2016年 3月 8日 北海道新聞 聞く語るのコーナーより一部抜粋
「自民の知恵袋から政権批判の急先鋒に 慶応大学名誉教授 小林 節さん」
――――小林さんと言えば、自民党寄りの論客のイメージでした。
小林氏
「体制側に長居したなと思います。30代半ばの1985年ごろから、
自民党の勉強会に講師として呼ばれ始めました。
アメリカハーバード大学帰りで慶応大の教員。
当時、改憲を訴える憲法学者は少数派で、護憲派の東大出身者が牛耳る憲法学会では敬遠される風潮がありました。
それなりの経歴のある若手学者が、歯に衣着せぬ主張をするということで、重宝がられていたのでしょう。
明文規定のないプライバシー権や環境権を追加する『憲法のリフォーム』が必要だと訴えていました。
国民の理解が得やすそうなテーマから改正する『お試し改憲』を提案したのも私です。」
――――自民党の憲法改正草案にも影響を与えました。
小林氏
「2012年に発表された自民党改憲草案作りの会合にも出席したことがあります。
彼らは自分に都合のいい話を『つまみ食い』する傾向がありました。
『天皇は元首だ』と私が言えば、お墨付きをもらったと受け入れる。
一方で『権力者を憲法で縛るのが立憲主義。好き勝手はできない』と話し始めると、言葉を遮られた。
そのうち会合に呼ばれなくなりました。」
――――その間も、ご自身の姿勢は変わらなかったのですか?
小林氏
「立憲主義の否定にはくみしない。それは一貫しています。
自民党には当初から『あなた方の考える改憲はご無理ですよ』と諭し続けてきたのです。
自民党の改憲案は、国家が国民を統制し、権力者が使いやすくしようとするものです。
天皇主権の下で『臣民の権利』として、限定的に国民の権利が認められていた戦前の大日本帝国憲法に戻そうとしている。
今の憲法が保障する国民の権利・自由は人間ならば当然に享受できるものです。
しかも、こうした憲法の理念を守る義務は国会議員ら、権力者側にある。
自民党からは5年ほど前、『論調を少し変えてもらえれば仕事を融通できる』と誘いを受けたことがあります。
私は『バカ野郎!』と言って断りました。」
――――なぜ憲法学者になられたのですか?
小林氏
「大学で憲法の勉強を始めて、憲法の根本は『個人の尊厳』の保障にあると学びました。
人間はそれぞれ個性が違い、1億人いれば1億人分の価値がある尊い存在だと。
私の生まれつきの左手の障害を理由にいじめられてきた経験のある私には、すごく響いた。
憲法っていいなと思いました。
人間は文明を持つ動物です。暴力ではなく言葉で抗わなければと気づかされました。
憲法を武器に差別と闘えると勇気づけられていたのです。
だからでしょうか。まるで『貴族』のような世襲議員の首相が、
上から目線で改憲論を語るのを聞くと血がたぎる。人は等価値なのに、気に入らねえなと。
反発するのは、自分の尊厳をかけた戦いだと感じるからです。」
――――弁護士資格をお持ちなので、安全保障法制に対する違憲訴訟を目指すとの話もありましたが。
小林氏
「訴訟を起こせば、最高裁判決が出るまでに4年はかかり、その間に国政選挙は複数回行われます。
同じ時間と労力を傾注するなら、現実の政治を変えることを優先したい。
安倍政権は憲法を破壊する『暴走政権』です。
政治の借りは、政治で返すしかありません。」
――――具体的な取り組みが、1月半ばに作った「立憲政治を取り戻す国民運動委員会」ですね。
小林氏
「代表世話人で東大名誉教授の樋口陽一さんら憲法学者に加え、俳優の宝田明さん、音楽家の三枝成彰(さえぐさしげあき)さんら賛同者は200人以上に上ります。
中心メンバーが毎月1回集まって、1か月間の首相発言や政府・与党の動きを分析し、私たちの見解を発表します。
安保関連法に対して、大学生や高校生、子育て中の母親など、政治活動に慎重だった人々が立ち上がりました。
ただ、彼らは専門家集団ではありません。やみくもに反対の声を上げるだけでは、政治には響きません。
専門的見地から追求すべき論点を明確にし、それぞれの市民運動をつなげる理論的司令塔の役割を果たします。」
――――野党との接触は?
小林氏
「ある夕刊紙の企画で去年12月から1月までに民主、共産、維新、社民、生活の野党5党のトップと個別に対談しました。
この夏の参議院議員選挙では1強の自民党に対抗するため、各党とも改選数1の『1人区』で候補者の一本化が必要との考えでは一致していました。
野党共闘の実現の芽は、十分あると思います。
それを市民運動側から後押しする風を吹かせたい。」
――――首相は参院選で、改憲の発議に必要なのは3分の2以上の議席確保を目指すと表明し、前のめりになっています。
小林氏
「安保関連法の審議でも、野党の反論にろくに耳を貸さず、それをいさめる側近もいない。
民主主義、立憲主義、法治主義・・・あらゆるルールを無視して暴走しています。
王様が思ったことを周りが担いで実行する恐ろしい政治になっています。
王政時代のような勝手を許してはいけません。」
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