●トランプは、先ず中国を通商で干し上げ、その経済力と軍事力を削ぐ。それによる返り血は、公共事業と軍拡、規制緩和、減税等による景気浮揚と「米露同盟」を中心とした包囲網構築で撥ね返す。
●シリアとISは、当面プーチン主導に任せる。しかし中東戦略全体については今のところ示されたヒントは殆どない。
●プアホワイトを中心とした格差問題には、製造業の米国回帰で対処する考えだが、持続的なモデルとなるかは疑問である。また、財政赤字と金利高、ドル高への対処法も不明である。
◆ピーター・ナヴァロ◆
米国大統領選で勝利後、12月4日現在、国務長官を除きトランプ政権の陣容が固まりつつある。
また、選挙期間中に吠えまくった「公約」も、「就任後100日行動計画」、その他発言によって徐々に整理され、トランプの政策が断片的に示された。
それらは未だ取りとめがなく、なかなかストーリー性のある「戦略」と言えるレベルのものが見えないが、筆者は、来年1月の政権発足前ながら、現時点でもいち早くトランプ政権の戦略を読み解くことは、特に今の日本にとって先手を打って対応を立案するために必要不可欠だと考える。
そのため、示された断片を並べながら、そのパズルを解こうとしているが、それには、経済と外交・軍事を結ぶストーリーが必要だ。
そのヒントとなるのは、ピーター・ナヴァロ(カリフォルニア大学アーバイン校教授)だろう。
選挙陣営から引き続き政権移行チームでも政策顧問を務め、経済、貿易、そしてアジア政策を担当している。
そして、ナヴァロは、トランプ陣営の中で唯一、経済と外交・軍事の双方に通暁している。
その主張をまとめると、凡そ下記の通りだ。
●中国製品を購入すれば、その利益は回り回って米本土を脅かす中国軍の兵器に化ける。中国との貿易により米国では5万社以上が倒産した。
●アメリカは中国との通商交渉でタフな(強硬な)姿勢を貫け。中国国内での知的財産権の侵害は厳しく取り締まれ。中国からの輸入品には高い関税を課せ。
●中国の重商主義に真っ向から立ち向かえ。アメリカに職を取り返せ。そして「偉大なアメリカ」を取り戻せ。
また、11月に入って「米中もし戦わば」(原題:Crouching Tiger: What China's Militarism Means for the World)を刊行している。
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これらのナヴァロの主張と、示された政策の断片、12月2日のトランプと台湾蔡総統と異例の電話会談等を混ぜ合わせてみると、トランプは、先ず中国を通商で干し上げ、その経済力と軍事力を削ぎ、それによる返り血は、公共事業と軍拡、規制緩和、減税等による景気浮揚と「米露同盟」を中心とした包囲網構築で撥ね返すという戦略が浮かび上がる。
そして、同2日のキッシンジャーと習近平の北京会談は、筆者にはこれらによる「パワーシフト」を中国と決定的な対決を避けながら、ジリジリと行いたいというトランプの意思表示に映る。
なお、ナヴァロには、現時点で政権の要職ポストを示されていない。
経歴を見ると、過去3回公職に立候補したことがあり(何れも落選)、決して理論家一本でやっていこうという訳ではなさそうだが、性格や健康問題に難があるのか?
しかし、今後、経済担当補佐官等に指名されるかも知れないが、たとえ要職から外されても、経済と外交・軍事を跨いだシナリオが他にない以上、筆者はトランプ政権の戦略の理論的中核はナヴァロに在ると見る。
◆見えぬ中東政策◆
一方、中東戦略全体については今のところ示されたヒントは殆どない。
ただ、公言しているように、トランプは、シリアとISは、当面プーチン主導に任せるだろう。
トランプはエルサレムをイスラエルの首都と認めるとネタニヤフ首相に約束すると共に、ユダヤ教正統派有力者家系の娘婿のジャレッド・クシュナーを選挙戦および政権移行チームで重用する等、親イスラエルの姿勢を明確に見せる一方、2015年にオバマが纏めたイランとの核合意を破棄することも明言している。
トランプが盟友とするロシアのプーチンは、イスラエルと接近する一方、シリアのアサド政権を支援すると共に空軍基地を使用する等、同じシーア派のイランとも緊密でありその点ではトランプと真逆だ。
トランプは現在、不動産ビジネスを大規模に展開した経験もない中東に対する知識、関心は殆どないと思われるが、イラク戦争については、米国にとって全く無駄で必要のなかった戦争としている。
米国をネオコンと共にイラク戦争に引きずり込んだとも言えるイスラエルに対する親密な姿勢は、大統領選でユダヤ人社会の支援を受けるための方便だったのかも知れないし、逆により親イスラエルを深めて行くのかも不明だ。
国内でのシェールガス等のエネルギー開発に対する規制緩和で、中東の石油に依存しない体質を作り上げ、中東丸ごとプーチンに任せるつもりがあるのかも知れない。
但し、中国について一段落が着いたら、中東問題について学習して解決に乗り出す可能性もゼロではない。
◆「米国の形」と日本の対応◆
また、トランプは、プアホワイトを中心とした格差問題には、製造業の米国回帰、公共事業、エネルギー開発に対する規制緩和、移民の制限、減税による景気浮揚等で対処する考えのようである。
だが、元より公共事業やエネルギー開発の投資段階の雇用は、一時的なものである。
また、製造業の国内回帰も持続的なモデルとして定着するかは疑問である。
10年間で6兆ドルの大減税、同じく1兆ドルの公共事業、軍拡の計画は、株式市場の高騰をもたらしているが、経済成長による税収増がそれに伴う財政赤字と金利高、ドル高の影響をペイ出来るかについて、ノーベル賞受賞者を含めた主流経済学者は悲観的だ。
トランプは、1期4年で大統領を辞めるなら逃げ切れるだろうが、2期8年を続けるなら、その帳尻を合わせなければならない。
大統領選での暴言にあった米国債のデフォルトや、あるいはプラザ合意のような形のドル切り下げは、米経済次第であり得るシナリオだろう。
話を戻して、プアホワイトを中心とした格差問題は、今後AI(人工知能)、自動運転、ロボット化の進展により、更に深刻になると思われる。
日本こそ他人事ではないが、米国を筆頭とした先進国は、教育、既得権の整理、社会保障、少子高齢化問題、労働流動性を含めた持続可能な社会の形を試行錯誤で構築する必要がある。
さもなければ、ピケティーのような形を変えた共産主義が世界を席巻することとなる。
日本について言えば、安倍政権はトランプの当選可能性を殆ど無視する失態の後、一番乗りで就任前のトランプと会談するリカバリーを図った。
トランプにより世界は激動する。
1月20日の就任式など悠長に待っている暇などない。
今ある材料でトランプの戦略のパズルを解いて、先手を打って対応策を練る必要がある。
そして、新しい情報により逐次そのモデルを修正して行くことが求められる。
当面トランプは、公式な形、非公式な形を問わず、「米露同盟」を模索するだろう。
それは、共和党を含めた米国議会から反対され実現に困難が伴う。
トランプの大統領選当選により、12月15、16日の日露首脳会談で北方領土問題の進展可能性は殆ど無くなったので、安倍首相は会談を「米露同盟」を緩衝材として仲介するための瀬踏みの場とすればよい。
それが、行く行くは「日米露三国同盟」となるのか「日米露印四国同盟」に結実するかはわからないが、その模索が当面の日本の戦略となるだろう。
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