目標に向けた勢いは「なお力強さに欠ける」とした。景気の下振れリスクもあるため、粘り強く緩和を続ける姿勢を強調した。

 景気や物価の現状について「ひと頃に比べて好転している」と評価したうえで、2%目標には「なお距離がある」「特に中長期的な予想物価上昇率の動向には注意が必要」などと先行きに慎重な見方を示し、緩和を継続する根拠とした。

 金融政策の判断にあたっては、景気と物価の見通しに加え「金利環境が金融仲介機能に与える影響についても考慮する」と発言。「保険や年金などの運用環境は幾分改善した。銀行は積極的な貸し出し態度を維持している。これまでのところ金融仲介機能が低下していることはない」と語った。

 市場の一部では、海外の長期金利の上昇圧力が国内に波及するのに対応し、日銀も金利誘導目標をいずれ引き上げるのではとの見方が出ていたが、講演ではこうした見方を改めて一蹴した。

 また市場で国債が品薄になることで購入が難しくなり、金利操作ができなくなるのではとの見方についても「需給が逼迫する状況では、より少ない金額の買い入れで金利低下の効果を実現できる」とし、政策の持続性は高いと述べた。金利操作のために実施している国債買い入れに関しては「毎回の金額などは市場状況に応じ変化するが先行きの政策スタンスを示すことはない」と語った。

 講演後の質疑で、円安が日銀にとって望ましいかとの問いに対しては「安定的に注視することが重要。具体的に予想しないことにしている」とかわした。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC24H0X_U7A320C1000000/


日銀総裁「長短金利の操作目標上げる理由ない」 都内の講演で 
2017/3/24 13:43

 日銀の黒田東彦総裁は24日、今後の金融政策運営のスタンスについて都内で講演し、「長短金利の操作目標を引き上げる理由はない」と述べた。2016年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」については「円滑に機能している」との見方を示した。

 国内の物価情勢について、2%の安定目標には「なお距離がある」と指摘した。経済・物価の両方については上振れするよりも下振れするリスクの方が大きいとの認識を示し、「任期中に(目標に)達するかどうかはわからない」と述べた。黒田総裁は18年4月に任期を迎える。

 経済・物価情勢という観点からは、現時点で「金融緩和度合いを緩める理由はない」として、物価安定目標の早期達成に向けて大規模な金融緩和を進める考えを改めて示した。海外の長期金利の上昇に応じて、長期金利の操作目標を引き上げることはないとの考えを強調した。

 金融仲介機能に対する影響という観点からも、昨秋以降の金利上昇で「保険や年金の運用環境は幾分改善している」ことなどを指摘し、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度する現状の操作目標を維持する考えを示した。

 世界経済については、「2016年前半がボトム」で、成長のモメンタムは着実に高まっているとの見方を示した。日銀は現状の金融政策を維持し、「世界的な経済情勢の好転を生かしていくべき局面にある」と述べた。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL24HZB_U7A320C1000000/

1月の景気一致指数改定値、0.4ポイント低下
2017/3/24 14:01

 内閣府が24日発表した1月の景気動向指数(CI、2010年=100)改定値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.4ポイント低下し、115.1となった。8日発表の速報値は114.9(前の月比0.7ポイント低下)だった。数カ月先の景気を示す先行指数は0.1ポイント上昇の104.9。

 内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。

 CIは、指数を構成する経済指標の動きを統合して算出。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL22HP9_S7A320C1000000/

 


 

FX Forum | 2017年 03月 24日 17:22 JST
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コラム:FRBが挑む市場対話のイノベーション=井上哲也氏


井上哲也野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
[東京 24日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、14―15日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で予想通り利上げを決めたが、その2週間前の2月末時点でも、市場で利上げを見込む向きはむしろ少数だった。
その後、小売売上げなど冴えない経済指標が散見された中でも、FOMCメンバー17人のうち11人が講演などの発信を行い、かつそのほとんどが利上げ容認を示唆した結果、市場がごく短期間で利上げを織り込んだわけである。しかも、こうした強引な誘導を招く要因は今後も強まる可能性が高い。
FOMCが今回示した予想によれば、2017年末時点の政策金利は1.4%に達するが、これはFOMCが長期的目途と考える金利(中立金利)である3%と、ゼロ金利の概ね中間に当たる。つまり、FOMCによる利上げも「アクセルの踏み方を弱める」ものから、「ブレーキをかける」ものへと意味合いを変えていくことになる。
約10年ぶりの本格的利上げであることも考えれば、家計や企業の借り入れやそれによる消費や住宅投資、設備投資に生ずる反応のパターンや大きさ、あるいは内外金融市場のリスクテークやその結果としての資本フローへの影響にはなお不透明性も残る。
しかも、本来であれば景気循環の点で緩やかな減速が見込まれていた米国経済には、足元の「オバマケア」の見直しを巡る政治的混乱に象徴されるように、経済政策の規模やその発動のタイミングに無視し得ない不確実性が残る。つまり、今後の経済指標にはこれらの要素を反映して上下双方の力が同時に働くとみられる。
加えて、FRBによる経済・物価見通し(SEP)のパフォーマンスは、少なくとも金融危機後は必ずしも良好ではない(下図参照)。見通しが上下いずれの方向に外れた場合にも、FRBは「ブレーキのかけ方」を慎重に調節する必要がある。

http://static.reuters.com/resources/media/editorial/20170324/fxforum.gif

これらを踏まえれば、FRBが多様な指標を含む金融経済の状況を毎回のFOMCで丁寧に点検し、虚心坦懐に利上げを決めるという、いわゆる「データ依存」の金融政策には合理性がある。
<日銀金融政策の正常化にも貴重な先例に>
「データ依存」の政策運営を行いつつ、次の利上げ時点で市場に「予想通り」と思わせる状況を作り出そうとすれば、FRBは今回のように「強引な織り込ませ」を繰り返さざるを得ない。
確かに今回は、内外金融市場もさほど動揺しなかったが、その理由の一端には今回(3月)の利上げを次回(6月)からの繰り上げと考えるハト派的理解があったと思われる。しかし、上に見た金融経済の不確実性を踏まえれば、今後は、FRBによる市場の誘導と政策決定の方向が事後的に齟齬(そご)をきたすリスクは否定できず、結果として市場のボラティリティを高めることもあり得る。
だとすればFRBには、利上げに関する市場の強力な誘導を徐々に後退させ、市場自身の柔軟な予想形成を促す選択肢が浮上してくる。一見、市場の見方が一様でないとボラティリティが高まるように思えるかもしれないが、実際の利上げ後には市場の見方の修正が打ち消しあう面もあり、必ずしも市場の不安定化を招くとは言えない。
市場に円滑に予想を形成してもらう上では、FRBの経済・物価見通しがどの程度外れる可能性があるかを事前に示すことが重要だ。実際、FRBが今回(3月)のFOMC議事要旨(4月7日に公表)から添付を開始する「ファン(扇型)チャート」は、過去20年間の官民双方による経済・物価見通しの予測誤差をもとに、将来の経済成長率やインフレ率がFOMCメンバーによる予想を中心に一定の確率(90%)でたどる経路の上限と下限を示すものである。
FRBは、政策金利の予想経路についても上記と同様な考え方に基づく「ファンチャート」を添付するようだ。しかし、こちらには検討の余地もある。例えば、政策金利はFOMC自身が直接に決定し得る変数であるだけに、「ファンチャート」によって示す経路の上限と下限もFOMC自身の確率分布を活用することが考えられる。そうすれば、FOMCとしての政策金利の予想経路に上下どちらの方向のリスクが大きいか推測しやすくなる。
また、個々のFOMCメンバーによる政策金利の予想経路を示す「ドットチャート」も、日銀の「経済・物価の展望」のように、個々のメンバーが上下どちらのリスクを意識しているか分かるよう工夫する余地もある。
このように、FRBが今後に利上げを進めていく際には、市場との対話についてのイノベーションとその効果にも着目することが重要である。なぜなら、それらは内外金利や為替相場といった市場の重要変数に大きな影響を持ち得るだけでなく、将来のいずれかの時点で日銀による金融政策の「正常化」にも貴重な先例を提供するからである。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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http://jp.reuters.com/article/column-tetsuya-inoue-idJPKBN16V0BT

 


 


AI時代の大問題、労働のない社会は成立するのか?
カギは「分配」のデザイン
2017.3.24(金) 篠原 信
この先、どのような社会が待ち受けているのだろうか。
JBpressの記事「人工知能に奪われない最後の2つの仕事とは」にショックを受けた人は多いのではないか。なにせ「人間に残される仕事はイノベーションとコミュニケーションの2つしかない」というのだから。もしその仕事に就けなかったとしたら、失業者になってしまうということになる。

今の漫才師を見ても、売れるのは一握り。売れ続けるのは奇跡。コミュニケーションで食べていこうとしても、漫才師と同様、食べていくのは相当に難しいだろう。イノベーションにしたって、現時点でも成功者は一握り。つまり、「ほとんどの人が失業する」というご託宣を受けた印象だ。

失業者だらけの社会は成り立つか

そこでふと、不思議に思う。ほとんどの人が失業した社会って、本当に成立するのだろうか?

ドローンが運送業をするようになり、自動運転でタクシーの運転手も要らなくなり、多くの企業で人工知能やロボットが働いて人がいなくなり、失業者だらけの社会。

失業者にはお金がない。お金がないから買えない。せっかく自動化して商品をこれまでになく安く提供できるようになっても、その安い商品さえ購入できない人ばかり。すると、その自動化システムを維持するだけの売り上げも確保できないのではないか。

コストカットしようとして雇用を減らしたら、商品を買ってくれるはずのお客さんもいなくなるという皮肉。自動化社会は、もしかしたら自滅システムなのかもしれない。

お金持ちは買い物を続けられるかもしれない。だが、お金持ちは数が少ない。巨大化したネットショップを維持できるほどの売り上げが可能だろうか? お金持ちはお金をあまり使わないからお金持ちなのだ。ということは、結局、自動化社会は崩壊してしまいかねない。

巨大化した自動化社会を維持するには、大量の消費者が必要だ。しかし、消費者にお金を分配する根拠の「労働」は、自動化社会では失われてしまう。つまり、自動化すると労働者がいらなくなり、ひいては消費者が消えてしまう。自動化社会は、儲けを増やそうとしたらお客さんをなくすという妙な矛盾を抱えたシステムだと言える。

ならば、「労働」していなくてもお金を配る仕組みを作らざるを得なくなるだろう。働いているかどうかを問わず、一定のお金を配り、みなさんに消費を続けてもらう。ベーシックインカムというやつだ。お金を渡す条件が「労働する義務」から「消費する義務」に変わるという、現在の私たちにはちょっと想像のつかない大転換となる。

だが、これには投資家が大反発するだろう。「なんで働きもしない人間に金を渡すんだ! その原資は、俺たちの税金だろう? 怠け者に渡す金なんてない!」。まあ、これまでの常識に照らせば全くその通り。働かざる者食うべからず、と言われてきたのだから。

しかし、そんな話になるほど自動化が進むのだとしたら、農業も非常に少人数で行われる産業になるだろう。戦前は人口の半分以上が農家で、食糧生産を支えたが、今や先進国では1〜2%の農業人口で食糧を生産している。かつては農家1人が2人分の食糧を作っていたのだが、現在は100人分の食糧を作る時代なのだ。

これからはもしかしたら、1人の農業従事者が1000人分の食糧を作る時代になるかもしれない。しかし大量の食糧を作っても、それを購入できる購買力のある消費者がいなくなる時代が来たとしたら、いったい何のために食糧を作るのだろうか?

「分配」が社会を運営する基礎

食糧問題の視点から見ると、「分配」という考え方はカギになる。

江戸時代に大量の餓死者を出した大飢饉でも、実は「分配」さえ完全に機能すれば餓死者を出さずに済んだと言われている。凶作でコメが高く売れるとみた投機家が市場にコメを出そうとせず、食糧確保に失敗した藩で大量の餓死者が発生したのが実態だった。もし余裕のある藩がコメを供出していたら、餓死者は発生せずに済んだろう。

食糧危機は、食糧生産の絶対量の不足で起きるというより、分配がうまく機能しないことによって起きるのだ。

これまでの経済システムは、「労働」を分配の条件としてきた。しかし人工知能が労働を消してしまったら、分配不全による食糧危機が発生する恐れがある。

糖尿病で足を切断せざるを得なくなる場合と似ている。十分な栄養を口から採っても、病気で足の先に血がめぐらないと切断せざるを得なくなることがある。逆に血流がよいのなら、食事の量が少々不足気味でも長期間健康を保つことはできる。しかし血流が悪くなれば手足が壊死し、内臓が機能不全になり、ついには命を落としかねない。社会も分配が滞ると、社会の一部が崩落するだけでなく、社会全体が機能不全に陥りかねない。

分配をいかにスムーズに進めるかということが、社会を健全に運営する基礎となるのだろう。

むろん、共産主義の失敗を忘れてはならない。ソ連などの共産国家は公平な分配だけを心掛けるあまり、頑張って働こうというインセンティブが失われ、列車の中でイモが腐り、都会では配給が来ずに飢える、ということが起きた。「公平に分配しよう」とするだけでは分配不全が起きる、という皮肉な教訓を忘れてはいけない。

資本主義社会は「労働」を分配の対価として位置づけることで成功してきた。だが、近年は一部の投資家や起業家にだけお金が集中し、分配不全が起き始めている。このままでは、治療を施さない重い糖尿病患者と同じになってしまうだろう。

新しい「分配」のデザイン

新しい時代の「分配」は、「労働」以外のどんな根拠で行えば、機能不全に陥らずに済むのだろう? ここからは「ソーシャルデザイン」の仕事になる。そしておそらく、ソーシャルデザインには「生きがい」という視点が重要になるだろう。

自動化社会では労働が大幅になくなってしまうから、誰かの役に立つという「貢献感」を得にくい。誰かの役に立っている、だから私は生きていて構わないんだ、私の居場所はここなんだ、という「居場所感」も持ちにくい。それらがないと、たとえベーシックインカムで生きていくことができるとしても、なんだか生きる甲斐がない。人間というのは「パンのみに生くるにあらず」という、実に面倒くさい生き物なのだ。

貢献感、居場所感を確保しつつ、生きるのに十分な食料を分配し、行き渡らせる。これらの課題にどう辻褄を合わせて社会を設計するのか。人間心理を知悉した、ソーシャルデザインを本気で考えなければならない時代に来ているのかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49458
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/449.html

[経世済民120] 日米金利差拡大で円安再始動は本当か 長期金利目標引き上げる理由ない=黒田 ECB緩和堅持 最近の「長期停滞」論「履歴効果
FX Forum | 2017年 03月 24日 19:13 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
日米金利差拡大で円安再始動は本当か

亀岡裕次大和証券 チーフ為替アナリスト

[東京 24日] - 「2017年は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを進めていく中で日米金利差が拡大し、ドル円が上昇」というシナリオが、円安派の主張で目立つが、これは実現するのだろうか。ここでは、その実現性について考えてみたい。

米国の長期金利が上昇してきた主因は、インフレ期待の高まりにある。市場のインフレ期待を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は昨年11月以降に上昇が進み、今年1月には5年物BEIが2%近くまで上昇した。

トランプ大統領の当選後に米景気拡大期待が高まったこと、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産で原油価格が上昇したこと、1月にドル実効為替が反落したこと、米インフレ率が上昇したことなどが、インフレ期待を高める方向に作用した。FRBが3月に追加利上げした理由もインフレ抑制にあるとみられる。

<米インフレ期待上昇は望み薄>

ただし、BEIは2月以降、頭打ちとなっている。原油などの商品市況が反落したこと、ドル実効為替の下落が一服したことが原因とみられる。米消費者物価(CPI)の前年比が2月に2.7%まで高まる一方で、エネルギーを除くCPIの前年比は2%未満で安定しており、インフレの主因はエネルギー価格の上昇にあることがわかる。

そして、米原油生産が増え続ける中で原油在庫の増加が目立ち始めたため、需給緩和見通しから原油価格が下落し始めた。そのことにより、インフレ率がピークアウトする可能性が出てきた。

さかのぼると、WTI原油先物価格(中心限月)は昨年2月にかけて下落し、1バレル=27ドル程度で底打ちした後、6月にかけて51ドル程度まで上昇した。これに対し、今年は1―2月に50―55ドルで推移した後、足元で47ドル台まで下落している。今後しばらくは原油価格が安定的に推移した場合でも、その前年比は2月をピークに低下していくことになる(原油価格が下落すれば、なおさらだ)。

しかも、ドル実効為替も昨年2―6月に下落したので、安定的に推移した場合、その前年比は上昇しやすい。つまり、前年比でみると、原油安・ドル高の方向に振れやすいので、インフレ率は低下しやすいのだ。

また、FRBがインフレ期待の参考指標にしているとみられる米ミシガン大学の消費者期待インフレ率は低下傾向にある。3月に、向こう5年間の期待インフレ率は2.2%と1979年の統計開始以来最低となり、1年間の期待インフレ率は2.4%と昨年12月の2.2%(2010年9月以来の低さ)に次ぐ低水準となった。

近年、消費者のインフレ期待が低下しているのは、消費者の米国景気についての現況判断が改善しても先行き期待が伸び悩んでいることと関係がありそうだ。市場のインフレ期待がさらに上昇していく可能性は低いように考えられる。

<米長期金利の上昇は進みにくい>

米国の実質金利はトランプ大統領当選後の昨年11―12月は上昇したものの、その後は反落した。米経済成長への期待が頭打ちとなっていることを反映しているのではないか。

ミシガン大学の消費者信頼感指数のうち、現況指数が3月にかけて上昇する一方で、先行きの期待指数は昨年11―12月に上昇した後に反落している。今回の景気拡大が93カ月に達し、過去3回の平均である95カ月に迫るなど長期化しているせいか、好景気がさらに続くという期待は盛り上がっていないようだ。

3月は雇用統計など強い米経済指標や米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのタカ派的発言から利上げ期待が急浮上し、FOMCにかけては実質金利が上昇したものの、メンバーの利上げ予想ペースが加速していないとわかると実質金利は反落した。

米国は完全雇用に近づき、賃金上昇率が次第に高まりつつあるとはいえ、コア物価のインフレ率は落ち着いている。シカゴ連銀発表の全米経済活動指数(3カ月移動平均値)は2月に0.25まで上昇したが、経験則として持続的なインフレ率上昇が始まりやすいとされる0.7には達していない。もっと経済成長が高まらないと、コアインフレ率は上昇しにくいだろう。

2月は平年に比べ3度以上も平均気温が高く経済活動が活発化したが、3月は東海岸で大雪が降るなどの悪天候に見舞われた。しかも、株価は月初をピークに下落傾向をたどり、トランプ政策期待の後退から株安が進みつつある。米国景気の減速リスクが高まりつつあり、株安と景気減速が相互作用を及ぼし合う負の循環に入る可能性もある。成長期待(を反映する実質金利)とインフレ期待の両面から、米長期金利の上昇は進みにくいだろう。

<為替は日米金利差と逆方向に動くケースも多い>

そもそも、日米金利差が拡大するとドル円は上昇すると言えるのか。1990年代以降で日米10年国債金利差が拡大した9回の局面について振り返る。日米金利差拡大でドル円が上昇したのは、2001―02年と16年の2回だ。

16年つまり昨年はトランプ大統領当選後、大型減税などの政策期待を背景に米株価・金利とともにドル円が上昇した。一方、01―02年は日米金利差拡大だけでなく、日銀の量的緩和導入(日本のマネタリーベース増加)も円安に寄与した。

日米金利差拡大とドル円上昇の相関が低いのが、96年、05―06年、09年、13年の4回だ。96年は金利差拡大でドル円は上昇したが、金利差が縮小に転じてもドル円は上昇を続けた。95年4月の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での「為替の秩序ある反転が望ましい」との声明とドル買い協調介入を受けてドル円上昇が続いていたのであり、金利差拡大が主因ではなかった。

05年は米本国投資法による米国への資金還流でドル円が上昇、06年は反動でドル円が下落したが、金利差とドル円の相関は低かった。09年は金利差拡大を背景に短期的にドル円が上昇後、日本の貿易収支改善と米国の貿易収支悪化を背景にドル円は下落に転じた。13年は5月にかけて日銀の量的緩和を背景にドル円が急上昇し、日米金利差が拡大した年後半はドル円上昇が鈍った。

日米金利差拡大の一方でドル円が下落したのが、94年、99年、10―11年の3回だ。94年は金利差が大幅に拡大したにもかかわらず、当時のクリントン米政権からの円高圧力を背景にドル円が下落した。99年は金融危機から脱した日本経済の回復が円高に働いた(当時は景気回復・円高)。10―11年は金利差が明確に拡大したものの、東日本大震災によるリスクオフが円高に作用したことなどから、ドル円はわずかに下落した。

つまり、日米金利差が拡大してもドル円が上昇するとは限らない。為替が他の要因に左右されて日米金利差と逆方向に動くケースも多いのだ。今後は、トランプ政権の保護主義が円高・ドル安圧力となる可能性がある。米国が円安や日本の貿易黒字への懸念を示す口先介入だけでなく、日本に金融緩和縮小圧力をかけることも考えられる。

米国の長期金利が明確に上昇するような状況でないと日本の長期金利も上昇しにくく、日銀が国債買い入れを縮小しやすいはずだ。日米金利差が縮小する可能性は十分にあり、たとえ日米金利差がわずかに拡大しても米保護主義による円高・ドル安によって打ち消されやすいだろう。いずれにせよ、日米金利差拡大によるドル円上昇のシナリオは描きにくい。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)


コラム:中国軍は南シナ海で米軍を出し抜けるか 2017年 03月 06日
コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
コラム:日米経済対話で開く「円高の扉」=佐々木融氏 2017年 02月 14日
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yuji-kameoka-idJPKBN16V0V9

 


Business | 2017年 03月 24日 18:36 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース
長期金利目標引き上げる理由ない=黒田日銀総裁

[東京 24日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は24日都内で開かれたロイターのイベント「ロイターニュースメーカー」で講演および質疑応答に応じ、長期金利目標で現行のゼロ%程度を引き上げる理由はないとして、米利上げからの連想で市場で思惑がくすぶる利上げ観測をけん制した。一方、国債買い入れは今後減額しても金利押し下げ効果が高まると説明し、緩やかな買い入れ減額を示唆した。

<金融仲介機能からみても利上げ理由ない>

黒田総裁は、足元の物価が「上昇のモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠けている」うえ「下振れリスクのほうが大きい」と指摘。企業や家計の物価観にも「注意が必要」として、「現時点において、金融緩和度合いを緩める理由はない」と明言。「現時点で長短金利の操作目標を引き上げる理由はない」とも言い切った。

中短期金利がマイナスの状態だが「超長期金利は上昇しており、保険や年金などの運用環境はいくぶん改善している」「これまでのところ金融仲介機能が低下していることはない」とも述べ、「金融仲介機能の面からも長短金利目標を引き上げる理由はない」との見解を示した。

<少ない国債買い入れで同じ利下げ効果>

一方、国債買い入れについては、特定の買い入れ量を決めない柔軟な枠組みであることを詳述。「国債が品薄になり国債需給が逼迫する場合、一単位の買い入れによる金利押し下げ効果はより大きなものになる」と説明。「すなわち、より少ない金額の国債買い入れで同じ程度の金利低下効果を実現できる」と強調した。

日経平均株価が2万円台手前まで高水準にあるなか、市場では日銀の年間6兆円にのぼる上場投資信託(ETF)の買い入れの動向にも注目が集まっているが、総裁は「株価を一定の水準に保つことが目的でなく、株価が上がったら止める、下がったら増やすものでない」と述べるにとどめた。

<為替と金融政策「複雑な関係」>

米国が利上げを進めるなか、日銀が長期金利をゼロ%に固定すれば、円安誘導とみなされるリスクが市場で意識されているが、「為替と金融政策は非常に複雑な関係」「金利差と為替は、あるときは相関関係、あるときは相関がない」と述べた。「他の事情が変わらず円安になれば、物価引き上げ要因になるのは事実」とも述べた。

原油価格や為替は「予測は難しい」とし、「一時的な動きもあるため、物価は基調で判断する」とした。

足もとの物価動向について「持続的に下落する意味でのデフレではでなくなった」ものの、「一進一退の動きとで、昨年の円高が耐久消費財価格に影響した」と分析した。

<2%目標、就任前に決まっていた>

2%の物価目標の達成時期は「18年度ころとしているが、幅がある」とし、18年4月の任期満了までに達成できるか「わからない」という。

13年の就任当初に掲げた「2年での2%達成」が無理だった点について、「各国中銀とも2年程度で2%の目標達成を目指している」とし、その後原油価格下落や消費増税などが響いたと釈明した。同時に2%目標は総裁就任よりも前に政府・日銀で決まっていたとも述べた。

<イエレンFRB議長がトランプ政権と対立することはない>

米トランプ政権の通商政策について「保護主義となれば世界経済に影響があるが、具体的な政策は出ていない」と楽観。「自由貿易は世界経済に恩恵がある」として、米国が過度な保護主義に走るリスクは小さいとの見方を示した。

米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長のトランプ大統領観について「バランスの取れた方なので、政権とことを構えることはないのでは」と分析した。

*内容を追加します。

(竹本能文、伊藤純夫)

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次回9月会合での政策検証、特定の方向性ない=岩田日銀副総裁
政策検証の力点は各委員で異なる、特定の方向性ない=岩田日銀副総裁
http://jp.reuters.com/article/boj-kuroda-rate-idJPKBN16V0FJ?sp=true

 

 
Business | 2017年 03月 24日 19:06 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース

プラートECB専務理事、緩和措置維持する方針堅持=伊紙

[フランクフルト 24日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のチーフエコノミストを務めるプラート専務理事は、24日付のイタリア紙ソレ24オレに掲載されたインタビュー記事で、緩和措置を継続するECBの方針を堅持する姿勢を示した。

ECBは債券買い入れプログラムを少なくとも年末まで継続し、プログラム終了後も「かなりの期間」、金利を現行の過去最低水準あるいはそれを下回る水準に維持する方針を示している。

プラート専務理事はインタビューで「われわれのフォワードガイダンスは有益で、適切な金融状況につながっている」と指摘。

「われわれはそれを改めて表明した」とし、理事会ではイベントの具体的な時期や順序などは議論していないと述べた。

理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中銀総裁は先週、ECBは利上げを債券買い入れプログラムの終了前にするか、後にするか今後決定すると述べていた。

イタリア中銀のビスコ総裁も、債券買い入れプログラム終了と最初の利上げまでの期間は縮小される可能性があるとの見解を示していた。

プラート専務理事は買い入れ終了の時期について「いつになるかは公表しない。『かなりの期間』がどれくらいになるかを、理事会がいずれ決定する」と述べた。

専務理事はまた、賃金の伸びが低いと強調。ECBは「忍耐」が必要との認識も示した。

「賃金の動向によって、ユーロ圏の労働市場には失業率が示すよりも多くの緩みがあることが判明するかもしれない」と指摘した。

イタリアで野党の一部が反ユーロを掲げていることについて「(旧通貨の)リラに戻れば全てがうまくいくという郷愁に訴える主張は国民の誤解を招く」と断じ、「通貨制度を変更するコストは非常に大きく、低所得層が最も大きな負担を負わされる」と指摘した。

*内容とカテゴリーを追加しました。

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http://jp.reuters.com/article/ecb-praet-interview-idJPKBN16V0YD

 

 

「長期停滞」論を巡る最近の議論:「履歴効果」を中心に

2017年3月21日
金融研究所 中野章洋、加藤涼

全文[PDF 445KB]
要旨

先般の金融危機後、多くの先進諸国の経済成長経路が従前のトレンドに復していない中、1930年代に提唱された「長期停滞」論が再び注目を集めている。現代版の長期停滞論は、長期にわたって総需要が総供給を下回る事象を説明するうえで、低い自然利子率のもとで名目金利の実効下限制約が金融政策の有効性を低下させるとのチャネルを重視する。その意味で、過去の議論の単なるリバイバルとは異なる側面を有している。さらに最近では、金融危機のような大規模な負の総需要ショックが、研究開発投資や人的資本投資等の減少を通じて、総供給面にも長期的な悪影響を及ぼす「履歴効果」に着目し、総需要の弱さと潜在成長率(自然利子率)の低下が併存する形で長期停滞を解釈する議論もみられている。

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/rev17j02.htm/

はじめに

先般の金融危機後、既に10 年弱が経過したが、
多くの先進諸国において、経済成長経路は金融危
機以前のトレンドに復していない(図表1)。この
傾向は、比較的好調を維持している米国ですら例
外とはいえない。こうした中、2013 年、ローレン
ス・サマーズが、「先進諸国は長期停滞(Secular
Stagnation)に陥っている」との仮説を提示し、以
後、この仮説を巡って世界各国で活発な議論が展
開されている1。
昨今議論されている現代版長期停滞論の源流
は、1930 年代の米国の経済学界にまで遡る。当時
の議論は、大枠として総需要の不足に力点を置き
つつ、長期的に成長率の低迷が続くことを説明・
予見するものであった。もっとも、最近の論点は、
潜在成長率や自然利子率がどの程度低下してい
るのかといった純粋に実証的な問題から2、金融危
機のような一時的なショックがなぜ長期にわた
って経済に負の影響を及ぼすのかといったより
本源的な問いまで、極めて多岐にわたっている。
さらに最近では、金融危機のような大きな負の
総需要ショックはさまざまな経路を通じて経済
の総供給面に悪影響を及ぼすため、需要不足が長
期化すること自体が潜在成長率低下の原因とな
っているとの見方が注目を集めている。この議論
の中核となるのが「履歴効果(hysteresis effect)」
と呼ばれるメカニズムである。
もちろん、履歴効果自体は、長期停滞論と同様、
目新しいものではなく、1980 年代には失業の長期
化を説明する枠組みとして提起されていた3。しか
しながら、標準的なマクロ経済学の分析枠組みで
は、総需要の変動は長期的には総供給に影響を及
ぼさないという意味での二分法が前提とされて
きた。このため、履歴効果を通じた波及メカニズ
ムの重要性が必ずしも広く認識されていたわけ
ではない。ただし、近年では、履歴効果を巡る実
証研究の進展もあって、その評価は変化しつつあ
る。
金融研究所 中野章洋、加藤涼
2017 年3 月
日銀レビュー 2017-J-2
Bank of Japan Review
【図表1】先進国の経済成長
50
75
100
125
90 95 00 05 10
世界
主要先進国
(2007年=100)

(注) 実質GDP。主要先進国は、G7。
(出所) 国際通貨基金
「長期停滞」論を巡る最近の議論:「履歴効果」を中心に
2 日本銀行2017年3月
本稿では、まず、金融危機後の米国経済に着目
し、回復の弱さの特徴点を整理したあと、米国の
潜在成長率が低下した説明のひとつとされる長
期停滞論について、沿革や反論を含め、その概要
を紹介する。そのうえで、履歴効果についての最
近の議論を説明し、同効果の波及経路に関する研
究結果を紹介する。
金融危機後の米国の景気回復の特徴点
米国議会予算局(CBO: Congressional Budget
Office)が公表している米国の需給ギャップの推
計値は、金融危機後に大きく拡大したあと、徐々
に縮小し、最近ではゼロ近傍に近づいている(図
表2)。このCBO の推計値を素直に解釈すれば、
米国は金融危機から順調に立ち直っており、景気
は中立的な状態に近いと判断できる。
他方、直近の潜在GDP の推計値を金融危機以
前の推計値と比較すると、累積で約▲15%下方修
正されている。こうした下方修正を考慮すれば、
金融危機後の米国の需給ギャップの縮小は、総需
要の回復を通じた経済成長よりも、推計された潜
在GDP および潜在成長率の低下によって説明さ
れる部分の方が圧倒的に大きいことになる。この
点、米国の今次回復局面における成長率を過去の
回復局面と比較してみると、先般の金融危機前の
直近3 回の景気回復局面における平均成長率がそ
れぞれ+4.3%、+3.6%、+2.8%であったのに対し、
2009 年から足もとにかけては+2.1%と最も低い4。
こうした経済成長経路の下方シフトは、景気が
着実に回復する中にあって、なお景気の回復が実
感できないという認識が根強いことの大きな背
景となっていると考えられる。
以上をまとめると、米国経済は、需給ギャップ
からみて順調に回復しているとの情勢判断があ
る一方、潜在成長率の推計値の下方修正が累積ベ
ースで大きいこと、過去の局面対比でみても回復
ペースが緩慢であることが指摘できる。これらの
特徴点は、程度の差こそあれ、実は先進諸国の多
くで共通に観察されている5。近年、学界を中心に
長期停滞論に関する議論が活発化している背景
としては、こうした世界経済の状況が、専門家だ
けでなく、広く一般に認識されていることが挙げ
られる。
長期停滞論
(長期停滞が生じるメカニズム)
長期停滞論は、1939 年、米国経済学会会長であ
ったアルビン・ハンセンが提唱した説まで遡るこ
とができる6。当時、ハンセンは、米国経済を念頭
に、将来、人口増加率や技術進歩率の低下が見込
まれることなどから、投資需要が減退し、雇用水
準が完全雇用を下回り続ける形で経済が長期停
滞に陥る危険性を指摘した。長期停滞に関する研
究は、1940〜50 年代を中心に盛んに行われたが、
その後、第二次大戦後のベビーブームや技術革新
の継続等から、ハンセンが予想したような長期停
滞は、事後的にみれば到来せず、研究も下火とな
った。
サマーズが2013 年以降提唱している長期停滞
論は、需要不足による長期的な成長の低迷を論じ
ている点ではハンセンの議論と共通している。た
だ、理論モデルが提示されているわけではなく、
厳密な比較は難しいが、新しいフレーバーもみら
れる。その特徴を整理すれば、低い自然利子率と
名目金利の実効下限制約(effective lower bound)
の組合せを重視する点が挙げられる。
一般論として、中央銀行は不況期に、政策金利
を引き下げ、実質金利を自然利子率より低い水準
にまで押し下げることで、総需要を刺激する。し
かし、自然利子率が極めて低い水準にあると、中
央銀行が名目金利をゼロ近傍にまで引き下げた
としても、実質金利が自然利子率を下回らないこ
とが起こりうる。この場合、十分な景気刺激効果
が得られないため、総需要が総供給を下回る状況
【図表2】米国の潜在GDP と実際のGDP
14
15
16
17
18
19
20
06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
2006年時点推計
2016年時点推計
実質GDP
(兆ドル)
15%

1.5%
(注) 潜在GDP の推計値は各年8 月時点。2006 年時点推計は、基
準年(2000 年)について水準調整している。
(出所) CBO
3 日本銀行2017年3月
が続き、長期停滞に陥る。このように、需要不足
が起きる主要な原因を、名目金利の実効下限制約
が存在し、金融政策が十分機能しないことに求め
る点が、現代版長期停滞論の特徴といえよう。
(長期停滞に関する懐疑論・否定論等)
サマーズによる現代版長期停滞論は、先進諸国
で共通する今次回復局面の特徴点――すなわち、
@低金利の長期化、A潜在成長率の低下、B景気
回復力の弱さなど――をある程度統一的に説明で
きることもあり、注目を集め、その後の議論を活
発化させる契機ともなった。その一方で、懐疑
論・否定論が根強いのも事実である。
そもそも、現代版長期停滞論がどの程度もっと
もらしいかは、この仮説が実証的にどの程度裏打
ちされているかによって判断されるべきである。
この点、政策金利の実効下限制約の強さと自然利
子率の推計値の確からしさの2 つが実証上の議論
の焦点となる。
前者については、米国をはじめ先進諸国におい
て、グローバルな金融危機から10 年近くが経過
しようとしているが、政策金利は歴史的な低水準
にある。その意味で、名目金利の実効下限制約の
もとで、政策金利の操作を通じた伝統的な金融政
策の有効性の限界が意識される状況にある。
他方、後者の自然利子率については、現状、さ
まざまな推計手法を駆使しても、正確な推計は容
易ではないことが広く認識されている。すなわち、
自然利子率の水準が低下しているという定性的
な議論では概ね一致しているものの(図表3)、最
近の自然利子率の水準という定量的な議論では、
推計手法によってプラスからマイナスまで大き
な幅があり、先行研究でも見方が割れている7。
さらに、サマーズによる長期停滞論が恒常的な
マイナスの自然利子率を前提としていること自
体に疑念を呈する向きもある。ベン・バーナンキ
は、自然利子率が「長きにわたってマイナスであ
ることが可能なのか疑問である」と述べ、現代版
長期停滞論に対して懐疑的な見方を示している8。
このほか、自然利子率の低下は、金融危機を契
機とした需要不足によるものではなく、技術進歩
率の低下を反映したものであり、金融危機以前か
ら既に進行していたとの意見もある。自然利子率
は定義上、経済の総供給力を示す潜在GDP の成
長率である潜在成長率と密接な関係を持ってお
り、一定の条件のもとで両者は一致する9。したが
って、潜在成長率やそれを規定する技術進歩率を
計測することによって、自然利子率のおおよその
動向を窺い知ることができる。
こうした観点からは、ロバート・ゴードンによ
る技術進歩やその生産性に与える影響に関する
一連の研究成果が有名である10。ゴードンは、歴
史データを使い、米国経済の全要素生産性(TFP:
total factor productivity)の伸びが1980 年以降鈍化
していることを示している。特に、1990 年代後半
以降の情報通信技術を中心とした第3 次産業革命
は、19 世紀以降の第1 次産業革命(鉄道網の発達、
鉄鋼の利用拡大等)や第2 次産業革命(電力・内
燃機関の普及等)に比べ、TFP の成長率に与える
影響が小さく、かつ持続性も短いと主張している。
ただし、生産性の伸び率鈍化に起因する潜在成長
率および自然利子率の低下は、より長いスパンで
生じていると考えている点で、現代版長期停滞論
とは若干立ち位置が異なっている。
これらの自然利子率の水準等に関連する懐疑
論のほかに、長期停滞論そのものに対して、否定
的な立場をとる論者や専門家も少なくない。例え
ば、欧州中央銀行のブノア・クーレ理事は、自然
利子率の長期的な低下と、その要因を理解するこ
との重要性を認めつつも、長期停滞論に基づく悲
観論には共感できないと述べている11。また、実
際の米国のデータを用いて厳密な時系列分析等
を行った結果、長期停滞と呼ぶほどの特別な事態
が起きているわけではないと主張する研究も存
在している12。
【図表3】米国の自然利子率の低下
-1
0
1
2
3
4
5
80 85 90 95 00 05 10 15
(%)

(注) Laubach and Williams [2003]に基づく推計値。
(出所) 米国サンフランシスコ連邦準備銀行
4 日本銀行2017年3月
履歴効果とその波及経路
ここまでの議論では、長期停滞を引き起こすメ
カニズムについて、総需要要因と総供給要因に分
解可能であるという暗黙の前提を置いてきた。し
かしながら、最近では、総需要と総供給の(長期
的な)二分法を必ずしも前提としない議論もみら
れている。以下では、総需要と総供給双方の要因
が相互に作用して長期停滞をもたらすという議
論の代表例であり、かつ実証的な研究も進んでい
る履歴効果について説明する。
履歴効果自体は、冒頭で述べたとおり、1980 年
代には失業の長期化を説明する枠組みとして提
起されていた。しかしながら、その位置づけは、
長期的には、総需要と総供給の二分法が前提とさ
れる標準的なマクロ経済学での整理に対する例
外程度の扱いにとどまっていた。しかし、先述の
通り、金融危機後、多くの先進諸国において、観
察された成長率の大幅な落ち込みと同時に、推計
された潜在成長率の低下が確認されるようにな
ると、総需要の変化が総供給に対し長期的に影響
を及ぼす可能性についても、再び関心の目が向け
られるようになった。
履歴効果を通じ長期停滞が生じるメカニズム
は、総需要に対する大規模な負のショックが総供
給面に長期的に悪影響を及ぼすことで、総需要の
停滞と潜在成長率の低下が持続的に生じると整
理できる13。以下では、こうした履歴効果が生じ
る具体的な波及経路として、研究開発投資と人的
資本投資という2 点を取り上げ、関連する研究事
例等を紹介する。
(履歴効果が生じる経路@:研究開発投資)
設備投資が総需要の構成要素であると同時に、
それによって蓄積される資本ストック水準は経
済の総供給能力の決定要因である。そして両者は
フローとストックの関係にあるため、資本ストッ
クの蓄積ペースの変動を通じて、通常の景気循環
においても広義の履歴効果がある程度作用して
いることを意味する。ただ、さらに一歩進めて、
やはり総供給能力の決定要因である生産性が景
気に対して順相関であることを認める場合、履歴
効果がより広範に生じていることになるが、この
点については議論の余地がある。
例えば、米国連邦準備制度理事会のジャネッ
ト・イエレン議長は、金融危機後の米国経済の成
長トレンドの下方シフトについて、資本ストック
の蓄積ペースの鈍化に加え、研究開発投資や起業
ペースの低下が生産性の伸び率鈍化につながっ
た可能性を指摘している14。実際、金融危機前後
の研究開発投資の推移を確認すると、金融危機以
降、従前のトレンドからかなりの程度、下方に乖
離している様子が確認され、特に米国において乖
離が顕著になっている(図表4)。
こうした見方が正しいとすると、総需要面での
研究開発投資の停滞が生産性上昇テンポを鈍化
させ、潜在成長率の低下をもたらしたという意味
で、履歴効果の典型例といえる。こうした問題意
識もあって、イエレンの指摘と類似のメカニズム
を取り込んだ研究もみられ始めている。例えば、
金融危機後、企業の資金調達環境の悪化が研究開
発投資等を減少させる結果、TFP が低迷し、景気
回復が緩慢になるというメカニズムをモデル化
した研究もある15。
(履歴効果が生じる経路A:人的資本投資)
人的資本投資は一般に、人的資本ストック自体
の蓄積と労働生産性の向上を通じて、潜在成長率
に影響を及ぼすと考えられる。この点、何らかの
大きな負の総需要ショックによって失業率が高
まった場合、雇用機会の喪失が単に物理的な労働
投入の減少だけでなく、人的資本の蓄積を阻害す
る可能性が考えられる16。また、雇用者の適性に
合致した雇用機会が得られる可能性も低下し、職
場への定着の悪化、その後の再就職の困難化とい
【図表4】金融危機前後の研究開発投資
93年95 97 99 01 03
80
90
100
110
120
130
03年05 07 09 11 13
米国
ドイツ
イタリア
日本
金融危機前の
トレンド
(注) 日本(上軸)は1997 年、米国・ドイツ・イタリア(下軸)
は2007 年の水準(自然対数値)を100 としている。金融危
機前のトレンドは、金融危機前5 年間の日本、米国、ドイ
ツ、イタリア4 か国の平均。
(出所) 経済協力開発機構
5 日本銀行2017年3月
ったことから、人的資本の蓄積が一段と阻害され
ることも考えられる。
この点、日本では、1990 年代半ば頃から徐々に、
いわゆる若年非正規雇用の問題が深刻に受け止
められるようになったこともあり、人的資本投資
に関する負の履歴効果に関連した実証研究がい
くつか存在している。これらの研究では、日本に
おいて、新卒時に(非自発的に)非正規雇用とな
った労働者は、その後、長期にわたって正規雇用
の機会を得ることが難しいことや、その結果とし
て、研修やOJT などの就労を通じた人的資本の蓄
積が阻害されることが指摘されている。
例えば、新卒時に正規雇用された労働者は、学
歴等、本人の能力や属性を表す特性をコントロー
ルしたとしても、一定期間後に正規雇用の状態で
ある確率が、新卒時に非正規雇用された労働者対
比、有意に高いことが報告されている17。こうし
た推計結果の背景として、日本企業の正規採用が
新卒中心に行われており、新卒時に正規雇用され
なかったという履歴が労働者にとってネガティ
ブなシグナルとして働いている可能性が指摘さ
れている。こうした考察が正しいとするならば、
新卒採用への依存度が高い日本では、人的資本投
資を通じた負の履歴効果が働きやすい可能性も
十分考えられる。
おわりに
本稿で紹介した「長期停滞」論や「履歴効果」
の妥当性については、理論モデルによる分析のみ
では十分ではなく、実証的な裏付けを得るべく、
データの蓄積を待つ必要がある。その一方、既存
の論点を一歩先に進めた研究の必要性も高まっ
ている。
例えば、イエレンは、負の履歴効果が存在する
ならば、政策によって総需要を長期間刺激し続け
る「高圧経済」を維持していけば(running a
“high-pressure economy”)、逆に、正の履歴効果が
起きる可能性もあると指摘している18。仮にこう
した現象が起こりうるとすれば、どの程度総需要
を刺激し続ければ、どの程度潜在成長率の回復が
期待できるのか、検証していく必要がある。
さらに、こうした問題意識は、標準的なマクロ
経済学が採用している総需要と総供給の(長期的
な)二分法を前提とした分析枠組みに対しても疑
問を投げ掛けているように思われる。長期停滞自
体に関する研究と並行して、中長期的な経済成長
を実現する要因と総需要管理政策との関係全般
について、理論と実証の両面から研究を進めてい
く必要性が高まっているといえよう。19
1 サマーズの長期停滞論については、以下の論文等を参照。
Summers, Lawrence H., Remarks at the IMF Fourteenth Annual
Research Conference in Honor of Stanley Fischer, Washington, DC,
2013.
Summers, Lawrence H., “Demand Side Secular Stagnation,” American
Economic Review, Vol. 105, No. 5, 2015, pp. 60-65.
2 自然利子率とは、緩和的でも引締的でもない景気中立的な実質
金利の水準を指し、均衡実質金利とも呼ばれる。詳細は、小田・
村永[2003]を参照。
小田信之・村永淳、「自然利子率について:理論整理と計測」、日
本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No. 03-J-5、2003 年
3 例えば、欧州における1970〜80 年代にかけての失業率の持続
的な上昇に関して、Blanchard and Summers [1986]は履歴効果につ
いて分析している。
Blanchard, Olivier J. and Lawrence H. Summers, “Hysteresis and the
European Unemployment Problem,” NBER Macroeconomics Annual
1986, Vol. 1, MIT Press, 1986, pp. 15-90.
4 金融危機前の直近3 回の景気回復局面は、1983 年第1 四半期〜
1990 年第3 四半期、1991 年第2 四半期〜2001 年第1 四半期、2002
年第1 四半期〜2007 年第4 四半期。今次回復局面は、2009 年第3
四半期から直近(2016 年第4 四半期)。景気基準日付は、“US
Business Cycle Expansions and Contractions”(全米経済研究所、
NBER)を参照。
5 例えば、Ball [2014]は、経済協力開発機構に加盟している多く
の国において、先般の金融危機によって、潜在GDP が実際のGDP
と概ね同程度低下したことを指摘している。
Ball, Laurence M., “Long-term Damage from the Great Recession in
OECD Countries,” NBER Working Paper, No. 20185, 2014.
6 以下の論文を参照。
Hansen, Alvin H., “Economic Progress and Declining Population
Growth,” American Economic Review, Vol. 29, No. 1, 1939, pp. 1-15.
7 Williams [2017]は、複数の先行研究(図表3 のLaubach and
Williams [2003]を含む)に基づき、米国の自然利子率が、過去10
年間で明確に低下していること、直近時点でマイナスから+1%程
度まで推計値に幅があることを示している。
Laubach, Thomas and John C. Williams, “Measuring the Natural Rate
of Interest,” Review of Economics and Statistics, Vol. 85, No. 4, 2003,
pp. 1063-1070.
Williams, John C., “Three Questions on R-star,” FRBSF Economic
Letter, 2017-05, 2017.
8 バーナンキは、「MIT の大学院でラリー(著者注:サマーズの
こと)の伯父であるポール・サミュエルソンが教えてくれたよう
に、もし実質金利がいつまでもマイナスであると予想されるなら、
ほとんどどんな投資でも利益を生み出すことができる。例えば、
金利がマイナスならば(あるいはゼロであっても)、ロッキー山
脈を平らにして、列車や車が急な坂を上るのに費消しなければな
らないほんの少しの燃料を節約することでさえペイするだろう。
したがって、本当に均衡実質金利(著者注:自然利子率のこと)
が、長きにわたってマイナスであることが可能なのか、疑問であ
る」としている。同氏は、もちろん、Eggertsson and Mehrotra [2014]
など、自然利子率が長期間にわたってマイナスに陥る可能性を裏
付けるモデルがあることは承知しているが、そうした反論が定量
的にもっともらしいものなのか、実証分析を見たことがないと主
張している。詳細は、以下のURL を参照。
https://www.brookings.edu/blog/ben-bernanke/2015/03/31/why-are-int
erest-rates-so-low-part-2-secular-stagnation
6 日本銀行2017年3月
Eggertsson, Gauti B., and Neil R. Mehrotra, “A Model of Secular
Stagnation,” NBER Working Paper, No. 20574, 2014.
9 自然利子率と潜在成長率の関係については、岩崎他[2016]を参
照。議論の詳細については、脚注2 の小田・村永[2003]を参照。
岩崎雄斗・須藤直・西崎健司・藤原茂章・武藤一郎、「『総括的検
証』補足ペーパーシリーズA わが国における自然利子率の動向」、
日銀レビュー・シリーズ、No. 2016-J-18、2016 年
10 以下の文献を参照。
Gordon, Robert J., “Secular Stagnation: A Supply-Side View,”
American Economic Review, Vol. 105, No. 5, 2015, pp. 54-59.
Gordon, Robert J., “The Rise and Fall of American Growth: The U.S.
Standard of Living since the Civil War,” Princeton University Press,
2016.
11 以下のURL を参照。
https://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2014/html/sp140624.en.html
12 例えば、Stock and Watson [2016]は、金融危機以降の経済成長率
と過去の景気回復局面の成長率との乖離(年率約1.7%ポイント)
をトレンド要因と循環要因に寄与度分解し、トレンド要因で約半
分が説明可能と指摘している。そのうえで、トレンド要因につい
ては、ほとんどが人口要因で説明されるため、金融危機を原因と
する生産性の低下等は確認できないと述べている。
Stock, James H. and Mark W. Watson, “Why Has GDP Growth Been
So Slow to Recover?,” paper presented at the Federal Reserve Bank of
Boston 60th Economic Conference, 2016.
13 以下を参照。
Yellen, Janet L., Remarks at the Federal Reserve Bank of Boston 60th
Economic Conference, 2016.
https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.ht
m
14 脚注13 参照。
15 関連する論文として、例えば、以下を参照。なお、Ikeda and
Kurozumi [2014]は、日銀リサーチラボ・シリーズでも紹介されて
いる。
Ikeda, Daisuke and Takushi Kurozumi, “Post-Crisis Slow Recovery
and Monetary Policy,” IMES Discussion Paper Series, No. 2014-E-16,
2014.
Queraltó, Albert, “A Model of Slow Recoveries from Financial Crises,”
Board of Governors of the Federal Reserve System International
Finance Discussion Papers, No. 1097, 2013.
池田大輔・黒住卓司、「金融危機後の景気回復はなぜ緩慢なのか:
金融政策運営への含意に関する一考察」、日銀リサーチラボ・シ
リーズ、No. 15-J-2、2015 年
16 例えば、第3 回カナダ銀行・日本銀行共催ワークショップ(2016
年9 月)の基調講演において、サマーズは、景気後退局面に採用
された労働者は、景気拡大局面に採用された労働者と比べて、そ
の後のキャリアにおいて、よりリスクを取らなくなり、人的資本
の蓄積ペースが鈍化するとの仮説を提示している。
17 以下の論文を参照。
Kondo, Ayako, “Does the First Job Really Matter? State Dependency in
Employment Status in Japan,” Journal of the Japanese and
International Economies, Vol. 21, No. 3, 2007, pp. 379-402.
18 脚注13 参照。
日銀レビュー・シリーズは、最近の金融経済の話題を、金融経済
に関心を有する幅広い読者層を対象として、平易かつ簡潔に解説
するために、日本銀行が編集・発行しているものです。ただし、
レポートで示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見
解を示すものではありません。
内容に関するご質問等に関しましては、日本銀行金融研究所経済
ファイナンス研究課 (代表03-3279-1111 内線6518)までお知ら
せ下さい。なお、日銀レビュー・シリーズおよび日本銀行ワーキ
ングペーパーシリーズは、http://www.boj.or.jp で入手できます。
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/data/rev17j02.pdf
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/452.html

[経世済民120] 「シムズ理論」が日本経済のデフレ脱却に有効である理由ハイパーインフレは起こらない 独居老人を巻き上げる手口 労働は苦役か
「シムズ理論」が日本経済のデフレ脱却に有効である理由

ハイパーインフレは起こらない

安達 誠司エコノミスト
プロフィール

「シムズ理論」とは何か

このところ、筆者が色々な人と経済についての話をする時に、必ずと言っていいほど話題に上るのが「シムズ理論」である。最近は様々な論者が「シムズ理論」を解説しているらしい。

筆者は他人が言っていることにあまり関心がないので詳しくは知らないが、どうも、論者によって内容も解釈も大きく異なっていて、多くの人は「シムズ理論」の意味がよくわからないと言う。

先週も述べた通り、「シムズ理論」とは、「物価の財政理論(the Fiscal Theory of Price Level)」といわれるものであり、「FTPL」という略語が使われている。この「FTPL」自体は、決して新しい経済理論ではなく、1990年代の終盤から2000年代前半にかけて、主にアメリカのマクロ経済学者の間で「理論的な可能性」として議論されてきた。「シムズ理論」のクリストファー・シムズ教授(プリンストン大学)はその主な提唱者の一人である。

最近、筆者もこのFTPLに関する論文に苦闘している。その内容は多岐に渡っており、一言で説明するのはなかなか難しい。簡単に言おうとすると、省略しすぎるきらいがあるので、枝葉末節にこだわる人には不満かもしれない。だが、誤解を恐れずに単純化していうならば、以下のようになるだろう。

まず、「通常の財政政策」では、(短期的に)積極財政に転じることで生じた政府債務は、将来の財政黒字(増税、もしくは景気拡大による税収増など)によって返済されるとみなされる。だが、そこで、ある事情で、政府がそれを保証しない場合はどうなるか、という議論がFTPLである。

FTPLでは、政府が将来の財政黒字で政府債務を返済しない可能性を示唆した場合、政府債務は、物価の上昇によって「実質的に」減少していく可能性が示唆される(正確にいえば、政府債務の水準そのものではなく対GDP比率が一定水準に「収斂」していくと考えたほうがよいだろうか)。

何人かの論者が、日本で「シムズ理論」を実践すると、物価上昇が止まらなくなると懸念を表明しているが、FTPLの世界での物価上昇は「ハイパーインフレ」を意味しない。財政赤字拡大にともなう景気拡大で税収が伸びれば、将来の財政収支が改善するので、それも政府債務を減らす源泉にもなる点が考慮されている。

そのため、「通常の財政政策」が実施される場合と比較すると、確かに物価は上昇するが、やがて、ある一定の水準に「収斂」していくことになる(「ハイパーインフレ」の場合は「発散」していく点に注意)。よって「ハイパーインフレ」の懸念が生じるのは、FTPLとは「別の世界」に入ったときであると考えた方がよいだろう。

金融政策と財政政策、4通りの組み合わせ

ところで、これまでのFTPL研究は、専ら理論的分析がほとんどであったが、最近の研究では、過去の経済政策において、「金融政策と財政政策の組み合わせ」がどのようなものであったか、そして、FTPLは、その中でどの組み合わせなのかという点が強調されるようになっている。

すなわち、FTPLは、いくつかある金融政策と財政政策の組み合わせの中の1つであるとみなされるようになっている。

この「金融政策と財政政策の組み合わせ論」では、金融政策と財政政策をそれぞれ、「積極的(Active)」、「受動的(Passive)」の二種類に分類する。したがって政策の組み合わせは、4通りあることになる。

そこで、ここでいうところの「積極的な金融政策」とは、インフレ率の変動幅を上回る規模で政策金利を変動させることと定義している。従って、現在の日本のように政策金利を操作する余地が小さい場合は、たとえ、大幅な量的緩和政策が実施されていたとしても、この議論の世界では、「受動的な金融政策」に分類される。

一方、「積極的な財政政策」とは、政府債務(の対GDP比率)の変動幅が、税収の伸び率を上回るように国債を発行する(簡単にいってしまえば財政赤字を拡大させる)財政政策であると定義している。

この議論では、「積極的な金融政策と受動的な財政政策」の組み合わせ(頭文字をとって「AM/PF」)が「平時」の経済政策とされている。

すなわち、「平時」では、中央銀行が、金融政策でインフレ率の変動を上回る幅で政策金利を操作できれば、あえて政府債務を拡大させるような財政拡張策を用いなくてもよいという考え方である(ただし、一時的な財政出動による財政赤字増はその後の財政黒字ですぐに返済されると仮定されている)。

NEXT ?? 日本の経済政策にあてはめると…

そして、話題の「シムズ理論(FTPL)」の世界は、「受動的な金融政策と積極的な財政政策」の組み合わせ(PM/AF)となる。すなわち、「シムズ理論」の世界では、政府は、積極的に財政支出(減税でもよい)を拡大させる一方、金融政策は、財政支出拡大で新たに発行された国債を「受動的に」購入する(その結果、金利は変動させない)という組み合わせになる。

ここで注意すべきは、「シムズ理論」の世界では、拡大した財政赤字を、金融政策が「受動的(もしくは「自動的」といってもいいかもしれない)」にファイナンスしている点である。これは、財政拡張と同時に、中央銀行は国債買いオペを拡大させていることを意味する。従って、「シムズ理論」は必ずしも「金融政策無効論」を意味するものではないと思われる(ただし、政策金利の操作を通じた金融政策はできない)。

次に、積極財政の下、中央銀行が国債買いオペを実施しない場合、(長期)金利が上昇する可能性が高まる。このケースは、「積極的な金融政策と積極的な財政政策(AM/AF)」の組み合わせとみなされることが多い。

国内での「シムズ理論」の議論では、この「AM/AF」の組み合わせも「シムズ理論」の一部として議論されることがあるようだが、この組み合わせは、「シムズ理論」の世界とは別の世界である。

また、この「AM/AF」の組み合わせの下では、金利の上昇、物価の止まらない上昇、そして、政府債務(対GDP比率)の上昇が持続的に(発散的に)実現する可能性が指摘されている。

すなわち、多くの人が懸念する「ハイパーインフレ」や「財政破綻」は、「シムズ理論」を実践した場合に発生するのではなく、財政拡張が実施される局面で、同時に金利上昇をもたらすような金融政策(AF/AF)を実施した場合に起こりうるシナリオということになる。経済政策がこの組み合わせになった場合には注意しなければならない。

残る金融政策と財政政策の組み合わせは「受動的な金融政策と受動的な財政政策(PM/PF)」の組み合わせである。実は、この政策の組み合わせの下での政策効果は極めて不確かであることが指摘されている。

すなわち、持続的な低金利によってデフレが解消する可能性がある一方、デフレが長期化する可能性もある。この組み合わせが実現する最初の段階で、経済がどういう状況にあるかに依存しており、どちらになるかは事前にはわからない。

デフレ脱却はまだまだ先

そこで、以上のような考え方を今後の日本の経済政策にあてはめてみよう。

ここまでの話を踏まえると、現状の日本の経済政策の組み合わせは、意図せずして「受動的な金融政策と受動的な財政政策(PM/PF)」の組み合わせとなってしまっている可能性があるのではないかと考えている。

筆者は、現在の日本経済の状況は、決してデフレに逆戻りしているわけではないが、デフレ脱却に向けて力強く前進しているかといえば、そういうこともない状況だと考えている。最近、やや景況観が改善しているのは、中国におけるスマートフォン買い替え需要の拡大や不動産の再ブームによる世界的な輸出の回復という外部要因からであろう(米国の景気が強いということもあるだろう)。

このような状況は、2014年4月からの消費税率引き上げによって、財政政策のスタンスが「積極的な財政政策(すなわち、財政再建により重きを置いた財政政策)」に転換し、経済政策の組み合わせが、「PM/AF」から「PM/PF」に転換して以降、ずっと続いている(その意味で、日本はアベノミクスの初期には既に「シムズ理論」的な世界に入っていたのではなかろうか)。

前述のように、「PM/PF」の局面では、外部環境が偶然良い方向に向かえば、経済がデフレ脱却の方向へ向かう可能性もある。従って、「運だめし」という側面が強いが、このまま世界経済の回復が続き、外部環境が好転するという見通しを持てるのであれば、とりあえず現状維持で進むという選択肢もあり得る。

一方、もちろん、ここでもう一度、「積極財政(Activeな財政政策)」に転じ、「シムズ理論」に飛び込むという選択肢もあり得る。

特に、現在、日本銀行が採用している「イールドカーブ・コントロール政策」は、典型的な「受動的な金融政策」である。もし、国債増発で金利上昇圧力が生じても、現行の「イールドカーブ・コントロール政策」がある限りは、ほぼ自動的に国債を購入することになるため、金利の急騰の可能性は極めて低いと思われる。

NEXT ?? 日本経済の現状を考えると…

出口政策をどう設計するか

実は、この議論については、もう一つ重要な問題がある。それは、経済政策の効果を考える場合には、「現時点の」組み合わせだけではなく、将来、どの組み合わせに転換すると人々が予想しているかという点である。

つまり、もし、デフレ脱却に有効な政策の組み合わせになったとしても、人々がその組み合わせはすぐに別の組み合わせに転換してしまうと予想してしまうと、その効果はほとんど殺がれてしまう可能性があるのだ。

そして、これは、昨年6月の消費税率引き上げの先送りに際して実現してしまった可能性がある。消費税率引き上げを見送ったという判断については正しかったものの、2年後に引き上げることを表明したために、人々は、「場合によっては再びデフレ脱却前に消費税率引き上げが実施されるかもしれない」という予想を形成し、予備的な貯蓄増に走ったのではないかと考えられる。

その意味で、もし、政府が、デフレ脱却のために「シムズ理論」の世界に飛び込むのであれば、正常な経済政策への転換(すなわち「AM/PF」)は、「2年後」といったような「(実現が不確かな)期間」にコミットするのではなく、シムズ教授が言及したような「日銀・政府の共同声明であるインフレ率が2%近傍で安定的に推移することを確認してから(筆者は、安倍政権が掲げている「600兆円の名目GDPが達成された後」というコミットメントルールでもよいのではないかと考えているが)」というような「(デフレ脱却の実現という)経済状況」にコミットしなければ、効果を十分持ち得ないかもしれない。

さらにいえば、「シムズ理論」の世界では、「正常な政策の組み合わせ(AM/PF)」に戻る出口政策をどう設計するかが重要となる。

まず、「出口政策」では、マーケットなどに「サプライズ」を与える必要はない。また、正常化の局面では、金融政策と財政政策がともに政策転換する必要があるが(金融政策は、「PM」から「AM」へ、財政政策は「AF」から「PF」へ)、両者のタイミングがずれてしまうと、経済政策が不安定化してしまい、経済にショックを与えてしまう懸念がある(例えば、「AM/AF」の組み合わせになってしまうなど)。

両方の政策がうまく協調して転換していくことが重要だと考えるが、現実世界でこれをどう設計していくかが課題となろう。

一方、前述の「PM/AF」の組み合わせでは、金融政策の「出口政策」のみを考えればよいので、「シムズ理論」の世界よりもやりやすいのではなかろうか(といっても、実際はこれだけでも議論は複雑だが)。

以上より、日本経済の現状を考えると、経済政策を「シムズ理論」の世界へシフトさせていくことかどうかは政権の判断次第だが、デフレ脱却のためには有効であることは確かであろう。

ただし、単に財政支出を拡大させればいいのではなく、将来の出口政策のことを考えて、かなり周到に政策のコミットメントルールを考える必要があるのではなかろうか。

トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭の人気エコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51278

 

独居老人の心細さにつけこみ、カネを巻き上げる悪質業者の手口
NHK元アナが広告塔…
長岡 美代

親族に頼れない高齢者を対象に、入院時や老人ホーム入居時に必要な身元保証をはじめ、安否確認や身の回りの世話などを引き受ける事業が好評だという。

だが、中にはひとり暮らしの心細さにつけ込み、高齢者の財産を狙う悪質な事業者もいるなど、トラブルも相次いでいるようだ。

あなたの親御さんは大丈夫か――。

ひとり暮らしの老人がターゲットに

これで少しは気が休まる高齢者も多いに違いない。

今月9日、老後に不安を抱える“おひとりさま”から多額のカネを集め、ずさんな経営で破綻に追い込んだ一般財団法人「日本ライフ協会」(東京都港区、破産手続き中)の元役員3人が、大阪府警と三重県警に出資法違反の容疑で逮捕されたからだ。

府警によると、元代表の濱田健士容疑者(63歳)らは、これまでの捜査で判明しただけでも2014年4月中旬から15年6月下旬にかけて、金融庁などの許可を得ずに高齢者ら約40人から葬儀・納骨代として預託金名目で計約2000万円を集めた疑いがあるという。

日本ライフ協会は、親族に頼れない高齢者らを対象に、入院時や老人ホーム入居時の身元保証をはじめ、安否確認や緊急時対応、身の回りの世話、死亡後の葬儀・納骨などを支援。一括で約165万円を払うプランが基本で、このうち葬儀や納骨に充てる預託金は約58万円だった。

昨今、ひとり暮らし高齢者の増加や親族間の付き合いの希薄さも相まって、こうした支援へのニーズは高まる一方、事業者は全国に100社以上あると言われる。

約3000〜4000人の会員を抱える大手も存在し、日本ライフ協会も公益法人の認定を受けていたことやNHKの元アナウンサーを広告塔(元理事)にするなどして、全国から約2500人の会員を集めていた。

ところが昨年1月、内閣府公益認定等委員会の調査で、預託金約8億8000万円のうち約2億7000万円が不足していることが判明。日本ライフ協会は2010年、弁護士ら第三者の事務所で預託金を管理する「三者契約」で安全性をアピールし公益認定を受けていたが、その直後に同協会が直接管理する契約(二者契約)に勝手に変更し、預託金を関連法人に貸し付けるなど流用していたことも明らかになった。

破産管財人によると、二者契約だった会員は約1500人に上る。

「貯金のほとんどを費やしてしまった」

その後、日本ライフ協会は同年4月、約12億円の負債を抱えて破綻。事務所の高額な家賃の支払いなどで資金繰りが悪化していたにもかかわらず、代表自らと息子の専務理事らは多額の役員報酬を受け取っていたほか、都心の高層マンションを借り上げて家賃の一部を同協会に肩代わりさせていたことも筆者の取材でわかっている。

公益法人を私物化して好き放題にやっていた代表を、元役員らは誰ひとりとして止めることができず、さらに内閣府のチェックも機能していなかったことから最悪の事態を招いたというわけだ。

元会員の男性(73歳)は、「頼れる身内がいないので、病気になったときに助けてもらいたいと思って2015年春に加入したばかりでした。ようやく精神的にラクになったと思ったら、こんなことに……。貯金のほとんどを費やしてしまったので、もう他に頼めるお金もありません」と肩を落とす。

ひとり暮らしの心細さを解消するために日本ライフ協会に頼っていた高齢者を、不安のどん底に突き落とした代表ら元役員の罪は重い。せめて受け取った報酬を返還するくらいの責任を果たすべきだが、いまのところそれさえ覚束ないようだ。嘆かわしい限りである。

そもそも同種の支援への社会的なニーズが高まっているにもかかわらず、事業を始めるにあたって行政の許認可がいらないことも問題だろう。第三者によるチェックもなく、悪質な事業者を排除することさえままならないのが現状だ。

NEXT ?? 驚きの手抜きサービス

肝心のときに頼りにならない

モラルの低い事業者は、ほかにも存在する。

つい先ごろも、愛知県内にある事業者が利用者から遺贈された現金計約1億5000万円を隠し、法人税を免れたとして名古屋国税局から告発されたという報道がなされたばかりである。

内閣府消費者委員会は今年1月、日本ライフ協会の事件を受けて、ようやく事業者の実態把握とそれを踏まえた措置を検討するよう消費者庁や厚生労働省、国土交通省に対して建議を申し立てたばかりだが、早急な対策が望まれる。

「確かにまとめて支援を依頼できるのは便利ですが、サービス内容が多岐にわたり、契約形態も複雑なので高齢者には理解が難しい。何を契約したのかすらわかっていない例も見受けられます。葬儀や納骨などの預託金は事業者の倒産に備え、保全措置を義務づけるなど法的な対応が望まれます」(東京都消費生活総合センターの消費生活専門課長)

実際、預託金を事業者みずからが管理している例は、日本ライフ協会以外でも見受けられる。別法人で管理しているところも存在するが、勝手に引き出されてしまえば、結局は同じだ。入出金の状況を客観的に把握できるよう会員に情報開示できればいいが、そうした事業者は数少ない。

肝心のサービスについても、緊急時に事業者と連絡がつかなかったり、呼び出しに応じてもらえなかったりするなど“期待外れ”に終わる事態も起きている。

身の回りの世話など日常生活の支援を別法人に委託している例は少なくないが、そうした事実を知らないまま契約してしまう高齢者もいるのだ。

途中解約をめぐる苦情が続々

介護が必要になったときの支援も事業者によって差が大きい。東京都内にある某有料老人ホームの営業マンはこう打ち明ける。

「自宅での生活が難しくなって老人ホームへの入居が必要になった際、事業者が本人の希望や予算を踏まえずスタッフが通いやすい場所に決めてしまう例もあります。なかには老人ホーム側に紹介料を要求してくる事業者もあるくらいです」

必ずしも本人のために支援してくれるところばかりではないようだ。とりわけ認知症などで判断力が低下した場合は、サービスの手抜きが行われていても誰にも気づかれない。

預貯金・不動産などの財産管理や遺言書の作成まで引き受けている事業者も存在するが、第三者のチェックが届かないなかで都合よく使われてしまう懸念もある。

全国の消費生活相談センターには、「払い込んだ費用がほとんど戻らない」「高額な違約金を請求された」などといった途中解約をめぐる苦情も相次いでいる。

悪質な事業者にこれ以上老後の大切な蓄えを食いつぶされることのないよう、国には早急な対策を検討してもらいたい。


< 1 2

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51263

この国は老人を捨てるつもりか? 疲弊した介護現場に落とされる爆弾
私たちは大きな代償を払うことになる
中村 淳彦ルポライター
プロフィール

とっくに限界は超えている

2025年には、日本国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる、超・超高齢化社会――。世界でも類を見ない未来が待ち受けるいま、介護政策についての是非が問われている。

以前のルポでお伝えした通り(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/47873)、介護を取り巻く現状は、「職員の質の低下」に加え、職場のブラック化やモンスター親子の出現、介護報酬が減額されるなどの問題が山積し、崩壊寸前のところを何とか持ちこたえている状況だ。

もはや「幸せ」や「豊かさ」といった福祉の理念は影もなく、なかには生き地獄のような現実を暮らしている者もいる。

そんな限界寸前の状況にある介護業界にさらなる追い打ちがかかる。厚生労働省が現役世代並みの所得がある高齢者を対象に、2018年8月から介護保険の自己負担費用を現在の2割から3割に引き上げる方針を固めたのだ。

現在の介護保険料の総額は、10年間で2.5倍以上に膨れ上がり、おおよそ年間10兆円。2015年4月に介護報酬を2.27%に減額した上でのさらなる改正だ。

限界を超える人手不足に加え、容赦のない報酬の減額によって、ただでさえ介護業界はパニック状態に陥っている。そんな混乱の渦中に介護サービス利用の自己負担3割という爆弾が落とされる。

介護保険は2000年の制度開始以降、利用者の自己負担費用は1割という時代が長く続いた。現政府が進めている制度縮小の始まりは、2015年4月の介護保険の改正からで、介護事業所の経営の根幹となる介護報酬が大幅に減額された。

この改正により特にあおりをくらったのは、利用定員が10人以下の小規模デイサービスで、平均利益率を超える約10%の報酬減となり、経営の危機に瀕した事業者が続々と閉鎖に追い込まれた。

残酷な牙は、介護サービスを受ける高齢者にも向けられている。介護保険による介護サービス利用料が従来の1割負担から、2015年8月に年収280万円以上は2割負担にアップ、さらに次期改正では年収383万円以上は3割負担となる。

これまでわずかな費用で受けられたサービスの急な値上がりによって、介護施設の利用をやめてしまう高齢者も出てくるだろう。しかも、この改正は単なる通過点であって、年収制限はいずれ撤廃され、最終的に介護保険は一律3割の自己負担、もしくはそれ以上となる可能性が高い。

こういった、介護保険の財政が逼迫するなか、厚生労働省は市区町村に対して「地域包括ケア・総合事業」を促している。

認知症高齢者の増加が見込まれる2025年を目前に控え、重度な要介護状態になっても、住み慣れた場所で生活が送れるよう、地域で認知症高齢者の生活を支えるという趣旨で考案されたこの施策は、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的」という理念を謳っているが、実際のところは【要支援1, 2】、【要介護1, 2】の高齢者を介護保険制度から切り離す施策だ。

要するにお金のない高齢者には介護保険は使わせず、お金のある高齢者からは介護保険の自己負担アップで貯蓄を吐かせる。

簡単にいえば、地域包括ケアや総合事業を謳って、介護が必要な軽度高齢者を介護保険から切り離し、市区町村に面倒を看させるという事業なのだ。地域包括ケアは、財政を圧迫する介護政策を国が市区町村に押し付けたという敗戦処理の色が濃い。

あおりをくらう軽度要介護者

では介護報酬の自己負担アップ、軽度高齢者の切り捨てで、なにが起こるのか?

NEXT ?? 激増する徘徊

当然だがまずは事業者が潰れる。

2016年1月〜9月までの老人福祉・介護事業の倒産は77件(東商リサーチ)に達し、過去最悪のペースで推移している。2015年4月の介護報酬の引き下げによってデイサービスや訪問介護を提供する介護事業者の経営が厳しくなり、体力のない中小零細事業所が続々と閉鎖に追い込まれている。

厚生労働省は2025年に介護職員は38万人不足すると発表、しかし、これは各都道府県の介護人材獲得の施策の成果が100%織り込み済の数字であり、実際は100万人が不足する事態となっている。

2015年、安倍政権は「一億総活躍社会」の緊急対策として、2020年までに「介護の受け皿50万人の創出」を掲げたが、実際にやっていることは、介護保険の自己負担費用を上げて利用する高齢者を減らし、さらに介護事業所を続々と潰して支出を減らそうという方針だ。

国は高齢者が支払う介護保険自己負担を簡単に2割負担、3割負担と言うが、その額は2倍、3倍と跳ね上がることになる。

介護保険には、サービスを利用した際の自己負担の上限を定める「高額サービス費支給制度」があり、現役世代並みの所得者に相当する世帯は、月額4万4400円が上限だ。もっとも重い介護度5の利用限度額は36万円。3割負担では12万円だが、高額サービス費支給制度で実質の支払いは4万4400円となる。

一方、介護度1の限度額は16万6000円だが、3割負担額は4万9800円になる。これまで1万6000円で受けられたサービスが2倍、3倍に膨らみ、その金額が家計を直撃する。次期改正以降、介護が必要な軽度高齢者は、圧倒的に介護保険を使いづらくなる。

多発する事故、万引き、徘徊

軽度高齢者をターゲットにお金がかかる仕組みを作り、一部の高齢者以外は介護サービスが使えなくなる。思惑通りに要介護1にあたる【要支援1, 2】【要介護1, 2】の高齢者を介護保険から追いだすと、なにが起こるのか?

介護経験者ならば誰でも知ることだが、介護にもっとも手がかかるのは【要介護1, 2】の歩行ができる認知症高齢者だ。つまり徘徊する層である。

これまでの1割負担の時代は、高齢者は自宅のほかに小規模デイサービス、ショートステイなどを併用して、誰かの目が届く環境で過ごしてきた。しかし次期改正以降は、支払能力のない利用者たちはこれらのサービスを使えなくなる。多くの軽度認知症高齢者が自宅で過ごすことになれば、徘徊による高齢者の迷子が日常茶飯事となる。

認知症高齢者は住み慣れた地域であっても、自宅から一歩外に出れば、道がわからず帰ることができない。なかには赤信号を平気で渡ろうとする人もおり、安全に道路を渡る判断のできない高齢者が、昼夜を問わず自宅を探して徘徊する。環状七号線、環状八号線などの主要道路を赤信号で横断したら、当然車に轢かれる。

2007年に線路に立ち入った91歳の認知症男性が、電車にはねられ死亡する事故が愛知県で起こった。この事故をめぐりJR東海は、家族に約720万円の損害賠償を求め、揉めに揉めて、最終的には最高裁で請求は棄却された。

東京や大阪など都市部の沿線は踏切が多い。線路に侵入した認知症高齢者たちが自宅を求めてひたすら歩けば、鉄道事故が常態化する上に、最悪のケースとして死亡事故が頻発する可能性もある。鉄道事故を起こせば、当然、損害賠償などの責任問題は家族にも及ぶ。

行方不明になる認知症高齢者は年間1万人近くで、8年間に少なくとも64人の認知症高齢者が鉄道事故で死亡しているという。訴訟は認知症高齢者を介護する家族の監督義務を争点に、一審では家族に全額支払いを、二審では約360万円の支払いを妻に命じており、認知症高齢者を抱える家族は気が気ではない。また、鉄道の遅延などが頻発すれば、都市機能が失われて経済活動にも悪影響を及ぼす。

さらに、コンビニなどの商店での万引きも増えるだろう。本人は万引きするつもりはなくても、商取引を忘れている。店内の商品を持って、そのまま何も思わずに外に出てしまう。万引き犯として捕まえても、本人に悪気はないので話にならない。

NEXT ?? 結局、社会に跳ね返ってくる

一般的に在宅で過ごす認知症高齢者が迷子になれば、家族は警察に捜索願をだす。通報があったり、人が少なくなった深夜に保護されたりして、ようやく自宅に戻る。一人の高齢者が迷子になっただけで警察沙汰になり、かなり多くの人が動き大騒ぎなる。

さらに近年右肩上がりで増えている、家族のいない単身世帯の認知症高齢者に関しては、捜索願が出ることはほぼない。担当ケアマネジャーや地域住民が気にかけていたとしても、すぐに行方不明に気づくことはできない。

高齢者はカラダが弱い。地域や季節によっては、一晩で凍え死んでしまうことも起こりうる。朝方、路上に遺体が転がるような絶望的な事態も当然あり得る話だ。

しわ寄せの矛先はどこへ?

高齢者による交通事故も近年多発しているが、そのなかでも特に、認知症の高齢ドライバーが事故を起こしているケースが大きな問題になっている。

歩行ができる要支援・軽度要介護高齢者は、交通法規は忘れていても車の運転はできる。認知症高齢者が自宅で過ごすようになれば、交通事故も間違いなく増える。

「車で徘徊」「高速道路の逆走」「アクセルとブレーキ」を踏み間違えるおそろしいミスを犯す認知症高齢者たち。現在、すでに交通事故全体の28%が65歳以上の高齢者によるものだ。

重大事故が起これば家族に高額の賠償金が請求される。交通事故は事故被害者だけでなく、家族をも破綻させかねないのだ。介護保険から切り離すことによってそれに拍車がかかる。

不幸なことに事故を起こしてしまっても、短期記憶が失われている認知症高齢者は事故を起こしたことすら忘れてしまうので、もはや話にならない。

実際に2016年10月28日、横浜市で起きた小学生の集団登校に軽トラックが突っ込む事故で逮捕された87歳の男性は「どうやってあそこに行ったのか覚えていない」と供述している。責任どころか、反省すらしようがない。

免許証を返納したとしても、認知症高齢者には免許がないことは抑止力にならない。免許返納の自覚はなく、無免運転は犯罪ということもわからなければ、普通に車に乗る。そして信号無視、運転ミスをして取り返しのつかない事故となる。

ではどうすればいいのか。

家族や介護事業所が縛りつける、鍵をかけて閉じ込めるという虐待は違法だ。やはり認知症高齢者には、介護保険を利用して介護職による見守りが必須なのだ。

現代はGPSが発達し、徘徊による迷子は工夫によって避けることができるかもしれない。地域包括ケアが順調に進行して、地区によっては認知症高齢者の見守りができるかもしれない。しかしバラつきがでるのは当然で、まったく機能しない市区町村も膨大に現れるはずだ。

介護にもっとも手のかかる要介護度の低い認知症高齢者に対する、介護保険負担増という抑止力は、すぐに大きな打撃として社会にはね返ってくる。取り返しのつかない荒れた社会になる前に、軽度要介護高齢者の介護保険切り捨ては見直してほしいと切に願う。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50297?page=3

 

働くことはいつから「苦役」になったのか ?余暇を楽しむのが人生?
残業時間の量よりも大事なこと

2017.3.24内山 節

労働はいつから「苦役」になったか

労働を意味するフランス語のトラバイユは、ラテン語のトリパリウムを語源としている。元々は重い荷物を載せた車輪がきしむ音からきた言葉であり、古代の奴隷たちの労働をさす、労苦、苦役というような意味で使われるようになった。

といってもヨーロッパの人たちが、労働を単なる苦役だと思っていたわけではない。

実際に働いている人たちが書き残した文書としては、古くは石工の書いたものが残されているが、それを読むと労働には苦しいことも楽しいことも達成感もあって、けっして労苦だけだと感じていたわけではなかった。

おそらくそれが、中世までの普通の人たちの感覚だろう。

ところが労働=労苦というとらえ方が、近代になると甦ってくる。

産業革命が起こり、近代的な労働者が生まれてくると、労働者のなかからは自分たちの労働を労苦だととらえる人たちがふえてきた。その原因はヨーロッパの近代社会が、階級社会として形成されたことと関係していた。

労働が労苦になるかどうかは、その労働がどのような関係のなかでおこなわれているのか、が強く影響している。

たとえば自営業者はしばしば長時間労働をしているが、疲れることはあっても労苦と感じることはないだろう。命令された労働でも監視された労働でもなく、自分の意志でおこなっているのだから苦役ではないのである。

近代に入って労働=労苦という感覚が甦ってきたのは、階級社会の下で、労働者は命令に従うだけ、監視下におかれるだけの労働に従事しなければならなかったことが原因だった。

それではお金と引き替えに自分の労働力を消耗させるだけになってしまう。とすればこの労働を労苦としてとらえる人たちがふえていくのも当然のことである。

もちろん身体や生活を壊してしまうような長時間労働が許されるわけではないが、労働を苦痛なものに代えてしまう要素としては、どんな関係のなかでその労働がおこなわれているのかが大きいのである。

こんなこともあった。

日本は1960年代に入るとさまざまな工場で技術革新が進んでいった。ベルトコンベアの前に立ち、一日中単調で単純な同じ労働を繰り返す。そんな工場が各地に生まれていった。

それは疎外された労働という言葉を一般化したが、当時の調査結果を見ると、労働者たちが疎外感を感じていたのは、このような労働の変化以上に職場の人間関係の変化だった。

技術革新に伴ってそれまでの横に結ばれた職場の雰囲気が変わり、管理職と一人一人の労働者という縦型の職場ができたことに、労働者たちは「疎外」を感じていたのである。

NEXT 人生の楽しみは余暇にアリ?

人生の楽しみは労働以外で

さらに次のことも付け加えておかなければならない。

20世紀に入るとアメリカで、生産管理の方法として時間管理という手法が広がっていく。

産業革命自体は、すでに18世紀にイギリスで起こっていたが、このときからすべての労働が単調労働に変わったわけではなかった。とりわけ金属機械などの分野では、工場のなかの生産は職人的な労働によっておこなわれていたのが現実だった。

ところが20世紀になると画期的な手法が「発明」される。

職人的な労働の内容を分解し、単純労働を横につなぐことによって、熟練の職人と同じ生産ができる方法が生まれたのである。

その創始者はテーラーやフォードであったが、労働が単純化されればその労働のスピードが最大になるように管理することができる。このことによって労働の効率性を最大化させることができるようになった。

労働が「何かをつくりだすこと」から、その作業に従事する時間に変わったのである。経営者たちは時間管理をとおして、労働を統制することができるようになった。

ところがこの変化は労働者たちには不評だった。自分の腕に誇りをもって働いていた人間たちが、管理された時間労働をするだけの人間になってしまったからである。

この不満を解消するために、20世紀前半のアメリカでは余暇という考え方が出てくる。

たとえ労働は苦役でも、そのことによって高い収入を得て余暇を楽しむ。それが人間的な生き方だという提案である。労働のなかにあった誇りや楽しみを奪い去る代わりに、労働の外に楽しみをつくりだそうとしたのである。

私たちが直面しているふたつの課題

現代社会はこの変化の延長線上につくられている。

退社後の時間や休日、夏休みなどを楽しむ。さらには家を購入したり車や電気製品などを買いそろえる。子どもたちを進学させる。そういうところに人生の楽しみを設定し、労働自身の楽しさはあきらめさせる。

ゆえに、働いても労働外の楽しみが実現できないような低賃金や長時間労働がおこなわれることは、社会的正義に反することととらえられるようになった。

とすると私たちは、ふたつの課題を背負っていることになる。

ひとつは現実がそうなっている以上、労働外の楽しみの実現を阻害するような待遇、働き方は改革されていかなければいけないという課題である。

だがそれは根本的な解決だろうか。もうひとつ、労働が時間管理としておこなわれるという非人間性の問題があるはずである。

納得できる労働を3時間することより、諒解できないままに1時間の労働をする方が精神的な負担が大きいといったことはしばしば起きうる。

そしてこの諒解できない労働が発生する原因は、その労働がどういう関係のなかでおこなわれているのかに起因している。

納得できる関係として労働がおこなわれているのなら、その労働は働きがいにもなる。しかし諒解できないのならそれは苦痛、苦役であり、この問題が古くは産業革命の時代から、20世紀に入ると幅広い分野で発生していたのである。

NEXT 納得ができる労働とは

自分の労働に納得、諒解できるかどうかは、どこに境界線があるのだろうか。それは自分の労働が「職人的」におこなえているかどうかである。

ここでいう「職人的」とは、最終的につくりだされていくものが自分の目に見えていて、それをつくりだすプロセスがわかっている。さらにこの過程での自分役割が有益なものとして理解され、その役割をこなしていくために自分の経験や能力が有効に働いていると感じられるということである。

実際、伝統的な農民や職人、商人たちは、そのようなかたちで自分の労働をおこなってきた。

とともに今日の企業のなかにも、そういう労働のあり方を内蔵していることがないわけではない。だからこのような分野では、長時間労働が疲労はもたらしても、苦痛にはならないということも生じる。

本当の「働き方改革」とは

さてこのように考えていくと、「働き方改革」が、時間管理だけであってはならないということがわかってくる。

もちろん現在の状況では、子育てもできないような長時間労働がおこなわれたり、長時間労働が精神的な圧迫を与える状況が生まれている以上、残業規制なども必要であることはいうまでもない。安心して働くためには、低賃金な非正規雇用を減らしていく努力も重要である。

だがそれは、時間管理を徹底することでしかないのである。

労働時間を減らして余暇をふやすというのも時間管理だし、労働時間を減らそうとすれば、おそらく多くの企業では、労働密度を高めようとするだろう。すなわち、就労時間の時間管理が徹底されることになる。それでは労働の苦役度を上げることによって、労働外の時間を増やすことにしかならない。

私たちの最終的な課題は、労働を人間的なものに変えることだ。時間管理でしかないような労働からは、人間的な労働は生みだされない。

だからいまそのことに気づいている人たちは、時間管理の世界から自分の労働を解放しようとして、職人的な労働が可能な世界に移動しようとしている。

それはときに農民的な世界であったり、伝統的な職人の世界、小さなベンチャービジネスやソーシャル・ビジネスの世界だったりするのだが、そういうものに移動する動きがいまでは日本中で起こっている。

それらは一面では低収入な労働や長時間労働をもたらしたりするのだが、そんなことよりも労働が時間管理でしかないことから自由になることの方が、そういう人たちにとっては重要なのである。それが彼らや彼女たちの「働き方改革」である。

社会的正義に反するようなことは変えなければいけない。だが「社会的正義に反すること」のなかに、時間管理でしかなくなった労働をどう改革するのかということをふくめなければ、根本的な解決にはならないのである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51300

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/454.html

[政治・選挙・NHK222] 日本では議論されない南スーダン「絶望的な現状」?これが本当の論点  激動の世界に目を向けない国会は、解散したほうがいい 
日本では議論されない南スーダン「絶望的な現状」?これが本当の論点
未曾有の人道危機はなぜ起きているか
栗本 英世大阪大学大学院教授
社会人類学、アフリカ民族誌学プロフィール

南スーダンで起きていた「戦闘」

2017年3月10日、首相官邸で開催された国家安全保障会議の結果、日本政府は国連PKOの一員として南スーダンに派遣されている自衛隊を5月末に撤収することを決定した。

昨年から、自衛隊の南スーダン派遣の是非と「駆け付け警護」という新任務に関して、日本の国会やメディアでは、さまざまな議論がおこなわれてきた。焦点は、2016年7月に南スーダンの首都ジュバで生じた事態が、「衝突」であったのか、「戦闘」であったのかという問題であった。

たんなる衝突であったという政府の主張にかかわらず、これは軍隊同士のまぎれもない戦闘であった。かつ、政府軍と反政府武装勢力の衝突ではなく、二つある政府軍が戦ったのだった。

まず確認しておきたいのは、7月8日に、ジュバでいったいなにが生じたのか、そしてだれとだれが交戦したのかという事実である。

この日、大統領官邸で、サルヴァ・キール大統領とリエック・マチャル第一副大統領、および南スーダン暫定国民統一政府(TGoNU)の閣僚たちのあいだで会議が開かれており、終了後には記者会見が開かれる予定であった。大統領と第一副大統領は、かならず警護隊に警護されて移動する。

7月8日も、大統領と第一副大統領の会談中、大統領官邸の周囲と構内に、双方の警護隊が待機していた。7月8日の戦闘の発端は、二つの警護隊のあいだで発生した銃撃戦であった。この銃撃戦は、2015年の和平合意後は沈静化していた内戦が再燃したものであり、その意味で内戦という戦争の一部と捉えられるべきである。

大統領警護隊と第一副大統領警護隊は、いずれも政府軍の兵士から構成されている。ただし、政府軍は二つある。つまり、スーダン人民解放軍(SPLA)とスーダン人民解放軍=野党派(SPLA-IO)である。

2013年12月に勃発した内戦状態のなかで、SPLAは、キール大統領の指揮下にとどまったSPLA本体と、マチャル元副大統領の側についたSPLA-IOに分裂し、内戦は主として二つのSPLAのあいだで戦われたのだった。政府軍と同様に、政権党であるスーダン人民解放運動(SPLM)も、SPLMとSPLM-IOに分裂した。

2015年8月の和平合意「南スーダンの紛争解決のための合意」(ARCSS)に基づいて樹立された現在の南スーダン暫定政府は、「一政府二政府軍」という、あまり類例のない制度を採用しているのである。

2015年の和平合意では、90日以内に、つまり2015年11月中にSPLMとSPLM-IOの両派と他の政治勢力が参加する南スーダン暫定国民統一政府が樹立されること、暫定政府の樹立後は、二つの軍隊が政府軍として併存し、180日以内に一つに統合されることが規定されていた。

また、ジュバから半径25キロメートル以内は「非軍事化」され、その圏内に駐屯していたSPLAの諸部隊はすべて圏外に撤退し、首都圏内には大統領警護隊と第一副大統領警護隊だけが存在することになっていた。

和平合意の執行は遅れ、SPLM/SPLA-IOの主要メンバーがジュバに戻って、マチャル元副大統領が第一副大統領に就任し、暫定政府が発足したのは2016年4月末のことであった。

それからわずか2ヵ月あまりの後に、ジュバで戦闘が再開され、和平合意は事実上破綻した。

だれも銃撃を止められなかった

7月8日に大統領官邸で発生した銃撃戦の直接の原因は、現在に至るまで不明である。ただし、その数日前から、SPLAとSPLA-IOとのあいだで殺傷事件が散発し、緊張が高まっていたのは事実だ。

銃撃戦は、大統領と第一副大統領をはじめ、暫定政府の首脳たちと、外国メディアを含むジャーナリストたちのすぐ目の前で発生した。その場での死者は100名を超えた。つまり、ほとんど全員が死傷するまで、だれも銃撃を止められなかったのである。

翌9日は、南スーダン共和国の独立記念日だったが、祝賀行事どころではなかった。戦闘は小休止を迎えたが、10日から11日にかけて、大統領側政府軍(SPLA)は、首都圏外から地上部隊と戦車部隊、および攻撃用ヘリコプターを動員し、副大統領警護隊の駐屯地を激しく攻撃した。

この軍事行為自体が、和平合意違反である。

このとき、ジュバにいたSPLA-IOの総兵力は副大統領警護隊の1,200名程度の兵士だけで、軽火器で武装していただけであった。SPLA-IOの主力部隊は、遠く離れた上ナイル地方におり、増援と武器弾薬の補給の可能性はなかった。つまり、軍事的にはSPLA-IOは圧倒的に不利だったのだ。

しかし、SPLAの総攻撃をよく持ちこたえ、11日にはキール大統領とマチャル第一副大統領が停戦を声明し、ジュバでの戦闘は終息した。

NEXT ?? 二人に一人が飢えている

内戦の再燃と未曾有の人道危機

マチャル第一副大統領とその警護隊の生き残りは、ジュバを脱出し、SPLAの追撃を防戦しつつ、逃亡を続けた。その間、大統領はマチャルを罷免し、首都に居残っていたSPLM/SPLA-IOの指導部は、鉱山大臣であったタバン・デン・ガイを新たな第一副大統領に選んだ。

これによって、SPLM/SPLA-IOは、マチャル派とデン派に分裂することになった。マチャル派は、もちろんデンの第一副大統領就任を認めていない。

2016年7月以降、再燃した内戦は新たな展開をみせた。それまで相対的に安定していたエクアトリア地方に戦火が拡大したのである。

2013年12月から2015年8月までは、内戦の主戦場は、スーダン・エチオピアと国境を接している北部の上ナイル地方の三州――ジョングレイ州、ユニティ州、上ナイル州――であった。

南スーダン共和国の地図
首都ジュバがあるエクアトリア地方は相対的に平和な状態が継続していた。この「エクアトリアの平和」は、2016年7月以降、破綻することになった。

その原因は、ジュバから逃亡した副大統領警護隊の一部が、マチャル元副大統領とともにコンゴ民主共和国領内まで避難するのではなく、中央エクアトリア州や西エクアトリア州にとどまったためと、エクアトリア人のなかからSPLA-IOと連携しつつ、キール大統領の体制に叛旗をひるがえす武装集団が誕生したために、SPLAと大統領民兵との戦闘状態が生じたことである。

SPLA-IOと、SPLA・大統領民兵の双方は、市民に対する攻撃と掠奪を繰り返した。とりわけ後者による被害は甚大であり、多数の人びとが生命の安全のために、国境を越えてウガンダに避難する直接的な原因となった。とくに中央エクアトリア州南部のイエイとカジョケジ地域では、大半の住民が難民となった。

国連難民高等弁務官事務所の統計によると、2013年12月に内戦が勃発した時点での南スーダン難民の数は約11万人であった。それから2年7ヵ月後の2016年7月はじめの時点では、84万人に増加していた。

それ以降、難民は急速に増加する。

9月には100万人を超え、2017年2月には150万人に達した。とくに、エクアトリア地方からウガンダへの難民の流入が著しい。同時期、国内避難民は210万人に達した。さらに数百万人が食糧不足に直面し、一部では飢餓が発生している。

南スーダンの総人口は、1,300万人と推定されている。現在の南スーダンは、全人口の3割ちかくが難民か国内避難民になり、半数以上が飢えに苦しむという、未曾有の規模の人道危機に直面しているのである。

エクアトリア地方だけでなく、上ナイル州では依然として、大統領側SPLAと元副大統領側SPLA-IO、およびそれぞれと連携する武装集団との戦闘が継続している。

昨年来、日本政府は、ジュバは相対的に安定していると繰り返し表明してきた。たしかに、昨年7月の戦闘終了後、ジュバでは軍事的衝突は発生していない。

しかしこれは、政権が安定しているからでも、キール大統領が国民的支持を得ているからでもない。大統領側が、反大統領とみなした勢力を首都から軍事的に一掃した結果にすぎない。

ジュバを一歩外に出ると、国土の大半は内戦状態にあり、政府は事実上機能しておらず、数百万という国民が生命の危機にさらされているのである。

NEXT ?? 稲田大臣の奇妙な見解

国際性が欠如した議論

2016年7月にジュバで生じた事態が戦闘ではなく武力衝突であったという認識の根拠として、稲田防衛大臣は10月の参院予算委員会において以下のように述べた。

つまり、「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたは物を破壊する行為」であるから、ジュバの事態は戦闘ではなく衝突であるというのである。

稲田大臣は、2017年2月の衆院予算委員会でも同様の見解を繰り返した。これは奇妙な見解である。

まず、この戦闘行為の定義は、どの法に規定されているのか、あきらかにされていない。

つぎに、「国際的な武力紛争」が、国同士の紛争、つまりある国の政府軍とべつの国の政府軍とのあいだの紛争を意味しているとすると、これは時代遅れの、世界の現状に適合しない定義ということになる。

なぜなら、冷戦終結後の世界における武力紛争のほとんどは、「内戦」であるからだ。

稲田大臣の認識によると、いかに激しく、大規模であっても内戦は「国際的な武力紛争」ではないので、そこにおける戦いは戦闘行為ではないことになる。残念ながら、野党議員はこうした問題点を議論の俎上にあげることはなかった。

私は、日本における自衛隊の国連PKO派遣をめぐる議論は、内向きで国内事情だけを背景にしているという点で、一面的で表面的であると考えている。

つまり、自衛隊の派遣を規定している国際平和協力法(PKO協力法)に照らして適切かどうか、究極的には、派遣先に国や地域の状況が、「参加5原則」の第1項、「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」に相当するかどうかに議論の焦点がある。

そこでは、国際的な事情がまったく看過されている。

NEXT ?? いま本当にすべきこと

国づくりが破綻した状況ですべきこと

国際的な事情には二つの側面がある。

第一に、国連PKOの派遣対象国である南スーダンの状況である。

22年にわたったスーダン内戦をへて、2011年にスーダンから分離独立した、世界で一番新しい国家である南スーダンは、なぜ国連PKOの派遣を含む国際的な支援を必要としているのか、この国の政治・軍事・経済・社会的状況はどうなっているのかという問題がある。

第二に、南スーダンに派遣されている国連PKO(国連南スーダン派遣団、UNMISS)の目的と業績に関する評価という問題がある。

当初、UNMISSは平和構築の実現、平和の定着と復興・開発のために派遣された。言い換えれば、派遣の目的は、長年の内戦で荒廃した新興国家の国家建設(ステイト・ビルディング)と国民建設(ネイション・ビルディング)に貢献することであった。

内戦勃発後の2014年4月、派遣の優先目的は、市民の保護に変更された。

南スーダン情勢の変化に対応して、国連PKOの目的も変化している。派遣開始以来、流動的な情勢のなかで、目的はどの程度実現されており、そのなかで自衛隊が果たしている貢献はどう評価されるべきなのかという問題の検討が必要である。

2005年以降、日本を含む国際社会は、南スーダンに対して大規模かつ長期的な支援を実施してきた。国連PKOの派遣は、その一部である。自衛隊の派遣は、中期的には平和の定着と国家・国民建設の支援、短期的には市民保護と人道援助の支援という全体的枠組みの中に位置づけられねばならない。

現時点で、まず議論されるべきなのは、南スーダンの数百万の人びとが直面している未曾有の人道危機に、いかに対応するのかという問題だろう。

安倍晋三首相は、自衛隊の撤収を表明した3月10日の記者会見で、「南スーダンの国づくりが新たな段階を迎えるなかで、自衛隊が従事してきた道路整備の事業が終了すること」を撤収の理由としてあげた。

「新たな段階を迎えた国づくり」とはいったいなにを指しているのだろうか。南スーダンの状況を少しでも知っている者にとっては、現在の南スーダンは、国づくりが破綻した状況にある。自衛隊撤収の理由は理解不能である。

(つづく)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51265?page=4

南スーダン撤退 あの日報を引きずり出した情報公開請求の「威力」
全ては一つの疑問から始まった
現代ビジネス編集部
プロフィール

火をつけたのは、ひとつの文書

まさに青天の霹靂というほかない。3月10日、午後6時。安倍晋三首相は、南スーダンにPKO派遣されている自衛隊の部隊を、5月末をめどに撤収させる考えを明らかにした。

今国会では南スーダンの治安を巡り、与野党間で激論が交わされた。火をつけたのは、ひとつの文書だった。

政府はこれまで「自衛隊が活動する首都のジュバ市内は比較的安定している」と繰り返してきたが、現地の部隊が昨年7月に作成した「日報」が発見され、そこに<戦闘>という文言があったことが明らかになり、様相は一変。「戦闘地域に自衛隊を派遣することは、PKO法にも憲法にも反している」と指摘する声が続出したのだ。

安倍首相は撤退の理由について「南スーダンでの活動が今年1月に5年を迎え、部隊の派遣としては過去最長となり、一定の区切りをつけられると判断した」と語ったが、「日報」が発見されたことで議論が再燃し、それが撤退の判断に影響を与えたのは明らかだろう。

本来なら公開されることのなかったこの文書が明るみに出たのは、昨年9月、ジャーナリストの布施祐仁氏が防衛省にかけた情報公開請求がきっかけだった。布施氏が血道をあげた日報問題。その経緯を振り返りたい。

きっかけは「教訓要報」

そもそも情報公開請求をかけるには、ある程度具体的に「この情報を開示してほしい」と指定しなければならない。つまり、日報の存在を知らなければ、請求のしようもない。布施氏が防衛省に日報の公開請求をかけたのは、昨年9月末のこと。布施氏はどのようにして、日報の存在に気づいたのか。

話は2015年9月、安全保障関連法案が国会を通過した直後にさかのぼる。

「安保関連法が成立したことで、自衛隊の新任務として駆け付け警護が認められることになりました。当時より政府は南スーダンに自衛隊をPKO派遣していたので、最初に駆け付け警護任務が付与されるのは、南スーダンのPKO活動になることは明らかでした。そこで、南スーダンに派遣されている自衛隊の活動について、情報公開制度を利用して詳しく調べてみようと思ったんです。

とはいえ、こちらは防衛省がどんな文書を持っているかは分からないので、最初は大雑把な内容で請求をかけるしかない。まずは、2013年12月に南スーダンで内戦が勃発した時に活動していた、第5次隊の活動状況をまとめた文書を開示請求しました。おそらく、報告書のようなものは存在しているだろうから、それを出してほしい。と。

すると、『教訓要報』という文書が開示されました。いわば、現地で発生したさまざまな事案と、そこからくみ取るべき『教訓』をまとめた資料です。ここに<自衛隊宿営地近傍で発砲事案が発生し、全隊員が防弾チョッキ及び鉄帽を着用><宿営地を狙った襲撃・砲撃も否定できない>といった、現地の緊迫した状況が記されていたのです。『平和維持活動』と言っているけど、これはもう戦争だな、と」

「教訓要報」によって改めて南スーダンの危険な状況を認識した布施氏は、他にも重要な資料があるはずだと、以後、防衛省に継続的に文書の公開を請求した。

「その過程で、南スーダンに派遣される隊員を教育する『国際活動教育隊』が使っているテキストが開示されました。そのテキストに、隊員たちの訓練内容を検討する上で、派遣部隊が作成する『日報』を基礎資料として活用している、と書かれていた。これが、日報の存在を知るきっかけでした」

NEXT ?? 防衛省を追い込んだ「つぶやき」

あまりにずさんな防衛省の対応

布施氏が調査を進めていた最中の2016年7月、南ジュバで150人以上が死亡する大規模な戦闘が発生した。このとき、現地の自衛隊がどんな状況に置かれ、それにどう対応したのかを知りたいと思った布施氏は、防衛省に対し、戦闘の期間中に「南スーダンに派遣された部隊が作成した日報」の情報公開請求を行った。これが、2016年9月30日のことだ。

その後の防衛省のずさんな対応はすでに広く報じられているが、ここでもう一度確認しておきたい。

通常、情報公開請求を行うと30日以内に開示か不開示かが通知される。だが、10月30日に布施氏のもとに届いたのは<開示決定期限延長>の通知。「開示決定にかかわる事務処理や調整に時間を要する」というのが理由だった。

そして12月2日、防衛省から布施氏のもとに「日報はすでに廃棄しており不存在」という連絡が来る。開示でも不開示でもなく、すでに廃棄したので公開しようがない、というのだ。

実際に届いた不開示決定通知書
「この決定には強い違和感を持ちました。文書が届いてみたら『のり弁』のように重要な部分が黒塗りされていることはよくありますが、わずか3、4カ月前に作成された文書が廃棄されて存在しないというのは、初めてのことでした。しかも、これから先の訓練内容を考えるための基礎資料として活用されているような自衛隊にとっても重要な文書が、こんな短期間に廃棄されているなんてあり得ないと思いました。

その直前の11月15日、政府は新たに南スーダンに派遣する自衛隊の部隊に駆け付け警護の新任務を付与する閣議決定を行いました。そして、同30日に、第11次隊が青森から出国した。請求開示期限を延長したのは、新任務付与と派遣前に議論が起こることを避けたかったからではないかと思えてなりません。

とにかく、常識的に考えても廃棄したというのはおかしいだろう、と。そうSNSで発信したところ、ものすごい勢いで拡散し、方々から『これはおかしい』という反応が返ってきました」

布施氏がツイッターで公開したところ、4000件近いリツイートがあった
自民党の河野太郎議員も、「廃棄」に違和感を持った一人。元公文書管理担当大臣で、現在は自民党の行革推進本部長を務める河野議員が日報の存否を再調査するよう防衛省に要求、さらに稲田朋美防衛大臣も文書の再捜索を指示したこともあり、防衛省はついに「日報」を出さざるを得なくなった(といっても、隠ぺいしていたのではなく、廃棄されているはずのデータがたまたま見つかったというスタンスは最後まで崩さなかったのだが)。

NEXT ?? 厄介な「原則」

情報公開は有力な「武器」である

ようやく公開された「日報」。そこに「戦闘」という文言が何度も出てくるため、「ジュバは安定している」という政府の従来の見解に偽りがあるのではないか、という議論に発展したのは、周知のとおりだ。

「第11次隊が派遣される前に日報が開示されていれば、自衛隊に駆け付け警護を付与すべきかどうかについて、もっと活発かつ有益な議論が交わされていたはずです。国民や国会が真実をもとに議論する機会を奪われたということを、深刻にとらえなければなりません。

不幸中の幸いというべきか、今回の請求がきっかけとなって再度議論がはじまり、安倍首相は南スーダンの撤退を決断しました。日報が公表されたことが今回の撤収の政治判断に少しでも寄与したならば、情報公開によって国会や国民の間で活発な議論が行われ、それが政治判断に反映されるという、国民主権のひとつの「理想形」を実現できたことになります。それは喜ばしいことだと思っています。

そして、私は過去の取材でも情報公開制度を利用してきましたが、改めて情報公開の重要性を認識しました。

この国は、これまでにも増して重要な情報を国民に開示しない方向に傾いている――私はそう感じています。マスメディアが、国家権力が隠す『不都合な真実』を暴いてくれればいいのですが、残念ながら今のメディアの状況をみると、それにも限界があるでしょう。情報公開制度は私たちがもっと利用すべき、誰にでも使える有力な『武器』なのです」

日本で情報公開制度がはじまったのは、2002年のこと。総務省ホームページには施行以降の開示請求件数が公開されており、年々その数は増えている。が、主な請求内容は「不動産登記に関するもの」や「医薬品の承認関係」など、ビジネスに関わるものがほとんどだ。国の政策に関わるような情報の公開は、そもそも請求の数が少ないか、あるいは「不開示」とされる場合も少なくない。

さらに、総務省は不開示となる6つのケースを挙げているが、<審議・検討等に関する情報で、意思決定の中立性等を不当に害する、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある情報>というものがあり、これが厄介だ、と布施氏は言う。

「過去に情報公開請求を行ってきたなかで、何度かこの理由を盾に開示を拒まれたことがあります。しかし『この情報が表に出たら、反対意見が出てきて困る』というのは、前提がおかしい。可能な限りの情報を国民に提示して、反対意見も踏まえて議論しながら政策決定を進めていくのが、民主主義国家のあるべき姿でしょう。だから、情報公開法では『原則開示』とされているのです。

ところがこの国では、情報公開制度を支えるべき予算も人員も十分ではない。さらにいえば、そもそもなぜ必要なのか、という理念の共有が進んでいないのです。仏作って魂入れず、ということです。

今後も、私は情報公開制度を積極的に利用します。日本の場合は、重要な情報が真っ黒に塗り潰されて出てくることも多く、つい使えないと思ってしまいがちですが、そのこと自体をSNSを通じて発信し可視化することも重要です。今回の日報はまさにそうでしたが、そうすることで、政府・行政が何を国民に隠そうとしているのか、いかに情報公開に熱心でないかを訴えることができますから。

それを繰り返すことで、次第に現状の情報公開制度には問題がある、という認識が広まって、改善に向かっていくことを期待しています」

一通の情報公開請求が、国の決定を動かす可能性がある――。制度施行から15年という節目に起こった「日報問題」を奇貨とすべきだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51186?page=3


 


 

激動の世界に目を向けないような国会は、解散したほうがいいのでは?
森友事件に引きずられている場合なのか
長谷川 幸洋ジャーナリスト
東京新聞・中日新聞論説委員プロフィール

貿易戦争ののろしがあがった?

日本の国会は森友事件一色だ。だが世界に目を転じると、経済も安全保障も一段と雲行きが怪しくなっている。国会は怪しげな人物の言動に振り回されている場合なのか。

まず米国のトランプ政権である。政権発足からしばらく、株式市場はトランプ・ラリー(活況)に湧いていたが、にわかに不透明感が増してきた。東京市場は3月22日、NY市場の下落に引きずられた形で大きく値を下げた。

市場関係者が懸念したのは、政権が打ち出した減税政策がいっこうに具体化されない点である。加えて、18日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も悪材料になった。G20の共同声明から「保護主義に反対する」趣旨の文言が消えたからだ。

G20の声明は、これまで必ずと言っていいほど「保護主義に反対する」趣旨の文言を盛り込んでいた。たとえば、昨年7月のG20財務相・中央銀行総裁会議は「あらゆる形態の保護主義に対抗する」と訴えたし、同9月のG20首脳会議も「保護主義を拒否」すると書いていた。

麻生太郎財務相は会議後の会見で「『毎回、同じことを言うな』って言って、次のとき言わなかったら『なんで言わないんだ』という程度のもの」と語り火消しに努めているが、私は軽視できない。

トランプ大統領はかねて中国や自動車問題を抱えた日本、あるいはメキシコを念頭に、20%とか38%といった数字も挙げて高関税を課す発言を繰り返してきた。そんないまだからこそ、保護主義に反対するのは重要ではないか。

トランプ氏が大統領に就任して初めてのG20で「保護主義に反対する」文言が盛り込まれなかったとあれば、どう見ても「米国が反対したから」に決まっている。自由貿易の旗手だった米国が、あきらかにスタンスを変えてきているのだ。

かろうじて共同声明に「さらなる包摂性」なる言葉が残ったのは救いだったかもしれない。日本語だと分かりにくいが、英語は「greater inclusiveness」である。経済成長は少数の先進国だけが享受するのではなく、新興国や途上国を含めた多くの国が恩恵に与るようにすべきだ、と訴えている。この言葉はこれまでも入っていた。

世界が保護主義に走れば、資源の豊かな国と乏しい国、あるいは成長できた国と取り残された国の間で格差が一段と広がりかねない。「そうならないように努力する」と一応は確認した形である。

それでも「米国第一主義」を唱えるトランプ政権は、他国を犠牲にしても米国の利益を優先するだろう。そうなれば、G20や先進国首脳会議(G7)が貿易問題をめぐって激しい対立の場になりかねない。

たとえば米国の貿易不均衡が拡大し、トランプ政権が悪名高い通商法301条を発動したとする。この条項は米国が特定国の貿易慣行を不公正と認定すれば、一方的に制裁を発動できる、という内容だ。世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いもある。

米国はWTOの紛争解決手続きに基づくパネル(小委員会)裁定を受けて、実際の発動を控えてきたが、トランプ政権が発動するようなら、日本を含め各国が黙っているわけがない。つまり、今回のG20は新たな貿易戦争の序章なのかもしれないのだ。

NEXT ?? 国会はなにをしているのか

そんな国会ならさっさと解散したほうがいい

懸念材料は他にもある。

米国を訪問したドイツのメルケル首相が3月17日、トランプ大統領と会談した際、記者団が2人に握手を求めたのに大統領は拒否した。メルケル首相は大統領にわざわざ「私と握手したいですか」と言葉をかけた。大統領はこれを完全に黙殺した。

先の日米首脳会談で安倍晋三首相の手を握って離さなかったのとは、対照的な非礼の扱いだ。背景にはメルケル首相がトランプ大統領のイスラム移民排斥政策を公然と批判してきた事情がある。

大統領もドイツの難民受け入れ政策を批判してきた。それだけではない。大統領は後で撤回したものの、一時は北大西洋条約機構(NATO)が定めた米国の欧州防衛義務も果たさない可能性を語っていた。大統領は欧州に冷ややかである。

そんな中、安倍首相は3月19日から欧州に出かけ、22日までにドイツ、フランス、ベルギー(欧州連合)、イタリアの4カ国を訪れた。これは欧州各国との連携強化に加え、5月にイタリアで開かれる先進国首脳会議に備えた地ならしだった。

米欧関係に冷たい空気が流れる中、安倍首相が欧州を訪問したのは重要な意味がある。日本の安倍首相が米欧間の調整役になりつつあるのだ。

2月17日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50998)で指摘したように、2月に開かれた日米首脳会談の大きな成果は、2人の首脳の間で交わされた「マルチの場では必ず日米首脳会談を開く」という約束だった。それは「世界の主要問題は日米が主導権を握って議論をリードしていく」という意味にほかならない。

いまや、それが現実になりつつある。欧州の首脳たちはトランプ大統領の人となり、政権の行方、対応策など安倍首相を質問攻めにしたに違いない。首相は大統領と1.5ラウンドのゴルフに加えて5回連続で食事した仲なのだ。こんな首脳は他にいない。

米欧関係が冷えているからこそ、日本の存在が大きくなる。とはいえ、米欧の溝が深まってG20やG7が分裂するようなら、日本は間違いなくダメージを受ける。まさに日本が米欧を相手にどう舵取りしていくか、に国益がかかる局面なのだ。

東アジアの情勢はどうかといえば、先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51236)で書いたように、韓国では親・北朝鮮政権の誕生が確実視される一方、北朝鮮の金正恩最高指導者は核とミサイルの開発を急ピッチで進めている。

世界がこれほど激動しているのに、日本の国会は何をしているのか。朝から晩まで野党が追及する森友事件に振り回されている。はっきり言おう。そんな国会ならさっさと解散したほうがいい。

産経新聞の阿比留瑠比記者も書いていた(http://www.sankei.com/premium/news/170320/prm1703200019-n1.html)が、私は3月20日放送のニッポン放送の番組「ザ・ボイス そこまで言うか!」で彼の記事を紹介しつつ「まったく賛成」と述べた。

本当に安倍首相が解散するかどうかは別にして、こういう真っ当な意見がほとんど出てこない現状はどうかしている。いつまでも森友事件に引きずられるようなら、首相は決断すべきではないか。

最後に「ニュース女子」の件にも触れておこう。番組を制作しているDHCシアターは3月13日に沖縄特集の続編を放送した(https://www.dhctheater.com/season/23/)。TOKYO MXは独自の判断で放送しなかったが、ぜひネットでご覧いただきたい。

私は25日に発売される「月刊HANADA」5月号に長文の総括記事を寄稿した。番組と私を批判した津田大介、青木理、山口二郎、香山リカ、深田実(東京新聞論説主幹)各氏らについても、実名を挙げて反論、徹底批判した。こちらも合わせて、ご一読を。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51288
http://www.asyura2.com/17/senkyo222/msg/832.html

[国際18] ドイツとトルコの罵り合いが、欧州に「最悪の結末」をもたらす可能性 また一つ、世界に新たな火種が出現した 川口 マーン 惠
ドイツとトルコの罵り合いが、欧州に「最悪の結末」をもたらす可能性
また一つ、世界に新たな火種が出現した
川口 マーン 惠美作家
拓殖大学日本文化研究所 客員教授プロフィール

メルケル氏をナチ呼ばわり

ここ1ヵ月、トルコがEUを相手に大暴れだ。とくに、ドイツとオランダの対トルコ関係が急激に悪化している。つい最近まで、毎日、トランプ氏の動向を非難がましく報道することに明け暮れていたドイツメディアも、今ではトルコ非難ばかり。

この騒動には、3月15日に実施されたオランダ総選挙と、4月16日に予定されているトルコの国民投票が深く関係している(いた)のだが、日本ではそこらへんがほとんど報道されない。

オランダの総選挙の結果はというと、極右だとか、ポピュリストだとか言われているヴィルダー氏(PVV・自由党)が負けて、現与党のルッテ氏(VVD・自由民主国民党)が再び第一党になった。メディアはこの選挙結果を寿ぎ、ヨーロッパの理性の証明などと言っているが、そんな単純なものではないだろう。

ヴィルダー氏(左)とルッテ氏(右)〔PHOTO〕gettyimages
ルッテ氏が、迫り来る右派ヴィルダー氏の追い上げを辛くも振り切れたのは、選挙戦最後のギリギリになって、まさにそのヴィルダー氏の主張であった反移民政策を、巧妙に横取りしたからとも言えるのだ。

一方ドイツ政府も、これまでは、トルコ政府が自分たちに浴びせてくる火の粉は、大人の対応で乗り切ろうとしてきたが、ここに至って方針を変えたようだ。

トルコのエルドアン大統領が、メルケル氏をナチ呼ばわりしたことに対し、3月20日、ドイツ政府は強く抗議をし始めた。すると、21日、エルドアン氏が「ヨーロッパは第二次世界大戦直前のファシズム台頭と同じ状況」とさらにダメ押し。

翌22日、新ドイツ大統領、シュタインマイヤー氏が、就任スピーチでトルコに民主主義を要求するという異常事態。まさに泥仕合になっている(大統領は、本来は“政治的”であってはならない)。

就任演説中のシュタインマイヤー氏〔PHOTO〕gettyimages
トルコの政治家は登壇禁止!

さて、この1ヵ月あまり、オランダとドイツで何が起こっていたのか。それをざっと時系列でおさらいしてみたい。

2月17日、トルコ系ドイツ人のジャーナリスト、デニス・ユジェルが、トルコ警察により拘束された。ドイツ国籍のジャーナリストがトルコで拘束されたのは、今回が初めてという。

ユジェル氏はドイツの大手紙“Die Welt”でトルコ批判記事を書いていた記者だ。“独裁者エルドアン"に立ち向かう勇気あるジャーナリストとして人気があった。当然のことながら、トルコ政府にとっては目の上のたんこぶ。特に、トルコでは禁止団体であるPKK(クルド人の政党)にインタビューをしたり、去年7月の軍のクーデターについてのトルコ政府の見解に疑問を呈したりと、トルコ政府の神経を逆撫でするようなことばかり書くので、腹に据えかねていた。

今回の拘束の直接のきっかけは、ユジェル氏が「レッドハック」というトルコのハッカーグループから入手した材料を使ったこと。「レッドハック」というのは、ウィキリークスのトルコ版のようなグループで、トルコではもちろん違法。テロリスト組織の扱いだ。

またトルコ政府は、ユジェル氏が1ヵ月もの間、イスタンブールにあるドイツ大使館の別館の敷地内に匿われていたことを指摘した。つまり今、ユジェル氏には、スパイ容疑や、テロの宣伝活動の容疑が掛けられている。

一方ドイツ側は、ユジェル氏の拘束は民主主義や言論の自由に対する冒涜であるとして抗議し、釈放を要求しているが、不思議なことに、ユジェル氏をドイツ当局が匿っていたという話にはほとんど触れない。いずれにしても、ユジェル氏は今もイスタンブールの刑務所にいる。

NEXT ?? トルコ攻撃をすれば支持率UP?

3月2日、バーデン?ヴュルテンベルク州の小さな町で開かれるはずだったトルコ人の政治集会で、トルコの法相の登壇にストップがかかった。トルコの法相がドイツで何をするつもりだったかというと、4月のトルコ国民投票への投票呼びかけだ。在外トルコ人たちにも参政権がある。それどころか、トルコの有権者の5%は海外に住んでいるという。

これまでドイツは、外国人に対しても、集会の自由や政治活動を認めてきた。ドイツにはトルコ系が300万人もいる。うちトルコでの有権者が140万人。ドイツはトルコの政治家にとっては重要な地盤だ。

そんなわけで、選挙前にトルコの政治家がドイツへ飛んできて、大集会が開かれることは、過去に何度もあった。何千人ものトルコ人が集まり、見渡す限りにトルコ国旗の波が揺れるのを見て、外国人の私は毎回、「ドイツ人のリベラリズム」の徹底に感心したものだった。ところが、今回はそれが禁止されたのだ。

さて、登壇禁止について説明を求められたドイツ政府は、「集会の許可は自治体の管轄」と逃げたが、ここまで大きな外交問題に発展する決断を、人口3万人にも満たない町の町長が勝手に下したはずはない。

しかも、その3日後の5日には、今度はケルンの近くでのトルコ経済相の登壇が禁止され、登壇場所を近郊の小さな町に移そうとしたところ、これも禁止された。理由は、治安が乱される恐れがあるとのことだが、かなり言い訳っぽい。

おかしかったのは、14日、ザーランド州の州知事が、それに乗じて同州でのトルコの政治家の登壇を禁止したことだ。しかしこの州では、トルコの政治家が集会を開く予定などなかった。

ザーランド州は、今月の26日に州選挙を控えており、現知事の人気は陰り気味。そこで、一種のトルコ攻撃で人気の回復を図ろうとしたことが見え見えになり、“ファントム(幽霊)集会”の禁止と揶揄された。

オランダでは入国も拒否!

一方、このころオランダでも、トルコとの不協和音が鳴っていた。

3月11日、トルコ外相がオランダに入ろうとしたら、着陸許可が出なかった。かなり強硬だ。外相の目的地はロッテルダムだったが、結局飛べずじまい。

同日、やはりロッテルダムに入ろうとした家族・社会政策相は、外相が入国できないのを見て、ドイツから陸路で国境越えを試みた。ところが、国境は越えられたものの、ロッテルダムの総領事館への入館を阻止され、そのうえオランダ警察にドイツ国境まで退去させられた。これも異常な話だ。

暴徒化するトルコ人たち〔PHOTO〕gettyimages
総領事館の前で大臣らの到着を待っていたトルコ人たちは、それを知ってもちろん激怒。抗議はたちまち衝突と化した。

そこで、暴徒化したトルコ人を蹴散らすため、オランダ警察が犬を使ったり、放水をしたりした。自国でそれを聞いたエルドアン大統領は烈火のごとく怒り、「オランダ人はファシストである」と怒声をあげた。

トルコのエルドアン大統領〔PHOTO〕gettyimages
トルコとオランダの関係がたちまち悪化したことは言うまでもない。しかも、事態はますますエスカレートしそうな勢いだ。

ただ、オランダのルッテ首相に都合のよいことに、これが国民に受けた。ここで見えてきたのは、今、ドイツでもオランダでも、トルコ攻撃をすれば国民の支持が得られるという事実だ。

そもそも、トルコに対するオランダ政府のこの強硬な態度は、元はと言えば、ウィルダース氏がこれまでずっと貫いてきたことだった。ただ、ウィルダー氏が言えばポピュリズム、国家主義と叩かれる。でも、ルッテ氏がやればOK。

NEXT ?? EUが最も恐れるシナリオとは…

メルケルにとっては好都合だが…

いずれにしても、ドイツも9月には総選挙を控えている。つい最近までは、メルケル盤石と思われていたが、1月にシュルツというSPDマンが狼煙を上げ、戦場をかき回し始めた。左右からの挟み撃ちで、メルケル首相の危機感は大きい。

そんなおり、CDUはこの“オランダ効果”をしっかり見届けたのだから、9月の選挙に向かって同じ作戦を取るだろう。そういう意味では、実は、トルコがドイツ政府をガンガン攻撃してくれているのは、もっけの幸いではないか。

これにより、CDUは容易に難民政策の転換を図れるし、怒って見せれば見せるほど、国民は満足する。しかも、右派のAfD(ドイツのための選択肢)の勢力を削ぐこともできるし、SPDとの政策の差別化も明確にできる。一石四鳥だ。

メルケル氏をヒトラーになぞらえるトルコの新聞〔PHOTO〕gettyimages
ただ、トルコとドイツの関係は、ますます悪化するだろう。トルコ系を300万人も抱えているドイツとしては、予断を許さない。

ドイツにいるトルコ系は、すでにドイツに同化してしまっている人たちも多いが、これがきっかけで心の中のトルコ人アイデンティティーを復活させる人もでてくるかもしれない。あるいは、ドイツ国内でトルコ社会の分断が起きる可能性もある。ドイツ政府としては、さじ加減の難しいところだ。

そのうえ、このままでは満身創痍のEUはますますおかしくなる。実際、トルコは、15年に交わした難民合意を見直すと脅しをかけている。

もともと疑問符の多く付いた合意ではあったが、これをトルコが蹴飛ばせば、現実問題として、あっという間にトルコにいる中東難民がギリシャの島に向かってボートを漕ぎだす。トルコはすでに250万人の中東難民を保護しているのだから、EUとしては、想像するのも恐ろしいシナリオだ。

政治家やメディアは、口を開けば“民主主義”と言うが、EUでは各国の内部事情がぶつかり合うばかりで、民主主義がどこにあるのか、今、よく見えない。

30万部を突破したベストセラー『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』と『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』に続く、待望のシリーズ第3弾!!

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51294
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/722.html

[社会問題9] 家族と一緒では生きづらい …超高齢化社会にひそむ「本当の問題」 邪魔者扱いされていく高齢者たち 同志社大名物教授突然解雇
家族と一緒では生きづらい …超高齢化社会にひそむ「本当の問題」
邪魔者扱いされていく高齢者たち

藤田 孝典


「高齢者が邪魔者扱いされるさまや、家族と同居しているのに孤独死する場面は、まさに高齢者問題のいまを描いている」
80歳の老女が、3世帯住宅に居場所を失い家出をする異色のマンガ『傘寿まり子』。この作品を読んでそう語るのは、ベストセラー『下流老人』の著者で、NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏だ。
『傘寿まり子』では、老人が運転する車が高速道路を逆走してしまうシーンや、主人公がふらついて車に轢かれてしまう、など、目を背けたくなるような話がこれでもかというくらいに詰め込まれている。本作は1巻発売直後から話題を呼び、増刷を重ね続けた。
なぜこのマンガが支持されているのか――。作中に登場するような、ネットカフェに一時避難している高齢者や、年齢を理由に入居拒否を受ける方々のサポートを日々行っており、先日『貧困クライシス』を上梓した藤田氏が原因を分析する。
『傘寿まり子』の第1話はこちら(『まだ生きててごめんなさい…「まり子80歳、今日家を出ます」』)からご覧いただけます。
これが80歳のリアル
傘寿まり子とは、「80歳のまり子さん」を指す。文字通り、主役は80歳の高齢者だ。
少子高齢社会もついにここまできたのか、と思った。マンガまで高齢者の主人公が出てきてしまうとは……。セーラームーンは高校生、サザエさんですら20代の女性の設定だ。それをはるかに超える年齢の主人公を抜擢するとは驚きと言うか、何を考えているのか。ストーリーはちゃんと展開していくのか、と心配しかなかった。
しかし、結論からいえば斬新で現代的でリアリティもあり、非常に面白い。多くの現代社会を取り巻く問題も凝縮して取り上げており、好評になるはずだと思った。

80歳と言えば、日本では「後期高齢者」に位置付けられている年齢だ。いわゆる人生の終盤である。
マンガで登場するまり子の友人や旧知の仲間も亡くなっていき、その喪失感が見事に描かれている。家族と同居していながら、友人が孤独死する場面も登場する。実に暗い。暗澹たる気持ちにならざるを得ない。
友人の孤独死にショックを隠せない… (C)おざわゆき
後期高齢者とは、まさにそんな「喪失の時期」でもあることがわかる。そして、冒頭から高齢者が邪魔者扱いされ、「私たちは早く死ねばいいのか?」という自問自答が繰り返される。
高齢期の自死は相変わらず減っていない。様々な喪失体験や自身の病気や悩みも重なり、死を自ら選んでしまう方も少なくないのが現状だ。そのような高齢者の心理状態を軽いタッチで読者に問いかけるように表現されている。
また80歳と言えば、個人差はあるものの介護が必要になり、在宅生活が難しく、介護施設へ入所する方もいるだろう。
病気がちになり、生活自体が困難さを増していくこともある時期だ。未来に向けて明るい展開を予想しにくく、どちらかといえば終焉に向かう暗い展開をイメージしやすいものでもある。
だからこそ繰り返し強調しておきたい。よくこの時期を生きる高齢者を主人公にしたものだ。そのアイディアにまずは称賛と敬意を表したい。
高齢者ネットカフェ難民
実はまり子は、そんな高齢者のイメージをひっくり返すような人物として描かれている。非常に前向きで明るい性格だ。
いくつかの苦難にも負けず、新しい挑戦にも積極的に取り組んでいく。80歳の女性とはとても思えないのである。なかでも家族との同居生活のなかに居づらさを感じ、家出をした後の場面展開は面白い。
特に、まり子がネットカフェ難民になる場面だ。これがまた現代的としか言いようがない。
まり子は家出をした後ネットカフェに向かう (C)おざわゆき
家出した高齢者や住居を失った人々が一時的に身を寄せる場所として、ネットカフェはよく知られるようになった。ネットカフェには、シャワーもあり、自分の部屋のようにくつろげる自由な空間がある。
一方で、原則として誰も干渉しないというような孤独で監獄のような印象も受ける。この現代の多様性ある人々を受け入れる不思議な空間の2つの特殊性を上手く表現している。
とりあえず寝るところは何とかなった。生きていける。しかし、これからどうしたらいいものか、と。
NEXT ▶︎ ネットカフェ難民になる人
家賃もローンも払えない
事実としてネットカフェに一時避難して滞在している高齢者や若者からの相談を受けることがよくある。
まり子と同様に家族との不調和で家を失った人々や失業した人々、火災で家を焼け出された人々、さまざまな人々がネットカフェをよりどころにしている。
社会福祉の弱い日本において、ネットカフェは最後のセーフティネットにならざるを得なくなっているのかもしれない。いまも全国のネットカフェにはひっそりと生活の場所にしなければならない高齢者や事情のある方々が身を寄せているのだろう。
少し前には「ネットカフェ難民」という言葉が話題になった。政府も調査をおこない、全国には約5400名の人々がいることが把握されている。まり子の問題は現在進行形の日本が抱える社会問題を的確に表している。
まり子さん、意外とネカフェを気に入った? (C)おざわゆき
そもそもまり子が同居家族に居づらさを感じたのは当然で、彼女の家族は四世代同居であるにも関わらず、狭小な住宅だった。日本は都市部であればあるほど、住宅費が高騰しており、住宅を維持したり、新設する費用がかかり過ぎてしまう。
それぞれが独立する上でも家賃や住宅ローン費用などを捻出しなければならない。これもまた高いのである。だからこそ、低所得であるほど、あるいは収入が不安定であるほど、家族と同居せざるを得ない状況がある。
まり子の息子も収入が不安定で、孫も同様であるというのは、これも現代的と言わざるを得ない。ひとことで言えば、雇用が不安定であるため、家族を養ったり、独立して世帯を設けることが困難な時代なのだ。
非正規雇用は過去最多の規模で増加をし続けている。働いても処遇や収入が不安定であり、家族相互で助け合わなければ生計が維持できない人々は言うまでもなく増えている。
しかし、家族が相互に助け合える余裕はなく、どうしても自身の配偶者や子どもが優先となろう。高齢者の扶養はどうしても後回しにならざるを得ない。
もう自分の親を養えない
「家族原理主義」とでもいうべきだろうか。家族関係がよければ助け合うが、関係性が少しでも悪化すれば、最大の福祉機能である「家族」は機能しない。そればかりか、排除をする側として攻撃してしまう。
高齢者虐待や児童虐待、ネグレクトや毒親、アダルトチルドレンなど機能不全家族を表す用語は、この「失われた20年」でよく聞かれるようになった。家族にはもう高齢者の豊かな老後を支える余力を急速に失い始めている。
例えば、自分事としても考えてみてほしい。親から生活が大変だから、「来月から月額数万円から十数万円を仕送りしてくれ」と言われたらできるだろうか。
NEXT ▶︎ 「孤独死」という重い課題
それを続けていくことが困難な現役世代は実に多いことだろう。また親を扶養できないことを安易に責めることもできない社会構造がある。
そういう点で、まり子の家庭や同居家族は、それぞれに現代的な課題を抱えながら狭い家で共存をしている。よく日本社会を隅々まで把握されているものだと感心してしまう。
だからこそ、家族との関係性に耐え切れなくなったまり子は家出をし、その後の住まいを探す。この際も民間賃貸住宅を借りようとするが、高齢者ゆえの入居差別に遭い、家すらも単独では借りられない事実に直面する。
80歳だと家を借りにくい… (C)おざわゆき
居室内での孤独死を警戒して、大家や不動産屋は高齢者の入居を断る事例が後を絶たない。身寄りのない、家族を頼れない高齢者は最低限必要な住まいを得る際も困難が伴うのだ。
わたし自身も数多くの高齢者の入居契約時に緊急連絡先になり、そのうち数件は死後の遺品整理や家族への連絡、遺体の葬儀に関わってきた。これらを大家や不動産屋が調整をしながら行うとなると、不本意ながらも入居を制限してしまう心理状態に理解を示さざるを得ない。
孤立を極めていく…
そして、まり子は作家の仕事が減り、自身の社会内における「役割喪失」も体験している。80歳で仕事があること自体珍しいが、その仕事も年々減っており、孤立感を強めていく状況が理解できる。
仕事を失うということは多くの人間関係や出会いの機会も同時に失うことを意味する。意識して地域活動や老人クラブ活動などに関わらなければ、他者と交流する機会は激減する。
高齢者のコンビニ弁当食・孤食の場面も描かれているが、食事だって誰とも共にすることがない高齢者は非常に多いのだ。
大手コンビニでは宅配食事業を始めているし、一人暮らしの人々を意識した商品の提供に急速にシフトしていることも店頭を覗くだけで理解できるだろう。現在でも一人暮らし高齢者は、約600万人存在する。今後も増加していくことが予想されている。
結局のところ『傘寿まり子』を読んでみて、わたしが出会ってきた生活困窮者支援の相談支援現場や高齢者支援の現場をよく捉えていると思う。特別な誰かの問題ではないからこそ好評なのだ。実に誰にでも起こりうる庶民の生活に迫ったテーマなのである。
ハラハラしながら自身や身近な家族とまり子を重ね合わせ、静かに応援してしまう感情が動く。深く考えながらでもいい、クスッと笑いながらでもいい、是非読んでほしい。
現代を果敢に生きるひとりの高齢者から得られるものはあまりにも大きいのだから。
「現代ビジネス」では『傘寿まり子』の第1話と第2話を特別公開中です。下記よりお楽しみください。
・第1話『まだ生きててごめんなさい…「まり子80歳、今日家を出ます」』
・第2話『「孤独死するから?」入居差別に苦しむ80歳の老女が向かった先とは』

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51137?page=3


 

 
『傘寿まり子』第1話無料公開!まだ生きててごめんなさい…「まり子80歳、今日家を出ます」

おざわ ゆき


「ここは私の終の棲家じゃなかったの?」「早く死ねばいいってこと?」ベテラン作家の幸田まり子は息子夫婦、孫夫婦との生活に居場所がないことを感じ、ついには家出を決意するーー。
80歳が主人公という人気作『傘寿まり子』が話題沸騰中だ。まさかまさかの冒険ストーリーにページをめくる手が止まらない。驚きの決断までを収録した第一話を特別公開する。









NEXT ▶︎ もしかして家にいちゃいけない?















NEXT ▶︎ まり子を導く一本の電話








NEXT ▶︎ まだ生きててごめんなさい














家を出たのはいいものの、行き先のないまり子さん。まずはネットカフェに入るのだが――。第2話はこちら『「孤独死するから?」入居差別に苦しむ80歳の老女が向かった先とは』から。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50615


 













NEXT ▶︎ 編集者の「ある一言」















こもりっきりで大丈夫? 実はこの後ラブストーリーが待ってるんです。80歳の純粋すぎる恋愛――。続きはぜひ本書でお読みください!

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51135

 

同志社大学の名物教授が「突然の退職」を通告されるまで
【ルポ・大学解雇】
田中 圭太郎ジャーナリスト
プロフィール

いま、全国の大学で教員の解雇や雇い止めをめぐるトラブルが急増している。志願者が減少傾向にある私立大学はもちろんのこと、2004年に運営が国から独立した法人に任せられるようになった国立大学法人でも教員の解雇・雇い止めが行われるようになり、特にここ5年くらいで顕著になっている。

「北海道のある弁護士事務所は、大学で教員の解雇が相次いでいることを受け、大学の実態を調査・協議するためのシンポジウムを開催しています」(教員の解雇について調査している札幌学院大学の片山一義教授)

個別の事案を見ていくと、教員の解雇が「密室の協議」によって恣意的に決められたケースが少なくない。理由を明確にされずに、気づいたときには解雇が決まっているのだ。

一体、大学で何が起こっているのか。先日も、西日本を代表する私大のひとつ、同志社大学で教員雇い止めをめぐる裁判が起こり、全国の大学関係者の注目を集めていた。この事例から、雇止めの背景を考えてみたい。

突然通知された定年延長拒否

「大学の不当な行為によって教壇に立てなくなった。もう3年間も裁判で闘っているが、今年7月に69歳になる。このままでは裁判に勝ったとしても、教壇に戻ることはできないかもしれない……」

同志社大学大学院・社会学研究科メディア学専攻の教授だった浅野健一氏は、2014年4月以降、教壇に立てない状態が続いている。大学側が突然「定年延長を認めない」という通知を突き付けてきたためだ。

浅野氏は、大学院の教授にほぼ自動的に認められてきた定年延長を、特別な事情もないのに拒否されたとして、学校法人同志社を相手取り、地位の確認を求める裁判を起こしている。

共同通信社の記者だった浅野氏は1994年、ジャーナリズムの研究者として新聞学専攻の教授に採用された。新聞学はジャーナリズム志望者が集まる人気の専攻で、新聞社に入るための「関西の登竜門」ともいわれている。浅野氏のポストはかつて思想家の鶴見俊輔氏が務めていた。新聞学専攻は現在メディア学専攻と名前を変えている。

同志社大学の教員の定年は65歳。だが、大学院の教授だけは1年度ごとに定年延長が認められている。健康上の理由や他大学に移るといった自己都合以外では、定年延長は基本的に認められ、1976年以降、93.1パーセントの教授が1年以上延長し、70歳まで務めた教授は74.9パーセントにのぼる。何の理由もなく定年延長を認められなかった教授はいなかった、といってよい。もちろん、浅野氏も定年延長を望んでいた。

ところが、浅野氏の場合、本人が全く知らないところで「定年延長を提案しない」ことが決められていたのだ。

NEXT ?? 「教授は足を引っ張っている」

誹謗中傷、罵詈雑言

研究室の郵便受けに「臨時専攻会議の通知書」が投函されていたのは2013年10月のこと。この通知をみてはじめて、浅野氏は自身の定年延長が認められないことを知った。

この決定を下したのは、浅野氏の同僚だったメディア学専攻の教授4人だ。浅野氏の定年延長を教授会に提案しない一方、別の教授(現在は退職)の定年延長は、承認された。

これは不当だと思った浅野氏が自ら定年延長を訴えると、教授会の議長から浅野氏の定年延長が提案され、審議が行われることになった。すると、浅野氏の退席後に、メディア学専攻の教授によってある文書が教授会の出席者に配られた。文書の存在をあとから知った浅野氏は、その内容を見て愕然としたという。

「浅野教授 定年延長の件 検討事項」と題したA4サイズ2枚の文書には、冒頭、次のように書かれている。

『研究者としての能力、論文・著書の内容の学問的質に問題がある。「運動」としての活動はあっても、大学院の教授の水準を満たす研究はない』

この書きだしから始まる文章は、ほとんどが浅野氏に対する誹謗中傷で占められていた。

・論文の内容には、客観的根拠がない推測による記述が多く含まれ、学術論文として不相応。
・大学院教授として品位に欠ける表現。
・院生・学生本位の教育がなされていない。
・貢献度が低く、逆に周囲の足を引っ張っている。

浅野教授への「誹謗中傷」が書かれた通知書
文書には「教授の水準を満たす研究はない」と断定的に書いているが、浅野氏が大学院の教授に就任して20年が経とうとしている。「教授の水準」は採用当時に大学が認めているのであろうし、あまりに論拠に乏しいものではないだろうか。

さらに<学科内の職場環境を極めて不正常にさせている>という項目では、こんな記述もある。

「専攻科の各教員は(浅野氏によって)常時強いストレスにさらされている。(中略)これによる突発性難聴や帯状疱疹などの発症(が認められる)」

言うまでもなく帯状疱疹はウイルスによって起きる病気であり、突発性難聴は原因不明とされている。それが浅野氏のせいだというのは、言いがかりでしかないだろう。要するに、別の学部の教授に「浅野氏がいかにひどい人物か」を印象付けるために、何の根拠もない罵詈雑言を並びたてているだけなのだ。

浅野氏はこの文書を作成し配布したとして、メディア学専攻の当時の教授5人に対しても名誉毀損訴訟を起こし、現在京都地裁で争われている。

後日の教授会で、再び浅野氏の定年延長が審議された。通常、定年延長は承認だけで決まっていたので、可決要件についての規定はなかったが、その場で「3分の2以上の賛成で可決」する無記名での投票が提案された。

投票の結果は「否決」。浅野氏は投票の際に退席させられたため結果だけ通知されたが、投票数などは明らかにされていない。

NEXT ?? なぜ教授は狙われたのか

なぜ浅野氏は「標的」にされたのか

被害を被ったのは浅野氏だけではない。浅野氏のゼミも解散させられ、学生は別の教授のゼミに変わらざるをえなくなったのだ。

困り果てたのは、博士課程後期に在籍していたインドネシアからの留学生だった。この学生は博士論文の指導を浅野氏から受けることができなくなったため、大学は2014年6月にこの留学生を2014年3月にさかのぼって、単位取得による満期退学とした。

博士号を取得して母国の大学でジャーナリズム論を教えるはずが、途中で退学させられ、人生を狂わされてしまった。浅野氏の退職から3年が経った現在も、浅野氏が大学院と学部で担当していた講座のうち、8科目が休講となっているという。

なぜ大学は浅野氏の定年延長を認めなかったのか。

背景のひとつに、浅野氏の定年延長が拒否された一方で、同じ時期に定年延長が認められたメディア学専攻の元教授との確執があったといわれている。

実は浅野氏は、2005年に『週刊文春』でセクハラ疑惑を報じられている。「浅野氏が学生にセクハラをして、大学当局が認定した」というものだったが、浅野氏は「事実無根」としてこれを全面否定。さらに情報源を探ったところ、件の元教授が自分のゼミに所属する学生を利用してセクハラを捏造し、『週刊文春』に情報提供していたことがわかったのだ。

浅野氏は文春側と元教授それぞれに名誉棄損訴訟を起こして、両方とも勝訴。裁判所は文春側に550万円の支払いを命じ、元教授にも71万円の損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡した。

「浅野氏が元教授を訴えた裁判は、2013年6月に高裁で浅野氏が勝訴し、最高裁判決が出たのは11月でした。浅野氏の勝訴が確定する直前に、元教授らのグループが浅野氏を大学から追い出しにかかったという印象を受けたことは否めません」(大学関係者)

もうひとつは、浅野氏が大手メディアを批判する態度や、安倍政権を「戦後史上最悪の政権」と批判する姿勢を、他の教授が好ましく思っていなかったことが考えられる。

例えば、浅野氏は担当していた授業「新聞学原論T」のシラバス(授業要項)に、福島第一原発事故の報道について次のように書いている。

『私は2011年3月中旬、原発報道が戦時中の「大本営発表」報道に酷似していると指摘した。日本の記者クラブメディアがジャーナリズムの権力監視機能を全く果たしていないことを市民の前に明らかにした。朝日新聞は11年10月15日の社説で、「大本営発表」だったとあっさり認め自省した』

実際に朝日新聞は「大本営発表」に加担したとの批判は免れないとして、自らの報道を検証している。しかし浅野氏に名誉毀損で訴えられている教授のひとりは、「明らかな誤読か、意図的な曲解と考えざるを得ず、研究者・教育者として極めて不適切な記載」と裁判の意見陳述で浅野氏の考え方を批判している。

またこの時期に同志社大学学長を務めていたのは村田晃嗣氏。村田氏は2015年、安全保障関連法案を審議していた衆議院特別委員会の中央公聴会に、政府与党の推薦で出席し、安保法案に賛成の意見を述べた。

このことが学内で批判され、村田氏は15年11月の学長選挙で敗れたとされるが、浅野氏は安倍政権に対し、特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認など安倍政権の政策やマスコミへの高圧的な姿勢を雑誌などで批判してきた。安保法案については「侵略戦争法案」と著書でも批判している。大学としても、トップと考えが180度違う浅野氏を排除したかったのではないか、という見方もできる。

NEXT ?? 闘う手段が限られている

訴訟以外に闘う手段はナシ

浅野氏が学校法人同志社を訴えた裁判。提訴から3年1か月が経過した今年3月1日、京都地裁で判決が言い渡された。

浅野氏は裁判で「健康上の理由や自己都合など特段の事情がない限り、65歳以上の定年延長が認められなかった例はなく、定年延長は慣習」と主張してきた。

しかし、堀内照美裁判長は「大学院教授のほとんどの者が定年延長されているのは、審理の結果にすぎない」として、「特段の事情がない限り定年延長がなされるということはできない」と浅野氏の訴えを却下。「それ以外の浅野氏の訴えは判断するまでもなく、請求の理由はない」と、浅野氏が定年延長を拒否された経過の瑕疵については判断を避けた。

浅野氏は「被告の主張をコピペしたふざけた判決。高裁で逆転勝訴を目指す」と話し、すでに大阪高裁に控訴した。裁判は今後高裁で争われることになるが、同志社大学の他学部の教授は、取材に対し次のように話している。

「大学院の教授は特段の理由がなければ、院生がいなくても、研究所がなくても、定年延長されると認識している。実態をふまえていない判決だ」

定年延長制度がある他の大学の教授も、浅野氏の裁判を注目している。傍聴に訪れていた関西大学の教授は「同志社のやり方は納得できない。浅野さんには頑張ってほしい」と話していた。

なお、筆者は一連の裁判について、京都地裁判決後に同志社大学に取材を申し込んだが、「この裁判についての取材にはお答えしていない」という回答だった。

教員の解雇をめぐるトラブルは、報道される機会が少ない。大学側が教員の処分や解雇を発表した場合、報道機関は「大学が言うのだから、間違いはないのだろう」と捉えるのか、掘り下げて取材をしようとは思わないのかもしれない。

しかし冒頭にも触れたように、実際には大学教員の解雇や雇い止めをめぐる訴訟は増え続けている。前出の札幌学院大学の片山一義教授(労働経済論)は、大学教員が不当に解雇された事案をまとめたWEBサイト「全国国公立私立大学の事件情報」を開設している。

「全国国公立私立大学の事件情報」
http://university.main.jp/blog/

このサイトを見ると、私立大学だけでなく国立大学法人でも多数の訴訟が起きていることがわかる。掲載されているのはあくまで片山教授が知った事案だけ。大学の教員には横のつながりがあまりないため、もっと多くの大学で不当解雇が起きている可能性が高い。不当解雇された当事者は、孤独な闘いをしているか、泣き寝入りしているのではないか。

片山教授は不当解雇によるトラブルが増加した背景に、生徒数の減少とともに、国の大学政策の変更があると指摘する。

ひとつは2004年の私立学校法の改正。この法改正では大学の理事会の権限が強化され、理事会の思い通りに教員の採用や解雇ができるようになった。もうひとつは学長の権限を強めた2014年の学校教育法の改正。教授会の権限は、この改正によって学長の諮問機関レベルにまで下げられた。

いずれの政策変更も、学校を運営する側と、教育を担う現場との力関係のバランスを崩し、運営側の思い通りに解雇や人事異動が行われることにつながった。大学自治のしくみが変わったことで、解雇をめぐるトラブルは今後も増えていくだろう。

不当解雇が起こる多くのケースは、学部・学科の統廃合による教員削減か、浅野氏のように「教員不適格」といった理由による恣意的な解雇だ。大学の一部の人間により密室で協議されるため、本人が解雇されたことに気がつくのはそれが決まったあとになり、闘うには訴訟という手段を採るしかなくなってしまう。あまりに理不尽ではないだろうか。

「天下り教授」ばかりが跋扈する

多くの教員が解雇されている一方で、文部科学省の官僚が大学などに組織的かつ大量に天下りしていたことが明らかになっている。文部科学省の現職幹部とOBが協力し、国家公務員法違反を犯したうえで「天下り教授」が生まれていた。

片山教授によると、文部科学省からの大学教員や事務職員への天下り自体は2000年頃から増えており、これが従来勤務している教授らの不当解雇を引き起こす要因になっているという。新自由主義的な大学改革を推し進めるなかで、大学は文科省と密接な関係を持とうと考える。その改革の行きつく先は、教員のリストラが中心だ。

助手や講師、准教授を長い間務めながら、論文などの業績が認められて、ようやく教授のポストに就ける。民間から登用される教授も、それまでの業績の積み重ねがあって教壇に立つことができている。そんな教授の職を、大学の都合や一部の人間の感情によって、簡単に剥奪してよいものなのだろうか。

教員の解雇をめぐるトラブルの増加が、結果的に大学教育への信頼を損なっていることに、運営側の人間は気づいていないのかもしれない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51247

http://www.asyura2.com/12/social9/msg/778.html

[経世済民120] 会社を成長させるには「総合職」を廃止せよ 一流は瞬時に大きな決断 関東とスケールが違う「関西の大金持ち」こんなにおもろい
会社を成長させるには、「総合職」を廃止せよ
働き方改革は、そこからはじまる
中野 円佳ジャーナリスト
プロフィール

半年間、委員を務めさせていただいた経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」が終わり、報告書が提出された。

もともとこの会議は、女性活躍推進法後の企業のダイバーシティ推進について、「形式的に数値目標を達成することなどに終始して、結局競争戦略につながらなければ意味がない」という経産省サイドの問題意識ではじまった。

競争戦略として企業の成長につながる実質的なダイバーシティ2.0に進めるにはどうしたらいいのかということで、先進企業のベストプラクティスをもとに「7つのアクションプラン」が整理されている。

(1)経営戦略への組み込み
経営トップが、ダイバーシティが経営戦略に不可欠であること(ダイバーシティ・ポリシー)を明確にし、KPI・ロードマップを策定するとともに、自らの責任で取組をリードする。
(2)推進体制の構築
ダイバーシティの取組を全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に 責任を持つ。

(3)ガバナンスの改革
構成員の多様性の確保により取締役会の監督機能を高め、取締役会がダイバーシティ経営の 取組を適切に監督する。

(4)全社的な環境・ルールの整備
属性に関わらず活躍できる人事制度の見直し、働き方改革を実行する。

(5)管理職の行動・意識改革
従業員の多様性を活かせるマネージャーを育成する。

(6)従業員の行動・意識改革
多様なキャリアパスを構築し、従業員一人ひとりが自律的に行動できるよう、キャリアオーナーシップ を育成する。

(7)労働市場・資本市場への情報開示と対話
一貫した人材戦略を策定・実行し、その内容・成果を効果的に労働市場に発信する。 投資家に対して、企業価値向上に繋がるダイバーシティの方針・取組を適切な媒体を通じ積極的 に発信し、対話を行う。

アクションプランは現時点で強制力もなければ、すぐに企業が使えるノウハウ集という形にもなっていない。ただ、この会議は経営者・人事担当役員など企業サイドと、投資家・ガバナンス専門家などの投資関係者が一堂に会したことに意義があったと思う。

ダイバーシティのない企業のリスク

会議の中では、ダイバーシティを本気で進めるには「トップダウンで力づくで既得権益を奪っていく必要がある」といったトップの覚悟を求める発言と、その必要性を裏付けるかのように投資家側から「CSR報告書のようなものではなく、アニュアルレポートや中期経営計画などトップがコミットしていると分かるよう、あらゆるIR資料に方針を書くべき」という声が出た。なぜダイバーシティが投資家にとっても重要なのか。

1つは、よく指摘される理由で、ダイバーシティ&インクルージョンが「イノベーション」につながるとされるためだ。多様な経験、能力、視点のある人が集まることが企業のパフォーマンスを上げるという研究や調査があり、投資家もアップサイドを狙いたいわけだ。

2つ目が、ガバナンスを効かせるためという理由だ。背景として、海外投資家の間でも、リーマンショックをきっかけに取締役会の女性比率など「ダイバーシティ」が強く意識されるようになったという。

リーマンショックの際、私も証券部記者として海の向こうから押し寄せる資本市場の混乱を目の当たりにしたが、どうして誰もリスクを指摘できなかったのかということが当然議論の遡上に上がる。

その中で、均質な人材の意思決定で突き進んでおり、多様性がない企業はガバナンスが効きづらいという認識が広まっていったようだ。また、多様性があっても「反対意見を言う」「人と違う行動をする」といった行動に「心理的な安全」(Psychological Safety)を感じられないような「インクルージョン」のない組織は、存続性や成長性においてリスクがあるということになる。

NEXT ?? 資本も入ってこない

3つ目の要因として、会議の中で「日本企業は海外企業に雇い負けしている」という指摘があった。日本人が香港やシンガポールで働くことを選ぶ、優秀な女性が外資系企業に就職する、あるいは外国人留学生がせっかく日本に来て就職しても離職してしまう…といったことが実際に起こっている。多様性がないこととトートロジーではあるが、こうした「人材の確保」も企業にとっては成長に対するリスクになる。

以上のような理由で、経産省の当該会議では投資家にとっても「ダイバーシティ」が重要という認識が広がっていることが確認された。そこで企業と市場の対話としての情報開示の必要性などがアクションプランに入ったわけだ。

働き方改革ともリンクする

この会議では、もう1つの論点として「働き方改革」もたびたび話題にあがった。委員が共通して「ダイバーシティをやろうとすれば働き方改革に自然と手を付けないといけなくなる」「働き方改革とダイバーシティ推進はセット」という認識を持っていたともいえるだろう。

つまり、「24時間働けます、いつどこにでも転勤します」という前提を付けていればおのずから女性や外国人を排除してしまうというわけだ。これについては、企業側、投資家・ガバナンス関係者も同じ認識をしていたと感じる。

先日、日経新聞で「投資会社ブラックロックが投資先に働き方改革についてのレターを送った」と報道されていたが、ESG投資が盛り上がる中では投資家サイドも働き方を今後注視する動きが広がっていくだろう。ダイバーシティを進めること、働き方改革を進めることは経営者にとってもはや必須の戦略になる。

なお、会議の中で「企業に働き方についての情報開示を義務付けることはできないのか」と何度か提案したが、「形式的に目指しても意味がない」との意見もあり、実現には至らなかった。

裏を返せば、いかに改革を実行し、それを投資家にPRできるかは個々の企業に任されることになる。これまで人事任せ、CSR的位置づけで他部署を巻き込み切れていなかった企業もあろうが、IRも含め、ダイバーシティ戦略を本気で進めないといけなくなる。

長時間労働の根本原因

会議では、労働市場との対話についても議論された。私は労働市場に対してもわかりやすい情報開示の必要性を何度か訴えた。今年度の就職活動が本格化する中で、学生たちには企業の働き方やダイバーシティの進み度合いをきちんと見極めてもらいたい。

採用とその後の育成という意味では、会議の派生イベントである経済産業省主催のシンポジウムで、新卒採用からジェネラリスト的に人を育てる「総合職」という枠組み自体を疑う必要性についても問題提起もした。

NEXT ?? 「総合職」絶滅へ

「総合職」はコミットを求め、職務を限定せずに様々な部署を経験させる。昇進が遅く外国人などを生かしきれない、限られた時間で成果を出したい育児・介護中の社員などの活躍を阻害するなどの問題点も含んでいる。日本人男性であっても、担当が変わるたびに長時間労働を要請される一因となる。個々の強みを生かすというよりは平均的に総合得点が高い人を育てる枠組みで「ダイバーシティ&インクルージョン」からは遠い。


これに対して、会議の参加企業からは同じ問題意識から「エンジニアなど分野によっては専門職採用をはじめている」「全社的にジョブ型に切り替えている」「総合職そのものの魅力をあげようとしている」などの事例共有があった。

ただ、個々人のキャリア形成や育成にも直結する問題だけに「最初は総合職で、徐々に専門職的にキャリアを築けるようにするのがいい」「はじめに専門性を身に着けてから、徐々に広げて総合的に経営を見られる人材を育成する必要がある」など真逆の発言も出ていた。先進企業も非常に模索しており、統一見解になるような「答え」はおそらくまだ誰も見えていない。

人の採用、育成、評価すべてと絡み合っている問題は長期的にしか判断できない側面もある。働き方改革についても、「リモートワークが非常に進んで誰もオフィスにいない会社で新入社員はきちんと指導されるか」「効率重視で働いたときに、若手がきちんと育つか」といったことを懸念している企業は多い。すでに多様化し、融解しつつある「総合職」をどうしていくのか、ある程度状況を見極めながら進めていく必要はあるのだろう。

おそらく、このままダイバーシティを進めていくと、日本の雇用慣行そのものの見直しがいずれかのタイミングで必要になろう。今回の会議ではこうした抜本的な「慣行」をどう変えていくのかまでは見えてこなかった。

せっかく政府主導で検討するのであれば、すでにできているベストプラクティスを集めるだけではなく、制度的な難点がどこかということを含めて今後議論が進展することを期待したい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51289

 

「一流」と呼ばれる人は、なぜ瞬時に大きな決断を下せるのか
1%の成功者が忘れていない二つのこと
戸塚 隆将

とてつもない偉業を成し遂げた人たち。かれらは普通の人と、どこが違っているのか。一般には明かせない秘密の方法があるのか。36人の「一流」について調べた戸塚隆将氏が、そのひとつの答えをまとめたのが『世界の一流36人「仕事の基本」』だ。戸塚氏が導き出した結論とは?

魔法はない。「基本」があるだけ

新生活シーズンがスタートします。希望に燃えて一歩を踏み出す方、残念ながら思うような結果が得られずに仕切り直しの方、それぞれの春があるかもしれません。いずれにしてもこれから良いスタートを切りたいと考えるみなさんに、誰にでもできる仕事の基本をご紹介したいと思います。

世界には圧倒的な成果を上げる「一流」と呼ばれる人々がいます。私たちから見ると、かれら一流人はスーパーマンさながらです。短時間で大きな決断をし、大きな成果を上げています。かれらが「天才」だからでしょうか。それとも私たちにはとうてい真似できない「魔法」があるから成功がついてくるのでしょうか。

そうではありません。かれらも悩み、ときに葛藤する「普通の人間」です。かれらの仕事ぶりを分析すると、「仕事の基本」を徹底することで物事を成し遂げてきたのだとわかります。しかもその基本とははごくあたりまえの、私たちがふだんやっていることなのです。

例を挙げましょう。大きな決断を迫られている人ほど決断が早いと感じたことはないでしょうか。

私は投資銀行に勤務していた20代半ばに、それを象徴する仕事を経験しました。日本を代表する経営者による異業種買収プロジェクトでのことです。その経営者がトップを務めるクライアント企業に対し、買収の助言をするのが私たちアドバイザリーチームの役割でした。

買収に名乗りを上げれば、すぐにテレビや新聞で報道されます。買収の目的やビジョンについての説明を求められます。場合によっては株価が下落するおそれもありました。それでもその経営者は真っ先に手を挙げたのです。そのスピードは、他に名乗りを上げようとしていた会社に比べて群を抜く速さでした。

なぜその経営者は短時間のうちに大きな決断ができたのでしょうか。

その方は当時、異業種から参入することで業界を活性化させ、イノベーションを起こそうというヴィジョンを明確にもっていました。しかしこの買収は会社が成長するか、それともつぶれるかの大きなリスクをともなう選択でもありました。経済合理性だけを考えるなら、買収などあり得ない案件だったのです。

では何がその経営者の背中を押したのか? 私は「情熱」こそがかれにとっての決断の指針だったと思っています。その経営者は明確なヴィジョンに加え、自分たちがそれを実現するのだという猛烈な情熱をもち合わせていました。だからこそ覚悟をもって大きな決断を瞬時に下せたのだと思います。

「決断が早い」という点でもう一人思い出すのが、投資銀行時代の私のかつての上司です。実績豊富なインベストメント・バンカーで、企業買収のニュースが朝刊で報じられると、朝一番で相手企業に躊躇なく電話するのが特徴でした。

ただ「うちにやらせてください」ではなく、プラスアルファの提案を添えることも忘れないのです。仕事に情熱を持ち、日頃からクライアントの業界にアンテナを張って準備していなければ、朝一に提案などできるものではありません。

実際、この上司の口癖は「準備が大事」でした。

その言葉どおり、10社20社が参加するコンペのプレゼンではすさまじく念の入った準備をしていました。スクリプトを練りに練って一字一句を吟味し、想定問答を作り、誰がどのタイミングでどんな話をするかも事前に決めておく。そして繰り返し練習し、本番に向けてプレゼンを磨き上げていきます。

人を驚かせるアドリブも華麗なパフォーマンスもない、一見すると地味なプレゼンです。しかしクライアントに何をどう伝えるかという点が考え抜かれており、説得力十分でした。この上司がコンペにめっぽう強かったのです。

情熱をもち、準備をする

私は仕事で出会ったこのお二人から、大切なのは「情熱」と「準備」であると学びました。じつはこの2つは世界の一流人も実践している「仕事の基本」です。ただその徹底の度合いが私たちとは違うのです。1%の一流人と残り99%の人の違いはここにあるのだと思います。

そこで思い出されるのがアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏の言葉、「In the end, we are our choices.(つまるところ、人はそれまでの人生で選択したことの総体である)」です。

Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏 Photo by GettyImages
かれはgift(与えられたもの)とchoices(自分で選択したもの)の2つを比較し、自分で選択したものこそが人生だと語っています。そして周りに流されず積極的にchoicesを積み重ねなさい、その土台として情熱が大切だ、とも言っています。

ウォール街の金融機関で誰もがうらやむ高額報酬を得ていたベゾス氏は、オンラインブックストアの構想をあたためていました。

かれはある日、当時の上司にこのアイデアを相談します。ところが上司からは再考をうながされたそうです。高額報酬を得られる仕事を捨てて起業するべきか否か。ベゾス氏は考え、相談からわずか48時間後に起業を決断しました。

当時をふり返り、かれはこう話しています。「自分の情熱に従って、無難でない道を選んだ」。その後のアマゾンの成功はみなさんもご存知のとおりです。キャリアや人生において複数の選択肢に直面することは誰しもあります。そんなとき、「情熱」を指針に決断するやり方は私たちにも大いに参考になりそうです。

NEXT ?? アマゾン創業者の心に響く言葉

もう一つ思い浮かぶのが、ドリュー・ギルピン・ファウスト氏の言葉、「Be ready to improvise.(いつでも即興でやれるように準備しておきなさい)」です。

ファウスト氏は1636年創立のハーバード大学の歴史の中で初めて女性で学長となった人物です。前任者の女性差別発言によって学長就任のチャンスが巡ってきたとき、彼女はそのチャンスを思い切ってつかみ、見事に学長の職責を果たしてみせました。

彼女が学生だった当時、ハーバードをはじめとするアイビーリーグ校は女子学生への門戸を閉ざしていました。そのため、自分が将来ハーバードの学長に就任することなど思いもよらなかったとファウスト氏は語っています。

「即興」というと何の準備もしていないかのようなイメージをもちます。しかし即興の成功の裏には「準備」が欠かせないことをファウスト氏の言葉は教えてくれます。チャンスはいつ舞い込むかわかりません。そのときにすばやく手を挙げ成果を出せるよう、ふだんから準備をしておきたいものです。

気持ちを高揚させる「呪文」

情熱をもち、準備をすることの大切さを見てきました。これらはごくあたりまえの基本的なことです。しかし本当に徹底できているか? と問われると、私自身も言葉につまってしまいます。それに大きな決断や意思決定にはためらいもつきものです。

そんなときに気持ちを軽くしてくれる「呪文」を紹介しましょう。それがエマ・ワトソン氏の「If not me, who?(私がやらなければ、誰がやるのだろうか?)」です。

映画『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー・ジーン・グレンジャー役で知られる彼女は、米国のブラウン大学で英文学を学びながら、女性の地位向上のための国連親善大使としても活動しています。

先の言葉は2014年9月にニューヨークの国連本部でおこなったスピーチの一節です。親善大使就任、そして国連でのスピーチという大役に尻込みしそうになった自分の背中を後押しした言葉として挙げています。

誰もが認める才能を持つ俳優が、大役を引き受けるかどうか迷ったことには驚きました。

実際、国連でのスピーチを聴くと彼女の声は震え、緊張に押しつぶされそうな様子が伝わってきます。しかしその声に次第に力が込もり、最後はその勇気とスピーチを称える満場の喝采を浴びていました。

プレッシャーに負けそうなとき、私たちは「ほかにもっとふさわしい人がいるのでは」と考え、逃げ出したくなるものです。ワトソン氏でさえそんな状況に悩み葛藤する一人の人間でした。しかし「呪文」で自らを奮い立たせて一歩を踏み出し、リーダーシップを発揮したのです。

NEXT ?? これが「仕事の基本」

誰でも実践できる。だが...

情熱をもつ。準備をする。こうした仕事の基本の一つひとつは誰でも実践可能です。しかしいつ来るかわからないチャンスのために、情熱を保ち準備をし続け、それを徹底した域にまで高めるのは容易ではありません。私たちはどうすれば99%から1%への仲間入りができるのでしょうか。

私は「準備を積み重ねている人」を認識することがその第一歩だと考えています。ヒントは意外にあなたの身近にあるかもしれません。苦もなく大きな仕事をやってのけている人が周りにいませんか。そしてその人は、本当に「苦もなく」それをやっているのでしょうか。

じつは静かに情熱を燃やし、人知れず地道な準備を積み重ねているのではないでしょうか。相手の存在と自分との距離感を認識すること、それが一流人に近づくための第一歩なのです。

幸運なことに、私は懸命に準備した人に成果がついてくる様子を目の当たりにすることができました。

Photo by iStock
先にご紹介した経営者も私のかつての上司も、絶対にできるという情熱をもってことにあたっていました。そのためには十分すぎるほど準備をしたほうがいいと考え、つねにそれを実践し、成功体験を積んでいました。基本の徹底が成功を呼び込むことを、かれらは経験として知っていたのかもしれません。

一流人の仕事の基本には、私たちの悩みを解決するヒントがたくさんあります。基本を積み上げ徹底することに長けている一流人も普通の人間です。

かれらの仕事の基本は、私たちにもできるはずです。かれらと同じように落ち込んだとき、モチベーションが上がらないとき、目標を見失ってしまったとき、メンタル面での後押しが必要なとき、かれをヒントにしてみましょう。あとは気負わず、前向きな一歩を踏み出すだけです。


戸塚 隆将(とつか・たかまさ )
シーネクスト・パートナーズ 代表取締役。1974年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス勤務後、ハーバード経営大学院(HBS)でMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2007年、シーネクスト・パートナーズ(http://www.cnext.co.jp)を設立、代表取締役に就任。同社にて企業のグローバル事業開発およびグローバル人材開発を支援するほか、HBSのケーススタディ教材を活用した実践ビジネス英語プログラム「VERITAS」(http://veritas-english.jp)を主宰。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(2013年、朝日新聞出版)、『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか? 実践編』(2014年、同)があり、前者は20万部のベストセラーになった。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51276?page=3

 


関東とはスケールが違う!「関西の大金持ち」はこんなにおもろいで
歴史的風土が生んだエネルギー
週刊現代講談社
毎週月曜日発売プロフィール

「儲かりまっか?」「ぼちぼちでんなぁ」。関西では挨拶代わりのやりとりだ。
「なんぼ儲けてますの?」。資産家に率直に聞くと、スケールが大きくて、おもろい話が次々と飛び出した!

先祖が織田信長と戦をした

かつての大和国、奈良県には神代の昔から今も連綿と続く名家がある。それが橿原市今井町にある今西家だ。当主の今西啓仁氏(57歳)が語る。

「神武天皇が大和東征を行ったときにこの地を統治していたのが磯城彦(シキヒコ)でした。神武天皇は降伏を促しますが、兄磯城(エシキ)は立ち向かい、逆に弟磯城(オトシキ)は降伏することを提案します。

結局、兄磯城は神武天皇に滅ぼされましたが、弟磯城は服従したため、その家系が残った。それが現在の今西家につながっているのです。弟磯城から数えれば、100代以上になります。出雲大社の千家(国麿)さんが85代なので、それよりも古い(笑)」

今西家はその後、「十市県主」を名乗り、今井町の自治を担ってきた。戦国時代には、かの織田信長とその配下、明智光秀と対立し、一歩も引かず、織田信長が「敵ながらあっぱれ」と戦いぶりを認めたことで、町の自治権を守ったという。

「その結果、江戸時代はほんまもんの自治都市として栄えました。『海の堺、陸の今井』と並び称されるほどに。明治時代になると、自治権こそなくなりましたが、私の5代前の今西逸郎に市中取締役をしてほしいということで、今西家は引き続き、行政に携わりました。

そのときのことです。この今井町に鉄道の駅を置きたいと明治政府が言ってきたそうです。神武天皇陵や橿原神宮にも近いので、天皇も乗られる列車の駅として。今の畝傍(うねび)駅ですね。

しかし、うちの今西逸郎は今井町に作ることに反対したんです。江戸時代から続く、環濠のある町並みがめちゃくちゃになると思ったんでしょうね。それによって今井町の近代化が遅れたと当時の町の人からは非難囂々でしたが、今となっては感謝されていますよ。『あの時、反対してくれたから、今井町の町並みは残った』と」

今西家は明治期以降も行政に携わってきて、今井町に1000坪もの邸宅を所有してはいたが、けっして裕福というわけではなかった。だからこそ、江戸時代から続く邸宅を改築することなく、当時のまま大事に使い続けたのだ。そのことによって、'57年に「今西家住宅」は、国の重要文化財に指定される。

そして、なんと今西家が守ってきた今井町の町並みが、ユネスコの「世界遺産」に登録されるチャンスが訪れた。'95年頃のことだった。

「実は世界遺産について日本人の多くがあまり興味を持っていなかったとき、ユネスコが橿原市に対して今井町を世界遺産に登録したいと言ってきたんです。

父親にその話が来たんですが、今井町の人が誰も世界遺産についてわからなかったので、『今井は反対だ』と言って断ってしまった(笑)。その代わりに登録されたのが、岐阜の白川郷だったとのことです。

世界遺産に登録されていたら、今頃、エライことになっていたと思います。今でしたら、世界遺産にしてほしいと言っている人もいますけどね」

啓仁氏は現在、今西家住宅と今井町の町並みを守るため、公益財団法人「十市県主今西家保存会」の理事長として活動する。現在の今西家の財を築いたのは、啓仁氏の父親の代だったという。

「父は不動産業をしていて、'70年に大阪万博があって、それで財を築いたと聞いております。父は吉野の山にも山林を購入し、私も林業をしております。なかなか経営的には難しいですがね。

正直に言いまして、(今西家住宅を活用して)自分だけ儲けようとしたら、様々なオファーがあるのは事実です。ITの若い経営者とか、ブライダル関係など、古くからの町並みが残る今井町に目をつけた話は色々あります。

ただ、たんに観光客が増えてもありきたりの町になってしまいます。それだと、これまで今井町を守ってきた先人に顔向けできませんからね。私一人の考えでどうこうしたらいけないと考えています。時代を越えて、今西家は自らを盾にして護るべきもののために死に物狂いで戦ってきました。今井町の歴史はまだまだ続くのですから」

たしかに現在の日本の首都は東京だが、そこは江戸期以降に発展した「歴史の浅い」都市にすぎない。歴史的に見れば、関西には古くから都があり、長い間、日本の中心として栄えた。

そのため、全国的には有名ではないかもしれないが、長い血筋に裏打ちされたとてつもない名家がいくつも存在する。

ド派手な女社長、登場! 

関西は長く商都でもあった。今西家が民間人ながら自治を担ったことからもわかるように、市井の人間のパワーはケタ外れ。時にとんでもなくキャラクターの濃い派手好きな金持ちが登場する。

苦労人が故に36歳の若さで巨万の富を手にしたのが、ジュネル社長の伊與田美貴氏だ。昨年、念願のロールス・ロイス・ファントムを5000万円で購入した。

「もう1台、チェリーピンクのロールス・ロイスは日本に1台しかない希少価値の高い車で、これを逃してはダメだと思って買いました」

NEXT ?? 死のうと思ったこともある

多忙な毎日を送る中、自分へのご褒美は時計だという。フランクミュラーをはじめ、これまでに買った時計は2000万円分に達する。大阪・江坂にある自社ビルをキャッシュで購入したが、これは女性支援を念頭においたものだ。

「女性の従業員が働きやすい環境を考えて設計したんです」

そんな伊與田氏も一時期、日々の生活にも困るほど、困窮した経験があるという。

「27歳で結婚、28歳で出産したものの、31歳で離婚をして人生がガラリと変貌しました」

OLを経て、フラワーデザイナーとして起業するも、待機児童の問題に頭を悩ませた。認可外の保育所に稼いだおカネのすべてを吸い取られる日々。

「ジュースを飲みたい」と言う娘に缶ジュース1本買ってあげることさえできず、ワーキングプアだったという。

「正直、死のうと思ったこともあります。でも、死ぬ気になれば何でもできる。『人が嫌がる仕事でもなんでもやろう』。考えを改めて自分が変わったら、周りが変わった。思考が現実を作るんです」

この開き直りこそが、関西人の真骨頂。余談だが、大阪府の自殺率(人口10万人あたり)は全国でもっとも低い('15年、警察庁発表)。

伊與田氏が開き直ったそんな時、ある人物と出会った。エステサロンなどの経営者で、伊與田氏を誘ったのだ。彼女はエステも始めたが、ちょっとした不満があった。

エステでは他人に施術するため、大好きなネイルができなくなる。つけ爪もあったが、すぐに外れたり、手間がかかったりと問題が多い。伊與田氏はここにビジネスチャンスを見出した。

「私が開発した『ジュネル』は、取り外し可能なチップネイルです。アクセサリーと同じようにTPOに合わせてチェンジできますし、仕事に支障があれば、取り外しておくことも可能です。

それでいて、いったんつければ取れにくい。開発には3年半かけて、'15年6月にグランドオープンすると、爆発的にヒットしました。年商数十億円が視野に入っています」

グランドオープンの際に行われたパーティーには、グッチ創業家のフィリッポ・グッチ氏も招かれた。彼は、「イタリアで売れば、ヒットする。イタリアでのビジネスを手伝ってほしい」と、真剣に語ったという。

「海外からのオファーも殺到中です。ニューヨークやドバイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなどでの展示会を通じて世界にも広まり、海外展開も視野に入れています。ドバイの女性王族からは『パーティーでジュネルを着けていると、それを見たみんなが欲しがる』と聞きました。

おかげさまでジュネル開業以来、次々と大きな買い物をしてワーキングプアだった生活は劇的に変わりましたが、実は忙しすぎてまったく休みが取れないんです。働き詰めなのは、昔とあまり変わりませんね(苦笑)」

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豚の餌を食べた子供時代

もう一人、極貧から成り上がり、一財産を築いた大阪の女社長を紹介しよう。バウムクーヘンが人気のカウカウフードシステム会長、川村信子氏(65歳)、通称「マダムシンコ」だ。

自宅は兵庫県西宮市の甲山(かぶとやま)山麓にあり、大阪湾まで見下ろす絶景の高台にある。600坪の広さで5億円。だが、ここにたどり着くまでは紆余曲折があった。

NEXT ?? 銀座でナンバーワンになったが…

「子供の頃から貧乏やったからね。いつになったらお金持ちになれるんやろかと、ずっと考えていましたよ。うちは島根で豚を飼っていましたから、近所にリアカーを引いて豚の餌にする残飯をもらって回っていたんです。

それで家に帰ったら、(残飯の)きれいな部分を取って、お母さんが私に食べさせるんです。そんな生活をずっとしていました。だから私、食い意地が張っているんです。腐りかけのものばっかり食べてきたから、今はちょっとでも古いものが出てくるとあの当時を思い出して、絶対嫌。

それで、お父さんが大阪に働きに行くことになって、家族全員で尼崎に引っ越したんです。大阪に来たら何かが変わると思ったんですけど、雨漏りする市営住宅で、家族9人でカラダを曲げて寝る生活でした」

川村氏は水商売の世界に入り、頭角を現す。北新地でナンバーワンホステスになると、銀座に進出し、ここでもナンバーワンに。銀座に店を構えた後、大阪に戻った。

「銀座には10年くらいおりましたが、大阪で知り合いに焼き肉屋をしてくれと言われて始めました。6店舗目までは比較的順調だったのですが、そこで狂牛病の問題が起きよった。そのうえ、店も放火されて、従業員にも給料が払えない。

私の運命も終わりやな、と思ったときに大阪・箕面の喫茶店で、ケーキ1個とコーヒーで2000円くらい取る店が流行っているのを目の当たりにしたんですよ。こっちは焼き肉食べ放題で1980円でしたからね。これや!と思って喫茶店を始めました。それがマダムシンコの始まりです」

もちろん、喫茶店も順風満帆ではない。当初は雇ったパティシエに散々わがままを言われたり、挙句の果てに辞められたりと大いに苦労した。だが、幼少の頃から培った負けん気が勝った。

「パティシエにいじめられるたびに『くそ、くそ、くそ、誰がカネ出してるねん』と燃えて、それで自分たちで作れるバウムクーヘンを選んだんです。だから今はあのときにいじめられたことに感謝していますよ(笑)」

「可愛げ」が一番大事やで! 

バウムクーヘンが売れに売れて、今や年商100億円を視野に入れる企業に成長した。先に紹介した川村氏の豪邸については、こんな味わい深いエピソードがある。

「家を建てようと考え始めたときに、銀行の人がここの土地の話を持ってきたんです。聞いたら、『600坪って、そんなん体育館やんか、そんなの無理やわ』って、言っていたんですよ。

ところが、お父さんが『ようやった、いいところ見つけた』と泣かはるんです。よくよく聞いたら、お父さんが関西に出てきたときに、(肉体労働者として)山を切り崩して開拓した土地らしいんです。

『お金持ちのために造成した土地に、まさか娘が住むことになるとは夢にも思っていなかった。こんなにうれしいことはない』って……。お父さんにそんなことを言われたことがなかったので、私も涙が出ましたね」

スイーツにも流行り廃りがあり、大ブームを引き起こした商品は飽きられがちだ。だが、バウムクーヘンにバーナーで焦がしたキャラメルをトッピングした「マダムシンコのマダムブリュレ」は今も売れ続けている。なぜか。

「それは日本の味やからです。これは高度成長期の味、青春の味なんですよ。私は子供の頃、バウムクーヘンに憧れていました。でも、食感が冷たくて、ちょっと気取っているようにも感じていた。私はブリュレ(プリン)が好きだったので、キャラメルを載せたらどうやろ?って。そこから生まれたんです。

青春の味といったら、最近、また焼き肉にハマっています。尼崎の出屋敷に50年行っている『味楽園』というお店があるんですけど、しばらく食べないとおかしくなる。尼崎と言えば、私たちの青春時代。だからこれを食べているとき、私はご機嫌さん(笑)。

昔は物欲も食欲も金欲も凄かったですけど、最近はそうでもありませんね。普通に買い物では好きなものを買いますけど、高いものを買うかと言えばそうでもありません。

でも1年くらい前、値札も見んと帽子とカーディガンを買ったら、想像より高くてヒョーっと驚きましてん。100万円。シャネルやで(笑)。そんなのは例外で、今は『欲』というよりも、祈るのは健康と事故がないことだけです。

あと、今度、三重県の100年続いている老舗の和菓子屋さんと組んで商品を開発しますので、それもよろしくお願いします」

ちゃっかり自分の次の商売を売り込むところもまさに大阪の商売人。この抜け目なさがビジネスで成功する要因なのかもしれない。そうして最後に、川村氏は独自の人間哲学を開陳してくれた。

「私は会社のトップでありながら、ろくに学校も出ていません。そんな私が常に言うのは、『人間として可愛げを持て』ということ。いろんな人間を見てきましたが、可愛げのない人間なんて、誰が相手にするんですか。たとえ、ええ大学を出たって、実社会で偉くなるかといったらそんなことはあらしません。

ナンバーワンになろうと思ったら、他人のヘルプが大事なんです。それには可愛げがないと。自分ひとりの力なんて、たかが知れてますから」

NEXT ?? 叔母に5億持っていかれた

叔母に5億持っていかれた

いくら稼いでも、金持ちなら誰でもいずれは直面しなければならない問題がある。相続だ。

大阪府南部の住宅街で、名家として300坪を超える自宅とマンションを6棟保有する不動産会社取締役のT氏が嘆き、ぼやく。

「私は祖父から後継者として財産を受け継ぎました。祖父が亡くなる直前に、祖父の養子となったんです。私の義兄となった父は相続上、何も引き継いでいません。相続税対策で一世代飛ばして、私が引き継いだということです。もちろん父も納得ずくの話ですよ。

死後、開封した祖父の遺言書には、約15億円相当の財産の9割を私に、残りを他の子供で分けるように、とありました。問題はそこからです。父の妹2人がこれに不服を申し立て、烈火のごとく怒り出した。

それまでは私にとってすごく優しいおばちゃんたちだったのに、おカネを前にするとあれだけ人間が変わり、がめつくなるんだと恐ろしくなりましたよ。結局、叔母たちは裁判所に持ち込み、5億円程度あった現金をすべて持っていきました。私は現金に替えられない自宅や不動産などの固定資産だけを相続することになりました。

その後、親戚の葬儀などでまれに顔を合わせることもありますが、一言も言葉は交わしませんし、顔も見たくない。それまでは仲が良かったのですから、相続が生んだ悲劇ですわな」

相続時に財産を分割していくと、資産は次第に散逸していく。一人に集中させることは商家の知恵だが、T氏のケースのように、骨肉の争いになることは少なくない。
T氏が再びぼやく。

「悲劇と言えば、もう一つありますわ。私には弟がいるのですが、彼にはまったく遺産が巡ってきません。ある意味で家に縛られず自由にできるから、私にしてみれば羨ましく思えるのですが、彼の嫁はそうは思っていなかった。

遺産を得られないことを知ったとき、嫁はかなりショックを受けていたといいます。それ以来、私の両親と弟の嫁の関係は悪い。

私自身の結婚も大変でした。カネ目当てで近づいてくるのがわんさかおった。いくら美人でも、そんなんは嫌ですわな。結局、私は似たような家柄のお嬢さんを嫁にもらって、私の両親との関係も良好です。

そうすると、両親も弟の嫁と比べてしまいます。それで当然、弟の嫁はうちの嫁と仲が悪くなる。たまたま子供同士が同い年で、来年小学校に入るのですが、同じ学校になるのは嫌だということで、向こうが別の学区に引っ越すことになっています。

私は自分の家を守り抜くことが長男の使命と考えていますが、実際のところ、何も相続しなかったほうが幸せやったんやないかって、たまに考えますよ。まだウチの子供は小さいですが、いずれまた相続のことを考えないといけません。今からため息もんですわ」

資産を受け継いだことで縛られる人間もいれば、自ら莫大な資産を築いて散財した末に「すっかり足を洗った」と豪語する富豪もいる。

日本でのポーカー普及を手がける『ポーカージャパン』の株主で、自らもポーカープレイヤーとして世界中を飛び回るS氏だ。

S氏は中学校卒業後、生活費を稼ぐために、様々な商売に従事。人材派遣会社や携帯電話ショップを複数経営し、ソフトウェアの納入などで資金を稼ぎ、さらには大手企業の大株主となって、売却益で十数億円の現金を手にしたという。

派手に稼いだためか、脱税で逮捕されたことをきっかけに今は経営の立場から退き、いくつかの会社の株主に収まった。

「人が望むことは一通り経験したと思います。北新地に毎晩のように出かけ、クラブで高級シャンパンやワインを次々と空けたものです。毎月、飲み代は500万〜1000万円。最終的に北新地の超有名店に2億円投資して、経営まで手がけました。

でも、自分で経営してみて、クラブの裏側がわかってしまった。客の前と『素』のホステスのギャップがいかにすごいか(笑)。だから、クラブ遊びからはきれいサッパリ足を洗いました。

ルイ・ヴィトンやエルメスのファッションショーにもVIPとして招かれ、著名人や有名人と食事をする機会もよくありましたね。自家用車もフェラーリ456やロールス・ロイスのファントム、ランボルギーニのガヤルド、ベントレー・コンチネンタルGTなど有名なものにはほとんど乗りました。

結局、今の車はアルファード・ロイヤルラウンジ。疲れたら車内で寝られるほど広いし、後部座席でパソコンを叩いて仕事もできる。一通り試して、自分は見栄っ張りではないという確信を得たんです。モノで虚栄心を満たしても、自分が寂しくなるばかり。心は物では満たされなかったんです」

NEXT ?? 賞金14億円のポーカー!

賞金14億円のポーカー! 

自宅は神戸市東灘区にある超高級マンションの一室だ。敷地内には居住者専用のプールやフィットネスクラブ、有名中華料理店や高級寿司店があり、広大な緑豊かな庭園もある。その他にS氏は大阪・梅田にもタワーマンションの最上階、いわゆる億ションを複数所有しているという。

そんなS氏が行き着いた究極の趣味が、ポーカーなのだとか。日本人から見ると、いささかアウトローめいているが、欧米では「頭脳のスポーツ」として位置づけられ、ゴールデンタイムにテレビ中継されるほど人気だという。

サッカーのスーパースター、ブラジルのロナウドやネイマールらもポーカープレイヤーとして活躍し、ゴルフのような人気と知名度を誇る。

S氏が続ける。

「世界最大のトーナメント、WSOPがラスベガスで毎年開催されていますが、数千人が参加して、優勝賞金は14億円です。ランキングの上位200名が、総額30億〜40億円を稼いでいます。

私も先日、アジア最大級のトーナメントにエントリー費140万円を支払って参加し、結果は5位でした。賞金は、日本円で2200万円。昨年の獲得賞金は4000万円になります。

かつては乗馬やゴルフにも夢中になりましたが、今はもっぱらポーカーですね。このゲームの奥深さは企業経営にも通じるところがあると感じています」

関西の資産家の中には「中央」、つまり東京の価値観に背を向けている者も多い。京都の冷泉家25代当主の冷泉為人氏もそんな一人である。

「冷泉家は平安時代から800年も続く『和歌の家』であり、伝統文学を守り続けてきました。平安・鎌倉時代の歌聖、藤原俊成や定家らの和歌集や歴史書など、冷泉家に伝わる典籍類は国宝5件、重要文化財47件をはじめ、2万点を超えます。戦後の50年間は相続税などの問題が重くのしかかって、先代夫婦もものすごく苦労されました。

あまりにも固定資産税が莫大になってしまうため、先代は公益財団法人『冷泉家時雨亭文庫』を作り、重要な歴史資料の管理をなんとか永続していこうとしているわけです」

おカネより大切なもの

こう言う冷泉氏は、日本の戦後教育の問題について熱弁を振るう。その矛先は安倍晋三総理にも容赦なく向かう。

「今、日本では歴史や文化をないがしろにして、それ以外のところに価値を置いています。安倍さんも目先の利益のことばかり言っています。そうした発想からは何も生まれません。おカネはもちろん大事ですが、目先のおカネにとらわれては、歴史や文化を作れない。

グローバル化の進展と戦後70年の学校教育で自由と平等の価値観を大事にするようになり、反面で文化や伝統が軽視されるようになってしまった。そうしたことをわかっている日本人ははたしてどれくらいいるのでしょうか」

千年の都で800年続いた「誇り」を強烈に抱く冷泉氏の話は、さらに行政や税制のあり方、近年の大金持ちの話へと広がっていく。

「昔の名家は地域の発展のためにインフラを整備したり、文化を作ったりしてきた面があります。しかし、今ではそれを行政の役割としてしまいました。自由や平等ばかり主張すると、多数決で多く手が挙がったほうにおカネを使うようになっていく。

歴史や文化の大切さを理解している人は、今や1割くらいしかいないでしょう。そして多数決の結果、歴史や文化には税金は使われないようになります。

ホリエモン(堀江貴文氏)にしても村上ファンド(の村上世彰氏)にしても、法律ギリギリのところでおカネを稼ぐのは上手かったのでしょうが、その使いかたがまずかった。

国や地域のためにおカネを使うこともなければ、米国の富豪のように寄付をするわけでもない。自由と平等を教えるだけで、義務を教えてこなかった戦後教育の問題ですね。今の日本はおカネのことばかりで品格がなくなりました」

歴史的風土の中で醸成されてきたマグマのようなエネルギーが、関西にはある。関東とはちょっとスケールが違う、関西のおもろい大金持ちたちが、新しい日本の起爆剤となる――かもしれない。

「週刊現代」2016年1月28日号より
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50769
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/455.html

[日本の事件32] 「人を殺してみたかった」事件の真相は  気持ちが落ち着いてきたという元女子大学生「人を殺さない自分になりたい」
「人を殺してみたかった」事件の真相は
3月24日 22時52分
「人を殺してみたかった」。
おととし、知り合いの女性を殺害したとして逮捕された元女子大学生が捜査段階で語った動機です。それから2年余り、元女子大学生の裁判が24日に開かれ、無期懲役の判決が言い渡されました。これまでの裁判で、元女子大学生は何を語り、その心の闇はどこまで明らかにされたのか。傍聴を重ねた記者の目を通して見えた“真相”を伝えます。
社会に大きな衝撃

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平成27年1月。1か月以上前から行方が分からなくなっていた名古屋市の77歳の女性が、市内のあるアパートの一室で遺体となって発見されました。
この部屋に住んでいたのは、当時19歳の名古屋大学1年の女子学生。
女性を殺害したことを素直に認める一方で、供述したのが、冒頭の「人を殺してみたかった」でした。
その後、およそ5か月にわたって捜査が行われた結果、高校時代に同級生に劇物のタリウムをひそかに飲ませるなど、信じられない事件が次々と明らかになり、社会に大きな衝撃を与えました。

不可解な動機

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裁判では、その動機の異常さが際立ちました。その流れは大きく3つに分けられます。

@「タリウム中毒の症状を観察したかった」
仙台市の高校2年生の時に、同級生2人にタリウムをひそかに飲ませ、殺害しようとした事件

A「人を殺して死ぬ過程が見たかった」
大学1年生の時、知り合いの77歳の女性を殺害した事件

B「焼けて死んだ遺体を見たい」
大学1年生の時、実家に帰省した際、2度にわたり、住宅に火をつけて焼こうとした事件

裁判が始まったのはことし1月。元女子大学生は事件当時、未成年でしたが、成人と同じ裁判員裁判を受けることになりました。
名古屋地方裁判所の初公判に現れた元女子大学生は、髪の毛を後ろで束ね、紺の上着と黒のズボン姿、ごく普通のどこにでもいる21歳といった印象でした。裁判官の問いかけには、落ち着いた声ではっきりと答え、凄惨(せいさん)な事件に関わったとは信じられませんでした。

裁判では刑事責任が問えるかどうかを最大の争点に審理が行われ、計6回の被告人質問のほか、母親や精神鑑定を行った医師などに対する尋問が行われ、そのすべてを傍聴しました。

殺人への強い関心

ニュース画像
審理が進むにつれ、元女子大学生に対する当初の先入観が、誤りであったことが明らかになっていきます。

身上や経歴の中で、高校時代は人あたりがよく、クラスの中心的な存在だったとされた元女子大学生。なぜ、いつごろから人を殺すことに興味を強めていったのでしょうか。

被告人質問では“人を殺すこと”に興味を持つようになったのが「中学2年生の時だった」と明かしました。きっかけは、母親との会話の中で、平成9年に神戸市で起きた、当時14歳の男子中学生による連続児童殺傷事件について聞いたときだと話しました。このとき初めて「人を殺すということ(の意味)を知った」と説明しました。
一方、証人として出廷した母親は当時を振り返り「『自分と同じ年でそんなことができるなんて尊敬する』という反応だったので、がく然とした」と証言しました。

その後、元女子大学生はインターネットで過去に起きた殺人事件などを調べるようになり、“人を殺すこと”への関心を深めていったといいます。

高校に進学してからは、クラスメイトに対し、殺人事件の話題を一方的に繰り返し話したり、学級日誌に、過去に殺人に関わった人物の誕生日などを書いていました。なかでも、同年代の少年らが起こした事件に強い興味を抱き、共感を持つようになったといいます。「人を殺したいという理由で殺すのは、少年のうちにしかできないと思い込んでいた」。殺人への欲求は高校時代に大きく膨らんでいったのです。

裁判では、このころ、今回の事件で使用するオノやナイフを購入したこともわかりました。その理由について「人を殺したいという欲求を抑えるために持っていたい気持ちと、ナイフを使って誰かを殺したい気持ちがあった」と説明しました。

さらに、大学に進学すると“殺すための相手”を探して人間関係を築くようになり、そして「殺さずにはいられない」という衝動に駆られた結果、最終的な目的を果たします。

どうやって知り合いの女性を“殺すための相手”として選んだのか。裁判では、この女性のほか、同じ大学の友人2人も殺す候補と考え、具体的な計画を立てていたと明らかにしました。そして、たまたま最も早く自宅に招く機会があったから殺害を決意したとしました。
女性の頭を背後からオノで殴りつけると、抵抗され「どうして?」と聞かれたので「人を殺してみたかった」と答え、首を絞めて殺害したと話しました。

多くの凶悪事件の取材経験がある記者でも、強烈な戦慄を覚える状況を淡々と話す様子からは、深い心の闇と同時に、元女子大学生が自身が犯した罪の大きさを実感できないむなしさのようなものを感じざるを得ませんでした。

中毒症状への関心

ニュース画像
人を死なせる過程を確かめる実験ともいえる事件。それが高校生のときに同級生らに劇物のタリウムを飲ませた事件です。

化学が得意で、さまざまな薬品に興味を持つようになり、2年生になると年齢を偽って、劇物のタリウムや亜硝酸ナトリウム(致死量はわずか2グラム)を薬局で購入しました。「コレクションという気持ちが半分。人に投与したいという気持ちが半分」。
特にタリウムは12年前に静岡県で当時16歳の女子高校生が母親に飲ませて殺害しようとして逮捕された事件を知り「中毒の症状を観察したい」という強い興味を持つようになりました。

そして、「どうしても人に投与したい」という思いが抑えられなくなり、中学の同級生だった女子生徒をカラオケ店に呼び出し、ひそかに飲み物に混入させました。
さらに、その翌日、高校の教室でも同級生の男子生徒が持っていたペットボトルの飲み物にタリウムを入れて飲ませます。男子生徒は目に重い後遺症が残りました。

被害者は人ではなくヒト

人を殺したくて殺し、中毒の症状を観察したいからタリウムを飲ませる。
審理では常に感情をあらわにすることがなく、聞かれたことには淡々と答えますが、被害に遭った人や遺族の気持ちについて、どう思うか尋ねられると「わからない」を連発。他人の身になり、気持ちを推し量ることができないということが伝わってきました。

「被害者は“人”ではなく、実験対象としての“ヒト”」。「人は死んだ瞬間にモノになる」。「人はコンピューターより少し複雑なだけで修理可能」。

タリウムを投与した2人を「2個体」と表現し、観察ノートに症状を記録するなど、被害者やその家族に対する理解や共感をまったく持ち合わせない言動に、裁判を傍聴していてるこちらが混乱してしまうこともたびたびありました。

こうした行動の原因について、精神鑑定を行った3人の鑑定医は発達障害と双極性障害、いわゆるそううつ病の影響を指摘しています。
鑑定の結果、IQ=知能指数は120あったとされ、勉強や表面的な他者とのコミュニケーションに支障をきたすことはありませんでした。
一方、障害の影響で、興味が1つのことに限定したり、他者への共感性が欠如していたと指摘しています。

人を殺さない自分になりたい

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逮捕から2年余り。勾留中に医師の診断を受け、投薬治療などを受けた結果、気持ちが落ち着いてきたという元女子大学生は「人を殺さない自分になりたい」、「こういう事件を二度と起こしたくない」と何度も口にするようになりました。
その一方で「謝罪をしたいという気持ちはあるが、謝罪や反省のしかたがわからない」といい、今でも「週に1〜2度、人を殺したいと思うことがある」とも話しています。

見過ごされた兆候

ニュース画像
裁判の中では、事件の兆候を見抜く機会がたびたびあったことがわかりました。

中学生時代、学校に通えなくなり精神科を受診した時。高校時代、父親が化学薬品やナイフを見つけて警察に連れていった時。タリウムの投与を妹に打ち明けた時。

さらに、殺人事件の4か月前。犯罪者を礼賛するような言動を聞いた母親が仙台市の発達障害の支援センターに連れていったこともありました。そこで殺人に対する願望を打ち明けていたという元女子大学生。
しかし、母親にその結果が伝わったのは1か月後。すでに名古屋に戻っていた元女子大学生に、近くの支援センターに相談するよう伝えましたが、実際に訪問することはありませんでした。

家族や周囲が、その深刻さに気付かず、事件の芽を摘み取ることができなかったのです。

元女子大学生は、弁護士から幼いころの思い出について尋ねられ「泥団子を作るのがうまかったり、かけっこで1位になったことを先生にほめられた」と話しました。研究者を目指したこともあるなど、事件を起こさない道を歩もうとしていたこともあります。

24日の判決で、裁判所は発達障害の影響は限定的で、みずからの意思で犯行に及んだとして、責任能力があったと認定しました。一方で、刑務所で適切な治療などを受けさせるべきだとも指摘しました。

「人を殺してみたかった」。なぜ、そう思い、実行してしまったのか。裁判を通して考え続けてきましたが、最後まで納得のいく言葉を聞くことはできませんでした。過去には同じような動機で起きた事件も少なからずあります。
今回の事件を特異なケースとして片づけるのではなく、事件を防ぐために何ができるのか、これからも取材を続けていきたいと思います。

絹田峻
名古屋局
絹田峻 記者
管野彰彦
ネット報道部
管野彰彦 記者
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[国際18] オバマケア代替法案撤回、トランプ氏「次は税制改革」 市場では楽観的な見方 減税など実行可能な案件に着手可能
World | 2017年 03月 25日 07:11 JST 関連トピックス: トップニュース
オバマケア代替法案撤回、トランプ氏「次は税制改革」

[ワシントン 24日 ロイター] - トランプ米大統領は24日、同日午後に予定されていた医療保険制度改革(オバマケア)代替法案の下院採決について、共和党指導部に取り止めるよう指示した。反対する共和党議員の説得に当たっていたが、可決に必要な票を集められなかった。

オバマケアの改廃はトランプ大統領が選挙期間中から掲げていた主要公約の1つで、法案撤回は痛手となる。

共和党内の穏健派、保守派ともに法案に反対しており、ホワイトハウスと党指導部は双方を納得させる妥協案を取りまとめることができなかった。

トランプ大統領はホワイトハウスの執務室で、可決に必要な支持獲得に極めて近いところまで来たが、民主党の支持も得られず採決に持ち込めなかったと指摘。次はおそらく税制改革に取り組むとした。

今後の医療保険改革の行方については、民主党指導部がトランプ氏と共に取り組むかどうかにかかっていると述べた。

ライアン下院議長は会見で「率直に非常に残念な日」とし、共和党議員は野党から与党へと立場が変わる中で痛みを経験していると述べた。

*内容を追加して再送します。

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http://jp.reuters.com/article/usa-obamacare-vote-0324-trump-order-idJPKBN16V2OC

News | 2017年 03月 25日 07:09 JST 関連トピックス: トップニュース
オバマケア代替法案撤回:識者はこうみる

[24日 ロイター] - トランプ米大統領は24日、同日午後に予定されていた医療保険制度改革(オバマケア)代替法案の下院採決について、共和党指導部に取り止めるよう指示、次はおそらく税制改革に取り組むとした。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●減税など実行可能な案件に着手可能

<ウェルズ・ファーゴ・アセット・マネジメント(ボストン)のシニアポートフォリオマネジャー、マーガレット・パテル氏>

市場ではトランプ政権が医療保健問題に完全に手足を縛られ、身動きできなくなるのではないかとの懸念が出ていた。医療保健問題がこうした形でクリアされたことで、規制改革や減税などそれほど複雑ではなく実行可能な案件に着手できると、市場では楽観的な見方が出ているのではないか。

これほど複雑で大きな費用が絡む案件が棚上げにされたことはプラス方向の動きのように見える。今後、減税のようにそれほど難しくない案件に歩を進めることができる。

●議会はトランプ氏の思い通りには動かず

<DRWトレーディングの市場ストラテジスト、ルー・ブライアン氏>

最も重要なのは、トランプ米大統領と議会の関係に関する見方を変えるという点だ。過去数カ月は、議会はトランプ大統領が求めることは何でもやるといった印象があった。しかし、明らかにこうした状況ではなくなるだろう。

●株価への影響は限定的に

<グローバル・マーケッツ・アドバイザリー・グループのシニア市場ストラテジスト、ピーター・ケニー氏>

バイオテクやヘルスケア関連銘柄に一定の影響が及ぶ可能性はあるが、株式相場全体への影響は限定的となると考える。

今回の動きは今後も大統領の目指す政策が過度に野心的な内容となり、議会での意見集約が困難になることを示唆しており、投資家の望むところではないだろうが、株式市場はこうした機能不全という要素を織り込むことになるだろう。そのため、今後の株式動向への影響は控えめとなる公算が大きい。

●次の焦点は税制改革、市場は前進好感

<シノバス・トラスト・カンパニーのシニアポートフォリオマネジャー、ダニエル・モーガン氏>

予定されていた採決を控え懸念が広がっていたため、市場にはやや買い安心感が広がっている。

次の課題に向け前進する扉が開かれた。おそらく次の焦点は税制改革だ。市場は医療保険制度改革(オバマケア)の改廃よりも税制改革に関心がある。

先に進めることは素晴らしい。税制改革に取り組み、その後はインフラ法案だ。

●市場反応前向き、道筋明確化に期待

<パイオニア・インベストメンツ(ボストン)の通貨戦略責任者、パレシュ・ウパダヤ氏>

当初の市場反応は前向きな兆候を示すものだった。トランプ米大統領が、医療保険制度改革(オバマケア)代替法案を廃案にせず、再起の機会を与える意向と受け取っているようだ。トランプ氏が自身の政策課題の議会通過に向け取り組んでいると、市場は解釈したもようだ。それとも、医療改革を棚上げにすることになれば、トランプ氏が税改革に焦点を当てるととらえているのかもしれない。

ソーシャルメディアで、議員の投票行動を無理やり変えさせることはできない。古き良き形の政治活動が合意形成に必要だ。

医療問題から税問題に軸足を移すのなら、市場関係者らは今後の道筋を知りたいと考えているに違いない。

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http://jp.reuters.com/article/instant-view-obamacare-idJPKBN16V2V2?sp=true

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/730.html

[国際18] 日本の円安頼み、貿易戦争の引き金になる恐れ 日米金利差拡大で円安再始動は本当か 
 
【バロンズ】
日本の円安頼み、貿易戦争の引き金になる恐れ
By WILLIAM PESEK
2017 年 3 月 24 日 15:45 JST
 日本の政府当局者らは、周囲が思うよりも爽快な気分でドイツの温泉地バーデンバーデンを後にした。米国が、当地で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議から自由貿易の原則を排除したことは確かに痛手だったが、日本の円安戦略は無傷で済んだ。

 だが、会議後の高揚感は一時的なものになるかもしれない。

 ドナルド・トランプ米大統領の主な標的は中国だ。中国の通商政策は「米国をレイプしている」と非難している。確かに、自国本位の貿易慣行や大手国有企業への補助金支給、偽造品の横行など中国を...
http://jp.wsj.com/articles/SB11871429478203413319904583041890749879634

FX Forum | 2017年 03月 25日 09:15 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
日米金利差拡大で円安再始動は本当か

亀岡裕次大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 24日] - 「2017年は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを進めていく中で日米金利差が拡大し、ドル円が上昇」というシナリオが、円安派の主張で目立つが、これは実現するのだろうか。ここでは、その実現性について考えてみたい。

米国の長期金利が上昇してきた主因は、インフレ期待の高まりにある。市場のインフレ期待を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は昨年11月以降に上昇が進み、今年1月には5年物BEIが2%近くまで上昇した。

トランプ大統領の当選後に米景気拡大期待が高まったこと、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産で原油価格が上昇したこと、1月にドル実効為替が反落したこと、米インフレ率が上昇したことなどが、インフレ期待を高める方向に作用した。FRBが3月に追加利上げした理由もインフレ抑制にあるとみられる。

<米インフレ期待上昇は望み薄>

ただし、BEIは2月以降、頭打ちとなっている。原油などの商品市況が反落したこと、ドル実効為替の下落が一服したことが原因とみられる。米消費者物価(CPI)の前年比が2月に2.7%まで高まる一方で、エネルギーを除くCPIの前年比は2%未満で安定しており、インフレの主因はエネルギー価格の上昇にあることがわかる。

そして、米原油生産が増え続ける中で原油在庫の増加が目立ち始めたため、需給緩和見通しから原油価格が下落し始めた。そのことにより、インフレ率がピークアウトする可能性が出てきた。

さかのぼると、WTI原油先物価格(中心限月)は昨年2月にかけて下落し、1バレル=27ドル程度で底打ちした後、6月にかけて51ドル程度まで上昇した。これに対し、今年は1―2月に50―55ドルで推移した後、足元で47ドル台まで下落している。今後しばらくは原油価格が安定的に推移した場合でも、その前年比は2月をピークに低下していくことになる(原油価格が下落すれば、なおさらだ)。

しかも、ドル実効為替も昨年2―6月に下落したので、安定的に推移した場合、その前年比は上昇しやすい。つまり、前年比でみると、原油安・ドル高の方向に振れやすいので、インフレ率は低下しやすいのだ。

また、FRBがインフレ期待の参考指標にしているとみられる米ミシガン大学の消費者期待インフレ率は低下傾向にある。3月に、向こう5年間の期待インフレ率は2.2%と1979年の統計開始以来最低となり、1年間の期待インフレ率は2.4%と昨年12月の2.2%(2010年9月以来の低さ)に次ぐ低水準となった。

近年、消費者のインフレ期待が低下しているのは、消費者の米国景気についての現況判断が改善しても先行き期待が伸び悩んでいることと関係がありそうだ。市場のインフレ期待がさらに上昇していく可能性は低いように考えられる。

<米長期金利の上昇は進みにくい>

米国の実質金利はトランプ大統領当選後の昨年11―12月は上昇したものの、その後は反落した。米経済成長への期待が頭打ちとなっていることを反映しているのではないか。

ミシガン大学の消費者信頼感指数のうち、現況指数が3月にかけて上昇する一方で、先行きの期待指数は昨年11―12月に上昇した後に反落している。今回の景気拡大が93カ月に達し、過去3回の平均である95カ月に迫るなど長期化しているせいか、好景気がさらに続くという期待は盛り上がっていないようだ。

3月は雇用統計など強い米経済指標や米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのタカ派的発言から利上げ期待が急浮上し、FOMCにかけては実質金利が上昇したものの、メンバーの利上げ予想ペースが加速していないとわかると実質金利は反落した。

米国は完全雇用に近づき、賃金上昇率が次第に高まりつつあるとはいえ、コア物価のインフレ率は落ち着いている。シカゴ連銀発表の全米経済活動指数(3カ月移動平均値)は2月に0.25まで上昇したが、経験則として持続的なインフレ率上昇が始まりやすいとされる0.7には達していない。もっと経済成長が高まらないと、コアインフレ率は上昇しにくいだろう。

2月は平年に比べ3度以上も平均気温が高く経済活動が活発化したが、3月は東海岸で大雪が降るなどの悪天候に見舞われた。しかも、株価は月初をピークに下落傾向をたどり、トランプ政策期待の後退から株安が進みつつある。米国景気の減速リスクが高まりつつあり、株安と景気減速が相互作用を及ぼし合う負の循環に入る可能性もある。成長期待(を反映する実質金利)とインフレ期待の両面から、米長期金利の上昇は進みにくいだろう。

<為替は日米金利差と逆方向に動くケースも多い>

そもそも、日米金利差が拡大するとドル円は上昇すると言えるのか。1990年代以降で日米10年国債金利差が拡大した9回の局面について振り返る。日米金利差拡大でドル円が上昇したのは、2001―02年と16年の2回だ。

16年つまり昨年はトランプ大統領当選後、大型減税などの政策期待を背景に米株価・金利とともにドル円が上昇した。一方、01―02年は日米金利差拡大だけでなく、日銀の量的緩和導入(日本のマネタリーベース増加)も円安に寄与した。

日米金利差拡大とドル円上昇の相関が低いのが、96年、05―06年、09年、13年の4回だ。96年は金利差拡大でドル円は上昇したが、金利差が縮小に転じてもドル円は上昇を続けた。95年4月の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での「為替の秩序ある反転が望ましい」との声明とドル買い協調介入を受けてドル円上昇が続いていたのであり、金利差拡大が主因ではなかった。

05年は米本国投資法による米国への資金還流でドル円が上昇、06年は反動でドル円が下落したが、金利差とドル円の相関は低かった。09年は金利差拡大を背景に短期的にドル円が上昇後、日本の貿易収支改善と米国の貿易収支悪化を背景にドル円は下落に転じた。13年は5月にかけて日銀の量的緩和を背景にドル円が急上昇し、日米金利差が拡大した年後半はドル円上昇が鈍った。

日米金利差拡大の一方でドル円が下落したのが、94年、99年、10―11年の3回だ。94年は金利差が大幅に拡大したにもかかわらず、当時のクリントン米政権からの円高圧力を背景にドル円が下落した。99年は金融危機から脱した日本経済の回復が円高に働いた(当時は景気回復・円高)。10―11年は金利差が明確に拡大したものの、東日本大震災によるリスクオフが円高に作用したことなどから、ドル円はわずかに下落した。

つまり、日米金利差が拡大してもドル円が上昇するとは限らない。為替が他の要因に左右されて日米金利差と逆方向に動くケースも多いのだ。今後は、トランプ政権の保護主義が円高・ドル安圧力となる可能性がある。米国が円安や日本の貿易黒字への懸念を示す口先介入だけでなく、日本に金融緩和縮小圧力をかけることも考えられる。

米国の長期金利が明確に上昇するような状況でないと日本の長期金利も上昇しにくく、日銀が国債買い入れを縮小しやすいはずだ。日米金利差が縮小する可能性は十分にあり、たとえ日米金利差がわずかに拡大しても米保護主義による円高・ドル安によって打ち消されやすいだろう。いずれにせよ、日米金利差拡大によるドル円上昇のシナリオは描きにくい。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。 


コラム:日本経済の「春」はいつまで続くか=竹中正治氏 2017年 03月 04日
コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏 2017年 03月 21日
コラム:円高派と円安派、年末に笑うのはどちらか=尾河眞樹氏 2017年 02月 23日
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yuji-kameoka-idJPKBN16V0V9
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/731.html

[国際18] アングル:車で攻撃、過激派が原始的手法に回帰する理由 防ぎにくい 特別な準備が必要ない 非常に低コスト 誰にでも実行可能
News | 2017年 03月 26日 12:52 JST 関連トピックス: トップニュース
アングル:車で攻撃、過激派が原始的手法に回帰する理由

Chine Labbé and Adrian Croft

[パリ 23日 ロイター] - 過激派組織は、英ロンドンの国会議事堂周辺で22日発生した事件のような車両暴走型の攻撃に、ますます傾きつつあるようだ。低コストで計画しやすい一方で、防ぎにくいからだ。

専門家によれば、人々を自動車でひき殺すという戦術であれば、何らかの爆発物や武器を入手する必要もなく、テロリスト同士のネットワークを使わない「一匹狼」型の攻撃者でも実行可能だ。いずれも、治安当局に警戒されるリスクが低下する。

「この種の攻撃には特別な準備が必要ない。非常に低コストで、誰にでも実行可能だ」とフランス社会党の国会議員でテロ問題の専門家でもあるセバスチャン・ピエトラサンタ氏は語る。

「それは個人による行動の場合が多い」と同氏はロイターに語った。「きわめて自発的に行なわれる可能性がある」

警察が「テロリストによる攻撃」と称する今回の事件では、議事堂近くで車両が歩行者をなぎ倒し、襲撃犯が警察官をナイフで刺したことで4人が死亡、少なくとも40人が負傷した。容疑者は射殺された。

昨年のベルリンやニースの事件では、トラックを使って群衆を襲った。過去にパリやマドリッド、そして2005年のロンドンで起こった、爆弾や銃器で武装したチームによる組織的な攻撃とは対照的だ。

フランス革命記念日の祝賀ムードの中で花見見物客86人がトラックによる襲撃で殺害された昨年7月のニースでの事件と、トラックがクリスマス市場に突っ込み12人が殺害された昨年12月のベルリン事件の、いずれも過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。

今回の襲撃についても、ISが系列メディアを通じて23日に犯行声明を出した。総組織は現在、シリアとイラクにおいて厳しい圧力にさらされている。最後の拠点の1つであるモスルはイラク軍部隊による攻撃を受けており、これを支援する有志連合には英国も参加している。

ISは2016年、オンライン広報誌の読者に対し、自動車を殺傷手段として用いることを推奨している。


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 3月23日、過激派組織は、英ロンドンの国会議事堂周辺で22日発生した事件のような車両暴走型の攻撃に、ますます傾きつつあるようだ。写真はロンドンでの事件発生現場となったウエストミンスター橋に捧げられた花。24日撮影(2017年 ロイター/Peter Nicholls)
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<イスラエルでの攻撃例>

車両による攻撃は、中東では目新しい戦術ではない。

2008年、当時は米大統領候補だったバラク・オバマ氏の訪問を控えたエルサレムの街路で、パレスチナ人の運転するブルドーザーが複数の自動車に突入し、少なくとも16人が負傷した。

同年1月には、やはりエルサレムで、別のパレスチナ人がトラックでイスラエル兵のグループに突っ込み、4人を殺害した。ネタニヤフ首相は、ISに刺激されたものである可能性が高いと語っていた。

元CIAアナリストのポール・ピラー氏は、長らく「先進的な、つまりハイテクな手法によるテロ攻撃に関心が集中していたが、多くの罪なき人々を殺害するための、最も容易に調達可能な方法は、常にシンプルで、高度な知識も訓練もまったく必要としない」と語る。

「その1つが、ごった返した街路で車両を暴走させて人々をひき殺すという方法だ。場所としては、たとえばクリスマス市場や国会議事堂近くのように、政治的・宗教的な意味のある場所が選ばれるかもしれない。とはいえ、多くの人々であふれる脆弱性の高い公共の場所はどこにでも見つかる」とピラー氏は語った。

欧州のシンクタンク、テロ分析センターのジャン=シャルル・ブリザール所長によれば、22日の攻撃は「構想としては原始的」に思われるという。

破壊兵器としての自動車の利用は、殺傷力があるだけに、武装勢力の間で高く評価されている戦術だとブリザール氏は言う。「自動車が使用された場合、ナイフやナタを使った場合と違い、はるかに多くの犠牲者を生むことになる」

「最近の攻撃は、ピストルやナイフ、自動車といった原始的な武器が使われるようになり、ますます予想しにくくなっている」と同氏は語る。

パリで治安コンサルタント会社テロリスクを経営するアン・ジュディセリ氏は、大都市におけるテロ警戒強化が、武装勢力による攻撃手法の変化を促してきたと言う。

「テロ攻撃や、未遂に終わった攻撃の後で新たな対策が施されるたびに、攻撃者たちはその対策を回避して隙を見つけるように適応してくる」と彼女は言う。

独シンクタンク、アスペン・インスティチュートのタイソン・バーカー計画担当ディレクターは、今回のロンドン攻撃について、「ソフト」ターゲットを保護することの困難さと、開放的な西側社会における治安と自由のトレードオフが浮き彫りになったと指摘する。

「攻撃の可能性をゼロにすることは決してできない。彼らの意図は、こうした開放性を閉ざすことなのだから、テロ対策としてはスマートな分析と強靱さ、警戒が求められるが、それは社会の開放性を閉ざすようなものであってはならない。それこそまさに、われわれが守ろうとしているものなのだから」とバーカー氏は言う。

バーカー氏は、今回の事件による影響予測は時期尚早だが、2015年に米カリフォルニア州サンバーナーディーノでIS支持者が起こした銃乱射攻撃は、現在は大統領の座にあるドナルド・トランプ氏が米国へのムスリム入国禁止という選挙公約を口にする契機となった、と述べている。

また、2月のベルリンにおけるクリスマス市場襲撃を契機に、ビデオカメラによる監視や、疑わしいと見られる難民申請者の留置や拘束に関するドイツの政策が大きく変わった。

テロ対策に関する仏当局者との協議のためにパリを訪れているサウジアラビア代表団のマンスール・アル・トゥルキ内務省報道官は、ISやアルカイダなどの組織が敗北すれば、脅威が拡散し、各国政府にとって新たな問題が生じる可能性があると語る。

「彼らがシリアとイラクで敗北すれば、われわれは皆、困難に直面することになる。IS戦闘員がどこに向かうのか誰にも分からない」と同報道官は記者団に語った。「われわれはソーシャルメディアと一匹狼が主導する新たなテロの段階に入ろうとしているのだと思う」

(翻訳:エァクレーレン)

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http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/742.html

[経世済民120] シムズ理論が日本政府のご都合解釈で「悪魔の経済学」になる理由 
シムズ理論が日本政府のご都合解釈で「悪魔の経済学」になる理由=斎藤満

2017年3月23日 ニュース

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浜田宏一内閣官房参与に「目から鱗」と言わしめたシムズ理論。日本はこれをご都合主義で活用しようとしていますが、その実態は、日本国民にとって受け入れがたい理論です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年3月22日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

シムズ理論の「良いところ取り」が、日本経済を窮地に追い込む

浜田宏一氏も「目から鱗」シムズ理論の正体とは?

安倍総理の経済アドバイザーを務める浜田宏一内閣官房参与(米エール大学名誉教授)。彼をして「目から鱗」と言わしめたのが、いわゆる「シムズ理論」です。これは2011年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授の「物価水準の財政理論」を言います。

これはざっくり言えば、物価目標を達成するには金融政策では限界があるとして、財政支出を拡大し、増税は先送りして、国民に「政府は債務を返済できない」と不安がらせ、返済しきれない分を物価上昇で穴埋めする、という考え方です。つまり、政府の無責任によって国の信用を低下させ、通貨価値を下落させることで物価を押し上げようというものです。

【関連】アベノミクスの主犯・浜田教授が執心する「シムズ理論」の何が危険か=田中徹郎

これがなぜ「目から鱗」なのか理解に苦しみますが、早い話がアフリカの例えばジンバブエのように、政府は財政赤字を出しても、その債務返済ができないために、誰もその国の通貨を信用せず、持ちたがらず、従って天文学的なインフレが生じる状況を先進国の日本でも再現せよ、と言っているようなものです。インフレになれば、これを抑える引き締め手段はあるから大丈夫と言います。

先進国の間ではすでに財政による成長支援、インフレ率引き上げが採用されつつあり、その流れの中にあって、日本も積極財政に転換しました。そこへこの「シムズ理論」が入ってきたために、政府は公然と「2020年度もプライマリーバランスは均衡せず、8兆円以上の赤字が残る」と言ってはばかりません。

国民を不安にさせるのが「シムズ理論」のミソ

この「シムズ理論」の核心は、政府の「いい加減さ」にあり、国債も全部は償還できない、財政赤字を増税などで穴埋めもしない、と言って国民を不安に陥れることにあります。そして2017年度予算が通りました。歳出が97兆4500億円、税収は57兆7100億円で、前年に比べて税収が1000億円増加する一方、歳出は7000億円増加し、「いい加減さ」は見せました。

ところが、この2017年度予算に対して、財務省幹部は「管理された財政拡張」つまり、歳出増大によって借金は増えるが、まだ財政当局のコントロール下にある、と言っています。これは、ある意味では「シムズ理論」の「邪魔」になります。国民に不安にさせるのが「シムズ理論」のミソですが、当局の管理下にあると説明しては、いずれ赤字削減策がとられると期待させてしまいます。

そうなると、将来の増税、歳出削減などを国民が予想するので、結果的にデフレになる、とシムズ教授自ら指摘します。日本はこれまでさんざん財政赤字を拡大し、世界の主要国の間でも最もGDP比で債務残高が大きな国となりました。それでもインフレにならない理由として、シムズ教授は「いずれ増税で穴埋めされる」との期待がデフレをもたらしていると説明しているのです。

Next: 中途半端な「シムズ理論」の採用で日本国民が犠牲になる
中途半端な「シムズ理論」の採用で日本国民が犠牲になる

シムズ理論自体に大いなる疑問を持ちますが、今の日本は、このシムズ理論を中途半端に利用しようとしているように見えます。財政赤字拡大を正当化する裏付け理論としてシムズ理論を使いながら、その処方箋に従わず、財政赤字は当局の管理下にある、としています。これでは不安からくる通貨価値の下落にはつながりません。

もっとも、当局が言うほど、今の日本では財政赤字が当局のコントロール下にあるとも思えません。そうなると、都合の良い所だけシムズ理論を使って財政赤字を正当化し、それでも将来の赤字補てんをイメージさせるために、かえって赤字がデフレ要因となり、従ってインフレ目標はいつになっても達成されず、ずるずると財政赤字だけが拡大する形になります。

ガスに火をつければお湯も沸き、料理もできますが、ガスを全開にしながら火をつけなければ、ガス中毒になって倒れてしまいます。抗生物質も菌が死ぬまで飲み切らずに、中途半端に止めてしまうと、抗生物質の利かない菌が発生して手に負えなくなります。

シムズ理論に絶対的な評価をするのであれば、とことんその処方箋に従って使う必要があり、インフレの実現が見えれば早急に引き締め転換する必要があります。逆に、シムズ理論が望ましい成果をもたらさないとの疑問があれば、中途半端にこれを使わず、つまり安易に財政赤字を拡大しないことです。

財政赤字の縮小に目途が立ち、年金など将来の不安もなくなれば、消費者も安心して消費を拡大し、需要の拡大、成長促進となり、デフレも心配なくなります。そもそも、国民は物価が上がらない状況に不満はなく、逆に賃金が上がらないままインフレになることこそ、国民の敵です。国民生活を犠牲にして政府の債務負担だけ軽減されるインフレは誰も望んでいません。

理論の実態がわかれば、日本では「シムズ理論」は国民が受け入れないと思います。インフレにして財政の実質負担を軽くすることは、汗水たらして蓄えた貯蓄の価値がインフレで減少することの裏返しで、国民を犠牲にした財政再建で、それに使われる「シムズ理論」は「悪魔の経済学」とも言えます。それよりも、国民にとっては今のインフレ・ゼロの方がはるかにましです。
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・債券市場はトランプ政策に懐疑的(3/1)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年3月22日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】なぜ浜田宏一氏はスティグリッツやクルーグマンでなくシムズに説得されたのか?=内閣官房参与 藤井聡

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【関連】「第2の電通問題」を回避する方法。日本のサラリーマンを殺すな!=斎藤満

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『マンさんの経済あらかると』(2017年3月22日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

http://www.mag2.com/p/money/161563?
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/477.html

[自然災害21] 次の大地震はどこで発生? 2017年「危険度ワースト3」の要警戒エリアはここだ 
次の大地震はどこで発生? 2017年「危険度ワースト3」の要警戒エリアはここだ
2017年3月23日ニュース
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去る2月28日、福島沖を震源とする震度5弱の揺れが再び東北や関東を襲った。気象庁は、今回の地震は先の東日本大震災の余震であるとの見解を発表。「3.11」から丸6年が経過した今、日本列島は再び巨大地震の脅威にさらされている。今こそ、風化しつつある震災の記憶を改めて思い起こし、防災意識を見直してみる時期に来ているのかもしれない。そんな状況の中、メールマガジン『週刊MEGA地震予測』で独自の手法による地震予測を配信し続けているのが、東京大学名誉教授の村井俊治氏率いるJESEA(地震科学探査機構)。村井教授は、2017年の日本の地震活動をどの様に予測しているのだろうか。
3.11の後悔をバネに進化を続ける『MEGA地震予測』の最新分析
後悔から始まった地震予測
関西地方を襲った1995年の阪神・淡路大震災に、東北地方に未曽有の被害を与えた2011年の東日本大震災、そして最近では2016年の熊本地震など、大規模な地震が絶えなく発生する日本列島。次なる大地震がいつ、どこで発生するのか……。日本という国に住む者なら誰もが大いに気になることではないだろうか。
そのような多くの要望に応えるように、近年では地震の予測を試みる民間の研究機関が増えている。それらのなかでも、ひと際高い予測的中率で注目を集めているのが、メールマガジン『週刊MEGA地震予測』を配信するJESEAだ。
このJESEAを率いる東京大学名誉教授の村井俊治氏は、もともと測量工学を専門とする研究者だ。測量工学の国際的な学会の会長職などを歴任し、2017年1月にはこの分野において顕著な功績を残した世界の10人に選ばれるなど、数々の輝かしい実績を残してきた村井教授が、全くの畑違いとも言える地震予測の研究を始めたのは、長らく勤めた東京大学を定年で退官した後の2002年のことだった。
「地震予測は、これまで誰も成功していない最も難しい科学技術。なにより地震が多い日本という国にとって、とても有益な研究になるのではと思い、“じゃぁ死ぬまでの間、この研究に打ち込もう”と決めました」(村井教授・以下同)
村井教授が着目したのは、地震発生と地殻変動との相関関係。そこで、過去に起きた162件のM6以上の大きな地震について改めて検証を行ってみたところ、すべての地震発生時において、事前に何らかの異常が現れていることが確認できた。
やはりこれは地震の予測に使えそうだ……そう確信し、その後も地道な研究を続けていた村井教授だったが、ある時、東北地方の各地に大規模な地震の前兆とみられる、地表の異常な動きが現れているのを発見する。
「これは間違いなく大地震の前兆だと思いました。しかし当時の私には、その危険を伝える媒体も手段もなかったですし、たとえ情報発信ができたとしても、地震予測の分野において実績も知名度もなかった私の話など、誰も信じてはくれないのは明らかでした」
為すすべなく悶々とした心境のまま、迎えてしまった東日本大震災。大地震の前兆を捉えながらも、それを減災に活かせなかったことは、後々まで忘れられない痛恨事となった。しかしそのいっぽうで、「自らが研究を重ねた地震予測で、今後また起こるであろう大地震の被害を少しでも抑えることができれば……」という想いも新たにした村井教授。その後の2013年1月にJESEAを立ち上げ、メルマガ『週刊MEGA地震予測』の配信をスタートさせた。
詳しくはこちら
MEGA地震が変えた「予測」の常識
列島各地の地表の変動から大地震発生の前兆を捉える、村井教授の地震予測。各地点がどれだけ動いたかは、国土地理院が全国約1300か所に設置している電子基準点から得られるデータを参考にしている。
電子基準点からは、地球上で最も動かない点である地球の重心を原点とした各地の地心座標系の座標値(X,Y,Z)が送られて来る。そのデータを積み重ねることで、各地点の地表が水平・垂直方向にどれだけ動いたのかが分かるのだ。
「地球の表面は絶えず動いています。それが1〜2p程度なら問題はないのですが、場所によっては短期間で4〜5pと異常に動くところもある。また日々の動きは小さいものの、実は徐々に同じ方向へと大きく動いている地点もあります。そういった短期的・長期的変動を、様々なパラメーターを用いて分析することで、地震の前兆を捉えようとしているのです」

電子基準点から得られる座標値(X,Y,Z)の意味
従来の地震学による予知と自らが行う地震予測との違いについて、村井教授は医者と患者の関係になぞらえて、こう説明する。
「従来の地震予知は、患者の過去の病歴を調べて、それだけを材料に今後どうなるかを言っているようなものです。でも私の地震予測は、電子基準点のデータから現在の地球の“健康診断”をし、その結果に基づいて予測をしているわけです」
このようにして、測量工学的アプローチによる地震予測を確立した村井教授だが、予測を公開し始めた頃は「地震学の素人がこんなことをやっていいのか」という負い目も、少なからずあったという。
そんな村井教授を後押ししたのが、プレートテクトニクス研究の第一人者と知られ、東京大学地震研究所で長年教授を務めた上田誠也東京大学名誉教授の言葉だった。
「上田さんは“従来の地震学は地震のメカニズムこそ研究してきたが、地震の前兆を捉える研究はしていないので、地震予知ができないのは当たり前だ”と。そのうえで“村井さん、期待しています”とおっしゃってくださったんです。この言葉には、大いに勇気づけられました」
Next: 村井教授が予測する「2017年ここが危ない」

南関東、東北、日向灘…村井教授が予測する「2017年ここが危ない」
さて、地球の表面は絶えず動いていると話す村井教授だが、殊に東日本大震災の発生後は、その動きが活発になっており、日本列島のあらゆる場所で、いつ大きな地震が起きてもおかしくない状況であるという。
「そんな日本列島のなかでも、水平方向における変動が最も大きいのが東北地方。注意すべきなのは、動きが激しい箇所よりも、動きの強弱の境目となっている箇所で、そういう地点は地殻が断裂し地震となりやすいんです」
また東北地方は、垂直方向の動きで見ても、日本海側が沈降するいっぽうで太平洋側は隆起するという、異常な動きが続いているという。
「こういった場合、沈降する地点と隆起する地点の中間となる箇所が、歪みがたまりやすい。東北地方の背骨ともいえる奥羽山脈一帯は、地表の変動こそ目立ちませんが、そういった周辺の状況から判断すると、大きな地震の揺れを起こす可能性が大いにあります」
いっぽうで、メルマガ『週刊MEGA地震予測』において、最も警戒度の高い“レベル5”に現時点(2017年3月)で唯一指定されているのが、南関東周辺のエリアだ。
「このエリアでは2016年の6月から9月にかけて、多くの地点で一度に5p以上の大きな動きが観測されるという“一斉異常変動”と呼ばれる現象が、5回も発生しました。この一斉異常変動は、東日本大震災が起こる前の東北地方でも発生しており、そのことを考えると非常に危ない状況です。また、昨年9月以降は静謐状態が続いているのも、大いに気になるところ。この静謐期間が長くなればなるほど、地震の規模が大きくなりかねないからです」

2016年に南関東周辺で発生した“一斉異常変動”

東日本大震災の前に宮城県で発生した一斉異常変動
さらに、村井教授がその動きを特に注視していると語るのが、2017年3月上旬にもマグニチュード5.2の地震が起きた日向灘周辺だ。
「海上保安庁が海底に設置した海底基準点による観測で、南海トラフの広範囲で大きな地盤変動が発生していることが明らかになりました。南海トラフでは将来的に、南海地震・東南海地震・東海地震という3つの地震が連動して起きるとされていますが、過去の事例を紐解くと、それらの3連動地震の前には必ず日向灘で地震が発生しています。よって、このエリアの動きも要警戒と言えるでしょう」
詳しくはこちら
予測のためなら自費で電子観測点を設置
このように列島各地で大地震発生の危機が迫るなか、さらなる予測精度の向上を図るべくJESEAが進めているのが、プライベート電子観測点の設置・拡充だ。
実は国土地理院が設置した従来の電子基準点からは、丸一日分の動きを平均化したデータしか得ることができない。この場合、もし数時間単位で大きく地表が動いたとしても、その後すぐに揺り戻しの動きがあれば、一日分のデータとしてはあまり変動のないものに丸められてしまい、その地点で実際に起きた異常を捉えることが難しくなってしまう。
その点、自前で建てるプライベート電子観測点は、その地点がどのように動いているのかを、1時間や3時間といった短いタームでの平均値で出すことができる。さらに、国土地理院が建てた電子基準点からのデータが通常2週間後に公表されるのに対し、プライベート電子観測点からのデータはタイムラグなしで得ることができ、すぐ分析にまわすことができる。
「大地震の直前にはプレスリップ(前兆すべり)という、異常な地殻変動が必ず発生します。プライベート電子基準点によって、この動きをリアルタイムでキャッチすることができれば、“数日後に地震が起きる”といった短期的な地震予測も可能となり、より多くの命を救うことができるのではないかと期待しています」
2015年には小田原・大井松田の2地点に、このプライベート電子観測点をJESEAが自費で建てたことに加え、4月までに全国16か所のNTTドコモの携帯電話基地局内にも、地殻変動を捉えるプライベート電子観測点が順次設置される予定だ。
「それらにくわえて、近日中には都内にも新たなプライベート電子観測点を自費で建てる予定です。それが完成すれば、大地震の発生が懸念される日向灘・南海・東南・東海・首都圏といったエリアを、リアルタイムで監視できる体制が整います」
また、これまで研究を重ねてきた地殻変動による地震予測以外にも、今後は大地震発生の直前に発生するとされるインフラサウンド(非可聴音)を利用した予測も併せて展開できればと、目下のところ研究を重ねているとのこと。予想精度のさらなる向上を目指して、新たな試みにも貪欲に挑戦し続ける村井教授は、自らの今後の活動について意気込みをこう語る。
「地震予測の世界はまだ発展途上ですから、予測が外れてご迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。しかし“異常を公表するも外れる”のと、“異常を公表せずに被害者が出てしまう”のとでは、後者のほうが罪深い行為だと思うのです。ですから私は、予測が当たる、当たらないといった声に惑わされることなく、もし異常を見つけたら恐れずに“異常である”と発信する姿勢を貫いていきたいと思っています」
地震予測は総じて眉唾物という既成概念も幅を利かすなか、それでも村井教授は東日本大震災で味わった後悔をバネに、そして「多くの命を救うことに繋がれば」という想いを胸に、日々情報を発信し続ける。誰もが未だ成功していない“完全なる地震予測”。それを成し遂げる日が訪れるまで、村井教授の“震災後”は終わらないのかもしれない。
無料サンプルはこちらから
【関連】黒田日銀の「永久緩和」が引き起こす日本財政破綻、衝撃のデータ=東条雅彦
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http://www.mag2.com/p/money/161601/


http://www.mag2.com/p/money/161601/
http://www.asyura2.com/15/jisin21/msg/792.html

[自然災害21] 日本海側で平安時代に巨大津波か 山形の地層に痕跡  
日本海側で平安時代に巨大津波か 山形の地層に痕跡
2017/3/26 22:12
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 山形県鶴岡市沿岸の砂丘の地層から、平安時代に巨大津波が起きたとみられる痕跡が見つかったとの研究結果を、山形大などのグループが26日までにまとめた。海抜30メートルより高い地点で確認され、従来の県の想定を超える津波が襲う恐れがあると指摘している。

 グループの山野井徹・山形大名誉教授(地質学)によると、鶴岡市湯野浜地区の庄内砂丘で粘土質の泥の層が見つかった。砂丘では通常、砂の層しかないため、日本海が震源の地震で巨大津波がこの場所まで浸入し、運ばれた泥が堆積したとみている。

 最も高い位置は海抜37.9メートルで、海岸から約1600メートル内陸だった。地盤の高さは当時からあまり変化がないと考えられるという。泥の層に含まれていた植物の年代測定で、津波は1000年代から1100年代の平安時代ごろに押し寄せたと判断した。

 山形県が公表している大規模地震の想定では、マグニチュード7.7〜7.8の地震が山形県沿岸で発生し、県内に最大16.3メートルの津波が押し寄せる。研究グループは、今回の痕跡はそれより大きな津波によるものだとしている。

 山野井名誉教授は、東日本大震災では、東北地方の太平洋側を巨大津波が襲ったとされる869年の貞観(じょうがん)地震の研究成果を十分生かせなかったと指摘。「近年、大きな地震や津波がなくても、安全とはいえない。過去の地震を知って対応を考えてほしい」と話した。〔共同〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H2B_W7A320C1000000/
http://www.asyura2.com/15/jisin21/msg/793.html

[政治・選挙・NHK223] 退位特例法「賛成」55% 残業100時間、「妥当」最多の43% 森友問題、政府説明「納得できず」74% 日経世論調査
退位特例法「賛成」55%
 本社世論調査
2017/3/26 22:00日本経済新聞 電子版
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 日本経済新聞の世論調査で、今の天皇陛下に限り退位を認める特例法で法整備する政府の方針について「特例法での対応に賛成だ」が55%だった。「皇室典範の抜本改正で対応すべ…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H23_W7A320C1PE8000/


 

残業100時間、「妥当」最多の43% 本社世論調査
2017/3/26 22:00日本経済新聞 電子版
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 日本経済新聞の世論調査で、政府が年内提出を目指す労働基準法改正案で残業時間の上限を繁忙月は「100時間未満」とする方針について「妥当」が43%で最も多かった。「もっと短い方がよい」は37%、「もっと長い方がよい」は11%だった。

 男性は「妥当」が48%と「もっと短く」の33%を上回った。一方、女性は「もっと短く」が42…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H21_W7A320C1PE8000/

 
森友問題、政府説明「納得できず」74% 本社世論調査
2017/3/26 22:02 (2017/3/26 22:00更新)日本経済新聞 電子版
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 日本経済新聞社とテレビ東京による24〜26日の世論調査で、安倍内閣の支持率は62%だった。2月下旬の前回調査(60%)と比べて横ばいだった。不支持率は前回と同じ30%。学校法人「森友学園」への国有地売却問題をめぐり、これまでの政府側の説明に「納得できない」と答えた人は74%で、「納得できる」の15%を大きく上回った。

 森友学園をめぐる問題では、国有地が評価額よりも大幅に安い価格で売却され、政治家…

[有料会員限定] この記事は会員限定です。電子版に登録すると続きをお読みいただけます。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H25_W7A320C1MM8000/
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/135.html

[経世済民120] 「60歳以降も会社に残れる」という地獄 差別社会、若者を絶望させた「まなざしの地獄」 
「60歳以降も会社に残れる」という地獄

「定年男子 定年女子」の心得

体験して分かった、定年後の再雇用・起業の落とし穴
2017年3月27日(月)
大江 英樹

大江英樹(おおえ・ひでき)氏
経済コラムニスト。1952年、大阪府生まれ。大手証券会社で個人資産運用業務、企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年後の2012年にオフィス・リベルタス設立。写真:洞澤 佐智子
 今、60歳で定年を迎えた人の多くが再雇用制度を利用して、引き続き同じ組織で働き続けています。東京都が行った「高年齢者の継続雇用に関する実態調査」(平成25年)では、86.1%の事業所が「継続雇用制度の導入」をし、定年到達者の65.8%が継続雇用されています。

 実は私自身も定年を迎えた後、半年ほど古巣で働いた経験があります。私自身の体験で言えば、再雇用というのは想像したほどいいものではありませんでした。そのため結局、再雇用からわずか半年で嫌になり、会社を辞めてしまいました。元々、定年退職後は自分で起業したいと思っていましたが、再雇用後の仕事があまりにもつまらなかったので、結果的にそれが起業する私の背中を押してくれたのです。

 そうした自分自身の体験からも、再雇用というのは、会社の規模、仕事の内容、社内での立場、そういった諸々のことを考える必要があると思っています。60歳以降も会社に残れると安心だからと、 “何となく”再雇用に応じて働き始めるのは考えものです。後で「こんなはずではなかった」ということにならないように、よく考えておくべきです。では、どういうところが良くてどういうところが悪いのでしょうか。

 そもそも「再雇用制度」や「雇用延長」がこれだけ一般的となった理由は、2013年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」にあります。この法律によって雇用を希望する人に対しては原則として最長65歳までは雇用が義務付けられることになりました。公的年金の支給開始年齢が段階的に60歳から65歳へと引き上げられるのに伴う改正です。

中小企業は「自分の必要性」を感じやすい

 ただし多くの中小企業では、こうした法律ができる前から、60歳以上でも働いている人がたくさんいました。大企業と違って毎年新卒社員を採用するのが難しく人材はとても貴重で、長年仕事を続けてきてそれなりのスキルと知識を持った人に、60歳になったからといって辞めてもらっては困るからです。したがって中小企業の場合は、65歳までの雇用延長にとどまらず、70歳や75歳になっても働いている人がいます。現に東大阪市で町工場を経営している私の友人の会社では、最高齢社員は85歳だそうです。

 こういう職場で長く働くというのはとても幸せなことだと思います。なぜなら、働く上で最も大切なことである「自分が必要とされている」状況が確実に存在しているからです。

 ところが大企業の再雇用の場合はどうでしょう。大企業というのは多くの場合、個人のスキルで成り立っているわけではなく、組織で機能しています。ごく一部の特殊なスキルを持った人以外は、代わりはいくらでもいます。それに毎年新卒の若い人がたくさん入ってきますから、「ぜひとも会社に残ってもらいたい」という気持ちは会社側にはほとんどありません。「法律で義務付けられたから仕方なしに65歳まで働かせてあげる」というのが本音でしょう。

「権限と責任」が最大のインセンティブであることを知った

 ここのところが実は最も大切なところです。

 よく、「再雇用になったら仕事は同じなのに給料だけが大幅に下がる」とか、「役職が何もなくなるのでプライドを傷つけられる」といったことで、再雇用を否定的に見ている人がいますが、それは大きな間違いです。給料が下がったり、一兵卒として働いたりするというのは、当たり前のことで、私自身もそういう経験をしましたが、そんなことは全く気になりませんでした。

 私が再雇用を経験して一番嫌だったのは、「権限と責任」があまり明確ではなかったことです。

 「再雇用」という制度はまだ始まって間がないため、決して成熟した制度とは言えません。あらゆることが試行錯誤の真っ最中です。技術職や専門職であれば、それまでと全く同じことをすればいいわけですが、営業や一般事務職の場合、どこまで自分の責任と権限があるのかがはっきりしないと、実に居心地が悪いということになります。私は再雇用されてそのことに初めて気づきました。

 給料が下がることは気にならなかったと言うと“きれいごと”に聞こえるかもしれません。ただ、サラリーマンにとって仕事をする上での最大のモチベーションは「報酬」ではありません。

 仕事のやりがい、もっと具体的に言えば、自分にどれだけの権限と責任が与えられるかが大きいのです。課長になると、数名の部下ができ、業務指示や管理が任されます。さらに昇格して部長になれば、その範囲が数名から数十名に広がることになります。

 自分に与えられる権限の大きさと、それに伴う責任の重さが仕事に取り組む上での最大のインセンティブになっていくのです。再雇用の場合は、それまでに持っていた権限と責任は、大きく縮小することになりますが、たとえ縮小したとしてもそれが明確であれば問題はありません。

 ところが多くの企業においてはその「権限と責任」が明確に示されていない場合があります。まわりも接し方に気を遣います。そんな状況で働くのはつらいということなのです。 


 もちろん、そんな堅苦しく考えるのではなく、それならそれでできるだけ目立たないように「のんきな父さん」として職場で過ごすのも一つの方法でしょう。事実、私の知る限り、そういったのんびりとした再雇用生活を過ごしている人も少なからずいます。しかしながら、人間はプライドを失っては良い仕事などできるはずはありません。小さくても明確な権限が欲しいのです。

 したがって、再雇用で働くのであれば、まずは会社とよく話合ったうえで自分の役割、そして権限と責任がどこまで与えられるのかをしっかりと確認しておくことが大切です。それが明確に示されないのであれば、私のように独立して自分の好きな仕事をやるということも選択肢に入れて良いだろうと思います。

「定年起業」で起きる2つの“勘違い”に注意!

 再雇用が一般的になりつつある一方で、まだまだ数は少ないものの定年後のシニア起業も増えつつあります。私はシニア起業というのは、大いにやるべきだと考えています。なぜなら若い頃の起業とは異なり、年金や退職金などで当面の生活資金がある程度確保されている場合が多いからです。したがって、あまり難しく考えず、過大な目標を持たず、せいぜい最初は月に数万円のお小遣い程度の収入が稼げるぐらいを目標にしてやればいいと思います。

 ただ、定年後に起業するにあたって、多くの人が勘違いしがちなことがあります。起業してもうまくいかないという人は数多くいますが、色々話を聞いてみるといくつもの勘違いをしていることが分かります。その代表的な勘違いについてお話したいと思います。

 まず大きな勘違いの1つ目は「資格」です。定年後に何か資格を取ろうという人は多いようです。特に専門的な技術や知識を持っているわけではない、営業や事務職だった方に人気があるのが「ファイナンシャル・プランナー」(FP)とか「社会保険労務士」といった資格です。実際に年配の方でFPの資格を持っておられる方はとても勉強熱心です。

 ただ、こうした方々の中には、「資格」を取れば仕事になる、と思っておられる方がいますが、それは大きな勘違いです。いくら資格を取っても顧客がいなければ仕事はありません。資格を取りさえすれば何とかなるというのは大きな幻想です。

 大切なのは営業であり、どうやって顧客を作るかということです。FP資格を取ることによって、自分自身の勉強にしようと思うのであればそれはおおいに結構なことですが、この資格を取ったから仕事になるということは考えないほうがいいでしょう。

 ではどうやって顧客を作ればいいのでしょうか?ここに2つめの大きな勘違いが存在します。それは「人脈作り」です。

 起業する上で人脈が重要だというのはその通りです。しかしながら人脈を作ろうとして、いわゆる「ビジネス交流会」のようなものにせっせと出かけていくのは間違いです。人脈というのは単に知り合いとか名刺の数を言うのではありません。あなたの能力をちゃんと理解してくれている人が人脈なのです。そのためにはまずあなた自身が相手に何かをやってあげることが大切です。それによってあなたの能力を理解してもらい、少しずつ仕事が来るようになるのです。

 そしてそこからが相手とは対等なビジネスとしてギブアンドテイクの関係が出来上がります。私が今まで仕事でうまくいったのもすべてそういう流れでやってきました。

 ところがビジネス交流会の類はほとんどがテイクしたい人たちばかりの集まりですから、言わば“商売したいオーラ”むき出しの会合です。そんなところに出かけてもほとんど役に立つことはないでしょう。人脈づくりの基本はこちらから何かやってあげる、「ギブファースト」の考え方でないと決してうまくいくものではないということを知っておいてください。


 再雇用にしても起業にしても大切なことは、安易に考えないことです。今までと同じ職場で働くのだから再雇用は楽だということでもありませんし、起業すれば未来はバラ色に輝いているわけでもありません。それぞれの働き方にはそれぞれの難しさも一方ではあります。自分の性格と自分がやりたいことは一体何だろうということをじっくりと考えた上で、定年後の働き方を選ぶのがいいのではないでしょうか。

 次回、第5回は「老後が不安なら“老後”を無くせばいい!」をテーマに書きたいと思います。

本内容をもっと詳しく知りたければ…
『定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!』

 「定年後は悠々自適神話」は崩壊。65歳まで働くことを覚悟している現役世代がほとんど。
しかし勤務先で再雇用されても仕事のやりがい、給与ともに大幅ダウンし、職場の居心地はひどく悪いのが現実だ。

 さらに65歳で会社を「卒業」し、年金収入だけになったら、本当に暮らしていけるのか…。 親や自分の介護にかかるお金は? 60代からの就活ってどうやればいい?

 人生100年時代に、経済的にも精神的にも豊かな定年後を送るために現役時代から準備すべきことを、お金のプロであり、リアル定年男子&定年女子のふたりが自らの経験と知識を総動員してガイドする。

定年男子 定年女子、トークイベントを開催!
『3月31日(金)、紀伊國屋書店大手町ビル店 紀伊茶屋にて!』

このコラムについて

「定年男子 定年女子」の心得

STOP! 老後破産。定年男子こと、元金融マンで経済コラムニストの大江英樹氏が本音で語る「金持ち老後」入門コラムです。「不安な未来」に向けて、何をどう備えるべきか。定年退職時に預金150万円しかなかったという自らの体験を基に、優しく解説します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030600122/032400005


 


 

(時代のしるし)差別社会、若者を絶望させた
 見田宗介さん「まなざしの地獄」

2017年3月22日16時30分
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見田宗介さん=静岡県河津町、郭允撮影
 ちょっと変わった経緯をたどった論文です。元々は1973年に雑誌「展望」に掲載されて、少数の若い読者の強い共感だけがあるという状態が続いていました。表題作として単行本になったのは35年後、2008年です。それを機に初めて広く読まれるようになりました。

 1969年、市民4人を射殺した連続射殺犯として、19歳の少年「N・N」が逮捕されます。永山則夫さん(元死刑囚=97年執行)です。ぼくが衝撃を受けたのは71年、彼の手記『無知の涙』を読んだときでした。

 N・Nは地方で極貧の子供時代を送り、中卒で上京しています。手記の表紙には、漢字練習帳の写真が載せられていました。逮捕されたあとに字を覚えようとして何度も何度も字を書きつけたものです。

 ぼくも子供時代に貧困を体験し、大学時代は「学生スラム」とあだ名される宿舎にいた。N・Nの言葉に共鳴しました。また、読んでいくうちに「これでぼくが本来やりたかった仕事ができる」とも思いました。

 学生時代のぼくは、集団や社会を抽象的に概念規定したり分類したりするだけの社会学をつまらないと感じていました。社会とは、一人一人の人間たちが野望とか絶望とか愛とか怒りとか孤独とかを持って1回限りの生を生きている、その関係の絡まり合い、ひしめき合いであるはずです。切れば血の出る社会学、〈人生の社会学〉を作りたいと願っていた。1人の人生に光を当て、その人が生きている社会の構造の中で徹底的に分析する。その最初のサンプルを提示するつもりで書きました。

 N・Nにとって都市は、若者の「安価な労働力」としての面には関心を寄せても、その人が自由への意思や誇りを持って生きようとする人間だという面には関心を寄せない場所でした。また社会には、出身や所属によってその人を差別し排除する構造もありました。「思う通りに理解されない」ことにN・Nは苦しみ、他者のまなざしに沿って自らを変形させていきます。

 あのときN・Nを絶望させたのは、彼の出身ではないと思います。絶望させたのは、出身で差別する社会の構造です。

 ぼく自身の体験を振り返っても、貧しいこと自体より、「貧しい人間は○○だ」などとレッテルを貼られることのほうがイヤだという感覚が強くあった。社会にあらかじめ用意されている安易な理解の枠組みにあてはめられ、それによってぼくという存在が理解されたかのように扱われてしまう問題です。

 「まなざしの地獄」でぼくはN・Nの「精神の鯨」とも呼ぶべき断片を紹介しています。彼が見た夢みたいな話です。

 鯨の背の上で大海を漂流している「ぼく」は、飢えて鯨に「君を食べていいかい」と聞きます。鯨は「仕方無いよ」と答え、「ぼく」は鯨をほんの少しだけ、また少しだけと毎日食べていく。3分の1食べたところでひどいことだと気付いて謝るのですが、鯨はもう死んでいた。そのとき「ぼく」は、鯨は自分自身の精神であったということに気付く、という話です。

 電通の24歳の女性社員が過労自殺した事件が昨年、注目されました。あのときぼくは、N・Nのこの話を思い出しました。事件自体はもちろん、伝えられる通り、極端な長時間労働で心身が消耗した結果なのでしょう。ぼくが思ったのは、その背後には数え切れないくらいの〈精神の過労自殺〉があるのではないか、ということでした。

 現代の情報産業、知的産業、営業部門などで働く若い人たちが、やむをえない必要に追われる中で「仕方無いよ」とつぶやきながら、自分の初心や夢や志をちょっとずつちょっとずつすり減らし、食いつぶしている。そしていつか、自分が何のために生きているのか分からなくなってしまっている。

 「まなざしの地獄」は文学なのか、社会学なのか、哲学なのか、と尋ねられてきました。

 近代の知のシステムは「文学」とか「社会学」とかいう様々な分類、壁を作って専門分化してきた。こういう壁は音を立てて崩れるときが来ると思っています。そのあとに現れる「人間学」のようなもの。その一環としてこの仕事が読まれる時代が来るといいな、と思っています。(聞き手=編集委員・塩倉裕)

    *

 みた・むねすけ 1937年生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。自由で持続可能な社会の可能性を理論的に提示した『現代社会の理論』や、真木悠介名義の『気流の鳴る音』などで知られる。人間の解放や幸福を希求する感性と透徹した論理性が共存する独特の著作で多くのファンを持つ。朝日新聞で80年代に連載した「論壇時評」も注目を集めた。

 ■「まなざしの地獄」(1973年)

 貧困の底から中卒で上京した少年(永山則夫元死刑囚)が市民4人を射殺した事件に向き合い、自由な存在であろうと願いながら果たせなかった一少年の実存を当時の社会構造に位置づけた名論文。少年の手記や社会統計の分析を通じて論考は、人を出自などで差別する都市のまなざしと、それを生み出す人々の「原罪性」に迫る。移民排斥問題に揺れる現代にも示唆的だ。73年発表。2008年、表題作として単行本化。

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http://digital.asahi.com/articles/DA3S12854454.html?rm=150

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/495.html

[戦争b19] F22戦闘機24機とB2爆撃機10機で北朝鮮の核粉砕 サウジが恐れるのは「石油の枯渇」ではない 石油「新三国志」    
F22戦闘機24機とB2爆撃機10機で北朝鮮の核粉砕

アメリカ現代政治研究所

真剣に「軍事的対応」を検討し始めたトランプ政権
2017年3月27日(月)
高濱 賛

米軍のF22戦術戦闘機(写真:ロイター/アフロ)
米国では、レックス・ティラーソン米国務長官の日中韓歴訪をどう評価していますか。同長官が歴訪中に「北朝鮮次第で、軍事的対応も辞さず」と発言したことに対し北朝鮮は「いかなる戦争にも対応できる意志と能力がある」(3月20日北朝鮮外務省報道官)と反発しています。

高濱:ティラーソン長官は、就任して以来1回も記者会見をしていません。外交面では、ドナルド・トランプ大統領の過激なツィッター発言*ばかりが目立っていました。

*:トランプ大統領は3月17日にもツイッターで「北朝鮮は悪事を働いている。中国は(北朝鮮問題で)ほとんど協力していない」と中国を批判している。

 米国民は、ティラーソン長官について、エクソンモービルの元会長でロシアのウラジミール・プーチン大統領と個人的に親しいことぐらいしか知りません。

 同長官は、軍人出身のジェームズ・マティス国防長官にすっかり水をあけられています。マティス国防長官はすでに日韓を訪問して一定のインパクトを与えました。口の悪い外交関係筋の中には、「影の薄い国務長官」(米主要シンクタンク上級研究員)などティラーソン国務長官の陰口を叩く者もいます。

 今回のティラーソン国務長官の東アジア歴訪は、汚名を返上する絶好のチャンスでした。

「オバマ前政権の対北朝鮮政策は完全な失敗」

 ティラーソン国務長官が日中韓を歴訪した狙いの一つは、「オバマ前政権の対北朝鮮政策は失敗だった」と内外に公言し、「新たなアプローチで臨む」と宣言することでした。そのこころは、「北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返すなら軍事行動も辞さず粉砕する」という決意表明です。

 マティス国防長官の後塵を拝した「米外交の司令塔」、ティラーソン国務長官の初めての東アジア歴訪の最大の懸案は何だったか。ギクシャクしている米中関係を正常化することと、瀬戸際外交を続ける北朝鮮への対応を日米ですり合わせることでした。

 韓国は朴槿恵大統領(当時)の弾劾で政局は流動的。米国としては、最新鋭ミサイル迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備を急ぐ必要がありますが、韓国の暫定政権と交渉しても進みません。

 ティラーソン国務長官は韓国滞在中、韓国政府高官と昼食も夕食も共にしませんでした。夕食は一人で食べたと言っています。「現実」を反映したビジネスライクな対応でした。

ティラーソン訪中の評価は二分

中国の習近平国家主席ら最高指導者との会談の成果について、米国ではどう受け止められていますか。

高濱:トランプ大統領は、「一つの中国」という米中合意の基本原則に疑義を唱えたり、安全保障や経済の面から中国を批判したりしてきました。トランプ大統領と習国家主席との電話対談で関係改善に一応一致したものの、双方ともに疑心暗鬼。それを解消するのがティラーソン国務長官のミッション(任務)でした。そのうえで、対北朝鮮問題について習国家主席からポジティブな反応を引き出しかったわけです。

 その結果はどうだったか。米国内での評価は二分しています。

 米ロサンゼルス・タイムズのジェシカ・マイヤーズ北京特派員は極めて辛い点数をつけています。

 「中国は、『北朝鮮の挑発行為に対して米国は軍事行動も排除しない』としたティラーソン長官の主張を一蹴。トランプ政権の対中関係改善の真意を試そうとした。中国メディアは会談後、『中国外交の勝利』だと宣伝している」
("China pushed back on tougher U.S. approach to North Korea." Jessica Meyers, Los Angeles Times, 3/18/2017)

 マイヤーズ記者はさらにこう解説しています。
 「ティラーソン国務長官と習国家主席以下の中国指導部は、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止すべく米中が協力することで一致したものの、米国の強硬姿勢には猛反発、従来通りの対話重視を求めた。そのうえで北朝鮮には一定の影響力を持つ中国が北朝鮮にさらなるプレッシャーをかけることに関しては明言を避けた」

中国は「相互尊重」「ウィン・ウィン」発言を高く評価

 一方、ティラーソン訪中を評価するメディアもあります。米ワシントン・ポストのサイモン・デニヤー北京特派員はこう分析しています。

 「ティラーソン国務長官の訪中は中国最高指導部との建設的かつ結果重視志向の関係を築くのが狙いだった。これに対して中国は、トランプ政権が対北朝鮮に対し軍事行動の可能性を示唆しているにもかかわらず、ティラーソン長官を歓迎した。習国家主席は、ティラーソン国務長官に『あなたは、米国の政権交代をスムーズにするために積極的な努力をされてきた。米中関係は協力と友好によってのみ定義づけられるというあなたのコメントを評価したい』と述べた」

 「ティラーソン国務長官は、公の場では中国最高指導部が好んで使う『相互尊重』『ウィン・ウィン協力関係』(持ちつ持たれつの共存関係)というフレーズを使った。これは中国にとって驚きだった。ティラーソン国務長官はその一方で、非公開の席上では、対北朝鮮問題や米中貿易不均衡問題に対する中国の対応を厳しく批判したはずだ」
("In China debut, Tillerson appears to hand Beijing a diplomatic victory," Simon Denyer, Washington Post, 3/18/2017)

 ティラーソン国務長官は、トランプ大統領の就任でギクシャクした米中関係を正常化し、切迫する北朝鮮情勢での連携を強化するための下地作りには成功。それを受けて4月の米中首脳会談に向けた調整に漕ぎつけたと、デニヤー記者はみるわけです。

 国務省を担当する米主要紙のベテラン記者はデニヤー記者の見解に同意して、筆者にこう指摘しました。「ティラーソン国務長官は対中交渉では百戦錬磨のビジネスマンらしいアプローチを見せたように思う。前例を重んじる職業外交官にはできない交渉術だ。相手のメンツを立てつつ、こちらの言いたいことはばしっと言ったようだ。王毅外相や楊潔篪国務委員とは、中国が対北朝鮮石炭輸入禁止などでもっと圧力をかけるべきだと釘を刺したに違いない」

直ちには実施できない「軍事的選択」

ティラーソン国務長官は歴訪中に対北朝鮮問題で「軍事的選択」をちらつかせました。北朝鮮が瀬戸際外交を続ける場合、米国は本当に対北朝鮮で軍事行動に出る可能性があるのでしょうか。

高濱:「軍事的選択」発言の狙いは、北朝鮮の金正恩委員長に揺さぶりをかけることにあります。

 金委員長は最高指導者になって5年の間に、核実験3回、ミサイル発射実験は30回以上も実施しています。なぜ、経済難が続く中で、核開発やミサイル開発にそこまでこだわるのか。

 米専門家の中には、「若輩で何ら実績のない金委員長にとって、偉大な指導者としての地位を確立する手段はこれしかない」(元米国務省高官)といった指摘があります。また「北朝鮮が金正男氏を暗殺したのは、正男氏の後ろ盾になっていた中国が正男氏を担ぎ出すのではなかろうか、という疑心暗鬼があった」(米シンクタンクの北朝鮮問題専門家)と分析する向きもあります。

 北朝鮮の瀬戸際外交は、同国の内政に大きく関わり合いを持っているという認識です。ということは、米国が「軍事的選択」に踏み切る時には、北朝鮮の核・ミサイル施設を攻撃してそれで「終わり」というわけにはいきません。核施設を粉砕し、ミサイル施設を全滅させたあとの北朝鮮がどうなるのか。当然、金正恩体制が崩壊する事態も視野に入れる必要があります。

 北朝鮮は在日米軍基地を核の標的にしていると公言しています、したがって米国は当然、日本や韓国の出方も見極めなければならない。日本政府は日米軍事同盟の深化を強調していますが、万一、北朝鮮が報復措置として日本の原発や自衛隊基地を標的にする事態になったらどうなるでしょう。

 韓国は5月には革新派が大統領になりそうです。米軍による北朝鮮攻撃に猛反対するでしょう。

 ティラーソン国務長官が「軍事的選択」発言をした直後に、北朝鮮は新型ロケットエンジンの燃焼実験に成功したと発表しています。このエンジンを使った長距離弾道ミサイルの発射実験を近く行うことも示唆しています。

 金委員長はまったく空気が読めないのか。それとも突っ走るほか選択肢がないのか。

核・ミサイル基地攻撃機は在韓、在日米軍基地から発進

米国は「軍事的選択肢」としてどういった軍事作戦を検討しているのでしょう。

高濱:「ストラティジック・フォーキャスティング社」(Stratfor)*は、米軍が北朝鮮を攻撃する際の具体的な軍事作戦について分析しています。

 それによると、北朝鮮の防空網は旧式で、米軍のB2ステルス爆撃機やF22戦術戦闘機の侵入を探知するのは極めて困難だとしています。

*:国際軍事・経済・政治の動向を予測分析する有力民間調査機関として定評がある。

 具体的には、米軍が北朝鮮の核施設を攻撃し破壊するには大型貫通爆弾*(Massive Ordnance Penetrator=MOP)や誘導爆弾GBU-32**(Joint Direct Attack Munition=JDAM)を搭載したF22戦術戦闘機24機とB2戦略爆撃機10機もあれば十分だと分析しています。

 F22戦術戦闘機は在韓米軍基地や在日米軍基地、空母から発進することになります。

 北朝鮮攻撃となれば、在日米軍基地が重要な役割を演ずることになります。北朝鮮が在日米軍基地を標的にすると宣言しているのも頷けるというものです。

*:MOPは1万3600キログラムの「バンカーバスター」精密誘導爆弾(制式名称はGBU-28)。貫通力は30メートル、強固な地下要塞、地下に配備された弾道ミサイル、地下指令所の精密機器破壊用として開発された。
**:JDAMは、無誘導爆弾に精密誘導能力を付加する装置で、無誘導の自由落下爆弾を全天候型の精密誘導爆弾(スマート爆弾)に変身させることができる。イラクやアフガニスタンで使用された。
("What the U.S. Would Use to Strike North Korea," Analysis, Stratfor, 1/4/2017)

トランプが攻撃決定を決める時

トランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するのは、どんな状況になった時でしょうか。

高濱:ティラーソン国務長官は今回の歴訪時に二つのケースを上げています。一つは、北朝鮮が韓国軍あるいは米軍に脅威を与える行動に出た時。二つ目は、「米国が行動しなければならない」という段階にまで北朝鮮が兵器装備計画をレベルアップさせた時です。

 北朝鮮に対して米国が軍事行動を取る狙いは、あくまでも核開発阻止です。第二次朝鮮戦争に陥る事態は絶対に回避するのが大前提です。しかし核とミサイルを失った北朝鮮はどうなるのか。北朝鮮を攻撃する時にはそれによって生じるコンセクエンス(必然的な結果)についても考えなければなりません。

 確かに、米国内にも軍事行動に出ることを疑問視する向きがあります。事態が悪化した場合は、とりあえず、対北朝鮮経済制裁の強化に踏み切るでしょう。トランプ政権内部は北朝鮮を国際金融から排除する広範囲な制裁措置を検討しています。北朝鮮と取引がある第三国で活動する中国企業などを制裁対象にする案が有力視されています。イランに対して実施した制裁と同じようなものです。

 忘れてならないのは、トランプ大統領はオバマ前大統領ではないことです。何をやりだすか、予想不可能なのがトランプ大統領です。本当に怒り出したら何をやりだすか分かりません。大統領を取り巻くスティーブ・バノン首席戦略官ら超側近はタカ派ばかりです。

 「そのへんを甘く見て、金委員長が火遊びを続けていると、何が起こるか、わからんぞ」。ホワイトハウス中枢を良く知るワシントンのジャーナリストの一人は、筆者にこう囁きました。
("Adult Supervision: Secretary Tillerson in Asia," Stephan Haggard, PIIE, 3/20/2017)


このコラムについて

アメリカ現代政治研究所
米国の力が相対的に低下している。
2013年9月には、化学兵器を使用したシリアに対する軍事介入の方針を転換。
オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と自ら語るようになった 。
2013年10月には、APECへの出席を見送らざるを得なくなった 。
こうした事態を招いた背景には、財政赤字の拡大、財政赤字を巡る与野党間の攻防がある。

米国のこうした変化は、日本にとって重要な影響を及ぼす。
尖閣諸島や歴史認識を巡って対中関係が悪化している。
日本にとって、米国の後ろ盾は欠かせない。

現在は、これまでに増して米国政治の動向を注視する必要がある。
米国に拠点を置いて20年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/032400039


 

 


サウジが恐れるのは「石油の枯渇」ではない

石油「新三国志」

サルマン国王が46年ぶり訪日、戦略的パートナーシップを締結
2017年3月27日(月)
橋爪 吉博

サウジアラビアのサルマン国王(左)は2017年3月に来日し、安倍晋三首相と会談した(写真:ロイター/アフロ)
 石油大国・サウジアラビアのサルマン国王が、3月12〜15日の間、マレーシア・インドネシア・ブルネイ・中国の東アジア歴訪の一環として、訪日した。サウジ国王としては46年振り、サルマン国王自身は3年振り3回目である。羽田空港に空輸されたエレベーター方式のタラップ、1000名を超える随行者、400台に及ぶハイヤー借り上げ、都心ホテル・百貨店の特需などが大きな話題となった。

 13日の安倍総理との首脳会談では、サウジの経済改革「ビジョン2030」実現への協力、両国関係の「戦略的パートナーシップ」への引き上げが確認された。さらに14日には両国首脳が立ち会いの下、多数の経済協力プロジェクトに関する覚書が署名された。


外務省と経済産業省が公表した「日・サウジ・ビジョン2030(Saudi-Japan Vision 2030)」
 第2回の石油「新三国志」は、石油大国・サウジの国内経済改革の概要とその背景を紹介するとともに、国際石油市場の変容とサウジの石油政策を踏まえた、新しい時代の日本・サウジ関係を考えてみたい。

経済改革「ビジョン2030」

 2015年1月にサウジアラビア王国第7代国王に即位したサルマン国王は、同年4月、第7男のムハンマド国防相を副皇太子(当時29歳)に抜擢、経済関係閣僚を統括する経済開発諮問会議の議長に任命し、国内の経済・財政・社会改革に着手した。2015年4月25日には、2030年を見据えた国家のあり方・方向性を示した「サウジアラビア・ビジョン2030」を閣議決定した。同ビジョンは、米コンサルタント会社マッキンゼーの報告書「石油後のサウジアラビア」をベースに、経済開発諮問会議が検討し取りまとめたものである。

 ビジョンは、まず、サウジが目指す国家の理念・目標として、アラブ世界・イスラム世界の中心、投資立国、アジア・欧州・アフリカ3大陸のハブ、の3点の実現を掲げている。次に、改革の内容として、活力ある社会、繁栄する社会、野心的な国家、の3つの分野における改革項目が数値目標とともに明示された。

ビジョン2030の主要項目

 ビジョンの基本的な考え方は、経済・財政における石油依存からの脱却である。ムハンマド副皇太子は、ビジョン発表の記者会見で、「石油収入への依存は石油中毒で有害である」とし、「サウジの収入の源泉を原油から投資に変える」、「2030年には原油なしでも生き残る」と述べた。

 ビジョン上で明記されているわけではないが、ビジョン実現のための手段、財源として想定されているのは、国営石油会社サウジ・アラムコの株式新規公開(IPO)である。ムハンマド副皇太子によれば、アラムコ株式の5%未満の内外株式市場への上場を通じて、1000億円規模の資金を調達するとともに、残りの資金は、本格的な政府ファンド(SWF)に改組される「公共投資基金」(PIF)に移管されるとしている。

 なお、公共投資基金は、2016年10月、孫正義氏率いるソフトバンクと1000億ドル規模の投資基金設立で合意した。孫氏は、投資立国サウジアラビアの大きな一翼を担うわけであり、今回の訪日時にも、サルマン国王と単独会談を行っている。

 また、アラムコ上場に当たっては、東京証券取引所も上場取引所として名乗りを上げており、日本政府も後押ししている。さらに、政府は、石油天然ガス・鉱物資源機構(JOGMEC)法を改正し、アラムコ上場を視野に入れ、海外の国営石油会社への出資も可能となるようにした。

体制整備と国家変革計画(NTP)

 ビジョン実現のための体制整備として、2016年5月7日には、大規模な省庁再編と内閣改造が行われた。その際、石油・鉱物資源省はエネルギー・工業・鉱物資源省に改組され、石油だけでなく工業政策全般も所管することとなり、大臣も20年来OPEC(石油輸出国機構)の顔として活躍したナイミ氏から、副皇太子に近いといわれる保健相兼アラムコCEOのファリハ氏に交代した。

 そして、6月6日には、ビジョン2030の内容を各省庁別に具体的な5カ年計画として、経済開発諮問会議で取りまとめた「国家変革計画」(National Transformation Plan)が閣議決定された。

 同計画の具体的数値目標としては、財政関連では、非石油歳入の3倍増、公務員給与の削減(64億ドル)、水道・電気料金の引き上げ(30億ドル)、有害品への新規課税等、社会経済関係では、民間部門の雇用創出(45万人)、非石油輸出の倍増等、エネルギー関係では、原油生産能力の維持(1250万BD)、国内石油精製能力の増強(290万⇒330万BD)、天然ガス生産能力の増強(120億⇒178億立法フィート)、等が盛り込まれた。

 その後、改革の実質的責任者であるムハンマド副皇太子は、7月には米国とフランス、8月には中国、9月には日本を関係閣僚とともに歴訪し、ビジョンの実現に向けて、各国の協力を取り付けるとともに、父サルマン国王訪問の地ならしを行った。

改革の必要性と背景

 一般に、「脱石油」を目指した経済改革は、原油価格の低迷を背景に、石油枯渇後の国家維持を目的とするものと説明されることが多い。しかし、この説明は、間違いでないが、極めて不十分な説明である。

 すなわち、今回の原油価格低迷はサウジが主導したOPECのシェア戦略によるものであったし、筆者が知る限り、サウジの王族・テクノクラート・インテリでサウジの石油が枯渇すると考える人は一人もいないからである。

 また、サウジの経済・財政改革の必要性は、何も今に始まった話ではなく、常に議論されてきた。特に1980年代半ばの原油価格暴落や1990年代終わりのアジア危機後の原油価格低迷の際には議論されたが、原油価格の回復とともに尻すぼみになってきたと言える。

 しかし、今回は、国王自らが息子である王位継承権第2位の副皇太子を責任者として、改革に取り組むこととなった。かつて例を見ない展開である。その背景には、人口増加等サウジ社会の変容(歳出要因)、サウド王室内の危機感の高まり(政治要因)、国際石油市場の構造変化による原油価格政策の見直し(歳入要因)、の3つの要因があると、筆者は考えている。

サウジ社会の変容

 まず、サウジの歳出側の事情として、人口増加等の国内社会構造の変化を考えてみたい。

 一般に、湾岸産油国は、原油1バレル当たり10ドル以下といわれる安価な生産コストによる豊かな石油収入、「レント」(地代・賃料・剰余利益)を背景に、少数の自国民に対して厚い給付や福祉により、国内安定を図ろうとする「レンティア国家」として、成立していると説明される。さらに、踏み込んで、国民と統治者との間で、厚い給付と引き換えに民主主義や人権の制限を受忍するという一種の社会契約が成立しているとする説明もある。

 ところが、サウジでは、1996年の1600万人から2016年の3200万人へと人口の増加が著しい。しかも、周辺の首長国とは異なり、出稼ぎ外国人より自国民比率が高い(サウジ:約7割、UAE・カタール:約2割)ことから、従来の給付水準の維持が難しくなってきている。また、勤労意欲の欠如や職種の選り好みといった問題点はあるものの、失業率も高く、若年層を中心に社会的不満が高まっている。ビジョンにも言及されているように、失業率は11.6%と、先進国での一桁半ばの倍近くで高止まっており、若年層の失業率は約3割に達しているとも言われている。

 そのため、ビジョンでは、教育・医療・住宅・食料・公共料金等の補助金や公務員給与の削減など歳出の合理化とともに、若年層・女性の就業促進や失業率低下を正面から取り上げ、さらには、給付に変わる国民に対する福利として、娯楽産業や文化事業の振興を掲げている。

サウジ王室内の危機感

 こうした国内社会構造の変化を背景とする政府歳出の拡大と社会的不満の高まりに対して、王室の安定を最優先とする王族においても危機感が高まっていたことは間違いない。特に、サウジ若年層の不満が、アルカイダや「イスラム国」(IS)などの過激派や宗派的に対立するイスラム・シーア派の活動と結びつくことは、王国の政治的・社会的安定に極めて有害である。

 加えて、王族内においても、4000人に上ると言われる王族人口の拡大とともに、世代交代の問題が起こっている。サウジの王位は、初代のアブドルアジズ大王の遺言に基づき、国家基本法で大王の直系子孫が継承することとなっており、1932年の建国以来、37人と言われる大王の息子たちが年長者から順に兄から弟に受け継いで来た。そうなると、年を経るに従って、高齢で王位に就くことになる。前代のアブドラ国王の在位は80歳から90歳、サルマン国王も79歳で即位した。そのため、王位をどの時点で、第二世代(子)から第三世代(孫)に移すかが、大きな課題となっている。

 そこで、サルマン国王は、即位後、第二世代の異母弟ムクリン皇太子を廃位し、同腹の兄ナイフ元皇太子の息子で、行政手腕に定評のある、第三世代のムハンマド・ビン・ナイフ副皇太子を皇太子に昇格させ、さらに、自分の7男ムハンマド・ビン・サルマンを副皇太子とした(ビン・サルマンはサルマンの息子という意味)。サルマン国王は、改革を成功させて自分の息子ムハンマド副皇太子に王位を継がせたいと考えていると見る向きも多い。確かにそうした意向もあるかも知れない。

 しかし、失敗した場合のリスクも大きい。副皇太子の交代だけで済めばまだ良い、最悪の場合は、サウジ王制の危機に直結する。

 先代のアブドラ国王も、2011年春の「アラブの春」の湾岸産油国への波及を武力で抑え込んだ決断力のある国王であったが、出自の関係で、王族内の存立基盤は必ずしも十分ではなかった。

 しかし、サルマン国王は王族内の最大派閥であるスデイリ・セブン(スデイリ家のハッサ妃を母とする7王子、第五代のファハド国王が長兄、それらの息子たちも政府や軍の幹部として活躍中の者が多い)の1人であり、王族内での存立基盤はかなり強固である。しかも、リヤド州知事時代(1954〜2011年)から、国民的人気も高く、王子から国民投票で国王を選ぶとすれば、サルマン知事であると言われていた。

 大きな抵抗が予想される国内改革を進めるためには、国王の権力基盤が強くなければ不可能である。

サウジの原油価格政策

 こうした状況の下、経済改革の必要性を決定的にしたのは、サウジの歳入側の要因、2014年夏以降の原油価格の低下であった。

 しかし、2014年夏以降の原油価格低下は、シェールオイルを中心とする米国の石油増産、世界的な景気低迷による石油需要増加の減速に加え、OPECのシェア戦略発動による増産が主な原因である。このうち、2014年11月のOPEC総会において、市場の大方の予想に反して行われた、OPECのシェア戦略は、サウジ主導の決定であった。石油収入の確保が必要なサウジが、なぜ、原油価格低下を招くシェア戦略を採用したのであろうか。

 シェア戦略とは、OPECが需給緩和に対応して、原油価格維持のために減産しても、シェールオイルが増産され、OPECの市場シェアが減り続けることから、逆にOPECは増産を行うことで、シェールオイルに対抗するというものである。すなわち、価格維持のための需給調整を放棄することで、1バレル当たり50〜100ドルと生産コストが高いシェールオイルを減産に追い込む「価格戦争」を仕掛けた。


原油価格の長期的推移(出所:石油連盟)
 サウジの主導でOPECがシェア戦略を発動したのは、今回が初めてではない。1980年代半ばにも、30ドル水準にあった原油価格が2度にわたり10ドル割れを経験したことがあった。この時は、原油高価格を背景に、北海やアラスカ、メキシコ等新規油田の増産と先進消費国における省エネ・燃料転換等による需要減少による需給緩和があり、OPEC内でサウジが減産に耐えられなくなって、シェア戦略を取った。こうしてみると、2014年以降の原油価格低迷は、サウジの「確信犯」と言えるものである。

 間違いなく、シェア戦略の発動は、シェールオイル増産に対抗するものである。ただ、サウジの伝統的石油政策から考えると、それだけにとどまらない意図もあるように思われる。

サウジのシェア戦略

 伝統的に、サウジ当局者が「シェア」を意識する際には、3つの局面がある。

 第一に、OPEC内における自国のシェア確保である。80年代前半には、サウジは「スイングプロデューサー」として、単独でOPEC全体の減産を引き受けた。こうした事態を回避することである。今回は、イランの経済制裁解除による増産分の減産をサウジ単独ではなく加盟各国で分担するということであろう。

 第二に、石油市場におけるOPEC原油のシェア確保である。今回のシェールオイルへの対抗は、これに当たる。

 第三に、エネルギー市場における石油シェアの確保である。80年代においては、省エネと石油代替エネルギーへの対抗が課題となった。今回はこれに加えて、パリ協定発効など地球温暖化対策の推進への対抗も考えられる。化石燃料関連投資を回避する「ダイインベストメント」という考え方まで出てきた。国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー展望」(2016年11月)によれば、電気自動車の普及が進めば、2030年代には石油需要のピークを迎えるとする見方もある。

石油時代の終焉

 1970年代から80年代前半に「ミスターOPEC」と呼ばれたヤマニ元石油相は、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」と常に述べていた。石器時代が終わったのは、新しい技術が導入されたからであり、石油の時代が終わるのも、石油が枯渇するからではなく、新技術で石油が代替され、消費者から見向きもされなくなるからである、という意味である。

 サウジが恐れる「石油時代の終焉」とは、枯渇ではなく、技術開発による石油代替である。しかも、アッラーの神からの恩恵である石油資源を最後の一滴まで有効活用しようと考えている。

 そのために必要なことは、原油価格を上げ過ぎないことと、常に石油安定供給を確保し、消費国の信頼を得ることであろう。サウジアラビアの石油政策が穏健で安定志向であるのは、こうした考え方によるものである。

 確かに、昨年末、サウジはOPECと非OPEC主要産油国との協調減産を実現させ、価格水準の底上げを図った。しかし、その意図は、100ドル水準に回復することではなく、50ドル台の水準で安定させようとするものであったと考えられ、現状もそのように推移している。

 サウジは、原油価格の低迷で、2015年、16年と2年続けて1000億ドルを超える財政赤字を計上し、昨年10月には史上最高額となる175億ドルに上るドル建て国債を発行した。国際通貨基金(IMF)によれば、サウジの財政収支を均衡させるために必要な原油価格は95ドルと試算され、財政赤字を外貨準備でファイナンスするとしても5年間で底をつくとした。しかし、シェール革命と世界経済の減速による国際石油需給の構造変化の中では、サウジが大幅に減産を受け入れない限り、原油価格の回復は望めない。しかも、電気自動車の普及や水素インフラの整備が今日的課題となってきている中、サウジにとっては、中長期的に、原油価格は上げたくても、上げられない状況になっているのである。

「戦略的パートナーシップ」としての日サ関係

 サウジが、2014年11月のOPEC総会でのシェア戦略発動を決めたころ、アブドラ前国王は病床にあり、既にサルマン現国王が皇太子として実権を掌握していたと言われている。また、サウジがマッキンゼーと改革案の検討を開始したのも、2014年中頃と見られる。筆者は、サウジの経済改革の実施とシェア戦略の発動は、セットであったと想像する。

 すなわち、サウジの経済改革は、経済・財政の「脱石油依存」を目指すものではあるが、原油価格の現状維持を前提とするものであり、逆説的ではあるが、中長期にわたる石油の安定供給を保証するものであると考えるべきである。

 経済改革の実施には、既に、既得権を有する宗教界や官僚が抵抗しているという。王族の一部からも批判的な声が聞こえてくる。

 確かに、改革実施のリスクは大きい。しかし、現時点での改革を怠ることのリスクは、それよりはるかに大きい。

 国際石油市場の安定を国益と考えるサウジの国内的安定を支援・協力してゆくことは、サウジに原油輸入の34%を依存する我が国にとっても、大きな国益である。

 今回、「戦略的パートナーシップ」に引き上げられた日サ両国関係は、明らかに相互補完関係、ギブアンドテイクの関係にある。技術協力や直接投資等を通じた相互依存関係の深化は、長期にわたる石油安定供給の確保にも、極めて有益であろう。


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石油「新三国志」
 2016年末、今後のエネルギー業界を揺るがす出来事が重なった。1つはサウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非加盟国が15年ぶりに協調減産で合意したこと。もう1つは米国内のエネルギー産業の活性化を目論むドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことだ。サウジとロシア中心の産油国連合による需給調整は原油価格の下値を支えるが、トランプ政権の規制緩和などにより米シェール業者の価格競争力は高まり原油価格の上値は抑制されるだろう。将来の原油需要のピークアウトが予想される中、米・露・サウジの三大産油国が主導し、負担を分担する新たな国際石油市場のスキームが誕生しつつある。その石油「新三国志」を、石油業界に35年携わってきた著者が解説していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/032400004
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/839.html

[経世済民120] バンカーたたきはもうはやらない、危機がのど元過ぎ大衆は熱さ忘れる 「Google Cloud」はAWSのライバルになるか
バンカーたたきはもうはやらない、危機がのど元過ぎ大衆は熱さ忘れる
Edward Robinson
2017年3月27日 07:03 JST
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人々の態度が変わりつつある、富の不均衡の方に関心
銀行業界への寛容な姿勢は規制巻き戻しの舞台整える可能性
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民衆の敵と呼ばれ、ロンドンやニューヨークでの抗議デモでは悪役の人形に仕立て上げられた。その振る舞いは人々の怒りを呼び、米欧の政治を変えた。
  大西洋の東西で、バンカーは2008年の金融危機とその後のリセッション(景気後退)を引き起こした犯人としてたたかれ、数々の不祥事が暴かれた。悪口雑言がやむことはないかのように思われた。今までは−。
Emmanuel Macron
Emmanuel Macron Photographer: Christophe Morin/Bloomberg
  最近になって、著名ヘッジファンド運用者のジョージ・ソロス氏が「金融の錬金術」と呼んだ魔法の使い手たちがまたぞろ姿を現している。トランプ米大統領は少なくとも5人のゴールドマン・サックス・グループ出身バンカーを側近に置き、銀行業界を規制から解き放つと宣言。フランスでは元投資銀行バンカーのエマニュエル・マクロン氏が次期大統領の最有力候補だ。そして欧州では各国が、欧州連合(EU)を離脱する英国から銀行を誘致しようと競い合っている。
  時間がたち新しい懸念が前面に出てくるに伴い、人々の態度が変わりつつあると、英金融業界に対する消費者の見方について研究をまとめたリタ・コタス氏は話す。
  ロンドン郊外のキングストン大学の上級講師を務める同氏は「人々はバンカーに対する怒りよりもむしろ、全体的な富の不均衡に注目している」と説明。「英国のEU離脱、グローバル化、移民、ナショナリズムについての議論など、あまりにも多くのことが起こった。個人にとって、これらが今では銀行よりもはるかに関心の高い問題だ」と述べた。
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原題:Banker-Bashing Is No Longer in Vogue as Crisis Fades From Memory(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-26/ONBIGP6KLVRJ01

 

「Google Cloud」はAWSのライバルになるか?
シリコンバレーNext
2017年3月25日(土)
中田 敦
 米Googleが「Google Cloud」における企業向け施策を強化している。2017年3月8〜10日(米国時間)に開催した「Google Cloud NEXT 2017」で、欧州SAPとの業務提携のほか、新しいサポート制度や割引制度などを発表。エンタープライズクラウド市場の圧倒的なリーダーである「Amazon Web Services(AWS)」を追いかける体制を整えている。
 今回発表したSAPとの提携は、SAPのインメモリーデータベース(DB)である「SAP HANA」が「Google Cloud Platform(GCP)」で稼働可能であるとの認証や、「Gmail」とSAPのCRM(顧客関係管理)アプリケーションとの連携などが主な内容(写真1)。SAP HANAは既にAWSや「Microsoft Azure」、「IBM Cloud」などでも利用可能であり、Googleはようやくライバルに追いついたと言える。

写真1●SAPとの提携を発表するGoogleのDiane Greene上級副社長(左)
出所:米Google
 これによってGCPで利用可能な商用DBは、従来から対応する「Microsoft SQL Server」に加えてSAP HANAの2種類になった。しかし依然として「Oracle Database(DB)」や「IBM DB2」などは対応していない。またGoogleはSAPとの提携によって、SAPの業務アプリケーションもGCPで利用可能にするとしているが、SAPのERP(統合基幹業務システム)を対象に含んでいない。
 GoogleにとってSAPとの提携は、企業ユーザーの既存業務システムをGCPへ移行させるための第一歩と言える。しかしこの領域でAWSやMicrosoft Azureと競っていくためには、業務アプリケーションベンダーやミドルウエアベンダーとの提携関係をもっと増やす必要がありそうだ。
 オープンソースソフトウエア(OSS)のDBに関しては、GoogleがDBの運用まで担当するDBサービス「Cloud SQL」において、従来の「MySQL」に加えて「PostgreSQL」にも対応した。GoogleのCloud SQLはAWSの「Amazon RDS」に相当するサービス。AWSはMySQL、PostgreSQL以外にも、MariaDBのほか、Oracld DBやMicrosoft SQL Serverといった商用DBにも対応しており、この領域でもAWSに差を付けられている。
AWSの「リザーブドインスタンス」を意識した割引も
 Googleは割引制度でも、AWSを意識した施策を発表した。今回、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)である「Google Compute Engine」において、1年または3年単位で一定量のコンピュータ資源を利用する契約を結ぶことで、利用料金を最大57%割り引く「Committed Use Discount」を発表した。これは「Amazon EC2」における「リザーブドインスタンス」に相当する割引制度だ。
 Googleは従来、AWSが採用する1時間単位での従量課金制度や、リザーブドインスタンスなどを「柔軟性に欠ける」(GoogleのUrs Holzle上級副社長)として批判していた(写真2)。Google Compute Engineでは従量課金は1分単位であり、割引制度についても「毎月一定量のコンピュータ資源を利用したら、その後の利用料金を自動的に割り引く」という事前支払いが必要ない制度を採用していた。

写真2●AWSのリザーブドインスタンスを批判するGoogleのUrs Holzle上級副社長
「リザーブドインスタンスは複雑すぎるので最適化するための“大臣”が必要だ」との趣旨だった
 Googleは分単位の従量課金制度や従来の割引制度を継続しつつ、今回新たにリザーブドインスタンスに似た割引制度を追加した。グーグル日本法人の阿部伸一Google Cloud日本代表は「料金の柔軟性よりも、料金が確実に予測できることや、料金が予算通りになることを重視するユーザー企業がある程度存在することを考慮した」と説明する。Googleが、ユーザー企業の情報システム部門が直面する「社内事情」にも配慮し始めたと言うわけだ。
 ただし柔軟さは維持したと主張する。AWSのリザーブドインスタンスの予約単位が仮想マシン(インスタンス)であるのに対して、Googleはプロセッサやメモリーといったリソース単位での予約である。仮想マシンのサイズなどを後から自由に変更できるため、Googleの方が柔軟だとする。
使用量に左右されないサポート料金制度を追加
 サポート制度に関しては、競合がまた実施していない新しい枠組みを導入した。Googleは今回、電話やメールでのサポート対応といった企業向けの有償サポートサービスにおいて、「Googleのサポート窓口に問い合わせるユーザー企業のエンジニアの人数に応じて月額課金する」という新しい料金制度を導入したのだ。
 料金はサポート内容に応じて異なる。問い合わせに対して4〜8時間以内に応答する「Development Engineering Support」は1ユーザー当たり月額100ドル、1時間以内に応答する「Production Engineering Support」は1ユーザー当たり月額250ドル、24時間週7日体制で15分以内に応答する「On-call Engineering Support」は1ユーザー当たり月額1500ドルとなる。
 Googleの従来のサポート料金制度は、GCPの利用料金に3〜9%を上乗せするというものだった。こうした利用料金に基づくサポート料金制度は、AWSと同じであった。新たに追加したサポート料金制度では、ユーザー企業がどれだけGCPを利用しても、エンジニアの数が変わらなければ、サポート料金は一定となる。少ないエンジニアの人数で大量のコンピュータ資源を利用するような新興スタートアップにとって、有利な制度と言えそうだ。
 米Amazon.comが2017年2月に発表した2016年12月期決算によれば、AWSの年間売上高は2016年に122億1900万ドルに達した。米国での報道によれば、Google Cloudの年間売上高は2016年の時点で10億ドル程度とされている。Google CloudとAWSの差は10倍にまで広がっており、Googleとしてはあの手この手でAWSに追従する必要がある。
 大量のコンピュータ資源を利用する新興スタートアップの奪い合いでは、GCPに軍配が上がるケースも出てきている。メッセージングアプリ「Snapchat」を運営する米Snapが2017年2月に発表し、3月に改訂した上場目論見書(S-1)では、Snapが今後5年間でGCPに20億ドル、AWSに10億ドルを支払う契約を結んだことが明らかになった。SnapはGCPの最大の顧客とみられている。
 GoogleがAWSに追いつくためには、AWSが既に提供している機能やサービスをGCPに追加していくだけでなく、AWSには無い機能をGCPがどれだけ提供できるかも重要になる。
 そういった意味でGCPの切り札になりそうなのが、今回のイベントの1週間前に発表されたDBサービスである「Cloud Spanner」だ。「Spanner」はGoogleが自社開発した、SQLクエリーが利用できる分散DBで、Cloud Spannerはそれをサービスとして提供するもの。いわゆる「NoSQL DB」並みの拡張性(スケーラビリティー)を備えていると同時に、標準規格のSQLクエリーの利用や、トランザクション処理も可能である。
大陸間でデータを同期するSpanner
 通常のリレーショナルDBでスケールアウトを図る場合、データベースを分割する「シャーディング」を実施するのが一般的。しかしシャーディングを使用すると、テーブルを結合する「JOIN」のクエリーを記述するのが「人間には不可能なほど難しくなる」(GoogleのGreg DeMichillie氏)。しかしSpannerではシャーディングはしていないため、JOINの操作も容易だ。
 さらにSpannerでは、DBの稼働中にスキーマを変更することすら可能だ。「ANSI 2011」規格のSQLが利用可能で、トランザクション処理も可能であるというRDBの機能性に、従来のRDBではあり得ないような拡張性や柔軟性を追加したのがSpannerとなる(写真3)。

写真3●Spannerの特徴を語るGoogleのUrs Holzle上級副社長
 またSpannerの特徴として、大陸をまたいでDBを分散できる点がある。データのコピーを異なる大陸にあるデータセンターに配置することで、GCPのリージョンが丸ごとダウンしたとしても、アプリケーションの処理を継続できるようになる。Spannerでは、大陸をまたいでデータを同期させるために、「原子時計を使ってデータのタイムスタンプを厳密に同期している」(GoogleのHolzle上級副社長)。
 Googleは自社で開発したSpannerを「Google AdWord」のバックエンドなど、同社にとっての「ミッションクリティカル・アプリケーション」に使用している。こうしたGoogle以外に持ち得ないテクノロジーをどれだけ一般のユーザー企業に普及させられるかが、Google Cloudの未来を左右することになるだろう。


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シリコンバレーNext
「シリコンバレーがやってくる(Silicon Valley is coming.)」――。シリコンバレー企業の活動領域が、ITやメディア、eコマースといった従来の領域から、金融業、製造業、サービス業などへと急速に広がり始めている。冒頭の「シリコンバレーがやってくる」という言葉は、米国の大手金融機関、JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)が述べたもの。ウォール街もシリコンバレー企業の“領域侵犯”に警戒感を隠さない。全ての産業をテクノロジーによって変革しようと企むシリコンバレーの今を、その中心地であるパロアルトからレポートする。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061700004/031300186/

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/498.html

[経世済民120] トランプ不動産を買いあさるロシアのエリート層 ドル円3つのシナリオ 不安先行トランプ円高は短命か 森友問題キーマンリスク
News | 2017年 03月 27日 11:57 JST 関連トピックス: トップニュース
特別リポート:
トランプ不動産を買いあさるロシアのエリート層


 3月17日、ロイターが公文書やインタビュー、企業の記録を調べたところ、ロシアのパスポートあるいは住所をもつ少なくとも63人が、フロリダ州南部にある「トランプ」の名を冠した豪華タワーマンション7棟で、少なくとも総額9840万ドル(約110億円)に上る物件を購入していたことが分かった。写真はフロリダ州サニーアイルズビーチにあるトランプパレス。13日撮影(2015年 ロイター/Joe Skipper)

[マイアミ/モスクワ 17日 ロイター] - 昨年の米大統領選に出馬した実業家ドナルド・トランプ氏は、選挙期間中、ロシアとビジネス上の関係はないと述べていた。大統領に就任してからは、より断固たる態度で、そうした関係を否定している。

「私自身の考えを言えば、ロシアでは何も所有していないと断言できる」と、トランプ大統領は先月、記者会見でこう述べた。「私はロシアにローンはないし、いかなる取引もしていない」

しかし米国では、事情は異なるようだ。ロシアのエリート層が「トランプ」ブランドの不動産を買いあさっているからだ。

ロイターが公文書やインタビュー、企業の記録を調べたところ、ロシアのパスポートあるいは住所をもつ少なくとも63人が、フロリダ州南部にある「トランプ」の名を冠した豪華タワーマンション7棟で、少なくとも総額9840万ドル(約110億円)に上る物件を購入していたことが分かった。

トランプ不動産を買うロシア富裕層
トランプ不動産を買うロシア富裕層
購入者には、軍事・情報施設の建設に関わっているモスクワに本社を置く国営建設会社の元幹部や、サンクトペテルブルクにある投資銀行の創設者、そして銀行取引や不動産や電子機器の卸売業に従事するコングロマリット(複合企業)の共同創設者など、政治的なコネクションを持つビジネスマンが含まれている。

また、ロシア権力層で第2、第3の階層にいる人物たちもトランプ氏の不動産に投資している。

フロリダにあるトランプ・ブランドのマンションを購入したロシア人投資家をロイターが調査したところ、トランプ大統領もしくは、彼の不動産会社が不正を行っているという兆候は見られなかった。また、購入者にロシアのプーチン大統領の側近は含まれていないようである。

米ホワイトハウスはロイターからの質問をトランプ氏が経営していたトランプ・オーガニゼーションに照会した。同社のアラン・ガーテン最高法務責任者(CLO)は、ロシアとトランプ大統領のビジネスとの関係に対するそのような調査は見当違いだと主張している。

「これはメディアが創り出した誇張された話だと言える。私はこの会社にずっとおり、取引についてよく分かっている」とガーテン氏はインタビューでこう答えた。

こうしたロシア人投資家たちは保守的なのかもしれない。分析からは、トランプ氏が所有するタワーマンション7棟、計2044戸のうち、約3分の1に当たる少なくとも703戸が、有限会社(LLC)名義であることが明らかとなった。LLC名義となれば、真の所有者の身元を隠すことが可能であり、購入者の国籍も判然としない。

ロシアの住所やパスポートを使わなかったロシア系米国人は、今回の集計に含まれていない。

<サニーアイルズ>

ロイターの調査がフロリダ州に焦点を当てたのは、同州にトランプ・ブランドの不動産が集中しており、他州よりも同不動産の購入者を特定しやすかったからである。

リゾート地のサニーアイルズビーチには、フロリダに存在するトランプ・ブランドのタワーマンション7棟のうち6棟がある。同地はまた、別の意味でも傑出している。米国勢調査データによると、サニーアイルズにある不動産を含む郵便番号の地域には、推定1200人のロシア生まれの住民がおり、米国で最多となっているという点だ。

トランプ・オーガニゼーションは、世界中で展開するブランド戦略と同様に、自社のウェブサイトでフロリダ州にある全7棟のタワーマンションを広告している。これらタワーマンションからトランプ氏がどれだけ所得を得ているかは正確には分からない。

タワーマンション7棟のうち6棟は、トランプ氏が2001年に米国人不動産デベロッパーのデザー父子とライセンス契約している。同契約の下、不動産にはトランプ氏の名を冠し、同父子が管理している。

息子のヒル・デザー氏はインタビューのなかで、同プロジェクトは初期販売で20億ドルを売り上げたと語った。そこからトランプ氏は手数料を得たという。秘密保持契約を理由に、手数料の金額について同氏は語らなかった。一方、トランプ・オーガニゼーションのガーテン氏は、トランプ氏が定額と歩合の両方から所得を得ていたと述べたが、詳細は明らかにしなかった。

ヒル・デザー氏。フロリダ州サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
ヒル・デザー氏。フロリダ州サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
フロリダ州マイアミの大手不動産デベロッパーであるエドガルド・デフォルトゥーナ氏の推計によると、同様のブランド化されたプロジェクトに支払われた標準的な料金に基づくと、トランプ氏が初期販売で得た手数料は1─4%だという。だとすると、トランプ氏はサニーアイルズのタワーマンションで計2000万─8000万ドルを得たことになる。

トランプ大統領は、フロリダ州にある7棟すべてのタワーマンションでその後に販売された分の手数料は受け取っていない。

だが、昨年の大統領選中に提出された資産報告書によると、トランプ大統領はサニーアイルズにある6棟のうち1棟からは今でも利益を得ている。トランプ氏は「Trump Marks Sunny Isles I LLC」という企業から10万─100万ドルを受け取ったと報告書にはある。デザー氏によると、こうした資金は、ホテルとマンションの複合施設「トランプ・インターナショナル・ビーチ・リゾート」から得たものだという。

左から、トランプロワイヤル、トランプパレス、トランプ・インターナショナル・ビーチ・リゾート。サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
左から、トランプロワイヤル、トランプパレス、トランプ・インターナショナル・ビーチ・リゾート。サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
トランプ氏は、フロリダ州ハリウッドにあるもう1つのタワーマンション「トランプハリウッド」からの所得を申告していない。同マンション200戸から同氏が長年どのくらい稼いだかは不明だ。

差し押さえ物件の競売で180戸を引き受けた投資ファンドBH3は、トランプ氏に1戸当たり2万5000ドルのライセンス料を支払ったと、同ファンドの共同創設者ダニエル・レベンソーン氏は述べた。もし残りの20戸からも同額のライセンス料を得ていたのであれば、トランプ氏は500万ドルを手にしていたことになる。

ガーテン氏はトランプ氏の手数料について確認するのを差し控えた。

トランプハリウッドのサイン。フロリダ州ハリウッドで14日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
トランプハリウッドのサイン。フロリダ州ハリウッドで14日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
<ロシアのエリート層>

タワーマンションへの投資は、プーチン大統領率いるロシアにおいて、同国の富裕層が、キャッシュをしまい込むのに外国の不動産をいかに利用しているかを垣間見せてくれる。

購入したロシア富裕層の1人はアレクサンドル・ユズビク氏だ。フロリダ州の不動産登記簿によると、同氏と妻は2010年、サニーアイルズにあるトランプパレスの3901号室を130万ドルで購入している。同物件は約195平方メートルの広さで、3つの寝室があり、パノラマビュ−を楽しめる。

ユズビク氏は2013年から2016年まで、軍事施設で建設プロジェクトを行う国営企業、Spetstroiの上級役員だった。

同社ウェブサイトによると、ロシア情報機関の連邦保安局(FSB)のモスクワにある訓練学校で建設プロジェクトに同社は関わっていた。また、ロシア軍の情報機関、参謀本部情報総局(GRU)一般幕僚の本部棟の建設にも関与している。

同社がロイターに送った書簡によると、ユズビク氏は2016年3月に辞任している。

一部のロシア国営企業の職員は通常、資産や所得の公開が求められる。ユズビク氏と妻は2013年の資産を申告している。公開されているその申告書には、ロシア国内の資産しか計上されておらず、米フロリダ州のマンションは含まれていない。

この件について、ユズビク氏からコメントを得ることはできなかった。

もう1人のマンション所有者、アンドレイ・トルスコフ氏は、持ち株会社「アブソルート・グループLLC」の創設者であり、共同オーナーである。同社は電子機器卸売業や銀行取引、不動産開発を行い、モスクワ、ロンドン、ニューヨークでプロジェクトを展開している。電子機器卸売業はロシアで最大だと、同社の代理店はロイターに語った。同社は財務諸表を公表していない。

トルスコフ氏は2011年、トランプハリウッドの1102号室を140万ドルで購入。約290平方メートルの広さで3つの寝室を備えている。

トルスコフ氏は電話インタビューで、トランプハリウッドの1戸を購入したことを認めた。フロリダのマンションは当時、モスクワ郊外の3部屋ある物件と同額で、不動産を所有するにはフロリダは良い場所だったと同氏は語った。また、購入は個人的決断であり、ビジネスとは関係ないと述べた。

ロシアでのインタビューやフロリダ州の公文書、ビューロー・ヴァン・ダイク社の企業データベース「オービス」によると、ロシア富裕層の購入者の何人かは、モスクワとサンクトペテルブルクの同国2大都市の出身だった。

そのなかの1人に、アレクセイ・ウスタエフ氏がいる。同氏はサンクトペテルブルクにあるバイキング銀行の創設者である。同銀行は、共産主義体制の崩壊後、ロシアで初めて設立された民間投資銀行の1つだ。

同行のウェブサイトに掲載されているプロフィールによると、ウスタエフ氏は、サンクトペテルブルクの児童養護施設やチェスクラブへの寄付によってロシアのスポーツ省から表彰されている。また、銀行業務や慈善活動が評価され、同市の商工会議所からも表彰を受けている。

<地方の有力者>

フロリダ州の公文書によると、ウスタエフ氏は2009年、サニーアイルズにあるトランプパレスの5006号室を120万ドルで購入。その2年後には、近くで開発されたトランプロワイヤルのペントハウスを520万ドルで購入している。

ウスタエフ氏は電子メールでの質問に対し、これら物件の購入は私的に使用するためだと回答したが、同氏の家族が米国で行っている事業についてはコメントしなかった。「私はロシアに住み、仕事をしている。海外に行くのは仕事か休暇に限られている」と同氏は述べた。

一方、ロシア人購入者の多くは地方の有力者で占められている。その1人がオレグ・ミゼブラ氏だ。同氏は炭鉱業界の大物で、交通警察の責任者を務めた経歴の持ち主。同氏の会社の主な資産は極東サハリンにある。

ミゼブラ氏は2010年、プーチン大統領の目にとまった。与党「統一ロシア」の集会で、大統領は同氏の仕事を称賛し、同氏との質疑応答に長時間を費やした。

ミゼブラ氏が傘下に置く企業「Swiss Residence Aliance Inc」は2010年、トランプハリウッドのペントハウス1号室を680万ドルで購入している。広さ約760平方メートル、天井の高さは約3.7メートルで、6つの寝室を備えたメゾネット仕様である。同氏はロイターのコメント要請に回答しなかった。

こうしたロシア人購入者の一部は米国でうまくやっているように見える。地方政治家のワジム・バレリエビッチ・ガタウリン氏はトランプハリウッドの部屋を、フロリダ州に登録している会社「VVGReal Estate Investments LLC」を通して350万ドルで購入した。

それから5年後、ガタウリン氏は同物件をデラウエア州にある有限会社に410万ドルで売却している。この有限会社の所有者については、州の記録に記載されていない。

ガタウリン氏はまた、2012年初めにも同じくトランプハリウッドの2701号室を92万ドルで購入しているが、数カ月後にはベネズエラ出身の夫妻に110万ドルで売却している。

ガタウリン氏はロシア連邦を構成する半自治のバシコルトスタン共和国出身。地方の副検事の息子として生まれ、自身も2013年から2015年まで地方議会の議員を務めた。

地方議会議員として、ガタウリン氏はロシア連邦法のもと、所得と資産を申告する義務がある。同氏が2013年に提出した所得申告書のコピーには、当時トランプハリウッドに所有していた2つ目の物件は含まれていなかった。

バシコルトスタンにあるガタウリン氏の会社に送ったメッセージに同氏は返答しなかった。

<バイカーの友人>

ガタウリン氏は最近、フロリダ州マイアミの都市圏で活発に投資している。同氏の会社は2012─2016年、ブロワード郡の不動産に少なくとも2800万ドルを費やしている。また、同社は2015─2016年にマイアミ・デイド郡の不動産6件を購入・売却し、計23万8400ドルの利益を上げている。

ガタウリン氏の会社は同州ハリウッドのビーチに近い小さなモーテルも登記している。モーテルの従業員はロイターに対し、ガタウリン氏が「ゴーストのように現れては消える」とし、現在はロシアにいると語った。一方、ロシアにあるガタウリン氏の持ち株会社の秘書は3月17日、同氏はロシアにいないと話した。

ガタウリン氏が所有するモーテル。フロリダ州ハリウッドで14日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
ガタウリン氏が所有するモーテル。フロリダ州ハリウッドで14日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
トランプ氏の不動産を購入したロシア人の一部にとって、米国での経験は良いことばかりではないようだ。パベル・ウグラノフ氏はロシア西部サラトフ州政府で2010─2011年、産業・エネルギー副大臣を務めたことのある事業家である。

ウグラノフ氏は2012年、トランプハリウッドの3704号室を180万ドルで購入。その2年後、3寝室ある広さ約315平方メートルの同物件を290万ドルで売却した。

それより以前、ロシアでウグラノフ氏は、2006年と2011年に州都サラトフ市議会選に出馬したが落選している。2度目は与党「統一ロシア」に所属しての出馬だった。2011年に副大臣辞任後、同氏は当時妻だったアナスタシアさんに、フロリダに移住すると告げた。

アナスタシアさんは、マイアミのマンションで行われたインタビューで、元夫のウグラノフ氏が移住の理由を一度も言わなかったと話す。「男の人が何を考えているか見当もつかない」と彼女は言う。

ウグラノフ氏はマイアミでガソリンスタンドを開業したが、経営不振に陥り売却した。その後、チャーター船ビジネスと運送業を始めるが、どちらも振るわなかった。

米国ではロシア国内でのような人脈はなく、米国流ビジネスの方法も分からなかったと、アナスタシアさんは言う。

ウグラノフ氏は昨年8月、ロシアのバイク集団「夜のオオカミたち」のリーダーであるアレクサンドル・ザルドスタノフ氏と一緒に写る自身の写真をフェイスブックのページに投稿した。同集団とザルドスタノフ氏は、米国による経済制裁対象となっており、同国への入国も制限されている。

ロシア大統領府のウェブサイトによると、ザルドスタノフ氏はプーチン大統領と複数回、面会している。大統領は2013年、同氏に「栄誉勲章」を授与している。

ウグラノフ氏は先月後半、電話でのインタビューのなかでトランプ氏のタワーマンション購入を認めたが、これは個人的な問題だとして、質問に答えることを拒否した。「要するに、私の私生活はあなたたちに関係ないということだ」と同氏は語った。

<やり手の仲介者>

トランプ氏のビジネスパートナーである前出の米国人不動産デベロッパーのヒル・デザー氏は、フロリダ州サニーアイルズにあるタワーマンション6棟が、同氏の家族やトランプ家、またサニーアイルズに成功をもたらしたと考えている。

左からトランプタワー1、同2、同3。サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
左からトランプタワー1、同2、同3。サニーアイルズビーチで13日撮影(2017年 ロイター/Joe Skipper)
デザー氏や同氏の会社の元従業員らによると、ホテルを含むこれら不動産が建設あるいは宣伝されていた2001年から2011年の間、トランプ氏は少なくとも4回は現場に足を運んだという。トランプ氏が建物の外観に同意していたとデザー氏は語る。

「トランプ氏の関係者は品質管理と建設にとても関与していた」とデザー氏。「毎四半期ごとにやって来ては、進捗を確認していた。私たちがちゃんと利益を上げているか確認したがった」

デザー氏によると、住宅市場が崩壊した2008年、トランプ氏のタワーマンション900戸がデフォルト(債務不履行)した。デザー氏はその後何年もかけて、債権者に返済すべく懸命に努力したという。これら900戸が売却されるまで、トランプ氏はそこから稼ぎを全く得ていないと、同氏は付け加えた。

デザー氏と地元の不動産仲介業者によると、外国人の買い手がトランプ氏の不動産を購入し始めたのは、住宅市場の崩壊後にデベロッパーが価格を引き下げてからだという。主な買い手は南米出身者で、ロシア人や旧ソ連出身者の割合は小さかった。

デザー氏によると、2011年初めまでにトランプ氏の不動産は利益を上げ始めた。デザー氏は4億7500万ドルあったローンの完済を祝うパーティーにトランプ氏を招待した。そこで、トランプ氏から大統領選に出馬する計画を聞かされたという。

デザー氏と同氏の父親であるマイケル氏、そしてトランプ氏は上機嫌で大量のローン書類に火をつけ、トランプ氏の不動産を借りている人や地元のビジネス関係者らから拍手喝采を受けた。パーティーの様子を撮影したビデオには、笑顔を絶やさず、冗談を飛ばし、集まった人たちをもてなすトランプ氏が写っている。

「マイケル・ジャクソンの髪の毛がペプシの撮影で燃えたとき、一緒にいた。あれはひどかった」と、1984年にペプシのコマーシャル撮影でジャクソンの髪に火がついたときのエピソードを、トランプ氏は披露した。「火のすぐ近くに座っていた。自分の髪だったら、倒産する」

ロシアのプーチン大統領と電話会談するトランプ米大統領。ワシントンのホワイトハウスで1月撮影(2017年 ロイター/Jonathan Ernst)
ロシアのプーチン大統領と電話会談するトランプ米大統領。ワシントンのホワイトハウスで1月撮影(2017年 ロイター/Jonathan Ernst)
デザー氏とトランプ氏はマンションを売るのにエレナ・バロノフ氏の力を得た。バロノフ氏は1980年代にソ連から米国に移住した。ウズベキスタン育ちのバロノフ氏は、ソ連の文化協会で活発に活動していた。間もなく同氏は、ロシア人観光客の団体をマイアミに勧誘し始めた。

デザー氏の父、マイケル氏は自分の会社と一緒に働くようバロノフ氏をスカウトした。デザー氏によると、バロノフ氏はロシア人の買い手を呼び込むため、モスクワやサンクトペテルブルク、フランス、ロンドンにまで足を運び、100万─200万ドルの分譲マンションを彼らに売り込んだ。バロノフ氏は2014年に白血病と診断され、1年後に亡くなった。

「彼女(バロノフ氏)の影響力は彼らにとって絶大だった。誰も彼女に取って代わることはできない」とデザー氏は語った。

(Nathan Layne記者、Ned Parker記者、Svetlana Reiter記者、Stephen Grey記者、Ryan McNeill記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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トランプ政策とドル円、3つのシナリオ 
門田真一郎バークレイズ証券 シニア為替・債券ストラテジスト
[東京 27日] - トランプ大統領と共和党指導部は24日、医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃法案である「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト(AHCA)」の下院採決を撤回した。より完全な撤廃を求める共和党保守派グループ「下院自由議員連盟」などの反対で過半数の票を確保できなかったことが直接的な原因だが、そもそも今回の共和党案は国民の支持も非常に低いものだった。

3月16―21日実施の米キニピアック大学調査によれば、AHCAへの支持率は17%にとどまり、共和党支持者のみでも41%と半数に届いていなかった。

共和党内部の各方面に配慮していった結果、最終的な共和党案は無保険者を今後10年間に2400万人増やす一方、財政赤字の削減幅は1500億ドルと当初案の3370億ドルから大きく縮小するなど、支離滅裂な内容となっていた。

共和党指導部は今後、税制改革に軸足を移していくとしている。税制改革は共和党内でも比較的支持を集めやすいと目されており、市場でも期待感からか24日は株の買い戻しがみられた。ただ、オバマケア改廃交渉の難航はトランプ政権の運営能力に改めて疑問を呈する結果であり、今後の政策シナリオについては幅広い可能性を想定しておく必要があろう。

本稿では、マクロ経済・金融市場への影響が大きいとみられる税制改革と通商政策を中心に、基本シナリオ、強気シナリオ、弱気シナリオの3つの想定に基づいて検討したい。

<2011年以降のドル高トレンド終えんも>

まず基本シナリオでは、抜本的な税制改革を伴わない減税と対象を絞った象徴的な保護主義的通商政策を想定する。減税規模については、国内総生産(GDP)比1%程度の所得税減税と同0.5%程度の法人税減税によって、2018年1―3月期の成長率が1.3%ポイント程度押し上げられると見込んでいるが、昨年11月の大統領選直後の当初想定からは規模・時期ともに前提を後退させている。

通商政策は一部の国に対する業種別の関税適用など象徴的な域を出ないものになると考えている。トランプ大統領が共和党予備選の頃から主張していた中国、メキシコに対する大規模関税などは結局実現に至っていない。

また、その他インフラ投資などの政策は執行に時間を要するものも多く、短期的な景気刺激効果は限定的なものになるだろう。こうした前提の下、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策については今年3回の利上げ(3月、9月、12月)を予想している。

財政拡張の遅延と規模縮小、そして緩やかな利上げは、先行きドル高が小幅にとどまることを示唆している。現在では年内のドル指数の上昇余地は3%程度にとどまり、年末にも2011年以降続いた長期ドル高トレンドがピークを迎えると考えている。ドルはすでに大幅な過大評価水準にあり、他国経済の持ち直しによって米国経済の循環的な優位性が失われる中、ドル高が一服していくとみる。

トランプ政策が短期的な財政刺激に終始し、潜在成長率の押し上げが限定的にものになるとみられる中、米長期金利の上昇余地もかなり限られよう(2017年末の米10年金利を2.5%と予想)。

すでにFRBの年3回の利上げも織り込まれつつある中、米金利上昇によるドルの押し上げも限定的なものとなりそうだ。特に米金利差主導で上昇してきたドル円は今年半ば以降、110円を割り込み、円高が進むとみている。ポンドも実質実効レートではほぼ半世紀ぶりの割安水準にあり、中期的には対ドルで買われやすいとみる。

<弱気シナリオに傾くリスク>

次に、強気シナリオとしては、大規模減税、法人税制の簡素化、国境税調整などを含む抜本的な税制改革が実施された場合を想定している(通商政策は基本シナリオ同様、象徴的な範疇にとどまると仮定)。

国境税調整は実質所得減少を通じて短期的な個人消費の押し下げ圧力となろうが、最終的には税制改革とともに米国内での設備投資拡大につながるとみている。この場合、米国の潜在成長率が押し上げられ、実質金利上昇や資本収益率の改善から長期フォワード金利が押し上げられ、基本シナリオ対比で8―9%のドル高余地が生じよう。

低付加価値生産国の新興国通貨が売り圧力に晒されやすい一方、資本財出荷国(日本、ユーロ圏、スイス、スウェーデンなど)や高付加価値製品を生産する新興国の通貨(一部の東アジア諸国)はアウトパフォームしやすいだろう。

最後に弱気シナリオでは、財政拡張が規模・時期ともに失望を招く結果となり、昨年11月以降に市場で織り込まれてきた政策期待やアニマルスピリットが剥落していくというものだ。経済政策の失敗を受けたトランプ政権は有権者の支持確保に向けて保護主義政策を一層推進するリスクもあろう。この場合、市場の米利上げ期待も大きく後退する中、米金利と米株価が低下し、2011年以降の長期ドル高トレンドが早期に終えんを迎えよう。

市場ではディフェンシブ型ポートフォリオへの資産再配分が進み、安全通貨である円やスイスフランが買われる一方、新興国通貨のうち、世界経済・米国経済の需要ショックに左右されやすい東アジアやメキシコは下落圧力に晒されるだろう。最近のオバマケア交渉の結果を踏まえると、リスクはどちらかというと弱気シナリオに傾いていると思われる。

トランプ政策は米国経済やドルのみならず、グローバルな金融市場に大きな影響を及ぼす。その根幹の1つだったオバマケア撤廃が暗礁に乗り上げた今、他の政策を巡る交渉も一筋縄ではいかないリスクが高まっており、幅広い政策シナリオを想定しておくことの重要性が増している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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不安先行のトランプ円高は短命か=尾河眞樹氏
尾河眞樹
尾河眞樹ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員・金融市場調査部長
[東京 27日] - 昨年11月8日に行われた米大統領選後のドル円相場を整理すると、3つのステージに分けられる。第1ステージは、11月8日から1月20日までの「トランプ・ラリー」だ。トランプ大統領の掲げてきた減税やインフラ投資といった景気刺激策への期待から、期待インフレ率と米長期金利が上昇し、米株価とドル円がパラレルに上昇した。

第2ステージは1月20日の大統領就任式から3月15日前後までで、トランプ大統領による保護主義的な発言が目立ったことにより、ドル円は軟調に推移した一方、米株価は続伸。米株価とドル円の相関性が完全に崩れ、「保護主義懸念相場」となった。

そして、3月中旬から足元までの相場は、第3ステージに入りつつある。今度は、米株価とドル円の相関性は戻ったが、これまで堅調だった米株価が反落し、同時にドル安円高が進んでいる。投資家の不安心理を示すVIX指数(別名「恐怖指数」)もじわり上昇するなど、リスクセンチメントがやや悪化しつつあるが、背景にはトランプ政権の「政策実行性への懸念」がある。

<第3ステージのドル安円高進行余地>

きっかけはトランプ大統領が3月16日に発表した、来年度予算の概要(A Budget Blueprint to Make America Great Again)だ。これは、あくまで「裁量的支出」のみをカバーした、いわば予算案の「たたき台」である。これまで期待されていた税制改革やインフラ投資などの詳細は一切含まれていなかったことが失望を誘った。

環境保護や海外への援助、貧困対策などの歳出が2―3割カットされた一方で、国防関連、軍事費や国土安全保障、国境の壁への費用が増額されている。民主党はこの内容に真っ向から反対しているが、共和党の一部有力議員もこれに反対の姿勢を示している。

正式な大統領の予算案である「予算教書」は、通常2月上旬に議会に提出されるが、今回は5月中旬までに詳細が明らかになる予定だ。それを受けて議会で減税法案が2018年度の財政調整措置として審議される。その後ようやく歳出法案が審議されるとなると、歳出法案の成立までには、相当の時間を要することになるだろう。

トランプ大統領と共和党議会の間の溝が深まればなおさらだ。減税法案の可決・成立は、8月の議会休会までに決着がつかなければ、早くて9月末から10月初めになるとの見方もある。2018年度予算は2017年10月から2018年9月までだが、もし歳出法案を新年度までに成立させることができなかった場合は、連邦政府機能の一時閉鎖となるリスクも浮上する。

いずれにせよ、予算をめぐる各法案の審議に時間がかかり、減税やインフラ投資の実行が大きく後ずれしたり、規模が期待外れとなる場合は、市場に失望感が広がるだろう。この場合、米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースも予想より遅くなるとの見方が広がり、ドル安が進行する公算が大きい。

医療保険制度改革法(オバマケア)を巡って米議会がこれほど揉めたことを踏まえれば、そのリスクは排除できない。トランプ政権は3月23日、同日中に予定していたオバマケア代替法案の採決を延期。翌24日、法案を撤回すると表明した。共和党の一部に反対意見が強く、可決に必要な過半数の票を確保する見通しが立たなかったためだ。

共和党内では米国版の国民皆保険制度であるオバマケアの撤廃を望む保守強硬派の議員団が、今回のオバマケア代替法案に強く反対していた。トランプ大統領が同法案撤回後「次は税制改革に取り組む」と述べたことで市場のセンチメントはいくぶん持ち直しているが、今後の議会の動向には不安が残る。

問題は、第3ステージの「政策実行性への懸念」によるドル安円高がこのまま本格的なトレンドになるのか、あるいは一時的なポジション調整にとどまるかだ。中期的に見れば5月の予算教書とその後の議会の動向が鍵を握るが、テクニカル上、短期的にはドル円は下向きの様相を呈している。

日足の一目均衡表は完全に雲を下抜けたほか、週足ベースの一目均衡表も1月中旬以降サポートとして機能してきた雲上限111.40円を割り込んだ。また、2月安値の111.69円をネックラインとするダブルトップが完成したと見れば、107.90円付近まではすでに下落余地が広がっていると考えることもできる。

4月は米財務省による為替報告書の提出や5月にかけて行われるフランス大統領選など、リスクイベントが盛りだくさんであることを踏まえれば、短期的なドル円の下落リスクには警戒したいところだ。

<ドル安円高の長期トレンド化に3つの壁>

ただ、筆者はこの第3ステージは一時的なものにとどまり、長期のドル円の下落トレンド入りを意味するものではないと考えている。第1に、今回の為替報告書で米国が中国を為替操作国に認定する可能性は低いとみている。

米財務省は「為替操作」の判断基準として、1)対米貿易黒字額が年200億ドル超、2)経常収支黒字が名目国内総生産(GDP)比3%超、3)年間のネット外貨購入が対GDP比2%超、の3点を挙げているが、中国は1点目に抵触しているのみで、3点目は自国通貨売りではないため、現段階で「為替操作国」への認定には無理がある。

第2に、フランス大統領選も、世論調査を見る限りでは極右政党の国民戦線・ルペン党首の支持率には若干陰りが見られる。おそらく秘書給与問題などのスキャンダルが影響しているのではないか。

もちろん、選挙が世論調査通りにいかないことは、昨年6月の英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択や11月のトランプ大統領当選で実証済みであるため、引き続き警戒は必要だが、オランダの選挙結果からも分かる通り、人々は「チェンジ」を求めてはいるものの「混乱」を求めてはいないようだ。

その点、フランス大統領候補としてニューフェースのマクロン氏は政治家としてのバックグラウンドがなく、「新しさ」や「改革」が期待できる。ルペン氏が当選した場合の市場混乱の可能性も考慮すれば、マクロン氏のほうが今回の選挙では有利であると言えそうだ。

第3に、最も肝心なポイントとして米国経済が足元堅調であることが挙げられる。仮に税制改革法案の成立が遅れ、これが米国経済を押し上げる時期が後ろ倒しになったとしても、米景気が今年、腰折れに至る可能性は極めて低い。

米国のインフレ率は着実に加速しており、減税やインフラ投資の規模が期待されるほど大規模なものでなかったとしても、これらは来年の米国経済を支援しインフレ率を押し上げよう。それを見込んで米金利が再び上昇し始めれば、ドル円は緩やかな上昇トレンドに戻るとみている。

24日にオバマケア代替法案が撤回されても、市場のリスクセンチメントが悪化せず、ドル円も急落していないのは、こうした点が背景にあるのではないか。

複雑で時間がかかりそうなオバマケアはとりあえず棚上げして、トランプ大統領が述べるとおり、税制法案に早々に着手するのであれば、目先テクニカル上のポジション調整は進んだとしても、それは一時的なものにとどまり、ドル円は反転上昇すると考える。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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コラム:森友学園問題、投資家が考えるべき「キーマンリスク」 
Quentin Webb

[香港 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「キーマンリスク」は日本語で何と言うのだろうか。投資家はそれについて考える必要があるかもしれない。

日本の安倍晋三首相の関与も取り沙汰されている学校法人「森友学園」の国有地払い下げ問題について、投資家は差し当たり楽観している。とはいえ、この問題は、あるぜい弱性を際立たせている。

それは、日本で現在展開されている大規模で抜本的な経済見直しは、1人の人物を中心に回っており、そのため同改革は「アベノミクス」と呼ばれているという点だ。

ナショナリズム色の強い教育で知られる大阪の学校法人「森友学園」が国有地を評価額よりも安い価格で払い下げを受けた問題を巡って、同学園の理事長を退任する意向を示している籠池泰典氏は23日、首相からの寄付金として100万円を昭恵首相夫人から受け取ったと参議院予算委員会の証人喚問で発言した。

首相夫妻はそのような支払いをしたこともなければ、同学園に対して、いかなる不適切な支援も行ったことはないと、籠池氏の主張を否定している。

市場は、これを政治的混乱だとはやし立ててはいない。24日午後の早い時点で、東証株価指数(TOPIX)は2月半ばに同問題が発覚して以降、0.5%下落しただけだ。MSCIワールド指数が0.4%上昇したことを考えると、それほど悪くはない。

ただしこうした騒動は、日本を応援する投資家が、安倍首相や首相と緩和策で手を握る日本銀行の黒田東彦総裁にいかに投資しているかを喚起させる。安倍首相が2012年に就任する以前、不人気だった一連の前任者らの在任期間は非常に短いものだった。そのことが、切に求められていた改革の推進をほぼ不可能にさせていた。

対照的に、日本は現在、安定した政治の先導役のように見える。高い支持率を背景に、安倍首相は農業から郵政民営化やコーポレートガバナンス(企業統治)に至る分野において変革にまい進することが可能だ。森友学園の籠池氏が証人喚問を行う前に実施されたある世論調査では、安倍内閣の支持率は低下したものの、56%と比較的高い数字を維持している。

安倍首相が辞任に追い込まれても、明らかな後継者は存在しない。型破りな東京都知事、小池百合子氏がそのうち名乗りを上げるかもしれないが、与党・自民党には傑出した候補者がいない。現在の見通しは、安倍首相が再選を目指し、2020年の東京五輪後も首相の座にあり続けるというものだ。

トップがどう変わっても、これまで進展してきたことが後戻りすることはないだろう。だが国民や政党からの支持が弱い人物が取って代わった場合、新たな政策の導入はより困難となり、官僚からの抵抗も強まる可能性がある。

これまで改革が行われてきたにもかかわらず、日本経済の復活は全くもって道半ばであるため、このことは重要だ。成長率やインフレ率、収益性は低過ぎ、労働市場はあまりに硬直している。投資家にとって、安倍首相抜きのアベノミクスはそれほど魅力的には聞こえないだろう。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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