ビジネス2018年12月19日 / 12:02 / 7時間前更新
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ソフトバンク、売出価格割れの船出 収益懸念で
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[東京 19日 ロイター] - ソフトバンク(9434.T)の東証1部上場は、多難な前途を予感させるスタートとなった。売出価格割れの初値は、通信料金の値下げ圧力や中国製装置の入れ替え費用など、目先の収益圧迫要因への投資家の不安の表れともいえる。先日は大規模障害も発生、通信網に対する信頼回復も急務だ。株主還元にこだわれば、長い目で見た利益を失いかねないリスクもある。
<通信障害で重い処分も>
6日午後に発生した全国規模での大規模障害。通話やメールだけでなく、物流や電子チケットにも影響が及び、通信インフラ企業の責任が一段と重くなっていることをあらためて印象付けた。
ソフトバンクは、障害の原因がスウェーデンの通信機器大手エリクソン(ERICb.ST)製の交換機のソフトウエアに異常が発生したためと説明したが、業界では「あまりにもお粗末だ」との声が少なくない。
関係者によると、ソフトバンクは今後、フィンランドの通信機器大手ノキア(NOKIA.HE)製機器の導入し、エリクソンとのデュアル体制にすることで大規模障害が起こらないシステムを構築する。
ソフトバンクは収益向上を目指し、通信事業に関わっている従業員の4割を2─3年かけて人工知能(AI)関連など成長事業に振り向ける計画を公表した。
だが、今回の大規模障害で通信網の信頼性に傷が付いたことから、戦略の見直しを迫られる可能性もある。
総務省は今回の通信障害が電気通信事業法上の「重大事故」に該当すると判断。原因究明や再発防止先などの報告を求めている。報告を受けたうえで処分を検討する方針だが、同省のある幹部は「根本的な原因はメーカー側にあったとは言え、何も知らなかったでは済まされない。かなり重い処分になるだろう」との認識を示した。
<ファーウェイ切り替え>
日本政府が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]製品の排除を事実上決めたことも、同社にとっては逆風となる。
政府関係者の1人は「対象は政府調達で、民間に排除要請はしない」と強調するが、ソフトバンクは政府の方針を受け、ファーウェイ製機器を欧州メーカー製に切り替える方針を固めた。
米携帯電話子会社スプリント(S.N)とTモバイルUS(TMUS.O)の合併計画をめぐる米規制当局による安全保障審査も、ファーウェイ排除の背中を押した。
ソフトバンクは今後、ノキア製機器の導入と併せ、ファーウェイ製機器の切り替えを進めていく方針だが、市場では追加費用の発生に不安も広がっている。
<売出価格を2.5%下回る>
この日の初値は1463円と売出価格1500円を2.5%下回った。相場全体の地合いの悪さに加え、上場直前に相次いだトラブルも投資家の心理を冷え込ませた。
しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は「市場の地合いの悪化や通信障害の問題などがネガティブに作用した。IPO(新規株式公開)の環境、タイミングが悪かった」と指摘する。
ソフトバンクが上場にあたり公表した2019年3月期の業績予想は、売上高が前年比3.3%増の3兆7000億円、営業利益は同9.7%増の7000億円、最終利益は同4.8%増の4200億円と増収増益を見込んでいる。
配当性向は85%を目安に、安定的な配当を目指す方針だ。
しんきんアセットの藤原氏は「配当利回りが高いうえ、TOPIX銘柄への組み入れによるパッシブ系ファンドの買い需要もある。株価はある程度は底堅く推移する」とみているが、「1500円を上回ったところでは一定の売り圧力が見込まれる」としている。
これまでソフトバンクは、派手な投資で話題を振りまいているソフトバンクグループ(9984.T)の影で、利益創出については比較的柔軟に対応してきた。しかし、今後は投資家の目も意識しなければならない。
通信網の信頼回復や通信機器の切り替え、政府による値下げ圧力など、対応すべき課題は山積みだ。人工知能(AI)関連など「非通信」事業を育てながら、直面する課題にも対応する困難な道のりが待っている。
*写真を差し替えました。
志田義寧 取材協力:長田善行 編集:田巻一彦 石田仁志
https://jp.reuters.com/article/column-softbank-ipo-idJPKBN1OI0PO
ソフトバンク株、初日は15%安−勝者は孫社長との声も
日向貴彦、古川有希、Pavel Alpeyev
2018年12月19日 15:04 JST 更新日時 2018年12月19日 17:12 JST
初値は1463円、公開価格を2.5%下回る
孫氏は「高い値段で売り超過利益を得た」とDZH田中氏
上場したソフトバンクの株価は19日、公開価格比15%安の1282円と安値引けとなった。投資家にとっては約4000億円の損失となった一方、過去最大の資金調達を成し遂げたソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の「大勝利」との見方もある。
初値は1463円となり、公開価格(1500円)を2.5%下回った。売買代金は東証1部で1位。親会社のソフトバンクGの終値は前日比0.9%安だった。
記者会見した宮内謙社長は「残念ながら株価は少し下がった」と述べたほか、「マーケットがどう反応されたのか真摯(しんし)に受け止めて、ここをスタート地点として企業価値向上に努めて参りたい」と話した。孫氏からも「非常に素晴らしいアドバイスを頂いている」という。
需要に応じて追加するオーバーアロットメントを含む売り出し株数で算出した調達額は2兆6500億円と1987年のNTTを抜き、過去最大だった。DZHフィナンシャルリサーチによれば、今年の日本のREIT(不動産投資信託)を含む上場は86社で初値が公開価格を下回ったのはソフトバンクで12社目。
同社の田中一実IPOアナリストは、株価下落はソフトバンクGの孫社長の「大勝利を意味する」と指摘。「実際の価値よりも高い値段で売り、超過利益を得ることができたのは、孫氏の高い交渉力であり、引き受け証券の販売力だろう」とした上で、負けたのは個人投資家を中心にした「買い手」だと話した。
ソフトバンクGは、2006年におよそ2兆円を投じ英ボーダフォン・グループから日本法人を買収、国内の携帯電話事業に参入した。上場により、10年余りを経て、資金回収した格好だ。上場は世界規模で投資を進める親会社と通信事業の役割や価値を明確に分けるという狙いもある。
Ken Miyauchi, president and chief executive officer of SoftBank Corp., hits the bell at TSE.Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
ソフトバンクの上場を巡っては、市場関係者から厳しい声も上がっていた。政府主導で国内通信料金の値下げ圧力が高まっており、携帯電話会社の収益悪化懸念が根強いためだ。楽天の新規参入もソフトバンクには逆風だ。
6日には全国規模の通信障害が発生。ソフトバンクが通信機器として使用する中国の華為技術(ファーウェイ)排除の動きが世界的に広がったことも市場に疑念を生んだ。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役は、公開価格が割高だったとの見方を示した。先行きについても携帯電話料金に「政府の値下げ圧力もかかっているので、大きく成長するというよりも現状が維持できれば御の字」とした上で、「1300円台は仕方ない」と分析した。
1000株を新規上場(IPO)で購入した東京都内でIT関連企業を経営する酒井英行氏は「残念だ」と述べた。一方で「手放すつもりはない。高配当を期待して、中長期的に持ち続けたい」と語った。
ソフトバンクの2019年3月期業績計画
前期比増減率(%)
売上高 3兆7000億円 3.3
営業利益 7000億円 9.7
純利益 4200億円 4.8
1株利益 87.73円
(宮内社長の会見内容を追加しました.)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-19/PJYUOU6JIJUQ01
コラム2018年12月19日 / 18:03 / 9分前更新
コラム:ソフトバンク上場が導くIPO市場の前途多難
Alec Macfarlane
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[香港 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 東証1部に上場したソフトバンクの初値が公開価格を下回ったことは、日本のすでに不安定な新規株式公開(IPO)市場を奈落の底に突き落とした。
ソフトバンクグループの通信子会社であるソフトバンク(9434.T)株の初値は急落した。売り出し規模は日本のIPO史上最大の約2.6兆円。ある程度の初値がつけば、今年不調だった同国のIPO市場は再び活況を取り戻したかもしれない。
だが、同グループの孫正義社長は強く出過ぎた。後に続くIPOを難しくさせてしまった。
今年上場した日本企業の上場後のパフォーマンスは芳しくない。米調査会社ディールロジックによると、全体的に約10%下落している。それに比べ、米ナスダック市場と英ロンドン証券取引所に上場した企業はそれぞれ2%、6%の上昇だ。この日本の数字には、成長企業が集まる東証マザーズ市場に6月上場し、約6800億円調達したフリーマーケットアプリを運営するメルカリ(4385.T)は含まれていない。上場以降、同社の時価総額は30%減少している。
孫社長のアグレッシブな戦略にも責任があるだろう。そもそも売出価格の仮条件をレンジで公表せずに一本値とし、他社に大きなプレミアムを要求した。
幹部が逮捕され苦境に立たされている中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)との関係や、電子商取引大手、楽天(4755.T)の通信事業参入といった懸念材料にもかかわらず、厚い配当に引き寄せられている日本の個人投資家はソフトバンク株をこぞって買いに走った。だが彼らは今、身ぐるみをはがされつつある。ソフトバンクの初値は1463円で公開価格の1500円を割り込み、公開価格から14.5%下回る水準で初日の取引を終えた。
日本にはこれまで上場を好感するそれなりの理由があった。ディールロジックのデータによると、過去3年間にIPOを実施した新興企業の株価は平均で2桁上昇、2017年に上場した企業は現在までに20%超上昇している。それに比べ、東証株価指数は5%の上昇にとどまっている。
しかし今回のソフトバンクによる大失態は孫氏を信じていた株主にとって痛手となるだけでなく、仮想通貨の取引所を運営するビットフライヤーや米アップル(AAPL.O)にカメラレンズを提供するカンタツなど今後IPOを行う可能性のある他社も巻き添えを食らうことになるだろう。
世界各国の株式市場が下落し、貿易摩擦がエスカレートする中、ミセス・ワタナベをIPO市場に呼び戻すことはそう簡単ではないだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
https://jp.reuters.com/article/column-softbank-ipo-idJPKBN1OI0PO
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/185.html