週間ダイヤモンド 2020/12/17
特集 創価学会 90年目の9大危機
創価学会が元学会員に「嫌がらせ訴訟」の理由、コロナで意外なもろさ露呈【危機(6)学会員の離反】
SNSなどを通じて学会への不満を書き込む学会員や元学会員たちが後を絶たないが、聖教新聞の写真や記事を無断で使用するケースに対して、学会側が重大な権利の侵害だとする事例が頻発しているという。中には訴えられる例もあり、被告となった元学会員は嫌がらせ目的で起こす「スラップ訴訟」だと憤っている。特集『創価学会 90年目の9大危機』(全16回)の#8では、どのようにして訴訟されるに至ったのか、そのさまを克明にレポートする。(ダイヤモンド編集部「創価学会特集取材班)
公明党は福祉の党ではなく利権の党だと
主張する元学会員たちの“小さな声”
11月15日、よく晴れた日曜日の午前。東京のJR十条駅前には、白いプラカードを持った数人の男女が集まっていた。そこには「さよなら公明党」という文字と共に、赤、黄、青の3色が描かれていた。
程なくして男女数人は、マンションや団地などが立ち並ぶ住宅街の中を練り歩き始めた。そして、時折立ち止まっては、マンションや通行人に向かい、拡声器を通して声を張り上げた。
「公明党はGo Toキャンペーンを実施し、コロナを全国に広めています。公明党は福祉の党ではなく、利権の党です。われわれは公明党の政権参加に反対します」
行進する彼らに対し、プラカードに目を留めた通行人が声を掛けてくるケースが思いの外目立った。
犬の散歩中の中年男性は「私もそのプラカードに賛成だよ」と言い、20代と思われる若者は「頑張って!応援していますよ」と話し掛けるといった具合だ。
“小さな声”ながらも、日曜日に自宅でくつろぐ一般市民や公園で子どもを遊ばせている親、通行人などに彼らの主張は届いたのかもしれない。
この数人の男女は言わずもがな、創価学会の元学会員たちだ。池田大作名誉会長の教えである平和主義・人道主義を学び、長らく学会の活動にいそしみ、選挙運動を支援してきた人々である。
ところがだ。「実際に公明党が行っていることは池田先生の教えと異なってきており、疑問を感じている学会員が少なくない」(古参の学会員)という。そう感じているうちの一人が、今回の行進にも参加した元学会員の天野達志氏だ。
実はこの天野氏は、元学会員や、現在の学会執行部や公明党に批判的な現役学会員の間で話題になっている、「相手に苦痛を負わせる目的で起こす『スラップ(嫌がらせ)訴訟』の被害に遭っている」(天野氏)という人物なのだ。
「安保法制」に異を唱えない
平和の党であるはずの公明党
この訴訟については後に詳述するが、きっかけとなったのは、2014年ごろから大きな話題になった安保法制だ。天野氏に限らず、元学会員や現役学会員たちに問題視する向きも少なくない。
これは、当時の安倍政権が憲法第9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認して、武力による抑止力を高めるというものだ。
だが、「池田先生が武力による抑止力や集団的自衛権を否定しているにもかかわらず、公明党が自民党に対して異を唱えずに容認しているのは、池田先生の教えに背いている」と天野氏は主張する。そこで反対運動を開始し、「安保法案の白紙撤回を求めます」というウェブサイトを開設した。
15年8月には、国会議事堂の前で学会のシンボルである三色旗を掲げて署名活動を行ったところ、テレビの報道番組で取り上げられるなど大きな反響を呼んだ。署名は全国各地から集まり、2カ月弱で実に9177筆にもなったという。
「公明党は目を覚ましてほしい」「今まで応援してくれた友人に申し訳ない」「『公明党がおかしい』と言ったら、信心が足りない、反逆者だと罵倒された」――。
署名と共に届いた手紙には、こうした学会員たちの生々しい声が記されていた。
天野氏は公明党の山口那津男代表に署名を手渡すべく、同年9月8日に東京・信濃町の公明党本部に向かった。この日は、1957年に創価学会第2代会長の戸田城聖氏が「原水爆禁止宣言」を行った意義深い日であり、それにちなんだかたちだ。
だが、署名を持参しても門前払い。4日後にようやく代理の職員に署名を手渡すことができたという。
天野氏は公明党の党員であり(現在は脱退)、14年春の統一地方選挙ではF(フレンド)取りの活動を行うなど公明党を長らく支援してきたが、「冷たい対応に、これまで信じてきたものが崩れました」と言う。
不信感を募らせた天野氏は、16年に二つ目のサイト「DAKKAN」を開設。公明党の政策に対して意見を言ったがために孤立してしまった学会員たちが、自分以外にも数多くいることが分かったからだ。
だが、抗議活動を続けたことで翌17年、学会副支部長職を解任される。
さらに天野氏は18年9月8日に三つ目のサイト「核兵器のない世界へ」を開設。この年の暮れに学会から「除名する」という通知が届いた。除名の理由は、ホームページやSNSなどで学会執行部の批判を繰り返し、また、学会の除名者らのサイトを紹介したり、同調者に呼び掛けたりしたことだ。除名処分に対し天野氏は抗議したが、19年4月に正式に学会を除名されることになったという。
それでも天野氏は、三つ目のサイト経由で募った署名約1260筆を抱え、今度は学会の原田稔会長に届けるために同年9月8日、信濃町にある学会本部を訪ねた。だが、学会側は受け取りを拒否。6日目には警察を呼ばれる事態となり、断念。署名を原田会長に渡すことはかなわなかった。
約100万円の損害賠償を求め
学会が天野氏を提訴
それから約1年後の20年7月、学会から一通の通知書が届いた。天野氏のサイトが「『聖教新聞』の紙面や写真を無断で使用しているため、該当箇所の削除を求めるとともに、損害賠償として90万8000円を支払うように」という内容だった。
そして、翌8月。サイトを管理するプロバイダーから「権利が侵害されたとの侵害情報や送信防止措置を講ずるようにとの申し出を受けた」との照会書が届いた。天野氏は指摘された箇所を削除したが、10月に東京地方裁判所から訴状が届いた。原告は学会だった。
「7月に通知書を送ったが素直に応じるどころか、逆に通知書を公開し、学会によるスラップ訴訟であり弾圧であるとSNSに繰り返し投稿した。全く反省する姿勢が見えない」という内容だった。
確かに、聖教新聞の紙面や写真を無断で使用した点は指摘されても仕方がない。だが天野氏がサイトから聖教新聞の紙面や画像を削除したにもかかわらず、学会から提訴されるに至った。「学会に肯定的なサイトにも、許諾を得ていないと思われる紙面や写真が掲載されているが、そちらが訴えられたとは聞いたことがない」と複数の古参学会員たちは口をそろえる。天野氏が長らく学会に批判的な活動を行っていたことから、それに対する嫌がらせと受け止められても仕方がないだろう。
ましてや、18年初頭にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の事務局長が来日した際、山口代表と原田会長はそれぞれに面談し、核兵器禁止条約に賛同、称賛するとおのおののホームページに掲載している。
もっとも日本は核拡散防止条約は批准しているものの、17年に国連で採択された核兵器禁止条約には反対の立場を取っている。日本は米国の核抑止に依存する立場であり、おいそれと核兵器禁止条約に参加できるものではないが、学会員の中から「矛盾しているのではないか」という疑問の声が上がっている。
例えば、10月28日に放送されたTBSラジオ。「森本毅郎スタンバイ!」で「最近のコロナ対策を巡る公明党に一言」で紹介された視聴者からのメールだ。
「集団的自衛権について公明党の反対に期待していましたが、残念ながら山口代表はあいまいな言い訳をしただけで賛成に回りました」「安倍政権に対する甘口の発言が顕著になった。権力維持にきゅうきゅうとしている」「聖教新聞ではいいことを言っているが、やっていることはめちゃくちゃです」
無論、これらは届いたメールの一部であり、公明党を肯定する声も多々ある。だが、批判的なメールの中には上記の通り学会員と思われる声があるのも、また事実だ。
今やこうした矛盾に対し、学会員たちの疑問が噴出している。そして、そこに追い打ちをかけるのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。これまで学会の活動といえば、フェース・トゥ・フェースで対話することにより秩序や組織活動を保ってきた。その最たるものが座談会などの会合だったが、それがコロナ禍において途絶えてしまったのだ。
学会員同士のつながりが希薄になれば、これまで抑えていた疑問や矛盾について深く考えるようになる。「座談会がなくなったことでしがらみがなくなり、むしろ頭がスッキリしてきた」と言うのは、ある大阪在住の現役学会幹部だ。
これが表面化したのが、20年11月に行われた大阪都構想の是非について再び行われた住民投票だろう。詳細は、本特集#9『創価学会「婦人部」が公明党の右往左往に怒声!【危機(7)集票マシーン劣化】』に譲るが、大阪都構想に反対の立場から一転して賛成に回った大阪公明党に対し、出口調査では公明党支持層の過半数が反対に回った。直接訪問やF取り(友人・知人の選挙への勧誘)ができなかったことが、敗因の一つといえる。
学会のオンライン化の推進は
もろ刃の剣になりかねない
加えて、コロナ禍による活動停止を受け、聖教新聞紙上で漫画などを活用してSNSやインターネットの利用方法を指南したり、オンライン座談会を行ったりするのも、こうした事態に拍車を掛けている。「幹部の話を動画で見ることができますが、聞きづらいです」といった学会員の声もある。
これまで学会員はSNSはおろかインターネットに興味を示さないことが多かったというが、オンライン化の推進によってインターネットが身近になれば、いや応なしに学会や公明党に批判的なサイトやSNSに触れることになってしまう。
学会がどう考えているかは分からないが、現場の学会員や地域の幹部クラスの中には、これを恐れている者も少なくない。今回の天野氏の件以外にも、「ここ数年、聖教新聞の紙面や写真を無断で使用したとして、法律事務所に呼び出される学会員が増えています」と複数の元学会員は言う。中には、学会から10万円ほどの支払いを求められ、金銭を支払った後にサイトを閉じ、その後は一切批判的な言動を行わなくなった元学会員もいるという。
こうした行動によって、外から見れば、学会への批判に対して一定の抑止力が働いているように見えるため、「学会執行部による声の封じ込めではないか」という意見もある。
この点を学会に問うと、「会員・非会員にかかわらず、重大な権利侵害には法にのっとり対処しております」との回答だった。
本記事の配信日の翌日である12月18日午前、東京地方裁判所にて天野氏に起こされた訴訟の第一回口頭弁論が行われる。動向に注目しておきたい。
いずれにせよコロナ禍によるオンライン化の推進は、学会にとってはもろ刃の剣。最強教団の意外なもろさが露呈したといえるだろう。
https://diamond.jp/articles/-/256779
http://www.asyura2.com/13/nametoroku7/msg/917.html