13. 中川隆[-7991] koaQ7Jey 2025年1月12日 10:14:09 : EtreNK33Rb : WU0xbGExbW83Lkk=[1]
2025年1月5日 globalmacroresearch
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/58085
オーストリア学派の大経済学者、フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の著書『貨幣発行自由化論』から、通貨の価値を下げる政府や中央銀行の紙幣印刷から国民が資産を守る方法を論じている部分を紹介したい。
インフレと貨幣価値の下落
コロナ後に先進国が行なった大量の量的緩和と現金給付によって各国はインフレまたは通貨安に晒された。
ポールソン氏: 量的緩和がインフレを引き起こした
物価が上がったと人は言うが、より正確に言えば皆が持っている紙幣の価値が下がったのである。物価上昇と言えば「もの」の方を何とかすることを対処として考えがちだが、本当の問題は紙幣印刷によって紙幣の価値が下がっていることなのである。
前回の記事では、世界最大のヘッジファンドを創業したレイ・ダリオ氏が、歴史的に見てそもそも通貨とは価値が長期的に下げられてゆくもので、それは避けられないのだと論じていた。
レイ・ダリオ氏: すべての通貨は最終的に価値を落とされて死ぬという歴史的事実を認識すべき
だが何故通貨の価値は下がるのか。政治家が政府支出をしたいがために、中央銀行に紙幣を印刷させるからである。
それは止められないのか。そこが今回ハイエク氏が論じている論点である。
紙幣印刷の独占という特権
これまでの記事で書いた通り、政府が紙幣を印刷する理由は自分で積み上げた政府債務を無視して更に政府支出を行い、自分の票田からの期待に応えることである。
そしてそれは持っている紙幣の価値を薄められる国民の犠牲のもとに行われる。
レイ・ダリオ氏: 人々が自国通貨の無価値さに気付くにつれてゴールドやシルバーへの逃避が加速する
だがそもそも何故中央銀行は紙幣を印刷し、紙幣の価値を勝手に薄められるのだろうか。ハイエク氏は次のように書いている。
何故人々は自分を搾取し騙すために恒常的に使われているこの特権を、2000年以上もの間政府に使わせたまま我慢しているのだろうか。
このことは、政府にこの特権は必要だという神話が、経済の専門家でさえもそれに疑問を抱こうとは思わないほど強固に根付いてしまっていることが原因だとしか説明できない。
通貨発行を自由化せよ
だがこの特権は、国民が決済や貯蓄に自国通貨しか使わないという事実によって生じている。誰もが日本円で貯蓄し生活しているから、その価値を薄められた時にインフレや通貨安という形で国民に災難が降りかかるのである。
これはいわば、国民が政府と中央銀行に自分の資産を薄めさせる権限を自主的に与えているようなものである。だからハイエク氏はそれを不思議がっているのである。
だが日本円を使えなければどうすれば良いのか。そこでハイエク氏は、『貨幣発行自由化論』の名前の通り、通貨の発行を自由化し、民間の業者も独自の通貨を発行できるようにすべきだと主張しているのである。
通貨同士を競争させる
重要な点は、国民に複数の通貨を使わせて、その中から自分の資産を守ってくれる通貨を選ばせるという点である。
驚くべきことに、ハイエク氏と同じようにオーストリア学派の経済学者でありアルゼンチンの大統領でもあるハビエル・ミレイ氏は、アルゼンチンで実際にそれを行なっている。
ミレイ氏は大手銀行と協力してドルでもアルゼンチン・ペソでも決済できるデビットカードを用意し、国民にどちらを使いたいか選ばせるようにしている。
ミレイ大統領: 政府が紙幣印刷で価値を薄める通貨は他のまともな通貨との競争に晒されるべき
そうすればどうなるか。政治家が自分の好きなように価値を薄められる通貨は誰も使わなくなるのである。
ハイエク氏は次のように言っている。
通貨が人々に受け入れられるように供給をコントロールすることは、個々の通貨の発行者の能力に委ねられる。そして彼らは競争によってそうすることを強いられる。
通貨の発行者は、その期待に応えることに失敗すれば自分のビジネスを即座に失うと理解している。
通貨の価値を守ることが発行者の利益に繋がる
この提案の根底には、他人の利益を守る者こそが自分も利益を得るべきだというオーストリア学派の経済学の信念がある。
その信念は、元を辿ればマクロ経済学の父アダム・スミス氏の『国富論』から始まっていいる。
アダム・スミス氏: 乞食だけが補助金や給付金にすがる、そうでない人々は自分の成果を他人と交換する
ハイエク氏はこう続けている。
通貨発行業に参入して成功すれば、それはとても儲かるビジネスになる。そしてその成功は、通貨の発行者が自分で宣言した目標を遂行できるという信用を確立できるかどうかにかかっている。
この状況下では、利益を得たいという発行者の願望が、これまで政府が発行してきたような通貨よりも良い通貨を生み出すのではないか。
実際、例えばビットコインを発明したサトシ・ナカモト氏は大いに儲かったはずだ。彼こそがビットコインの最初の所有者だからである。
ビットコインには、供給を制限するという考え方が最初から存在している。ナカモト氏はもしかしたらハイエク氏の著書を読んでいたのかもしれない。
一方で、政府発行の現行通貨のように、発行者が好き放題に発行でき、価値がどんどん下がってゆく通貨はどうなるか。ハイエク氏は次のように述べている。
通貨の発行者間での競争は、報道や通貨取引所での監視によって激しいものとなる。
自分の発行した通貨の価値を守るために迅速に行動しなかった哀れな発行者は、厳しい批判に晒されることになるだろう。
人々にとって良いものを作る人こそが利益を得ることができるという経済学の考え方を、通貨にも適用すべきだとハイエク氏は言っているのである。そうすれば政府も紙幣印刷を濫用することはできなくなる。
だが現在はそうなっていない。アベノミクス以来、日本円の価値はドルに比べて約半分になっているが、それでも日本国民は日本円を使っている。
それは代わりがないからである。それでも状況に気付いている一部の人々は貴金属などを利用して自国通貨の価値下落を避けている。
レイ・ダリオ氏: 人々が自国通貨の無価値さに気付くにつれてゴールドやシルバーへの逃避が加速する
政府発行の紙幣からの逃避は始まっている。通貨はこれからどうなるのか。ハイエク氏が提案したような世界は来るのだろうか。
筆者からすればハイエク氏の著書は何十年も前からある古典に過ぎないのだが、ここに来て彼の著作があまりに重要になっている。
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/58085
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ハイエク氏: インフレを引き起こすインフレ政策を止めさせるには民間企業が通貨を発行すべき
2023年4月8日 globalmacroresearch
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/35579
20世紀最大のマクロ経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の『貨幣発行自由化論』より、政府がインフレ政策によりインフレを引き起こすことを止めさせるためにはどうすれば良いかを語った部分を紹介したい。
現金給付の本当の意味
前回の記事では、政府による現金給付や補助金をいった政策がそれを受けられない人々からそれを受ける人々へと購買力を恣意的に移転させる政策であるということを説明した。
ハイエク氏: 現金給付や補助金はそれを受けない人に対する窃盗である
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/35564
インフレとは需要に対してものが不足している状態のことなので、そこに紙幣を印刷して配ったところでもの自体が増えるわけではなく、誰かが給付金で購入した商品は元々別の人が購入できるはずだったものである。そしてその別の人は給付金が引き起こしたインフレでものが買えなくなる。
事実、そうしたインフレが全国旅行支援によって日本の宿泊料金で起こっているのだから、その仕組みは経済が専門でない人々にも明らかだろう。だからこれを窃盗と呼ぶことは極めて適切である。
日本政府の全国旅行支援で宿泊予約殺到してホテル代値上がり
実際、ここでは何度も説明しているように、現在の物価高騰はコロナ後に世界中で行われた現金給付がもたらしたものである。インフレは2021年から始まっており、2022年のウクライナ情勢はインフレとは無関係であることは何度も説明しておいた。
世界最高の経済学者サマーズ氏が説明するインフレの本当の理由
結局のところ、インフレ政策とは政治家が大半の人々を犠牲にして票田にばら撒きを行うための政策であり、しかもインフレになれば積み上がった政府債務が戦後のドイツのように帳消しになるのだから、政治家にとっては良いことしかない。
事実、日本で(インフレが懸念されている今でさえ)行われている現金給付の対象が住民税非課税世帯に限られているのは、非課税世帯の多くを占める引退した高齢者の票を得るためである。だからそれは労働世代には回ってこない。
ドラッケンミラー氏、高齢者が若者から搾取する税制を痛烈批判
インフレ政策を止めさせるために
ハイエク氏の『貨幣発行自由化論』は50年近く前の本であるにもかかわらず、その内容が今の政治家にも適用できるということは、政治家のやることはいつの時代も変わらないということである。
だからハイエク氏は利己的な政府に対して人々が自衛する方法も書いている。彼はばら撒き政策を窃盗と呼んだ上で次のように述べている。
通貨発行の独占者、特に政府によってこの犯罪が犯された場合、それは非常に儲かる犯罪となり、しかも紙幣印刷の帰結が理解されていないためにそれは一般に許容されており罰を受けないままとなっている。
何故そうなるか。まず前提条件として、歴史上これまで発行されたほとんどすべての通貨は発行者による減価によって長期的には価値が下落し最終的には無価値になってきた。これについてはレイ・ダリオ氏が研究している。
世界最大のヘッジファンド: 大英帝国の基軸通貨ポンドはいかに暴落したか
世界最大のヘッジファンド: 量的緩和で暴落した世界初の基軸通貨
現在でも紙幣印刷を窃盗と同じものとして批判できる頭のある人々がほとんどいないために、紙幣印刷は政治家にとって捕まらない窃盗となっている。レイ・ダリオ氏が次のように言っていたことを思い出したい。
世界最大のヘッジファンド: 政府が金融危機から守ってくれると思うな
歴史を見れば明らかだが、政府が経済的に国民を守ってくれると信頼してはならない。実際は逆であり、ほとんどの政府はあなたが同じ立場だったらそうするであろう同じ理由で、貨幣と債務の創造者かつ使用者としての特権を乱用するだろう。
恐らくダリオ氏はハイエク氏の著作を読んでいると思う。
だから歴史上ほぼすべての通貨は長期的には減価する。そして金融の知識のある人間は、例えばゴールドなどを買うことで紙幣が紙切れになる(あるいは紙幣は元々紙切れである)ことによる被害を避けられるかもしれないが、ほとんどの人々は他に通貨の選択肢がないと思い込まされているため、政府による自国通貨の減価(これはインフレ政策と完全に同義である)によって資産を失ってしまう。日本でもアメリカでもインフレによって事実そうなっている。
通貨の民営化
他に通貨の選択肢がないと「思い込まされている」とはどういうことか? 今生きているすべての人は、通貨とは政府が発行するものだというバイアスを埋め込まれている。生まれた頃から法定通貨が普通の世の中に生きているからである。
だが歴史的にはこれは新しい概念である。現代の法定通貨の概念は、大英帝国がイングランド銀行に政府債務の肩代わりをさせる代償に通貨発行業務を独占させたことに端を発している。以下の記事で少し触れている。
南海泡沫事件: バブル経済の語源となった近世イギリスの株式バブルを振り返る
大英帝国の政治家たちは政府債務を中央銀行に押し付け、中央銀行に紙幣印刷させることで(暴落した紙幣の保有者の犠牲のもとに)積み上がった政府債務を解消できたので、この成功を見た他の国の政治家も同じことをやり始めたのである。読者も知っての通り、この方法は今でも各国政府によって実際に使われている。それが量的緩和である。
世界最大のヘッジファンド: ドルは既に紙くずになっている
政府の通貨独占を止めさせる
さて、国民はどうすれば良いか。勘の良い読者は気づいたかもしれないが、この話のポイントは政府が通貨発行をまず独占しなければならなかったということである。
何故政府は通貨発行を独占しなければならなかったか。他に使われている通貨があれば、少しでも法定通貨の価値が下がり始めると、多くの人が他のより堅調な通貨に移ろうとしただろうからである。
現在の話に照らして言えば、もし人々が法定通貨を含む複数の通貨を日常的に使っていれば、現在のインフレは物価の上昇ではなく法定通貨の下落ということになるだろう。そして法定通貨以外の通貨で見た物価は影響を受けない。
分かるだろうか。だからハイエク氏は、イングランド銀行以前にそうだったように、民間企業の通貨発行の権利を復活させることを主張している。元々紙幣とは、銀行にゴールドなどを預けていた預かり証だった。法定通貨もそうだった。だが政府が預かっていたゴールドを勝手に使ってしまい返せなくなった。それが金本位制の廃止である。アメリカではこの出来事はニクソンショックと呼ばれる。
レイ・ダリオ氏、「現金がゴミ」になったニクソンショックの経験を語る
通貨発行業務を独占した政府はやりたい放題である。だが様々な企業が通貨を発行するようになれば、その企業は自分の利益の源泉である自分の通貨の価値を守ろうとするだろうとハイエク氏は言う。彼は次のように述べている。
通貨の発行者同士が競争しなければならない場合、発行者にとって自分の通貨の減価は自殺行為になるだろう。人々がその通貨を使いたいと思っていた理由そのものを破壊してしまうからである。
結論
こうした最近の試みは、言うまでもなく暗号通貨だろう。中央銀行が緩和に転換すれば暗号通貨が暴騰すると見ているファンドマネージャーもいる。
チューダー・ジョーンズ氏: 利上げ停止でインフレ相場再開、ビットコイン暴騰へ
暗号通貨には実質的価値は何もない。だが法定の紙幣にも本質的には紙以上の価値などないのである。「政府が価値を保証している」と馬鹿げたことを言う人もいるが、政府は実際に通貨の価値を意図的に薄めている。それが金融緩和である。
利上げで預金者はインフレから資産防衛できるにもかかわらず日銀が利上げを行わない理由
ハイエク氏は通貨の発行者はそのサービス提供の然るべき対価を受け取るべきだと言っている。だがその業務を誰かが独占するとき、その利益は国民の大部分の資産をインフレで食い潰すほどに過剰になる。
それがハイエク氏の論点である。いずれにしても、ハイエク氏の著書やダリオ氏の考察などから歴史を学ぶことで自分の生きている時代のバイアスを取り払うことは読者にとって助けになるだろう。別に通貨は政府だけが発行すべきものではないし、紙幣も暗号通貨も本質的には等しく無価値である。
世界最大のヘッジファンド: 大英帝国の基軸通貨ポンドはいかに暴落したか
世界最大のヘッジファンド: 量的緩和で暴落した世界初の基軸通貨
頭を柔らかくしてから今のインフレとその原因である紙幣印刷をもう一度考えてもらいたい。
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/35579
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ハイエク氏: 現金給付や補助金はそれを受けない人に対する窃盗である
2023年4月7日 globalmacroresearch
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/35564
世界的なインフレが問題となっているなかで、いくつかの国ではいまだに補助金や現金給付といった政策が人気である。
このことについて20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の『貨幣発行自由化論』から彼の意見を取り上げよう。
紙幣印刷政策
リーマンショック以後、世界中の中央銀行が量的緩和政策、つまりは紙幣印刷によって金利を下げ、自国通貨の価値を下げる政策を行ってきた。
ハイエク氏は紙幣印刷政策について次のように述べている。
貸付のための紙幣を印刷することで人為的に貸付用の資金を安価にすることは、貸付先を助けるだけなく、他の人々を犠牲にすることによってではあるが、経済活動全体を少しの間刺激する。
一方でそうした紙幣発行が市場の操縦メカニズムを破壊する効果を持つことは理解されにくい。
そうして2008年以降、紙幣印刷と低金利政策が行われ続けた。それはインフレを目指すという名目のもと行われていた。
当時の未開人たちはインフレが物価上昇を意味するということを知らなかったので、インフレ政策は多くの人々に歓迎された。だがインフレが何を意味するかは誰も理解していなかった。
そしてコロナ以後にはついに人々の口座に直接資金を放り込む現金給付まで行われた。そしてそれはついにインフレを引き起こした。2021年には既に始まっていた現在の物価高騰がウクライナ情勢とは無関係であることは、ここでは何度も説明している。
ドラッケンミラー氏: プーチン氏が引き起こしたわけではないインフレの本当の理由
そしてインフレになって初めて人々はインフレは物価上昇という意味だということを理解した。文明がようやく生じ始めたのだろうか。
いや、そうでもないらしい。何故ならば、インフレ対策に例えば日本政府が行っていることは、電気・ガスの購入支援や全国旅行支援などのインフレ政策だからである。
ハイエク氏は次のように続ける。
しかし商品の追加購入のためのそうした資金供給は商品の相対的な価格の構造を歪め、資源を持続不可能な経済活動へと引き込み、後に起こる不可避の反作用の原因となる。
例えば全国旅行支援は旅行者が殺到したことで宿泊料金の高騰を引き起こし、しかもホテル側は需要の急増に対応できずに既存の従業員を酷使して後の雇用に影響を与えている。
日本政府の全国旅行支援で宿泊予約殺到してホテル代値上がり
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/29551
既存の従業員を酷使しても一時的な需要のために従業員を増やしても後で問題が生じる。それが歪みである。
だが日本政府はそんなことを気にしたりはしない。インフレにインフレ政策で対応するような人々にそれだけの頭脳があるわけがないのである。
紙幣印刷の本当の意味
果たして未開人はいつ文明化されるのだろうか。インフレの原因は需要に対してものが不足していることであり、ものの不足を紙幣印刷で解決することはできない。レイ・ダリオ氏はインフレが起こる前に次のように述べていた。
世界最大のヘッジファンド: 共産主義の悪夢が資本主義にのしかかる
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10831
われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。
紙幣は食べられない。
世の中にあるものの量が同じであるとき、紙幣だけを増やして一部の人々に配れば、その効果は本来他の人々が買えたものをその一部の人々に与えることになるだけである。全体のパイは変わらないのだから、その人々に与えたものは本来他の人々の取り分である。
これは現金給付だけでなく紙幣印刷全般に言える。例えば量的緩和政策は中央銀行が債券を買い入れることで債券価格と株価を上昇させる政策だが、その結果は債券と株式を持っている人が他の人の取り分を奪いながらより多く消費できるようになることである。
これは若者から老人へと資金を転移させる政策の一部でもある。
ドラッケンミラー氏、高齢者が若者から搾取する税制を痛烈批判
紙幣印刷という窃盗
ハイエク氏は次のように語っている。
自分で得たわけでも他人が放棄したわけでもないものを得る権利を特定の人々に与えることは、本当に窃盗と同じような犯罪である。
だが世の中における一番の犯罪者は捕まらない。トランプ氏は口止め料を事業費として計上したことで捕まる可能性があるそうだが、オバマ政権下でウクライナ政府を自分の好きなようにしたバイデン氏や、虚偽の理由でイラクに戦争を仕掛けたブッシュ氏は捕まらない。
サマーズ氏、トランプ元大統領の起訴について語る
ロシアのウクライナ侵攻でバイデン大統領が犯した一番の間違い
そして実質的には明らかな窃盗である量的緩和や現金給付も、政府がそれを行えば政治家が捕まることはない。
ハイエク氏はこう述べている。
一般的な理解が不足しているために、紙幣発行の独占者による過剰発行という犯罪はいまだ許容されているだけではなく称賛さえされている。
ちなみに日本政府は窃盗を行うだけではなく、物価指数の計算を恣意的に変えることで自分のせいで起こっているインフレを隠蔽している。
日本政府の詐欺的な物価指数の計算方法がインフレを悪化させる
人々はどうするべきか。日本政府による窃盗の被害者になりたくなければ、経済と金融市場を知ることである。インフレは資産運用で回避できる。
世界最大のヘッジファンド: 日本は金利高騰か通貨暴落かを選ぶことになる
ちなみにハイエク氏の『貨幣発行自由化論』(『貨幣論集』に含まれている)は1976年の発行である。だがまさに今のために書かれたような内容となっている。
インフレの意味さえ知らずにインフレ政策を支持した未開の人々が居た一方で、現在の状況を50年前に予想していた天才も居る。
政府による窃盗を投資で避けられる人がいる一方で、喜んで自分から窃盗される人もいる。
「株式投資は長期的にはほぼ儲かる」という主張が完全に間違っている理由
すべてはその人次第である。
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/35564
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ハイエク: 政府から通貨発行の独占権を剥奪せよ
2021年1月30日 globalmacroresearch
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/12051
ここのところ続けて19世紀生まれの経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の論考を紹介しているが、ようやく本題である。
新型コロナとハイエク経済学
2020年の新型コロナウィルスの世界的流行によって世界経済は未曾有の景気後退にさいなまれ、日本やアメリカなどの先進国政府は紙幣印刷や現金給付を行なって多数派の有権者の支持を取り付けた。
政府は中央銀行にいくらでも紙幣を刷らせることが出来るので、新型コロナで店舗や企業が儲からなくても人々は生活に困らないというわけである。
実際には先進国政府はコロナ前にも紙幣印刷を大量に行なってきた。その紙幣で中央銀行が国債を買い上げたために政府はいくらでも借金ができたのである。
その借金で政府は長らく有権者の支持を購入してきた。新型コロナで多くの人が亡くなっているにもかかわらず、政府の関心はオリンピックの開催とGO TOトラベルによって建設業界や広告業界、宿泊産業の政治的支持を取り付けることにある。これはどの国の政府も行なってきたことである。しかしアメリカではそうした慣習にも限界が来ている。インフレの到来である。
コロナ不況でデフレになる日本、インフレになるアメリカ
そして日本はその背中を追っている。
政府に借金をさせないために
政府が借金をこれほどまでに増やせなかったなら、政府がここまで好き放題にすることもなかっただろう。そして中央銀行が紙幣を印刷できなかったならば、政府が借金をここまで増やすことも不可能だっただろう。
通貨は政府が発行するものだというここ100年くらいの間に生まれた特異な考え方に慣れた者でなければ、これは当然の考え方である。そしてその当然の考え方を主流派経済学者の間違った意見に左右されずに主張し続けた経済学者がいる。ハイエク氏である。
戦前、戦後の時代にケインズ氏とやりあったハイエク氏は様々な経済学上の功績で有名だが、その中でも異彩を放つのが通貨発行自由化論である。ハイエク氏は政府のみならず民間企業や個人も通貨を発行すべきであり、政府の通貨と競争させることで政府の浪費を牽制できるという考え方の持ち主なのである。
ハイエク氏は彼の『貨幣論集』においてむしろ控えめに次のように述べている。
こうした提案は法定通貨という概念のもとで育ったすべての人にとって最初は馬鹿げたものに映るかもしれない。
しかしかつて紙幣を中央銀行に持っていけば金(ゴールド)と交換できた金本位制の時代の人々は、何と交換することもできない何の保証もない紙切れを大事に財布に持っている人々の方を不思議に思うだろう。
現代の通貨は本当に暴落しないのか
繰り返しになるが日本円もかつては金と交換できたのであり、金を中央銀行に預ける代わりに紙幣を受け取って、中央銀行に紙幣を持ち込めば預けた金が返ってきたのである。しかしいつの間にか金は返ってこなくなった。政府がそう決めたからである。では預けられていたはずの金は何処へ行ったのだろう。政府がすべて使ってしまったのである。
このようなあからさまな詐欺に多くの人々がまったく気付いていない。ハイエク氏は次のように述べる。
200年間の金本位制の時代だけを例外として、実際には歴史上ほとんどの政府が人々を騙し搾取するために通貨発行の独占権を行使してきた。
大英帝国のポンドやオランダ海洋帝国のギルダーが政府による紙幣印刷で暴落していったことは以前解説した通りである。
世界最大のヘッジファンド: 量的緩和で暴落した世界初の基軸通貨
世界最大のヘッジファンド: 大英帝国の基軸通貨ポンドはいかに暴落したか
そしてその犠牲者はその通貨を持っていた一般市民であり、政府ではなかった。通貨が暴落したときには既に政府は多額の借金をしてその資金を使い果たしてしまっていた。
根拠はないはずなのだが、現代のわれわれはこれを過去のことであり、今の円やドルには起こらないと無根拠に信じている。しかし実際にはメジャーな通貨の減価はゆるやかにしか起きないので、そのトレンドのただ中にいると気付かないだけなのである。
事実、1970年のドルの価値を100とし、その価値をゴールド本位で計算すると今のドルの価値は次のチャートのようになる。
ほぼ皆無である。そして2021年、コロナで大量の紙幣印刷と現金給付を行なったことにより、死に体のドルにはとどめが差されようとしている。
世界最大のヘッジファンド: ドルが下落したらアメリカは終わり
そしてアメリカに起こることは日本にも起こるのである。
ハイエク氏の通貨発行自由化論
こうした状況を打開するためにハイエク氏は政府から通貨発行の独占権を剥奪すべきだという。ハイエク氏は言う。
人々が使いたい通貨を自由に選択させてはなぜいけないのだろうか。
ハイエク氏が想定するのは政府だけではなく民間企業や個人が通貨を発行する世界である。そこでは人々は自分の好きな通貨で貯金をし、好きな通貨で買い物をする。好きな通貨で会計報告をして好きな通貨で納税をする。
彼は次のように続ける。
店主が現行のレートで望む通貨に即座に両替できると分かれば、すぐにどのような通貨に対しても適切な価格で商品を売るだろう。しかし政府の通貨で表示される物価だけが上昇していることが分かれば、政府の悪行はもっと早く察知されることになる。
そして人々はより安定した通貨を主に利用するようになるだろう。そうすれば通貨発行者は自分の通貨の価値をより安定させ、より多くの人に使われるように努力するようになる。ハイエク氏の主眼は通貨をこのような競争にさらさせることになるのである。彼は次のように続けている。
人々が信用できない通貨を拒否し、信用できる通貨を選んで使うことができるとすればどうか。政府が通貨を乱用するのを避けるためにはこれ以上に有力な抑止力は有り得ない。そうすれば通貨の供給を需要より低く抑えるかぎり、その通貨の需要は増大してゆくだろう。そしてそれは政府が通貨の安定性を維持させるための何よりも強い要因となる。
つまり、政府が無思慮に紙幣を膨大に印刷しようとすれば政府発行の通貨が使われなくなるという状況に直面させることで政府を律しようというわけである。
これは同様に民間の通貨発行者にも適用されるだろう。通貨発行者は手数料のような利益を(政府と同じように)得るだろうが、ハイエク氏の言う世界ではこれが今のように通貨発行権の独占の対価として与えられるのではなく、価値の安定した通貨を発行していることに対する対価として与えられるならば、通貨発行者に対して国民が払うコストは合理的なものになってゆくだろう。
少なくとも、金塊がいつの間にか盗まれているとか、数十年の間に価値がほぼゼロになっているとか、そういうことはなくなるはずである。有り得ないような話が日本円や米ドルで実際に起きているのである。
ハイエク: インフレ主義は非科学的迷信
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/12051
http://www.asyura2.com/20/reki4/msg/913.html#c13